守ること…それは正義だと思っていた…
奪うこと…それは悪だと思っていた…
私の力は守るための、悪者を懲らしめるためのもの…
守るためには戦うことも必要だとあの人も言っていた。
いつも正しいことをしてきたあの人が言うならやはり自分は正しいのだと思った。
そう思い戦ってきた。戦っていくと決めていた……
機動戦士ガンダムSEEDDESTINY-SIN In the Love-
PHASE-5「狂気の祭典―天使降臨」
「どっちと戦うのだ?」
「未確認の3機だ。気は進まないけどな」
クライムインパルスはガデッサに接近。人がいる中であのメガランチャーを何度も使わせるのはまずい。
(見た感じ射撃タイプだ。接近戦なら…)
ガデッサはランチャーを腰にマウントしビームサーベルで応戦する。パワーも運動性もガデッサが上回っている。
しかしインパルスは巧みな動きでガデッサを会場から押し出していく。
「このまま海の上まで…」
海上まで行けば周りの被害を気にせず戦える。シンはこんな戦い方をするのは初めてだった。
「レイジングハート出せる?」
バリアジャケットに着替えたなのはは会場脇の輸送艦にいた。避難誘導を引き継いだので自らも出撃するためだ。
「問題ありません」
スタッフが答える。それを聞くとなのはは専用機に乗り込む。
この『レイジングハート』は無印フリーダムを基に魔導師対応のSMSに改修したものだ。なのはの特性に合わせ砲撃戦重視の調整がなされており(フリーダムもだが)、専用長槍型複合魔法兵器『ディバインバスター』と魔力により遠隔操作可能な『アクセルシューター』を装備しオリジナル以上の性能を持っている。
「高町なのは、レイジングハート、行きます!」
キラはガラッゾ、ガッデスの2機と戦いながら残った2機のジンクスを探していた。3機に割り込まれた際に見失った。しかし離脱したにしては速すぎる。
(どこかに回収艇がいるのか…?)
レーダーにそれらしき反応はない。
また新しくやってきたガンダムタイプのことも気になっている。少なくとも統合軍所属の機体ではない。
予定と違うことからスカリエッティが裏切ったのは間違いない。3機のUnknownもスカリエッティの差し金だろう。ならばそれと戦っている以上味方と判断するのが妥当だが自演の可能性も否定できない。スカリエッティが相手ならば。
「くそっ…」
こんなはずではなかった。今日という日は更なる平和への第一歩となるはずだった。スカリエッティは何かしら仕出かすとは思っていたがまさか新型、それも太陽路を積んだ機体を出してくるとはさすがに予想していなかった。
キラが思考しているとガラッゾがビームクローを収束させ振り下ろしてくる。ビームシールドを展開するフリーダム。しかし出力では核動力が上のはずなのにガラッゾの攻撃がビームシールドを切り裂く。キラはシールドにビームの先端がめり込むと同時に機体を後退させていたためダメージこそないが、ガラッゾの出力に驚愕する。
(間接のパワーだけなら機体重量で説明がつくけど…。あれは僕たちの知っているGNドライヴとは違うのか?)
ガッデスがGNバルカンをばら撒く。フリーダムは確実に追い込まれていた。
海上に出たインパルスとガデッサ。インパルスはガデッサとクロスレンジで戦闘を続ける。しかし傍目からでも明らかにインパルスが劣勢である。
「押されておるぞっ! しっかりせんか!」
「一度体勢を立て直すべきです」
「そうは言うけど…」
ガデッサは距離を離せないと見るや接近戦にスタイルを変えてきた。どうやら格闘戦でも十分倒せると踏んだようだ。
「離れたら回り込まれやすくなる。右側に回られたら終わりだ」
シンの右目は閉じたまま。昼間の明るさでさえ耐えられないのだ。夜になったとはいえ今開けようものならビームがぶつかる光で焼かれ失明まっしぐらだ。
右目が開けられないことを除いても敵パイロットは強い。ブランクのあるシンでは正面からの攻撃でも避けきれないかもしれない。未だにインパルスが目立ったダメージを負っていないのは正直運である。
「機体もパイロットも向こうが上か…」
インパルスの攻撃をかわしたガデッサに蹴り飛ばされる。そこにバルカンが降り注ぐ。インパルスはシールドで防御しながら接近し再び格闘戦へ。しかしガデッサはその動きを見切っていたのか、肘のビームカッターでインパルスのシールドを真っ二つにする。
「ったく、ウンザリだな…!」
フリーダムと戦闘している2機の間を極太のビーム、否、魔力光が通り過ぎる。
『これは…』
「キラさん!」
ストライクフリーダムの横にレイジングハートが並ぶ。どちらも原型となった機体は同じだが今となっては大分姿が異なる。
「大丈夫!? 苦戦してるみたいだけど…」
『GNドライヴの性能が別物だ。気をつけて』
なのはは気を引き締める。あのキラが苦戦する相手だ。少なくとも機体性能は上だと考える。
(でも負けるわけにはいかない…。平和を壊そうとする人なんかに…!)
なのはは廃墟となった会場を見る。こんなことをする者を許してはおけない。
『なのはは青い方を頼む。もう1機は僕が』
「了解」
なのはは距離をとりながらガッデスに照準を定める。レイジングハートの持つディバインバスターの魔力カートリッジを交換。
「いくよ…全力全開っ!!」
魔方陣が描かれ桜色の魔力光が撃ち出される。
「うわっ!? なんだ?」
ディバインバスターの余波はインパルスとガデッサの所まで及んでいた。機体が激しく揺れる。
「凄まじい魔力じゃな」
会場の方を見れば今の攻撃の余波で外壁が一部吹き飛んでいた。
「あれは…」
戦闘中にも関わらずシンはその攻撃を行ったであろう機体―レイジングハート―に目を奪われる。
夜とはいえ見間違えるはずがない。あれは…。
「シンっ!」
「!?」
アルの声で視線を戻す。目の前にガデッサのメガランチャーがあった。
(やられる!)
しかし発射されたビームはエセルが咄嗟に発動させたGNフィールドにより減退。致命傷にはならなかった。メガランチャーがチャージされておらずガンモードだったことも幸いした。
「悪い、助かった」
「いいえ。しかし今のでGN粒子の残量がかなり減りました。このままでは…」
エセルの言うとおり粒子残量はわずか。バッテリーもPS装甲に当てているため武器に使用するのは避けたい。
「このうつけがっ! なにをボーっとしとる!」
「…ああ」
「…どうした? どこかケガをしたのか?」
心配そうに尋ねるアルにシンは「大丈夫」と告げると敵機に向き直る。
(今は気にするな。そんな場合じゃないし余裕もない)
シンは自分に言い聞かせる。その横顔をアルとエセルはじっと見つめていた。
「ねばるねぇ彼は。旧式の機体に不完全な魔導書、落ちぶれたパイロット…さっさとやられるんじゃないかと心配していたが」
そう思っていたとは到底見えない表情でスカリエッティはモニターを見ている。
「しかしエースオブエースの力はすごいな。チートじゃないのかと疑いたくなるよ」
そう言って小さなコンピュータ端末を見る。そこに高町なのはの経歴や魔法適正といった個人情報が表示されていた。
「ドクター、そろそろ時間です」
ウーノが声をかける。しかしスカリエッティは手を上げて制する。
「少し延期しよう。彼女たちの出来を見たい」
「…我慢弱いのではなかったのですか?」
「私は過去を振り返らない男なのだよ」
スカリエッティの「○○な男」が変わるのはしょっちゅうなのでウーノは何も言わないことにした。
そんな彼女の気持ちをよそにスカリエッティは旧友の行動を考える。
(インパルスか…。完成していないのか、パイロットを考えてか……。こちらも急いだほうがよさそうだな)
レイジングハートの圧倒的な火力の前にガッデスは回避で精一杯…でもなかった。ガッデスから射出されたGNビームサーベルファングの機動性はアクセルシューターをはるかに上回っており、レイジングハートは早くも片方の翼を失っていた。
ディバインバスターは射程、威力に優れカートリッジシステムにより連射も可能だが当然『構える』必要があり、そこを狙われうまく立ち回れない。
多少のダメージなら無視できるし量産期クラスの攻撃ならバリアで無効化できるため今まではあまり気にしなかったがこうなってくると、
「もっとスピードが欲しかったかな…」
レイジングハートは決して鈍重ではないが姿勢安定を重視しているので高機動というほど
でもない。そもそもアクセルシューターで大抵の事態に対応できた。
ガッデスが接近してくる。見た目判断ではあるがガッデスには一撃で相手を破壊できるような武装はない。手に持ったヒートサーベルでバッサリいくつもりだろう。
(接近戦はきついけど…このまま離れてても勝てない。イチかバチかで…)
レイジングハートは接近戦用の武器を持っていない(ディバインバスターで打撃は可能)。しかしあまり使わないが接近戦において必殺の魔法はある。
「レイジングハート、ブラスターⅡ!」
レイジングハートが光を放つ。ディバインバスターからも翼のように魔力があふれる。
ガッデスはサーベルファングで牽制しながらさらに加速。レイジングハートの右肩にファングが突き刺さるがなのはは気にせずブースター+魔力を全開。
「ACS…ドライブ!!」
レイジングハートが桜色の魔力をまといガッデスに突撃。相対速度もあり今から回避運動に入っても遅い。狙いは下半身。それだけ吹き飛べば当然戦闘不能だ。
しかしなんとガッデスは機体をずらし胴体中央をさらけ出す。
「!? だめっ!」
なのははギリギリで機体ごと横にそれコックピットへの攻撃を避ける。そこにすかさずファングが一斉に襲ってくる。加速と動揺でロクな対応も出来ずレイジングハートは両手足と頭を破壊される。
「そんな……どうして…」
なのはは敗北したことよりも敵機の動きが信じられなかった。
「なのは!?」
レイジングハートの撃墜に気をとられるキラ。無理も無い。なのははキラ、アスランに次ぐ腕の持ち主なのだ。その上キラは味方がやられるのに慣れていない。ストライクフリーダムは完全な無防備となっている。
『余所見とはいい度胸だなぁっ! スーパーコーディネイター!』
「くっ!」
少女と思しき怒声と共にガラッゾが両手のビームクローを収束させ突進してくる。フリーダムはドラグーンを展開し迎え撃つが、ガラッゾはドラグーンが並ぶ瞬間を狙い回転、ビームクローの余波で迎撃してしまう。
「なに!?」
まさかの力押し。ドラグーンが撃墜されたのは初めてだ。
ガラッゾは回転しながら突っ込む。フリーダムは胸部のカリドゥスを発射。ガラッゾビームクローで防御するが体勢を崩しビームクローも消失する。
『しまったっ!』
フリーダムは両腕を切り落とそうと接近。攻撃態勢に入った瞬間ガラッゾが一歩分間合いを詰める。
『な~んてな。ひっかかてんじゃねーよ!』
「!!」
ガラッゾの握られた拳。そこには打撃用のGNスパイクが。この超接近状態ではビームサーベルを振り下ろすよりも早く攻撃できる。
ガラッゾは高速でフリーダムに拳打の嵐を浴びせる。
衝撃を生かし一気に離れるフリーダム。PS装甲があるため致命傷ではないがカリドゥスと右のマニュピレーターが破壊されている。
「何者なんだ……」
キラは焦る。なのはがやられたならば青い機体もこちらに向かってくるだろう。そうなれば…
(スカリエッティは何を企んでるんだ…?)
「もうチェックとは…彼らを買いかぶりすぎたかな?」
スカリエッティはつまらなさそうに言う。いくら対策を用意していたとはいえ、キラ君たちにはもっと奮闘して欲しかったのだ。
「シン君もいっぱいいっぱいだし…」
モニターには回避に徹するインパルスが映っている。
「お言葉ですがドクター。今回∞ジャスティスやバルディッシュを出撃できないようにしろと仰ったのはあなたですが?」
ウーノの言うとおり今回アスランのジャスティスとフェイトのバルディッシュが出撃していないのはこの一味の仕業である。アスランとフェイトを仲間とは別行動にさせたのはドゥーエであり、彼らの愛機はオーブ本国に置きっ放しなのだ。
「…」
「……」
「では行くか。もうすぐ良い子は寝てしまう時間だ」
「…はい」
スカリエッティは白衣を脱ぎウーノから着替えを受け取って部屋から出て行った。
「くそっ、あいつやられたのか…」
シンはレイジングハートが撃墜されたのを知りつぶやく。頭の中によぎるのはかつてのメサイア宙域戦でのこと。あの時レイジングハートは他のオーブ勢と同じく無傷だった。
(あっさりやられて…平和ボケでもしてんじゃないのか…)
怒りやら悔しさやらが募るが今はそれどころではない。インパルスはガデッサの砲撃にさらされ大ピンチである。
「撤退しますか?」
「それm「冗談ではない! 死ぬ気で戦え!」…だよな」
「それもいいかも」と言おうとしたシンは反省。敵の狙いが分からないが平気で民間人を巻き込むような相手を放っておくのはいただけない。会場にはまだ多くの人間がいるのだ。
(こうなったら相打ち覚悟もアリか…?)
楓たちの言葉が浮かぶ。
「相打ちは不許可じゃぞ。妾はまだ死ぬつもりはない」
「俺も死ぬ時は独りでって決めてるんだ。得体の知れない連中と心中なんて出来るかよ」
海面スレスレからビームライフルを連射するインパルス。ここならビームは減退しいきなり撃破されることはない。粒子残量なんて気にせず撃ちまくる。
(といってもあの火力ならあんまり関係ないか?)
そう思った矢先、ガデッサがメガランチャーをチャージしだす。隙だらけなのだが利き目が開けられない上あの機動力では当てられない。避けるしかないがそれも難しい。水中に逃げ込んでもダメっぽい。
「…やっぱ死ぬかも」
「諦めるなぁーっ!」
ロックオンされるインパルス。ガデッサの指が引き金を引く。凄まじい出力のビームが発射される。
「やってやるさ…!」
インパルスはわずかに左に移動。右半身が丸々吹き飛び爆発。ガデッサは巻き込まれないよう少し離れようとする。
その途端、煙の中から何かが飛んでくる。
意表を突かれるもガデッサは回避。放たれた物体は…ナイフ。
(しまった!? これは…)
こんな物頭部にでも当たらなければダメージにはならない。つまり回避…目を逸らさせるのが目的。あまりに陳腐な手。
ガデッサのパイロットは急いで自機のカメラを煙に向ける。
『うおおおおっ!!』
「!!」
動けるのが不思議な位壊れたインパルスがビームサーベルを左手に逆手で握り黒煙から飛び出していた。
ガデッサの頭部から右肩までが切り裂かれる。コックピットを激震が襲うがパイロットは構わず反撃に転じようと距離を取る。
「お見事です、マスター」
エセルがスパークの走るコックピットでシンを称賛する。
「相手はまだやる気のようじゃな」
アルはメガランチャーを構えたガデッサを見やる。
「メインカメラ無しでやろうってのか…」
少量の出血をしながらシンは敵機を確認。
あの手の大型兵器は兵器自体に専用カメラが付いていて顔が無くても狙えることが多い。
「もう同じ手は使えないぞ……」
メガランチャーがバチバチ音を立てながらチャージを開始。
(相手は片腕。射撃と格闘は同時に出来ない。なら…)
シンはペダルを踏み込む。撃たれる前に仕掛けるしかない。
ガデッサもチャージ半ばで発射しようとする。その時…、
『ごきげんよう、世界中の皆さん。我々はソレスタルビーイング』
突然モニターに男が…ジェイル・スカリエッティが映った。
「細かい話は抜きにして要点を話そう。我々ソレスタルビーイングの目的はただひとつ。武力による全世界からの紛争及びそれに与する思想の根絶だ。そのため我々は擬似太陽炉搭載型StSを使ってあらゆる紛争に介入、終結させる。
ちなみに今回襲撃事件を起こしたのは統合軍の新型MS破壊のためだ。新しい兵器は争いを呼んでしまうからな。
なお我々は相手が民間人だろうと女子供だろうと一切容赦しない。争う者、争おうとする者、争いに賛同する者、争いを傍観する者…それら全てを世界中から排除する。
ただ勘違いしないでもらいたい。我々は世界の支配や人類の根絶やしにしたいのではなく、世界の平和を望んでいる。
行き過ぎた方法と思うかもしれないが、今の世界では表で分からないだけで似たようなことは行われている。隠そうとしないだけマシと思ってくれ。
それでは諸君、争いの無くなった世界でまた会おう」
モニターが元に戻った時3機のStSは撤退していた。今回は顔見せということらしい。
「明らかに見逃されたな…」
シンは息をつく。手が震えている。
インパルスはシールド損失、左足に大ダメージ。右半身はサヨウナラ。つまりは大破。だがMSよりも…
「会場は?」
ヘリコプターがいくつも飛んでいる。救助活動は行われているようだ。しかし救えない命はたくさんあるだろう。
「白河たちは大丈夫なのかな?」
到着したとき傷だらけのことりは見たが、それ以外のメンツは見ていない。
「見に行かんのか?」
アルが問うと通信が入ってくる。
『こちら統合軍所属キラ・ヤマト。そちらの所属は?』
フリーダムがゆっくり近づいてくる。レイハは他で回収しているようだ。
「いかがいたしますか?」
今のシンに所属はない。どこかの高校生軍人みたく「○○高校○年○組出席番号○番、二学期もゴミ係の~」とか名乗ったらカッコイイのかもしれないが、相手がフリーダム王子では確実に滑る。そもそも今は一学期でシンは妹係(杏に強制的にやらされている謎係)。
(でもこのまま逃げたらマズイだろうしな…)
MSの不法所持は当然重罪。正体を明かせばいいのかもしれないが、MIA扱いのおかげで追われていないためこれもNG。何か適当な言い分が必要だ。
「むぅ…」
あまりのんびり考えている時間は無い。妹脳と評判の頭を使う。
『お~い』
下から女性の声が。見下ろせば『管理局』と書かれたボートのデッキに茶髪ショートカットの少女―八神はやて―が虎模様のメガホンを持って立っている。
『キラ君ええねん。それウチで用意した秘密兵器なんよ』
関西弁でキラに呼びかける。こちらをかばう気のようだ。
(どういうことだ…仮面野郎の差し金か? よりによって管理局かよ…)
シンは苦々しい顔でボートの少女を見る。月で負けていなかったら踏み潰すぐらいしたかもしれない。
(くそっ。この間はエースオブエースに会うし…。もう管理局とは関わりたくないっての)
『そんな話聞いてないよ、はやて』
『いや~ごめんな~。ほら、こういうイベントで襲撃されるのがお約束やん? だから隠し玉は必要かなーって思うて。4ターン目あたりで味方増援があると燃えるし』
『あまり僕やラクスの知らないところで行動して欲しくないんだけど…』
キラにしては冷たい口調。しかしはやては気にせず続ける。
『そう言わんと。秘密を秘密にする最良の手段は誰にも言わないこと、やろ。これも全て“完全平和”のためやて』
『…分かったよ。なら僕は戻るよ。対策を練らなきゃね』
「っ。対策って…救助を手伝うのが先じゃないのか…?」
廃墟での救助活動は大変だ。しかしMSなら簡単に瓦礫をどかせるため1機いれば効率は跳ね上がる。にも関わらずフリーダムはアルテリア建設予定地の管制室へ向かってしまった。
シンは今すぐにでも追いかけるか会場へ行くかしたかったが、はやてを無視するわけにもいかない。仕方なくその場にとどまる。
『ほなそっちのMS。付いて来てや』
動き出したボートに続くインパルス。ボートは会場へ向かう。
「まさかのドッキリやな。どっかにカメラでもありそうや」
会場脇の広場、そこでシンとはやては対峙していた。アル&エセルは本の戻りコックピットに置いてある。本当は室内がよかったはやてだがどこも崩れており使えなかった。なので丁度人のいないこの広場にした。
救急車のサイレンやヘリコプターの飛ぶ音がそこら中から聞こえる。シンはどうにも落ち着かない。さっさと切り上げようと話す。
「軍に突き出すか? もしかしたら勲章がもらえるかもしれないぞ?」
シンは前大戦においてZAFTで一番戦果を挙げた。つまり一番人を殺した。戦時中は称えられても、敗残兵となれば単なる大量殺人犯となる。それを捕まえたとなれば間違いなく出世できる。
「ケンカ腰やな~。そないな事せんって。まずは自己紹介しよ、じこしょーかい。初対面では常識やで」
ヘラヘラした様子で言う。先ほどの発言からすると彼女はシン・アスカを知っている。MSのパイロットがそうだとは思ってなかったようだが。
「俺を知ってるんだろ。なら必要ない」
かなり冷たく言うシン。管理局の人間と仲良くするつもりは毛頭ない。
「ならわたしからな「無視!?」八神はやて17歳。見ての通り管理局所属*のかわいい女の子や。好きなものはかわいい女の子と男の娘。特技は煙に巻くこと。彼氏いない暦と3サイズは…ナイショ☆」
「*以降は容量の無駄使いだな」
「絶望した! 20バイトにも満たないことへの容赦ないツッコミに絶望した!!」
「なら俺はもういいな。じゃ、そゆことで…」
そうはさせじと去ろうとするシンの学生服を掴むはやて。
「ちゃうやろ!? そこは『ヴァーチェ呼んで来い』やろ!? わたしらの出会いはまだ始まったばかりやで!」
「じゃあ今この瞬間打ち切りだ。第2部があるといいな」
「ぐふぉぅあっ!! シビレる! 今のはサイコーや!」ウインク
シンは学校にいるような錯覚を覚える。管理局はもっと真面目な人間ばかりだと思っていた。
「さてと。じゃあツッコミ上手な君の名前その他モロモロ言ってもらおか」
「…シン・アスカ。風見学園2年。以上」
「短いっ!? それじゃ名前と学生であることしか分からん!」
「他に言うことは無い」
「趣味は? 特技は? 好きなアニメは?」
ジタバタするはやて。シンと同年齢とは思えない。シンもよく「子供っぽい」と言われるがここまで酷くは無い…ハズ。
「趣味はガンプラ、特技はフラグ立て、好きなアニメはシ○タープリンセス…ですよね?」
二人とは別の声が答える。
シンがそちらに顔を向けるとお嬢様っぽい人物―瑠璃―が執事っぽい男を伴って歩いてきていた。先ほどの答えは瑠璃のものらしい。
「アンタは? どこでそんなこと知ったんだ?」
シンは彼女を知らない。自分のことを知っているということは一般人ではない、と警戒する。
(さっきので合っとるんや…)
はやても瑠璃に会ったことはないが別に警戒はしない。ヤバイ相手だったらシンが先に何とかするだろうし、シンで敵わない相手なら自分がどうこうできるワケがないためである。
「わたくしは覇道瑠璃。名前ぐらいは聞いたことありません?」
シンはニュースや新聞はあまり見ないが、覇道という名前には聞き覚えがあった。
「風見学園を建て直したのが覇道財閥だったな。関係者か?」
総帥の娘あたりだろうと思いしゃべったシン。そこをスパーンとスリッパではたかれる。
「アホーーーっ! 覇道瑠璃ゆうたら覇道財閥の現総帥や! メディアに顔出さんので有名やで!」
はやてはこれでも労働者なのでニュースと新聞は毎日チェックしている。
「な、なんだと…? 女総帥といったらいかにもな美女or年齢不詳なロリじゃないのか? こんな中途半端な子が…」
「気持ちはよ~分かる。けどな、あの執事っぽいメガネを見てみ? あんな“れざーど”な声っぽいの連れてるのは覇道財閥の総帥ぐらいやで…」
「た、確かに…。超絶キャラの濃い“れざーど”を使うにはかなりの能力が必要だ。なら本当に……」
ワナワナと震える二人。ゲーム脳という共通点があった。
「と、とにかく、意外かもしれませんがわたくしが覇道財閥総帥の覇道瑠璃なのです。シン・アスカさん、あなたのことはあなたの友人から聞きました」
それを聞いてシンは不適に笑う。
「ふん、何を言ってるんだ。俺がシ○プリ好きなことは誰も知ら…」
「真弓さんから聞きましたよ。白河さんと眞子さんも『あ~』って顔をしていましたね」
「( ゜Д ゜)マヂ?」
「こっち見んな」
シンはしょっちゅうプリムラに熱く語っている。そこから洩れたようだ。
「とにかく本題に入りますね。シン・アスカ、わたくしに力を貸してください」
「なんのために?」
「来るべき変革に備えるため、です」
「変革? どういうことだ?」
「今は話せません。しかしこのままでは世界はある一人の人間の望んだ道を進むことになってしまいます。あなたはそういうのはお嫌いでしょう?」
「……」
『嫌いだった』というのが正確だろう。今のシンはラクス達の望んだ世界を半分受け入れている。
今回のことも別に今の世界を覆すためではない。
「ちょ~いと待ったぁ」
はやてが口を挟む。
「覇道の姫さんには悪いけど、こっちが先に目つけたんや。シン君にはウチに来てもらうよ」
何やらはやてもシンを招き入れたいらしい。
「管理局には何があっても行かない」
「何も聞かんと拒否!? お嬢口調がそんなにいいか!?」
「管理局が嫌いなんだ。それとお嬢様口調は間に合ってる」
はやてはそれを聞いてガックリと膝を着く。
シンの過去には管理局が大きく関わっている。管理局に入るなどアリエナイ。
正直はやて個人は嫌いなタイプではないのだが、管理局の人間であれば仲良くするつもりはない。
「ではさっそく…」
「え? いや、アンタについて行くのも遠慮したいんだけど…」
「!?」
「なんだその『必殺技が効かなかった主人公』の顔は? 俺は誰にも手を貸さない」
「な、なんですって……?」
かなり驚く瑠璃。横の“れざーど”な執事が進み出る。
「お嬢様のお誘いを断るのですか?」
声を口調も“れざーど”だった。
「お、俺は自分の意志で戦う。誰かに理由をもらうつもりは無い」
気圧されながらも答える。肝心の“理由”はまだ見つかっていないが…。
「それに力が必要ならフリーダムがいるだろう?」
今回フリーダムは随分苦戦していたが、シンは平和ボケでもしていると考えている。
「彼らとは別に事を進めているのです」
執事がメガネを直しながら言う。
「こっちもや。ついでに言えば管理局やのうて“わたし”に力を貸して欲しいんやけどな」
はやても真面目にしゃべる。
管理局は統合軍の一部だ。そこに所属する人間が外に内緒で何をしようというのか。可能性のあるものは限られてくる。
シンは改めてはやてを見る。まさかこの小さな少女は…
シンが口を開こうとすると誰かの電話が鳴る。
「失礼」
言って執事がポケットから電話を取り出す。
戦闘後間もないのに通話可能な電話は珍しい。
「お嬢様」
電話を切った執事が瑠璃に耳打ち。
それを聞いた瑠璃は安心した表情を見せる。
「アスカさん。あなたのご友人が全員救助されました」
「! 本当か!?」
「ええ。今病院で確認がとれたそうです」
「そうか…」
シンは安堵する。
ケガはしているだろうが生きていることが分かれば今はいい。
(今度は失くさなくてすんだな…)
「我々はこれから病院へ向かいますが…一緒に来ますか? 車がありますよ」
「…じゃあ、頼む。あ、でも」
シンはインパルスを見る。放置はマズイ。
「コレはこっちで何とかするわ。取引材料になるしな」
ニンマリするはやて。
シンとしては悩み所だが今はことり達が気になるので構ってはいられない。
瑠璃も相手に交渉の余地を与えたくないがことり達は彼女にとっても友人。一刻も早く無事を確かめたい。
「よろしいですか、アスカさん?」
「ああ」
シン、瑠璃、執事はリムジンに乗り込む。
「さってと。どないしようかな、コレ」
シン達が去った後、はやては悩んでいた。
インパルスを迅速に隠したいが人手が足りない。誰か呼べばいいのだが、シンに言った通り他人には知られたくないのだ。
「はやて」
後ろから声がかかる。
振り向けば金髪ロングでスタイル抜群の親友―フェイト・T・ハラオウン―だった。服に血が付いているのは救助活動を手伝っていたためか。
「お疲れー。被害状況は?」
「死者は今のところいないみたい。ただ…」
「ただ?」
「傷口をGN粒子に侵食された人が大勢いて…」
「…そか」
二人は鎮痛な表情をする。
今回採用されたGNドライヴには大きな欠陥がある。噴出されるGN粒子に強い毒性があり、体内に入ると遺伝子を破壊する可能性があるのだ。それは傷が一生治らないこととほぼ同義である。大怪我でもしようものなら数日後に死に至ることもあり得る。
「それで、はやて。これは? 軍の物じゃないね」
フェイトはインパルスを見上げる。
現在『ガンダム』は統合軍しか所有していない。しかしこの機体には統合軍のエンブレムは入っていない。さらに軍と呼べる組織は統合軍ぐらいしかないため、必然的に軍用機ではないということになる。
「出所は分からんけど切り札になるかも知れん機体や」
「切り札? 何の?」
「…今は何も聞かんとコレ隠すの手伝ってくれんかな?」
はやてはフェイトに真剣な顔を向ける。
「はやて?」
「そしたらちゃんと全部話すから、な?」
(ソレスタルビーイング、か。上手く利用できるといいけどな…)
(何もできなかったな…)
リムジンからボロボロの会場周辺を見るシン。
敵は本気ではなかった。にも関わらず自分は終始苦戦。
ことりがペシャンコになるのは防げたが彼女が傷だらけなのには違わない。
由夢達に背中を押されたのになんと情けないことか。
(結局俺は…無力のままなのか……)
その手はまだ震えていた。
『いや~、結構苦戦したッスねー。案外ラクショーかと思ってたんスけど…』
『それはアタシらのことを言ってんのか? ああ?』
『ち、違うッスよ。やっぱスパコと白い悪魔は強いなーって…』
『確かにな。真っ向勝負じゃキツかったぜ。くそっ。ムカツク!』
モニターの向こうで二人の『姉』が賑やかに話している。
『…さっきからどうしたんスか? 黙っちゃって』
モニターに映る無邪気な少女が尋ねてくる。この少女はガッデスのパイロットであり、ウェンディという。
ガラッゾに乗っている口調の荒いノーヴェも訝しんでいる。
「…」
尋ねられたガデッサのパイロットは自身の手の平を見る。
グローブで見えないがそこには汗をびっしょりとかいているのが分かる。
こんなのは初めてだった。訓練でも、回数は少ないが実戦でも無かったことだ。
『おーい』
あの瞬間、煙から飛び出した敵機はこちらのコックピットを狙えたハズだ。
外したのか外れたのか、それは分からない。だが、
「このままでは済ましませんよ…」
茶色のロングヘアーを持ったパイロット―ディード―は低い声で呟いた。
―やっぱり経験は偉大だね。シン君がただの才能を持っただけのパイロットだったら負けていたカモ。戦況的には統合軍の敗北だけど。
しかしあのマッドサイエンティストは何を考えてるのやら。“知る”のは簡単だけどそれじゃあ面白くない。色々手を回したんだし、じっくり楽しませてもらうよ。
赤いGN粒子を浴びた娘達はどうなってるのか、シン君に一杯食わされたパイロットはどうするのか、シン君は理由を見つけられるのか…。
今回の事件が憎しみの始まりだよ―
最終更新:2010年02月21日 07:06