ドルの流通量はリーマンショック後どのようになったのであろうか?
円およびユーロの流通量はどのようになったのであろうか?
3.リーマンショック後のドルの流通量
下図左は、Jhon
WilliamsのShadowstats.comにより発表されているアメリカのM3である。2006年よりアメリカはM3を発表しなくなったので、Jhon
Williamsが個人的に集計したものがこのグラフのほとんどを占めている。単位はbillions(10億ドル)で途方もない金額の年次推移が2006年から現在までの範囲で表示してある。2006年をリーマンショックの始まりと考えれば(アメリカ政府は2006年ごろからサブプライムローン問題に気づき対策を開始したと推測すれば)、ちょうど10,000billionsから現在の15,000billionsにM3は増加しているので、約1.5倍のM3の増加が起こっている。FRB(アメリカ連邦準備銀行)が不良債権を大幅に購入するなどの形で通貨を供給したことがわかる。M3は2009年頃ピークになり、その後下降し、2010年半ば頃最低となった後、また増大局面になっている。不良債権処理は2009年ごろまで行われ、その後はほとんど行われていないように見える。下図右は、Monetary
Baseの年次推移である。2008年の終わり頃まで、Monetary Baseの変動は起きていない。
ちょうどM3がピークに達しようとする直前に不良債権処理は終了したが、その後は景気高揚のために、貸し渋りがおきないよう、Monetary
Baseの増額を行ったと読み解くことができる。(もしくは、反対に不良債権処理が一段落して民間銀行に余裕ができたため、中央銀行の当座預金に余剰金を回したと見る、全くま逆の見方もできるが、どちらの解釈が正しいかは現在の私には判断できない。)現時点のMonetary
Baseの総額が、約2,800billionsとM3の約1/5に達する莫大な金額となっているのは注意すべき点かもしれない。
上図は日銀の時系列統計データ検索サイトでM3を描画したものである。M3そのものは2003年ごろに導入されたものなのでそれ以前のデータは存在しない。M2+CDで代用する方法もあるようであるが、アメリカのデータと比較するためには今のところ必要がないので、このままで見ることにする。縦軸はM3の金額(単位は億円)である。2006年始めは約1025兆円、2013年始めはおおよそ1140兆円ぐらいと見て取れる。約1.1倍となっている。グラフでは大きく増えているよう見えるが、アメリカの1.5倍と比較するとほとんど増えていない。通貨の供給量の観点からすれば、ドルが下落し円が高騰するのは当然といえる。
それでは、景気や物価などの指標は一切考えないとし、通貨の供給量(M3基準)のみで貨幣価値が変動するという仮定のもとで計算を行ってみる。2006年から現在までの間にドルの価値が単純に1/1.5になったと考えてみることにする。もちろん円の価値も単純に1/1.1になったとして考える。円/ドル換算レートは、2006年1月時約116円ぐらい、現在は93円ぐらいなので、その比は116/93=1.24である。単純に供給量で貨幣価値が決まるとすると、比は1.5/1.1=1.37であるべきであるが、より小さい値となっている。116/84=1.38なので、現在の供給量から判断できるドル/円レートは約84円が単純にM3による通貨流通量の比較から適正と言える。この値より円が下落してしまったので、円の信用はドルより下落してしまっていると考えるのが妥当であろう。つまり、風評が先行しすぎている状態であると判断できる。2006年時の円/ドル為替レートを基準にした場合の判断なので、2006年時のレートが適正ではなかったと考えることもできるし、日本の長期デフレ不況で経済が低迷しているため、円の価値が下がっているという見方もできる。しかし、それでは昨年末の為替レート78円の円高であった時の説明がつかない。円が安定した通貨としてたまたま人気がでたため、円高に振れてしまったのが原因でその後アベノミクスがなくても円安傾向になったという意見もある。ただ言えることは、単純に通貨の供給量(M3)で基準値を出してみると、基準値84円を中心に昨年末から現在の間に円高から円安へと為替が変動していることがわかる。現在の93円付近は基準値84円を大きく超えていることは明らかである。
それでは、アベノミクスが始まる前の2011年10月から2012年10月頃までの1年間はどうであったか。対ドル為替レートは1ドル76円の円高から徐々に円安になり、2012年3月は83円の円安ピークとなったが、その後円高へと推移し、1ドル78円の円高局面となっていた。この1年間の平均値はおおよそ78円ぐらいであった。このころの貨幣供給量が今とあまり変わらないとすると、基準値84円から大きく円高へシフトしていた状態であったと言える。しかし、Shadowstats.comの発表が正しいとする前提のうえでの議論なので、実際はもっとM3の値は大きいとすると、基準値はもっと円高へとシフトし78円前後が妥当という結果になるかもしれない。正直、アメリカ政府がM3を発表していないので、アメリカドルの実際の通貨供給量を素人の私には知るすべがない。このことに対する日本の専門家の正しい見解を聞きたいところである。