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シン編:グッドエンド『おかえり』

「お、秋刀魚が安い」
「秋刀魚ですか、いいですね」


「ようシンちゃん!!」

見るからに新鮮な秋刀魚を見て、シンは買い物籠を持ったまま立ち止まる。
店主が、それを見て相好を崩す。
シンちゃんは止めてくれと思うが、既に諦めたようにシンは苦笑いを浮かべる。

こういう本心からの善意の押しにこの人は弱いんだ。
しかも年の離れた人に無条件で弱い。

この二年の付き合いでシンの性格を把握しているエリオは、溜息を吐きながら『もう一つの目的の物』を探してシンをその場に残してさっさと歩を進める。


「シンちゃん、もう退院したのかい?」
「は、はぁ、おかげさまで」

我が事のように嬉しそうな店主に、この世界に来てから身に付けたスキル。
『愛想笑い』を浮かべる。
馴れ馴れしくも根っからの善人であるこの店主に良くも悪くもシンは弱かった。
店主は、ひとしきり勝手に頷くと、袋にザバザバと秋刀魚を放りこむ。



「持ってきな!!シンちゃんの快復祝いだ!!」



満面の笑みを前にして、シンはただ「ありがとうございます」としか言えなかった。



                              ◇


「つっても二人で秋刀魚二尾は多いんだよな~~~」
「でもいい人でしたね」

袖を捲し上げエリオは淡々と作業をこなしていく。
その手にあるのは「栗」。
意外といえるのか、器用に栗の皮をむいていくのを見ながらシンは秋刀魚に包丁を入れる。



「よし、決めた」


そう呟くと、シンは手早く秋刀魚を三枚におろしていく。

「おお~~~さすがオッサン。いい秋刀魚だな」
「わかるんですか?」

栗を向き終えたエリオが米を磨ぎに掛かりながら言う。
シンはエリオの方を見ずに秋刀魚に鮮やかな手付きで包丁を入れていく。

「鮮度がいいと、皮がつるっと剥げるんだよ」
「なるほど」
「中骨はせんべいにするから捨てずに取っておいて……」

秋刀魚を削ぎ切りにし終わると、コンロに火を点す。
熱したフライパンに白ゴマを投入する。
ぱちん、ぱちんとはじける音を立てて、シンは白ゴマを炒っていくと、それを今度はすり鉢に入れ、粗くすっていく。


「ゴマ、砂糖を入れてっと……ああ、エリオ、米に酒入れるの忘れないでくれ」
「わかってますよ~」
「刻みショウガを加えて……出来たっと」
「この釜ならすぐに炊けますよ」

エリオはジャーのスイッチを入れながら、OKのサインを指で作る。
それを頷くと、シンはしみじみと呟く。


「あの人もたまには良い発明をしてくれるよな……」
「そうですよね………あ、もう秋刀魚焼けたんじゃないですか?」



                              ◇



「わぁ~~~こうして見ると豪華ですよね」
「結構ヘルシーだけどな」


栗ご飯をお茶碗によそっていくシンの傍らで、エリオはジャガイモの味噌汁を二人分注いでいく。



「「じゃあ、いただきます!!」」



エリオはまず秋刀魚の刺身・胡麻醤油和えを口に運ぶ。


「~~~~~」
「どうよ?」

エリオの顔が見る見る間に緩んでいくのを見て、シンは聞くまでも無かったと思いつつ、それでも尋ねる。


「美味しいです。スッゴク。しつこくないですよ、これ」
「ポイントは胡麻醤油とショウガだな」
「僕シンさんと知り合ってから初めて刺身って食べたんですけど、今じゃもうすっかりファンです」
「そら良かった」
「焼き秋刀魚の塩加減も絶妙ですしね」
「秋刀魚はエライよ。安くて、手間要らずで、それで美味いもん。マジエライよ」


シンはそっけない風を装いながらも、自身の料理の出来にひとしきり納得すると、健啖家振りを発揮する。
エリオも育ち盛りらしく、箸を進めていく。
「それにしても……」
「ん?」
「フェイトさん達もいれば良かったのに……」


ジャガイモの味噌汁を啜りながらエリオがぽつりと呟く。
シンは箸で秋刀魚を解しながら、呆れたように溜息を一つ零す。


「自業自得」


すっぱりと言い切るシンに、エリオは苦笑を浮かべる。


「そんな……でもホントに喜んでたんですよ…?」
「それで暴れてどうする。っていうか病院で怪我人増やしてどうするよ」
「ヴィヴィオはクロノさんが預かってくれてますから、一応心配はありませんけどね」
「かるくヴィヴィオ・シックだよ、俺は……ハァ……」


そんなシンを苦笑して見遣りながら、エリオはここにはいない養母達を思い出す。
シンは気付いていないが、一悶着になった原因は他にもあるのだ。

刺された事を特に気にしていないシンの自分の命への無頓着さ。

それに、ティアナに言った(らしき)言葉の真相。

けれども、とエリオはほぐした焼き秋刀魚を口に放り込みながら思う。
こういう人なのだ。
シン・アスカとは、こういう人なのだ。
自分に無頓着で、警戒心が強い。
そのくせ甘えられたり頼られたりするのにはトンと弱い。
善意の押しには抗えず、普段の野良猫の有り様は形を潜めてしまうのだ。
惚れた男が悪い。
こんな手のかかる人に惚れた彼女達が悪い。


「ってキャロの読んでたレディコミでも言ってたな」

「何言ってるんだ?」

「何でもありませんよ」



きょとんとした顔の渦中に人物に笑みを向ける。
この兄のような人が無事なのだ。
こうしてまた一緒にご飯を食べれているのだ。
その事を今は喜び、噛み締めよう。
栗ご飯がやけに美味しく感じられた。




~~~オマケ~~~~



「で、実際どうなんや?」
「どう、とは?」
「とぼけんなぁ!!!シンと抜け駆けして内緒のTELで一体何があったぁ!!」
「どうどうだよ、はやてちゃん!!フェイトちゃんも手伝って……っつか便乗!!こういう時に便乗しろや!!なの」
「ヘッ……どうせ噛ませよ私は……同じツインテールなら若い方が良いってか?水樹ボイスより中原ボイスか……こんちくしょ---!!!」
「フェイトちゃんまで!?ティアナ、何か冴えた答えを一つ」



「まぁ、永きに渡る戦いに終止符が打たれた……かな?かな?」


「火に油ッ!?」



「キャロもゴメンね。何か巻き込んじゃって」
「いえ、それよりスバルさんは参戦しなくていいんですか?(何かを期待する目)」
「ティアならいいかなぁって……それに一夫一妻制じゃないから」
「え?」





「こらうるせぇーぞ新入り!!ちゃっちゃとシーツ取り替えとけやボケ!!!テメェらの頭取替えられてぇか!!!」



「「「「すいまっせーーん婦長!!!」」」」


ちなみにシンの作った料理の献立。

  • 栗ご飯
  • 秋刀魚の塩焼き
  • 秋刀魚の刺身(胡麻醤油)
  • ジャガイモの味噌汁




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最終更新:2009年09月12日 23:38
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