・キルヒホッフの法則を使った放射伝搬のメカニズム
Manabe and Strickler (1964)
Manabe & Wetherald(1967)
に理論があるようなので、後で調査してみようと思うが、その前に、ある程度、自分で考えてみることにした。
キルヒホッフの法則は、 Rν=εν/aν 、 ここでRνは黒体放射の振動数νにおける放射輝度、ενは物体の放射強度、aνは吸収率である。
熱放射のキルヒホッフの法則はすでに100年以上前に熱力学の発展とともに確立された法則であり、その証明はかなり難しい。時間があればゆっくりと熱力学の勉強と一緒に考えてみたいが、まずは、既成の実験的に証明され、様々な工学の分野で活用されている法則を使っていくことにする。
化学で使うモル吸光係数εと熱力の吸収率aとは全く定義が異なるので、まず、その関係を明確にしておく必要がある。
厚さ d 濃度 c の溶液に光が入ってきたとする。 この時入射光の強度 I0と透過光の強度 I との間に、一般にランベルト・ベールの法則と呼ばれる次の関係が成立する。
- log (I / I0) = ε c d , I = I010-ενc d (1)
熱力の吸収率 aνは振動数νの光エネルギー吸収の入射エネルギーに対する割合であるから、
aν = 1 - Iν/ I0ν = 1 - 10-ενc d (2)
右辺第2項は、濃度cが大きくなればなるほど、厚さdが大きくなればなるほど、吸光係数が大きくなればなるほど、0に近づくので吸収率 aνは1に近づく。ついでに、透過率を tνとすると、
tν = 1 - aν = 10-ενc d (3)
である。
熱力では、物体の発光強度のことをεで表すが、モル吸光係数と混同するので、ここではEを使うことにしよう。よってキルヒホッフの法則は、
Rν = Eν/ aν = Eν/ (1 - 10-ενc d ) (4)
となる。発光強度Eνは、
Eν = Rνaν = Rν(1 - 10-ενc d ) (5)
となる。よく、射出率 εν= Eν/ Rνが使用され、aν= 0~1 、εν= 0~1 となる量が使用される。この射出率は、黒体放射の発光強度 Rνを超える発光をするものは存在しないことを前提とし、熱力学の要請の一つとなっている。この射出率εとモル吸光係数εを混同しないよう記号を変えた方がよいようにも思うので、時には、モル吸光係数εを e と書くことにする。
さて、射出率εは、(5)より、
εν= Eν/ Rν= aν = (1 - 10-eνc d ) (6)
である。ここで、右辺の eνはモル吸光係数である。射出率=吸収率の関係が導かれるが、吸収と発光が同じであることを意味してはいない。(6)より、発光強度=黒体放射強度×射出率である。また、定義より、吸収強度(吸収エネルギー)=入射エネルギー×吸収率なので、発光強度は物質の性質により決まっているが、吸収は入射エネルギーの強度により変化する。
大気中のCO2濃度が400ppmという非常に低い濃度でも、ν=667cm-1の吸収は異常に高い。一気圧10mで、90%以上吸収すると言われている。(正確な値はモル吸光係数から見積もることはできるが、あとで計算してみよう。) よって、幅10mの大気が発する667cm-1の発光は、(5)より、ほとんど黒体放射の発光強度Rν に匹敵する発光強度を持つことになる。さて、CO2濃度が2倍になった場合、もとのCO2濃度の時のεν= aν = 0.9 として、どれくらい吸収と発光が増えるか見積もってみる。10-eνc d=0.1であるから、
εν(2c) = aν(2c) = 1 - 10-2eνc d= 1 - 0.1×0.1 = 0.99
Eν(2c) = Rνεν(2c) = 0.99 Rν(T)
Eν(2c)/Eν(c)=0.99/0.9 = 1.1
つまり、濃度が2倍になれば発光は10%増加する。また、吸収率も10%増加する。しかし、この計算はあまりにも簡略化した計算なので、大気から地上へ放射される熱放射を正確に見積もっていない。吸収と発光が同時に起こっているので、地表から遠いところで発光した光は途中でCO2に吸収されて地上には届かない。それゆえ、地上で受け取るCO2からの熱放射は積分形式で表されることになる。
図1.大気中CO2の放射と吸収
図1を参考にして、幅Δhの大気の層のCO2が発光する発光強度ΔEは、(5)より、
ΔEν(T) = Rν(T) (1 - 10-eνc Δh ) (7)
10-xの一回微分は-ln10・10-x、原点のテーラー展開で10-x≒ 1 - (ln10)x +・・・ であるから、Δhが非常に小さい場合、
ΔEν(T) ≒ (ln10)・Rν(T) eνc Δh = Rν(T) e'νc Δh (8)
と、近似できる。ここで、e'ν= (ln10)・eνである。ΔEνは上と下の2倍放射しているが、吸光度が黒体の極限状態の場合、地表の黒体放射と接する層の下向き黒体放射は釣り合っていなければならないので、各層から放射される放射は2ΔEνとなる。
地上から数えて i 番目の層(i = 0,1,2,3,.....)と地上との距離は iΔh であるから、ランベルト・ベールの法則(1)より、i
番目の層から地上に到達する発光強度Eiは、
Ei= ΔEν(T) 10-eνciΔh (9)
となる。よって、地表が大気から受ける全放射Eν(T) は、
Eν(T) = ΔEν(T) Σ10-eνciΔh = Rν(T) e'νc Δh Σ10-eνciΔh (10)
となる。これを積分形にすると、
Eν(T) = Rν(T)
e'νc ∫10-eνchdh (h=0~∞)
= Rν(T)
(11)
を得る。これは、CO2が比較的早い段階で吸収が飽和し、ほとんど温度や気圧も濃度も変わらないと仮定できる場合、地表が受ける大気の放射は黒体放射で近似できるということである。そして、濃度に依存しない。(積分範囲を0~100m付近とした場合でもCO2のモル吸光係数eνは非常に大きいので10-eνc×100≒ 0 となり、結果はあまり変わらない。)
(うーん、計算が間違っているかもしれないので、もう一度やり直そうと思う。)
*ということで、上の計算を信じれば、地上付近でのCO2の濃度上昇による効果は、吸光係数が非常に高い周波数領域では、ほとんどない。しかし、大気圏上部のCO2からの発光がどうなるのかそれが問題である。この問題は、大気圏上部の温度がどうなっているのかの詳しい知見がないと計算できない。また、大気圏上部のCO2の存在がどのようになっているのか詳しいことを調査する必要がある。
*(11)式は、吸光係数が小さい場合は、より上空の温度の影響を受けることを意味している。上空の温度はどんどん低くなるので、吸光係数が小さくなればなるほど、地表が受ける放射はより高いところの低い温度Tの黒体放射 Rν(T) に支配されるようになる。なので、吸光係数がそれほど大きくない振動数領域の放射は、濃度上昇とともにより低いところの黒体放射へと変わるので、濃度の影響を受けることになる。CO2の吸光係数と振動数との関係をより細かく調査し、他の温室効果ガス濃度の高度変化と一緒に考察すれば、地表が受ける温室効果ガスからの放射エネルギーの計算を行うことができる。また、地球の大気上層部から宇宙へ放射される放射エネルギーも計算できる。
*この結果は、ヒートアイランド効果で地上付近の温度が高くなると、温室効果ガスからの放射も増えることになり、相乗効果で地球温暖化がおきることを物語っている。私の主張するヒートアイランドや工場が原因の熱だまり効果と温室効果ガスとの相乗効果で地球温暖化が起きていると言えなくもない。
*しかし、熱収支を考えると、地球から宇宙へ放射されるエネルギー量がどうなっているのかが、最大の問題である。その問題については以下のページで考察する。
*上記の理論において斜めに進む光を完全に無視したが、大気の下向き放射の観測角度依存性との関係は現在文献調査中である。斜めに進めばより低位の大気の影響が大きくなるであろうと思われるが、同じ周波数の赤外線を波と扱うのか粒子と扱うのかで悩んでいる。つまり、波の干渉効果があるのかどうかである。2つのレーザー光線を交差させての干渉実験の結果は、同期していれば干渉し、同期がずれると干渉しなくなるというものであった。つまり波なのである。しかし、普通の波ではない。同期していても干渉しない場合もある。熱放射により発生する電磁場(光)は波として進行し、マックスウェルの電磁方程式を解く必要があるのかないのか、単に粒子として全方向へ光の粒子が放出されるのか、疑問点が多すぎる。おそらく、光の粒子と解釈してよいのであろうが、赤外線は波の性質も大きいのではないかという疑問も強くある。結局のところ、実際の観測データに照らし合わせて考えるしかないと思っている。