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ムキドー多重クロス-07

正義…悪…。それは意志。
守るため…奪うため…。それは理由。
しかし私の意志は関係ない。理由など考える意味は無い。
私に必要なものは唯ひとつ…。
マスターの命令。
それが私の意志であり、理由……。

機動戦士ガンダムSEEDDESTINY-SIN In the Love-
  PHASE-6「それぞれの出会い」

管理局の制服を着た二人の少女が作業用ライトの中、汗を流し働いている。
「ちょっとスバル! もっと慎重にやりなさい! まだ人が居るかもしれないでしょ」
「ごめーん。でもこのサイズを慎重ってのは…」
スバルと呼ばれた青髪ショートの少女は式典会場(廃墟)にて、巨大な瓦礫をどかして言う。
彼女の言うように『慎重』に動かすには大きすぎる。テコの原理で一気にやらないととても動きそうにないサイズだった。
しかしスバルに注意をしたオレンジツインテのティアナ・ランスターはひるまない。
「それでもやるのが救助活動ってものなの。ほら、そっち持って」
「うん」
“えっちらおっちら”会場を片づけていく二人。他にも大勢の統合軍所属者が働いているが、この二人ほど熱心には見えない。
「……」
「ティア、顔が怖いよ」
「元からよ」
(これが『現状』ってことね…。でも私は)
ティアナは彼らを一瞥し作業を続ける。スバルもそれに倣う。
「ん?」
スバルは瓦礫に何かが引っ掛かっているのを発見。白くて若干厚みがある。
「何だろ? 帽子かな?」
背伸びをして手を伸ばすが届かない。
「スバル?」
ティアナが寄ってくる。
「ティア~、あれ取って」
ティアナはスバルより背が高い。
「遊んでる場合じゃないわよ」
「で、でもきっと誰かの落し物だよ。持ち主に返してあげないと」
「今どき帽子に名前なんて書いてあるわけないでしょ」
そう言いながらもティアナは手を伸ばす。が、
「と、届かない…」
2センチほど足りない。目一杯体を伸ばすが帽子が風にあおられ掴めない。
「肩車…する?」
「イヤよっ!!」
ティアナはスバルの提案を拒否。だってスカートだもん。
スバルも上にはなりたくない。ツインテが太ももに刺さって痛いから。
「くっ、帽子にまで舐められてたまるか…!」
瓦礫に手を置き体を持ち上げる。そして指先が帽子に届く。
「! やっt」

ドシーーーン……

瓦礫ごと前のめりに倒れた。

「ティア、大丈夫?」
恐る恐る尋ねるスバル。
ティアナは帽子だけを持ち上げる。調べろということのようだ。
手に取り見回す。白くて青いリボンが付いたシンプルな物だ。内側のタグを見ると、
「あ、名前書いてある」
そこには『しらかわことり』と幼い字で書いてあった。

水越病院。初音島唯一の病院であり、水越姉妹の実家である。
現在受付を始め病院内は大混雑。式典会場でのケガ人はここに運び込まれているためだ。

病院前に着いた覇道財閥リムジンから降りたシンは早足で入口へ向かう。
「アスカ君!」「シン君!」
入口をくぐったシンに二人分の声がかかる。
「白河! と、楓…?」
包帯を巻いて松葉杖をついたことりと楓やアイシア達芙蓉家一行がシンに近づいてきた。
「何で楓達までここに?」
「シン君ならきっとここに来ると思って」
「あの後すぐにここに来たんです」
楓の言葉をアイシアが引き継ぐ。
時刻はすでに22時を回っている。シンはてっきり家に帰っていると思っていた。
シンの後ろの瑠璃にことりが気付く。
「あれ、瑠璃さん? アスカ君と知り合いだったの?」
「ええ。先程」
「…」
瑠璃がことり達と親しいというのは本当だったらしい。ことりがどこまで知っているかは分からないが…。
シンはそのあたりが少し気になったが、すぐにもっと大事なことを思い出す。
「白河、他の奴らは? 全員救助されたらしいけど大丈夫なのか? 命に別条があったりしてないか?」
普段は落ち着いている(ボーっとしているとも言う)シンが早口で問うことにことり若干戸惑いながらも話す。
「実は私も知らないの。真弓さんとは一緒に来たんだけど…」
「そうか…。で、真弓は? まぁ、あいつは杉並級にしぶとそうだけどな」
軽い口調で聞くシンだが、ことりの表情が一気に暗くなる。
「……今、集中治療室で手術してる」
「え…」
「瓦礫の下敷きになってて…いっぱい血が出てて…でも私を励ましてくれて…」
「……」
どんどん涙声になっていくことり。運ばれる時点では意識が無かったらしい。
シンにはことりの言う光景が容易に想像できる。

―辺りに充満する炎と硝煙のにおい―

―全身血まみれの……―

―瓦礫に押しつぶされ千切れた……―

―空を舞う…『ガンダム』―

「…ン? シン、どうしたんですか?」
「ぁ、アイシア。どうした?」
はっと我に返るシン。呼びかけていたアイシアを見る。
「それはこっちのセリフです。めちゃくちゃ顔色悪いですよ」
「まさかどこかケガを!?」
「あ、い、いや…。大丈夫。全然平気だ」
楓がこの世の終わりみたいな顔をしだしたので慌てて首を振る。音姫や由夢も心配そうだ。
「俺よりも他の奴らの心配だろ。真弓は…大丈夫だって。統合軍襲撃なんて超スクープを放って死ぬはずないさ」
「そう、ですよね。真弓ちゃんならそうですよね」
楓が頷く。
しかしシンは分かっていた。助かる可能性は低い、と。
だがそれを言うことはしなかった。戦争を知らない彼女達に現実を突き付けるのはあまりに酷だからだ。
(でもいずれは…)
そう遠くないうちにその日は、受け入れなければならない時はやってくるだろう。ならば今のうちに覚悟を決めてもらうのも大事かもしれない。そうしておけば不意に訪れる別れよりも楽かもしれない。
シンは迷ったが言わないことにした。いや、言う勇気が無かった。
シンにとっては『友人』『家族ごっこ』でしかないはずの彼女達の悲愴な顔を見るのが怖かった。

『娘、乙』
「死んでください」
『もう反抗期か!? こんな時はどうすればいいんだい、ウーノ?』
『Dチャンネルで聞いてください』
従順なはずのディードの容赦ない言葉が、モニター越しに生みの親であるスカリエッティのハートを一撃で粉砕する。スカ(コスト2000)に360のダメージ。
普段は表情を変えないウーノも面倒くさいと言わんばかりの顔で答える。スカに200のダメージ。
『ワタシハ、ガンダムニハナレナイ』
モニターの向こうでしゃがみ込むスカリエッティ。すぐにウーノによってスクリーンアウト。
「おいおい、どうしちまったんだディード? 本音がダダ漏れだぜ?」『ウワアアァァ』
「はいッス。本音と建前が逆になるようなキャラじゃないのに」『ダイカハワタシノイノチトウイワケカ』
ノーヴェ、ウェンディがディードを見る。彼女はイライラしているように見えた。
『…シン・アスカにしてやられたことが気に入らないみたいね』
「!」
ウーノに目をやるディード。
「シン・アスカ? 聞いたことあるッスね…。誰?」
「お前は…。元ZAFTのエースだろうが! メモリーぶっ壊れてんのか?」
「むむ、失礼ッス。先週見た『魔法少年シニカルゆーの』だってバッチリ覚えてるッス」
フフンと威張るウェンディ。アニメの内容に触れてはイケナイ。
「…お姉さまは何故アレに乗っていた人物が分かるのですか…?」
ディードが問う。
ちなみにウーノは彼女達の長姉である。ここで言う「お姉さま」もウーノを指す。
『彼が来るようにこちらで手を回したからよ』
「ちっ。聞いてねーっての」
「そうッスよ。ビックリッス」
「私達に話していただけなかったのは?」
『ひとつは彼が来るという保証が無かった。不確実な情報を与えるのはナンセンスでしょう。
もうひとつはあなた達の対応力を測るため。後発組のデータ収集が万全ではないの。
…以上の点からあなた達には話さなかった。
まだ質問がある?」
ウーノらしい散文的な―スカリエッティ曰く「面白味のない」―答え。
妹達は何も言わなかった。
『ちなみにっ』
「うわっ!?」
突然スカリエッティがモニターに割り込む。超どアップ。
『彼の乗っていたMSとガデッサの性能差は大佐が『MSの性能差が~』の件を言いたくなるぐらいある』
「…何が言いたいのですか?」
ディードがスカリエッティを睨む。
とは言え彼女にはそれがどういうことか分かっていた。
経験の差。そして積み重ねた訓練の量。
シンが本調子ではないことはすでに知っている。戦う気力など残っていないこともこの目で見て分かっている。
あのまま戦闘を続けていれば十分破壊出来ただろう。しかしそれは紛れもなく『性能差』によるもの。
『破壊』が任務であればそれでいい。ディードはいちいち任務の過程にこだわったりしない。
だが今回の戦闘は『余興』のようなもの。実際スカリエッティからは「適当に暴れろ」という指示を受けた。
つまり全て自己責任。そうなってくるとディードという娘は生来の完璧主義という部分が顔を出す。
だから彼女は我慢ならないのだ。情報を意図的に隠されたこと、シン・アスカが思いの外強かったこと、何よりも相手の実力を測り損ねた上に機体に助けられたことが。

「あなた達は予定通りギガフロート経由で戻って頂戴。トーレがすでに手筈を整えているはずよ」
『りょーかいッス』
ウェンディの言葉を最後に通信が切れる。
「さてと…面白くなってきたね」
スカリエッティはイスに深く腰掛けニヤニヤする。
「忙しくなる、の間違いでは?」
「忙しいのも楽しい内さ。
シン・アスカは私の期待通りとはいかないまでも、かつての力の片鱗を見せてくれた。
おまけにディードは規定値以上の感情変動を起こしている。
さらにはエースオブエースの撃破。これを受けて世界は一気に動く。
素晴らしい。私の予定以上の成果だ。
イオリアには悪いが計画の前倒しも検討しなければな」
そう言いスカリエッティはコンピュータのキーをいじり出す。実に楽しげだ。
ウーノはそれを見てため息をひとつ。そして彼女もまた自分の仕事をこなすため部屋を出て行った。

「く、くそっ。応援はまだか…」
男は物陰に隠れレシーバーが鳴るのをまだかと待つ。すると、
「うわあぁっ!」
目の前にあった壁が崩壊する。
そこに青いショートヘアの女が立っていた。
「う、う、うわあああああっ!!」
男が震える手でマシンガンの引き金を引く。砲口が立て続けに火花を吹く。
しかし女は何発命中しても全く動じず、そのまま男に向かって歩いて行く。まるで効いていないかのように。
「ば、化け物めぇぇっ!」
それでも男は叫びながら撃ち続ける。それしか残されていない。
「…」
「え…?」
女の姿が消える。
男は辺りをキョロキョロするがどこにもいない。
「…は、ははっ。そうか…これは夢か。そうだ。そうに決まってる。でなけりゃ銃弾が効かない奴なんて…」
「ここにいるぞ」
「!?」
男は背後を振り返ろうとした。だがそれは叶わなかった。
「それと応援は来ない。お前が最後だ」
女は血だまり“だけ”となった男を見やり『姉』へと通信をつなぐ。
「こちらトーレ。掃除は完了した」
『了解。ノーヴェ達はもう向かっているわ。ダミーもすぐに送るから待機していて』
「了解した」
トーレは先程破壊した壁を見てつぶやく。
「この程度の強度でよく水上に作ったものだ」
深夜。ギガフロートに残っているのは彼女だけとなった。


その日はとても天気が良かった。
絶好の昼寝日和といえた。

『オーブは他国の侵略に屈しない!』
『オーブの意思こそが正しい道なのだ』

多くのMSが飛び交う。
敵を求めて武器を構える機体、爆炎を上げて落下する機体、そのどれもが「戦争」をしていた。

「連合の狙いはマスドライバーとモルゲンレーテだろう。港まで行けば大丈夫さ」
「そうよ。だからもう少し頑張って!」

しかし、戦場の中で「戦争」をしていないMSがいた。
それらは相手の戦闘力だけを奪うように戦っていた。

「あれが…ガンダム…」
「こらっ! 立ち止まるな!」

蒼い翼の機体、紅いボディーの機体、巨大な槍とも杖とも見える武器を持った機体。
そのどれもが踊るように空を舞っていた。

「はぁ…はぁ…」
「船が見えた…。あと少しだからな」

避難船の前では軍人が必至に逃げる人々を誘導している。
しかし避難してくる人々は我先にと急ぐ。

『見つけたぜぇ! 白いMS!』
『くっ! さっきの新型…!?』
『もぉー! 話を聞いてってば!』
『お前…ウザいんだよ…!』

量産機とは一線を画す機体同士がぶつかり合う。
その余波はすさまじく…

「あっ、マユのケータイ!」
「そんなのいいから!」
「でも…!」
「僕が取ってくる」

一方は大切な人を守るため、もう一方は生きるため。
理由は違っても、その手段は互いに同じで…

「お兄ちゃん!?」
「大丈夫だって」

背中から大砲をのばした機体が一斉に光を放つ。
蒼い翼の機体は鮮やかにかわし、虹色にも見える光を放ち…

「あった。これだな…」
「急げ!」
「ああ。……っ!?」

光が一帯を包む。
爆風が全てを吹き飛ばす。

「っう…何が…?」
「大丈夫…には見えないね。早く医者に診てもらうべきだ」

目の前には砕けた地面と焼かれた草木。


そして……

「! 父さん、母さん! マユっ!」

岩肌に叩きつけられた男性。

「!?」

ねじ切られたかのような女性。

「っぁ」

瓦礫の脇からのぞく少女の腕。

「! マユ!? マユっ…」

しかし、瓦礫の向こうには何もない…

「…ぁ、ぅあ…」

炎の熱さも、大きな爆音も、とても遠くに感じて…
血まみれのはずなのに痛みはちっとも感じず…

(いない。父さんも母さんも、マユも…)

すぐとなりに立つ女性の声さえ聞こえない。
ピンクの携帯電話を握った手の感触と目の前の光景しか認識できない。

「ぁ…ああ……ぅ」

体が震える。
涙があふれる。


「うああアアあぁぁァぁァァぁぁぁ!!」
跳ね起きる。と、外からドタドタと誰かが走る音が。超速い。
ドアがマンガみたいに“バーーーンッッ”と開く。ドアさんカワイソス…。
「シン君どうしたんですかっ!? 何があったんですかっ!? 局長さんが現れたんですかっ!? 先輩ソルジャーさんが亡くなったんですかっ!? 銭湯に円盤が突き刺さったんですかっ!? 酢飯さんがさらわれたんですかっ!?」
包丁とまな板を持った楓が一気にまくし立てる。
「……夢…?」
シンは呟く。どうやらさっきのは“いつもの”悪夢。実際に叫んでしまったようだ。
「由夢!? 由夢さんがどうしたんですか!?」
「へ? い、いや。ちょっと変な夢を…」
「変な由夢さん…。………もうデレ期がっ!?
そんな…いつのまに由夢さんルートに!?」
「ん? 夢のルート(筋道)はいつもと同じだけど…」
「いつもっ!? つまりシン君は最初から&毎週由夢さんルート…!!
そ、そんな…そんなことって……」
かえで は こんらん している。
しん は ごかい に きづかない。
ガックリと膝をつく楓。
シンは「?」を浮かべながらも悪夢の名残を振り払うかのように頭を振り、部屋を見渡す。
シ○プリ枕。天井とドアのシ○プリポスター。壁に掛けられた学生服。机に置かれたマンガ。本棚にもマンガ(&こっそりムフフな本)。ガンプラ用のガラス棚。ここは芙蓉家のシンの部屋である。

シン達はあの後、純一や杉並達と無事再開できた。彼らもことりと真弓を探していたらしい。
当然彼らもVIPルーム崩落に巻き込まれていたが、避難が早かったことと単純に運が良かったことが幸いして軽傷ですんでいたのだ。
真弓のことを聞くと皆暗い表情をしていたが、悩んでいてもどうしようもないということで気を取り直し、今日は解散となった。
ことりは念のため入院。VIPやらの負傷者も多く、しかもそういう人間は優先しなければならないため病室の確保は厳しかったが、水越姉妹というコネのおかげで何とかなった(ことり自身は申し訳なさそうだった)。
そして、シン達が帰宅した時にはすでに日付が変わっていた。

「…! 今何時!? 学校が!」
今日は月曜日。4月に連休はない。
シンは時計を慌てて確認。現在…
「8時22分…だと……?」
(終わった…。紅女史に張り倒される…)
紅女史は昨日の草むしり終了時にこう言った。「明日休んだらタダじゃおかんぞ」と。
遅刻だってタダじゃすまないだろう(普段からだが)。
うなだれるシン。そこへ、
「やっほーー♪ 久しぶりに家長(?)様が帰って来たよ~」
久方ぶりに帰宅したさくらが現れる。
うなだれるシンとうずくまってブツブツ言っている楓を目にする。
「…どしたの?」

「あはははは♪」
「そんなに笑うなよ」
「や、おかしすぎですから」
「寝てたんだから分かるわけないだろ」
「まあそうなんだけどね」
諦めたシンが居間に降りてくると音姫が心配した顔でシンに悲鳴のことを聞いてきた。
適当にごまかしたシンだが、そこで疑問にぶち当たる。「何でこの人まだ家にいるの?」
音姫に聞くと「今日から2日間休校なんだって」と言われた。
かつての副長ばりに「な、なんだってーーーーっ」なシン。
そこへ現れた由夢に「だから紅薔薇先生のお仕置きは無しですよ♪」としたり顔で言われた。
由夢が言うには、シンは青い顔をしていたらしい。
そして先程の由夢の爆笑である。
「くっそぅ…。由夢だって最初はビビってたんじゃないのか?」
「や、私はいつもの時間に起きてたし」
「…就寝時刻は同じはずなのに……」
久方ぶりのMSの操縦で疲れていたと言えばそうなのだが、日頃の生活態度の差の気がする。
「ボクもびっくりだよ。島に着いたら報道関係者がびっしりだもん。駅から出るのに苦労したよ~」
さくらが“語尾が「~ッス」なピンク髪の天使”が書かれた湯飲みで茶をすすりながら言う。
さくらの言うとおり、現在先日の『式典襲撃事件』&『ソレスタルビーイング発起』を知った報道関連機関がこぞって初音島に来ている。しかも島には空港も高速もないため、船か近年開通した電車しかない。混雑して当然である。
「今日は特番だらけですね…」
「『シニカルゆーの』は…?」
「深夜の所は『番組は未定です』ってなってます」
アイシアが新聞のTV欄を見てしょげる。プリムラも楽しみにしているアニメが潰れて不満気だ。
「仕方ないよ。あんなの前代未聞だからね」
ソレスタルビーイングは世界中にケンカを売ったようなもの。音姫の言うようにそんな連中が現れるなど前代未聞の大事件だ。
ニュースによればラクス・クライン一行はすでにオーブへ帰還。対策を練っており、本日中に会見も行うらしい。
「…ところで弟くん」
「ん?」
「昨日のことなんだけど…」
「……」
「話してもらえるかな? 
どうして弟くんがMSを操縦出来るのか。
どうして何も守れないなんて言うのか。
ジェイル・スカリエッティっていう人とどういう関係なのか」
音姫が真剣な顔でシンにたずねる。さくら以外も真面目な顔を向ける。
「シン君」
「……」
「…ダンマリっていうのは無いんじゃない。私達がどれだけ心配したか…!」
「由夢ちゃん」
声を荒げかけた由夢を音姫が制する。
「でもね、弟くん。心配したのは本当だし、何も聞かずにいられるほど浅い関係でもない。少しでいいから話してくれないかな?」
「………」
「シン!」
「ま~ま~。そうシリアスにならずに。このミッドチルダ土産の『レイハさん姿焼』でも食べようよ♪」
アイシアに割り込む形でさくらがお菓子を取り出す。箱には『ちょっとした応用編なの』とある。
アイシアはムッとしながらも開封。ひとつ頬張る。
「…辛っ!? ちょっ、辛っ!! 何ですかこれ!? 尋常n辛いっ! しゃべれない! あまりの辛さにsy痛いっ!! 舌が!! 呼吸が!!」
慌ててお茶を飲むアイシア。それでも辛いのか悶絶している。
「にゃはは♪ どうやらアイシアは『私の言うこと、そんなに間違ってるかな?』味に当たったみたいだね」
「な、何ですか、その恐ろしい味は?」
「えーっとね…Xオージャンが原液で入ってるって」
楓の質問に箱を裏返しそこの表示を見ながらさくらは答える。
「この『ちょっとした応用編なの』には色々な味のレイハさん姿焼が入ってるんだよ。お得でしょ♪」
「他にはどんな味が…?」
「『悪魔らしいやり方で』味と『全力全壊!』味、それから『少し、頭冷やs」
「もーいいっ! 分かった! 完食するにはドラゴン○ールが必要なことがよ~く分かりましたっ!!」
叫ぶ由夢。アイシアを見ると…見なかったことにした。
そして「ふぅ」とため息。シンを見て、
「話したくないならいいです。楽しい内容じゃあなさそうだし」
そのまま席を立ち2階へと上がって行く。
他のメンバーも各々席を立ち散らばる。
食卓にはシンとさくらだけが残された。
(何やってるんだろうな…。昨日の時点で聞かれることは分かってたのに)
シンはこの期に及んで何も話せないことを不思議に思う。
(どうして話さないんだろう。別に話したって減るもんじゃない。皆だって聞きたがってるのに)
だがシンは話さなかった。それが自分でも分からない。
敗軍の兵士というのは平和になれば重罪人である。シンとて例外ではない。
(俺がZAFTにいたってバレて通報されるのが怖いのか?)
思い、それはないと結論する。
いくら報奨金が出るからといって彼女達がそんなことする人間には思えない。そもそも自分は死んで当然だと思っているし、死ぬのは怖くない。
他の要素を考える。
おそらくシンの過去を知れば彼女達は怯える。数え切れないほどの人間を殺害した奴が目の前にいれば当たり前だ。だが、
(それがどうした。俺はいつだって…)
嫌われ者だった。同僚との間には壁があったし、上官との折り合いは最悪。それが原因で周りからは完全に孤立。疎まれてさえいた。
(じゃあ…どうして……?)
いくら悩んでも答えは出ない。自分のことなのに分からない。
シンがそうやって悩んでいるとさくらが話しかける。
「ま~たシリアス入ってるー。力抜いていこーよー」
「…そうもいかないんだ」
「昨日MSで戦っちゃったから?」
「!! 聞いたのか…?」
「ううん。TVでチラっと見た。シン君が昔乗ってたのにそっくりなMSが戦ってるの。多分統合軍でも行方を追ってるよ」
同型機だからといってパイロットが同じとは限らない。鎌を掛けられた、シンはそう思ったがさくらは否定する。
「別に当てずっぽうで言ったんじゃないよ。ちゃんと確信あってさ。なんせボクは魔法使いだからね♪」
「そんなことまで魔法で分かるのか」
魔法の知識0のシンは素直に「そんなものか」と納得。
さくらはいくらか真面目な顔をする。
「音姫ちゃん達なら分かってくれる。その上で待ってくれると思うよ」
「……」
「シン君は十分苦しんだ。もういいんじゃないかな?」
「別に、今は苦しんでなんかいない」
「そうかなー? ずっと苦しんで、悩んで、そのくせ全部諦めてるように見えるよ」
以前ことりにも似たことを言われた。「何に苦しんでるの?」と。
だからシンも同じように答える。
「気のせいだ。俺は何も苦しんでない。…諦めてはいるかもしれないけどな」
「………」
会話が途切れ沈黙が訪れる。そんな中電話が鳴る。すぐに楓がやってくるだろうが、
「ボクが出るよ」
さくらが立って電話に向かう。
「は~い、居候が可愛くて評判の芙蓉で~す」
ずっこけた。階段からも派手な音が。


『のう、ナコト写本』
『なにかしら、アル・アジフ?』
『妾達はいつまでここにおればいいんじゃ?』
『マスターがお戻りになるまでよ』
『随分時間が経った上にどこかに運ばれたぞ』
『…マスターの御意思ではなさそうね』
『…偵察するか』
『なら私が』
『いや、妾が行く』
『社会常識が欠如してるあなたでは無理よ』
『なんじゃと!? そう言う汝とて男に媚びることしか出来んではないか。その調子で男共から情報を得るつもりか?』
『失礼ね。マスター限定よ。それにあなたみたいな全身真っ白なんて目立ってしょうがないわ。偵察には向かなさすぎね』
『真っ黒も十分目立つわっ。何より妾には探偵経験がある。汝と違ってな』
『それは別の世界での話でしょう。『ここ』のあなたにはそんな経験ないはずよ』
『ぬぬぬ…』
『~~~っ』
クライムインパルス、コックピット内。
シートの裏に隠された二冊の魔導書が本のまま睨み合う。
「……」
感じる視線。二人(二冊?)が上を見上げれば、
「………」
オッドアイの幼女―ヴィヴィオ―がメッチャ見ていた。
『…』
「…………」
本形態の声は意図した相手以外には聞こえない。それ以外で聞こえるなら特殊な魔法を用いるか、魔導書を生み出せるぐらいの魔力が必要だ。二人の知る限りそんな人間は現代にはいない。
だというのにヴィヴィオは二冊を不思議そうな顔で凝視している。さらに、
『あっ、こら』
『ちょっと…』
二冊を手に取り持ち上げる。そして、
「あなたたち、お話しできるの?」
話しかける。目がキラキラしている。二人の会話により好奇心が刺激されまくったようだ。
『…』
『…』
黙秘権行使。
「ねーねー、お話しできるのー?」
上下に振る。シンは「重たい」と言っていたが軽々と振りまくる。
実は魔導書は『腕力』ではなく『魔力』によって感じる重さが異なる。少なくともヴィヴィオはシンとは比べ物にならない魔力を保持していることになる。
『…』
『…』
なおも沈黙する二人。話すと大騒ぎになりかねない。
「……グス」
『!』
涙ぐむヴィヴィオ。ビビるアル。
(な、なぜ泣きそうになる!? ああっ。な、涙がこぼれる!)
堤防が決壊してしまえばあとは止めどなく流れ出すのみ。
現在地は不明だが、泣き声によって人が集まってくると面倒だ。
『…』
「…ヒック」
(ええーい…これだから童は!)
『何じゃ…何か用か?』
「!」
仕方なく声を出すアル。パァっと表情が明るくなるヴィヴィオ。エセルはそれを見て肩をすくめる(本だから見えないが)。
「あ、あのね…あのね」
『だから何じゃ? それと揺するでない』
嬉しそうに二冊をブンブン振るヴィヴィオ。
「わたしね、ヴィヴィオっていうの♪ 本さんは?」
『アル・アジフじゃ』
「黒い本さんは?」
『エセルドレーダよ』
エセルも観念したのか名乗る。
「すごいね! お話しできる本なんて初めて見た♪」
そりゃそうだろう。話が出来る本なんてどこにも売ってない。
『ヴィヴィオ、といったわね。ここはどこ?』
エセルはヴィヴィオから現状を聞き出そうとする。見た目幼女だが認識能力は高そうなので場所ぐらいは聞けるはずだ。
「ここはね~」
二冊を抱えて外を向く。
「ナントカってお風呂屋さんだよ」
肝心な部分が分からない。
(金髪女が乗っていた時間はわずか。戦闘場所近くの…銭湯? といっても周りの施設なんて全然知らないわね)
どうやら廃業されてから随分経っているらしく、かなりボロボロだ。
穴のあいた屋根から差し込む光から昼間であることが分かる。
『汝はなぜこのような所におる? 保護者はおらんのか?』
「ここはね、この間見つけたばかりの秘密基地だから誰も知らないんだ~♪ 
でも昨日はこのロボットはなかったのに…」
うつむくヴィヴィオ。自分以外にここを知っている者がいて悲しいようだ。
「でもお友達が増えたからいいや」
『それは妾達のことか?』
「うん♪ ママが『名前を知ってお話ししたら友達』って言ってた」
二冊を抱いたまま銭湯のイスに座る。
エセルは再び質問。
『ヴィヴィオ。この銭湯はどこにあるの?』
「初音島の端っこ。近くのお家にも誰もいないよ」
再開発地区というやつか。
(島の中ならこちらからマスターを見つけることも可能ね)
待っていてもいいが、魔導書は長時間契約者からの魔力の供給が断たれる(離れる)と本自体の魔力が消費され、最悪契約解消という事態に陥る可能性がある。
(私達はただでさえページが抜け落ち魔力が不足している。マスターの魔力も低いから供給可能範囲からも完全に出ている。ノンビリしているヒマはないわね)
優先度の違いこそあるが、『契約者の力になる』という部分は全魔導書に共通するものだ。エセルは中でもそれが強い。マスターとの『契約満了』を果たす前に契約解消など耐えられない。
なのでエセルは行動を起こす。
『ねぇヴィヴィオ。冒険に行かない?』

「ぎゃらっしゃーーーっ!!」
「ぇンリケっ!?」
水越病院3階廊下に叩きつけられるシン。ことりの病室に入るなり蹴り飛ばされた。
「…ごふっ。なぜ俺は、病院で瀕死の一撃を…?」
蹴り飛ばした女性は、
「あ、スマン。朝倉かと思った」
「人違い、だと…?」
立ち上がれないシン。キズは深い。
「あの、俺もいるんスけど…」
おずおずと病室に顔を出す純一。すると女性はダッシュ。
「往け! 無明の世界へ!!」
純一にボディブロー。さらに一瞬“溜め”を作り一歩踏み出す。寸打という技だ。
「~~っ」
純一は言葉も発せず崩れ落ちる。
「お、お姉ちゃんっ、やりすぎだよ!?」
ベッドにいることりが慌てる。
そう、この女性はことりの姉の佐伯(旧姓白河)暦。教師だったり研究者だったりと色々な顔を持った人物である。
その暦はことりを振り返る。
「何を言うんだ。このような男は裁かれてしかるべきだ」
「それはもう解決してるから…」
「ふん、そうは見えないがな」
そう言って暦はその他の面々を見る。
「すまない。見苦しいところを見せた。さ、中へ」
芙蓉一家(アイシア除く)、眞子、美春、みくともが病室へ入る。シンは体を引きずって続く。
「……」
純一は廊下で気絶していた。

今朝芙蓉家にかかってきた電話。それは美春からで『皆でお見舞いに行こう』という内容だった。二つ返事で了承したシン達は水越病院へやって来た。
なお瑠璃、杉並は忙しいらしく不参加。音夢、萌は病院の手伝いをしている。
また真弓は未だ面会謝絶だった。

「そうか。君がウワサのシン・アスカか」
「ウワサ?」
皆がことりに様子を聞いていると暦がシンに話しかけてきた。さっきのこともありちょっとビビるシン。
「ああ。何でも学校でハーレムを築こうとしているらしいな」
「!? そんなデマをどこから?」
「デマなのか? 昔の“つて”で聞いたんだけどな…」
暦は風見学園で教師をしていたこともあるので、そのころの友人から今も学園の事情に詳しい。
「うちのことりにもフラグを立てようとしているらしいな…」
目つきが鋭くなる暦。
「ちょちょっ、してない! そんな努力はしてません!」
「まぁ、朝倉のような真似だけはするなよ。その時は私は君を葬らなければならないからな」
「病院で物騒なこと言わないで下さい」
シンも朝倉兄妹とことりの間にある事情は知っている。暦が心配するのも分かるが、少なくとも自分とことりがそういう間柄になるとは思っていない。

「でも良かったわね。ことりは大したことなくて」
「うん。骨折も魔道医術ですぐ治るって。週末には退院出来るそうっす」
みっくんに笑顔で答えると、ことりは楓が持ってきたお見舞いを見る。
「何か悪いね。こんなに豪華なもの」
「いえ、スーパーで売ってる果物セットですから気にしないで下さい」
「シンが『どうせなら豪華なのにしよう』って選んだ」
プリムラが楓を補足。
「あはは。アスカ君らしいね」
そしてしばらくその果物を見つめることり。そこであることに気付く。
「アスカ君」
「ど、どうした…白河?」
「メロンは?」
「え?」
「あみあみのメロンは?」
「あみあみ? …マスクメロンのことか? さすがにそれが入ってるのは無かったな」
「ガーン」
目に見えて落ち込むことり。
「え、なに? 白河ってメロン好きなの?」
「…スパイラr」
「なっ、リムちゃんっ!? それ以上は…!」
楓はプリムラの口を塞ぐ。
(くっ、そういうことか…。だが俺の財力でメロンなんて。しかしアスランを使うわけにもいかない)
そもそも該当シーンに鳴○弟はいないのだが…。
「アイズクンガイレバ…」
ことりがとうとう実名を。シンは何かいい案はないかと思考を巡らす。
「……!」ピコーン
「おおっ! アスカの頭に古めかしい電球が!」
シンの頭の上を見て眞子が驚く。
「よーし、待ってろ白河。メロン買ってくる!」
そして病室を飛び出したところで純一につまずきひっくり返る。が、すぐさま立ち上がり競歩で去っていくシン。
「…ちょっとからかうつもりだったんだけど……」
「いいんじゃない? 弟くん昨日からずっと暗い顔してたし。きっと気分も晴れるよ」
再び室内で会話が始まる。
しかしさくらはそれに加わらず―室内に入ってからずっと―窓から外を見ていた。
「…」
その表情は……決して明るいものではなかった。

病院1階の自動販売機前。
シンはそこでニヤニヤしていた。
(ふっふっふ…。メロンはメロンでもメロンソーダ! これなら120円でメロンが味わえる!)
自販機のメロンソーダには『マスクメロンの味わい』とある。
(もしダメでも“飲んだジュース(の缶)が女の子になっちゃう”作品のおかげで許してもらえる…ハズ!)
ボタンを押して取り出し口からメロンソーダを取り出す。ついでに他にも何本かジュースを買う。元から軽いサイフがさらに軽くなった。
病室へ戻るためロビーへ行こうとすると人にぶつかる。
「あ、すみまs」
「どこ見て歩いてんのよ…」
ぶつかってしまったオレンジツインテールの少女に物凄い形相で睨まれる。目の下のクマと合わさってシンは戦慄する。
「ヒィッ! ゴメンナサイ!」
「こっちはクソ眠い中働いてんのよ。フラフラ歩かないでくれる?」
ヤヴァイ職業の人とぶつかってしまったのかと焦るシン。するとツインテの連れらしき青髪ショートの少女が割って入る。
「ご、ごめんね~。この子寝不足で気が立ってて。普段はもうちょっと優しんだよ?」
「スバルうっさい。大体あんたが『早く届けてあげようよー』なんて言うから寝ないで来たんでしょうが。
そもそも何で私まで一緒に来ないといけないのよ。届け物ぐらい一人で行きなさい」
「で、でもあたし病院って一人で来るの怖くて…」
「診察に来るわけじゃないでしょ!?」
ツインテの怒りの矛先が青ショートに変わったと見てシンは逃げ出した。
しかし回り込まれた!
「なんてフットワークだ…!」
「あ、あのさ、人を探してるんだけど」
「んなもん受付で…」
言ってシンは受付の方を見る。
そこは見舞いに来た人々で一杯になっておりとても並ぶ気にはならない。
「…俺病院の関係者じゃないからあんま知らないぞ?」
「ま、手当たり次第ってことで」
「で、誰を探してるんだ?」
ツインテが白い帽子を見せる。シンはそれに超見覚えがあった。
「『しらかわことり』さんよ」

―いやはや、まさかの展開。魔導書とあの子が会っちゃうなんて。でもシン君はそれどころじゃないか、友達があの様じゃあ。赤いGN粒子による細胞破壊もあるし心配だねぇ。
シン君の過去もそうだけど、桜の魔女も何か隠してるっぽいね―

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最終更新:2010年02月21日 07:11
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