第1話『・・・分からない!!』
2日目の朝6時、ピピピという目覚まし時計の音でディエチはシンより先に起きて、目覚まし時計を止める。これはシンが寝ぼすけというわけではなく、当たり前だがディエチがまだこの環境に慣れておらず常に警戒心をもっており感覚が鋭くなっていたのが原因である。
「・・・・やっぱり夢じゃなかった。」
いつもとは違う景色、布団、枕、物とその配置、いてくれる人、全てが違うこと気づく。にやはり自分は違う世界、C.E.に来てしまったんだと改めて実感した。たとえ暖かい布団の中ではなく、冷たい監獄だとしても家族と一緒にいたいと思うのは当たり前である。さらに灰色のカーテンの隙間から見える昨日からいまだに降り止まぬ雨が気分を重たくした。顔を触ってみると乾いた涙の跡があり不愉快だった。ふと寝た姿勢のまま前を見てみると、昨日何も言わず自分の悲しみを受け止めてくれた不器用で優しい背中があった。白いシャツの肩の部分には赤茶色の斑点がポツポツと幾つかあって、昨日自分が爪を立てて傷つけた際に出た血の跡だとすぐに気づく。
「・・・痛くなかったのかな?」
考えてみれば初めてだった。自分の肉体を使って直接他人を傷つけたのは
思い出してみれば初めてだった。他人の背中で思いっきり泣いたのは
初めてだった。「援護」「支援」ではなく「守る」と言われたのは
背中にそっと触れた。
「あったかい・・・」
額をそっとあてた。
「・・・やっぱり夢じゃなかった。」
心地よかった。そのまま又寝てしまいそうだった。
「はッ!」
目覚まし時計を止めてしまったにもかかわらず、ディエチは二度寝しようとしている自分に気づいた。
「あ、朝ごはん・・・あれ?」
ディエチは昨日の話し通り朝食を作るために布団から出て立ち上がろうとした。立ち上がったつもりだった。だが体に力が入らず、間接に踏ん張りがきかずベットからズルリと転げ落ちた。迫ってくる冷たく固い床、腕で体を支えようとするが。
(力が入らない?!)
ディエチは目を閉じて、すぐに来るであろう痛みに備えた。だが、なかなか衝撃が来ない。恐る恐る少しずつ目を開けた。
「・・・え?」
鼻が床とキスする15cm前で止まっていた。
「ん~何やってんだよ。・・・朝っぱらから」
寝ぼけたシンが左手で猫のように目をゴシゴシとしながら、右手でディエチの体を受け止めていた。
「あ、お早うございます。」
苦笑いしながら答えた。
「あ・・・おはよう」
「あの・・・シンさん」
「ん・・何?」
「胸が苦しいので降ろしてもらえませんか?」
「え゛ッ!?」
心拍数が一気に上がり、シンの意識が覚醒した。よく見てみるとシンの右手がディエチの胸を掴む形になっていた。あえて言おう今のディエチはノーブラであると。
「うわあああ!!!わっとととっ!」
シンは驚いてあたふたしているうちにバランスを崩してしまった。
「シンさん!動いちゃダメ!」
「「あ」」
シンはディエチの体重に体をもっていかれベットから落ちた。
ディエチは今度こそ床と激突すると思い目を閉じた。だがまた、いつまでも衝撃が来ない。
「・・・あれ?」
「いつつッ大丈夫か・・・?」
ディエチはシンの体の上にいた。ディエチが床に触れる前に少しだけ持ち上げ右肩から自分の体を滑り込ませクッションにしたのだった。だが第3者がその場にいれば間違いなくシンがディエチを体の上にのせて抱いてるようにしか見えなかった。
「・・な、なあディエチ、後でビンタでもグーでも受けてやるから・・・どいてくれ」
ディエチが顔をシンの胸に密着させて、体をすりよせていた。いや動こうとしていた。シンは腹部に当たる2つの突起の接触により下半身に固定装備しているアロンダイトを展開しつつあった。
「できません。」
「へ?」
「力が入らないんです。」
ディエチはプルプルと震える手をシンに見せた。
(・・・・まさか!)
シンは真っ青になった。
「大丈夫なのかよ!?目まい、吐気は!?禁断症状はあるのか?!!」
シンはディエチの両肩を掴みベットの側面に押し付け叫んで聞いた。その表情は鬼気迫るものがあり、ディエチは怯えた。
「な、ないよ!大丈夫だってば!今日1日安静にしていれば治るよ!・・・・多分」
「そ、そっか・・・・」
シンは青ざめたまま全身の力が抜け、肩で呼吸し始め頭がカクンと下がった。
「・・・・よかった」
「あの・・・大丈夫ですか?」
「ああ、動けないんだっけ、なら」
シンは、ディエチを軽くお姫様抱っこし。
「今日は休んでろよっと」
ベットの上に寝かしなおした。
「はい、すいません。」
「気にするなよ。俺も動けなくなったら看病してもらうつもりだから」
「あの・・・・シンさん」
「ん?」
ぺチッという間抜けな音が響いた。ディエチが力の入らない腕でシンにビンタ(?)をしていた。
「なぜかやっておかなければならないと思ったので・・・」
「うん・・・・お前は間違ってないよ。じゃあちょっと顔洗ってくる。」
シンはさっきの焦りを誤魔化すように手を振り乾いた笑いをしながら洗面台に歩いていった。ディエチは顔がなぜか熱くなっていくのが分かった。
「夢じゃなかったか」
シンは蛇口から出る冷たい水で青ざめた顔を洗い、タオルでゴシゴシと拭き、歯ブラシを濡らし歯磨き粉をつけて口にくわえた。
(そういえば、久しぶりに見ていないな)
ふと久しぶりに“あの悪夢”を見ていないことに気づく。
(いつもなら酒を浴びるように飲んでようやく寝付けるぐらいなのに)
そして、もう1つタオルを濡らして絞り、コップに水を入れ、洗面器、新品のオレンジ色の歯ブラシと歯磨き粉を持つとベットのほうに向かった。途中1つ疑問を持ち、歩を止めた。
「・・薬物依存のないエクステンデットなんているのか?」
「情報を集めないと」
(私はこの世界に来て何も知らない。あのトレーラーの後ろに積んでいる“何か”も私は知らない。)
情報の有無は生死に関わる。ディエチにとってC.E.という世界がどういう世界でどんな危険性があるのか調べることが先決だった。あとで適当な雑誌など持っていないか聞いてみようと思った。
「・・・・シンさんについても調べないといけない。」
どこの世界にも普通あんな優しい人はいない。それが当たり前で何か裏があると思うのもまた当たり前である。ただシンを疑うのは何故か胸が痛んだ。
「あの人のあの反応・・・・昔何かあったのかな?」
自分の震える腕を見せた時の反応が脳裏に焼きついていた。
「・・・・私が元の世界でやったことはばれないようにしなきゃ」
また胸が痛くなった。
「ほら、これ使えよ。」
「ありがとうございます。」
「歯は磨けるか?なんだったら磨いてやろうか?」
「磨けますよ!・・・もう」
ニッシシと悪戯小僧のような笑みでシンが聞き、ディエチは少しムキになって答えた。
(・・・いいな!これ!)
シンの中で何かが芽を出した。
「あの・・・・ニュースが見たいんですが。」
濡れたタオルをこすりつけるように顔を拭きながらディエチが言った。シンはディエチの顔に涙の跡に気が付いていたがあえて何も言わなかった。泣きたいのだったら我慢せずに何度でも泣けばいい、何度でも涙を受け止めてやればいい。ただそれだけだ。
シンは、「ああ」と言いながらピッとディスプレイがついたアタッシュケースのような機械に電源を入れた。この時はまだ星座占いでも見るか、なんてのん気な気持ちだった。
『昨晩未明、ラクス・クライン最高議長が自爆テロを受けました。』
「なんだって!!」
『ただしSP達が勇敢にもラクス・クライン最高議長を身を挺して守り、軽症ですみました。勇敢なSP達にご冥福を祈りたいと思います。』
ディエチはシンの荒げた声に驚き、何もいえなかった。
その時、ピリリリッと無線機が秘匿回線用の音で鳴った。シンはガチャッと受話器をとり耳に当てた。秘匿回線用のコードを知っているのは極一部の数名しかいない。
「・・・・どちら様で?」
『シン?ニュースは見たかい?』
「キラ!どうなってるんだ?犯人の目星とやり口は?」
『落ち着いてくれ。それに、こちらの質問が先だ。正直に答えて、君はあのテロに関わっているの?』
「・・・・いや。ラクス・クライン含めアンタ達には恨みはあるけど、今アンタ達に死なれると戦争につながる可能性ある。これでいいか?」
『分かった、ありがとう。今なら暴言交じりでも、腹の探り合いを常にする議員の人たちより、全部吐き出す君のほうが好感がもてるよ。』
「それはどうも。今度はこちらの質問に答えてもらう番だ。」
『そうだね。自爆したのは身元不明のナチュラルの12歳の男の子、火薬はジンの突撃機銃に使われている弾丸から採取したものだ。排気口をのなかを進んで廊下を移動中のラクスに接近して自爆しようとしたらしい。自爆とはいっても爆弾は子供に括り付けられ、遠隔操作で爆破されたと判明したよ。今は子供の遺体を検死解剖してる。』
「まさか!?」
『一瞬連合、いやロゴスの仕業だと思ったでしょ?』
だがアイツラは滅ぼしたはずだ。最後の代表ロードジブリールは確かにレイが討った筈だ。
「・・ああ。」
『お陰で今ラクスは、“声”も出ないほどおびえているよ。』
「“声”が出ないって!!」
ラクスの声はプラントのコーディネーターを沈静化させる効果があり、それがプラント側の戦争抑止に役立っていた。それを失った今、虚ではなく実が必要になる。
『今は優秀な政治手腕が必要なんだ。ギルバート・デュランダル前議長のような・・・ね。』
「できるのかよ?」
『やるしかないんだ。まるで人の心に疑いを生んで、戦争をさせようとしている事件だよ。シン、頼みがある。なんとしてもまた戦争を起こさせるわけにはいかない。けど僕は表立って動けない。だから、協力してほしい。』
「それは依頼か?」
(もし依頼なら断る。コイツの依頼は危険すぎる。)
『これは“お願い”だよ』
(やっぱりそうきたか・・・。)
「傭兵に二重依頼はご法度だけど“お願い”ならしょうがない。協力する。そういえばあのピンク狂い達はどうしてる?」
『ああ、彼らか。彼らなら今朝も“ユリカゴ”の中でグッスリ寝てたよ。もうそろそろ起きて、今日もしっかり働いてくれるよ。ラクス・・・いや平和のためにね。バルトフェルドさんは今頃夢の中で、昔僕が殺した恋人とヨロシクやってるんじゃないかな?』
キラの声は変わらない。当たり前のこと当たり前のようにをやったという調子だ。シンは悪魔と話している気分になった。
(・・・・コイツは何を考え、求めているんだ?)
「くっろいな。」
だからこそ、怯えてはいけない。怯んだ心を見透かされるわけにはいかない。
『何言ってるの、言い出したのはシンじゃないか。どうせなら始末するより、平和のために利用しつくしてやろうってね。』
確かにそう言ったが、本当にやるとは思ってもいなかった。
「そうだっけ?」
『そうだよ。やめてよね、僕1人を腹黒キャラにしたてあげるのは。・・・・じゃあもうそろそろ切るよ。動いて欲しい時はこちらから連絡するから。』
(俺もアンタと同じ黒幕にするつもりか?)
「ああ、じゃあなキラ」
2人は笑いながら通信を切った。
「シン・・・・相変わらず、怯えてくれないね。」
キラは銀色のオイルライターでタバコに火をつけた。その目は、歩く死人の目だったが嫌な汗で掌がグッショリだ。この男は怯えているのだ、シン・アスカに。
自分を撃墜した唯一の男。独断とはいえバルトフェルドが危険と考え、決死の策にはめた筈なのに生き残った鬼。正気になって初めて理解した恐怖。
怖い。あの紅い瞳が怖い。まるで今も後ろから睨まれているような錯覚に陥る。もし開戦になったら真っ先に対艦刀を持って自分達を殺しに来るんじゃないと疑心暗鬼になる。
だからこそ平和だ。平和が必要なんだ。彼は平和を重要視する。自分を平和を維持するために必要な“要素”にすればいい。誰かのため平和だけど、自分のための平和でもある。
誰だって生きていたいのは当たり前じゃないか。
だが同時に1番信頼しているのも彼なのかもしれない。彼は平和を重要視する。今考え直せばあの時、デスティニープランがどんな戯言よりも1番力の無い人達の生命を優先にする平和の形に近かった。そして、彼は最後の最後まで自分達に抵抗をした。言い換えれば最後まで力の無い人達のために戦っていたとも言える。そして、今も彼だけは自分を含めた“あの時の4人”に対し、何か間違っていると思えば、守られるべき人たちが守れないと考えれば、なんの恐れも無く意見を言うだろう。ただそんな風に守りたいという“強欲”に対して単純に生きて戦う彼だからこそ信用ができる。
彼と話すのは怖い。狙われ殺される理由は有り余るほど作ってしまった。だが彼というアメノミハシラとの唯一の接点を失うことは愚かとしか言いようがない。あそこにはスパイを送り込めなかったのだから。
彼と話すのは安心できる。乱暴だが裏がなく純粋だ。夢のような奇麗事、戯言は言わない。現実を見たうえで名誉や利益より“平和”という奇麗事を目指そうとする。もしかしたら違う出会い方をしていたら・・・といつも思う。
- ラクスと出会わなければ。・・フリーダムを手に入れなければ。・・・・彼の家族を、大切な人達を殺してしまわなければ、こんなことには・・・ッ!!。
キラは手を顔に当て、後悔してもしょうがないと分かっていても、後悔とをやめられなかった。だが無情にも彼には130秒後、電話のコールの嵐が殺到する。
受話器をもとに戻し、シンはフウとため息をついた。キラとの会話の後の度にいつも思う。あいつも戦争で“人生”を殺されたんだと。あの4人の中、キラだけはこの1年で変わった。スーパーコーディネーターの持つ高い適応力が変えたのか、汚い現実により自分の理想を壊された故なのか、多忙によりラクス・クラインの声も聞けなくなり心の逃げる所を失い追い詰められたからなのか、見た目はあまり変わっていないように見えるが確実に心に何か黒いモノを住まわせていることだけはシンには分かった。もしかしたらシンにしか知らないのかもしれない。
だが終戦後シンがまだザフトにいた頃、キラによる謀略と暗殺で2回確実に戦争開始を防いでいることはキラの口からシンにだけ伝えられた。
なぜ自分にそんな情報を伝えたのかは分からない。だがこの情報を世間に発表すればキラは解雇か、おそらく銃殺刑になるだろう。
シンにとってはお偉いさんが何人死のうがどうでもいいというより、また戦争を始めようとする奴らは全員死んでくれというのが本音だ。
プラントの人間はストライクフリーダムを聖剣と言う者もいるが、シンには今のストライクフリーダム戦闘している姿は白い悪鬼に見えた。あの時は、殺したという罪の意識から逃げるためにコックピットを外し不殺まがいをしていたが今は違う。戦略的なものだ。証拠にキラが戦うと敵のMSパイロットは生き残る確率が高いが、敵の母艦は確実に沈んでいる。噂では沈めた敵の母艦からクルーの死ぬ間際の悲鳴が録音されたブラックボックスを回収し、生き残った敵のMSパイロットやクルーの尋問に利用するらしい。もう甘ちゃんではなくなっていた。
そして、今2人は“平和”のためにお互いを利用しあっている関係だった。
だからといって大切な人たちを殺したことも許すつもりもない。平和の為に利用されて、利用しつくしてやるだけだ。
「厄介なことになったな。」
テレビをもう一度みると違うニュースになっていた。
『カガリ・ユラ・アスハ首長は、アメノミハシラのロンド・ミナ・サハク代表に対し元モルゲンテーレの技術者の返還を要求するも断られました。なおアメノミハシラは又新商品を開発・・・・』
ただ4人の内、キラ以外はまるで変わっていないことに苛立った。
「ん・・・どうかしたんですか?」
歯磨きの途中のディエチがボーとテレビを睨んでいるシンに聞いた。
「いや、何でもない。朝はスパゲティでいいか?」
「ぷふぁ・・・はい!」
ディエチは口にくわえていた棒状の物体を口から離し、口の端から白い液体を垂らしながら元気に答えた。
シンは数少ないが傭兵になって良かったと思っているところがある。それは地球の食材だ。プラントにも肉はあるが、あれは人工肉といって家畜の細胞を培養して体積を増やしたものであり、かなり味気がない。又野菜なども保存技術が高くなったとはいえ輸送のため時間が経ったものしかない。だが先日の依頼のように依頼主が食品事業関連の場合は新鮮なものが安く大量に手に入る。というより原価の違いにより、現地で食料や水をそのまま報酬として貰ったほうがよっぽど賢明な場合のほうが多い。
終戦後、軍にいた頃はとても酷かった、特に地球に配属されたザフト兵士達は地獄を味わった。経済破綻による無茶な軍事費倹約。現地での食料調達、木の根やトカゲや蛇ならまだいい。時にはミミズなどをスープに入れて食べなければならない時もあった。だがそれすら食料が手に入らない地域に配属された兵士は餓死するか、逃亡するより他がなく。一時は数日経って乾いて固くなった食料を熱いお茶で柔らかくしたものがご馳走に見えた程だった。
そんな思いをしているからこそ、シンは食料は主に現地で安く大量に調達し、現金は主に盗賊のMSをジャンク屋に売って得ていた。
また、いつ死ぬか分からないから生きている間にできるだけ美味しいものを食べおけと“南米の英雄”に言われてから、できうる限り手作りにしてみている。
寸胴鍋に塩を入れた沸騰する湯が目の前にあった。シンは閉じている目をカッと開けると少し捻った麺を軽く落とす、鍋底でコンッという音が聞こえ、麺が放射状に広がった。
この間に冷蔵庫の中に作り置きしていたミートソースを電子レンジで温めておく。カチッカチッカチと時計の秒針の音とグツグツという湯が沸騰する音だけがキッチンを支配していた。
3回目に麺を混ぜたとき、シンに体に何かが走る。
(今だ!!)
鍋の中の1本を手にとりかじる。モグッという食感、人はこの数秒後の状態をアルデンテと呼んでいる。
(これだ!!)
一気にザルで湯を切り、直径45cmの大皿にドンとのせる。
ピピッピピッとレンジの音が聞こえた。中から湯気と食欲をそそる匂いをたてる、熱を得たミートソースがでてくる。
「あちちっ」
熱いミートソースのラップをとり最後に上に盛り付け。
「よし、できあがりっと。」
ミートスパゲティが成る。だがここである致命的なミスに気付く。
「やべ・・・・作り過ぎた。」
シンの目の前には4人分のミートスパゲティが威圧感を出していた。そして、昔ルナマリアに「アンタ、食べすぎ」と言われたのを思い出した。つい自分の食べる量を2人前作ってしまったのだった。
「できたぞ、ディエチー!」
いつもより明るい自分に気付く、もしかしらあの娘と一緒に食事をすることを楽しみにしているのかもしれない。そんな自分にシンは苦笑いをした。
「なに・・・これ」
ディエチは圧巻した。
「・・・・ガジェット?違う、モビル・スーツ?」
テレビのニュースに映る巨大な人型のロボットに。そして、簡単に人が死んでいくのが常識なこの世界に。だからこそ恐ろしくなった、もし彼意外に見つかっていたら死んでいたかもしれないと。
今になってようやくディエチは気付いた。自分がいる世界がどんなに危険なところか。だがまだ知らない、この世界がさらに危険になりかけていることを。
こんな時だからこそ冷静にならなければならない。出た答えは1つだけだった。
「帰れる可能性は・・・・管理局。」
「できたぞ、ディエチー!」
奥から彼の声が聞こえた。
「は、はい。 あの人から離れるわけにはいかない!(ボソッ)」
ディエチは体を起こすことができる程度はできるようだ。これなら本当に今日1日安静にしていればいいとシンは安心した。
シンはディエチをベットからテーブルの前に運ぶとイスに座らせた。
「これは・・・」
「やっぱ、多すぎたか・・・」
目の前には4人前のミートスパゲティ、大盛りのサラダ2つ、2ヶのパン。
「い、いえ!なんだか美味しそうだなって」
「そっか!じゃあ食べるか!」
「はい」
「「いただきま(ピリリリッ!)」」
「先に食べててくれ」
シンはミートスパゲティとサラダをよそおってディエチに渡して歩いていった。
無線機の受話器をとる。
「どちら様で?」
『おはようシン。』
「おはようございます、ベルさん。今朝のニュースで見た自爆テロについてですか?それでしたら、依頼をくれればいつでも動きますよ。」
『あら助かるわ、ものわかりが早いのね。』
「それはどうも。」
『あなたには、いつも通り護衛を専門にやってほしいの。襲撃関係は禁止よ』
「分かってますよ」
『そう、なら良かった。今ジェスやケナフさん達も“真実”を探るために動いているから、あとA8を常時起動しておいてね。』
「分かりました。あとユンさんは大丈夫ですか?」
『あ、ちょっと待ってね。・・・・はい、ユン・セファンです~』
「あ、ユンさん?シンです。実はユンさんからジャンク屋組合に○○の注文をしたいんですが」
『はい。・・・・・・・はい、分かりました~。お支払いは、いつもどおりですね?』
「はい、いつもどおりで。ではお願いします。」
『はい~承りました。ありが・・ちょっとベルさん! シン、話は終わったの?』
「はい」
『じゃあね、シン。あなたも色々と気をつけなさい。』
「はい、ではまた」
受話器をもとに戻し、またため息をついた。
「アメノミハシラも動きだしたか・・・。」
シンはさっきのキラからの情報を伝えなかった。いや、伝える必要がなかったのだ。もうすでにケナフ・ルキーニはすでにその情報を得ているはずである。本当に今後どうなるか分からなくなってきた。
「シンさーん」
「ああ、今戻る」
それでも。いや、だからこそ今を楽しもうと思いテーブルに戻っていった。
「朝ごはん冷めちゃいますよ?」
「ああ。ところでディエチおかわりはどうだ?」
シンは驚いていた。けっこう山盛りにしていた筈なのにもうディエチのスパゲティは無くなっていた。
(やっぱりルナが食べなさ過ぎるだけだったんじゃないか)
「あ、お願いします。」
シンは今度は残りの2人前を盛ってディエチに渡した。
「・・・・いいんですか?」
「気にするなよ。俺が作る量を間違えたせいなんだから。それより何か帰る方法や場所の手がかりは思い出したか?」
「・いえ・・・それが・・すみません。」
また罪悪感がつのった。
だがこの世界には魔力元素は存在しない。しかし、リンカーコアに残っている魔力を少しづつSOS信号の代わりに使わなければならない。だが下手に正体をいえば証拠としてなにか魔法を使わねばならないだろう。だが残り少ない魔力が尽きた時こそ、本当に帰れる可能性が無に等しくなる。
「ごめん、分からないか。ならしばらくは、一緒に世界を見て回るか?」
「はい、お願いします。あの・・・・改めてよろしくお願いします!」
「ああ、よろしくな」
「あの・・・シンさん、何か雑誌とかはありますか?風景の写真とかから何か思い出すかもしれませんし・・・。」
記憶喪失のフリをしながら、この世界の情報を集める。それがディエチにできるもう1つのやるべきことだった。
「雑誌か、雑誌は買ってないな。けど・・・8なら色々知っているか」
「何ですか?」
「・・・アイツが君の相手をしてくれる。いいかアイツが来ても驚くなよ。」
「来る?」
「確か今本体はまだ、宇宙にあるはず゛だ。」
「宇宙?」
シンはさっきのモニター付きアタッシュケースのような形の機械“A8”を持ってくると、さっきとは別のスイッチを押した。
ブビッ『おはよう シン』
「ああ、おはよう8(ハチ)」
p!『シン、ところでそこのお嬢さんは誰だ?』
「?! ディエチ、ディエチ・スカリエッティといいます!」
ピポッ『始めまして、私は8だ』
「あのシンさん!コレ!?!」
ミッドチルダにも人工AIはある。だがしかし、宇宙という遠い距離からいきなりアクセスして、別の機体を使うAIというものは異世界共通で無かった。むしろ8を数秒で受け入れたロウやジェスがアストレイ(普通ではない)なのだ。
「・・・落ち着けよ、気持ちは分かるから。あとコイツはコレとか物じゃない、ちゃんと意思がある上に・・・俺よりロマンを求めるヤツだ。」
「だって!!」
ブビッ『落ち着け 素数を数えろ 素数は勇気をくれる!!』
「アンタは一体何なんだ!?」
「・・・ディエチ、それは俺の・・・・。」( ゜д゜ )
Anywher8、略してA8。「どこでも8(ハチ)」という意味のこの機械は、8が設計したものである。文字通りこの機械のスイッチが入っている限り8はどこからでも量子通信でリアルタイムでアクセスしそこにいるかのようにある程度行動できる。ちなみに8は地球から火星へ量子通信でリアルタイムでロウとチャットをしていてこの発明をひらめいた。本体をロウが所持し、この仮の体を所持しているのはジェスとシンの2人だけである。
P!『落ち着いたか?』
コップについであるミネラルウォーターをゴキュゴキュと飲み干す。
「・・・・うん、なんとかね」
ピプッ『それは良かった』
「はぁ~」
ピッ『ところで私への敬語が消えているんだが』
「んーなんとなく。」
ピプッ『フフフッ まあいい 親しくなった証拠ととろう』
シンでさえ8を見るたびに思う。コイツ本当にコンピューターなのか、と。
ピピッ『ディエチをからかうのは面白いな。』
「やっぱり、お前もそう思うか」
「シンさんッ!?」
ディエチは顔を赤くして声をあげたが、シンはクククッと笑っていた。ディエチ「もうっ」と少しすねて、またスパゲティを食べだした。
シンはその食べっぷりに心地よさを感じてまた笑った。
「冗談だよ、冗談。」
シンは、パンに縦に割れ目をつくり、そこに残ったミートソースとサラダを挟んで口に頬張った。
「ん?ディエチ、ちょっとそのまま。」
「ふぁい?」
シンはテッシュを取ると
「んしっ、これでよしっと。口元にソースがついてた。」
「あ・・・」
「ふふっ。本当に子供っぽいな。」
「子供じゃありません!」
「わかったよ。それじゃ」
「「ごちそうさまでした。」」
「じゅあ8、今日はできるだけディエチの相手を頼む。」
P!『分かった。』
『ところでシン』
「なんだ。8」
pp『まるで兄妹みたいだな』
「・・・・かもなッ。俺は悪くないと思っているよ。」
シンはなんとも言えない雰囲気を漂わせながら食器を持ってキッチンに向かっていった。
ピブッ『あの変態は元気にしているか?』
「・・・・え?」
pp!『ジェイル・スカリエッティだ』
「えッ!?ドクターを知っているの?」
ピッ『ウーノの妹だろう?』
「アンタ!なんでそれを!」
ピュイ『アンタじゃない“8”だ!』
「8!なんで知っているのか教えて!!」
Bi!『話は後で!!』
いきなりモニターが休止状態になった。
「ちょっと、話はまだ・・」
「どうしたんだよ?声をあげて」
いつの間にか食器を洗い終わったシンが目の前にいた。
「シ、シンさん!?な、何でもないです!!」
「? そうか。俺は今日1日トレーラーの運転をしているから、何か用事があったら呼べよ。」
「は、はい!!」
シンはディエチに肩をかしベットに運んで、彼女の目の前にA8を置いた。
「じゃあ、何かあったら呼べよ。」
「はい、すいません。」
そう言ってシンはトレーラーの運転席へ歩いていった。数秒後トレーラーのエンジンがかかり、景色を見てみると移動しているのが分かった。
「・・・・もういいよ(ボソッ)」
P!『フム! ではさっき話の続きだ』
「うん、まずはどうしてドクターを知っているのか教えて」
ビッ『簡単だ オレはあの変態に作られた!!』
「えっ!嘘!?」
PP『本当だ この世界の宇宙にあるデブリに偽装した研究ラボで本来はガジェット用のAIとして作られた』
「でも、なんでこんな風になってんの?」
ビッ『“マツリ”の話を聞いて、ストライキを起こした!!!』
「ストライキ?」
普通のAIはストライキは起こさない。
ピビ『そしたら、廃棄された。私は“おもしろそう”という理由から、開発途中だった量子コンピューターの中身とすり替えられた。』
「そんな・・・」
ピュイ『その後、すぐにロウや多くの人物と出会い、私は今“8”としてここにいる!!』
「ドクターを・・・恨まないの?」
PP『恨む筋はあっても、恨むかどうかは私が決めることだ。それにもうあの変態に興味はない。』
『私は過去は参考にはするが振り返らない』
「・・・・そう。ねえ、この世界について教えて」
P!『分かった。』
8はこれまでこの世界で記録したデータを全て伝えた。ナチュラルとコーディネーター、戦争とその兵器MS、憎しみの連鎖、そして今再び戦争になるかもしれないこと。
ディエチは驚愕した。モビルスーツと呼ばれるロボットの技術進歩の速さに。言い換えればもっと効率よく、もっと多く、もっと速く、もっと人を殺すために進歩を続けていく。
人を殺すために生まれたのがモビルスーツ、人を殺し続けるのがモビルスーツ、さらに人を殺すために進歩を続けるのがモビルスーツ。それがモビルスーツに対するディエチの見解だった。
しかし、同時に絶望もした。
自分は“戦闘”機人。自分もまた戦うために生まれた。自分もまたさらに戦うために進歩を続ける存在。ならば自分に残っている未来は戦うことだけ。他人を傷つけ、他人に傷つけられることだけが自分のこの先の全て。
受けたことは無いが死刑宣告に近かった。というより一瞬で終わる死刑宣告のほうがマシなような気がした。気分がコールタールのように沈む。
「8はなんで、MSっていう兵器ができたと思う?」
『簡単だ。人を殺すために決まっている。』
「・・・やっぱり、そう・・だよね。」
(私は、戦うために生まれた・・・。これからも戦い続けるのかな?人を傷つけ続けるのかな?それしか残っていないのかな?)
また気分が重くなった。
ビッ!『ASTRAY』
「・・・・アス・・トレイ?」
P『“邪道・王道を外れたもの”という意味だ!この世界で学んだ』
「・・何が言いたいの?」
『MSという兵器を人を殺すために使うのが王道だ』
『その道から外れて、人を活かすために使う道があってもいいとは思わないか?』
Bi!!『それがASTRAYだ!!』
「でも、それはMSの話で・・・」
ピポッ『それは君にも言える。』
「なんで!?」
まるで見透かされたように的中だった。
『戦い続ける道か、それ以外の道を生きるのかは、君が考えて君が決めることだ。』
『戦闘機人だからといって考えずに生き方を限定するのは間違っている。』
簡単に受け入れられる考えじゃない。これまでのアイアンディティーが崩れる。自分という存在があやふやになる。不安定になる。今の自分を支えてきたナニかが崩れる。
「でも、ドクターや皆が・・・」
『他人がいるから君がいるんじゃない。他人がいて、君がいるんだ。』
「それは・・・そうだけど」
『なら考えるだけでいい。いつか私に君の考えを教えてくれ。』
「・・・・分かった。」
ブビッ!!『悩め若者よ。それが青春だ!!』
「・・・シンさんについては教えてくれないの?」
『なぜ、シンの情報がいる?』
「怖いんだ。・・・なんで、あんな風に優しくしてくれるのか、分からないから」
『なら本人に聞けばいい』
『LOGOUT』ブゥンッ
8はそうモニターに写すとまた休止状態になった。どうやら本体に戻ったようだった。
「え?」
「目の前にいるのにか?」
いつの間にかシンが大きな皿を片手にベットに座っていた。皿の上にはレタスと大きく香辛料の効いたソーセージを挟んだ特大のサンドイッチが3つ乗っていた。
「・・・えッ?!いつからそこに!?」
「さっきだ。もう昼だぞ」
「・・・あ」
時計を見てみるとすでに午後1時を過ぎていた。
(そういえばお腹・・・空いた。)
「“ほっとけなかった”・・・・からかな?だから昨日、どんな返事でも引き止めてた。」
シンはサンドイッチを渡すとベットの端に腰を下ろして考えた。
「・・・本当にそれだけですか?」
「本当にそれだけ」
シンはシレッと答えた。まるでただそれだけが全てのように。
(嘘だ!!自覚している。俺は・・・君を重ねているんだッ!!)
何とも言えない気持ちが襲ってくる。だが表には出さない、出したくない。不安にさせたくない。
「それじゃあ、運転に戻るよ。」
だが我慢できなくなり、そそくさと逃げるようにまたトレーラーの運転に戻ろうとした。罪悪感からかディエチから逃げようとした。
「あのっシンさん!1つ聞きたいことがあるんですが。」
「どうした?」
(早くしてくれ!)
シンは笑顔で聞き返した。だが内面は早く逃げたかった。
「シンさんはMSという“力”どう思いますか?」
その質問を聞いた瞬間、シンの顔は真剣なものになった。
「“暴力”だよ。単純に自分の我がままを無理やり押し通すための力だ。どんなに誰かを守りたいと強く思っても、“思い”だけじゃだめなんだ。」
「そう・・・ですか。」
「でも、“力”だけでもダメなんだ。・・・ゴメン、俺にはどんな“力”と“思い”で“どう戦うか”しか知らないし、答えられない。・・けど君は俺じゃない。」
「シンさんも・・・・私に考えてみろと言いますか?」
「も・・・って、8にも聞いたのか。そうだな・・・まず考えてみろよ。俺みたいに誰かを傷つけてからじゃ遅いんだから」
シンは立ち上がって顔を見せないように背を向け、多くのことを思い出して後悔しながら答えて歩いた。
(傷つけてからじゃ・・・遅い)
ディエチにとって、その言葉は重かった。被害者にとっては当たり前の答え。加害者にとっては初めて気付いた答え。
「まあ、おいおい考えればいいさ。」
「・・・はい」
シンは運転席の扉のまえで立ち止まった。
「でも・・・誰かを見守ったり、真実を見つけたり、何かを治し作ったり、誰かに勇気や希望や新しい可能性を与えるのも人それぞれのMSという“力”の使い道次第なんだ。あえて使わないのも1つの選択だ」
シンはディエチがなぜMSについて聞いたのか分からなかった。もしかしたら過去にMSに乗って戦った過去でも少し思い出したのかもしれないと思った。
ただ新しい生き方を探しているのなら、未来に生きて幸せになって欲しかった。自分のように過去に生きて欲しくなかった。だから精一杯の“成功例”を挙げて元気づけたかった。未来は運命に縛られていないことを知って欲しかった。
「わかりました。・・・ありがとうございます」
シンは扉を開け運転席に戻っていき、トレーラーはまた移動し始めた。
「・・・このバカ」
シンは運転席でガラスに映る自分にそう呟き、自分のサンドイッチを食いちぎって胃に入れた。なぜもっと器用になれないのかと嘆いてアクセルを吹かした。
「守ることだけに集中しろっ・・・・!!」
頭の中には、守れなかった大切な人たちの声がこだまし、目からは涙が一滴落ちた。
「・・・“思い”だけでも、“力”だけでもダメ・・・・!!・・・アストレイ・・・戦闘機人じゃない生き方・・・・!!・・・・分かんないよ!」
ディエチは揺れるベットの上で考えた。
初めて自分のこれからについて、未来について、将来について考えた。初めて自分のもつことの出来る意味、可能性を探った。自分は何をしたいのか自分に向き合い聞いた。
「・・・分からない!!」
窓を開けて力いっぱい叫んだ。なぜ叫んだのかは分からない。叫んだが風にかき消された。だが一度始めた足掻きは止められはしなかった。止めたら自分を失くしそうで怖かった。未知ゆえに自分の未来の道を信じてもみたくなった。
だが夕暮れになりこの世界で訪れる初めての町についてもその答えは見つからない。
その自問自答を繰り返すことが、不安と希望を持つことが、そうやって自分だけの答えを見つけようとすることが、ディエチにとって本来必要なこととは知らなかった。
ディエチはこれから歩む新しい道『アストレイ(戦闘機人の王道を外れた道)』の未知さを知って足掻いた。
シンはこれまでに歩んだ懐かしい道『家庭(当たり前の幸せ)』と変更点であった『守れなかった大切な人たち』という過程を思い出して足掻いた。
最終更新:2010年02月21日 07:26