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『Wの探索/二人で探偵一人分』1 > 2

「トダカさん! トダカさん!! トダカさ――――んッ!!」

 呼びかける声は届かない。家族同然に、それ以上に慕っていた人は突然砕けた地面の穴
へと吸い込まれて消えていった。青年がそれを確認する間もなく、砕けた地面から飛び出
た異形の巻き起こした超常が目の前に着弾した。
 それから逃れようと反対方向へと走った青年と”もう一人”を眩い閃光が照りつけた。
瞬間、横殴りに弾丸の雨が降った。ガラスに床に備品が呆気なく砕け散って抉れ飛ぶ。
 窓の外でへばりつくように対空しているヘリが室内へと注ぐのはライトの光だけではな
く、ヘリの両脇から無数の弾丸が放たれた。轟音もしくは爆音の如き発射音とともに吐き
出された銃弾が周囲へ殺到する。一目見ただけで十二分の殺傷性を感じ取れる光景だった。
 新たに出現した脅威からとにかく逃れるために、青年は脇に立っていた人物の手を強引
に引っ張って、物陰へと転がりこんだ。
 ヘリから放たれている銃弾は止む事を知らない。盾にしている階段の壁が銃弾に抉られ
て削れていく。出た瞬間にハチの巣になるのは推測するまでも無い。
 青年は左右を慌ただしく見回す。活路を探すもまるで無い。状況は絶望的だった。
「あでっ!?」
 漏れ出るのは情けない悲鳴。そして額に激痛。何か固い物を投げつけられて、それが額
に直撃したのだと数瞬遅れて理解した。青年の額に直撃した何かは、金属音を立ててその
まま地面に落ちる。眼前に転がった物を見やる、赤い色をした何か機械の様なものが転が
っていた。

「魔女と契約する勇気、ある?」

 声がした。出会ってからほとんど時間はたっていないが、青年は初めてその人物の声を
聞いた。長い紫色の髪は地面に付かんばかりで、これまた紫色の瞳は不機嫌気な様子で半
眼に。緑色のメモリを手にした少女が呟くように言い放つ。次いで少女の足元に開け放た
れたまま転がっていたアタッシュケースを青年の方へと蹴り寄越した。
 青年は一瞬だけ呆ける――が、直ぐに眼前に落ちている機械を拾い上げた。”少女”が
左手にそれと同じものを持っているのに気付いたからだ。それからアタッシュケースにも
手を伸ばす。そこから少女が手にしているのと同じ様なメモリを引っ掴んだ。少女が持っ
ているのは緑だが、青年が掴んだのは黒い色をしていた。

 ――CYCRONE

「うわあああああああ――――!!」

 ――JOKER

 青年は力の限り咆哮する。ヘリのローターと銃器の発射音が響く中に、騒音が一つ追加
された。とはいえ肉声などさしたる障害では無く、実際青年の声は直ぐに掻き消される。
ただそんな事は気にしている余裕は無く。

 少年が、
 少女が、

 ベルト(ダブルドライバー)のスロットに、メモリ(ガイアメモリ)を叩きこんだ。


 室内は最初から薄暗く、照明の類は灯っていなかった。室内へと明りを提供していたの
は主にヘリのライトである。当然それがなくなれば室内は再度薄暗くなる。そうして現在
そうなった。何故ならヘリがビルから大きく離れたからだ。
 正確には離された。室内を、室内の中の一人を、そこに立つモノ。それを発生源とした
爆風が周囲へと拡散する。制御を失ったへりは大きく回転した後にビルに激突し、炎を帯
びて堕ちていった。吹き荒れる。荒れ狂う。ヒトもモノも、イギョウも何もかもが、暴れ
回る風に煽られて押しのけられていく。
 その中で、たったひとつ、その風を意に介さないものがある。それが首に巻いたマフ
ラーは周囲を蹂躙する絶風と関係なく、あくまで常識の範疇で風に揺れていた。周り誰も
が撥ね退けられた場所で、悠然と歩く一つの影。


 二人だった影は、今では一人分。
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 1年後 風都

 WWW

「えーっと。この辺りの筈なんだが」

 肩より長い位の金色の髪をした少女が一人、金色の瞳をくりくりとせわしなく左右に動
かしながら周囲を見回す。背丈はそんなに高くない、顔立ちはそれなりに可愛らしいなが
らもそこまで飛び抜けた特徴がある程でもない。何故か服が白と黒の二色なのと、背負っ
たリュックが八角形という点は少々妙ではあったが。
 周囲を忙しなく見まわしながら歩いていた少女はやがて目的血と思しき場所を発見する。
目の前にはデカデカと「かもめ ビリヤード」という文字が書かれた看板。
 ただ少女の視線はその大きな看板でなく、そこから下にかかった小さなモノに向けられ
る。少女はそれをしげしげと眺めている。
 ふいに周囲にエンジン音が響く。マシンのボディカラーは前から黒――だが途中から斜
めのラインと共に緑色に変わっている。そんな少々奇抜なカラーリングをした一台のバイ
クが建物の前に滑り込むように侵入してから停車した。
「おい、ウチに何か用か?」
 ヘルメットを脱いだ黒髪の青年が、看板をしげしげと眺める少女に向かって声をかけた。

 WWW

「あの看板のハードボイルドって何なんだぜ?」
「……それは俺が貼ったんじゃない」

 少女の心底不思議な感じのその質問に対し、青年が苦々しく返答した。現在位置は二人
とも建物――いわゆる探偵事務所の前では無く、既に戸を潜って室内へと到達している。
 少女が言っているのは表にある『戸高探偵事務所』の看板に付け加えるように張られた
『どんな事件もハードボイルドに解決』についてである。青年は若干疲れた様子で「トダ
カさんの趣味だよ」と言って、その話題を打ち切った。

「で、何の用だ? 依頼か?」

 一応客である相手に飲み物を出さず、自分だけ作り置きの珈琲を啜りながら、青年は少
女へ向き直った。明らかに無礼なその態度に対して別に少女は気分を害す事も無かったよ
うだ。
 少女は持っていたリュックをガサゴソと漁る。そこから一枚の紙を取り出して、青年へ
と突きつけ――そして天使の笑顔で。

「お前立ち退け。ハイこれ権利証」

「ブーッ!!」
 青年が思いっきり珈琲を吹き出した。ドラマの1シーンとして使えそうなくらい見事な噴
き出しである。ちなみに顔は直前で背けたので少女に実害は無かった。客に対する心遣い
は無くともその辺りは弁えていたらしい。
「ここの大家は私だ。探偵まがいのよくわからん輩はとっとと退去してもらうぜ」
「は、はあ!? い、いきなり何言い出すんだ!?」
「残念ながらここは私が将来開く雑貨屋の店舗予定地何だ。ほらわかったらさっさと出て
け出てけ」
「いきなり言われて納得できるか――ってこら勝手に捨てるなァァ!!」
 例えるならばもうお前の言葉とか意志聞いてる暇ねえよと言った感じ。青年の方を見る
事すらなく、そこらのものをゴミ箱めがけて放り投げ始めた少女を青年が慌てて止めに入
った。

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「霧雨魔理沙……トダカさんの」
「親戚。元々ここは私の親の所有物何でな。トダカのおっさんには貸してたって訳だ……
そういやおっさんを見ないな? どっか出かけてるのか?」
「トダカさんは……トダカさんは、もう……」
 シンが言葉の途中でちらりと視線を壁へと向ける。視線の先の帽子掛けにはいくつかの
帽子がかけられている。その中で一つ、大きな傷の入った帽子が一つ。
「?」
「…………いや、しばらく戻らない」
 視線を明後日の方向に移しつつ、シンは素っ気なく呟いた。
「ふーん。まあいいぜ。私はそんな事知らないしな」
「あ、そう……おいこらだからモノ勝手に捨てるなってんだよ!!」
 もう話は終わったといわんばかりに再度部屋の整理という名目の無差別廃棄を再開しか
けた少女――魔理沙を青年が慌てて止めに入った。主に腕を掴むという直接的な行動によ
って。
「おいおいか弱い乙女に何をするんだ。放せ」
「物を無差別投棄するような輩を世間では乙女とは呼ばねえ。というか捨てるな」
「断る」
「じゃあこっちも断る」
 無言の睨み合いのスタートである。
 青年は魔理沙の手を離し、元から悪い目つきを更に悪くして牽制するかのようにジリジ
リとゆっくり動く。魔理沙の方もそれを迎え打つかの様に不可思議な構えと共にジリジリ
と青年との距離を測る。
 放っておけばあと数十分は続くんじゃないかという無言の争いは、第三者の介入によっ
て強制的に打ち切られた。

 依頼者の来訪を告げる、ベルの音。

 WWW

 ――俺の名前はシン・アスカ。この街で私立探偵をしてる。

 街を歩き回る。正確には移動はバイクなのだが、目的は聞きこみだ。人間相手にバイク
で接触は普通するものではない。だから基本降りてからが本番だ。足を頼りに一人でも多
くの人間と接触し、僅かでも情報を得ねばならない。
 件の写真を手掛かりに、あっちこっちで聞き込みを始めて数時間。一段落ついたところ
でシンは手近な位置に会った小さめの風車にもたれかかる。
 この街は風都という名前の所為か、とにかく風に関連する小物を見かける。風車とか、
風見鶏とかそういうものである。

 ――この街では色んなモノを風が運ぶ。今回の依頼者、津村マリナの依頼もまた

「……風に運ばれてきた、なーんてな」
 今回の依頼は『失踪した恋人の捜索』である。探し人は手持ちの写真に映る男性――戸
川ヨウスケ。依頼人の恋人というのを示すように、写真の中では男女が満面の笑みを咲か
せている。
 警察機構は無力では無いが、明確に事件に巻き込まれたという事が判別しない限り本格
的に動き出さない事が多い。そういう点で今回の依頼は融通の効く私立探偵の本領発揮と
いえよう。思いつめた様子だった依頼人の様子を思い出して、シンは小さく溜息を吐いた。
「何一人でブツブツ言ってんだ。気持ち悪い」
「うぇ?」
 完全に浸っていたシンに声が投げかけられる。何事かと素っ頓狂な声を出して首をもた
げたシン。その頭部でカコンと小気味のいい音がした。「あでっ」とシンは呻き、それか
ら慌てて振りかえる。
 後ろに居たのは霧雨魔理沙。右手で掲げているのは八角形のリュック。どうやらそれで
シンを小突いたらしい。リュックの癖にそれなりに堅い様だ。
「ってえ……何でお前居るんだよ!?」
「何、この魔理沙さんが直々にお前の仕事っぷりを見定めてやろうと思っただけだぜ。結
構サマになってるじゃないか。ん?」
 不機嫌さをフルスロットルさせ、睨みつけるように魔理沙を見つつシンが怒鳴り散らす。
一方魔理沙はまるで動じる事も無く肩をすくめつつ返答する。むしろ笑みすら浮かべてと
ても余裕ぽかった。
「で、失踪の原因はもう掴めたのか?」
「ああ。それは会社をリストラされたってのが有力だな…………ってなんでお前が仕切る
んだよ!?」
「権利はパワーが総てだぜ?」
「うぐ……」
 にやーと若干黒目の笑みを口元で浮かべつつ、魔理沙が権利所をちらつかせる。それを
持ち出されるとシンには言い返すのが難しくなる。
 探偵事務所の運営を任されているとはいえ、それは正式な手続きを踏んだ訳では無いの
だ。出るとこ出たら速攻負ける。今だって依頼者が来たからと言って無理やり立ち退きを
引き延ばしている状況なのである。
「ああちくしょう……! どうすりゃいいんだコイツ……! くそ、”魔女”が二人に増
えた気分だ……!」
 魔理沙から顔を背けてシンが小声で呻く。今後どうするべきかを考えるだけで一気に気
分が陰鬱としてきた。それを振り払わんと頭を盛大にぶるぶると振るったのちに、シンの
聴覚がある音を捉える。弾かれたように頭をあげ、シンはその方向へと駆けだした。
「あ、おい何処行くんだ!?」
 後ろで魔理沙が何か言っているが、無視する事にした。目指すのはサイレンを鳴り響か
せて走行しているパトカー、それらが集まる場所だ。

 WWW

 トンネルから煙が出ている。
 状況を端的に説明するとそれだけだ。もうもうと溢れ出る煙に車は停車し、人はそこか
ら逃れるように駆けずり回っている。傍らには数台のパトカーや救急車が停車し、人の避
難誘導や救出を現在も続けていた。
 そんな人の流れと逆行するようにシンはトンネル目指して走り抜ける。そのシンを追う
ように後ろから魔理沙も付いて来ていた。
 警官が一般人をせき止めている地点にさしかかるとシンはさっと屈んで、傍らの車を盾
にひょこひょこと歩く。死角を移動する事により、警官はシンに気がつかなかった。


 探偵と少女が屈み歩きで通り抜けた車の一台。通常の町並みには若干不釣り合いな高級
車から女性が一人降り立った。今だ災害の状況を色濃く残すトンネルを見やりながら、赤
い髪をいじくりつつ。
「チッ」
 舌打ちを一つ。忌々しげに動かない車の列を睨みつけた。


 まんまとトンネル内へと侵入したシンはぐんぐん前へと進んでいく。入口付近で通行止
めされている事、トンネル内は未だ騒然としている事もあり、誰もシンの存在には気が付
かないようだ。
「……なんじゃあこりゃあ」
 魔理沙が眼前の光景を見て呆然とした声を上げる。”ビル”の一部がまるで沈み込むよ
うに落ち、その下にあったトンネルへと侵入を果たしている光景。
 事件現場を外――更に少し離れた地点から見れば、それこそ言葉通り”沈んで”傾いた
ビルの姿が確認できる。
「ウインドスケール。戸川の働いてた会社だ」
「へ?」
 そこで一人の刑事と思しき若い男性が怒号の様な声を上げた。明らかに一般人の癖に入
り込んでいるシンの存在に気が付いたらしい。
「ああぁ――! たんてええぇ!! お前まーた首突っ込みやがったなァ――!!!」
「よーうミハエル、ご苦労さん。でも悪いな、お前みたいな三下に用無いんだよ」
「ああァ!? んだとテメエ!! やんのかコラァ!!」
「ギャーギャーうるさいんだよ! デカの癖にチンピラみたいな口調しやがって!!」
「あァ!? サツなめんじゃねえぞコラぁ!!」
「んだぁ!?」
 互いの胸倉を掴み、唾を撒き散らしながら威勢のいい怒号をぶつけ合う探偵(シン)と
刑事(ミハエル)。このまま殴り合いに発展しかねない勢いの二人。それを横合いから割
って入った人間が力任せに引き剥がした。
「その辺りにせんか、二人とも」
 割って入ったのは一言で言い表すなら変態である。
 服装は普通のスーツ。この場にとどまる事を許されていることから警察関係である事も
想像に難くない。そしてミハエルを諌めた事からも、少なくともミハエルより上の地位に
居る事は明らかだろう。
 ただ、顔には仮面が付いていた。それも若干武士スタイルというか、鎧武者系統のデザ
イン入ってる感じの。
 スーツにそんなデザインの仮面。何処に出しても恥ずかしい変態であった。
「全くぎゃあぎゃあと元気のいい事だ。受けと攻めか君達は」
「………………」
「………………」
 言葉の内容を理解して、シンとミハエルが顔色を悪くして互いの襟首にかけていた手を
離した。後ろの魔理沙は言葉の意味が解らず、一人はてな顔である。
「シン・アスカ君、少しこちらに来たまえ」
 言われた通りホイホイつ付いて行くも、シンは仮面の男と一定の距離を保つ事と臨戦態
勢を継続する事は忘れない。
 辿り着いたのは災害の最前線。まるで溶けるように沈み落ちた建物の残骸がシンの眼前
で鎮座している。
「悪いな、グラハムさん」
「今の私は武士仮面だ。まあいい、見たまえ。あそこが四階だ。カタギリの話では下で土
台の鉄骨でも解けぬ限り、あの様にはならんそうだ」
「……ドーパントか、これは」
「どーぱんと?」
「その可能性が高い。先週からも似た事件がチラホラと。これで三軒目――最も此処まで
派手な物は初めてだがな」
 シンの何気ない呟きに、ちゃっかりまだ後ろにくっ付いて来ていた魔理沙が怪訝気に声
を上げた。けれどもシンもグラハム(仮面)もその問いに答えを返す事は無い。
「アスカ君。これを」
 グラハムが懐から取り出した封筒を受け取ると、シンはそれを手早く懐に仕舞う。
「何かあったら連絡したまえ。最も、何も無くても私は何時でもウェルカ」
「あ、俺忙しいんでこれで!!」
 身の危険を感じ取ったのか、シンは速攻で回れ右。全力でその場から駆け出した。完全
に必死な全力疾走であった。

 WWW

「ったく、人探しの筈がドーパントに突き当たったか、クソ」
「どーぱんと?」

 渡された封筒内に入っていた写真を眺めながら、シンは呟く。入っていたのはこれまで
の事件現場の写真である。どの現場も先程と同様にウインドスケールの支店――戸川ヨウ
スケの働いていた企業。
 ちなみにさほど時間はたっていないのに、既に事件現場からは数百メートル離れていた。
人間頑張れば結構やるのである。身の危険を感じた時とかは特に。
「また俺達の出番、か……」
 コンクリにもたれかかりながら、物憂げに呟くシン。

 スカ――ン

 えらい小気味いい音と共に、シンの頭にスイングされた八角形のリュックが激突した。
激痛にシンが呻く間も無し。上方から伸びてきた二本の腕ががっちりとシンの頭部をホー
ルド、人体としては明らかに駄目な方向への捻り破壊を開始する。
「あででででで!?」
「さっきから魔理沙さんを無視するとはいい度胸だぜ。さあサッサとその訳解らん無数の
ワードに付いて説明してもらおうか!」
「あででででっでで!! もげる! ちょ、おま、本当もげるううう!!!」

『お楽しみのとこ悪いんだけど、いいかしら』

「パチュリー!? お前コレの何処が楽しんでるように見えいでででで!!!」
「……ぱちゅりー?」
 首をいい感じに曲げられかかっている状態でシンがいきなり”誰かと会話し始めた”。
そんな現状に怪訝気に魔理沙は首を捻り、首をホールドしていた手が緩んだ。その隙にシ
ンは慌てて魔理沙の腕から脱出し、若干曲りかかった首をトントンやりつつコキコキ鳴ら
す。
「ってー……オイ、送った写真見たか?」
『ええ。なかなか興味深い属性現象だわむきゅむきゅするわ』
「……それどういう感情なんだ」
『説明してほしい?』
「今度でいい。それよりもガイアメモリの検索を頼む」
「おい探偵。さっきから一体誰と話してるんだ? ぱちゅりーって誰だよ、おーい!」
 何時の間にか上から降り、シンの横でぴょこぴょこ跳ねている魔理沙は完全無視。シン
はまるで電話中の様に誰かと話しているが、頭に軽く手を当てているだけで通信機器の類
を持っている様子は無い。
「あー……やっぱり、いい」
『どうして止めるの?』
「当人が、目の前に居るからだ」

 シンの目つきが鋭くなった。身体を僅かに落とし、何かに対する構えをとるかのように。
さりげなく右手を伸ばして魔理沙の身体の前へ。それから身体も魔理沙を庇うような位置
に静かに移動する。
 視線の先には暗闇がある。小さく短いトンネルだ。その中で何かが揺らいでいる。溢れ
んばかりの熱気によって。
「ガイアメモリの正体は――」

「『マグマ』」

 シンともう一人の声が一致して発声される。同時にトンネルの暗がりから巨大な火球が
迸った。地面を焦がしながら凄まじい速度で火球はシンと魔理沙目がけて飛来する。
「走れ!!」
「へ?」

 シンの叫び声から数瞬も無く、二人が居た位置を火球が通過する。火球を放ったモノは、
通り過ぎた後が融解した地面だけになった事を確認すると踵を返して暗闇の中へと消えて
いった。

「…………っぶねー」
 ギリギリギリ、とシンの右腕で音が鳴る。火球の回避方法は至ってシンプル。右腕に巻
かれた腕時計、それから伸びるワイヤーによって宙ぶらりんになっただけ。シンはそのま
まワイヤーをゆっくり伸ばしながら地面へ降りる。
 ちなみに魔理沙は左脇に抱えていた。
「おいおい……何なんだぜ、今のは。これは洒落になってないだろう」
 赤く融解し発熱する地面だった場所を見て、魔理沙が呆然とした様子で呟いた。シンは
その様子に小さく溜息を吐く。まあこれが正常な一般人の反応であろう。
「これで解っただろう。取り返し付かない事になる前にさっさと故郷に帰」
「面白くなってきたぜ!!」
「あ、ちょ!?」
 叫び。シンの腕を無理やりに振りほどいた魔理沙が地面に降り立った。焼け溶けた地面
の手前に危なげな様子で着地すると、そのまま一目散に走り出した。
 慌てたのはシンである。とにかく地面に降りようと、ワイヤーを伸ばしている腕時計に
手を伸ばす……何故か逆に、シンの身体が高く吊り上がる。
「アルェ!?」
 素っ頓狂な叫びと共にもう一度。今度は降り――たかと思ったらまた上がった。そんな
事を続けている内に魔理沙の姿は何時の間にかシンの視界から消えた。
 それから数分たってようやく地面へと復帰したシンはバツが悪そうに周囲を見回して、
また溜息を吐いた。
「ったく、何処行ったんだか……」

 WWW

 広大な土地、その中央に建つ豪奢な建築物。家というよりも屋敷と呼ぶに相応しい洋装
の建築物である。表札には『Corner』のアルファベット。ちなみにプレートは金色だった。
 その中にて、ドレスの類を身に纏った赤髪の女性は小走り寸前で歩を進めていた。それ
は格好と容姿にそぐわぬ行為だが、気にする余裕が無いほど女性が急いでいると窺える。
 やがて一つのドアの前へと到達した。中からは男性と女性の談笑する声が聞こえてくる。
女性は躊躇なくドアを開け放った。

「ネーナ。遅刻者はクビよ、私の企業ではね」

 赤髪の女性が――ネーナがホールの様な食堂に入るなり、静かな威圧を織り交ぜた口調
で先にテーブルに付いていた女性が言葉を発する。
 こちらの女性は黒い髪に、いわゆるチャイナドレス風味の出で立ちである。
「……チッ」
 こんの似非チャイナ風情が。とは思いつつもネーナは一瞬の小さな舌打ちのみで感情を
整理し、不機嫌に歪んだ顔を立て直した。
「しょうがないじゃない。渋滞だったんだもの……折角の晩餐会の日だったのに。ネーナ
いやんなっちゃう」
「ビルが溶け、人が死ぬ。何、この街ではよくある事さ……最も、私達の仕事の所為だが
ね……」
 ヒリングのぼやきに返答したのは上座に座する一人の男性である。中年手前と思しき赤
茶色の髪の男性はそんな風に皮肉めいた言葉を漏らし、膝の上でくつろぐ猫へと手を伸ば
す。思いっきり噛みつかれているのだが、誰からも見えない位置に居るので問題は無い。
「あれってマグマのメモリよね。誰が売ったのかしら」
「ふむ……最近、とても販売業績のいい若手が居るらしいじゃないか?」
 ヒリングの呟きでそれを思い出したのか、男性が誰に言うでもなく言葉を漏らす。ただ
それを聞いた黒髪の女性は微かにほほ笑みながら己の父親へと向き直る。
「ねえアレハンドロお父様」
「何だい留美」
「実は私」

【TABOO】

「結婚したい人が見つかりましたの」
 室内に響き渡る囁きの声とともに、黒髪の女性の姿が異形のそれに変質する。次いで放
たれた言葉に対し、アレハンドロ・コーナーは心底愉快気に笑っていた。

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「ヒャッハー! 疑惑は家探しだー!!」

 そこら中の荷物をひっくり返しながらシャウトする魔理沙。別に気が触れた訳では無い。
ただテンションが上がりすぎてちょっとアレな事になっているだけである。
「ったく、あんな面白そうな事に首を突っ込まない手は無いぜ! 家を飛び出して来た階
があったってもんだ……!」
 近くのものから遠くのものまで無差別に、まるで跳ね回る様に室内を蹂躙する魔理沙。
しばらくそれを続けていたがやがてふうと一息つく。目ぼしい物が無かったのである。
「……ん?」
 ふと気が付く。魔理沙の視線の先には一つのドア。家探しに夢中になっていたせいで意
識から外れていたらしきその扉に恐る恐る近付く。それからそーっとそのドアを開いた。

 ――本。本、更に本。そしてまた本。

 扉を開けたら別世界。此処は何処の図書館だと言いたくなる光景が魔理沙の前に広がっ
ている。本の海の様なその光景の中央付近に少女が一人。うず高く積まれた本にもたれか
かり、紫色の瞳を本の開かれたページへと注いでいる。紫色の長い髪は地面で無造作に拡
がっていた。
「おーい、誰だお前」
「入って来るのはいいけども私の邪魔はしないで。今忙しいの」
 ただ本を読んでいる風にしか見えない少女は、魔理沙に視線を向ける事も無くバッサリ
言い捨てる。
「……もしかしてお前が例の『ぱちゅりー』とかいうやつか?」
「霧雨魔理沙。私の探索に貴女は役に立ちそうにないもの。さっさと生まれ故郷に帰った
ら? 確かオオサカとかいう街だったかしら」
「オオサカて、何だその変なイントネーション。もしかして知らないのか? 大阪。割と
有名な地名だと思ったんだがなー」
「貴女の常識を私に当て嵌めないで」
 無愛想。無機質な声でそう言い放つは本の海にたゆたう魔女。結局今まで一度も魔理沙
に視線を向けていない。
「変な奴だなあ……じゃあもしかしてたこ焼きとかも知らないってのか? それは人生損
してるぜ?」
 そこで初めてパチュリーの紫色の瞳が魔理沙へと向いた。手にしていた本をパタンと閉
じて、それまでじとっとした半眼だった目をゆっくりと見開く。

「たこ焼き…………?」

 WWW

 この室内はいわば図書館――そう呼べるほど本が詰め込まれた空間である。その中にて
シンは立ち尽くして絶句していた。

「…………………………焼いてやがる」

 相方の図書館探索能力を頼りに、本の海へと足を踏み入れたシンが見たものは。いい感
じに熱された鉄板に向かう魔女の姿であった。
「たこ焼きは…………深いわね…………!」
「どうしてこうなったあああァァッ!?」
 汗を袖で拭いつつ、グッと拳を握りしめる魔女の姿を見て、シンは思いっきり間抜けな
声で絶叫していた。というか本にソースの匂い付くぞ。それでいいのか本の魔女。
「……おい、あいつは何なんだ?」
「っげ、白黒女。お前なんで此処に居るんだよ……っていうかお前の仕業かこれは!? 
パチュリーの好奇心を刺激者しやがったのはアンタだな!? 何てことしてくれるんだ
よ! ああなったらしばらく帰ってこないんだぞ!?」
「そんな事言われても知るか!! なら注意書きでもはっつけとけよ!!」
「あっそれいいかもしれない! 次からやろう!!」
「マジで!?」
「とにかくどうしてくれんだこれ! アイツに図書館動かしてもらわないとドーパントの
事件が追えないんだぞ!!」
「それだッ!!」
「はあ!?」

 WWW

「今この街にこんなのをバラ撒いてるやつがいる。ガイアメモリってものだ」
 ソースのいい匂いで充満した本の海の脇、少し開いたスペースでちょこんと座るシンと
魔理沙。シンはノートPCに表示された画像を指差してそう告げる。写真に映っているの
は小さなサイズの機械部品の様なもの。USBメモリを少し大きくしたような形である。
 さりげなく二人の傍らにはつまみとして、現在魔女が大量生産中のたこ焼きが山積まれ
ていたりした。
「コイツが人間をバケモノみたいな超人に変える。それが、ドーパントだ」
「ふうん。じゃあさっきのがそれか」
「…………お前信じるのか、こんな話」
「実際に見てるからな」
「変わってるな、お前…………それにしてもどうするかなー」
 興味深々といった様子でPCの画像に見入る魔理沙の様子に呆れつつ、シンは視線を未
だ鉄板の前で仁王立ちする魔女へと向ける。
「アイツああなるとこっちの言う事聞かないんだよ……」
「じゃあどうするんだ?」

「………………待つしか、ない」
「マジかよ……」

 WWW


 一晩経ちました。


「――――極めたわ!!」
 カッ! と後光の射しそうな様子で焼きたてのたこ焼きを天ににかざし、パチュリーが
高らかに宣言した。その声に反応して傍の本を枕代わりにしていたシンが欠伸混じりに立
ち上が――ろうとして、落ちてきた寝袋に潰されて潰れた蛙の様な悲鳴を上げた。
 一個しかない寝袋を大家権限でシンんから強奪した魔理沙は寝袋からもぞもぞと這い出
て、欠伸をして、目をこすり、大きく伸びをして、そこれからようやくシンの上から身体
を退けた。
「お、覚えてろよこのヤロ…………ってて、もう何でもいいよ……おーいパチュリー、さ
っさとヴワル魔法図書館動かしてくれ」
「ん」
 パチュリーが短く頷くと、大幅にスペースを占有していた鉄板はじめその他諸々が不意
に消失した。横の魔理沙がおおと感心したような声を上げる。
 次にパチュリーの身体がふわりと浮き――それに追従するように無数の本が舞った。
「うおおおおー!?」
 驚きの声は魔理沙のものである。本の海が爆発するように拡散する。積まれていたり投
げ出されていたりした無数の本達が物凄い勢いで宙へと舞い上がり、好き勝手に浮遊する。

『探索を始めるわ』

 その拡散が収まると、周囲は本の海から本の世界へと変貌していた。本が広がっている
面積も、そして浮遊している本も明らかに元の部屋の広さと量を超えている。

『対象のメモリは――マグマ』

「な、何だこれ……すごいな……」
「次の襲撃場所が知りたい」
 周囲を見回す魔理沙と違い、シンはその図書館の中央で浮遊するパチュリーに向かって
声をかける。

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