1
それでは、投稿します。
「よ、よーやく辿り着いたあ~…」
ぜえ、ぜえと肩は愚か全身で息をしながら、勢い良く閉めたばかりの扉によりかかって、ぺたりと座り込む。
……疲れた。それを身体全体で示したように、大きな大きな溜息を吐く。まさか、あそこから部屋に戻るまでの通路に、妖精メイドの大半が配置されているとは思わなかった。おかげで、襲い来る弾幕を必死に防ぎつつ全力疾走する羽目になってしまった。しかも、子どもの身だけあって何時もより体力も落ちているし、何より歩幅が小さいのが、かなり痛い。
「……………」
か、帰りの事は気にしないでおこう。妖精メイドの皆さんの目的は俺をお嬢様たちのところへ連れて行くことなんだし…そう!格好さえ普通…もとい、こんなふりふりしたフリルやら見ただけで凹みたくなるミニスカート(ちなみに、下着だけは死守した)でなければ、お嬢様の御前に出る事など、大した事ではない。
「えっと、たしかあの古着は…あれ、あれれ~っ?」
……ない。ない、ないっ…!!確かに、タンスの下段にしまっておいたはずだ。それもつい最近…三日前に入れてそのままだから、どこかに出し忘れてそのまま…なんてこともないだろう。
じゃあ、誰かに盗られた…?それこそ、あり得ない。俺なんかの着替えを盗って行くような物好きなんて、早々いるはずも無いし……いや、一人だけ、からかい目的で盗っていきそうな奴がいたな。でもまさか、そんな…
『ぷっ、クク…』
「う~~~~ん…?」
ちょこん。小さく考え込むように、首を傾げる。メイド服でそんな仕草をされると、子ども特有の愛らしさと相まって非常にかわいいのだが…本人が気付いたらまたまた凹みそうだから、口には出しませんけどね。
「あっはっはっはっは。もー、ダメだ!」
「誰だ……ってお前か。」
最も、余りのギャップに耐え切れなくて爆笑している奴が一人いたが。いつも閉めているカーテンの陰から腹を抱えて、息も絶え絶えといった感じで出てきた白黒に、視線を落とす。
……うん。笑いすぎて涙目をしている自称「普通の魔法使い」に、一発くらいなら光熱波を叩き込んでもいいかなあ…なんて考えた俺を、誰が止められようか。いや、むしろ止めようとする奴がいたらまとめて吹き飛ばす。
「我は放つ、光の――」
「おおっと、ちょっと待った。それ以上やったら、この物質(ぶつぢち)がどうなっても責任はとらないぜ?」
そういって、正面に掲げられるその物質(ぶつぢち)。器用にも、余りくずれておらずきれいに折りたたまれたままに掲げられたそれに、編んでいた『構成』が見事に破綻し、消失する。そう、その物質(ぶつぢち)は説明するまでもなく…
「くっ、卑怯な…」
「さ、この古着をボロボロにしたく無いなら、大人しくするんだぜ。」
……しかたない、ここはあいつの言うとおりにしよう。服を失っては何のためにここまで来たのか解んないからな。
「何だ、抵抗しないのか?」
「抵抗したら、服がボロボロになるだろ。俺もこんな服、着たくて着てるわけじゃ無いからな。と、いうか一刻も早く着替えたい。」
「ふ~ん、そうだったのか。私はてっきり、お前があっちの趣味に目覚めたのかと思ったぜ。」
「いや、着替えを物質にしてる時点でわかってるよな、お前。明らかに、わかっててやったんだよな。」
「ばれたか。いや、別に着替えなくても良いと思うぜ?見事にかわいい、『男の娘』だしな。」
「……何か、聞き捨てならない誤植があった気がするんだが気のせいだよな…?それとかわいい言うな。」
じと目でその眼を見据えると、猫のような笑みで笑われた…ううっ、くじけそう…orz
「ま、まあ良いや。とりあえず、その古着返してくれ。お嬢様に呼ばれてるんだから、早めに行かないと…」
「ん~、どうしよっかなー♪…そうだ、シン。」
楽しそうに、猫のような笑みを続けながら、こちらに近づいてくる魔理沙。……ぶるっ、と一瞬背筋に悪寒が走る。が、努めてそんな様子は見せないようにして―――
「い、嫌だ。」
「まだ、何も言っていないぜ。」
なら、その目は何だ…わきわきとしたその手は何だ。じり、じり、じりっ、ゆっっくりとにじり寄ってくる魔理沙に思わず後退りながら、文字通りの魔手から逃れる手立てを必死に考える。が、過去の多くの心の傷もあってか、それとも生来の素質か。元々不測の事態には弱いシンである。考えている傍から、その考えがどんどんと雲散霧消していくという事に、気付いていないのが何とも。
そうやって、逃げ道を探りながら密かな攻防が続くこと数分…ついに壁に追い詰められたシンは、縋るような目線で魔理沙を見上げる。…しかし。
「ふっふっふっふっふ…さあ、シン。」
「こ、怖いぞ魔理沙。」
「一応、選ばせてやろう。私の手で着せ替えさせられるか、それとも……」
「そ、それとも……?」
「わ、私の事を『お姉ちゃん』と呼ぶか、どっちか選ぶん…だ、ぜ。」
……今何と言った、こいつは。お姉ちゃん?頭でも沸いてるのか…いやいや、聞いた話じゃこいつは一人っ子だったはずだ。一人っ子の人間は、兄や姉、弟や妹といったいわゆる「兄弟」といった関係を、羨ましく思うという。実際、妹が居たボクにはよくわかるし。
うん、そうだ。それにこいつは一人暮らしだからな。いつも明るく元気でムードメーカーな気質はあるが、さすがに少し淋しいに違いない。よくちょっかいを出してくるのもそれが原因に違いない。違いないったら違いない。
「……………お、お、おね………おねえちゃんっ!!」
ばりっ!!……あ。羞恥心を必死に押さえ込み、しかし目を瞑ったまま絶叫に近い声で言い放つ。と、何とも豪勢な、布製の物が引き裂かれる音がした。
「あ、ああああ~~~っ!!!な、何やってんだよ!!」
「ふ、ふふふふふふふふふ…予想以上の破壊力だぜ。さ、もう一回もう一回。」
「い・え・る・かあああああああっ!!!」
「うわっ、やばっ…」
その言葉…というか、空気を震わせる『音』が引き金となって、部屋全体に光の奔流が膨れ上がる。さすがに、リクエストまでしたのはからかいすぎたか…やばいっ、と無駄に鋭い直感で感じとった泥棒少女が、箒に乗って慌てて窓の外に出た瞬間―――轟音と共に、窓ガラスが跡形も無く、微塵に砕け散った。
「逃がすかっ!火炎…は後でガラスを直せなくなるからダメだとして…ええいっ!氷の矢(フリーズ・アロー)!!」
「大してでかくも無い上に、一本だけじゃたかがしれているぜ!」
「じゃ、こうする!!」
ヒュっ、キキキン!今の身体には少し大きいが、昔から愛用しているだけあって手に馴染んでいるナイフを抜き放ち、宙に作り出した十五cmくらいの氷の矢を目視できる程度の大きさにカットする。そして…それを、外に浮いてる白黒に向けて、サマーソ○トの要領で、思い切り蹴り放った。
「うひゃああああっ!?」
大気中の水分を氷結させた氷の矢…ではなく氷の礫といった物理衝撃に特化した擬似弾幕が、次々と魔理沙へと襲い掛かる。十を超える数の礫弾は大きさほど大した大きさではないが、それはそれ。人間相手には勢いさえ付いていれば、こういった類は小さい方が有利だ。現に、特に勢いが付いたものは地面に少しめり込んでいる。
「こ、殺す気かーっ!!」
「しっかり避けといて説得力ねえよ…じゃなくて、やかましいわーっ!!大体が、何でいっつも美鈴さん薙ぎ倒して門からくるのに、今回に限って俺の部屋に潜んでたんだよ!?」
「いやー…どーも中国のやつ元気がなかったから、張り合いが無くってさ。あいつの代わりの門番って言えばお前かなー、って。」
ま、そんな面白い事になってるとは知らなかったけど。ニヤニヤと笑いながら、もう一度俺の姿を上下見渡して…何故か、笑いながら顔を紅らめた。うぉい。
「なー、シン。頼むぜ。もう一回、もう一回だけでいいから。」
「い・や・だ。大体が、もう着替えも無いし…恥掻くだけだ。」
「別にいいじゃんかー。下着までドロワ(女の子用の下着の意)じゃなかったんだから。」
「当たり前だっ!!っていうかうっとうしい、近寄るな。」
考えるだけでもおぞましいっ…!さっきサマーソ○トを放った時に視えただろうに、執拗にミニのスカートを狙いながらさっきの「おねえちゃん」のリクエストを迫ってくる魔理沙もある意味でその部類に入るが、結局この格好でお嬢様に逢う事になる…それが嫌で、慣れない身体で逃げ回っていたと言うのに。
ZU~~~N。シンは知る由も無いが、先程の美鈴にも匹敵するくらいの落胆を以て、激しく落ち込む。何しろお嬢様だけならまだしも、あそこには恐らく、俺とは逆に大きくなった妹様が…フランがいる。と、なれば、この姿をフランに曝す事になるという事で。
……絶対に御免だ。そもそも、何度も繰り返すがそれが嫌で逃げ回っていたのだから。フランが目を丸くして笑ってくれればまだ良い。だけど…もし、万が一目の前の危険人物みたいに『かわいいw』なんて言われたら…兄(代わり)の、威厳がっ……
「俺…もう立ち直れないorz」
「何だ何だ。悩みがあるならお姉ちゃんが相談に乗るぜ?」
「だ・か・ら…あんたのせいで、着替えが台無しになったんだろうがあぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっ!!少しは反省しろおぉぉぉぉっ!!!!!!」
…ズゥン。半泣きの絶叫と共に再び、先程より少しだけ小さく屋敷の一角が揺れる。破砕音、爆砕音、特ダネの臭いを何処からか嗅ぎ付けて侵入しようとした、どこぞの鴉天狗が油断して、瓦礫に吹き飛ばされピチュッタ音…いやはや、凄い暴れっぷりだ。まるで駄々っ子みたいな…駄々っ子?
そう、今のシンは駄々っ子だった。と、すると…
「すぅ・・・」
「あ~…やっぱり。」
暫し隅に隠れて、飛んでくる氷の矢やら光熱波やらの奔流を避けていた魔理沙が、収まった頃にひょっこりと顔を出す。……そこには案の定、疲れて眠っているただの子どもがいて。ほんっとうに、子どものパターンだな。
「はあ…面白い事は面白いんだけど、こんな欠点があるとはね。予想外だぜ。」
まあ、小さくなったら体力が落ちるのも当たり前か…仕方ない。愚痴りながら、大の字で寝ている(一瞬はしたない、と思ってしまった自分を誰が責められようか)シンを持ち上げ、背負う姿勢――いわゆるおんぶ――で、抱き上げる。結構な重さだが、ま、これが健やかに育つって事なんだろうな。
「やれやれ。この歳になって始めて弟が出来るとは思わなかったぜ。」
「勝手に所有物にしないでくれるかしら?ここの常識でも、また明治の法律の遺失物法でも、拾ったものは落とし主が見つからなかった場合を除いては、落とし主のものだったはずだけど?」
「ああ。だから私が拾った。後は戸籍を入れれば立派な弟だぜ。」
「…あなた、義絶状態じゃなかったかしら?それに、その前にお嬢様が拾われていらっしゃいますから、どっちにしろアウトね。」
にこやかに、しかし敵意を示すように手に携えたナイフを振りながら、細かいツッコミを入れる完璧瀟洒なメイド長。何か、ところどころ焦げてはいたけど、そこは気にしない。
しかし…さて何と答えようか。半ば疲れ知らずと言って良いこのメイド長相手に長期戦は不利。でも、背中に寝ている子どもを背負っている状況じゃはっきり言って激しい機動も取り難いし、勝ち目が薄い…考えながらも、八卦炉を構えるのは忘れない。
「ん~、それなら…そう、そうだ。かr『借りていくのも認めませんよ?』………」
お見通しか。まったく、どいつもこいつもけちだぜ。そうやってぶちぶち言っていると、背負われているシンがぎゅっ、と服を握って…
「……まゆ…お兄ちゃんは、元気で………くう、くぅ…」
その言葉に、一気に毒気を抜かれた気がする。強がりを言いながらも、明らかな寂しさを含んだ声…聞いているだけで胸を締め付けられるような、そんな切ない感情の吐露。…はあ。こうなったら仕方ない。盾にするかのように構えていた八卦炉を仕舞い、よいしょ、っと背中の子どもをしっかりとおぶさり直して。
「じゃ、今回は持っていかない…けど。その代わりに、レミリアに直談判させてくれないか?」
「直談判…ですか。一体何を?」
「それはやってのお楽しみだZE☆」
特徴的なイントネーションをもった何時も通りのさっぱりした勝気な笑みで、笑う。でも、結局案内された場所で以前とは全く異なる変化(身長とスタイル的な意味で)を遂げた、フランに凹まされる事となるのだが、それはまた次の話である…
最終更新:2010年02月21日 06:11