アットウィキロゴ

タピオカ丼氏の小ネタ-06

1


6月6日。
梅雨真っ只中の夕方。
夜通し降り続けていた雨の名残が漂う空気の中、折角伸ばした髪がじっとりとしてきそうな空気が不快だった。
不快であったけれど、一週間も続いた雨が久しぶりに止んだ事が私は少し嬉しかった。
銃を素早く抜き放つ腕の軽さ、照準を合わせる時のしっくりと定まる視界、身体を魔力が流れていく感じ、どれもが軽快で、今日はいい日になると思った。
前から目を付けていたサンダルがラスワンをゲットして、一目ぼれしたスカートが、日ごろの訓練とダイエットの甲斐があってかすんなりと入って、とてもご機嫌だった。
荷物持ちになっていたスバルが不平不満を言い出したので、カフェに寄って、のんびりお茶をする事にした。
スバルは当然のごとくバニラとチョコのダブル。
いつもはウェストが気になるから紅茶かコーヒーにしているけど、調子良い自分に奮発してラムレーズンとグレープフルーツのダブルを注文。
買ってきた雑誌に目を通しながら、何気なく耳に入ったのは誰かの驚く声。
何をそんなに間の抜けた声を、と思い視線を向ければ空を見上げながら遅めのランチを採っているらしきOLがぽかんと口を開いていた。
つられて空を見上げた。そして息を呑んだ。
青に溶け込むように侵食していく紫の空。
絶妙にパレットの上で溶け合う色彩のごときコントラストに一瞬目を奪われる。
六課からの急を知らせる合図に肌がぴりりと強張った。
六課に入った報は性質の悪いシンプルなもの。




『怪物が人を襲っている』





私たちの世界は、蹂躙された。





                              ◇




「どうなってるのよ……何だって言うのよアイツら」


苛立ちを噛み殺すようにティアナ・ランスターはグラスの氷を噛み砕く。
向かいに座るスバルはといえば、テーブルに力無くつっぷしている。





瞳の裏に焼き付いているのは、信じがたき光景。
六課のエー守から放たれる光の波。溢れんばかりの力の奔流。
それはいつもの光景。けれども埋め尽くすような光が晴れた後に映る光景はいつもとは異なる『異常』の光景。
平然と立つ異形の存在。
思い出すだけで肌が粟立つ。
次々と力通じず倒されていく仲間、仲間、仲間。
仲間と同様に、一切の力が通じず膝を付いたティアナの眼前を悠々と歩く異形の存在 ――― 『怪人』
ムッと鼻を突く獣と瓦礫 ――― 生物と無機物 ――― の混じり合った異臭。
恐怖に逃げ出す事も悲鳴を上げる事も、目を閉じる事すら出来ずに、ただ縫い付けられたようにその場で怪人を凝視するだけのティアナ。


そして………






隣の席に座るヴァイスは憔悴を隠し切れない表情で紫煙を吐き出している。苦々しげに表情を歪めると、半分も吸っていない煙草を灰皿にねじりこむ。三本目。
四本目に手を伸ばしたところで、ひょいっと白い手が煙草を取りあげる。

「禁煙したんじゃなかったんですか?」
「……おう、アスカちゃん」

ゲッ…とティアナが露骨に顔をしかめる。
取り上げた煙草を胸ポケットにしまいながら、困ったように苦笑を浮かべる少年。白のワイシャツに赤いエプロンの出で立ち。
赤いヘアピンを前髪に結いつけた少年、シン・アスカ。
手に持つトレイには出来立てを知らせる湯気の濛々と立つパスタ。四つのカップ。
それぞれをティアナ、スバル、ヴァイスの前においていくと最後の一つをティアナの隣に置くと、腰掛ける。


「アンタが飲むの。サボりかよ」
「いいじゃん、休憩時間なんだよ。そっちこそ食堂でうだうだしてるじゃん」
「任務帰りだっつーの」
「ああ、どうりで髪はボサボサだし、肌も荒れてるし、おまけに目付きが釣り上がってるんだ」
「うっさい、最後のは生まれつきだし、そもそも目付きの事でアンタなんかに言われたくない!!つかソッコー憎まれ口?」
「いやぁ、お前見てるとついなぁ」

わざと厭味っぽく笑う少年に、いよいよティアナの柳眉がつりあがる。
そもそも男の癖にシミ一つ無い滑らかであろう白い肌がティアナには無性に腹立たしい。
長めの前髪を赤いヘアピンでサイドに留めて額を出している様は一層幼く見え、中性的な顔が些か女性的に傾く。
その赤いヘアピンにしても、広報の女の子達、女の子というよりもお姉さま方にプレゼントされたものだ。
それを知っているティアナには、黒髪に鮮やかに映えるヘアピンがやけに目障りに映る。

「シンく~ん…これ砂糖入ってない~~」
「入ってるよ。スプーン三杯。それ以上はコーヒーへの冒涜として俺は認めない」

つんと唇を尖らせるスバルのおでこを突く仕草と、柔らかな笑みに、ティアナは無意識に頬を膨らませる。
面白くない。非常に面白くないと訳もわからずムカムカとする。
そもそも、私たちは客だ。それなのにスキンケアに文句つけるわ、コーヒーに関する自分の美意識を押し付けるわ。
そもそも、魔法も使えず、食堂のウェイターのバイトの分際で将来の執政官候補(予定)に何たる口の利き方。
その上身元不明、記憶無しの行き倒れ。調べても調べても国籍も何もわかったものではない。
これで争いは全面的に嫌いだ等とヘラヘラと笑うのだ。細っこい腕は自分よりもずっとか弱く、非力そうに映る。
単なるなよなよとした草食男子であれば、簡単だ。ティアナは歯牙にも掛けない。基本的に情けない男は嫌い以上に興味がない。
けれども、どうにも無視出来ないのはシンの顔立ち。顔が良いという理由ではもちろん無い。美形の部類だということは認めないこともないがそうではない。
瞳が、紅いその瞳が何処か引き付けられる。
孤独で、悲しくて、鋭い。赤熱の衝動を軽薄な態度で覆い隠しているように感じてしまうのだ。
気のせいだろうと、その度に自身に言い聞かせるのだが、どうにもいざシンを前にすると無視出来ないのだ。



「何だよ、ティアナ?おっかねぇ顔して。てか元々おっかない顔だったな」
「アンタねぇ、本格的にぶっ飛ばすわよ?てかさぁ、アスカ。アンタスバルと私じゃあ態度違わない?違い過ぎない?」
「何だよ、急に」
「ティアってばヤキモチ?」
「なぁッ!!アンタ、何バカな事言ってるのよ」

にしししと歯を見せて笑うスバルのこめかみに拳を当てる。
スバルの嬉しそうな悲鳴が食堂に響いていく。

「それにしても……そんなにシンドイんですか?」

ぐるぐるとスプーンでかき混ぜながら、気遣わしげにヴァイスに視線を向けると、ヴァイスは苦笑いを浮かべる。
ふむと、シンは何事かを思ってか、立ち上がると厨房の方へと姿を消す。
何事かと、じゃれあいを止めてシンの後を視線で追うティアナとスバル。
暫くして戻ったシンの手には新たなトレイ。


「わぁ、アイス!!」
「ちょっと…頼んでないわよ?」

バニラとオレンジ、それぞれのシャーベットの乗った皿を前に、スバルは瞳を輝かせ、ティアナは不審そうに眉をひそめる。

「おごり。甘いもの食って頑張れよ」
「何よ、気持ち悪いわねぇ」
「ホンット、可愛げの無い女……まぁいいけど。感謝の印だとでも思ってくれ」
「感謝って?シン君」
「なんだかんだ言う連中も要るけど、魔法ってやつでアンタ等が身体張ってくれる人達がいるから魔法の使えない人達が、俺込みで、平和に暮らしていけてるんだし」

これでも感謝してるんだぜ?と淡い笑みを浮かべる。
ティアナは頬が熱を帯びていくのを感じて、シンから視線をそらす。
急に素直になられると調子が狂ってしまうではないか、このバカと口の中でゴニョゴニョつぶやく。

「魔法が使えない俺にはこうしてやることしか出来ないけどさ」

「ふ、ふん……まぁ、受け取っておくわよ」
「ティア素直じゃない…」
「何か言った?スバル?」
「何も」

「アスカちゃん……俺は甘いもの駄目だぜ?」
「知ってますよ。これ俺の分ですから」


そっけなく言ってチョコアイスを口に運ぶシンを見るヴァイスは若干涙目。
スバルは尻尾があれば振り切れんばかりに目じりを垂れ下げでバニラアイスを攻略していく。


「シン君ありがと!!これで頑張れるよ。よ~~し見てろよ怪人!!んでもって打倒…」
「仮面ライダー……でしょ?」
「うん!!」


シンのスプーンを持つ手が不意に止まる。
ヴァイスはティアナとスバルの決意表明に適当に喝采を送りながら、残り少ないコーヒーを飲み干す。

「ヴァイスさん、仮面ライダーっていうのは?」
「んあ?ああ知らなかったか?例の通りすがりの怪人の事さ。八神隊長が言い出したんだけどな。似てるって」
「へぇ…」
「まぁ、六課でも捕獲しようっていう意見も出てるんだがな」
「捕獲だなんて駄目だよ!!正義の味方なんだよ?仮面ライダーは」
「アンタ今“打倒”って言ってたじゃん」
「それは六課も負けてられないっていう意味!!てかティア助けてもらってるのに」
「それは感謝してるけど、それとこれとは話が別。そもそも怪しいのよ、隊長の魔法が利かないのにキック一発でどうして倒せるわけ?調べてみないと納得できない」
「ううう嫌だよ~何か六課が悪の組織みたいじゃないか~~」
「………」
「どうしたのよ?急に黙りこんじゃって」
「い、いや何でもない。ま、頑張れよ。応援してやるからさ」
「ふん、応援させてやるわよ」

「「ティアちゃん素直じゃな~~い」」


「うっさい、バカスバル!!」
「ヴァイスさんまで…」





                              ◇






恐怖に逃げ出す事も悲鳴を上げる事も、目を閉じる事すら出来ずに、ただ縫い付けられたようにその場で怪人を凝視するだけのティアナ。

そして………


そして現れたのは全身黒一色に覆われた異形の戦士。
紅い瞳を煌々と輝かせた戦士。
何もかもを呑み込むような漆黒の腕を振るい怪人を薙ぎ払い。
赤熱化した轟々とする炎を纏う蹴りで怪人を捻じ伏せる。
一切の矛盾、不条理、理不尽、不合理、虚飾を嘲笑うように身を躍らせ。
陵辱された空の下を縦横無尽、快刀乱麻を断つ異形。


六課を束ねる長、八神はやては半分の稚気と、四文の一の羨望と、そして畏怖をもってこう名づけた。






仮面ライダーと。




                              ◇




―――順調に世界侵食は進んでいるね―――


―――ああ、魔砲少女達の力も通じない―――


―――それはそうさ。『魔法少女』とはそういう存在。『人々を助け、平和を守る』というのが世界の設定した『お約束』―――


―――そう、魔法少女達には決して『生き物を殺す』という設定は付けられていない。彼女達は『魔女』でも『魔法使い』でもなく、『魔法少女』というカテゴリーを与えられているのだから―――


―――そう、それ故に『怪人』には勝てない。『人々の命を奪い、平和を脅かす』事を約束事としているのだから―――


―――そして怪人を倒す事を取り決められているのは魔法少女でも英雄でもない。『正義の味方』のみ―――


―――しかし、どうやらその正義の味方が現れたようだ―――


―――あの半端者?英雄のなり損ないの分際で……いや、だからか?―――


―――左様。何者かが目を付けたのだろう。自身の役目を担い損ねた半端者。故に未だにカテゴリーが定まっていないのだ。そもそも素材そのものは申し分が無い―――


―――なるほど、存在のあり方をカスタマイズするつもりか、その何者かは……これは面白くなってきたと言うべきか?―――


―――喜ぶべきであろうな。『悪の組織の黒幕』というカテゴリーを生まれ持った我々は。もっとも、『正義の味方に最後に敗れる』というお約束はとうにデリートしてあるがな―――


―――まぁ、良い。時間はたっぷりとあるのだからな……たっぷりと……―――

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年03月02日 05:50
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。