シン「おーい、言葉ー。……おかしいな、どの部屋に行ったんだ?……ん?」
ひとつの部屋から音が漏れている。
シン「言葉……?」
部屋の戸を開けると、テレビを食い入るように見詰めている言葉の姿が目に入る。
シン「ここにいたのか」
言葉「っ!し、シン君……」
シン「何見て……!!」
テレビ画面の向こうには、デスティニーに乗り鬼神の如く闘うシンの姿が。
シン「…………」
言葉「ご、ごめんなさい!部屋に入ったらDVDが落ちてて、何かなって思って再生したら……私…シン君の過去を覗くつもりじゃ……」
シン「……ああ、わかってるよ」
リモコンを手に取り、テレビを消す。
俯き加減の顔からは表情が読み取れない。
言葉「し、シン…君……?」
シン「これで、分かったろ?」
言葉「え……?」
シン「俺の両手はもう、血に塗れてるんだ……言葉とは住む世界が違う。言葉はちゃんと住むべき世界に帰らなきゃいけないんだ」
言葉「シン君……」
シン「ごめん、言葉……俺じゃ、一生言葉を幸せに出来ない…幸せにする資格がないんだ……」
言葉「そんな……私は………シン君が」
シン「さてと、飯にしよう。早くしないと冷めちまう」
呼び止めようとする言葉の声も聞かず、そそくさと部屋を出て行くシン。
一人残された言葉は言いようもない寂しさに襲われた。
その日は結局ギクシャクしてしまい、シンはソファー、言葉はベッドで寝ることに……
言葉「………このベッド…こんなに広かったっけ……」
シンがいないだけで広く感じるベッドの上で一人呟く言葉。
何もすることがないのでとにかく眠りに入る。
―――
言葉『あれ?ここは……学校?』
誠『言葉』
言葉『ま、誠君…?』
誠『実は世界と別れたんだ』
言葉『っ!』
誠『だから、また付き合ってくれないか?』
言葉『誠君……………ごめんなさい』
誠『言葉?』
言葉『実は私、好きな人が出来たの…。優しくて、私よりずっと心が強くて、自分も大切なものを失って辛いはずなのに、
壊れかけてた私をいつも支えてくれた。守ってくれるって言ってくれた』
言葉『だからね、私もその人の支えになってあげたいの。いつも傍にいてあげたい……だから誠君とは』
誠『何言ってるんだ言葉?そんな奴 ど こ に も い な い じ ゃ な い か』
言葉『え……?』
後ろを振り返るが暗闇が広がっているばかり。
言葉『し、シン君……?シン君!?シン君!!』
いくら呼んでも返事はない。
目の前にいたはずの誠も消え、一人になる。
言葉『…嘘……シン君…嫌………!』
―――
言葉「嫌ああああぁぁぁっっっ!!!!」
絶叫と共にベッドから飛び起きる。
全身にぐっしょり汗をかいており、目には涙が溜まっている。
言葉「はぁ…はぁ……ゆ、夢?」
夢であることにホッとすると同時に、現実味の有りすぎる内容に体が震え出す。
言葉「私…私が……あんなもの見なければ……」
いつの間にか溜まっていた涙がボロボロと零れ、パジャマに染みを作って行く。
言葉「シン君……私を置いて行かないで………!」
嗚咽混じりの声が、一人ぼっちの部屋に響いた。
一方シンは……
シン「あれで良かったんだよな……でも、守るって約束は……」
先程言葉に言った事を何度も頭の中で復唱する。
その度に言葉の寂しそうな顔が現れ、シンの心が揺らぐ。
シン「いいや、俺じゃダメなんだ。そうだ、あれは言葉のためなんだ。言葉の、ためなんだよ……」
とにかく自分に言い聞かせ、横になって目を閉じる。
しかし、暗くなった視界に浮かんでくるのは言葉の事ばかり。
他者を全く受け付けようとしなかった初期の言葉。
誠の事を引きずりながらも明るくなってきたな中期の言葉。
誠をふっ切り、よく笑うようになった後期の後期。
そして、今現在の言葉。
シン「クソッ!」
この期に及んで決心出来ない自分に苛立ち、拳を強くにぎりしめる。
シン「俺は…俺はどうすりゃいいんだよ……!」
もちろん、どこからも答えは返って来ない。
翌朝。
結局満足な睡眠をとれなかったシン。
目の下に濃いクマが出来ており、寝不足を物語っている。
とにかく言葉が起きてくる前に朝食の準備をするためキッチンへ。
シン「はぁ……こりゃ、朝飯の前にコーヒーでも飲まなきゃやってられないな……」
コンロにヤカンをかけ、火を付けようとしたその時。
言葉「おはよう、シン君……」
シン「っ!!」
言葉の声を聞いた途端、シンを苛ませていた眠気が一気に吹き飛ぶ。
シンがゆっくり後ろを振り向くと、同じく目の下に濃いクマを作った言葉が。
彼女も寝不足なのか、足元が少し覚束ない。
シン「お、おはよう……」
動揺を押し隠し、努めて冷静を装うシン。
しかし目が泳ぎまくっているため全くといっていいほど隠せていない。
そんなシンを見つめつつ、言葉が口を開く。
言葉「シン君」
シン「なっ、なんだ?」
覚束ない足元とは対照的にハッキリと話す言葉に、シンの背筋がピンと伸びる。
言葉「実は、シン君に話があるの」
シン「俺に……?」
言葉「うん。あのね……」
言葉もいつかの別れに決心が付いたと悟ったシンは、死刑宣告を待つような心境で目をつぶった。
シン「…………?」
しかし、待てども待てども言葉は次の言葉を続けない。
不審に思ったシンが目をうっすらと開けると、言葉が今にも倒れようとしていた。
シン「言葉っ!?」
言葉が倒れる寸前で彼女を抱えるシン。
だが言葉から返事は返って来ない。
シン「言葉っ!言葉っ!!しっかりしろ言葉!!」
腕の中のぐったりした言葉が過去と重なる。
トラウマが蘇り、シンの心臓は止まりそうなほど早鐘を打つ。
シン「う、嘘だろ…お、俺は……また……」
失うのか?
シンがそう言おうとした刹那。
言葉「すぅ……すぅ……」
シン「………は?」
規則正しい寝息が腕の中から聞こえてきた。
シン「ふぅ…とりあえずこれでいいな」
キッチンで崩れ落ちるように眠ってしまった言葉を二人の寝室まで運び、ベッドに寝かせるシン。
大きい割に軽いな……と、運んでいる間赤面し悶えていた事を追記する。
シン「にしてもびっくりしたよ、いきなり倒れるんだから」
言葉が眠っている事を分かっている上で話し掛ける。
もちろん返事はないが、ある種の自己満足なのだろう。
それに言葉の寝顔を見ているだけで、シンの口から次々と言葉が出て来た。
シン「寝不足とか、あんまり無理しちゃダメだろ?いつか別れたら、こんな風に俺が守ってやれなくなるんだから」
シン「守るって約束、最後まで守れなくてごめんな……よくよく考えればいつか別れることにも気付けたはずなのに、
あの時の俺はとにかく言葉をほっとけなくて」
シン「最初は同情に近かったのかもな……でも、言葉と生活して、いろんな事させられて、一緒に笑って、泣いて、
言葉がだんだん本当に大切になってきて……言葉といれて本当に良かった。でさ……」
一通り話し終えた後、これまでにないほど爽快な笑顔を言葉に向けるシン。
シン「俺、やっぱり言葉が好きみたいだ」
………
寝ているとはいえ、言ってから恥ずかしくなりシンは頬をかく。
そのまま退出しようと立ち上がった。
が。
シン「うわぁっ!?」
ベッドの中から伸びてきた手に腕を捕まれ、グイと引き寄せられる。
一瞬混乱するシンだが、目と鼻の先に言葉の顔がある事に気が付く。
彼女の目はしっかりと見開かれている。
シン「こ、言葉っ!?いつから起きて」
言葉「行かないで」
シン「えっ?」
その時、言葉の頬に涙が伝っていることに気が付く。
言葉「お願いシン君、どこにも行かないで…私が資格をあげるから!シンは私の傍に居ていいからっ!」
シン「こ、言葉……」
言葉「シン君がいたから私はまた笑えたの。私もシン君が本当に大切なの……守ってくれなくてもいい…だから、ずっと……一緒に……」
泣き縋るようにシンに抱き着く言葉。
しかしそこに誠の時のような依存の異常性は全く見えない。
シン「言葉……」
言葉の背に腕を回そうとするシンたが、迷いがあるのか抱きしめる事が出来ない。
シン「本当に、俺は、言葉の傍にいていいのか……?」
期待と不安が混じった声でシンは言葉に確認する。
返って来た答えは、涙に濡れながらも優しさを感じさせる言葉の笑顔。
シン「言葉っ!」
その笑顔に迷いを断ち切ったシンは今度こそ言葉を抱きしめる。
言葉もシンを抱く腕に更に力を込めた。
シン「俺が必ず守るから!一生傍にいて君を守るからっ!!」
言葉「うん……っ!!」
シンの奥底で溜まっていた感情が溢れだし、涙となって流れて行く。
二人はお互いを強く抱きしめたまま、時間を忘れて泣きつづけた。
どれほど時間がたったのか。
二人共が気持ちが落ち着き、止めどなく溢れていた涙もようやく引いた。
言葉「?……シン君?」
ふと、抱きしめていたシンに違和感を感じた言葉は目を開ける。
一番始めに入ってきたのは、安心仕切ったようなシンの寝顔だった。
言葉「……………ふふ。シン君、ありがとう……」
安らかに眠るシンの頬に、言葉は己の唇で軽く口づけた。
翌日。
『予想以上のプロポーズktkr!!』というメモがテーブルの上に置いてあったのを見て、自分が自然にプロポーズしていたことに気が付くシン。
顔を真っ赤にして部屋の主に怒りをぶつけるシンだったが、言葉は満更でもないようだった。
Fin.
しかし二人の物語はまだまだ続く。
最終更新:2009年02月27日 16:47