Manabeらの論文をちらっと見たが、大気を薄い厚さの層に分割するモデルにより、光(ふく射光または放射光)の上下の流れ(最近ではフラックスとカタカナ表記することが多い)を考慮し、熱エネルギーの移動を計算しながら微小温度変化を求めるというものであった。温室効果ガスの影響についての基礎理論①の図1に示したものとかなり似通っている。そこで、これ以上Manabeらの論文を読むと、単なる焼き移しを行うことになってしまいそうなので、深くは読まず、独自に簡単なモデルを立てて考えてみたいと思う。まず、温室効果ガスをCO2のみにし、(水蒸気H2Oの効果が非常に大きいことはわかっているが、15μm付近のCO2の吸収領域にのみ的を絞って、CO2の濃度依存性を考えてみることにする。
図1.(左)吸光度が非常に大きい場合、(中央)吸光度がかなり大きい場合、(右)吸光度がかなり小さい場合の放射光の流れ
図1(左)は吸光度が非常に大きく、数十メートルで地上からのふく射光が吸収されてしまう波長領域の地上からのふく射と大気からのふく射を示したものである。この場合、地表から大気へのふく射はほとんど全て地表近くの大気に(ピンクで示された領域で)吸収されてしまうが、この波長領域では同じ地表近くの大気からのふく射を地表が受け取ることになる。なぜなら、それより上空の大気からのふく射はピンクの領域で全て吸収されてしまうからである。地表近くの大気温度は地表とあまり変わらないであろうから、ほぼ同じ量のふく射光のやり取りをするだけ、つまり、地表が大気に放出するふく射エネルギー≒大気が地表に放出するふく射エネルギー、なので、地表と大気との間の熱の移動はほとんど起きないことになる。(実際には、地表付近では大気の流れ、つまり、対流による風があり、常に地表が熱く、空気の温度は低いと考えると、温度差に応じたふく射による熱の移動が起きる。しかし、対流や分子衝突による熱移動が大きな役割を果たす。)しかしながら、大気圏上空からのふく射はその場所の温度に依存して同じ波長領域でも放射が起こり、宇宙へ放出される。この波長領域での大気の吸収は非常に高いので、非常に低い分子密度を考慮しても、大気上層部のかなり高いところからのふく射が宇宙へと放出されることになる。このふく射は完全に大気上層部の温度と密度にのみ依存し、地表のふく射とは全く無関係に起こることになる。図1(中央)は吸光度が(左)よりもいくらか小さい場合であり、しかし、大気全体ではほとんどすべて吸収されてしまうほど吸光度が大きい場合を示したものである。地表からのふく射光は大気の中高度まで到達するが、それ以上は到達しない。もちろん地表が受け取る大気からのふく射は同じ領域からのものである。しかし、対流圏では高度が高くなると気温が低下するので、平均してかなり低い温度の大気からのふく射光を地表が受け取ることになり、地表が大気に放出した熱エネルギー>>大気が地表に放出するふく射エネルギー、となり、地表から大気へのふく射による熱エネルギーの移動が起きることになる。大気が受け取った熱エネルギーは対流と熱伝導および再ふく射の過程を通して上層大気へと運ばれ、そこから宇宙へとふく射過程により放射されることになる。宇宙へ放射する上層大気の範囲は図1(左)の場合よりかなり広くなる。図1(右)は吸光度がかなり小さい場合で、地表からのふく射光はかなりの部分がそのまま大気圏を通過して宇宙へと逃げる。いくらか大気に吸収され、大気を温め、大気の温度に依存して熱ふく射の一部は地表へまた一部は宇宙へと再放出される。宇宙にある人工衛星からは、地表から放出されたかなりの部分のふく射と大気圏全体から放出されたふく射光の合計が観測されることになる。かなり、おおざっぱであるが、CO2の吸収が飽和していても、吸収する大気の高度が変化することで、平均温度が変化し、熱の移動速度が変わることがわかる。ただし、15μm付近の数十メートルで飽和しているCO2の吸収帯の場合、濃度が2倍になったらどうなるのかは、地上付近の大気の温度変化に大きく影響しているので、詳しい調査をしないと何とも言えない。大きな気温変化がないならば、その影響はかなり小さいであろうし、数メートルの変化で気温の変化がある場合は、大きな影響があるようにも思える。しかしながら、地上付近では対流や分子衝突による熱移動が主となり、熱放射の寄与はかなり小さくなるように思われる。特に地表の起伏の激しいところでの対流による熱移動は非常に大きいであろう。熱ふく射の効果は気流の層を超えて直接上空へと熱を輸送するメカニズムを与えることで増幅されるが、CO2の15μm付近の場合はその効果はあまりないように考えられる。海上の場合は、海上の気流がどのような運動をしているのか、陸地の場合は、陸上の気流がどのように運動しているのかにより大きく影響されそうである。濃度が2倍になってもほとんど影響ないとも言えないし、2倍になると温室効果も2倍になるとも言えそうにない。それよりも、ヒートアイランド効果は温室効果ガスの影響により増幅されるであろうことが心配である。温室効果ガスの影響は都市全体に厚い毛布を被せるようなものである。
だがしかし、CO2の15μm付近のほぼ数十メートルで飽和している場合の濃度を2倍や3倍にした場合の温室効果を計算してみるのは、重要であろう。地上付近では、対流や衝突による熱の移動が主となり、熱ふく射による効果は小さいかもしれないが、実際に数値を出してからまた考えよう。大気圏上部からのふく射はかなり変化すると思われるので、その効果も計算してみようと思う。
図2.熱放射の流れを示した図 図3.考慮すべき層の面積の変化
上図左は以前の基礎理論①図1の再掲である。上図右は高度hとともに考慮すべき層の面積の変化を図示したものである。球体の表面積は4πr2であるから、i番目の層Siの表面積Aiは
Ai = 4π(r0+hi)2 × σ/4π = σ(r0+hi)2 (1)
となる。ここで、σは図3の考慮している層の立体角(ステラジアン)であり、r0は地球の半径、hiは層Siの高度である。近似的に、
Ai+1 - Ai ≒ 2σ(r0+hi)Δh (2)
が成立する。温度Tは高度hに依存しているので、T=T(h)と書ける。また、濃度cも高度hに依存しているのでc = c(h)と書ける。温度はT(h)は初期状態では現状の大気温度分布に合わせて設定するが、SCF(self-consistent field)計算(変化がなくなるまで何度も繰り返し計算すること)でT'(h)へと変化することを許すものとする。しかし、当分の間は、実測値で対応するので、T(h)は固定関数として扱う。濃度c(h)は固定関数として、地表付近の濃度400ppmから大気上層部近くまでほとんど変化せず、急激に大気上層部近くから減少する関数であるが、濃度を2倍や3倍にした時のc'(h)やc''(h)関数も用意することにする。基礎理論①の式(8)より、幅Δhの大気の層のCO2が発光する振動数νに対応する発光強度ΔEνは、
ΔEν(T) ≒ (ln10)eν・Rν(T) c Δh (3)
となる。層Siからの上方向放射ΔFiν↑は、
ΔFiν↑ = (ln10)σeν・Rν(T(hi)) c(hi) Δh (r0+hi+1)2 (4)
層Siからの下方向放射ΔFiν↓は、
ΔFiν↓ = (ln10)σeν・Rν(T(hi)) c(hi) Δh (r0+hi)2 (5)
層Siから上方向へ出ていくトータルの放射光をFiν↑とすると、
Fiν↑ = ΔFiν↑ + Fi-1,ν↑10-eνcΔh (6)
層Siから下方向へ出ていくトータルの放射光をFiν↓とすると、
Fiν↓ = ΔFiν↓ + Fi+1,ν↓10-eνcΔh× (r0+hi)2/(r0+hi+1)2 (7)
(7)式の最後の項は、吸光度が0の場合、上からきた入射光密度と下へ抜けていく射出光密度が変わらないようにするためである。もし熱平衡状態(温度差がない状態)になっている場合、同じ密度でないと矛盾する。
数式の記述が難しくなったことと、再整理のため、Texにて記述したものを再度載せようと思う。しばらく・・・・・・
作成中の基礎理論pdf版はCO2_xxx.pdfという名前で一番下のアップロードファイルリストに入れている。最近忙しいので、あまり手が回っていない。
参考のために、同様に、400ppmCO2の吸収スペクトル(透過スペクトル)をpdfファイルで載せている。10cmから10kmまでのそれぞれの距離でCO2がどれくらい吸収するかがわかる。667cm-1付近のピークでは、10㎝で約30%の鋭く狭い吸収があり、その両側に約5%程度の吸収がある。次第に透過距離を長くすると吸収幅は大きく広がる。しかし、吸収は非常に鋭い線に近いスペクトルの集合体となっている。これらのデータはSpectralCalc.comのSpctral
Calculatorを使用して作成した。使用データベースはHITRAN2012である。
2016-03-29 S.ChandrasekharのRadiative Transferを少しずつ読んでいるが、かなり難しい。様々な関連論文の参考資料として有名であり、数式の定式化はこの本がオリジナルになっているようである。随分古い本であるが(1960年)、天才的な閃きで書かれていて、味わいがある。この本の主眼はPlane-Parallel atmosphereであり、なぜか日本語では平行平面大気と訳されているが、近年の大気モデルの源流のようである。もう50年以上経っているので新しい理論がたくさんあると思うのであるが、参考論文を探しているとなぜか古い論文ばかりに行きついてしまう。(なお、この本の日本語訳は見つからない。)私自身は、Plane-Parallel atmosphereではなくて、spherical atmosphere なのであるが・・・・・・