1
気がついたら俺――シン・アスカは学生だった。ブレザーを着込み真面目にもネクタイなんぞを締めていた。
更に驚くべき事に石膏デッサンをしていた。しかも木炭で。
真実は小説より奇なり。全く訳が分からないがどうやら俺は芸術科の生徒らしい。
段々と靄がかかった様に曖昧だった意識が鮮明になっていく。
そうだ、俺芸術科アートデザインクラス、いや、芸術科Aクラス。略してGAの生徒だ。
決してギャラクシーエンジェルなどではない。
昼食前の四時限目の授業だから空腹のあまり意識が朦朧としたのだろう。
記憶違いや記憶の混濁があっても仕方がない。
ぐぅ~と腹の虫が鳴る。静かな教室に間が抜けた音が響く。
クスクスと言う笑い声が聞こえる。はっきり言って恥ずかしい。
「シン、これ食べて良いよ?」
恥ずかしさのあまり俯く俺に誰かが声を掛けてくる。
野田ミキだ。彼女は色素の薄い髪と明るい笑顔がトレードマークのクラスのムードメーカーだ。
「サンキュ。ありがとな」
俺はノダにお礼を言うと差し出された食パンをパクつく。
うん、美味い。空腹は最高の調味料だ。だけど微妙な味もする。
しかしなんでノダは食パンなんて持っているのだろう。
空腹が消え失せたので俺の灰色の脳細胞が活性化する。
石膏スケッチを木炭でする→木炭スケッチは消しゴムの代わりに食パンを使う→食べてはいけません
「ププッピドゥッ!」
むせる俺とは対象的にノダは笑顔で言外にしてやったりと雄弁に語っている。
ちくしょう、なんてものを食わせやがる……。
2
「シンって何かに似てますよね」
キサラギが俺の顔をジッと見つめる。
キサラギこと山口如月。上も下も苗字みたいな名前の物腰穏やかな雰囲気で眼鏡がトレードマークの女の子だ。
「そうか?自分じゃ分からないけどな」
俺は首を傾げる。一体何に似ているのだろうか。
「シンの特長と言えば色白で赤目ってトコだな」
ナミコさんは首を傾げている。
ナミコさんは野崎奈三子。大人っぽくて皆の保護者みたいな女の子。
ちなみにこの前ふざけてお母さんと言ったら怒られた。
「……白くて赤い目……」
ノダはウンウンと唸っている。
皆が俺を見つめて悩んでいる。バレンタインにこの絵面はどうなのだろうか。
皆の悩みが伝染したのか俺も悩む。
静寂が俺達を包み込む。しかし、勢いよく開けられたドアのけたたましい音が静寂を切り裂いた。
「白くて赤い目と言えば!」
現れたのはトモカネだ。トモカネは友兼。下の名前は誰も知らない。本人だけが知っている。
トモカネは芸術科なのに体育会系思考のボーイッシュな女の子だ。
「白くて赤い目と言えば?」
皆がトモカネを見る。勿論俺もそう。トモカネは胸をエヘンと張る。
「白くて赤い目と言えば、白い悪魔のノロイだろ?」
俺はずっこける。ノダはトモカネに同意する様に頷いている。
「ウサギじゃ……」
キサラギは蚊の鳴く様な小さい声で反論している。
ウサギも微妙だけどノロイに比べればマシかも知れない。
「マサはどう思う?」
ナミコさんは窓際の席で静かに日向ぼっこをしていたキョージュに振り返る。
マサはキョージュで大道雅。物静かでクール感じで長い黒髪がトレードマークの大和撫子と言う言葉が似合うかも知れない女の子だ。
「アスカ殿が似ているのは……やはりノロイだろうな」
キョージュは俺を見つめる。いや、俺じゃなくて俺の後ろの空間を見つめている。
「なんで俺がノロイなんだ?」
トモカネやノダならともかく、真面目なキョージュにまで言われると少しショックだ。
「アスカ殿の妹君もそう言っているみたいだ」
二つの疑問が浮かぶ。
なんで死んだ妹のマユ存在をキョージュが知っているんだ?
なんでキョージュは俺の後ろを見ているんだ?
……まさか。いや、有り得る。キョージュなら見てはいけない物が見えてそうな気がする。
何だか背筋が寒くなってきた……。
最終更新:2009年09月11日 22:06