バレンタインデー、あるいはセントバレンタインデーは、ニ月十四日に祝われ、世界各地で男女の愛の誓いの日とされる。
男は期待に胸を膨らませ、女は意中の男に、愛の言葉とチョコを送る。中には社交辞令、三倍返し目的といった例外もあるが、バレンタインデーは前述の通り、愛を誓う日なのだ。
しかし、ここ次元世界ミッドチルダで一人、浮かない顔をしている者が一人。
シン・アスカ。ミッドチルダへ次元漂流してきた彼は、元いた世界――コズミック・イラで起こった悲劇を思い出し、溜め息を漏らしていた。
聖夜のクリスマス・イブから新年のお祝い等、一年で最もお祭り事が集中した真冬から少し過ぎた、新暦七十五年、二月十三日の深夜、
「終わった……!」
機動六課のフォワードメンバー『スターズ』隊隊員のシン・アスカはキーボードから両手を離した。疲れの所為か、指が震えている。
夕食を終えて直ぐに作戦報告書をまとめたが、まさかこんな夜中になるまでかかるとは、シンは思ってもいなかった。
こちらの世界――ミッドチルダに来てから久しぶりのデスクワークの所為なのだろうか。
本来なら、今日の夕方以降待機任務から外れ束の間の休息なのだが、ここ立て続けに任務が重なった所為で作るべき書類は山程、ではないがそれなりに溜まっている。空いた時間にやっておかないと忘れそうだ、とシンはティアナ達とすぐに別れたのだ。
「ふあ……次は始末書か、朝までには終わるかな」
んぅ~っと大きく伸びをすると、ポキポキと背中や腰の骨が鳴った。静かなオフィスにはよく聞こえる。
書類を保存して端末を待機状態にする。
とにかく一息入れないとやってられない。何か飲むか、と椅子から立ち上がったその時、壁に掛けられていたカレンダーが視界に入った。
「ニ月十四日、か……」
血のバレンタイン――プラントの農業用コロニー『ユニウスセブン』が、地球軍の戦闘機が放った核ミサイルにより壊滅した事件。コズミック・イラ七十年、ニ月十四日のバレンタインデーに起こった為、血のバレンタイン事件と呼ばれている。
事件当時、学校のクラスメイトの女子や妹にチョコを貰い、浮かれていた気分が一気に冷えきった。
二十万以上の人間の命が、一瞬にして消えたのである。
これが同じ人間のする事か、とシンは恐怖した。
そして、この事件がきっかけとなり、地球連合軍と、プラントの事実上の国軍ザフト――ナチュラルとコーディネイターによる大規模な戦争が始まった。その所為で住んでいた国は戦火に巻き込まれ、家族が――
「く……!」
シンは、自分の中に溜まった黒い感情が沸々と込み上げてくるのを、頭を振って押さえ込む。
足がふらつき、床にへなへなと座り込む。制服のズボンが埃で汚れるが、どうでもよかった。
何時までも過去に縋る自分が情けなくて、口から渇いた笑みが零れた。
「…………」
全てを失ったあの日から、何の因果か異世界へ次元漂流した。
何もかもがどうでもよくて、自暴自棄になっていたあの日から、もう一度歩いてみようと決意して以来、久しく忘れていた感情。
前を向いて行こうと決めたのに、ちょっとしたきっかけで後ろを振り返ってしまう自分に笑ってしまう。
思い浮かぶのは家族との団欒。休日に父親とキャッチボールをしたり、夕飯の準備をする母親の手伝いをしたり、妹が焼いたクッキーを一緒に摘まんだり、テレビのチャンネル争いをして喧嘩になったり……。
一度思い返したら止まらず、次々と走馬灯のように、鮮明なビジョンがシンの脳裏に現れては消えていく。そうして沈んでいる内に、鼻の奥がツーンとし、目頭が熱くなるのを自覚した。
「帰りたいなぁ」
膝を抱えて蹲る。真紅の瞳からは一筋の涙が零れ、頬を伝った。
今更故郷を、過去を求めたところで、それは二度と帰ってこない。過去の為に戦い、その果てに『明日を求める力』に敗れたのだから。
「コーヒー飲も……」
何時までもうじうじしてられない、と制服の袖で涙を拭き、勢いよく立ち上がる。そのままの勢いで廊下の自販機に行こう、と出入り口のドアに歩き出そうとしたその時、ドアがゆっくりと開いた。
「やっぱりシン君だ」
開けられた空間からひょっこり顔を出したのは、シンの上司でもあるスターズ隊隊長、高町なのはだった。左手が彼女の背中に隠れている。
「高町隊長」
お疲れ様です、と敬礼をするシンに、なのはは微苦笑交じりに敬礼を返す。
他のフォワード陣とは違い、どこまでも真面目なシンに呆れつつ、いつまでも自分を含め同僚や上司達に対し固い態度なシンに、彼女は心中で溜め息を吐いた。まぁ六課に入りたての頃よりは全然いいものなのだが。
なのはの胸中は複雑だった。
「シン君、もう休みの筈だよね? 駄目だよ、休む時は休まないと」
なのはがオフィスに入ってくると、シンはばつが悪そうに視線を逸らした。
「すいません。でも、書類が溜まってて。今やっとかないとって、その……」
段々と声が小さくなるシン。そのしょげた姿は、飼い主に叱られた犬を連想させる。もしくは、姉に叱られる出来の悪い弟、といったところか。
「私の言ってる事、間違ってるかな?」
「……いえ、その。すみませんでした」
これ以上はかわいそうだ、となのはは心中で微笑む。もう十分に自分の言った事は伝わっただろうし、自分の説教で彼の睡眠時間を削ってしまっては意味がない。それに、こんな話をしに今まで探していた訳ではないのだから。
「うん、分かってくれたみたいだし、もういいよ。それでね……えっと」
何か言いかけて止めるなのは。先程まで厳しくも尊敬する上官だったのに、今は迷子センターに連れてこられた児童みたいに落ち着きがない。シンから視線を逸らしては合わせ、制服の裾をぎゅっと掴んでいる。
「高町たい――」
「待って!」
なのははシンの言葉を手で制した。その場ですー、はーと深呼吸する。よく見ると頬が少し赤い。
シンはそんな上官に益々戸惑う。
「仕事、まだ終わらないみたいかな」
「えっと……あとちょっとです。少し休憩がてら飲み物でも」
「そっか――あれ?」
納得したと思ったらまた疑問節になる上司に、シンは首を傾げる。
「シン君、泣いてたの?」
「え?」
なのはの言葉に、シンは咄嗟に目の下を撫でる。その行動に、なのはは今度こそ噴出しそうになった。これでは、そうですと白状しているようなものだ。
「やっぱり」
「…………」
目の前でクスクスと微笑む上司に、シンはしまった、と自分の迂闊さを呪った。
どうもこの人には敵わない、とシンは改めて、高町なのはという人物を認識する。
考えている事が筒抜けというか、こちらの思考が丸分かりというか。
先程の嗜めるような物言いも、何故か反論する気持ちが萎えてしまう。
自分に姉がいたらこんな感じなのだろうか、と思い始めたところで、
「シン君?」
彼女の声に、現実に戻された。
彼女をそういう目で見た事に罪悪感を感じながら、シンは頬を掻いて話題を逸らそうとする――
「あの隊長、明日の訓練で――」
「それで、何で泣いていたの?」
が、なのははしっかりと覚えていたようで、シンのささやかな抵抗も徒労に終わった。
「な、何でもないですよ。目にゴミが入っただけです」
「本当に?」
こちらを真っ直ぐに見つめてくるなのはに、シンは嘘をついている事と、先程の罪悪感も相まって彼女から視線を逸らし俯いた。
ついさっきの失敗を、またも繰り返してしまうシンだった。
「シン君、やっぱり嘘ついてる。そんな態度じゃバレバレだよ?」
「う……」
なのはの言葉にようやく気付き、小さく呻き声を出しても時既に時間切れ。終わる頃には、ズタズタにされた黒髪の雑魚がいた。
「あのねシン君。言いたくないなら、私も無理に聞かないよ」
でもね、となのはは一旦言葉を切り、俯いたままの、シンの頭を撫でる。
「私はシン君の上司だから。部下の心のケアも、上司の務めだよ」
ね? と微笑むなのはに、シンは暫し黙考する。こうまで言ってくれているのだから、話すくらいならいいんじゃないか、と。
「……ロビーでいいですか?」
二人は途中で飲み物――シンはコーヒー、なのはは紅茶――を手に、向かった先は、屋外の訓練場。
シンの提案を、なのはは頬を赤くしながら「駄目、絶対」と広告のキャッチコピーを思わせる言葉とともに、シンの手を取り訓練場へと引きずってきたのである。
適当な場所に二人並んで――その間に空間がある事に、なのはは寂しさを覚えながら――腰を下ろす。
シンは缶のプルタブを開け中身を一口啜り、ぽつりぽつりと語り始めた。
「明日っていうか、もう今日って言ってもいいんですけど……。俺がいた世界の、二月十四日に、沢山の人が死んだんです」
「……何で?」
『死』という言葉に、なのはの顔が強張る。手に持っていた缶は、力強く握られていた。
「コーディネイターの事は知ってますよね? それで、コーディネイターじゃない人間――ナチュラルって呼ぶんですけど。ソイツ等が、コーディネイターが暮らすコロニー、えと宇宙に住める土地みたいなものの事で。そこに核ミサイルを撃ったんです」
「…………」
シンの告白に、なのはは黙って聞いているしかなかった。
「それ以来、俺の世界――コズミック・イラでは『血のバレンタイン』って呼んでます。この事件がきっかけになって、戦争が本格的に始まったんですけどね。俺の家族も……」
「亡くなった……んだよね」
「はい。だから、それを思い出して」
それ以降シンは黙る。
なのはも何とか声をかけようと、今まで培ってきた知識を総動員して頭の中を模索するが、うまい言葉が見つからず口篭もるだけだった。
二人の間に、気まずい空気が流れる。
やっぱり話すんじゃなかった、とシンの口から溜め息が漏れそうになったその時、
「あ! あのねシン君!」
なのはの突然の大声にシンは目を丸くする。言った本人も予想以上だったのか、なのは本人が慌てふためき、手をぶんぶんと振りながら「何でもない」と繰り返した。そんな彼女にシンも生返事しか返せない。
なのははわざとらしい咳をし、深呼吸を繰り返す。やがて気が済んだのか、懐から正方形の箱を取り出した。ピンクと白の水玉模様なラッピングに、赤いリボンが飾られてある。
「はい、シン君」
「へ?」
「バレンタインデー。チョコレートだよ」
ちょっと早いけどね、と舌を出し悪戯っぽく笑うなのはに、シンは魅了された。何故か目眩を覚えくらくらとする。心臓の方も忙しなく動いていた。
「うぇ、あ、あるがとうございます」
「う、うん。どういたしまして」
震える手でチョコを送るなのはと受け取るシン。お互い羞恥心の所為か、顔は真っ赤だった。
「あ、ああ開けても」
「う、うううん、いいよ」
誰かにチョコレートを貰うなんて何年振りだろう、と包装紙をゆっくり、丁寧に剥がしていく。箱の蓋を開けると、中に入っていたのは六つの丸いチョコ。ココアパウダーが塗してあるのがポイントか――トリュフである。
「い、いただきます」
「はい、めしあがれ」
あむ、と一口でチョコを頬張る。一口噛んだ瞬間、口一杯にチョコの甘さが広がった。ココアパウダーが歯と歯の隙間に侵入する。
「ど、どうかな」
「…………」
もきゅもきゅ、と頬を動かすシンに、なのははシンが何も言わない所為か浮かない顔をして小首を傾げた。口に合っているか、不安なのだろう。
「こ、こえふぁいひょうの」
「うん、手作りだよ」
にゃはは、とはにかむなのは。その普段とはあまりにも違う、可愛らしい仕草に、シンはまたドキリとさせられる。聞こえてるんじゃないか、と思う程心臓が大きく脈打っていた。
「う、美味いです、これ」
「ほ、本当? よかったぁ」
胸に手を当て安堵の溜め息を吐くなのはに、シンの羞恥ゲージは限界突破してブッ壊れた。さらにこの状況――自分達以外誰もいない深夜の訓練場に、その相手が六課隊員達の憧れの的でもある高町なのはだという事も相まって、シンの体温はみるみる上昇していった。
未だに顔を赤くするシンとは対照的に、なのはの方は落ち着いたのか、徐々に赤みが引いていった。それからシンの頭に手をやり、自身の肩に寄りかかるように引き寄せる。これで二人の間にある距離はゼロになった。
「!?」
「あのねシン君、答えなくていいから、そのままで聞いてくれないかな」
離れようとする前に、なのはの言葉の裏に真摯さを感じたシンは抵抗せず、そのままもたれかかるようにした。
「辛い過去を忘れろとは言わない。そんな事出来る筈ないって思うし」
私が言うのも何だけどね、となのはは一旦紅茶で喉を潤す。
「でもね。辛い事もあったけど、そうじゃないのもあった方がいいと思わないかな」
「え……」
「シン君が将来、バレンタインデーの今日に、私にチョコを貰ったなぁっていう思い出も、あってもいいと思うの」
それだけじゃない、となのはは首を横に振る。
「これから先、また辛い事もあるだろうけど、楽しい事もそれ以上にあると思うんだ。だから、色々な思い出を沢山作って、ミッドチルダに、この世界に来てよかったって思える風にしたいな」
シン君と一緒にね、となのははシンの頭に置いたままの手を動かし、手櫛のように髪を梳く。シンはそれを不快に思わず、寧ろ気持ちいいとされるがままになっていた。
「……俺なんかでいいんですか」
シンが胸に抱くのは不安。自分のような汚い人間が、彼女の傍にいてもいいのか、と。
何もない、出来なかった自分とはあまりにも違い過ぎる、眩しい人。
家族も、友も、仲間も、才能も、何もかも持っているこの人に、みっともなく嫉妬した事もあった。
「シン君、もしかしてわざと言ってる?」
「な、何がですか」
あまりにも鈍感過ぎるシンに、なのはは大きく溜め息を吐く。
「はぁ……。私は、シン君と、ずっと一緒に、思い出を作っていきたい。そう思ってるよ」
きっぱりと言い放つ。そうありたいと強く願う意思が含まれたそれに、シンは体を起こし、居ずまいを正した。正面に回れば、優しく微笑むなのはの姿。月明かりの下にいる所為か、それは幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「綺麗だな……」
「うえ?」
シンが無意識に呟いた言葉に、なのはは瞬時に顔を真っ赤にした。もしロボットなら、耳から煙でも噴いてそうだ。
「あっ! いや、あのち……! いえ」
両手をバタつかせ慌てて取り消そうとしたシンは、ピタリと動きを止める。
「し、シン君?」
「綺麗です」
「えっ」
「た……なのはさんの事、綺麗だって思ったんです。だから、その……いや綺麗とかそんなの関係なくですね」
考えが纏まらないのか、どこかちぐはくな言葉しか吐けない自分に辟易しながら、これだけは言おうと思っていた言葉を、シンは紡ぐ。
「これからも、よろしく、お願いします」
そして、ありったけの笑顔を。今までこの世界に来てから出来なかった表情は、今日という、忘れられない日の為にとっておいたものなのだと。
おまけ IFルート・BADエンド『このまま! チョコレートを! シンの口の中に! 突っ込んで! ちょっと、お散歩しよっか』
新暦七十五年、二月十四日深夜。機動六課隊舎にある、一部の局員だけが知る、第八千八百十番会議室。蛍光灯の灯りだけが室内を照らす中、三人の戦乙女(笑)が腰を下ろしていた。
一昨日の十二日から続いた議論は、平行線のままだった。議題は『どうやってシンにチョコを渡すか』
「……って感じなんだけど、どうかなぁ」
一通り捲くし立てた後、なのはは周囲――といっても二人だけだが――に顔を向ける。
「甘いでなのはちゃん、あまあまや、甘過ぎるっ!」
テーブルを叩き勢いよく立ち上がったのは機動六課課長兼部隊長、八神はやて。
「甘いって、どういうことなの……」
なのはの鋭い視線に、はやては不適な笑みを浮かべる。チッチ、と人差し指を立てて横に揺らす仕草付きだ。
「肩よりもやっぱり胸や! シンみたいな母性本能をくすぐる子はなぁ、肩より胸の、お、む、ね、お、おぉっぱい……!」
鼻息を荒くするはやての様子が次第におかしくなる。瞳は焦点を失い、体が小刻みに震える。
「おおっぱいぃ!」
突如、自身の胸を揉むはやて。親友の、特に金色の方と比べると頼りない大きさの胸をこれでもかっ! と、もげそうなくらい『揉む』から『掴む』動作に変わる。
「そうやおっぱいがぁぁぁぁおっぱいがおおきければなぁぁぁぁ」
「はやてちゃ――ん!?」
親友の凶行を止めるべく、なのははセットアップしたレイジングハートで、はやての後頭部を殴打した。
「なっ! 何をするだァ――ッ! ゆるさんッ!」
「裁くのは私の『デバイス』なの――!」
『わたしは しょうきに もどった』かどうか怪しいはやてと、レイジングハートを使って『君が泣くまで殴るの止めない』なのは達を傍観していたフェイトがぽつりと呟く。
「やっぱり乳枕かなぁ」
「ちちまくら!?」
「私は夢一杯なのに胸が大きくないなぁ!」
ちちまくらという言葉に、即座に反応するなのはとyagami。
はやてはもう、はやてではなく『八神はやての形をした別のなにか』だった。
管理局で噂される『六課七不思議』の一つでもある、yagami。それが何なのか、誰も知らないという……。
「ずるいよフェイトちゃん! もうエロ魔神って名乗ってよエロ魔神!」
「そうやそうや! おっぱい触らせろ! それが嫌ならおっぱい触らせろ! それが嫌ならおっぱい吸わせろぉぉぉぉぉ!」
ぎゃあぎゃあと喚くなのはとyagamiとは対照的に、一人のほほんとしているフェイト。
時計の針は、十二時きっかり――二月十五日を指していた。
一方時間を少し遡って、二月十四日の深夜――話題のシンはというと、自室で一人ベッドに横になり、雑誌を読み耽っていた。
部屋のドアが二回ノックされる。
シンはゆっくりと体を起こし、ドアを開けると、
「やあシン君」
柔らかい笑みを浮かべたグリフィス・ロウランが立っていた。腋にバッグを抱えている。
前衛部隊のシンと後方支援部隊のグリフィスの間ではあまり交流がないように見えるが、二人の間にヴァイスが入る事で、文字通り潤滑油となって親交を深めていた。
「グリフィスさん」
「悪いね、こんな夜更けに」
「いえ、問題ないです。中どうぞ」
「ああ、直ぐ終わる用事だから、このままでいいよ」
自室に招き入れようとするシンに、グリフィスは手を振ってバッグの中をゴソゴソと漁り、薄い長方形の箱を取り出した。真っ黒な包装紙に、黄色のリボンが飾られている。
「ハラオウン執務官からの預かりものだよ。一昨昨日に渡されてね、今日の夜に、君に渡して欲しいって頼まれてたんだ。その日――今日の事だね、何でも用事があるからって」
「ハラオウン隊長が?」
何だろう、とシンはグリフィスから手渡された箱をまじまじと見る。バレンタインデーに異性から贈られるものが何なのか、今一分かっていないシンに、グリフィスは笑いをこぼしていた。
最終更新:2010年02月21日 06:51