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ガンダムSEED DH 2話

第3話『憎悪を背負って何かと戦っていないと生きられない人間』

「どうして来てくれないんですか?」
「ゴメン。・・・そこから先へは1人で行ってくれ。」
シンは吐き捨てるように言った。
「なんで・・・“家族に会えるまで守る”って言ってくれたのに」
ディエチの表情が曇る。
1組の男女がいた。
上は黒いシャツに灰色の上着を腕まくりして、下は紺色のジーンズに明るい茶色のブーツを履いた男、シン・アスカ。シンはいつものようにカラーコンタクトレンズで赤い瞳を隠して、瞳を茶色にしてコーディネーターであることを隠している。
「こんなところ・・・俺は行っちゃいけなんだ。」
「そんな・・・ひどい」
男物の赤いシャツに黄色い半そでのパーカー、空色のジーンズに白いスニーカーというシンの服を借りている少女、ディエチ。
2人は険悪な雰囲気である。
理由はただ1つディエチは欲しいものがある。だが、シンは付いてきてくれない。
シンは躊躇する。ここから先は自分は本来、行ってはいけないところ・・・・。自分にとって禁忌の場所。

女性用下着売り場である。

ディエチは、後遺症はないのだがどうにも体がうまく動かず。ずっとベットの上で安静にし、ようやく動けるようになっていた。
そんなディエチにはどうしてもほしい日用品があった。それは『下着』である。
実は2日目ずっとディエチは、スースー状態。俗に言うノーブラノーパンであった。
それはあの雨のせいである。あの荒野の雨は大地に久しぶりの生命の恵みを与え、シンとディエチの生活に高い湿度を与えた。
よって今日まで下着が乾かなかったのである。
その間、シンにとっての脅威は盗賊でもテロリストでもなく間違いなくディエチだったともいえる。

だって見えてしまうのだ。見てしまうのだ。18歳の健全な雄の本能なのだ。朝、目が覚めたら目の前に夢の詰まった膨らみが2つあったらGO!GO!GO!!といきたくなるのは当たり前である。
そんな、いつ獣になりそうなシンをいざ知らず、ディエチはあれからボーと考えている以外はシンから子供のように離れようとはしなかった。

「どうしてもダメ・・・ですか?」
「どうしてもダメだ。」
『なら、私が付き合おう』
「「それは、けっこう!」」
知らず知らずのうちにヒートアップしていく幼稚な争いの火に、ついに火消しの風が吹く。
「あのお客様・・・少しボリュームを落として貰えますか?」
大人しそうな黒髪褐色の女性店員に注意を受けた。
「「す、すいませんッ」」
『フフッ そら見ろ』
ジロっと8を睨む2人。何か言いたそうであるがここは、ぐっと我慢をする。周りの人の目から痛い視線のハイマットフルバーストが放たれていた。
(・・・これが視線じゃなくビームなら終わっていた)

そんなシンに救いの手が差し出される。
「お客様、よろしければ、私が妹様の下着を見繕いましょう「お願いしますッ!」」
通常の人の反応速度を簡単に突破して返事をした。これもSEEDをもつ者だからこそできる業である。
「じゃあ俺ここで待ってるから、会計の時言えよ」
「・・・」
ディエチが目で何かを訴えているが無視。無視して、てこでもここは動かない。ただ笑顔で手を振るだけだ。
「あの・・・ありがとうございます」
ディエチの服装が変わっていた。チョコレートブラウンのブーツ、白いシャツ、緑色のスカート、黄色いジャケットといういでたちになっていた。元がいいのだから大体の年頃の男なら振り向くだろう。
「いいよ。いつまでも、俺の服を着ている訳にもいかないしな」
ただし、この目つきの悪い男が一緒にいなければの話だが・・・。
下着を買い終わった後ディエチの服を数着とオレンジ色の携帯電話を選び、2人はオープンカフェに来て、コーヒーを頼んでゆっくりしていた。2人の足元には衣類の入った大きな紙袋が2つ置かれていた。
「シンさん・・この服、似合ってますか?」
ディエチはほんの少し顔を赤くして聞いた。シンは急に新聞を読むフリをして赤くなっていく顔を隠した。この男の辞書に“素直”という文字は存在しないらしい。
「わ、悪くは無いんじゃないかッ」
本来「可愛い」と言いたいのだが、これがこの男に答えられる精一杯であった。
「むッ」
しかし、そのぶっきらぼうが逆鱗に触れる。シンがコーヒーを飲もうとしたその時。
「ねえシンさん」
ディエチが後ろに回りこみシンの肩をトントンと叩いた。
「ん?なんだ・・・ブフォッッッッ!!!ゴホォッ!!ブヘェッ!!コーヒーがッ!行ってはいけないほうにッ!!」
見えた!シャツに指で意図的に作られた隙間から布に包まれた夢の詰まった膨らみが2つ見えた!!男の夢、男の望み、男の理想郷が見えた!!!
「ふふっあはははっ、はぁー苦しい」
ディエチは久しぶりに目に涙を浮かべ大笑いをしていた。普段からディエチをからかっているシンとのギャップがすさまじかったからである。そして、普段から仕返しを狙っていたのであろう。


それから3分ほど咳き込んだ後、ディエチに問う。
「ごめんなさい」
「・・・あんなこと誰に教えてもらったんだよ。」
「さっきの店員さんに教えてもらった。こうしたら、面白いことになるからって」
あんな大人しそうな女性が・・・。やはり女性は魔物のようだ、その認識がさらに強くなった。
「・・・アレはもう禁止な」
「えー」
ディエチはジト目で頬を膨らませ口先を3の形にして抗議した。よほど面白かったようだ。
「えー、じゃないッ!!」
シンの怒る様子を見て、ディエチは「おもしろかったのに」と言いかけたが、止めて正解だと思った。
「まったく」


「お客様、ご注文のアイスです。」
カフェの若い男のアルバイトが注文した甘くねばりけのあるアイスを笑顔で持ってきた。なぜか片方はフルーツとチョコレートで豪華にトッピングしてある。
「わあー」
ディエチは目をキラキラさせている。だがシンの目が冷たく鋭くなった。
「あ」
ディエチの前に置くはずだったトッピングしたアイスをアルバイトの手首を掴んで自分のほうに持ってきた。そして、盆に残ったアイスをディエチの前に置いた。
シンは突然立ち上がって新聞を持ったまま、強引にアルバイトを連れ出した。
「先に食べててくれ」
笑顔だったが何故か怖かった。


「なんだよ?これは」
冷たい声だった。地獄からのような冷たい声だった。手には1枚の小さなメモがあり、数字と文字が並んでいる。
「お、俺の電話番号ですッ・・・つい出来心で」
アルバイトは嫌な汗をかき、青くなって怯えた。彼は尻に、新聞で隠された“ズシリと重たいもの”でグリグリとされ怯えた。
「尻の穴、増やしたくないだろ?」
本気と書いてマジである。顔は笑っているが、目がマジで撃つ気である。
「は、はい・・・ッ」
「バンッ!」
「ッッッッ!!」
切れた。アルバイトの中で何かが切れた。
「もうやるなよ~」
シンは笑顔で去っていった、アルバイトは腰を抜かしている。


「どうしたのシンさん?」
「ちょっとトイレの場所を聞いてただけだよ。それより溶けかけてるぞ、アイス。」
「あ・・・」
「はあー、やっぱり待ってたのか」
「・・・うん」
「ま、いいや。早く食おう」
そう言ってトッピングされたアイスをディエチに渡した。
苦いコーヒーに甘いアイスは丁度良かった。口の中で混ぜれば程よい甘苦さが楽しめた。

prrrとシンの青い携帯電話がなった。
「はい、もしもし・・・・はい・・・分かりました。」
ピッと携帯電話を切り終わると、シンの顔つきが変わった。
「ディエチ、ホテルに帰ろう。俺の仕事ができた」
霧の立ちこもる森というかジャングルのなか、VPS装甲を緑色にして木々の中に擬態する鉄の獣がいた。今回の装備は腰に小型の追加バッテリーと推進剤の追加パックを、左肩にアーマーシュナイダー1本と予備のビームマガジン2本を装備している。そして、“とっておきのもの”を持ってきた。
報酬の前払いは既に終わっている。はっきり言って悪くない、というより新米の傭兵としては良すぎるぐらいだ。
川沿いに幾つもの軍用テントがたっており、赤いベレー帽を被り淡い緑色の軍服を着た黒髪褐色の軍人たちが銃を持ち立っている。
(・・・どうやらMSを持っているのは俺だけか)
「傭兵のシン・アスカです。」
「オルテガ共和国陸軍大佐のエステファンだ。よろしく」
大柄な壮年の軍人が力強く、黒い戦闘服を着たシンを迎えた。その力強い握手に応える。
「今回の依頼ですが。確か麻薬王の・・・」
「それは違う、クルーズ将軍は無実だ。将軍はオルテガの自由のために全てを捧げた。お前には将軍が祖国オルテガの地で“天空の宣言”の書類に調印をするまでを守ってもらいたい」
「・・・」
確かにおかしくは無い、国が“天空の宣言”の書類に調印すれば独立はできる。その上、今のザフトは“天空の宣言”を支援している。
言い返せば連合が、“天空の宣言”の書類に調印した国に武力介入しようとすれば、地球にいるザフト軍は『人道的支援』の名のもとに連合を攻撃し、あわよくば物資を連合軍基地から略奪ができる。また連合から独立する国が増えれば、連合はどんどん力を弱めらせることができる。
これはキラが自らのあだ名である“聖剣”のイメージを利用した戦略なのだ。キラ(正義)の敵は全て“悪”となる。
だからこそ、連合は小国が“天空の宣言”の書類に調印する前に完全に支配下に置こうとする。
土地の奪い合いという意味では、C.E.の戦争はまだ続いているのだ。伊達に“火薬庫”と呼ばれてはいない。

オルテガ共和国。終戦後、連合がいきなり武力介入をし、首相のクルーズ将軍が麻薬組織売買の罪で逮捕。
元々疑問はあった。オルテガ共和国には、石油資源があり、資金的に麻薬に手を出す必要はなかったからである。
シンの頭には、ニュースでお偉いさんがやたら「正義」「神の名において」「世界の」などという単語を連発していたことが印象に残っている。
ただ確か今、クルーズ将軍は裁判所に移動中の筈だ。ここにいるということは、移動中に襲撃をかけ将軍を奪い返したということになる。それが引っかかっていた

「少しこちらに来い」
疑いの念を持っているシンを見てエステファン大佐は、シンを幾つかあるテントの中に誘った。エステファン大佐は突然上半身裸になりシンに背中を見せた。
「私の軍人としての勲章だ。お前にも理解してほしい、我々の戦いの意味を」
「・・・ッ」
シンは絶句した。戦闘の傷だけではなく拷問の痕ならシンにもあるが、これらはそれを優に超えていた。エステファン大佐が歴戦の戦士であることが分かった。何か裏がありそうだ。
「分かりました。」
戦場に出る者たちには言葉に表せぬ世界がある。
「将軍はこちらだ」


「傭兵のシン・アスカです。」
そこには隈をつくり頬が痩せこけて、髭を蓄えた男がいた。癌に侵されているらしいが、青い瞳は力強ささえ感じる。
「こんな小僧で大丈夫なのか?」
「むッ」
シンはクルーズ将軍を紅い瞳で睨んだ。だがクルーズ将軍の目に宿る力強さは変わらない。シンは本能的にクルーズ将軍が自分より強い存在だと悟った。
「ハハハッ 熱のあるいい目だ。誰かこの小僧にバーボンを」
「いただきます」
シンはその洗礼を受けることを傭兵にはなったが、戦うものとして何故か誇りに思えた。


近くの川を見ていると、風変わりな男がいた。黒いコートを着て、頭髪が半分白髪で顔に大きな手術の痕のある男だった。きつい消毒用アルコールの匂いからあの人もこちらと同様に雇われた人のようだ。
「あなたも雇われたんですか?」
「あなたもとは・・・君は?」
「俺は、傭兵のシン・アスカといいます。」
「私はブラックジャック。医者をやっている。」
「あの将軍はどうですか?」
「何とも言えんな。癌が全身に転移し、常に激痛が走り、いつ危篤状態に陥っても不思議ではない」
「・・・そうですか」
「ブラックジャック先生!将軍が!!」
テントから左目に眼帯をした美しい女性軍人がブラックジャックを呼んだ。
「わかった。すぐに行く  じゃあな傭兵さん」
そう言ってブラックジャックは走っていった。


シンは今回の依頼の前に保険としてデイエチを留守番させ、8に帰ってこれなかった場合の指示をしておいて正解だと思った。もし、死んで帰れなかった場合、ディエチはシンの財産の半分と引き換えにロウに引き取られる予定だ。半分はディエチに渡す、当分は大丈夫な筈だ。



その夜、レーダーの設置しているテントの中でシンとエステファン大佐は語っていた。ジャングル特有の泥の匂いが鼻につく。
「将軍は麻薬王として逮捕されたが、言いがかりだ。祖国の自由と独立のために戦い続けている勇敢な男だ。」
「それは、ここにいる軍人を見れば分かりますよ」
「これは連合が祖国を支配しようと暴力を振るっているのだ。目的の石油資源のため、最終的に軍事介入までしてきた」
「・・・」
ここでもか、しかも“天空の宣言”対策までしてくるなんて・・・。
シンはA8を持ってくるべきだったと後悔した。あれがあればジェスに連絡がとれるのだが・・・・。
「俺は、傭兵です。料金を貰ったからには仕事をするだけです。」
シンはそうエステファン大佐に告げると仮眠をとるために自分の分が用意されたベットに向かって歩いていった。何故か心は冷めていた、後に業火のように燃えるのを待っているかのように。
相手もここの地域に詳しくはないのだろう。今はこちらを捜索中のはずだ。もし襲撃されるとしたら、日の光が出る明日の朝以降。



早朝、寝付けないせいか早く起きた。外では昨日の女性軍人が朝日に光る霧の中で点呼をとっている。確か名前はマリア・カルテガといい階級は陸軍大尉。

レーダーを設置しているテントの中が騒がしい。
「どうかしたんですか?」
「おかしいんです。音はするのですが、レーダーにうつらないんです。」
「大佐、“ブルージャケット”じゃあ、ありませんか。」
細身の軍人が答えた。
「ブルージャケット?」
「はい、ステルス機器を積んだヘリを使う特殊部隊があると聞いたことがあります。」
「なぜ、レーダーにうつらないッ!?」
「山陰を利用して近づいているのかもしれません」

違う。もっと近くに来ているはずだ。・・・レイがいれば・・音はある・・・レーダーにうつらない・・・・自分ならどう奇襲する!?
「真上だ!!」
シンは叫ぶと同時にテントを出て木々の中に隠したガイアジェッターに向かい走りだして、乗り込み起動させた。ガイアジェッターのツインアイがブゥンと光り、装甲が深い緑色に染まる。

空から青い軍服を着てマスクとゴーグルをつけた連合軍兵士がパラシュートで降下しながら攻撃していた。連合兵士の落としたグレネードでいくつかのテントと機関銃を積んだジープが爆発する。地上からオルテガ軍兵士がアサルトライフルで応戦するが効かない。
防弾チョッキをつけているのだろう。
倒れていくオルテガ軍兵士達、死んでもなお降り止まぬ銃弾の雨で形を崩しながら震えている。
「敵襲!! 敵襲!!」

だが、シンにはやるべきことがあった。空を見上げるとヘリが4機飛び、パラシュート降下をしてくるダガーLが3機。MS輸送機が1機。

ダガーLが“クナイ”を投げてきた、バックステップで避ける。地面に刺さった“クナイ”が爆発した。
バーニアを吹かして、ダガーLの真下に滑りこみ、2連ビームライフルでダガーLの股を狙って狙撃した、真下ならシールドは使えない。
一瞬ダガーLが緑色のビームに串刺しされ爆発する。まずは1機。

残る2機がビームカービンを乱射してきた。シールドで防ぐ。待っているのだ、間合いに入るのを
「まだだ、まだだ・・まだ・・・今だッ!!」
MA形態に変形し一気に、2機の後ろに移動。VPS装甲の特性を応用した保護色と異常な機動力により2機はガイアジェッターの動きに追いつけない。再びMS形態に変形し、後ろから左肩のビームブーメランを投げた。ビームブーメランは光の弧を描いて、2機の上半身と下半身をバイバイさせる。
地面で衝突音が2つ、空中で爆発音が2つ響く。

「逃がすかよッ!!!」
MS輸送機が戦線から離脱しようとしていた。ガイアはMA形態になりバーニアとスラスターを吹かして爆走。ガイアジェッターは獲物を狩るために文字通り爆走した。

MS輸送機のパイロットは何がなんだか分からなかった。本来あちらはMSを所有していない筈だった。クルーズを生け捕ってあとの者を皆殺しにするだけの自分にとっては楽な任務のはずだ。なのに何故だ?緑色のMSによって3機ものダガーLが瞬く間に撃墜された。そして、レーダーを見ると後ろからこちらに向かってきている。
「アイツは一体何なんだ!??」

ガイアジェッターがMS輸送機の前に追いついた時、狼のように獲物の首に向かって飛びかかるように跳び空中でMS形態に変形した。

MS輸送機のパイロットは見た。突然目の前に現れたMSの顔を恐怖しながら見た。連合では試作MSにつけられる独特の顔つきにツインアイからのびる血涙のようなライン。ということは、パイロットはかつて前大戦で光の翼をはばたかせて対艦刀をふるい戦ったザフトの悪鬼羅刹。
「・・お前は、シ」

シンの名前を言い終わる前に、ガイアジェッターは右腰のビームサーベルを逆手に持つとMS輸送機のコクピットに突き刺した。

「はぁッはぁッ、皆は?」
後ろを振り返るとそこは火の海だった。ヘリは見当たらない、どうやら
その中、川の中をオルテガ軍のジープが走っていた。ガイアはMA形態で連合の追跡に警戒しながらなりついて走った。


人と手術器具が月光に照らされながら手術は始まった。今の癌で弱ったクルーズ将軍にとって少量の出血が命取りになる。
ブラックジャックはメスでクルーズの首を切り開いた。なんと血があまり出ない。
(速くて正確だ! そして・・・・なんで出血があんなに少ないんだ!?)
シンはブラックジャックの手術の腕に驚愕すると同時に安心した。これで自分の仕事に集中できる。


シンは自分のやるべきこととできることだけを考えた。自分があそこにいても意味はない。それより連合は、今度こそこちらをしとめる為にさっきより多くの数を持ってくるだろう。今ある装備で、できる対策を練る必要があった。


フクロウの鳴き声を模した安全であるという合図が消えて、危険の合図がでた。
「ん!?」
「大佐、合図を」
「うむ、分かっている」
軍人達は静かに銃と決死の決意を持った。危険の合図もでなくなったということは、合図を送っていた者は殺されたのだろう。

ステファン大佐が軍人達を連れて、手術の助手をしているマリア大尉に声をかけた。
「マリア、車を1台残した。国境を越えるときは東側に進んでから越えなさい。」
「大佐・・・」
「我々はこれから敵を西に引きつける。君はどうするんだシン・アスカ?」
ステファン大佐がカラーコンタクトをとった紅い瞳のシンに聞いた。これから向かう戦いは決死のもの。いくということはMS部隊を一人で相手をし、引きつけるということ。金で動く傭兵ならここで抜け出すのが賢明である。
「我々は、本来君を囮にするために雇った。君は連合からクルーズ将軍並みに目の敵にされているからな」
「知ってますよ。じゃなきゃMSが俺のガイア1機だけというのはおかしいですから」
「ではなぜ?これは君にとって他国の問題だ。傭兵なら契約違反で私を撃って、抜け出すものだが」
「あいにく俺は、まだ右も左も分からない新米なんですよ」
「フッ、馬鹿な男だ」
「シン・アスカ征(い)きます」
ピッと2人の男は敬礼で応え合った。シンは踵を返し先に歩いてガイアジェッターに向かって歩いて行った。
「先生、将軍をよろしくお願いします。」
ブラックジャックは目で応えた。ステファン大佐はブラックジャックに敬礼をした。
「全ての幸運をマリア、君に」
ステファン大佐は敬礼をしながら祖国の命運をマリアに託した。


ジャングルの中に隠したガイアジェッターが起動してツインアイを光らせて深い緑色に染まったた。シンのやるべきことは、囮となりMS部隊を全て引きつけ離脱するというもの、1機たりとも西側に行かせてはならない。運があって国境を越えたらカメール村の教会に集合とのこと。
「馬鹿だよなあ、俺。」
8がいれば確実に『オオバカだ!!』と盛大な音を鳴らしながら、表示しただろう。
だが見たくなかったのだ。・・・・もう力のない人々が踏みにじられるところを。連合の支配下になった小国では子供の“神隠し”が頻繁に起きるらしい、つまり人体実験の材料の調達だ。
「もし・・・俺が死んだら、誰か泣いてくれるかな?・・ディエチは・・・・どうかな?」
もう準備は終わった、後は敵を待つだけだ。
あちこちで爆発が起きている。爆炎がおきている。もう敵か味方か分からないが多くの兵士達が殺し、殺されているのだろう。
行って加勢したい気持ちを押し殺した。もし自分がいって途中でMS部隊に奇襲を受けて死ねば、ステファン大佐達はMS部隊を相手にし全滅するだろう。さらにブラックジャック達が見つかればこれまで死んでいった者達の死も無駄になる。故に待機、胸の苦しい待機だ。
(今は神様より、ブラックジャック先生を信じるだけか・・・。)
「来た。」
敵機は4個小隊、ジェットストライカーを装備したウィンダムの12機!!フォースインパルスとミネルヴァが懐かしい、あれは皆がサポートしてくれる、1人で戦っていたのではない。皆と一緒に戦っていたのだ。
だがこれからさき自分は1人。独りの戦い。
「シン・アスカ征きますッ!!」


カチッとスイッチを押す、突如出てくるダガーの30機のダガー。全てがダミーバルーン。本来、逃走用に用意した“とっておき”。
だがすぐにかなりのミサイルを発射され、爆発し一気に残り9機になった。3機偵察に降りてきた。残骸がない
もう少し・・・もうすこし・・・・今だ。
シンはまず空中の2機を狙い撃った。命中、爆散。
残り10機。
ビームライフルとシールドを回収せずにMA形態に変形。これで変形時間を短縮できる。爆走、獲物を求めて1つ目の獣が襲い掛かる。
地上に降りた2機を通りがけに狙う、だが2機はシールドで防御しようとする。確かにそれが正しい判断である。
だが素通り。来るべき衝撃は来ない、まさかの素通り。
頭部だけ後ろを振り向けば、なんと右片方のウイングを展開し、バーニアとスラスターを吹かせてドリフトのように強引に左急旋回し、気付く頃には2機のウィンダムが胴体を真っ二つにされていた。
残り8機。
地上に残った1機がビームサーベルを振りかざして、こちらにむかって来る。即座にこちらから急接近、ビームサーベルが振り落とされる前に、左肩のアーマーシュナイダ-を引き抜き、逆にこちらから急接近。敵の胸の装甲と装甲の間に突き刺さした。ウィンダムのカメラから光が消えた。
残り7機。
「はあっ、はあっ」
一息つく間もない、後ろを見るとこちらにビームライフルを向けようとする敵がいた。右肩のビームブーメランを振り向きざまに投げた。右斜めに切断。
残り6機。
次々に無くなっていく武装、策、体力、ガイアジェッターのエネルギーと推進剤。
ガイアを走り出させる。止まれば狙い撃ちにされるからだ。あとは敵MSを引きつけながら逃走すればいい。
森は炎に包まれ昼間のように明るい。

「あれはステファン大佐ッ!?」
下を見るとステファン大佐が銃弾の雨のなか、銃弾をもらいながら、蜂の巣になりながら銃を撃っていた。青い軍服をきた兵士たちがCの字に囲むように幾つものライフルをフルオートで撃っていた。
「くっ!」
空からビームの雨が降る。
銃が弾切れをおこしマガジンの交換の最中、ステファン大佐が銃弾をもらい倒れた。だが倒れて痙攣しながら、もう死ぬと分かっているのにマガジンを交換して立ち上がった。
「うぐあああぁ!!」
だが、空しく、無情にも至近距離の連射を受けて倒れた。今度こそ・・・・死んだ。決して長い付き合いではなかった、親しい間柄でもなかった・・・・だが憧れた軍人の姿の1つであった。
「ステファン大佐あああぁぁぁ!!!」




「ッ・・・アンタ達が・・アンタ達が支配者であろうとするからあぁぁ!!!」

感情が爆発する、ダイナマイトのように爆発した。MS形態になりながら、一瞬でコンソールを操作しガイアジェッターは本来の灰色になった。
死んでいった親友の色を纏い、守れなかった少女の力を駆り、支配者であり続けようとする者達への怒りを爆発させ向かっていった。
戦の火に照らされて、灰色の戦鬼が血涙を流しながら向かっていった。
暁(戦地)の中、熱風の中、鉛玉の雨の中、飛んで向かっていった。

ウィンダムのパイロット達は混乱した。本来飛行能力の無いMSが、ビームライフルを持っていないMSが飛んでいるこちら向かってくるなんて狂っているとしか思えなかった。

だがそれ以上に、相手があのシン・アスカであることに驚愕した。

「撃てえ! 相手はあの“羅刹”だ!!」
「ヤツを撃てば我が連邦は、連合のなかで優位になる!!」
隊長らしき機体2機が指示を出した。だがそれはやってはいけないことだった。

腰の追加バッテリーパックが底をついた、パージ。これで軽くなる、これで飛べる、これで・・・届く!!
「はああああ!!」
目指すは隊長機。両手でビームサーベルを抜く、まだビームは発生させない。
隊長機はビームサーベルに持ちかえシールドで防ごうとする、後ろの者たちはビームライフルで援護。だが隊長機が影になり当たらないのは分かっている。
ガイアジェッターの頭部の20mmCIWSが火を吹く。狙いはジェットストライカーに設置されているミサイル。
ミサイルが爆発した、ジェットストライカーのジェットエンジンまで破壊されている。飛べなくなったウィンダム、重力により落ちていく。
それをガイアジェッターが見下ろしながら、後頭部を踏みつけてさらに跳躍。後ろにいた部下のウィンダム2機を切り捨てる。
だがすでに、残る小隊がこちらに狙いをつけていた。本来、ここで引くのが得策である。
ビームサーベルを捨ててMA形態で降下、疾走し向かう先は1つ。
「 ビームライフルを! 俺に引き金を引かせろォオ!!」
後ろから追撃してくるウィンダム、ビーム、ミサイル。それをかわしながら疾った。

「あと、もう少しッ!」

腰の追加噴出材パックが底をついた、パージ。これでさらに軽くなる、これで発揮できる、これで・・・討つ!!
一気に駆け離す。重りのなくなったガイアジェッターの機動力に誰も追いつけない。跳びあがり空中で変形、獣から鬼へ。

「・・・・とったァ!!!」

腰を落とし、2連ビームライフルを両手で構え、モードを上下交互のフルオートにし、照準をつける。最後に無言で、冷めた心で引き金をひく。
本来、多数の敵を同時に対応するために作られた2連ビームライフルが始めて本来の使われ方をされ咆哮をあげる。

1発2発、真ん中の隊長機の左足と胸に命中。

3発4発5発、目の前で爆散する隊長機に呆気をとられていた左のウィンダムの頭部、左足、ジェットストライカーに命中。

6発7発8発9発、目の前で散っていった仲間の敵をとろうとビームサーベルを振り上げて向かってきたウィンダムの胸に全弾命中。

9発もの連続射撃により3機は一瞬でガラクタになった。

「はぁあっ、はぁあっ・・・ッ!!」
モニターを叩いた。だが、まだ終わりではない。2連ビームライフルのビームマガジンを交換する。

ウィンダムの残したシールドを両手でとり、左の方にいたウィンダムのコックピットに、シールドの裏に仕込まれたミサイルを投げつけた。

気絶していたのかさっき後頭部を踏みつけられて落下した隊長機が起き上がろうとしていた。だが無情にもどこからかビームが発射され頭部と右肩に着弾し爆発した。
ビームサーベル2本、シールド、腰の追加バッテリーパックを回収したガイアジェッターが撃ったものだった。ガイアジェッターの足元には、胸にアーマーシュナイダーの刺さった首なしダルマなったウィンダムが転がっている。

「降りろ」
2連ビームライフルの銃口を向けてシンが冷めた声で言った。パイロットは慌てて降りた。
敵MS4個小隊全滅。
無人のウィンダムからジェットストライカーパックを強引に取り外し、ビームサーベルで手足を切り取り、ガイアジェッターは首なしダルマなったウィンダムを持ってに歩いて闇夜に消えていった。シンがここにいてもさらなるMS部隊の増援を呼ぶ可能性しかないからだ。



首なしダルマなったウィンダム2機からエネルギーを補充し、MS形態で即座に対応できるように2連ビームライフルを構えながら移動。国境がカメラで確認できるころには朝になっていた。あれから追跡のヘリ2機を落としたりと休む暇も無い。
手術は成功したのだろうか?・・・・東側をいったクルーズ将軍、マリア大尉、ブラックジャック先生達の方は大丈夫だろうか?・・・西側の者で他に生き残ったものはいるだろうか?
頭を振り、今は国境を越えて教会につくことだけを考えようとする。目的が“天空の宣言”の調印なら先にロンド・ミナ・サハク達が先についている筈だ。

「あれはッ!?」
見えた。カメラからの映像拡大するをブラックジャックが首に包帯を巻いたクルーズ将軍を背負って運んでいる。・・・・マリア大尉の姿はそこにはない。
だが、目の前には連合のヘリと兵士達とトレンチコートを着たスーツ姿の男達がいる。
「くぅッ!!」
ガイアジェッターはMA形態になり爆走した。1秒でも、一瞬でも、刹那でも早く。

シンはミナに呼び出された。
「クルーズ将軍がこれをお前にと。そして、『ありがとう シン・アスカ』と伝えてくれと頼まれた。大事にしろ」
「・・・はいッ!!!」
「よくやった」
そう言って、ミナは去っていった。シンは泣かなかった、ここで泣けば失礼に値すると思っていたから
渡されたのは弔いに使われた黒い銃。グリップ部分が木製に変えられ、始めて手にするのにしっくりくる。
C.E.47にソビエト連邦で軍用採用され、装弾数は8発、強力な種類の銃弾を発射し、単純な構造で頑丈、雑なコピー品が出回ってる中で手に入れにくい本物。

ヴォルク-47

ソビエトでは悪者とされているものの名をあえてつけたオートマチックピストルである。


国境を越えて1つ目の村、カメール。
その後、その教会でシンとブラックジャックは待った。誰も来ないのが分かっていながら三日だけ待ってみた。



3日目に教会で鐘が鳴ったとき、シンはクルーズ将軍の遺した黒い銃で、ブラックジャックはマリアの遺した銀色の銃で、クルーズ将軍やマリアやエステファン大佐たちへの弔いの銃声を鳴らした。鐘の音とともに銃声が響いていた。
砂交じりの風が吹く。ビュウビュウと ビュウビュウと



ブラックジャックは、「じゃあな」と言ってどこかへと帰っていった。生きていれば、また会う日が来るのかもしれない。

ガイアジェッターは無理な操縦をしたため、アメノミハシラで修理と調整という名目で操縦データをもとにさらに改造されるのだろう。しばらくはガイアは使えない、まあようやく静まった俺の悪名がまた広まったので当分大人しくするのが賢明だろう。

麻薬の件はミナさんがジェスに依頼していたらしく、すぐに公共のメディアで無実が証明された。連合も少しは堪えただろうが、どうせ責任のなすりつけ合いをしてどっかのお偉いさんの補佐が“いなくなって”それでお終いだろうけど。

調印の日は、独立記念日なった。死んでいないブラックジャック先生と俺は記念碑に名前を刻まれていない、多分時間の流れとともに俺が関わったことは忘れられるだろう。連合にとって俺の名前は悪名高いからそれでいいと思う。

後払いの料金は、要らないと言ったが無理やり渡された。しょうがないのでヒマワリ畑を営んでいた中年夫婦に“投資”という形で渡した。あとで聞いた話だが、幼いころクルーズ将軍はヒマワリ畑が好きだったらしい。俺もその光景を見てみたいと思った。そして、いつか天気のいい日、ヒマワリ畑が満開になったらディエチを連れて行こう。

そんなことを思い出し、思いながらホテルまでの帰っていった。
「・・・・やっべ」
深夜、ホテルのドアの前で安いスーツの姿のシンはうなだれた。よく考えれば1週間ぐらい帰っていない。
「怒っている・・よな」
恐る恐るドアをコンコンと叩く。・・・反応はない。寝てしまったのだろうか?

ガチャッとカギをフロントで借りて、ドアを開く。ボーイにチップを渡して見送る。

「・・ただいま~」

明かりはついていない。シンはテーブルのスタンドライトをつけた。ディエチがテーブルに腰掛けながら眠っていた。泣いていたのか、目にはライトの光に反射して光る涙のあとがあった。

ブピッ『やっと 帰ってきたのか』
8がシンを迎えた。ただかなり気分が悪いらしい。
「8・・・」
『ナベの中を見てみろ』
テーブルの上にはナベがあった。ナベの中に入っていたのは冷えた味噌汁。元シンの祖国、オーブの家庭料理だ。オタマですくってズッと一口飲む。
「・・あったかい」
冷たいはずなのに、シンは暖かいと言った。温度の問題ではない。
『心配して泣いていたぞ』
「そうか、悪い子としたな」
『私はもう寝る。じゃあな』
『LOGAUT』
そう表示すると8は本体に戻っていった。
「ああ、おやすみ」
シンはディエチを起こさないようにベットに運んで、寝かしてフトンをかけた。
「ごめん・・・ただいま」
シンはそう告げると、シャワーを浴びるためにベットを離れようとした。

「・・おかえりなさい・・・」

ディエチが寝ぼけながら言った。
シンは気付いた。一時的にせよ、帰りを待ってくれる人がいる、自分のために泣いてくれる人がいる、帰る場所がある。
シンはそのことに気付き満足だった半面、帰りを待ってくれる人を泣かせてしまった罪悪感でなんとも言えない気分になった。

「ディエチ、ただいま」

シンはなぜか出てきた止まらない涙を流すためにシャワーを浴びた。そして、今日の朝なんて謝ろうか考えた。


世界でほんのちょっぴり人の笑顔が増えた。

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最終更新:2010年02月21日 07:30
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