今日も今日とてはやては企む。成功する当てのない作戦をひたすら企む。
なぜならそれが、目の前の現実(始末書)から逃れる唯一の方法だからだ。
だが、この日は少しだけ様子が違っていた。
はやて「ふっふっふ」
リインⅠ「どうかしたのだろうか、我等が主は」
リインⅡ「ああ、今日はあの日だからですよ、ずばり!」
シャマル「女の子の日ね」
はやて「ちゃうわい! 乙女の夢が実を結ぶ約束の日『バレンタインデー』や!」
ヴィータ「つっこみはえーな、おい」
シグナム「・・・二十歳前で乙女?」
はやて「・・・(ギロッ)」
シグナム「ゴホンッ・・・それで今年はどのようなチョコを送るのですか?」
はやて「よっくぞ聞いてくれたな、シグナム。なんと今年は・・・」
シャマル(シン君、いきて)
リインⅠ(シン、いきろ)
シグナム(シン、しぬな)
はやて「あえて普通に送る!」
ヴォルケンズ「「「「 やっぱり・・・えええぇぇぇぇっ! 」」」」
ヴィータ「シャマル、担架だ!」
シャマル「しっかりはやてちゃん! 今ヘリを呼ぶから・・・」
リインⅠ「これは、闇の書の復活の兆しか!」
リインⅡ「やはり、チョコの中に何か仕込まれていると考えるべきでは!」
シグナム「いや、意表をついて包装紙か箱に仕掛けがあるのかもしれん!」
はやて「なんやその反応は! 私が普通にチョコ渡すんがそんなにおかしいんか!」
ヴィータ「でも、どうして普通に渡すんだ? 他の連中はきっととんでもない
・・・パフォーマンスをするだろうに」
シグナム(パフォーマンスか、物は言いようだな)
はやて「そこなんよ、ヴィータ」
リインⅠ「そこ・・・とは?」
はやて「毎年奇抜な渡され方をされ続けとるシンは、きっと心身ともに疲れてるはずや。
今年もまた痛い目にあうんやないかってな」
シグナム(その痛い目の原因がご自分にあると気付いているのだろうか)
シャマル(奇抜な渡し方って自覚はあったのね)
はやて「そこで、私だけが普通にわたしてみい。『はやて部隊長だけが普通にくれるなんて。やっぱり、俺の嫁ははやてしかない!
結婚してくれ、Myハニー』もちろんやMyダーリン!! となるはずや! いや、きっとそうなる!」
リインⅠ(キャロ達も普通に渡すのでは、と突っ込んだ方がいいのだろうか)
リインⅡ(はやてちゃん、シリアス欠乏症にかかって・・・)
はやて「そうと決まればさっそく実行! いくで皆!」
シグナム「いえ、もう我々は渡しました」
はやて「・・・え?」
リインⅠ「みんなでお昼を食べる機会があったのでそのときに」
シャマル「シン君、結構貰ってたみたいよ。嬉しそうな困ったような顔してたわ」
リインⅡ「お返しが重い、ってぼやいてましたね」
はやて「そ、そんな話聞いてないで!」
ヴィータ「隊長組みは、午前中ずっと聖王教会に行ってたからな」
シャマル「あと、ティアナも渡せてないはずよ。顔を真っ赤にしてもじもじしてたもの」
はやて「くっくっく、威勢がいいわりに案外だらしないなティア。ま、それが小娘の限界やろ。
さぁ、夜天の王の栄光への出陣や!」
だが、偶然とは恐ろしいもので、他の三人も全く同じことを考えていたりするのだった。
リインⅡ「ちなみに、一昨年は裸にリボン巻いて全身チョコまみれで部屋に待機、
去年は自分を寸分たがわず再現した等身大チョコを送ってますね。
いずれも他の隊長たちと全年齢の壁に阻まれてますけど」
リインⅠ「そんなことをしていたとは・・・」
シグナム「・・・言うなリインフォース。恋は盲目なのだ」
ヴィータ「人として捨て去っちゃいけないモンまで見失ってる気がするけどな」
そこでは、変に着飾りもせず、普段どおりの格好をしたフェイトがキャロやエリオと
作戦会議にいそしんでいた。
フェイト「だ、大丈夫かな。普通に渡したりして」
エリオ「大丈夫ですよ。自信を持ってください」
キャロ「フェイトさんは普通にしてればとっても美人なんですから、
恥ずかしがらずにどうどうと渡せばいいんです」
フェイト「そ、そうだよね。うん、頑張ってくる」
エリオ「はい、いってらっしゃい。フェイトさん」
キャロ「頑張って渡してくるんですよ~」
フェイト「や、やっぱり二人とも付いて来て・・・」
キャロ「甘えないでください! 恋愛は孤独な戦争ですよ!」
フェイト「は、はい! ごめんなさい!」
エリオ(こ、怖いよキャロ・・・)
キャロ「渡すまで帰ってきちゃ駄目ですからね!」
フェイト「そ、そんな・・・」
キャロ「とっとと行く!」
フェイト「とっとと行きます!」
エリオ「・・・・(シンさん、グッドラックです)」
その後、ルーテシアとキャロに挟まれ、自らが人生最大の恐怖を味わうことになろうとは
この時のエリオは思いもしなかった。
おろした髪をヴィヴィオに櫛でといて貰っているなのは。
こちらも聖戦直前とは思えないほど穏やかな雰囲気に包まれている。
なのは「ねぇ、ヴィヴィオ。こんなの変じゃないかな」
ヴィヴィオ「全然変じゃないよ。とってもよく似合ってる」
なのは「でも、こんなに普通じゃ・・・」
ヴィヴィオ「あま~い! チョコは普通に渡すのが一番なの」
なのは「う~ん」
ヴィヴィオ「もう、いくじがないぞ」
なのは「・・・ふふ、そうだね。じゃあ、ママ頑張ってくるからヴィヴィオはお留守番お願いね」
ヴィヴィオ「はいは~い、いってらっしゃ~い」
貰ったチョコを食べきったシンは、自室のベットに横たわっていた。
脈は微弱で、顔色もよろしくない。
理由はごく単純だ。一発目でシャマル先生を引いた。それだけだ。
それだけで、七転八倒のあげく生と死を垣間見たシンは、半ば今日という日を生きて乗り切ることを諦めていた。
シン「あと残っているのは・・・隊長たちだけか。とうとう俺も年貢の納め時だな」
デス子「書きますか、遺書」
シン「シャマル先生のチョコ食べた時のが残ってるだろ」
パル子「そのシャマル先生宛の遺書は書き直す必要があるかと。最後だと思って料理に関する恨み言を書きまくっていますから」
シン「・・・確かにな。あれ? 悪い、封筒買ってくる。すぐ戻るから先にバリケード作っててくれ」
デス子「・・・今のって死亡フラグじゃ」
パル子「言ったってどうにもなりませんよ。どの道、入院ルートは確定してるんですから
物言わぬ姿で帰ってこないことを祈っていましょう」
時に、死ぬことよりも死ねないことのほうが何倍も辛いことがある。
彼にとっての、バレンタインという名の悪夢が明確にそれを証明していた。
ティア「シ、シン。ちょっといい」
シン「うわ! って、なんだティアナか(ティアナなら、まだ大丈夫だな)」
ティア「今、時間ある、かな?」
シン「ああ、どうかしたのか?」
ティア「そのね。その、特に意味があるわけじゃないんだけど、さ」
シン(やばい、元が可愛いだけに)
ティア「ほ、ほら、今日ってバレンタインじゃない。だから、一応お世話になってるあんたに」
シン(こうまで普通だと)
ティアナ「・・・チョコ、持ってきたから・・・」
シン「う、うん(萌えるんだよ、ちくしょう! 上目遣いは勘弁してくれ!)」
ティア「あんたのことだからたくさん貰ってるでしょうし、いらなかったら・・・」
シン「そんなことない! 俺は・・・」
なのは「シン、ちょっとい・・・あ」
ティア「あ・・・」
シン「・・・・・・(グッバイ、俺の短かった平穏よ)」
なのは「お、お邪魔だったかな?(いけない、いけない。反射的にレイジングハートを構えてた。
今日は普通の女の子でいかないと)」
ティア「(クロスミラージュ・・・はまずいわね。ここは一旦引いておくか)いえ、今終わったところですから。
あとでね、シン」
シン「・・・え、うん(何事もなくティアナが引いていった? なのはさんは何もしないし、これは夢か?)」
なのは「・・・」
シン 「・・・(撃たない・・・のか?)」
なのは「・・・えっと、私、まだチョコレート渡してなかったから・・・」
シン 「は、はい。ありがとうございます(何かあったのか? そりゃ、撃たれたいわけじゃないけど)」
なのは「それで、その・・・。今度の日曜開いてるかな」
シン 「シフト通りなら空いてるはずですけど?」
なのは「よかった。じゃあ、一緒に遊園地でもどうかな」
シン「いいですね。ヴィヴィオも喜びますよ」
なのは「ううん、そうじゃなくて・・・」
シン「・・・はい?」
なのは「二人っきりでって、駄目・・・かな?」
シン「それって、デー・・・」
フェイト「シ~ン、どこ~。あ、なのは」
なのは「フェイトちゃん?」
シン「・・・・・・(どうして、こんなときに・・・)」
フェイト「よ、よかった~。はい、これは私の分のチョコレート」
なのは「(・・・我慢、我慢)」ぎりぎり
シン「あ、ありがとうございます。おいしそうですね(今、嫌な音が聞こえたような)」
フェイト「ちゃんと型にはめて作ったんだよ。で、よかったら・・・」
シン「・・・?」
フェイト「今日だけでいいから、シンの部屋に止めてくれないかな」
シン・なのは「な、なんだってーーーー!」
フェイト「違うの! おかしな意味じゃなくて、キャロとエリオに追い出されちゃって
(厳密に言うとそれも少し違うんだけど)」
シン「それじゃあ仕方な・・・くはないでしょう!」
なのは「あの二人を吹っ飛ばしたら部屋が開くよね」
シン「よかった、いつものなのはさんだ。って、物騒なこと言わないでください!」
はやて「シ~ン、あなたの恋の奴隷が会いにきたで~!」
シン「ああ、そうでした。この人タイミングが最悪なんでした。ちくしょう、どうにでもなれ!」
フェイト「・・・」
なのは「・・・」
はやて「・・・ダーリン、これはどういうことや」
シン「それは、今俺が一番神様に聞きたい質問です」
はやて「・・・はぁ。まぁ、ええやろ。4○でも」
シン「待てええええぃぃ! 一番言っちゃいけない事を、一番言っちゃいけない人が言うなああああぁぁ!」
なのは「はやてちゃん、今なんて」
フェイト「まずいよ、はやて。ここは全年齢なんだよ」
はやて「ふ~、なのはちゃん、フェイトちゃん。今日はバレンタインなんやで。
チョコを渡すついでに軽く○Pするくらい許されてしかるべきや」
シン「どんな理屈だよそれ! っていうか、前半と言ってる事違うだろ、あんた!
普通に渡すんじゃなかったのか!」
はやて「これだけ盛り上がって普通に渡すなんて」
なのは「逆にありえないよね」
フェイト「さ、始めようか、シン」
ティアナ「準備は出来てるわね、私達は出来てる」
シン「どうして息ぴったりなんだよ。それと、さも当然の様に戻ってきて混ざるなティアナ!
だいたい、ここ廊下だから! 往来だから!」
はやて「それが逆に燃えるんやないか!」
シン「変態だこの人!」
なのは「大丈夫、危○日だから」
フェイト「大丈夫、最後まで逃がさないから」
ティアナ「大丈夫、婚姻届貰ってるから」
シン「訂正、変態だこの人たち!!」
はやて「旅立ちの時や、シン。共に大人の階段を駆け上るのは今やで」
シン「いいから、いらないから! まだ俺子供でいいです!」
なのは「ふふふ、顔を真っ赤にして。可愛い・・・」
シン「何故ヤンデレ風!? 命が危なくなってきてる!? いつものことだけど」
フェイト「子供はどんな名前がいいかな。シンは女の子がいい? それとも男の子?」
シン「そうだな。どうせなら両方が・・・って、まだ皮算用どころか狸すら知らない段階だよ!」
ティアナ「今です、隊長! 早く服を!」
シン「幻術まで使って背後から羽交い絞めするな! あんた達もじりじり近寄ってくるなぁ!」
その後、どうにかこうにか逃げ出したシンは、自室に篭城。
実に三日を費やした交渉の末、隊長たちをデート数回の条件で押さえ込んだという。
ちなみに、その間の食事のいっさいは貰ったチョコレートのみでまかなっていたそうな・・・。
デス子「マスター、ひもじいです・・・」
シン「黙ってチョコを食え。答えは聞いてない」
パル子「主様、一回でいいからと外から打診が・・・」
シン「無視しろ! 絶対に譲るな! 相手はテロリストだと思え!」
ヴァイス「出て来いってシン。隊長たちだって
ルールくらい分かってるよ。
なんでもかんでも疑うのはよくないぜ
シン、話し合おうじゃないか。この際、男同士で女は
抜きでさ」
デス子「ヴァイス陸曹もああ言ってますけど」
シン 「デス子、たて読みは暗号の初歩だ。パル子、気にせず交渉を頼む」
パル子「了解です」
シンが先手を取ってチョコを渡すようになったのは、その年のバレンタインからだったという。
終わり?
最終更新:2010年02月28日 07:11