日本の経済成長ってどうなっているの?② 2016.8.8

日本経済低迷の原因について

 日本経済が低迷もしくは減退している原因について様々なことが言われている。おそらく、様々な要因がからまっているであろうが、バブル崩壊後の政策の失敗が最も大きな要因であろう。少子高齢化と人口減少が問題だと主張している人が多く、政府関係者も同じような主張をしていることがある。そして、日本国民のかなりの割合の人がそれを信じているようであるが、これは、行政側の責任回避のための方便かもしれないと、個人的には思っている。なぜなら、ドイツなどの他の先進ヨーロッパ諸国の中で同じような少子高齢化を経験した国が多数あり、産業構造の変革を含む様々なイノベーションを通して乗り越えた実績があるからである。日本の少子高齢化は比べ物にならないほどひどいものだという意見もあるが、先進諸外国の例を十分に検討すれば、少子高齢化問題は解決できるはずである。永遠に人口増加をし続けることなどありえないではないか。人口増加はいつかは止まるのである。ましてや、国土の狭い日本の人口密度は世界的には高い方である。

1位 モナコ             16,244  人/km2
2位 シンガポール     6,773
3位 バチカン           1,782
12位 韓国                 485
14位 オランダ           399
17位 インド               364
19位 ベルギー           349
21位 日本                 336
33位 イギリス            253
35位 ドイツ               230
40位 イタリア            199
46位 スイス               183
69位 フランス            113

上は、Wikipediaの国の人口密度順(2009年度現在の推計人口から計算)から抜き出したものである。上位国は一都市程度の大きさの国が占めている。先進ヨーロッパ諸国は、オランダやベルギーなどの小国を除いて、日本よりもはるかに下にある。快適な自然環境を有する国は人口密度はあまり高くない方がよいようである。あまり人口が増えすぎると環境破壊が問題となってくるであろう。日本の適正な人口密度はどのくらいかという議論はあるかもしれないが、個人的には現状で満足している。自然環境に恵まれ、山や川が都市と融合し、多くの人々が自然と融合した環境で生活を送っている。これ以上人口は増えてほしくはないというのが、個人的感情である。日本の出生率が低下したのは、自然と融合した豊かな生活を送りたいと願う日本人の遺伝子がそうさせているのかもしれない。とはいうものの、最近の出生率の異常低下は目に余るものがある。おそらく、将来に対する不安が子供を作ることを躊躇させているのであろう。子育て支援も重要であるが、将来に対する不安を取り除く政策がなによりの処方箋である。
 少子高齢化問題が近年の日本経済の低迷をもたらした原因のひとつであることは否定できないが、この問題は克服しなければならない問題であり、人口増加を無理やり促して解決策を図ろうとすることは本質的な問題を棚上げにする間違った策である。人口減少に転じた日本の状況を真摯に受け止め、産業構造の大きな変革を含む巨大イノベーションを引き起こすことのみが本当の意味の解決策であり、従来の産業構造の大きな変革が避けられないできごととなるであろう。
 従来の半導体生産などの工業は、発展途上国の技術開発がすさまじく、人件費の安さを武器にして世界の大きなシェアを牛耳るようになった。日本の企業も、人件費の安い発展途上国に工場を移して生産するようになり、いわゆる産業の空洞化現象が起きた。かなりの日本企業が多国籍化し、タックスヘイブンに本拠地を置き、税金のがれをおこなうようにまでなってしまった。ルクセンブルクは、ベルギーとドイツ、フランスに挟まれた小国であり、一人当たりのGDPが最も大きな裕福な国として有名であるが、タックスヘイブンとしても有名である。税金が安く、多くの外国企業を誘致している。近年、タックスヘイブンが問題となり、EU諸国から強い非難が集まり、税率改正の動きが見られるようになっている。このように、世界的規模で税金を払わない多国籍企業に対する圧力が高まっている現状があり、税金を払わない日本企業にも圧力をかける必要があるであろう。ある意味、安い労働力で生産する工場が発展途上国を潤す現実があるが、EU諸国やアメリカの先進諸国においても、多国籍化した企業の工場を自国に呼び戻す政策を行っている。やはり、モノを生産する工場は産業の要であり、ここがないと経済はうまくいかないようである。人件費は高くても十分に採算がとれる生産効率の高い工場群である。モノを作る工場などに勤めるある一定数の人口比を確保しなければ経済は回らない。
 若手が少なく、年長者が多くなるのは、医療の充実した先進国では当然の結果である。そのことに対応した産業構造を作る必要がある。日本の場合、もともと企業や国民を守るために制定された規制が膨大にあり、それらの規制が産業構造の大きな変革を阻んでいる。つまり、古い体質の産業構造から脱皮することができないのである。さらに、新規有望産業の育成をも阻んでいる。規制緩和は必ずなさなければならない。

原因と解決策

 様々な問題をたいした説明もなく書いてしまったが、真実を直視することは辛いものがある。しかし、原因がわからなければ解決策も生まれない。真実を直視し、原因究明を客観的に行うことから、正しい解決策を模索する必要がある。

原因1.輸出関連主要企業の工場の海外移転による産業の空洞化
 産業の空洞化は随分前から言われてきたことであるが、合理的利益追求型の企業の成れの果ては、多国籍化し、人件費を安く抑えられる発展途上国への工場の海外移転や優良製品の現地生産を行うことにより、合理化を繰り返してきた。そのため、国内の優良企業がいつしか多国籍企業となり、優秀な人材を世界中から集めるようになり、その結果として、その企業は儲かるが、社員への給料は現地の外国人であり、自国への利益配分は少なくなるという事態が起こるようになった。また、このような状況を利用して自国に有利に導こうとする、タックスヘイブンと呼ばれる国や地域が現れ、異常に低い税率で企業を誘致する国が続出するようになった。多国籍企業はますます有利に動くことができるようになり、利益追求を繰り返している現状がある。しかし、この問題は世界的動向であり、日本企業だけの問題ではない。そのため、自国の法律で規制しようとしても、外国へ移転してしまえば規制することができなくなる問題があり、タックスヘイブンの国々への圧力をかけながら、自国に多くの多国籍企業を誘致する政策が望まれることになる。つまるところ、もともとは自国の企業であったものが、多国籍企業となってしまうと国から離れ、制御できなくなってしまうのである。それならば、元の国籍を問わず、多国籍企業を国内に誘致する政策に切り替えた方が合理的ではないであろうか?そのためにはどうしたらよいか、それが問題である。少なくとも、他国から労働者を連れてくる企業はお断りし、現地採用を重視する企業にお出まし願いたい。国内企業だけを優遇するのではなく、広く世界中の優良企業に門戸を開くことにより、多国籍化した国内企業も国内に戻って来たくなるような政策を掲げることが重要であろう。そして、そのためにはどうしたらよいか。まずは、世界的にも安い電気料金を提供する政策(エネルギー政策)が重要である。ここを外すと、外国からの工場の誘致は難しいものがある。

上図は、電気料金の国際比較-2014年までのアップデート-(電 力中央研究所社会経済研究所ディスカッションペーパー)からの抜粋である。イタリアは異常に高いが、日本は世界2位の産業用電気料金の高い国である。石炭、石油、天然ガスが主要エネルギー源であるが、ほとんどが輸入に頼っている実情がある。ここを何とかしないと外国からの工場誘致は難しいであろう。また、このままでは、国内に残っている優良工場も他国へ逃げてしまいかねない。ますます、産業の空洞化は深まるばかりである。国策として、工場誘致特区を地方のどこかに数多く作り、水力ダムや地熱、風力、太陽光発電システムを官民一体となって大規模に作り、極力、化石燃料を使う火力発電を減らすことが重要である。つまり、発電インフラを官民一体となって整備し直し、国際的にも安い電気料金を早急に実現することが第1の重要課題である。

原因2.古い設備の残る企業の効率の悪い経営
 長期デフレ不況による新規設備投資が少なかったことが災いして、現代の視点から見るととても効率の悪い経営体質の企業が数多く残っている問題がある。国民と企業を守るための数多くの規制のおかげでゾンビ化して生き残っている会社や不採算部門もたくさんあるという話もいくらか聞こえてくる。効率の悪い不採算部門は極力廃し、採算が取れそうな部門に新規設備投資して技術革新を促す必要があると思われるが、セイフティネットが充実していない今の日本でどこまでできるか疑問もある。痛みを伴う問題でもある。
 対策として、セイフティネットを充実させ、労働者の転職の幅を広げ、不採算部門を廃しながら新規設備投資をおこなえる環境づくりが急務であろう。しかし、この問題は、どのような新規産業を育成し、古い体質の産業から重点産業をどのようにシフトするのかのきめ細かな方針がなければ、十分な対策ができないと思われる。とてもデリケートで難しい問題であり、産業構造のイノベーションとも深く密接につながった問題でもある。

原因3.世界的産業構造の変化に対応しきれていないこと
 現代の世界情勢は、新自由主義の旗印の下、金融至上主義が大きな影響力を持つようになった。リーマンショックはその極端な失敗例でもあるが、いまだに新自由主義の影響は世界を暗雲で覆いつくしている。お金の魔力は人々の心を変え、蝕み続けている。善悪はともかくとして、我々は現代の世界の金融システムを詳しく知らねばならない。ピケティの「21世紀の資本」は、近年の資本主義で富の再分配がうまく機能しなくなっていると述べ、富の集中が起きている事実を公表している。巨大資本はますます巨大に、弱小資本は消え去る傾向が強くなっている。優秀な人材を有する巨大資本は、ファンドの効率的運用によりますます巨大化している現状がある。お金の魔力に魅入られた人々の織り成す世界が、現実の世界で力を持つようになったのである。一般素人が下手に手を出すと大やけどを負う株式投資の世界であるが、金融の専門家として優秀な人材を育成し、ファンドの効率的運用を行える専門家集団が必要であろう。
 近年の科学技術の発展はめざましく、特にIT系の発達は目を見張るものがある。しかし、日本におけるIT産業はかなり失速しているように思われる。グーグルやアップルにおされ、携帯電話でも韓国系企業におされている。一世を風靡したSonyのウォークマンやNintendoのゲーム機も斜陽の一途である。なぜであろう。今やITの本体は比較的人件費の安い発展途上国などの工場で生産され、ハードウェアの海外生産が主流となっている。一般の技術が確立した半導体製品は発展途上国でも十分に生産可能であり、人件費の安い分有利である。しかし、インテルはCPU生産の企業として有名であり、世界中に分散していくつか工場を展開しているが、アメリカ全体で6か所に工場を置き、本拠地はシリコンバレーとして有名なカリフォルニア州サンタクララにあり、今なおそこで工場を構え生産を続けている。CPUの世界では独占企業的であり、EUから独占禁止法違反で膨大な制裁金を課せられた実績がある。インテルが今もなおCPUの世界のトップであり続けている理由はなんであろうか?誰にもまねできない技術革新を常に繰り返していることが最大の理由であろう。
 しかし、一方IBMなどに代表されるコンピュータメーカーは一時期の繁栄はあったものの、大型コンピュータを主体とした体質だったため、標準形式のパソコンの流通とともにその輝きは失われてきた。そして、ソフト産業として発達したマイクロソフトの登場により、かなり影が薄くなっている。近年は発想を如何に転換して購買意欲を掻き立てる商品を販売するかが重要となり、だれでも簡単にまねすることができない商品開発が重要となってきている。ハードウェアの革新的技術はその仕組みがわかるとだれでも真似できてしまうため、ハードとソフト両面において革新的技術を複合させたものがより重要となっている。アップルのiphoneはまさしくそういった商品であろう。我々は常にアイデアを盗もうとする諸外国との競争の中にあり、簡単に盗むことのできない技術、特にハードとソフトの複合技術が重要である。日本において不足しているのはソフトウェア開発技術であり、この方面の優秀な人材が不足している。しかし、ソフト開発者の受け皿となるマイクロソフトやグーグルのような企業が日本国内に存在していないことは不運である。
 ハードウェア、つまり電子機械そのものは、家電品にしても、人件費の安い発展途上国でも生産できる体制が整っていることはとても重要な認識しておくべきことがらである。問題は、簡単にまねのできない製品をいかに効率よく生産することができるかが重要となってきている。最先端の秘密裏にしておくべき重要部分の生産は自社の工場で、それ以外のさほど重要でない部分の生産は最も安く生産できる発展途上国の工場などから購入してもよいであろう。おそらく、すべてを国内の工場で生産することによって国際競争力を持つ商品を生み出すことは困難であろう。アップルのiphoneにしても日本に発注している部品が膨大に存在している事実がある。つまるところ、アイデアの根幹部分は自社で開発・生産するが、すでに確立した技術の部分は他社の技術を利用するのである。

最終更新:2016年08月08日 18:44