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「やぁ、シン。元気にしてるかい?」
その声に、シンは夜風に当たっていた体を起こした。
見慣れた姿に胸をなでおろす。
「クロノ提督、どうしたんですか?こんな夜中に」
「なに、こんな場所の食事にも飽きてきただろう?だからまぁ、ちょっとおすそ分けにね。おっと、この事は内緒だぞ?」
シンの疑問に、クロノはどこかいたずらをする少年のような笑みを浮かべてから包みを取り出した。
甘いような、それで居て香ばしいそのにおいに、ここ最近病院食ばかりだったシンのお腹が音を立てる。
シンはどこか罰が悪そうにテレながら笑みを浮かべてその包みを受け取る。
「ありがとうございます。にしてもすいません。なんだかいろいろと気を使っていただいて・・・」
気まずそうに言うシンにクロノこそ気まずげに眉をしかめる。
「・・・いや、それはこちらの台詞だよ。元はといえば俺達がフェイトにあんなことを言ったせいでもあるしね・・・」
「そんな、気にしないでくださいよ。それに、そういうのは兄としてもやっぱり気になりますし。仕方が無いですって」
同じように、妹をもっていた身としては彼と同じ想いだと告げてから、生きていた頃の妹のことを思い出す。
いつも一緒に居た妹。
遊びに行くときも、勉強するときも、寝るときも。
さすがにお風呂は勘弁してほしかったので母に頼んで説き伏せてもらったが、あの時の妹が母を見る瞳は精神衛生上あまり思い出したくは無い。
ともかく、そういう風に少々依存しているような妹だったからこそ、将来どうなるのかは不安だった。
同時に自分の妹が見繕ってくる男が変な男かどうかを見極めるつもりでもあったのだから、かつての自分と同じように肉親が思うのは無理からぬことだ。
しかし、それでもクロノは負い目を持っている。
彼はゆっくりとコンクリートがむき出しの廃墟のような壁を見回して。
「しかし、こんなところに押し込めるようにしてしまって・・・すまない」
そう、シンが今からだを休めているのは病院ではない。
ここはミッドチルダにある再開発地区の一つ。
その中にある比較的きれいな廃墟の一室を少しばかり改善して設備を整えた程度に過ぎないのだから。
きれいと言っても、相対的に見た場合のもので、壁はコンクリートがむき出しになっており、窓は割れていたものを無理やり改修し、
汚れた内装を撤去してベットを入れたは良いものの、逆にそれがアンバランスに写って逆に落ち着かない。
おまけに隠匿性の重視という名目で光源を必要最低限として電球すらもつかず、昼は太陽の、夜は月と星の明かりだけが頼りと言うほどだ。
しかもそれらの作業は全て少人数の突貫工事で行われているために、どこと無く素人臭くムラが在る。
本来ならば、シンも入院が必要であるというわけではない。
しかし、度重なる怪我と神経性の疲労。
そして女性陣の横暴ゆえに緊急措置として上層部はシンの機動六課からの一時避難を可決した。
ところが、彼を狙う女性達は皆が皆常識をはるかに超えた能力を持ち合わせるエースとエースの卵たち。
さらには異世界、異次元からの干渉もあるために、彼が休んでいるところをかぎつけかねない。
そうなっては元の木阿弥と上層部が苦肉の策で発案した灯台下暗しのようなものが今の実状だった。
幾重にも行う偽装工作に情報隠蔽。
さらには移動する際には転移魔術を何層にも介した魔術隠蔽とかく乱によって情報の漏洩を防ぎ、なおかつそれらは時間を指定しなければならないというとんでもないものだった。
ただ一人の少年を女性達から守るために行うようなことではないが、この計画に携わるものたちの瞳には本気の色しかなかった。
それが功をなしたのか、今のところ1週間たっても彼の所在を知りうるものは出てきていない。
無論、嗅ぎつけようとする者はいるが、それももうしばらくは持たせることが出来るというのがこの計画の立案者にして監督官であるクロノの出した結論であった。
シンはそのことを承知の上で、クロノにこそ責務を負わせていることを気にしているのだが、それは彼の性分ゆえである。
「いえ、だから気にしないでくださいよ・・・それにしても、これってなんなんですか?」
硬い上司の気を紛らわせるためと、己の食欲を満たすために、シンが渡された包みを目線でさす。
「あ、あぁ、すまない。それはね、最近俺が行きつけの屋台のおでんなんだ。いやぁ、味はいいんだけどそこの店主が無愛想でね。いつもしかめっ面でおでんを盛ってたり、串を焼いてたりするか新聞を読んでるだけなんだ。あの人なら、きっとフェイト達が目の前でやりあっても変わらないんだろうね」
クロノはそう言って、しばらく前に行った屋台の店主。その以外な一面を思い出した。
がっしりとした体をちぢ込ませるようにしておでんや串を作っているかつての政敵との会話を。
「なんですか?そのスーパーマンは」
お互いに笑いあう。
シンは、そんな人がいるのかという冗談めかした笑みを。
クロノは店主の考えを聞いたが故の笑みを。
この後、二人はおでんに舌鼓を打ち合いながらしばし談笑に華を咲かせた。
話すことは取り止めが無く、どのおでんが美味しかったかや、今六課はどうなっているのか?
他にはクロノの家族のことなど、本当に些細なことばかり。
「ところで、シン」
「なんですか?」
なにやら自分だけアルコール飲料を片手に少しだけ気分のよくなったクロノがシンに疑念を口にした。
「お前、どんな子が好みなんだ?」
「うぇ!?」
「だってなぁ・・・なのはなんて言う管理局の看板娘に迫られてるし、可愛い癖してばりばりのキャリアウーマンのはやてだろ?フェイトなんざ言わずもがなの聖女様にまで言い寄られてる。しかも、それ以外にもいろいろと・・・」
「ク、クロノ提督!?酔ってるんですか!?」
さらに世界に喧嘩を売りかねないその言葉をシンが止める。
しかし、その言葉に照れと焦りが見えたのをクロノは見過ごさなかった。
彼は缶を手で玩びながら言葉を続ける。
「いいや、大事な話さ」
そこにある響きはとぼけるようではなく、瞳はシンをまっすぐ向いている。
その瞳に押されるようにシンは言葉をすぼめていった。
「お前さんが誰かに決めれば他の連中もおとなしく・・・ならないかもしれないが・・・まぁ、今よりかはましに成る、だろう?・・・なるのか?・・・なら無い気もするが・・・まぁ、とにかく。お前さんにその気はないのか?なんだったら俺が後見人になってやっても」
「クロノ提督」
クロノの言葉を切ってシンが話す。
シンはまっすぐにクロノの瞳を見ながら、普段の彼とは違った、静かなその言葉で。
「俺は、誰かを好きになっちゃいけないんですよ」
「おいおい、そんなに気取るなよ。男は一人だと寂しいぞ?」
「そんなんじゃないですよ」
あまりにも澄んだルビーを思わせるような瞳。
自嘲を浮かべた笑みに、流れる黒髪はまるでぬれた烏のようなつややかや黒色、そしてそれらとはまるで正反対な、窓から差し込む月明かりに照らされた病院着から見える肌の白さ。
シンは気にしているが、その線の細くどこか中性的な容姿とあいまってそれらが怪しく混ざり合う。
それらの怪しく重なり合った全てに、クロノは同性であることも忘れて見入ってしまう。
「俺は、家族が好きでした。自分のいる国が好きでした」
家族は戦争によって死んだ。
国はその理念とやらを守るために民を殺した。
「俺は親友が好きでした。守れた人が好きでした」
親友は病んでおり、願いを託されたが守れなかった。彼女は冒され、守れたと思っていたが、結局は幻想に過ぎなかった。
「今まで、本当に欲しかったものが手に入ったことが無い、好きな人を守れなかった俺に、人を殺し続けた俺に、誰かを好きになる権利なんて無いんですよ」
本心からの言葉。
気取っているわけでも、自嘲さえも含まない心から確信しているという言葉。
そう分かるがゆえに、クロノは飲みかけの缶を握りつぶした。
まだ幼い少年が突きつけられた現実という名の刃。
そしてそれを突きつけられた少年の決意と信念。
クロノの幼少期も、決して幸福なものではなかった。
しかし、それでも彼には周りに人が居た。
どんなになっていても彼は一人ではなかった。
だが、シンは一人だった。
誰も居ない中で一人で強くならねばならず。
現実は、少年を守ってくれるほどに強くも優しくも無かった。
それは理解できる。
だが
「だけどな、シン」
ここで、曲げるわけにはいかない。
屋台の店長から言われた「彼を正しく導いてやってくれ」という言葉。
そして、あまりにもまっすぐに、それでいて歪み続けた螺旋のような少年を見捨てることなど
「いつか、今すぐでなんてある必要は無いから。お前がおまえ自身を許してやれ」
彼、クロノ・ハラオウンには出来るはずもないし、する気も無かった。
「じゃないと、お前さんを守ってくれたやつらが可哀想だろう?」
「かわいそう、ですか?」
こちらを見る瞳には険が宿っている。
無理も無い。
自分の考えを真っ向から否定する意見を言われておきながら、穏やかにすむほどに、彼はまだ大人ではないし、そういう性格だ。
しかし、それでも行かねばならない。
「あぁ、お前を今まで生かしてくれたんだよ。その人たちがな」
「それは、詭弁ですよ・・・」
「詭弁でもなんでもいい。確かに人は現実を見なければ生きていけないし、そうやって生きていかないといけない。けどな、現実だけでも駄目なんだよ」
「別に、俺は現実だけを見ているわけじゃありませんし、それに夢くらい・・・」
「あぁ、確かにそうだな。けどな、お前は現実が強すぎるんだ。まぁ、何も強要するわけじゃない。けどな。いつまでも現実に負けてばっかりはいやだろう?たまには現実を負かしてやらないと、な?」
「現実を・・・負かす・・・ですか?」
驚いたような瞳、シンはしばし考え込むようにうつむいた。
しばしの沈黙が流れ
「は、ははは」
シンは突然噴出したように笑った。
その突然の行動に、クロノは逆にいぶかしむように眉を顰め、シンの言葉を待った。
「あ、はははは・・・確かに、いつまでも現実に負けたままで居るのは、癪ですよね・・・そうか、現実を負かす、か・・・」
シンは呟き、月を見上げる。
この世界にはかつての世界のように一つではなく、二つの月がある。
この世界ではなくもといた世界でのあの場所には、お世辞にも、あまりいい思い出が在るとは言えないが、それは幻想的な美しさを宿していた。
幻想は美しいだけの幻を見せ、理念は国を腐らせる原因となる。
だから、シンはその言葉が嫌いだった。
現実を見ず、己の思うことばかりをやる享楽主義者。
だが、もしかしたら彼らにも
「クロノ提督」
「なんだ?」
シンは、呼びかけたはいいがその決意を口に出せずにいた。
出してしまうと今までの決意が解けてしまうような、そんな気持ちがして。
クロノはそんなシンの言葉をゆっくりと待っている。
やがて、シンは意を決したように瞳を一瞬だけ伏せてクロノへと視線を向ける。
「俺も・・・誰かを好きになってもいいんでしょうか・・・?」
不安げに、口に出す。
一番に感じたのは恐怖だった、そして
「おう、当たり前だろ。誰にだって幸福になれる権利があるし、義務がある。それはどんなやつであろうと変わりは無い。あ、ちなみに俺のお勧めはフェイトだ。あいつは旦那を立ててくれるタイプだからな。正直他の面子よりもお勧めだぞ?」
満面の笑みを浮かべて家族自慢をする彼にシンは穏やかに笑みを浮かべた。
戦争に負け、全てを失い死んだと思って目覚めた世界。
いろいろと厄介ごとはあるけれども、穏やかで優しい世界。
かつて人殺しとののしられていた自分が、今では逆に懐かしいとさえ感じてしまうほどに。
「がんばって、みます。誰かを好きになれるように・・・俺が誰かのそばに居てもいいと思えるように」
「そうか」
クロノは、微笑を浮かべて、新しいアルコールのプルタブを開けた。
それを見て、シンが苦笑する。
「いいんですか?もう三本目ですよ?」
「大人の特権だ。大人ってのは飲んで弱さを押し込めるんだよ」
「そんなもんですかねぇ」
シンも、プラントでは成人であり、飲酒が認められていた。
しかし、もともとコーディネーターである上に、最新鋭機のパイロットとして戦場の激戦地に絶えず身をおいていたこともあり、そういう機会はあってもあまり酒を飲むことも無く、おいしいとも感じることは無かった。
そういう自分はまだまだ子供なのだろうかとも思うが、今はそれが気にならなかった。
「なぁ、シン。今度その屋台に連れて行ってやるよ」
「いいんですか?俺、結構食いますよ?」
「あぁ、割り勘なんてせこい真似はしないさ。こう見えても高給取りを舐めるなよ?」
その店主に会って、少年の心が少しでも癒されることを願いながら、彼はアルコールを喉に流し込む。
見れば、シンもつられるように窓の外に広がる夜空を見上げていた。
あぁ、本当に今夜は月が綺麗―――――
「せやから!!いい加減にシンはわたしの旦那さんや言うことをみとめんかい!!」
「それはこっちの台詞なの!!いい加減にわたし達夫婦の間に首を突っ込むのやめてくれないかな!!」
「だから二人とも、シンはわたしの旦那様なんだよ!?そんな妄言はやめてくれないと困るんだよ!!!」
最初に目に入ったのは月夜を切り裂く三色の閃光。
カーブを描く桃色と、超高速でジグザグの光跡を描く金色と、そして一直線に描かれる銀色。
続くようにしてソニックウェーブと聞きなれた三人の声。
そして、響き渡る爆音が五連。
クロノは呑んでいたアルコールを噴出し、シンは茫然自失している。
建物が揺れるが、シンとクロノはお互いにどこか冷めた目で窓の外を見やっていた。
「・・・今、声が聞こえませんでしたか?」
「・・・一応、俺には聞こえたが・・・」
出来れば夢であってくれと願うような呟き、しかし現実はそれをたやすく押しつぶす。
「でぇい!こうなれば最大出力や!!」
「ちょ!?はやてちゃんそれは卑怯だよ!?」
「かまへんかまへん。二人とも一緒にいなくなりーーー!!」
「な!まさか!?」
「こうなったら・・・、逆にそれをぶち抜いてやるの!!」
「ほう・・・なのはちゃんにフェイトちゃん、ええ度胸やね」
「エース・オブ・エースの称号、甘く見てもらっちゃ困るの!!」
そしてしばらくしてからもはや建物だけでなく地面を揺るがすような地響きが鳴る。
次いで空を割る三色の閃光を見て、クロノはシンと顔をあわせた
「・・・集団幻覚っていうものがありますよね?」
「あれだな?その時その場所にいた人が幻を見るというやつだな?」
願うようにお互いに乾いた笑みを浮かべて、クロノはそのとき携帯が鳴っているのに気がついた。
着信元は己の部下。
この計画に携わる者の一人であり、付近一帯の監視をその任としているものだ。
このタイミングで監視任務からの電話など、嫌な予感しかしないが、ここで部下からの提言を捨てるのは上司としての尊厳に関わるとして彼は恐る恐る通話ボタンを押した。
『あ!クロノ提督!!』
「どうした?」
『はい!!先ほど例の場所の付近に向かって巨大な魔力保有者の移動を確認しました!それで、その反応なのですが・・・』
言い辛そうに口が止まる部下に、クロノはそこまで判っているならば、電話をしてくれるなと心の中だけで呟いた。
しかし、それでもクロノ・ハラオウンはよき上司であり優れた軍人だった。
「どうした。速やかに報告しろ」
『あ、はい。その、検査をしましたところ、機動六課の隊長三名であると・・・』
「うそやろ!?あれを耐え切るとか冗談きついで!?」
「こ、これが・・・エース・オブ・エースの・・・実力・・・なの!!」
「さぁ、次ははやてだね・・・」
「って、なのはちゃんでさえ息切らしてるのになんでフェイトちゃんだけ平気なん!?」
「さっき高速で回避してたから」
「ちょ!汚っ!!フェイトちゃん汚いで!!」
「はやてにいわれたくないし・・・それに二人が弱ったところを一網打尽にやれば問題無いでしょ?」
「それが管理局の雷神の言い草なの!?」
「ハラオウン家の家訓でね、最後に立っている人が勝者なんだ。そしてその結果に至るまでいかなるものでも許容するのが、ね。今回に限っては便乗も慈悲も無いよ、押し切らせてもらうから」
そんな家訓家にはない、と内心で呟きながらクロノは妹のとんでも発言にちょっとだけ涙を流したくなったが、そこはぐっと我慢した。
これ以上己の醜態をさらすのだけは勘弁したい。
彼は残った気力を振り絞って部下に連絡をする。
「・・・現況は理解している。何とか脱出を試みてみよう。すまないが誘導を頼む」
『はい、了解しました。少しばかりお待ちくださ』
直後、シンとクロノの部屋の屋根が吹き飛ばされる。
電波障害によって通信が途絶え、二人が顔を守るように腕を掲げる。
出来れば自分達も通信装置と同じように意識を失いたいと思ったのは二人が個人だけで持つ共通した秘密だった。
そして、悲劇と喜劇の女神に愛され続けている少年の下に、それらは舞い降りる。
「あーーーーーー!!!シン!なんでこんな所におるん!?」
最初に声をかけてきたのはやはりというかいつもどおりというべきか八神はやてだった。
彼女はとりあえず近寄ってからシンがベットに横になっていることに気がつき、そのままダイブしようとして
「はやて、それは少しつつしみにかけるよ?それに、そういうことをやっていいのは妻であるわたしなんだよ?」
いつの間にやら婚約者から妻にランクアップしたフェイトが、双剣形態になったバルデッシュの柄の部分ではやてを突き倒す。
そんな妹の凶行をみてクロノは兄として少しだけ目から悲しい液体が流れてきたような気がしたが、それは気のせいだと信じたかった。
そして、そのままシンの元に行こうとしたフェイトを、さらに桃色の砲撃が無数に降り注ぎ、シンから遠ざける。
シンのベットの上、彼にしな垂れるように舞い降りた彼女をシンはよく知っていた。
つい先日の六課の屋上。
茶色の髪に潤んだ瞳、そしてつややかな唇。
熱を帯びたと息に鼻腔をくすぐる彼女のにおい。
その全てに覚えがあり
「おまたせ、シン。待ちくたびれてない?」
「あ、いえ、その・・・」
「大丈夫。これからはわたしがいるからね・・・ぷわ!?」
シンの唇へ己のそれを突き出すように近づけていたなのはが、突如叫びと共にシンの目の前からいなくなり、目の前に金色が見えた。
少し離れたところに居たクロノには、自らの妹がその親友を蹴り飛ばしたかのように見えていたが、それはまた別の話にしておきたかった。
響く轟音はまるで鉄球がコンクリートを砕く様を思い起こさせた。
先ほどまでなのはの瞳があった場所に赤い瞳が写った。
金糸の髪が触れるほどの近く。
なのはと同じ位置にいながら、すでにシンの胸元には柔らかな双丘の感触がある。
そして、自分とはどこか違った同色の赤い瞳。
「まったく、いらない人が多いね、シン」
幼子が遊びを誘うよう笑みでくつりと笑う。
しかしその笑みに宿るのは艶然とした女のそれ。
なのはとも、はやてとも違うその笑みにシンは背筋からなにかが来るのを感じた。
「ねぇ、シン」
「ちょ、ふぇ、フェイト隊長!近い!近いですって!!」
「フェイト」
「ふぇ?」
「名前、フェイトって呼び捨てにして」
有無を言わさぬその言葉に、シンは頷くしかなく
「ふぇ、フェイト・・・」
「うん、よく出来ました」
よし良しと言う様にシンの頭をなでてくる彼女に、シンは少しだけ照れてしまう。
シンはそこで察するべきだった。
つい先日、己が犯した過ちで起こった惨劇を。
その原因を。
「ねぇ、シン」
「な、なんですか?」
なでられていた感触がとまる。
それに少しばかりの未練を残しつつ、フェイトに答える。
彼女はその艶然とした笑みをそのままに
「わたしを犯したいと思ったことはある?」
ストレート。直球。ど真ん中。
そんな単語を連想させるような爆弾発言を投下した彼女にシンはおろか、クロノの脳内までもが停止する。
叫び声をあげる暇すらも無い。
シンはつい先日なのはに言われたことのフラッシュバックと、その彼女とはまったく違う魅力と肢体を持つ彼女の無垢さとのギャップにオーバーヒートを、
クロノは自分の義理の妹がいきなり突然何を言い出すのかを理解することができなくて。
両者共に脳内が瞬間的にメルトダウンを引き起こし、現実からの逃避を選択することを急務としていた。
しかし、相手はそんなことを気にすることは無く言葉を続ける。
「どうしたい?前から?後ろから?それに前と後ろのどっちがいい?わたし初めてだからよく分からないし、慣れてもないけど・・・がんばるから、ね?あぁ、心配しなくてもシンのはきちんと飲んであげるし。それに」
フェイトは自分の胸を強調するように押し付ける。
あまりにも柔らかなそれが形を変えていくのが毒のように感じられた。
「シンのも、はさんであげられるからね。いろいろと」
そこでフェイトはゆっくりとシンに近づいていき・・・
「なにをさらしとるんやこんの似非ピュア系がーーーー!!!」
突如遠くからのけりに吹き飛ばされた。
二転三転する状況と先ほどの爆弾発言にまだ回復していないシンの前に、はやてが現れた。
彼女はくるりと器用にベットの上で一回転して蹴りのベクトルを完全に殺してシンの上に座り込む。
シンの太ももにはやてのやわらかい体の感触があてがわれてシンのメルトダウンはすでに避難勧告が間に合わない領域に達していた。
「ダーリン!大丈夫やったか?ひどいことされてないか?わたしがおらんで寂しかったやろうに・・・」
さめざめと泣きながらシンの頭をかき抱く。
優しくも、しっかりと抱き寄せるその心地よさに、シンの頭のフリーズが少しだけ緩和した。
柔らかな感触も、暖かさも、どこか懐かしいような、そんなおぼろげな記憶。
はやてはシンから少しだけ身を放し、その紅い瞳を覗きこみながら
「もう大丈夫や。他の女からはわたしが守ったる。なぁに、安心して・・・なぁ!?」
突如シンの目の前を桃色の閃光が染め上げた。
桃色の光は、はやてを貫こうとしたが、瞬時に彼女は飛行魔法を展開し一瞬でシンから飛びのく。
とはいえ突然の砲撃に無傷というわけではなく、服はところどころ破け、翼の何枚かが持っていかれてしまっている
そのまま中空で待機して先ほどなのはが突き飛ばされた方向、すなわち砲撃魔法を放たれた方向へ視線を向ける。
やはり、そこにはなのはがいた。
はやては少し欠けた羽を再生させながら
「・・・不意打ちとはなぁ・・・管理局のエース・オブ・エースも、えげつないことやってくれるわぁ」
対するなのははその言葉に応えるかのようにレイジングハートからカートリッジを一つ吐き出し、そのまま魔力霧を振り払うように相棒をふるい、一歩前に出る。
それだけで、ずしんと、なのはの外見からは想像も出来ないような音が響く。
「いい度胸だよね、フェイトちゃん、はやてちゃん・・・人様の男を掻っ攫おうだなんて・・・そんな泥棒猫にはお仕置きが必要だよね」
響くその声は地獄の底から。
まさにそれは冥王の名にふさわしい強さを誇っていた。
あまたの戦場を駆け抜けたシンやクロノでさえも、その声を聞いて気絶できない己を呪うほど。
しかし、彼女が相対している相手はやはり只者ではなかった。
「それはこっちの台詞だよ、なのは。いい加減、自分が一番だなんて思わないでよね」
瓦礫を押しのけながらフェイトは口を開いた。
双剣を一振りの剣として、肩に担ぎ上げる。
それは剣と呼ぶにはあまりにも大きく、大雑把で、見るだけで威力の猛威を感じてしまうほどの威容を誇っていた。
それをたやすく片手で支える彼女の美貌とあいまって、それはある種の恐怖を思い起こさせる。
「せやなぁ・・・わたしとダーリンの逢瀬の時間を邪魔したんや。その罪は重いでぇ。万死に値するっちゅうやつやな」
三人の中でも最大の魔力量を誇る彼女から、もはや視覚化できるほどの魔力があふれ出す。
その濃度は光さえも捻じ曲げるようにゆらりと星の輝きを歪ませる。
目の前に広がる一瞬即発の地獄絵図。
「は、ははははは」
突如響くその笑い声に、三人の動きが止まった。
充満していた殺気が霧散し、逆に疑問がわきあがる。
その笑い声の発生源。
彼女達が三角形をなすその中心に居る人物、シンへと皆が視線を向ける。
「そっか・・・俺、もうとっくの昔に一人じゃなくなってたのか・・・」
気がつけばそれは本当に些細なこと。
彼の周りには皆が居てくれて、ちょっとばかり騒がしいがそれでも彼は一人ではなかった。
そんなことに気がつくのに
「時間、かけすぎだろ、俺」
馬鹿めと己を揶揄する。
それはかつてのように乾いた笑みでもなく、狂気をはらんだ瞳でもなく。
いつしか、彼が忘れ去っていた自然な、柔らかな笑み。
その年相応の笑顔に、隊長たちの険がそがれていく。
「いっよっしゃーーーー!!シンのレア笑顔ゲットーーー!!これはもう脳内に完全保存するしかないで!!(どないしたんやシン。なんかあったん?)」
「はやてちゃん。多分本心と逆になってるよ」
「シン、どうかしたの?」
気遣ってくれる声。
優しく、心配してくれる姉のような母のようなその声にシンは思わず泣きたくなった。
こんなに優しくしてもらっておきながら、こんなに気遣ってもらいながら、こんなに思ってもらいながら、自分は何を黄昏ていたのだろうかと。
自分は相手の優しさに何も返さずただ享受していただけ。
そんな、子供のような駄々をこねて、なにがZAFTのエースか。
こんなことだから自分は未熟なのだと。
そして
「なのはさん」
「え?なに?」
突如駆けられた声に、なのはが驚く。
シンの瞳は穏やかで、まるで波紋一つ無い湖面を思い浮かばせながら、そこに宿る光になのはの中の何かがぞくりとあわ立った。
他の二人もなのはに呼応するように動きを止める。
「この前の返事なんですが」
直後、なのはの体が硬直する。
緊張で、恐怖で、不安で、逃げ出したい衝動に駆られるというのに、その場所に貼り付けられているかのように、体はまるで言うことを聞いてくれない。
シンが口を開くまでの瞬間を、永遠のようにも感じるが、それはなのはの錯覚だということを理解していた。
「ごめんなさい」
その言葉に奈落に突き落とされる。
目の前が暗くなる。
足から、否、全身から力が抜けて心にぽっかりと穴が開く。
損失は涙となって、零れ落ちようとするところで
「まだ、俺はなのはさんにふさわしくありません」
シンの言葉が続けられる。
その言葉の意味を理解するのに数瞬を必要とした。
もっとも、言葉を脳が理解し、それが示す意味が分からないという理解だが。
「ふさわしくない・・・へ?どういうこと?」
疑問が、自然と口から湧き出る。
シンは頬を赤らめながら照れるように
「あの、えーっと・・・ですから、その・・・なのはさんの思いに応えられるような人間になれてから・・・その・・・」
己の中でも葛藤があるのか、シンは言葉を選ぼうとしてうなり続ける。
しかし、結局はそれを言葉に纏め上げることができそうもなく。
「ですから!その、もうしばらく、待ってくれると・・・あの、うれしいです・・・って意味で・・・」
思いは叫びとなるが、やはり恥ずかしさが勝るのか顔を真っ赤にさせて語尾が小さくなってしまう。
しかし、なのはの心中はもはや形容しがたいものになっていた。
心臓の鼓動はもはや早鐘を通り越して一つの音になっている。
意識が歓喜で遠ざかり、喜怒哀楽の全ての感情が暴走して逆に湖面のようになってしまっているが、
その内側は激しく台風や嵐、竜巻を思わせるほどの荒波がうなりを上げていた。
シンが真剣に考えてくれたのがうれしかった。
なぜもっと早くその答えを聞かせてくれないのかという怒りがあった。
シンが待ってほしいなどというのが悲しかった。
そして、彼が己の想いに応えてくれたのが、本当にうれしくて。
そっぽを向いていた彼が、ちらりと覗き見るようになのはを見て、ぎょっとする。
「な、なのはさん!?」
驚愕の声、ある意味聞きなれたその声に、なのははそこで気がついた。
「そ、そんなに泣くほど・・・」
「ち、違うの!そんなんじゃないの!!」
思考が感情に追いつかない。
なのはは自分で一生懸命に涙をぬぐいながら笑みを浮かべる。
本心からの、本当にほしかったものが手に入ることを歓喜した子供のようなその笑顔を浮かべて
「納得、できるかーーーーー!!」
叫びと魔力の奔流が二つ重なった。
その二つに、シンがぎょっとする。
「ふぇ、フェイト隊長?八神隊長?」
叫びは名前をつむぐ。
しかし彼の詞でも相手はとまることはない。
「卑怯やでなのはちゃん!!先出しや先だし!!」
「そうだよ!!そんなのフェアじゃないよ!?」
講義の声を上げる二人に、なのはは勝ち誇ったように笑みをうかべる。
そのまま髪をかきあげ二人を見下ろす。
「それは敗者の理屈だよ・・・私は、自分にできる最善をしただけのこと・・・それをなじられても、ね」
勝ち誇る表情は、先ほどまでの淑女とはまるで思えない。
「そう・・・なのはがそういうなら・・・」
フェイトがなのはの台詞にシンへと向く。
なにやら悪い予感がするが、それは気のせいだと信じたかった。
彼女はそのままシンを見つめながら
「シン、私も貴方が好きです。付き合ってください。結婚を前提に」
「フェイトちゃん!?」
「あ、抜け駆けやで!!シーーーン!わたしも、わたしも好き、っていうか一番シンを愛しとるんはわたしやからな!!わたしのところに嫁に来て!!」
「はやてちゃんも!?二人とも何言ってるの!シンはわたしと」
突然の告白大会になのはが先ほどまでと逆の顔で抗議の声を上げる。
しかし二人はまるで気にすることもなく
「だって、正式にOKをもらったわけじゃないじゃない」
「せやせや。あくまでも待ってほしいって言ってるだけや」
「そんな無茶苦茶な理屈!!」
「そんなん言うたかて、もう遅いもーん。わたしらも告白したもーん」
あまりにもすさまじい屁理屈に、なのはは唇をかむ。
「それを言われては・・・弱いの」
「弱いのかよ」
思わず疎外感を味わっていたクロノは突っ込みを入れてしまった。
ちなみに、シンはこの告白劇によってついにメルトダウンが連鎖反応を起したらしい。
文明が崩壊してし、持ち前の突っ込みを発揮できないでいる。
そんな中、クロノのツッコミが、今更三人の恋する乙女を止められるはずもない。
もはや誰にも止めることのできない暴走列車と化した三人はその名のとおりに行動を開始する。
「やっぱり、これしかないの」
「せやな、それじゃあ。ここはわたしららしく」
「勝った人がシンのお嫁さん、だね。まぁ、もっとも」
三人が魔力を再び収束させる。
殺気はない。
しかし、そのこめられた意志と力は今までの比ではない。
ただ、相手を倒し。
愛する人を手に入れる。
ただ、それだけを望んだ三人の美女達の戦いが。
「勝つのは・・・わたしだけどね!!」
同じ言葉、同じ意思。
そして、三色の魔法光を放ちながら。
本日二回目の『戦争』が始まった。
追記:被害報告。保護指定を匿っていた第4再開発地区の消滅を確認。
また、保護指定に関しては監督責任者であるクロノ・ハラオウンの手で救出。
その後機動六課隊長三人が魔力も尽き果て、全員がそれぞれに同時にクロスカウンターを決めて全員が気絶している間に護送を完了。
幸いなことに被害者は保護指定である少年の1名(加害者の三名は除く)。
保護指定は攻撃に巻き込まれたわけではなく、それ以前に何らかの精神的な重圧を受けた可能性がある(*注釈1)。
現在の所在地は(これ以降の閲覧には将校三名の申請を必要とする)
2
シンの部屋ではみんながW杯の話題で盛り上がっていた
シン「それにしても岡田監督には御免なさいしないといけないな」
エリオ「普通に三連敗だと思ってましたからね」
レイ「日本中が騙されていたからな」
ヴァイス「にしてもかなり危ない場面もあったよな~」
シン「ボール支配率ではデンマークが上でしたしね」
フェイト「私の心はシンに支配されっぱなしだよ!」
キャロ「…フリーキックすごかったですよね!」
シン「ああ、見事にゴールポストに吸い込まれたよな!」
なのは「シンも私とゴールインするべきなの!」
シン「…それにしても、最高の試合だったな!」
はやて「シンはいつだって最高やで!」
なのは「なぜか部屋から追い出されたの…」
はやて「ほんとになんでやろうな…」
フェイト「上手く便乗してたはずなのに…」
3
はやて「さーさーのーはーさーらさらー♪」
シン「随分ご機嫌ですね、部隊長何か良い事あったんですか?」
はやて「良い事ってゆうか今日は七夕やろ?」
シン「はい、どこから持ってきたんだってツッコミたくなるでかさの笹が飾ってますし、短冊も書きましたし、曇り空で悲しむヴィヴィオの為になのは隊長が空にSLBかまして晴らして天の川も良く見える絶好の七夕日和ですね」
はやて「七夕日和もええねんけど織姫と彦星の事考えたらな、わたしとシンみたいやなぁっておもてな」
シン「俺と部隊長は離ればなれにされた訳じゃ…」
はやて「いやいや、ホンマやったら小さい時から一緒に育って愛を育むはずやったのに、神様のいじわるで違う世界っていう天の川作られたやろ?でも一度おうてからは織姫さんとちごうてずっと一緒にいられるのが嬉しゅうてな」
シン「会えた事は嬉しいですけど神様の意地悪っと言い過ぎですよ…」
はやて「あははっ♪顔真っ赤にして目反らしながらゆうてもかわええだけやで♪」
シン「///あんたは大袈裟過ぎるんですよ」
はやて「照れてもうてかわええなぁ~」
フェイト「なのは、短冊もう一つちょうだい」
なのは「わたしも、もう一つ書くよ」
『シンは私の物』×2
フェイト「なのは真似しないで」
なのは「フェイトちゃんこそ」ジリジリ
ヴィヴィオ『パパ達とず~と仲良くいれますように』
4
ヴァイス「ふーむ・・・」(種運命視聴中)
エリオ「どうしたんですか?そんなに考え込んで」(同上)
ヴァイス「いやな、このレイって奴居るだろ?」
キャロ「あ、はい。シンさんのお友達、ですよね」
エリオ「なんだかシンさんを誘導しているようにもみえます」
ヴァイス「まぁ、そこらへんはあれだがよ。シンにとってこいつは唯一の理解者だろうし」
キャロ「それに、レイさんもシンさんのことを信頼しているようにも見えますね」
エリオ「でも・・・やっぱりシンさんを利用するために側に居るみたいに」
ヴァイス「ま、色々と解釈は出来るけどな。お互いに尊敬して、信頼して、だからこそ側に居て欲しかったんだろうよ」
エリオ「そういうものですか?」
ヴァイス「お前だって、シンが離れて欲しくはないだろう?信じるもののために」
エリオ「それは、そうですけど・・・」
キャロ「そのレイさんがどうしたんですか?」
ヴァイス「あぁ、ふと思ったんだけどさ・・・このレイって奴が女だったら、間違いなくヒロインだったろうなと思ってな」
エリオ「そうですか?」
ヴァイス「だってよ、シンの唯一の理解者で信頼していて同僚で、対になるレジェンドに乗ってるんだぞ?
その上パイロットとしての腕前もシンと同じくらい。まさに共に背中を守りあえるパートナー。
しかも、クローンという悲劇的な出生の秘密までもっていて議長の信頼も厚いと着ている・・・まさにヒロインって感じだろ?」
キャロ「確かに、それは一理あるのかも」
ヴァイス「ま、家の隊長達も捨てたもんじゃないけどな」
その後、ヴァイスはなのは、はやて、フェイトの三人から緊急のヘリ撃墜後の掃討作戦からの脱出と言う無理な課題を押し付けられたと言う。
なのは「それでも、今回は優しかったの」
はやて「最後の一言が無かったらわたしらの魔法が非殺傷モードじゃなくなっとったからな」
フェイト「・・・金髪でスタイルも自信があるし・・・これは私の一人勝ちかな?」
最終更新:2010年09月15日 22:39