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ツンつん×デレでれ 12話

琥珀色の黄金水に白い泡。
つまりはビールなのだが、ビールの入ったグラスを高らかに掲げるとやたらと陽気な声。

「乾杯!!」

言うや否や一気に呷る。
続いて二杯目のビールを溢れんばかりにグラスに注ぎながら我らが兄貴、ヴァイスはご機嫌であった。

どれくらいご機嫌なわけかというと、「歌でも歌い出したい気分だ、んんっふ~ん♪」

まぁこんな感じ。


ウサギもかくもやという瞳をジトッと半目にしながらシンはご機嫌な兄貴を冷たく見つめていた。


「いや~たまには男だけで飲むってのもいいやねぇ~」
「あのヴァイスさん…」

意を決したのか、そろりと声をかけるが、ヴァイスは何処吹く風といった感じだ。

「おう、シン遠慮せずぐいぐい行けよ。奢りだ」
「いや、だからヴァイスさん……」

尚も言い募ろうというシンを他所に、ヴァイスはおつまみを物色しつつ早くも二杯目を空ける。


「お、何だよチータラが無いじゃんよ~カマンベールチーズしか無いって」
「オッサン!!」

おつまみのチョイスに文句を言い始めたヴァイスにシンがキレた。

「オッサンじゃな~い!!何だよシン。飲め飲め!!」
「飲めじゃねぇよ……俺未成年だっつーの」
「細かい奴だな~」
「細かくない!!百歩譲って俺は良いとしてもエリオまで呼ぶとはどういう了見だよ」

視線をヴァイスが移してみれば、手元のグラスを困ったように見つめる赤毛の少年の姿がある。

「ビールは苦手か?ワインにするか?」
「だからそういう問題じゃねぇ!!」
「何だよ……」
「飲み会をするのは勝手だけどさ、何で俺とエリオが入ってるんだよ」

飲み会のメンバーを見ればシンの疑問も最もであった。
エリオとシン、そして普段は中々接する機会の無い無限書庫の司書、ユーノの姿があった。
ユーノはただただ苦笑してグラスをちびりちびりと舐めるようにしている。


「飲むんなら普通に同僚とかで良いだろ?」

憮然としたシンに対して、ヴァイスはチッチッチと人差し指を振る。
その指をへし折ってやろうかこの野郎、そうシンが静かなる殺気を高めると、三杯目を空けたヴァイスがにやりといやらしい笑みを浮かべる。

そしてエリオをビシリと指差す。
指されたエリオはキョトンとしている。


「素直系ショタっ子!」
「は?」

何を言っているのかわからないという顔のシンを他所に、ヴァイスは次いでユーノを指差す。


「中性的美形!!」
「は?」

そして、最後にシンを指差す。


「ツンデレ美少年!!!」
「は?」

ヴァイスは立ち上がると、酒瓶を手に堂々とした様子で叫ぶ。




「どうせ飲むなら、お兄さん綺麗どころと飲みたい!!」
「死ね!!」



間髪いれずに叫ぶシン。
叫ばれたのはある意味とても真理であった。
しかし、悲しいかな、シンには理解出来なかった。

「見ろ!!この隙の無いメンツ!!合コンしたってここまでのクォリティーは期待出来まい」
「アンタの頭の中は隙だらけだな……」


ヴァイスの手には名酒『美少年』。
その酒瓶で頭をかち割ってやろうかとシンは思った。
きっとからんと良い音を立てるであろう。
ユーノは苦笑しつつワインを口にしている。
同じ男かと、シンは自分を棚に挙げながら内心呟く。
エリオは観念したようにぺろぺろと子犬の如く酒に手を出す。
頭痛を覚えながらヴァイスをもう一度見つめると、兄貴は元気にサムズアップ。


「何ご満悦って顔してるんですか……」
「バッカ、オメェ汗臭い野郎共と飲まず、かといって後腐れのある女でもなく、それでいて目の保養になってるんだ。もうサムズアップしかねぇだろ」
「散々人を合コンに誘ってるのって誰でしたっけ…?」
「色々後が面倒なんだよ!!具体的に言えばブッキングしてだなぁ…」
「もう良いです」
「事の最中に『来ちゃった♪』なんつーてもう…」
「もう良いっつてんだろうがよ!!」
「『来ちゃった♪』ならまだ良いけどよ、『来ないの♪』とか言われた日にゃあ、お前…」
「最低だ……性病移されて真実の愛とかお寒い事を言いながら肉欲に溺れつつ不治の病とかそれ何てケータイ小説?みたいな感じで死んでしまえ」
「ワンブレスで言い切った!!ツンデレだなぁ少年~~で、シンちゃんはいつ頃お兄さんにデレてくれるのかにゃ?」
「未来永劫ありません……つかデレって何ですか!」


「まぁまぁ、シン君」

シャム猫の如くツンケンしているシンと、それを楽しそうに受け止めるヴァイスの二人に待ったを掛けたのは第三者のように傍観していたユーノであった。


「ユーノ先生……」
「折角男だけでこうして騒ぐ機会をヴァイスが設けてくれたんだから、お言葉に甘えようよ」
「先生まで……」
「さっすがユーノ。わかってる♪伊達にスキンケアは怠ってないなぁ」
「オッサンは黙ってろ!!」
「酷い!!シンちゃん酷い!!パパそんな子に育てた覚えは無いぞ!!」
「既に出来てるのかよ!!酔っ払い!!!」


苦笑するユーノの前で、シンとヴァイスのじゃれ合いが再開された。


                              ◇


「う~~……もう無理ですぅ~」


シンはゆっくりとした動きで赤い髪を撫でる。
チクチクとした手触りが自分の髪質とは異なり、それが面白くて撫でる手を休めない。
シンに撫でられているのは早々に酔いつぶれたエリオ。
顔を赤くし、自身の膝枕で潰れてしまっているエリオを眺めながら、シンは疲れた視線を向こう側で転がっているモノに向けた。


「ごぁぁ~~んごぉ~~」


空いた酒瓶を抱えながら、高鼾をかいて眠っているヴァイスを見ると、シンは深々と溜息を吐く。
ユーノはそれを見てクスクスと笑う。
憮然としたシンの視線を受けても、尚、楽しげにユーノは微笑む。


「ヴァイスさん……飲むだけ飲んで潰れちゃったよ……ったく……」
「はははは……でも少しは気が晴れたんじゃない?」
「え?」


思いも寄らぬ言葉に、シンはギョッとさせる。
ユーノは微笑みを絶やさずに、何杯目かになるワインを空ける。
その目元は微かに赤い。


「何か物思いに君は耽る事が多いみたいだね。今も」

「そんな事……」

「シン君。ここにはなのはもフェイトも、誰もいないよ?」



不意に向けられた真っ直ぐな視線に、シンは言葉に一瞬詰まる。
幾ばくかの逡巡の後、観念したようにシンは視線を膝の上のエリオに向けながらぽつりと零す。


「正直……こうやって楽しく騒いでると……不安になる事があるんです……」
「不安?」
「俺はここにいても良いんでしょうか?」


その声に、縋るような色が押し止められている事に、ユーノはシンという少年の強さを感じた。
けれども、見え隠れする程に弱っている、それもまた事実だと思いながら、シンの言葉の続きを待つ。


「俺は他所の世界から来た異邦人で………そんな俺がここに居続けて、皆と仲良くなって……」
「場違いだって……思うのかい?」


こくりとシンは頷く。
紅の瞳が寂しげに揺らめく。
喉を潤すように、ユーノは残り僅かなワインを流し込む。

「君は……昔のフェイトみたいな目をしてるね」
「……隊長ですか……?」
「うん。ここに居ても本当にいいのか、常に自問自答しているみたいな……そういう目をするね」
「でも……俺は隊長と違います……」
「さっき言ってた異邦人っていう話かい?」
「…………俺は他所の世界から来た……ホントの余所者だ……それが皆と深く関わっても……」
「なのははね」
「え?」
「なのはは魔法なんて関わりの無い子だったんだ……僕がミッドチルダからやって来るまでは。
僕もなのはにとっては異邦人だよ。フェイトにとっては自分の世界を壊してくれたなのはは異邦人以外の何者でもない。
みんなそれぞれがそれぞれにとっては異邦人なんだ」
「それは……それは屁理屈ですよ……」
「いいんじゃないかな、屁理屈で」
「いいって……そんな……」
「誰も幸せにしないような理屈なんていらないと思うよ。少なくとも、君は幸せじゃないみたいだ」
「幸せ……わかりません……」
「じゃあ、聞くけど、なのは達……スバルやティアナが悲しい顔をしているのを見てシン君は幸せなのかな?」


その言葉に弾かれたようにシンは顔を上げると、勢い良く首を振る。
正直なその反応に、ユーノは笑みを浮かべる。
真っ直ぐな紅の瞳は一見苛烈なようで、その実優しい。
それが伝わってきただけで、ユーノはシンを好ましいと思った。


「じゃあ、やっぱり誰も幸せにしてくれない理屈だ。僕が見た限り、君が落ち込んでて幸せになるような人は六課にはいない」
「そう……なんでしょうか…?」
「そんなんです」


きっぱりと言い放たれた言葉に、シンは呆気に取られる。
ユーノはワインを空いたグラスに注ぐと、一口、ゆっくりと含む。


「じゃあ、屁理屈でも皆が幸せになれる方が良いよ。皆が皆異邦人なんだ。君だけじゃない。君は一人じゃない。それに………」

「う~ん……むにゃ……シンさん…ハメ技は酷いですよ~~」

シンの膝に頭を乗せたエリオが寝言を呟く。
エリオの寝言は、シンとユーノの間に生まれた沈黙にするりと入り込んだ。
ぷっ、とユーノが噴き出す。
戯れに、赤いエリオの髪を撫でると、ユーノはエリオに向けていた視線をシンに移す。

「少なくとも、この場に居る三人は君に居て欲しいって思ってるよ」

その言葉に、シンはただただ無言でゆるりと膝の上のエリオの横顔に視線を移した。
穏やかなその寝顔に、自然と笑みが零れる。


「ありがとう……ございます……」

                              ◇


ユーノは毛布を持ってくると、兄弟犬のように身を寄せ合って眠っているシンとエリオに優しくかけてやる。
その穏やかな寝顔に、つられて笑みが零れる。

「もう狸寝入りは良いよ、ヴァイス」

そうっと、シン達を起してしまわぬように囁かれた声に反応して、むくりと起き上がる人影。
ヴァイスは、苦笑を零すと、プルタブを開けていない缶ビールを手繰り寄せると、勢い良く流し込む。

「バレバレか?」
「大丈夫、シンは気付いてないよ」

二人が穏やかに寝入ってしまっているのを確認すると、ヴァイスはユーノの隣りに腰掛ける。
ヴァイスは黙ってユーノのグラスにビールを注ぐ。

「やっぱりユーノ先生に任せて良かったぜ」
「普段からおちょくるのを止めればいいのに……そうすればこんな役人任せにしなくても良かったんじゃないの?」

ヴァイスは首を振ると、普段は中々触れないシンの猫の毛のような髪を撫でる。
その感触が気持ち良く、何度も撫でるヴァイスの瞳は穏やかで柔らかい。
其処には、バカなことを言ってシンに冷たい目で見られていた姿は無い。

「いんや、やっぱりユーノが適任だったぜ」
「面倒見が良いんだね」
「そんな事は無いけどよ、まぁただこのツンデレボーヤが随分と思いつめてたみたいだからな」
「僕にはアレだけ六課の子達に好かれていて自分がここに居ていいのか不安に思えるこの子が少し不思議だけどね」
「コイツはまぁ、ガキのクセに随分と無くしちまったモノがあるみたいだからな。誰かがハッキリ居ても良いって言ってやらなきゃ信じられないんだろ……」
「………そっか……それは好きとは少し違うから……そうなのかもね………」

シンの鴉の濡れ羽色の髪を指先に絡めながらヴァイスはビールをあおる。

「しかしまぁ………ティアナ達もまだまだだねぇ」
「何がさ?」
「惚れた男の不安一つ摘み取ってやれねぇようじゃあ、まだまだ女の経験値足らねぇな」
「ふふふふ、仕方ないよ。彼女達も彼女達で大変なんだよ」
「ま、まだまだお嬢ちゃん達には可愛い弟達はやれないな」
「そうだね」

二人は顔を見合わせると小さく笑う。
シンは普段の険が取れた穏やかな子供のような寝顔をしていた。






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最終更新:2009年09月12日 08:13
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