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早苗「新年明けましておめでとうございます。さて、無事年も明けて二週間が経とうとしています。
初詣をすませた方もこれからという方も一度神社への参拝の仕方を
おさらいして見ては如何でしょうか」
シン「あの、早苗さん。何で俺がここにいるのかが分けわかんないんだけど」
早苗「それが参拝客が増えたのは喜ばしいことなのですが、マナーを知らない、
守らない方まで増えてしまって」
シン「そういえば、守矢神社が来るまでは博麗神社しかなかったんだっけ。
あそこには参拝する人自体がいないからなぁ」
諏訪子「神奈子とも相談して、一度こういう注意というか講習みたいなことをやってみよう
って話になったんだよ。で、シンにそれを手伝ってもらおうってわけ」
シン「でも、それなら俺じゃなくて霊夢に手伝ってもらえばよかったじゃないか
あいつだって一応巫女なんだろ」
早苗「それが・・・」
早苗「今度、これこれこういうことをやろうと思うんですが」
霊夢「あー、いいんじゃないの。勝手にやれば」
早苗「霊夢さんは手伝ってくれないんですか」
霊夢「私はパスよ。参拝客も来ないのに、この寒い中表になんて出てられないわ。
あ~、あったかい。やっぱりコタツはいいわねぇ。人類が生み出した文化の極みだわ」
早苗「そういって引き篭もってしまって」
シン「神奈子さんは?」
諏訪子「賽銭数えてほくほくしてるよ。幸せそうだからそっとしておこう」
シン「・・・・進めようか」
諏訪子「シンは、本格的な参拝は初めてだったよね? せっかくだし、この機会に学んでおこうよ
(将来婿入りする時のためにも)」
シン「そうですね。神社に住んでるのに参拝方法も知らないんじゃ格好が付かないし」
早苗「なら、まずは鳥居をくぐるところから始めましょうか」
シン「鳥居をくぐるのにも作法があるんだ?」
早苗「鳥居は、神様のいらっしゃる神聖な場所への玄関なんです。ですから、被り物を取り
「ごめんください」という気持ちを込めて軽く一礼をしてからくぐってください
このお辞儀を『一揖』(いちゆう)といいます」
諏訪子「これが意外と難しいんだよね。人が多いと途中で止まったら迷惑になったりするから」
早苗「そのせいか、最近は省かれることも多いようですね」
シン「でも、やっぱり神様を敬うなら必要なことなんだよな」
早苗「そうですね。ちなみに、鳥居の中に入ることを『参入』といいます。
よくニュースにでてくる企業の新規参入などはこれが語源ですね」
早苗「あ、いけませんシンさん!」
シン「え、なにが?」
早苗「参道の真ん中は『正中』といって神様がお通りになる道なんです。ですから、
参道を歩くときは、神さまにご遠慮して右側ないし左側を歩いてください。」
シン「そ、そうなんだ(知らなかった・・・)」
諏訪子「どうしても正中を横切らなきゃいけない時は、軽く頭を下げて横切るのが正しい作法なんだよ。
あと、神社によっては右側か左側か決まっているところもあるから注意してね」
シン「さてと、ようやく神社に着いたけどこの次はどうするんです?」
諏訪子「まずは、参拝前に手と口を清め、心身の罪穢れ(つみけがれ)を洗い清めることが必要だね」
シン「・・・・・・?」
早苗「簡単に言えば、手水舎(てみずしゃ)という場所で手と口を洗い流すんです。
これを『手水(てみず)(ちょうず)』といいます」
シン「これにもやっぱり順序があるんですよね」
早苗「ええ。最初は右手に柄杓を取って左手を洗い清めます。次に左手に柄杓を取って右手を洗います。
それを終えたら、もう一度右手に柄杓を取って左手に水をため、それで口を清めてください。」
シン「あれ? 柄杓に直接口をつけるのは駄目なんですか? そっちのほうが飲みやすいんじゃ・・・」
諏訪子「ああ~あれね」
早苗「確かに柄杓にそのまま口をつけている人がいますが、他に使う人に迷惑ですし、
衛生的にも良好とはいえませんね。地方には管理が行き届いていなくて不衛生な
手水舎もあるので、どうしようもないときは口に含む真似だけでも構いません」
諏訪子「あと、口に含むのは少量の水で構わないけど、間違ってもうがいなんてしちゃ駄目だよ。
この前もそういう礼儀知らずの天狗がいたんだから」
シン「・・・ちなみに、その天狗は」
諏訪子「・・・・ききたい?」
シン「いえ全然! まったく聞きたくありません!」
諏訪子「あ、そう。いい声で鳴いてくれたんだけどな~」
シン(何やったんだ、この祟り神の頂点は!?)
早苗「さ、最後にもう一度左手を清めてから柄杓を立てにして、柄杓の柄を水で流してください。
事前に手や口を拭くための布を用意しておくといいでしょう」
シン「これで、両手と口が清められたわけか。けど、長くて少し覚えづらいですね」
諏訪子「左→右→口→左→柄杓で覚えればいいよ。手水の前後に一礼をしたりとか、
すべてを一杯の水で行ったりとか、必ず手水鉢の外側(こぼしのところ)で
清めたりとか、細かいルールは結構在るけど、一番大切なのは神様に御参り
するときに自分の心を清めるんだって自覚だからね」
シン(神様が言うと説得力があるな)
シン「いよいよ参拝ですね」
諏訪子「気を抜かずに最後まで頑張ろうね」
早苗「さて、参拝の前にもう一度衣服を整え、被り物を取り、背筋を伸ばして軽く
お辞儀をしましょう」
シン「賽銭を入れる前に?」
早苗「ええ、人間同士と同じです。礼を正して兎にも角にもまず挨拶。
でも、これも人が多い時は省かれがちなんですけどね」
諏訪子「言葉を交わすことは心を交わすこと。忘れそうだけどとても大切なことなんだよ」
シン「(言葉を交わすことは心を交わすこと、か)よく覚えておきます」
諏訪子「うん、わかればよろしい」
早苗「では、鈴を鳴らしましょう。これは「鈴をならして、寝ている神さまをおこす」とか
「神さまへの参拝の合図」とか色々な意味を含んでいます」
シン「本当のところはどうなんですか?」
諏訪子「それを言ったら面白くないよー」
シン「そうくるのかよ!」
早苗「鈴の音は罪穢れを祓い清める力。それを頭の上で鳴らすことにより、神さまのお力を戴くとも考えられてるんですよ」
シン「たくさんの解釈があるんですね。神様が何も言わないから」
諏訪子「・・・霊夢の神社・・・さらし・・・パルマ・・・」
シン「何も言わないことが逆に神秘性を引き出すんですね! さすが諏訪子さん!」
諏訪子「えへへ、ありがと~」
早苗(あとで詳しく話を聞きだす必要がありそうですね)
シン「あ、賽銭が鈴より先だと不味いんですか」
諏訪子「そうでもないよ。特に決まりがあるわけじゃないからね。伊勢神宮にはそもそも鈴はないし」
シン「そうなんだ。(結構曖昧なんだな)」
早苗「次は霊夢さん大好きのお賽銭です」
霊夢「はっっくしょん!」
魔理沙「おいおい、大丈夫かよ」
紫 「冬は体調管理に気をつけないと駄目よ霊夢」
霊夢「可笑しいわねぇ。体調は万全なんだけど・・・。何処かの誰かが賽銭の話題でもしたのかしら」
魔理沙(可哀相だから、帰りに賽銭入れといてやるか)
霊夢「って、なんであんた達がここにいるのよ」
紫 「いいじゃないの」
魔理沙「細かいことは言いっこなしだぜ」
霊夢「・・・もういいわ。あ、紫みかん取って」
紫 「はい、どうぞ。平和はいいわねぇ」
霊夢(妖怪が言うな)
魔理沙(妖怪が言うな)
早苗「お賽銭(さいせん)には、神さまへの奉納という意味の他に、お祓いの意味もあります。
自分の罪穢れを大切なお米や銭に付けて、それを投げることで自分の厄を神様に浄化してもらうというのが始まりなんです」
諏訪子「それを乱暴に投げたら神様に失礼にあたるよね。きちんと敬わないと祟っちゃうよ?」
シン「だから脅すなよ、あんたは!」
早苗「お賽銭の金額についは、5円(御縁がありますように)、十円(遠縁)、
十五円(十分ご縁がありますように)45円(始終御縁がありますように)、
2951(福来い)など語呂合わせで云々する方がありますが、特に決まった金額はありません。
自分にあった金額を奉納してください」
シン「一国家の議長と平凡な家庭の子供じゃ金銭感覚も違うでしょうしね」
諏訪子「そもそも5円玉は戦後に発行されたものだしね。貨幣価値も随分変わったよ~」
早苗「勿論、小銭は事前に用意しておいてください。それも、心遣いの内です」
諏訪子「鈴を鳴らして、お賽銭を奉納したら本番だね。『二拝二拍一拝』、私のスペルカードの
元にもなった作法だよ」
シン「よく覚えてますよ。開幕からぼこぼこにされましたから」
早苗「あはは、まぁ作者のトラウマは置いてくとして。こほん、『拝』はおじぎをすること、
正確には背筋を伸ばし、ゆっくりと腰を90度に折る深々としたおじぎのことをいいます。
シン(頭を下げるだけのおじぎって正式じゃなかったんだ・・・)
早苗「拍は拍手(かしわで)のことをいいます。これは、自分が素手であること、何の下心も
ないことを神様に証明するためのものです。この時に注意するのが、いきなり手を叩かないことですね」
シン「拍手(かしわで)っていつもやってる拍手(はくしゅ)じゃないのか?」
早苗「少し違うんですよ。まず、胸の前で両手を合わせます。そして右手を少し
(指の一関節分)手前に引いてそれから2回手を叩くんです」
シン「へぇ、こっちの方がいい音がなるんだな」
諏訪子「さ、一通り学んだら通してやってみようか。それと、神社によっては、
「四拍手一拝」とか出雲大社や宇佐八幡みたいに「二礼四拍手一礼」なんてところも
あるから注意してね」
諏訪子「まず二拝、そして二拍、最後に一拝してお願い事だね」
早苗「このとき仕事がうまくいきますように」「健康でありますように」などと実利的なことを
願いたくなりますが、それよりも今、元気にいることの感謝を伝えてください。
お願い事はそれからです」
シン「何はともあれまず感謝か。よく考えてみると『いただきます』や『ごちそうさま』も
犠牲になった命への感謝なんですよね」
諏訪子「感謝は万物への尊敬に通じ、物を大切にすることは、ひいては自分を大切にすることになる。
外の世界ではそれも寂れつつあるけどね」
シン「世知辛い世の中ですね」
諏訪子「全くだよ」
早苗「お二人とも脱線してしまっていますよ。ちなみに、願い事が叶うかどうかは、
「努力」次第です。努力あってこそです。
努力なしでは神様も聞いてくださいませんから注意してください」
早苗「参拝後は、鳥居をくぐって退出いたします。帰りには鳥居をくぐらない方がよいという
方もいるようですが、勿論くぐっていただいて構いません。鳥居は玄関のようなものですから。
神札(おふだ)やお守り、おみくじなども参拝後に行った方が良いでしょう。
特別な御祈願、御祈祷を受ける場合も、先ず拝殿前で参拝してから申込受付に行った方がいいですね」
シン「これで全部ですね。結構長くかかったな」
諏訪子「油断大敵、まだ最後の一礼が残ってるよ」
早苗「鳥居をくぐり終えたら、今一度御神前の方に向きを変え、軽くおじぎをいたします。
「これで御無礼いたします」というご挨拶の一礼ですね」
シン「最後の最後まで礼を忘れちゃ駄目だってことか」
早苗「礼に始まり礼に終わるのが日本の良いところです。
細かい要項は下のほうに載せて置きましたからよかったら参考にしてください」
諏訪子「ちなみに、これは作者がネットの海を冒険して手に入れた知識だから、
もし間違ってたら可哀想だから教えてあげてね」
シン「メタな発言はやめてください二人とも」
シン「ふぅ、あとはこれを山の集会と人里ですればいいんですよね」
諏訪子「そうだね。これで参拝過程は全部お仕舞。二人ともご苦労様だったよ」
早苗「日も落ちてきましたし、今日はここまでですね。お腹も空いたことですし、晩御飯にしましょうか」
シン「俺も手伝うよ。確かニトリ印の冷蔵庫に紫さんが持ってきた真鯛が四匹残ってたから
それを調理してしまおう」
早苗「では、真鯛の潮汁と塩焼きにしましょうか。刺身もいいですね」
諏訪子「私、あれも食べたいな~。ほら、シンの特製醤油タレを使った炊き込みご飯」
シン「せっかく鯛があるのにですか? いや、待てよ。パチュリーから借りた料理本に
鯛めしっていう郷土料理があったような・・・」
神奈子「お酒によくあう鯛のかぶと蒸し鯛の白子酢も忘れないで欲しいね」
シン 「・・・・・・(今頃来たのかよ)」
早苗 「・・・・・・(すっかり忘れてました)」
諏訪子「・・・・・・(出会った頃から思ってたけど神奈子って結構、空振りが多いよね)」
神奈子「え、私がオチ!?」
幻想郷は今日も平和である。
東風谷 早苗のなぜなに質問箱
おみくじは占いではなく、神様から届けられるとても貴重な助言です。
参拝の際、自分の知りたいと思う事柄を神様にお知らせしてから引いてください。
大切なのは書かれているお言葉の内容で、吉凶はあまり関係ありません。
「こういうところを改善すればいい結果になる」「こうすれば幸運がつかめる」という助言だと考えてください。
実は、境内の木の枝などに凶のおみくじを利き腕と反対の手で結べば、困難な行いを達成つまり修行をしたことになり、
凶が吉に転じるといわれています。
これは、「結ぶ」が恋愛の「縁を結ぶ」、神様との「縁を結ぶ」という言葉と繋がったからとされています。
一方、せっかくいただいた御神籤を結んで帰るのは間違った風習だという説があります。
地方によっては罰当たりとされるので注意してください。もちろん、大吉や吉などのよい運勢の御神籤を結ぶ必要はありません。
持ち帰った御神籤は、手帳やお財布にはさんでおくと、いつも神様からいただいたメッセージを見ることができますよ。
いないとは思いますが、凶がでたからといって何度も引きなおしたりするのは厳禁です。
神様のお言葉を蔑ろにすると罰があたりますからね。
護摩木を購入し、そこに願い事を書き入れて神社仏閣で護摩木を燃やします。
護摩木はいわば神様へのメッセージボード。乱暴に書きなぐるのではなく、心を込めて祈願の内容を記入してください。
住所や氏名を書くのも、護摩木の作法のひとつとされています。
大きな神社へ参拝に行く方も多いですが、まずはあなたの住んでいる地域を守る氏神様の神社へ行ってご挨拶をするのが礼儀です。
家から一番近いところとはかぎりません。都道府県の神社庁に電話をして教えてもらいましょう。
体の元気がない、自分の進路に悩んでいるときも氏神様へ伝えてみては道が開けるかもしれませんね。
お守りは基本的に1つか2つで十分です。たくさんお守りを持っていてもご加護が増すのではありません。
本当に自分の願い事に霊験のある神社のものだけを大切に持っていましょう。
常に身につけているか、家の中の清らかな場所、神棚や気に入った場所に置いておいてください。
お守りの効力は1年もしたら尽きてしまいますから、購入した神社にお返しして新しいものに取り替えてください。
同じ神社にお返しできない場合は、近くの神社に持っていってお焚き上げをお願いしてください。
人に贈る時は祈りの気持ちを込めて渡してあげると、効果が増すと思いますよ。
2
シン「ただいま帰りました~」
神奈子「おう、おつかれ。首尾はどうだった?」
シン「天狗が隠し撮りしていた早苗さんの写真は全部取り返しときました。
諏訪子さんが半分土に埋めて反省させてるんで当分は自重すると思います。・・・たぶん」
神奈子「こりないねあいつも。となると、諏訪子がまだ帰ってないのは・・・」
シン「まだ反省の様子が見えないみたいで」
射命丸「人間は直ぐに老いてしまうじゃないですか。ですから、若く美しかった頃を写真に
収めることこそが私の使命と考えましてですね。はぐっ」
諏訪子「はいはい、ごたごた抜かしてないちゃっちゃと反省する。じゃないと、
私が帰れないでしょ」
神奈子「とうぶん帰ってこれそうにないね。さてシン」
シン「なんですか?」
神奈子「なんですかじゃないよ、写真」
シン「写真がどうかしたんですか?」
神奈子「どうしたもこうしたもない。処分するから早く渡しなさい」
シン「え?」
神奈子「え?」
3
月の綺麗な夜、紅魔館ではよく吸血鬼が家出する。
原因は、館の主であるレミリア・スカーレットとフランドール・スカーレットの不仲にある。
いや、不仲と言うと語弊があるかもしれない。
正確には、レミリアがフランの世話を焼きすぎることをフランが鬱陶しく思っているだけなのだ。
なので、竹林の二人のように殺し合いに発展することはまずありえない。
姉妹喧嘩がせいぜいで、被害と言っても館が半壊する程度のことだ。
そして幸いにも、今夜は館を壊わすことなくフランは自分のお城から抜け出せたらしい。
(ただし、門番一名が名誉の負傷。ちなみに、医療費は自己負担)
シン「何所行くんだ、フラン。こんな夜中にライターなんて持って、危ないぞ」
フラン「あ、シン、やっぱり会いに来てくれたんだ・・・」
シン「ああ。ちょうど紅魔館へ行く途中・・・だったんだけど、その様子だとまた姉妹喧嘩だな?」
苦笑するシンに、フランは口をとがらせる。
フラン「だって、お姉様ってばしつこいのよ。私が何かしてたらすぐに横からああしろこうしろって。
いつまで子ども扱いする気なんだか。私だってもう一人前の吸血鬼なのに!」
さて、どうしたものかとシンは思案する。出会ってしまった以上、フランを置いて紅魔館に行くわけにはいかない。
シン「・・・よし、少し寄り道するか。クッキー焼いてきたんだ、食べるだろ?」
フラン「紅茶はあるのよね」
シン「水筒に入ったのだから味はいまいちだけど、まぁ我慢してくれ」
フラン「・・・それ、紅魔館の皆へのおみやげじゃないの?」
シン「だから、フランも食べていいんだよ」
館から少し離れた湖のほとりで、フランはシンと夜の逢い引きを楽しんでいた。
空に広がる星空と、珍しく霧の晴れた湖。
夏に浮かれた虫のコーラスとざあざあとささやく風の音色。
男女が二人きりで過ごすのにこれ以上のシチュエーションはないだろう。
フランの機嫌が最悪で、会話の内容がたわいない愚痴でなければなおよかったのだが・・・。
フラン「大体昔からそうなのよ。やれ地下室から出るなだの、やれ屋敷から出るなだの、人を散々束縛して。
そのくせ、自分は屋敷でふんぞり返って偉そうにしてるだけなんだからいいご身分だわ」
シンは退屈そうなそぶりを見せることなく時折相槌を打っていた。
四季映姫・ヤマザナドゥの説教を一度でも耳にすれば、普通ならうんざりするような話でも大抵は許せるものだ。
まして、妹がいたシンはこの手の対応に慣れている。
フラン「この間なんて自分で紅茶を入れようとしてうっかり咲夜の大事にしてたカップを割っちゃったのよ。
いつもほんわかしてる美鈴があの時ばかりは本気で怒ってね。もう屋敷中大騒ぎ。
おまけに、紅魔館の主が元門番に土下座してる決定的な写真を天狗に撮られちゃったせいで
取り返すために、紅魔館総がかりで三日三晩追いかけっこをさせられるし。
まぁ、結局私が隙を見て破壊したんだけどね」
シン「(赤いカリスマも地に墜ちたな)あれ? 写真を破壊したのって・・・」
フラン「もちろん、私の能力よ」
彼女は自分の能力を扱いきれていなかったはずだ。
そのことをフランに話すとその瞳と同じくらい真っ赤な顔で抗議された。
フラン「そ、それは昔の話でしょ! 私だってあれから成長したんだから」
シン「成長・・・」
シンの目線が相手の顔から下にずれる。
そこには悲しいくらい盛り上がりを見せない小さな双球が並んでいた。
フラン「む、胸はこれからよ。お姉さまだって抜いてやったんだから、後数百年あれば美鈴も」
シン「美鈴も?」
フラン「・・・あの半分くらいには追いつくわ」
シン「全然追いつけてないぞ、それ」
ため込んでいた文句をフランが全部吐き出したのは、空がうっすらと明るくなり始めるころだった。
シン「・・・さてと、そろそろ夜も明けてきたし俺も帰るかな」
フラン「また来るんでしょ」
シン「ああ、次はもっとたくさんのお菓子を持っていくよ」
フラン「・・・はぁ、私は帰りたくないなぁ」
シン「帰らなきゃ灰になっちゃうだろ」
フラン「平気よ。太陽の光が吸血鬼(わたし)に届く前に破壊すればいいんだもの」
シン「その内、太陽ごと壊しちゃおうなんて言いそうだな」
フラン「そんなこといわないわよ。私はもう立派なレディーなんですもの」
ぐぐぅ~とレディーらしくない伸びをしてから、フランはシンへ向き直った。
その笑顔を見るに、どうやらシンが耐えがたきを耐え忍び難きを忍んだかいはあったらしい。
フラン「・・・ま、お姉様も悪気があるわけじゃないし、許してあげましょうか」
シン「どうしたんだ急に」
フラン「ん~、シンを独り占めできたし、まぁこれで仕返しできたかな~って」
シン「それがどうして仕返しになるんだ?」
フラン「相変わらず鈍いのね」
シン「ぐっ!」
フラン「その様子じゃ、まだ皆から言われてるんでしょう。まったく、馬鹿は死んでも治らないのね」
シン「よ、余計な御世話だよ」
フラン「・・・ごめんね。引き止めて」
シン「気にするなよ。他の所にも寄るから今年はもう無理だけど、どうせ妖怪の寿命は長いんし、
一年や二年くらいどうってことないだろ。その代わり、紅魔館の皆にはよろしく言っておいてくれよ」
フラン「ええ。また来年、会いましょうね。今度は今よりずっといい女になって待ってるから」
シン「ああ、また来年楽しみにしてるよ」
それだけを言い残して、シンはフランの前から消えてしまった。
クッキーが残っていなければ幻だったのと思うくらいにあっさりと、
彼が死んだ時と同じようにフランにたくさんのものを残して帰ってしまった。
妖精メイド「フランお嬢様~」
聞きなれた声が聞こえる。どうやら迎えが来たようだ。
メイド「探しましたよぉ、フランお嬢様。そのライターはどうしたんですか?」
フラン「これは“迎え火”っていうのよ。といっても本来のやり方とはほど遠いけど。
それで、わざわざ何の用かしら」
メイド「レミリア様がお呼びです。何でも、今夜は“さくや”っていう元メイド長の亡霊さんが来るから早めに帰って来いって・・・。
あらどうしたんですか、それ? おいしそうな香りがしますけど」
目ざとくクッキーを見つけたらしい。さすがに百人以上いる妖精メイド全員に上げるわけにはいかないが、
咲夜が帰ってきているのならちょっとしたパーティーくらいは開けそうだ。
歓迎と送別を一緒にするパーティーだって、たまにはいいかもしれない。
フラン「貰い物よ。後で皆で分けなさいって」
メイド「ああ、誰かとお話していらっしゃいましたものね。ところで、そのかたはどちらに?
先程までは確かにいらっしゃったと思うのですが」
フラン「今年は帰っちゃったわ。」
メイド「今年は?」
フラン「忙しい人でね。一年に一回しか会えないの。だから、今年はもうおしまい」
メイド「へぇ~、なんだかロマンチックですねぇ。どういう方なんですか?」
フラン「う~ん、私の・・・」
フラン「私の・・・初恋の人、かな?」
お盆――――それは想い出が還ってくる時間。
もう一度会いたい誰かのために、今年も私たちは迎え火を焚くのかもしれない。
最終更新:2010年08月18日 22:05