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生活 ◆v4WvnwAJkk氏のネタ-02

では投下させてもらいます。



――ぬるい。

 自らに生温くまとわりついてくるような空気に、シンは顔をしかめた。
 ここがどこなのかは分からない。そんな疑問も浮かばなかったし、それ以前に何も考え
られなかった。ただここはとても不快な場所にシンは感じた。
 自分が望んでいたのは寒さであり、拒絶したのは“ズレ”た暖かさだ。だというのにここは
“ズレ”――自ら命を断ってまで嫌った違和感に満ちている。
 この違和感が何なのかは口では言い表わせない。しかしその形にできないもどかしさと
相まり、シンの不快感は増していた。
 せめて目で周囲を確認できれば良かったのだが、周囲は様々な色をした光が星のよう
に輝き、そのせいで目がチカチカしてまともに目を開く事ができない。
 空気と視覚から不快感を突き付けられ、シンは苛立ちのあまり叫び声を挙げようとした。
 その時、突然シンの頭の中に『声』が響いた。

『…は……つ……おう』

 その『声』は水滴のようにシンの頭に直接落ちると、波紋のように広がっていく。突き付け
られる違和感は相変わらずではあったが、それでも何の反応もないよりかはマシではあっ
た。
 シンは気を紛らわせようと男とも女とも取れない謎の『声』に意識を集中する。

『こ……は、……御子を…………』

 だがどうやら『声』はシンに語り掛けている訳ではないらしく、シンの頭には断片的な単語
しか理解することができない。
 そんなシンには構わず、『声』は独り言のように続ける。

『……種…して……と……う』

 その言葉を最後に『声』はだんだんと遠くなっていくと、同時にシンを苛んでいた違和感も
薄れていく。
 そして自分の意識もまた遠退いていくなかで、シンは一瞬だけ星の光の中を泳ぐクジラの
ような影を見たような気がした。



第一話『終わりの始まり STAGE1』


「君。こんな所で何をしているんだい?」

 投げ掛けられた声に、シンの意識は浮上した。
 目を開くと、こちらを覗き込んでいる眼鏡を掛けた青年と目が合った。
 ぼんやりとした意識のまま見つめ返してくるシンの様子を見て、青年は軽く頷く。

「どうやら生きているようだね。しかしこんな所で寝ているなんて、命知らずな人間だな」

(……生き…てる?)

 青年の言葉の中に不思議な語意を聞いたような気がして、シンは頭の中で反芻する。
 そうして自分がどうしたか思い出し、自然と口から疑問がついて出た。

「なんで……俺、生きてるんだ……?」

 だがその疑問に答える者はなく、青年もよく聞こえなかったのか、変わらない様子で言う。

「さあ。ぶつぶつ言っていないで、起きたのなら早く立った方がいい。妖怪に襲われてしまう
前にね」

 不自然な事を言われた気がしたが、シンは反射的に立ち上がると頭の靄を払うように頭を
振り、そうしてようやく意識がはっきりしてきた。
 随分と長い時間ごつごつした石の上で倒れていたのか、背中に鈍い痛みがある。
 周囲を見回してみると、ここはどうやら墓地らしい。木々に囲まれた拓けた場所で、彼岸花が
辺りに咲き誇っている。そして見たことのない形ではあったが石を積んだように築かれた墓らしき
ものがちらほらと建てられてあった。

(……なんで、こんなところに?)

 シンは自分の身体を見てみる。相当な高さから飛び降りたというのに、身体には掠り傷一つ
なかった。仮に落ちた先が海だったとしても、無傷であるとは考えにくい。

(あれ…というか服、濡れてない……?)

 まさか海には落ちずに地面に落下したのだろうか。そう考え、シンはすぐに自分で否定
する。
それこそ無傷で済むはずがないし、何より自分が落ちた先に着地する場所などなかった
はずだ。

(どうなってるんだよ……?)

 混乱しながらもとりあえず青年と向かい合う。
 白い髪をした青年だ。歳は自分よりいくつか上くらいだろうか。その顔つきは掛けた
丸眼鏡と相まって温厚そうな印象を受ける。
 しかし何より目を引いたのは青年の服装だった。
 どう言えばいいのだろう。青い着物をベースにしたような服だ。過去に通っていた学校
で見た歴史の本に似たような服が載っていたような気がするが、シンには分からない。
 このような服はこの国にあるにはあるが、基本的に着る者は滅多にいない。いるとすれば
演劇の衣装に使われるくらいだろうか。

「アンタが、俺を助けたのか?」
 思わずシンの口から出た質問は不躾とも取れる口調だったが――実際、助けてもらって
感謝する気にもなれるはずがなかったが――、青年は気にした風もなく言う。

「それは倒れていた君を起したっていう意味かい? ならそうだよ。介抱はしていない
けどね」

「……じゃあ言い方を変えるけど、アンタが海に落ちた俺を拾ってここまで運んだのか?」

 もしそうならば、助けてもらう事など望んでいなかったシンにとってはこの男に邪魔された事
になる。そう思うと青年に落ち度はないと分かってはいてもつい険が込められてしまう。
 一先ずはここがどこなのか聞いてから適当に礼を言って別れよう。
 そう考えていたのだが、しかしシンの質問に青年の答えはなかった。

「うみ……海か…」

「……?」

 呟き、興味深そうにこちらを頭から爪先まで見てくる青年に対し、シンは怪訝な顔を返す。

「まあ、ここで立ち話もなんだ。説明は道すがらするとしよう」

 そう言うと青年は足下に置いてあったらしい、何やらたくさん物が詰まった様子の袋を
手に持つと、シンに着いてくるよう促してきた。
 そうして自分に背を歩けて歩き始める青年に、シンは慌てて呼び止めようとする。

「ちょ…っ、待ってくれよ。俺はここがどこなのか分かればそれでいいから……」

 だが青年は変わらぬ足取りのまま、まだ立ち止まったままでいるシンに返す。

「なら尚更着いてくると良い。話せば長くなるし、僕も時間が惜しい。早く見つけた道具
を詳しく調べたいんだ」

 そう言って手に持った中身の詰まった袋を軽く持ち上げて示しながら遠退いて行く青年に、
シンはとうとう観念して後を追い始める事にした。

「なんなんだよ一体……おい、待ってくれよ! せめてこの場所がどこなのか教えて
くれてもいいだろ」

 すると青年はこう答えた。

「ここは彼岸塚。無縁仏のための墓地で、君たちのいる世界で忘れられたものがこの幻想郷へ流れ
着く場所だよ」



幻想郷。

 それは文字通り幻想とされるものたちが住む世界である。
 科学の発展によりこれまで畏れられていた怪奇は迷信として追いやられ、同時に人間
という種の増加は多くの人間以外の存在を時代から追いやった。そしてそれは人ならざる
モノ――妖怪たちも例外ではなかった。
 その事を憂いたとある妖怪は山里に結界を張り、世界から隔離する事で妖怪の存続を
図った。その結果、多くの妖怪たちがこの幻想郷へと流れ着き、元々里に住んでいた一部
の人間たちと共に独自の社会を築いていった。

「とはいえ完全に外の世界との繋がりがない訳でもないんだ。こうしてさっきの場所に
君たちのいる外の道具が流れ着くこともあるし、君みたいに迷い込む人間もたまにいる」

 青年からそんな説明を聞いたシンの感想は率直なものだった。すなわち――

(何言ってるんだ、こいつ…?)

 それはシンにとって当然の反応だっただろう。シンが育ったのは巨大な兵器が当然の様に
空や宇宙を駆け回る、科学が特に発展していた時代だ。宇宙開発も進み、もはや地球上に
謎など残っていないとまで言われていた。
 確かにテレビや雑誌などではその手の怪奇現象を扱ったものもあったし、シンも頭ごなしに
否定する訳ではない。そんなこともあるか、くらいには信じてはいるが、だがこうして真面目な
顔で面と向いて言われても眉唾にしか思えなかった。
 そこでふと思いついた事をシンは口にしてみた。

「アンタ、もしかして学者か何かなのか?」

 民族について勉強しているのならその一環として着物を着る事もあるかもしれないし、
こうして蘊蓄を語ったりもするかもしれない。
 しかしそんなシンの予想を、青年はあっさり否定する。

「いや、違うよ。僕はただの古道具屋さ」

「古道具屋て……」

 では青年が着てる着物も売り物なのだろうか。というかなぜそんな格好でいるのだろう。
そもそも今どき古道具屋と言うものか。

(そういえば、あの袋の中に道具が入ってるって言ってたっけ……)

 青年が手に持っている袋に視線を向ける。袋の中には物が沢山詰まっているらしい、
一杯になった袋は中身から押され凹凸に膨れていた。

(ジャンク屋かな……)

 シンが戦後処理として駆り出された先では破壊されてスクラップとなった兵器を拾い
集めている人を多く見掛けた。戦争で家族や財産を失った人たちはそうしてスクラップ
を売り払う事で生計を立てている。
 特に地上では小さな子供までもが大人に混じり、屑鉄一つに躍起になる姿を見る度
にシンは自分の無力さを痛感していた。
 目の前の青年もそうして生計を立てているのだろうか。もしかすると彼が今着ている
着物も普通の服がなくてやむを得ず商品の中にあった物を着たものなのかもしれない。

「……なあ」

 そう思うと居ても立っても居られず、思わず青年に声を掛けていた。

「うん?」

 青年は歩みはそのままに首だけで振り返ってくる。しかしシンも何か考えて呼び止めた
訳でもなかった為、しどろもどろになってしまう。

「いや、えーと…なんていうか……その、ありがとう……そういえばお礼言ってなかった
よな」

 そうは言ったが、別にシンは感謝などしてはいない。むしろありがた迷惑とも思って
いたのだが、しかしこのご時世、見知らぬ人間を助けようとする人間はそういるもの
ではない。
と言うより、自分の生活に必死で他人を助けるほど余裕のある人間はいないのだ。それは
復興が進んだ現在も変わらない。
 青年と会った時は邪魔をされたような気分になり突き放すような態度を取ってしまった
が、もし目の前にいる青年もそんな人たちの一人ならば、シンの様な見ず知らずの他人
を助ける暇など無いにも関わらず助けようとしてくれたという事だ。ならばせめて礼だけ
でも言わなければ青年の温情を踏み躙ってしまう。それだけはしたくはなかった。
 青年が手を差し伸べた先は今回は自分のような人間だったが、もしかすると次は本当
に困っている人を助けられるのかもしれないのだから。

「…………」

 青年は礼を言われた事がそんなに意外だったのかしばし沈黙していたが――ついでに
何故か汗もかいていた。これは、冷や汗?――、大したことはしていないと首を横に振った。

「……気にしなくてもいいよ。僕もそんなに深く考えて声を掛けた訳じゃないんだ。たまたま
無縁仏を弔いに来てみたらたまたま君が倒れていた。それだけの話だよ」

「そっか」

「そうさ」

 青年はそれだけ返すとプイッと前を向いて歩きだしてしまった。
 シンも特に思いつかなかったので何を言うでもなく後に着いていく。
 それから数分程度経ったらくらいだろうか。前を歩いていた青年はおもむろに持って
いた袋に手を入れた。

「そういえば聞きそびれていたんだけど、これは君のかい?」

 そう言って袋から取り出して見せたのはピンク色の携帯電話――妹の形見と同じ機種
のものだった。
 あっ、と咄嗟に携帯電話が入っていたはずのポケットを確認してみるが、ポケットの
中は空っぽだ。今青年が手に持っているのだから当然だろう。
 シンは思わず引ったくるように青年の手から携帯電話を取り上げると、彼はばつが
悪そうな顔をした。

「倒れていた君の傍に落ちてたんだ。その時は気付かなかったけど、よく考えたら君の
物なんじゃないかと思ったんだ」

 そうは言うがやはり疑わしい。シンはジト目で青年の顔を見やる。

「本当だ。盗むつもりは無かった。ただちょっと調べてみたかっただけで……」

 分かってたんじゃないか。そう言おうともしたが、代わりにため息を吐くだけに止めて
おいた。
 確かに青年の行動は頭には来るが、この手の住民はしたたかだ。そうでもなければ
今の世の中を生きてはいけないだろう。

(助けてもらったのは確かだしな……)

 それに殺して身ぐるみを剥ぐような奴よりはマシか。そう考えて、今回だけは目をつぶる
事にした。
 しかしこれだけは言っておこうと、シンは口を開く。

「そりゃ助けてもらったし、何か欲しいって言うならお礼はしたいけどさ……でもこれ
だけはダメだ。大体、人のケータイを勝手に持ち出すなんて趣味が悪いだろ」

「そういうものなのかい?」

「当たり前だろ」

「ふむ……」

 何故か考え込む青年。とぼけているのかと勘繰ったが、どうも本気で気が回らなかった
ようにも見える。ただ自分は人を見る目にはあまり自信が無いので、実際のところは定か
ではないが。
 そんなシンに構わず、青年は一人でぶつぶつと呟いている。

「……確かに魔法使いなら研究の道具を持っていかれる事を何より嫌うか……」

「……はぁ?」

 また変な単語が聞こえたような気がするが、青年は気にしないでくれと前置きして言う。
「それよりすまなかった。好奇心に駆られるあまり前後不覚に陥っていたようだ。確か
に人の物を勝手に持っていくなんて許される事じゃない。謝るよ。この通りだ」

「……謝ってくれるならいいけどさ」

 シンは先を促して青年と再び歩き始めた。
 呆れながらすっかり毒気も抜かれてしまった。
 この青年はどこかズレている。どうもこの青年は奇人変人の類いの人間らしい。今さら
ではあるが。
 そこでふと、陰鬱だったはずの気持ちが軽くなっている事に気付いた。
 少し前まではあれほど気落ちしていたと言うのに、なんだか今はずいぶんと気楽になって
いる。

(……そっか。マトモに人と話すのって久しぶりだっけ)

 こうして誰かと長々と会話するのは彼女と別れて以来だ。終戦後は同僚たちとも必要以上
の関わりは避けていた為、自分と人との繋がりは全て断たれたように感じていたが、青年
との会話でまた繋がりが出来たとでもいうのだろうか。何だかんだで自分は人恋しかった
のかもしれない。

(それでこんな変な奴と一緒なんて、本当に弱いな、俺……)

 もはや日課と化したように自嘲の笑みをシンは浮かべる。だがそこに普段のような翳り
は薄れていた。

(いいさ。変人なら慣れてるし、最後くらいは付き合ってあげるか)

 思い浮かんだのは『彼ら』の顔。『彼ら』から一層強く感じた“ズレ”に比べれば、
目の前を歩く青年は十分マシと言えた。
 そこまで考えたシンはある事に気付き、思わず歩みが止まった。

(そういえば……)

 なんとなく空を見上げる。そこには木々の間から覗く、目覚める前から変わらない
青い空が広がっている。

(さっきから“ズレ”て…ない?)

「どうかしたのかい?」

 先を歩いていた青年は少し遠い位置からこちらに振り向いている。どうやら立ち止まって
いた間に距離が離れていたようだ。

「い、いや、なんでもない……」

 シンは慌てて取り繕いながら駆け足で開いた距離を縮めた。



青年が熱心に話すあまり脱線して始まった蘊蓄に耳を傾けながらも(もちろん内容は
ちんぷんかんぷんだ)、シンは自らの疑問に思いを馳せていた。
 “ズレ”はいつもシンと共にあった。
 寝るときも、戦っているときも、彼女と話しているときでさえも、“ズレ”はシンを苛み
続けてきた。そのためシンにやすらぎなど訪れることはなく、“ズレ”はシンの心をヤスリ
のようにただひたすら削り続けていた。
 その“ズレ”が、今は感じない。

(死にたくなくなってるっていうのかよ、俺は……?)

 それはシンにとって、あまりに自分に都合が良すぎる。
 それはあまりに勝手だと、シンは思う。自分は暖かい場所で生きてはいけないのだ。
でなければ自分が撃ってきた――犠牲を強いてきた人たちに申し訳ない。

(だから、俺は……)
「君」

 はっと、突然呼び掛けられたシンは顔を上げた。どうやらまた考え事をしている間に
無意識の内に俯いていたようだ。

「な、何?」

 聞き返してすぐに青年の話を聞き流していた事がばれるかとも思ったが、青年は嬉々
として蘊蓄を語っていた先程までの表情とは打って変わって神妙な顔を向けていた。

「ここから先が今話した『魔法の森』だ。人間が長時間いるには危険な場所だから急ぎ
足で抜けるつもりだけど、それまでできるだけ息をしないようにするんだ。それと決して
僕から離れないように。例え‘何を見たとしても’、絶対にね」

 今話したと言われてもほとんど聞き逃していたのだが、シンは青年の真剣な表情に
気圧されて思わず頷いてしまった。
 しかし、この青年はどこまで本気で言っているのだろう。最初は冗談に付き合っている
つもりだったが、青年はずっと真面目に妄言のような話を語り続けていた。
 もしかするとこの青年もかつての戦争で心を病んでしまっているのだろうか。
 そんな心配をしつつも、青年の言う『魔法の森』とやらの方角である前方へと視線を
向けてみる。
 そこにあるのは別段変わった処などない、何の変哲も無い普通の森が広がって――

「なんだよ、ここ……」

――などいなかった。

 シンは目を見張った。見た目は特におかしな処はない。木々が一段と覆い茂り陽の光を
遮っているため全体的に薄暗く、奥までは見渡す事ができないがそれでもまだ“こちら側”
の緑とは大差ない。
 おかしいのは『森』が纏う異様な空気だった。
 どう形容すればいいのか、シン自身にも分からない。ただ分かるのは森から漂う違和感
のみ。だが以前からシンを苛んでいた違和感とは感じが違う。以前シンの感じた違和感が
“生ぬるく首を絞めてくるもの”だとすれば、この『森』から感じる違和感は“影から怪しく
こちらを見つめてくるもの”と言ったところだろうか。息苦しさはないが、どうにも気味が悪い。
 よもやこんな場所がこの国にあるとは思いもしなかった。

(違う……あるわけないだろ、こんなの!)

 浮かんだ考えを自分で否定する。だが、ならば目の前に広がるこの『森』は一体何なのか。
 まさか本当にここは自分がいた世界とは違うとでもいうのだろうか。
 動揺を顕にするシンの姿を気にしたのか、青年が声を掛けてくる。

「この森さえ抜ければ僕の家もすぐだ。その後で君を外の世界に帰す事もできるから、
そう心配しなくていい。ただし気を抜かないようにね」

「………あ、ああ」

 返事をするものの、シンは初めて見る異様な『森』から目を離せなかった。

「では行こうか」

「あのさ……」

 『森』へ進み入ようとする青年を、シンは呼び止める。

「なんだい?」

「ここ…どこにあるんだ?」

 動揺のあまり言葉足らずな質問になってしまった。これでは意味が伝わらないだろう。
そう思い言い直そうとしたが、その前に青年は迷いながらも答えてくれた。

「幻想郷の事なら、外が今どうなっているのかは分からないから、日本のどこかだとしか
言えないけど……」

「…うん。それだけ分かればいいよ……行こう」

 そしてシンは青年の後に付いて『森』へ入っていく。
 日光が『森』の木々に阻まれ影が降りていく青年の背中を見ながら、シンはぽつりと
呟いた。

「………ニホンなんて国、もう無いよ」

 見慣れない服装で空想のような話を語る青年。奇妙な『森』。そして、亡んだはずの
国の名前。
 そんなばかな話を信じられるわけがない。そう思いながらも、しかしシンは青年の話
をただの作り話だと切り捨てられなくなっていた。

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最終更新:2010年02月28日 07:38
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