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ガンダムSEED DH 3話

第3話『かあさん 前篇』

平日の昼前、シンとディエチの今いる場所、そこは激戦区となっていた。

「ヤバッ! シンさん、チョコパイが売り切れた!!」
オレンジ色のバンダナとエプロンをしたディエチが焦る。今日は長い髪を邪魔にならないようにアップしているのか、いつもと雰囲気が違っていた。

「今焼きあがった、台に並べてくれ!!」
赤いバンダナとエプロンをしたシンがパンを焼く。エプロンが軍服より似合っている。

ビビッ『シン あと約5分で近所の子供たちが来る!! ブルーベリーパイの準備はできているのか!?』
8が仮の体を限界ギリギリまで性能を引き出して計算をする。

「あと1分で焼きあがる!」

ビビッ『ホイップクリームの仕上げをする時間はないぞ!!』

「そんな・・そんな手抜きできるかァァアア!!」
物凄い勢いで出来立て熱々のブルーベリーパイの上にホイップクリームのデコレーションを仕上げていく。値下げをしてクリームの仕上げ無しという選択は、シンの気性が許さなかった。

「揚げドーナツ揚がったぞ!」
白いバンダナとエプロン、剥げた頭に無精ひげの顔、筋肉質の中年の大男が野太い声でこの店の人気商品を運んできた。この店の店長だ。
「おやっさん、ナイスタイミング!」
「ったりめーよ!」
ディエチとおやっさんがビッといい笑顔で親指を立てる。

        • 染まってきたな。シンはそう思いながら、最後のブルーベリーパイを仕上げた。
この男、昨日も同じ仕事をやったが作業完了までに2分58.9秒と無意識のうちに昨日より2.1秒も短縮し3分の壁を突破。この店始まって以来の新記録達成であることを誰も知らない。



シンとディエチがこの海の見える町に来て、この店で住み込みでアルバイトをして3週間が過ぎようとしていた。ガイアの修理及び改修が必要だったのと連合に再び目をつけられていたので傭兵稼業はしばらく休業することになったのだが、働きもせずぐうたらするわけにもいかないのでアルバイトをすることにした。
なんでもこの小さなパン屋『サザンクロスベーカリー』は、丁度いつも手伝っている息子夫婦が1ヶ月ほど旅行に行って人手が足りなかったのでお世話になることになった。シンとしても格安で傭兵稼業をやっていたので経費削減のためにこの話に乗らない道理は無かった。
ディエチは前の依頼以来、シンが危険だと指示しない限り、シンから離れようとしなくなった。シンは良い社会勉強だと思いディエチのアルバイトを許可した。そして、2人はパン屋『サザンクロスベーカリー』でバイトをすることになった。
ちなみにシンは、この町に来てからはシンは『ジン・スカリエッティー』という偽名を使い、ディエチとは旅をする兄妹ということにしている。
シンはあまり好きではないが、ディエチはこの町の港から見える海の景色がけっこう気に入っていた。
「よしッ、準備はいいな!!」
「「サー、イエッッサー」」

もうすぐ来る。・・・・もうすぐ・・・・来た!!

それは嵐のように、轟音ととも、地響きを鳴らしながらにやって来た
「「「いらっしゃいませー!!」」」

「お兄さん、これをお願い」
「はい、ありがとうございます」
シンが営業スマイルで主婦や女学生たちの接客をしている。今の相手はいつも昼休憩に学校から抜け出して来ている3人組の女子中学生だった。
「あと2番テーブルにコーヒー3つね」
「分かりました。お客様方」
「ここはお嬢様って呼んでほしいな~」チラッ
「・・・・分かりました。お嬢様方」ニコッ
「「「キャーーー!!」」」
ませた中学生だと思いつつ、シンは内心ため息をついた。

「ディエチお姉ちゃん、これくださーい!」
「ちょっとまってね」
ディエチが笑顔でレジで元気いい近所の子供達の接客をする。みんな小銭を握って笑顔だった。
「今日もお母さんからのお買い物?」
「うん!」
「そっかぁ、えらいね~」ニコッ
「ヘヘヘッ」
「じゃあこれはお姉ちゃんからのご褒美」
ディエチは小さな飴玉を腕白そうな男の子に渡した。
「わあー ありがとう!!」
実に微笑ましい光景である。

「「「ディエチちゃーん、今日こそスマイルちょーだ・・ぐへッ!」」」
「テメーらはこっちだ。」
ディエチに鼻の下を伸ばした男子学生たちを店長(おやっさん)が接客(?)していた。シンは懐から掴みかけたヴォルク-47から手を離す。
「おやっさん、殺生だ!!俺らにもディエチちゃんのスマイルをプリーズ!!」
「爆熱ゴットカレーパン1つとカツサンド1つと揚げドーナツ2つだな。あとおまけのスマイルだ キラッ☆」
そう言って、店長は星のでるようなスマイルを男子学生たちにプレゼントした。無駄に白く綺麗に光る歯に憎悪を覚える。
「涙しかでねえよチキショー! なんて店だ!!」
「サザンクロスベーカリーに決まってんだろ。何言ってやがるんだ?」
「「「店の名前を聞いてるんじゃねえ!!」」」
毎日繰り返される実に下町らしい習慣である。


3週間も経ちこの仕事もこの生活も大分慣れた。今は2時過ぎ、ようやく昼食にありつける。
「ねえ“お兄ちゃん”」
「・・・・ッ!?どうしたディエチ!?」
シンは何かに引き込まれそうになったが、なんとか踏みとどまった。
「ねえ、今日の仕事が終わったら海見に行こうよ」
「えーまたかよ。昨日もいったじゃん」
「ジン、付き合ってやれ」
「えーー」
「まあそう言うな。港の連中だってディエチが顔を出すのを楽しみにしているんだ」
「だってあいつ等すぐに(ディエチを)ナンパしようとするし・・・」
「この前、そのナンパしようとした奴らを1人でボコッたのは誰だっけか?」
「・・俺です。すいません」
「ならついて行ってやれ。これは店長命令だ」
「・・サー、イエッサー」ボソッ
「お兄ちゃん、声が小さい」
「ん゛~~・・イエッサー、マム!!」
ディエチはシンの様子を見て二ヒっと笑った。兄と父親の影に隠れる妹のようにも見える。
「シ・・・お兄ちゃんは海が嫌いなの?」
「んーあんまり好きじゃあない」
「なんで?あんなに綺麗なのに」
「海の上で何度も死に掛けた!(ザムザザーの相手をしたり、ウィンダム30機の相手をしたり、艦隊の相手をしたりetc・・・)」
「? 意味分かんない」
「ディエチは知らなくていいんだよ」
シンは激苦い思い出を思い出しながらディエチの頭をクシャっとなでた。ディエチはまた子供扱いされたと思い少しイラッとしたが、シンの漂わせるドヨ~ンとした雰囲気に何も言えなかった。
「ジン、あとメシ食ったら軍の基地に配達行ってきてくれ」
「分かりました」


「じゃあ行ってきます」
「お兄ちゃん、8を忘れてる!」
『私を置いていくな!!』
「ハハハ・・ハハ・・悪い悪い」
シンはまたディエチに「お兄ちゃん」と呼ばれ、乾いた笑いをした。いくらしょうがないとはいえ何度言われても慣れない。
あの依頼以来、シンはディエチに1人で行動するときは8を必ず連れて行くよう義務づけられている。



前のオルテガ共和国の以来のあと、あれは酷かった。1時間以上も8とディエチからどれだけ心配したのかと正座で説教をくらい。ディエチから泣きつかれ、あやし、機嫌をとるために超特大シャッフル同盟パフェをおごり、買い物に付き合い、1日中娯楽施設に行ってようやく許してもらった。
他人から見たら思いっきりデートです。本当に周りの彼女のいない男達をイライラさせました
シンが軽トラで向かった先は連合軍基地。
「すいませーん!サザンクロスベーカリーの者です。パンの配達に来ました」
「ご苦労様。じゃあ、いつものとこに運んでおいてくれ」
「わかりました」
壁にはシンらしき人物が血塗れたナイフを舌で舐めている写真の手配書があるが、シンを凶悪に見せるためにかなり加工し別人になっている。これのおかげでカラーコンタクトを着けるだけで本人とは気付かない。

「ところで兄ちゃん“アレ”は持ってきてくれたかい?」
受付の兵士がシンを人気のないところに連れて行き、ヒソヒソ声で取引を持ちかける。

「はい・・・ここに」
シンはガサガサと1つの紙袋を出した。
「じゃあちょっと中身を確認させてもらおうか」
「どうぞ」
「ふふふっ・・・そう、これこれ。」
受付の兵士が不気味に笑いながら、紙袋の中身を確認する。

「ほら代金だ。釣りはいらねーから」
受付の兵士が紙幣を2枚、シンに渡した。
「毎度、またお願いします」
シンは積荷を下ろして受付を済まし、軽トラに乗って帰っていった。


紙袋の中身、それは・・・
「ふふっ・・・ん。美味っ!!」
愛されて20年、おやっさん特製の揚げドーナツ。この基地の兵士達にも無論人気で本来は模擬戦の戦利品となっているのだが、MSパイロット適性のないこの兵士はシンと揚げドーナツの取引をして得ていた。


「あー、おやっさんの揚げドーナツ残ってるかな?」
夕闇の帰り道をシンは帰ってからどうするか考えながら通った。帰ったら店を閉店して、明日の仕込みをして・・・普通の生活が当たり前になってきた

ここはいい町だ。戦争の爪痕もあるが少しづつ立ち直っている。この辺の連合の兵士達は、本来の軍務を全うしているので治安もいい。なにより毎日人の笑顔が見える。

あともう少しすればガイアの改修も終わる。そしたら、また危険な仕事が始まる。

もしディエチの記憶が戻らなかったら、この町に住むように言ってみようかな。・・・・俺と一緒にいても危ないだけだし。

『何を考えている?』
「・・べつに」
『当てて見せよう、ディエチのことだな』
「・違う、明日のパン生地の仕込みについてだな」
『もうすぐ、ガイアの改修が終わる。その後、ディエチを連れて行くかどうか迷っているのだろ?』
「な、なんでお前が知ってるんだ!?」
『私が改修の設計したのだから当たり前だ』
「・・・マジか」
『マジだ』
『これが、その仮のデータだ。』
8はシンにMS形態の改修予定図を見せた。シンも機体の性能を把握しておかねばならなかったし、おやっさんの家で見るわけにもいかないので運転しながら8の説明を受けた。

ウイングは完全に作り直されていた。幅が広く付け根元には大型バーニアが設置されより大気圏内飛行に適した形になり、可動角度も大幅に広くなって前進翼にも後進翼にもできるようになっている(グリフォンブレードはまた使えるようだ)。各スラスターは大型化され、バックアーマーは無くなり代わりに中型バーニア2機と小型可変翼が設置されている。
これまで“追加”されていたスラスター、バーニア、ビームブーメランなどの装備は“一体化”していた。あと変わった所といえば、MA時前足先となる肘のパーツが前よりも少し突き出ているぐらいだ。

(見た目の変化はそんなところか)
「飛べるのか?」
『飛べるとも!』

「重量は?」
『ヒ・ミ・ツ』

「材質、追加機能、追加武装、最大稼働時間は?」
『禁則事項です♪』
「やべっ 切れそうだ」
『HAHAHA ジョークだ』
『お楽しみは現物を見てからにとっておけ』
「オッケー。いい子して待つとしよう」
シンは呆れ、8にはツッコミ役が10人ぐらいは必要と感じた。
『ところでシン』
「なんだよ」

『わき見運転してていいのか?』

「え?うおおお!!」
前を見てみると道路の真ん中で両手を広げて立っているトレンチコートを着た女性がいた。シンは急ブレーキを引き、ハンドルを右にきって女性にギリギリ当たらないように車を止めた。
「っっと!! ・・・ ぜぇー・・ゼぇー・・セーフ」
『間一髪だな』

「あんた何やってんだッ!?」
シンは車から出て女性を怒鳴ろうとした。
「助けてください!!」
「え?」
だがいきなり女性に腰を抱かれ、しかも助けを乞われ混乱した。

「いたぞー!!」
林の中から2人組の男が現れた。2人ともスーツ姿で暗いのにサングラスをしている。明らかに怪しい
「何なんだアンタ達は?」
「そのナチュラルを渡せ!!」
左の男が軍用ナイフを抜いて襲いかかってくる、シンの顔つきが変わった。
「さっさとどけ!」
「・・・・」
ナイフが首めがけて迫ってくる。シンは相手のナイフを持っている手を掴み、相手の体を引き寄せる。
「・・うぐぅ」
ボスッと男の股間にシンの膝蹴りが入った。
「ッ・・貴様ッ!!」
「いい年して2人でナンパかよ?」
もう1人の男が胸から拳銃を取り出そうとするが、シンの手刀が阻む。
「俺だってまだやったことないのにっ!!」
「ぐはぁっ」
そのままシンは男の服の襟を掴んで、男の鼻に思いっきり頭突きを食らわせ、急いで車内に戻る。
「何やってんだよ!早く乗れ!!」
「は、はい!」
女性は急いで軽トラに乗った。


車を適当なところに止めて彼女を問い詰めた。
「何で追われているんですか?」
「え、えーとそれは・・・」
「あいつ等まだ」
「え?」
女性がバックミラーを見てみるとさっきの男達が黒い車で追ってきていた。
「ちょっとハンドルお願いします」
「え!?ち、ちょっと!?」
シンは上半身を走る車体から出し右手で胸のホルスターからヴォルク-47を取り出す。女性はかなり無理な体勢でハンドルを操作する。アクセルは踏めないので狭まっていく車間。
口で銃身をスライドさせ装填し標準をつけ狙うは前タイヤ。

「しつこいッ!!」

ガンガンッと2発の銃弾がヴォルク-47から放たれ、後ろの車の前輪タイヤ2つをライトごとぶち抜く。ライトのカバーの破片がキラキラと散り、男達の車はスピンしそこら辺の木に激突、ボンッと煙と火を吹いて止ってしまった。
「まったくッ」
苛立ちながらヴォルク-47をクルリと1回転させ、カシャッと左胸のホルスターに戻す。
「詳しいことを聞かせてもらいますよ」
シンは女性を睨みながら言って運転にもどった。
さっきの男達はコーディネーターだった、ザフト崩れがナチュラルを殺害するのなら珍しくないが、さっき奴らは女性を“生きたまま捕獲”しようとしていた。何かがある
「・・はい」
「名前はリサ・ウイング、年齢は29歳、職業は学者で合ってますか?」
「はい」
シンは喪服を着た茶色いショートヘアーの彼女を見て何か悲しい印象を持った。
「なんでコーディネーターに追われてたんです?」
「・・・目当ては私の研究している薬物の精製方法に関する情報なんです」
「薬物?」
「はい・・・グリフェプタンDというものです」
「・・・・グリフェプタンD?」
「生体CPUに必要な薬物です。」

生体CPU・・エクステンデット・・・・ス・テラ・!!!

頭のなかで映像が勝手に流れる、冷たくなっていく体温が再現される、自分への憎しみが蘇る

「あの大丈夫ですか?」
「あッ・・ああ、説明を続けてください」
「はい、数年前、私はとある研究所で勤務していました。・・・・私はアウルという被検体の子供に出会い・・よく泣く子で私を『母さん』と呼んで私に懐いていました。私もアウルを子供はいませんが実の息子のように愛していました。私は・・・グリフェプタンDの投薬が決まった日、アウルとその同室の子供達を逃がそうとしました。ですが・・・・逃亡は失敗し、私は研究所を辞めさせられ死人のように生きていました。」
「あいつらの狙いは?」
「私の知識からグリフェプタンDとその他に必要な薬物を調べ、身寄りのないコーディネーターの子供を生体CPUにしようとしているんです!!」
「・・・・コーディネーターをエクステンデットにした場合、能力はどこまで上がるんですか?」
「有名なところで、第一級コーディネートを受けたアスラン・ザラ並みに・・・・」
「・・厄介だな」
つまりアスランを量産できるのか・・・・想像したくねー。
「あの・・・あなたは?」
「俺はシ・・ジン・スカリエッティ、今はパン屋でバイト中ですが一応傭兵をやっています。」
「傭兵・・・あの、お願いします!!私に息子のアウルの死んだ場所へ行かせてをさせてください!!!・・・聞けばあの子は戦場で戦死したと聞きました・・・・ッ。私はその後どうなってもかまいません!!」
彼女はシンに頭を下げた。
「いいんですか?俺コーディネーターですよ?つまりアウルを殺したヤツと同じ人種・・・」
「さっきの動きで分かっています!!けど・・・けど・・!!」
そんなヤツに頭を下げる・・・・どれほどの屈辱感を味わっているのだろうか
彼女は涙を流しながら震えていた。手の甲にポタポタと滴が落ちていく・・・。
「途中捕まって拷問をうけるかもしれませんよ?」
「覚悟しています」
彼女は自分のハンドバッグから小口径のリボルバーを取り出した。
「弾が1発だけ入っています。もし捕まってしまった場合、私はこれで自害します。」
どうやら覚悟は本物のようだ
「・・・・料金は前払いでお願いします。」
「ありがとうございます!!」
シンは彼女の表情を見てなんとも言えない気分になる。
シンはオヤッサンとディエチに訳を話した。シン・アスカということは隠しているが警護専門の傭兵ということは話している。
「というわけなんです。」
「ふん!しゃあねぇー行って来い!!だがな」
「何でしょう?」
「必ず守ってやれ!!」
「はいッ!!」

「・・・・嘘つき。後で一緒に海を見に行くって言ったのに」
「弁解のしようもないな・・・。」
シンは頭をかきながら視線を泳がせる。
「・・・・絶対帰ってきて」
まだシンを信用しきっていないのか、ディエチはシンのYシャツのはしを摘んで顔を隠すようにうつむく。
「・・土産買ってくるよ」
シンはディエチの頭にポンと手を置いて優しく撫でた。

トレーラーで簡単な準備を済ませ、8をクリアカバーのついたカバンに入れる。
「今回は連れて行くよ。情報腺が重要だし」
『今回からだ。もう前のようにディエチの子守はこりごりだ』
「お前なんでもできそうなのにな」
『できるぞ』

『子守以外はな』

「減らない口だ」
『さあ行こう。依頼人が待っている』

「お待たせしました」
「いえ、急に依頼したのはこちらですから」
「目的地はどこへ?」
「クレタ島へ」
「なら出発は明朝にしましょう。それまでゆっくり休んでください」
「分かりました」


暗くて肌寒い明朝、ホーム・パックの床をはぐって簡単な装備を整え、誰も寝静まっている時間に出発した。相手はコーディネーターしかも、所属は不明だったので細心の注意が必要だった。
空港のある町まで行き小型飛行艇でいけば1晩でいけるのだが、できるだけ名前の記録が残らない陸路と最寄の町の空港から3日かけて行くことが好ましく、事実痕跡を残さずに移動できた。

列車の中、彼女は1枚の写真を大事に哀しげに見ていた。
「すいませんが、その写真は?」
「アウルといつも仲良く一緒にいた子供達との写真です。この子達も死んでしまいました」
(・・・まさか?!)
シンは驚愕した。その写真に写っている“女の子”に
「ちょっと見せてもらってもかまいませんか?」
できるだけ冷静を装い、ちょっと興味があるだけのように頼む。
「? ええ、構いませんが。生きていたら今のあなたぐらいになっています。」

震える手で写真を受け取る。写真には真ん中に今よりも若い笑顔のリナが立っていて、真ん中下にそのリナに抱きつきこちらにピースをするやんちゃそうな水色の髪をした男の子、右側に全員を見守っているつり目の淡い緑色の髪をした男の子、そして、リナの左側に両手で抱きついている見覚えのある顔つきの金髪の女の子が写っていた。

リナは悲しい笑顔で写真を指さしながら言った。
「真ん中の子がアウル、右の子がスティング、左の子がステラといいます。いつもアウルがステラをいじめて、スティングが泣いているステラをあやしていたんです。」

        • 嘘・・だろ・・・こんなことって
シンの耳にはリナの声は届いていない。

「それでスティングに叱られていじけているアウルがよく私に甘えてきて・・・・?。あの・・ジンさん? あのッ!!」
「・・はッ!? あ・ああ、すいません」
シンはようやく我に返った。
「大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。できたらもっとス・・この子供たちについて聞かせてくれませんか?」
「・・分かりました」
リナは優しい表情で懐かしみながら聞かせてくれた。シンはただ黙って罪悪感に浸かりながら聞いた。



なんとか無事に空港のあるこの町まで来た。3日間ずっと列車で移動していたのでリナはろくに眠れなかった。
「お疲れ様です。明日の飛行機でクレタ島へ行きますので、今日はこの町のホテルに泊まってゆっくり休んでください。」
「うう・・分かりました」
リサは実際の年齢よりも若く見えたので、2人は恋人ということにしてセキュリティーの安全なホテルで最上階に同じ部屋を借りた。
今、リナはシャワーを浴びている。シンはヴォルク-47の手入れをしながら8に話かけた。
「8、調べてほしいことがあるんだが」
『アウルとスティングについてだろう?』
「ああ」
『2人ともお前が倒している』
「・・・・やっぱりか」
『アウルはアビスに搭乗している時に』
『スティングはデストロイに搭乗している時に』
「デストロイ?でも、確かカオスはオーブのムラサメ部隊に墜とされたんじゃあ」
『スティングは生き残りさらに調整をされ、ヘブンズべース攻防戦にデストロイで出ている』
「・・・そうだったのか」
『戦争だったんだ 気にするな』
『それよりお前の本名は明かすな “シン・アスカ”は良い意味(ヒーローとして)でも悪い意味(ヒールとして)でも有名だ』
『シンがインパルスとデスティニーに乗っていたことぐらい小学生でもインターネットで調べられる』

「なんせ本来なら俺は戦争犯罪者だからな」
不敵な笑顔だった。事実を受け止めた者だけができる笑顔だった
ただこの笑顔は、シンのやってきたことを理解してくれる人たちが確かにいることを知っているからできる笑顔でもあった。

『すまない』
「いやいいよ、本当のことだし悪役と騙されることは慣れてるよ。まぁ・・本名を明かさない、それでいいんだろ?」
『そうだ 顔はわれていない』
「なら楽勝 楽勝」
『あとディエチには連絡しなくていいのか?』
「いいよ」
シンは軽い気持ちを装って断った。
『そうか』
「それより頼んでおいた万が一の時の準備はできているのか?」
『当たりまだ!』
「ジンさん、シャワー空きましたよ」
扉をあけバスローブ姿のリナが出てきた。準備などしてこなかったのでアレで寝るようだ。チラリとのぞく胸の谷間と美脚が眩しい、ディエチにはない大人の女の美しさだ。
「あ、はいッ!」
シンは初々しく顔を赤くする。
『あとでディエチに言いつけてやる』


シンはシャワーを浴びながら、ディエチがまた泣いてはいないだろうかと心配をしていた。
「8、それはなディエチの声や言葉を聞いたら俺は思い違いをしてしまうんだ。・・・・俺も暖かい世界にいてもいいってゆう・・馬鹿な思い違いを」
手を念入りに洗う。見えないはずなのに、濡れていないはずなのにヌルッと赤く血で濡れているように見えた手を念入りに洗う。


「ふうー、気持ちよかった・・・と、もう寝たのか」
シャワールームから出ると、もうベットでリナが眠っている、よほど疲れていたのだろう。A8は休止状態で充電中である。

「うぅ・・・アウル・・スティング・・ステラ・・・・ごめんなさい・・・・××××、××××××××」

シンは、リナの最後の涙を流しながらの寝言を聞き顔をしかめた。
「何考えてんだよ・・馬鹿ッ」
シンはソファーで普段着からジャケットを脱いだだけの格好で寝た。

過去に縛られる姿を見てディエチに会う前の悪夢にうなされていた自分を思い出した。

すすり泣く声を聞いてたとえ戦争であっても“人が人を殺す”という行為の愚かさが思い知る。

ステラが少しの間でも本当に愛されていたことを知って嬉しかった。そして、それを殺した自分が憎かった。
午前1時過ぎ
眠れないシンは何かの重みを感じた。でも、それは嫌な感じはしなくて、包んでくれるような優しい感じがした。
「・・何やっているんですか?」

「・・・お願い。寂しいの」

まぶたを開けると下着姿のリナが抱きついていた。
カチカチと時を刻む音が鳴り、それ以外は嫌な沈黙が続く。
リナはうつむいていた。ただシンの胸の肌が落ちてきた哀しい滴で濡れる。

リナはシンの服を脱がせようする。だがシンの手がリナのか弱く悲しい手を掴んで阻む。
「止めて下さい」
冷たい声が響く

「なぜ?なたに損はない筈よ?」
悲しい声が問う

「俺はアウルではありません・・・・ッ。アウルの代わりになれないし、なるつもりもありません。」
吐き捨てるように発したその声は罪悪感を秘めていた
彼女の本当の目的は性行為ではなく“人肌”。ここで何もせずただ両腕で抱いてやるだけのことが1つの正解なのだろう、だがそれは自分以外の男の場合だ。自分だけはこの女性を抱いてはいけない、そう思った。

「そう・・・ごめんなさい。・・・・私どうかしてたわ」
ベッドに戻っていくリナ、その表情は暗闇で幸いにもシンには見えなかった。
シンは泣いているリナの顔をみたら中途半端な優しさを差し伸べてしまいそうで辛く怖かった。


午前3時過ぎ
「ん・・んん・・何だ!?・・くッ!!」
バババッという音が聞こえてシンは目を覚ました。するといきなり出てきた強烈な光に目がくらむ。外にはザフトの戦闘用ヘリであるアジャイルが飛んでいた。
アジャイルの後部座席のハッチが開きジュースの缶のような形の何かを3発撃って去った。ガシャーンと窓ガラスが割れ、ジュースの缶のようなモノが転がり白い気体が吹きだす。
「ガス弾か!?」
睡眠ガスを吸い込んでしまい力が抜けていく。
「・・・・ッ・・!!」
そして、とうとう膝をついてしまった。それと同時に銃声が2発聞こえ、同時にドアが蹴り破られガスマスクをした2人の男達が入ってきた。
「・・待・て・・」
2人の男達はベットで眠っているリナを布団ごと連れ去っていった。
シンはベルトに止めてあった折りたたみ式の軍用ナイフを取り出しパチンと開く。
「はあー・・はあー・はあー・・・」
黒いカーボン製の刃を数秒見つめ、自分の左太ももに刺した。
「ぐっ!!」

痛みで眠気が覚め、それと同時に物陰に飛び込んで隠れた。ヘリが再び飛んできて機銃をぶっ放し、部屋の中が次々とハチの巣になっていく。
「はあッ・・・はあッ・・・・野郎!!」
シンはドアに向かって走り出した、追ってくる鉛玉、ドアから出て向かう先は屋上。


屋上へのカギを鉛玉で開け、コツンコツンと足音を鳴らしながら歩く。すると後ろの下からアジャイルが飛び上がってきた。
シンは右手にヴォルクを持って正面に向かって歩いた。
アジャイルが機銃を撃ちながら背後から向かってくる。

(まだ・構えない・・・・引きつけるんだ!)

火花が蛇のように屋上をはってやってくる。風が荒れる

(屋上との距離はだいたい13いや・・12mか)

ヘリの音で服が揺れているのが分かる。ライトの光が暖かく感じる。

(あと2m・・今だッ!!!)

シンが振り向き、右に横跳びしながらヴォルクを両手で構え2発撃った。鉄の扉や車でさえ紙のように貫通させる2発の弾丸はアジャイルのエンジンに命中し撃ち抜く。
ヴォルクを左胸のホルスターにクルリと戻し、部屋に戻るために歩く。

シンの背後約20m先空中でアジャイルが爆発した。


「・・8、大丈夫か?」
何とか瓦礫の中から8を救出する。左太ももにには血に滲んだ布が巻いてあった、さっきシンが自分で巻いたものだ。
『何があった!?』
「襲撃だ。とっととこのホテルからトンズラする」
『分かった』
「小型発信機はちゃんと作動しているか?」
『大丈夫だ 考えたなシャワー中に彼女の下着に着けるとは』
「うるさいッ!!」
シンは灰色のジャケットを着て、混乱に乗じてホテルから出た。血の跡が点々と続いていく
「あいつら・・目に物見せてやるッ!!」
手負いの獣が走る。紅い目をギラつかせながら

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最終更新:2010年03月31日 01:42
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