仮面ライダーW 5話『怪盗S/大事なモノがある』
破壊の杖をフーケによって盗まれた翌日。
秘宝である破壊の杖を盗まれ、トリステイン学園は大騒ぎとなっていた。
「それで、フーケの反抗を目撃したのは誰かね?」
古ぼけたような老人、学園長であるオールド=オスマンが切り出す。
「はい、ここにいるミス・ヴァリエールです」
教師の一人が後ろに控えていたルイズを指差す。
サイトとシンもいるが、使い魔なので数に入っていない。
その言葉にムッとするサイトだが、シンが宥める。
「ふむ、君達か」
オスマンはサイトとシンも含めて言った。
興味深そうにサイトを、その後にシンを見つめた。
「詳しく説明してくれるかね」
ルイズが前に出て、説明を始める。
「私達が広場にいたら突然、爆音が聞こえてきたんです。行ってみたら、巨大なゴーレムが宝物庫の壁を殴りつけていたんです。それで、何とか食い止めようとしたんですけど、フーケがゴーレムを囮にして、何かを…多分『破壊の杖』だと思いますけど…盗み出して行きました」
「ふむ……」
オスマンは髭を撫でる。
「後を追うにも、手がかりは無しというわけか」
ふと、オスマンは先生の一人、コルベールに尋ねる。
「時にコッパゲ君、ミス・ロングビルはどこへ?」
「私はコルベールです、ミスター・オスマン。それが…朝から姿が見えません」
「どうしたというのじゃ、この事態に」
「ハァ、ハァ、遅れて申し訳ありません」
噂をすればというべきか、ロングビルが現れた。
「何処にいたのですか、ミス・ロングビル!大変ですぞ!?事件ですぞ!?」
興奮しているのか、コルベールはまくし立てる。
ロングビルは落ち着いた態度で話す。
「申し訳ありません。朝から、急いで調査をしていましたから」
「調査?」
「そうですわ。今朝方、起きたら大騒ぎじゃありませんか。そして宝物庫はあのとおり。壁にフーケのサインを見つけたので、これが国中を震え上がらせる大怪盗の仕業と知り、すぐに調査をいたしました」
「仕事が早いの。ミス・ロングビル」
そして、コルベールが話を促す。
「そして、結果は?」
「はい、フーケの居所が分かりました」
「な、何ですと!?」
コルベールは素っ頓狂な声を上げる。
「誰から話を?ミス・ロングビル」
「はい。近在の農民に聞き込んだところ、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブを着た男を見たそうです。おそらく、彼がフーケで、廃屋はフーケの隠れ家だと思われます」
「黒ずくめのローブ!?それはフーケです!間違いありません!」
ルイズが叫ぶ。
オスマンは目を鋭くして、ロングビルに尋ねた。
「そこは、近いのかね?」
「はい。徒歩で半日。馬で4時間といったところでしょうか」
「すぐに王室に報告しましょう!王室衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては!」
コルベールが叫んだ。
だが、オスマンは首を振ると怒鳴った。
「馬鹿者!!王室なんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうわ!その上、身にかかる火の粉を己で振り払えぬようで、何が貴族じゃ!魔法学院の宝が盗まれた!これは、魔法学院の問題じゃ!当然我らで解決する!」
ロングビルは、まるでこの答えを待っていたかのように微笑む。
オスマンは咳払いをすると、有志を募る。
「では、フーケ捜索隊を編成する。我が、という者は杖を掲げよ」
しかし、誰も杖を掲げようとしない。
誰もが困ったように顔を見合わせるだけだ。
「おや、どうした?おらんのか。フーケを捕まえて、名を上げようと思う者はおらんのか!?」
更に言うが、誰も杖を掲げない。
だが、杖ではなく手が一つ上がった。
「俺が行きます」
手を上げたのはシンだった。
その行動に、オスマンを除いたその場にいた全員が驚く。
「平民如きがフーケに敵うか!」
「魔法も使えない奴がでしゃばるな!」
数人の教師からの野次が飛ぶ。
「杖も掲げられない意気地なし達は黙っていろ!!」
その野次も、オスマンの怒号によって掻き消される。
「何故君が行くのかね?少し聞きたいのだが」
先ほどの怒号がありえないと思うほど、落ち着いた声でオスマンは話す。
「別に大した理由じゃないですよ。ある人に依頼として、フーケを捕まえて欲しいって頼まれただけです」
「たったそれだけでかね?」
「はい。名声なんか俺には必要ありません。そんなのよりも、もっと大事なのがあるんです」
「ほっほ~、大した若者だ」
話していると、もう一つの手が上がる。
「俺も行きます」
サイトも志願する。
「サイト、なんでお前まで?」
「別に、なんか手が動いてた」
そっけなく答え、ニヤリと笑うサイト。
呆れるが、シンは笑い返す。
「友情ってやつかの~、若いっていうのは素晴らしいの」
その光景にオスマンは笑みを浮かべる。
その時、俯いていたルイズが静かに杖を掲げる。
それを見たシュヴルーズが驚きの声を上げる。
「ミス・ヴァリエール、何をしているのです!?あなたは生徒ではありませんか!ここは教師に任せて…」
「誰も掲げないから、使い魔たちが行くと言っているではありませんか。そして、私は貴族でメイジです。使い魔だけを行かせるなんてできません!」
ルイズを見て、サイトはポカンとする。
――バンッ!!
突然、扉を開く音が部屋に響く。
全員がドアの方向を見ると、そこにいるのは赤と青の髪。
シャルロットとキュルケがいた。
「ミス・オルレアンにミス・ツェルプストー、どうしてここに!?」
「私もフーケの捜索隊に加えて欲しいのです」
「…私のパートナーが行くと決めたのなら、それについていくだけ」
二人もシンたちについていくと志願する。
「お前ら、いくらついてくるって言っても危険すぎるぞ」
シンは三人を止めようとする。
「言ったでしょ、使い魔だけを行かせるわけにはいかないのよ」
「ルイズには負けられないし、どんなピンチもダーリンが切り開くって信じてるわ」
「…私はあなたのパートナーだから」
三者三様ではあるが、誰も引こうとはしなかった。
シンは呆れ、小さなため息を吐くが、オスマンはそれを笑いながら見ていた。
「そうか。では、頼むとしようか」
「オールド・オスマン!私は反対です!生徒たちを危険に晒すわけには!」
シュヴルーズが反対の意見を述べる。
「では、君が行くかね?ミセス・シュヴルーズ」
「い、いえ……私は気分が優れないので……」
「彼女たちはフーケを目撃しておる。それに、ここには『ガリアの赤鬼』がおる」
その名を聞いた瞬間、数人の教師がシンを見る。
「『ガリアの赤鬼』?」
聞きたげにルイズが問う。
他の三人や、シンも初めて聞いたのか、疑問に思う。
「自分でも分かってなさそうじゃな。平民でありながら貴族に平気で喧嘩を売り、なおかつ貴族を地に伏せる存在。ガリアの貴族が畏怖を込めて、平民が敬意を込めて呼んでいるそうじゃぞ。ちなみに、鬼というのは異国の怪物らしいぞ」
オスマンが笑って告げる。
シンはやっちまったというような顔をしている。
「アンタ、今までどんな仕事してたのよ」
「いや、貴族の中ですげぇ最低な奴が来て、迷惑だったから帰れと言ったら決闘になって、とりあえず顔を一発殴っただけで怖気づいて、その後に用心棒みたいなのが来て、そいつと戦う事になったけどそいつも倒しただけなんだが。…ここまでよく過大評価できるな」
「十分に大事じゃないの!?」
ルイズが突っ込む。
「赤鬼に加えて、ミス・オルレアンとミス・ツェルプストーは若いながらトライアングルの実力を持っておると聞いたぞ」
シャルロットは返事もせずにぼけっと、キュルケは得意げに髪をかきあげる。
そして、ルイズが自分の番だと言わんばかりに胸を張った。
だが、オスマンは困っていた。
褒めるところがなかなか見つからなかったのだ。
コホン、と咳をすると、オスマンは目を逸らしながら言った。
「その・・・・ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール家の息女で、その、うむ、なんだ、将来有望なメイジと聞いているが?しかもその使い魔は!」
それから才人を熱っぽい目で見つめた。
「平民ながらあのグラモン元帥の息子である、ギーシュ・ド・グラモンと決闘して勝ったという噂だが」
オスマンは思った。
「(彼が本当に伝説の『ガンダールヴ』ならば、『土くれ』のフーケに遅れをとる事はあるまい)」
さらに、コルベールが興奮した調子で、オスマンの言葉を引き取る。
「そうですぞ!何せ、彼はガンダー……」
言いかけたが、オスマンが慌てて口を塞ぐ。
「むぐっ、はぁ!いえ、何でもありません!はい!」
オスマンは落ち着くと、威厳のある声で言った。
「この者たちに敵うという者がいるのなら、一歩前に出たまえ」
前に出る者は誰もいない。
オスマンは五人へと向き直る。
「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」
「「「杖に懸けて」」」
ルイズ、キュルケ、シャルロットの三人は真顔になり、唱和する。
「では、馬車を用意しよう。それで向かうのじゃ。魔法は目的地に着くまで温存したまえ。ミス・ロングビル!」
「はい。オールド・オスマン」
「彼女たちの手助けをしておくれ」
「もとより、そのつもりですわ」
ロングビルは頭を下げると、そう告げる。
その様子の中、シンはロングビルを見据えていた。
ロングビルを案内役とし、五人はフーケの隠れ家へと向かった。
馬車とはいっても、屋根の無い荷車のような馬車である。
襲われた時、すぐに外へと飛び出せるように、という理由である。
「なぁ、シン。昨日の事だけど、何でお前魔法が使えるんだ?」
サイトが突然聞いてくる。
「あら、ダーリンってもしかして貴族なの?」
キュルケも聞いてくる。
ルイズも聞きたいのか、何やらウズウズしている。
「あれ、そういや言ってなかったな」
シンはナイフ、地下水を取り出す。
「魔法が使えるのは、コイツのおかげさ。地下水って名前だ」
『おぉ、何か色々な奴がいるね~』
「喋った!?そいつもデルフと同じなのか」
「インテリジェンスナイフってやつね。でも、魔法を使えるようになるなんて、このオンボロ剣とは違うのね」
『コラ、小娘!誰がオンボロ剣じゃ!』
鞘から少し出ているデルフリンガーがカチカチと音を鳴らす。
『まったく、『使い手』が俺っちを持てば鋼鉄でもスパッと切れるってのによ!』
「なぁ、デルフ。その『使い手』っていったい何なんだ?」
サイトが聞く。
『いや~、俺っちは古い時代からあるもんでね。長生きしてっから、記憶が抜けてるんだが、…お前の左手にルーンがあるだろ』
サイトは自分の左手を見る。
左手の甲にはルーン文字が刻まれている。
『それが俺っちの昔の相棒とそっくりなのさ。それが俺っちの『使い手』の証だ』
「具体的には思い出せねーのか?」
デルフがウーンとうねる。
「……ガンダールヴ」
本を読んでいたシャルロットが答える。
「ブリミルが召喚した伝説の使い魔の内の一人にいたと言われてる」
『おう、そんなんだ!いやー、懐かしい名前だぜ』
それぞれが話している中、シンは地下水を戻し、バットショットを手にする。
「(バットショットに宝物庫の辺りを撮影させておいたが、何らかの証拠は捉えられたか…)」
昨晩の事件の時にバットショットを飛ばしたのは、フーケの足跡となるモノを捉える為だった。
撮った写真を見ていく。
そして、ある写真が目に付く。
「(これは……)」
写真は宝物庫が破壊された後の写真。
見れば、そこにローブを纏った人物が木陰にいた。
その写真をズームしていく。
顔の上半分はフードを被り見えないが、紛れもなく土くれのフーケであった。
「(コイツがフーケか…)」
写真を見ていたシンはある事に気づく。
「(ロングビルって先生が言っていた情報とまるで違うぞ。この顔立ちは確実に女性だぞ?)」
そう、ロングビルが入手した情報にはフーケは男だとあったが、これを見るには女性としか言えなかった。
「(農民の見間違えか、あるいは……)」
シンがロングビルに対する疑惑は少しずつだが、確実に大きくなっていた。
一行を乗せた馬車は深い森の中へと入っていった。
しばらくして、馬車から降りて、徒歩で森の小道を進んでいく。
すると、開けた場所に一軒の廃屋がポツンと建っていた。
六人は、廃屋からは見えない草の茂みに身を隠し、廃屋を見つめる。
「情報によれば、あの中にフーケがいるという話です」
ロングビルが廃屋を指差す。
「先ずは、偵察と囮をどうするかだ。正論からすれば、俺かサイトのどちらかだ」
「何でよ?」
シンの提案にルイズが疑問に思う。
「偵察をするには、素早さと身の軽さが重要だ。サイトは前の決闘でも分かるとおりだし、俺も元はそれなりの訓練を受けてきた」
「ってことは、シンか俺のどっちかがその役に就くかだな」
「いや、お前は残れ」
シンがサイトの案を拒否する。
「な、何でだよ」
「お前にはご主人を守る仕事があるんじゃないのか?」
ルイズがきょとんとしたような顔をする。
サイトは仕方ない、といった表情をする。
「分かったよ。でも、気をつけろよ」
地下水を取り出す。
廃屋へと近づく。
窓から中を覗くが、人影は見当たらず、気配も無い。
少し考えた後、誰もいないというサインを送る。
「もぬけの空だ。気配すら無い」
窓を指差す。
シャルロットがドアに向けて杖を振る。
「…罠は仕掛けられていない」
そう言うや否や、小屋の中へと入っていく。
シンとキュルケも続いて入っていく。
ルイズは外で見張っていると言って、後に残る。
サイトも行こうとするが、ルイズのことを考えると、外で待った。
ロングビルは辺りを偵察すると言い残し、森の中に消えた。
小屋に入ったシンたちは、手がかりを探し始めた。
すると、シャルロットがチェストを見つける。
「…これが、破壊の杖」
その中には、『破壊の杖』が入っていた。
持ち上げると、二人に見せる。
「あっけないわね!」
予想外の事態にキュルケが叫ぶ。
その中で、シンは『破壊の杖』を見つめる。
「何で、この世界にこんなモノが…」
その時、
「シン、ゴーレムだ!!」
サイトの叫びが響く。
その瞬間、小屋の屋根が吹き飛ぶ。
屋根があった場所からゴーレムが手を伸ばしている。
【BAT】
しかし、次の瞬間に、ゴーレムの腕が切り落とされる。
ライブモードとなったバットショットの翼によって、ゴーレムの腕が切断されたのだ。
ゴーレムの腕が再生するが、その隙に小屋から脱出する三人。
「大丈夫か!?」
「問題ない。それに、破壊の杖は取り返した」
取り返したが、あのゴーレムを倒さなければならない。
何より、当面の目標はフーケを捕まえる事だ。
再びシンは地下水を取り出す。
サイトが背中のデルフを抜き、構える。
飛び出し、ゴーレムへと向かう。
「サイト、狙いは足だ!転倒させて少しでも再生を遅らせるぞ!」
「分かった!」
シンが放つ魔法がゴーレムの右足を、サイトの一振りがゴーレムの左足を切る。
ゴーレムは倒れこむが、直ぐに足が再生する。
立ち直った直後に、ゴーレムが腕を振るう。
殴った場所が陥没する。
「昨日といい、なんつー馬鹿力だ」
「一発でも貰ったらお陀仏だと思えよ」
お互いに愚痴を零す。
ゴーレムが走る。
その瞬間、巨大な竜巻がゴーレムにぶつかる。
見ると、シャルロットが自身の身長よりも大きい杖を振るっていた。
ゴーレムは目立った外傷もなく、平然と向きを変える。
キュルケが杖を取り出し、呪文を唱える。
杖から炎が伸び、ゴーレムを火炎で包むが、ゴーレムは意に返さず、走ってくる。
「ちょっと、まずいわよ!?」
が、その足を風の刃が切り落とす。
即座に再生し、ゴーレムが振り返ると、地下水を構えたシンがいた。
「どっち向いてんだ。テメェの相手はこっちにもいるんだぜ」
ゴーレムがシンに向かう瞬間に、ゴーレムの背後で爆発が起こる。
何事かとゴーレムが振り返ると、杖を振ったルイズが後ろに立っていた。
サイトが叫ぶ。
「逃げろ、ルイズ!!」
「嫌よ!フーケを捕まえれば、誰ももう、私を『ゼロ』って呼ばないでしょ!」
ルイズの目は真剣そのものであった。
ゴーレムが狙いをルイズへと向ける。
「そのゴーレムの大きさを見ろ!お前だけで敵う相手じゃない!」
「そんなの、やらなくちゃ分からないじゃない!」
「無理だ!一旦逃げるぞ!」
サイトの言葉を聞き、ルイズがサイトを睨む。
「アンタ、ギーシュとの決闘の時、言ったじゃない」
「えっ?」
「下げたくない頭は下げられない!、って」
「そりゃ言ったよ!でも、今はそんな場合じゃないだろ!」
「私だってそうよ。ささやかだけど、プライドってのがあるのよ。ここで逃げたら、『ゼロ』のルイズだから逃げたって言われるわ!」
「言わせとけよ!こいつは戦略的撤退だ!」
「私は貴族なのよ!それに、魔法が使えるものを貴族と呼ぶんじゃないわ」
杖を握り締める。
「敵に後ろを見せないものを、貴族って呼ぶのよ!」
ゴーレムが走り出す。
その巨大な足で、ルイズを踏み潰そうとする。
呪文を唱え、杖を振るうが、ゴーレムの表面で小さな爆発が起こり、僅かに土が零れるだけだった。
サイトが駆ける。
ルイズの視界に、ゴーレムの足が広がる。
ルイズは目を瞑る。
その時、烈風の如き速さで駆け込んだサイトが、ルイズを抱き抱え、地面に転がる。
身を起き上げると、サイトはルイズの頬を、
パァン!!
辺りに乾いた音が響く。
「死ぬ気か!?お前は!」
呆気に取られるルイズを尻目に、サイトが怒鳴る。
「貴族のプライドがどうした!死んじまったら、それで終わりなんだぞ!お前が使いたいと思う魔法も使えないんだぞ!貴族のプライドなんかより、ずっと大切なモノがあるだろ!馬鹿!」
ルイズの目から涙がポロポロと溢れる。
「泣くなよ!」
「だって、……私…いっつも……馬鹿にされて……悔しくて…」
目の前で泣かれて、サイトは困った。
だが、ルイズが泣いても敵は待ってはくれない。
ゴーレムが腕を振り上げる。
【STAG】
機械音声が響く。
赤い弾丸のような物体がゴーレムを押す。
異常な程の力に、ゴーレムが転倒する。
「クワガタ?」
赤い物体、クワガタムシに似たガジェット『スタッグフォン』は上を示す。
上を見ると、シンたちを乗せたシルフィードが降りてくる。
サイトはルイズを抱えると、シルフィードに乗せる。
「あなたも乗って!」
シャルロットが焦った声で言った。
だが、サイトは首を振る。
「サイト…?」
サイトはゴーレムへと向き直る。
その意図を理解したのか、シンはシルフィードから降りる。
「サイト!?」
「「シン(ダーリン)!?」」
「シルフィード、行け!」
シルフィードは戸惑うが、ゴーレムが走ると空へと羽ばたく。
「悔しいからって、泣くなよな…」
サイトが呟く。
「何とかしてやりたくなるじゃねーか!!」
ゴーレムへと飛び出す。
「熱いな~。でも、俺もそうするかもなッ!」
地下水が呪文を唱える。
サイトがゴーレムの片足を切り落とす。
数瞬のタイムラグで、エア・スラストが右腕を飛ばす。
だが、再生が続く限り、ゴーレムはその身を復元させる。
その繰り返しが数分間続く。
『このままじゃジリ貧だ。一発でアイツを破壊できるモノが欲しいな』
デルフが言う。
「そんなの、ここにあるわけ…」
「嫌、一つだけある」
「え?どこに……」
「サイトーッ!」
突如、空から声が聞こえる。
見ると、ルイズが筒のようなモノを抱えながら降りてきた。
―数分前―
「あの二人、無茶しすぎよ!あのゴーレムを相手にするなんて!」
キュルケが叫ぶ。
いくらギーシュに勝ったサイトと、怪人を倒したシンといえど、あのゴーレム相手では勝ち目が薄い。
ましてや、二人は生身、一撃食らえば地面に倒れ付すだろう。
「サイト……」
ルイズは不安を押し殺しながら、戦いを見る。
「…一撃で倒す。それしか方法が無い」
シャルロットがゴーレムの打開策を練る。
「無理よ、私やあなたの魔法でさえあのゴーレムには効かないのよ」
「一つだけ、ある。…『破壊の杖』」
持っているチェストを開けて、中のモノを取り出す。
「杖っていうより、筒ね」
キュルケは感想を口にする。
「私が持っていく!」
ルイズが切り出す。
「ルイズ、あなた怖いんでしょ。膝が震えているわ」
言われるとおり、ルイズの膝は震えていた。
ゴーレムに踏み潰されそうになった事が恐怖となっていた。
「怖いわよ、嫌よ。…でも、何もしないで突っ立っている事の方がもっと嫌なの!」
ルイズがシャルロットと目を合わせる。
「…レビテーションをあなたに唱える」
シャルロットが破壊の杖をルイズに渡す。
「はぁ~、まったくあなたは……頑張りなさいよ」
キュルケの激励に頷くと、シルフィードから降りる。
「サイトーッ!」
レビテーションの魔法でゆっくり降下する。
ゴーレムを倒す切り札を持って。
降りてきたルイズは、破壊の杖をサイトに渡す。
「これが、破壊の杖…」
見た瞬間、サイトは驚く。
それはどう見ても、サイトやシンがいた世界にある武器『ロケットランチャー』だった。
「やっぱり、見たら驚くよな」
シンが苦笑いを浮かべる。
「確かにな…だけど、これならあの土人形を倒せるな」
問題はあのゴーレムをどう止めるかだ。
避けられたら次は無い。
「責任重大だな、おい」
「心配すんな。動きは止めてやる」
シンが地下水を構えると、呪文を唱える。
ゴーレムが走る。
「『マッド・フォール』」
しかし、シンと地下水が先に魔法を唱える。
ゴーレムにではなく、その『地面』に。
突如として、ゴーレムの動きが鈍くなる。
見ると、その足が如如に沈んでいく。
まるで泥濘によって抜け出せなくなる沼のように。
「これは一時的な魔法だ。さっさと決めようぜ」
「おっしゃー!」
サイトが破壊の杖を構える。
安全ピンを引き抜く。
リアカバーを引き出す。
インナーチューブをスライド。
チューブに立てられた照尺を立てる。
自分は一度も触れた事が無いのに、身体が覚えているかのように動く。
そんな感覚の中、サイトはゴーレムへと照準を合わせる。
「後ろにはいるなよ、噴射ガスが出るぞ」
安全装置を抜き、トリガーを押す。
しゅぽっと栓抜きのような音がして、白煙を引きながら羽をつけたロケット状のものがゴーレムに吸い込まれる。
そして、狙いたがわずゴーレムの胴体に命中した。
吸い込まれた弾頭が、ゴーレムの身体にめり込み、そこで信管を作動させ爆発する。
ゴーレムの上半身がばらばらに飛び散った。
ゴーレムの下半身が残っていたが、やがて崩れ去る。
それと同時に、地面にかけられた魔法が解除。
沼のような泥濘から普通の地面へと戻る。
「やった…のか?」
サイトが呟く。
シンがその問いに頷く。
ルイズは腰が抜けたのか、へなへなと地面に崩れ落ちた。
「…お疲れ様」
「凄いわ!あのゴーレムを一撃で倒すなんて!」
シルフィードから降りてきたシャルロットとキュルケが近づいて行く。
「でも、フーケは一体どこに…」
シャルロットの呟いた言葉にハッとする三人。
そこに、
「皆さん、何があったのですか!?」
偵察をしていたロングビルが茂みの中から現れた。
「動くなッ!」
投げナイフがロングビルの地面の下に刺さる。
叫び声の主は…シンだった。
「な、何をするのですか!?」
ロングビルは荒げた声で聞き返す。
「ちょ、ちょっとアンタ、何してるのよ!」
ルイズが怒鳴る。
だが、シンは投げナイフを構えたまま話す。
「白々しいな、『土くれ』のフーケ」
シンを除いた全員が驚く。
「そ、そんな。何を証拠に!」
「アンタ、さっき学院長さんと話した時言ったよな。『土くれのフーケは男である』って」
「えぇ、確かな情報を聞きました」
ロングビルは確信を持って言う。
「だけど、俺が聞いた情報は『フーケの性別は一切不明』だと聞いた。ローブを着ていたのなら、尚更男であるか女であるか分からないはずだが?知っているのは、フーケ自身か身内ぐらいだろ?」
「そ、それは…」
口ごもるロングビルだが、シンは更なる証拠を突きつける。
バットショットが羽ばたきながらシンの元へと帰ってくる。
「俺は昨晩、フーケに襲撃された宝物庫付近にバットショットを飛ばした」
メモリを引き抜き、ガジェットモードへと戻す。
「その時に、写ったのがフーケだ。これを見る限り、骨格でフーケが女だって事が分かる」
証拠を突きつけ、確信へと迫る。
「男だと思わせる事で、自分の正体を隠す事ができるって訳だ」
「そ、それなら「そして、」……」
ロングビルの言葉を遮る。
「さっきのゴーレムとの戦いの時、アンタはどこに行った?」
「わ、私はフーケが近くにいないか偵察を、」
引っ掛かった。
「ダウト」
静かに、しかし有無を言わさぬ一言。
「バットショットの映像に、証拠がある」
一枚の写真。
見れば、そこには杖を構えるロングビルの姿があった。
切り札を突きつける。
「言い逃れは出来ないぜ、フーケ」
ロングビルは俯く。
「ばれちまったかい。しょうがないね」
メガネを外す。
優しそうな眼差しが吊り上り、獣のような目つきに変わる。
「そうさ。私が『土くれ』のフーケさ」
ロングビルという仮面が剥がれ、フーケという本性が露となる。
「なんで、何でなんですかミス・ロングビル!本当に、あなたが…」
信じられないといった表情でルイズが聞く。
「えぇ、そうよ。途中まではうまくいったのに、『赤鬼』の性で台無しさ。せっかく破壊の杖の使い方も分かったっていうのにさ」
「じゃあ、学院に戻ってきたのは」
キュルケが聞くと、
「そう。盗んだはいいけど、使い方が分からなくてね。使える奴を探していたのさ。おかげで、使い方が分かったよ」
「だが、使い方を知ったからって、もう意味は無い」
「それは、このあたしが捕まるからかい?」
「お前が言う『破壊の杖』は、もうただの筒だ」
「な、どういうことだい!?」
驚愕の事実にフーケが聞き返す。
「コレはな、単発なんだよ」
答えたのは、破壊の杖を担ぐサイト。
「単発だって、どういう意味だい!?」
「言っても分からないだろうが、コイツはこの世界のモノじゃない。俺やシンの世界にある『ロケットランチャー』って呼ばれる持ち運びできる一発用の大砲みたいなモノだ。弾丸はさっき使ったから、もうコイツには何も入っちゃいない」
「くっ!」
フーケは悔しさを感じ、口を噛み締める。
「…しょうがないね。子供相手に使いたくは無かったんだが」
呟く声。
その瞬間、左手にメモリを持つ。
【SAND】
「ッ!?」
シンが投げナイフを投擲。
しかし、既に右手にガイアメモリが注入される。
投げナイフが弾かれる。
体長2メイル以上。
巨大かつ豪腕なる右腕。
砂地色をしたゴーレムを思わせる身体。
砂の記憶を内包した怪人、サンドドーパントが姿を現した。
『私は絶対に捕まるわけにはいかない。だから、ここであなたたちには倒れてもらうわ』
「そうはさせない」
シンがダブルドライバーをセット。
「いくぜ、タバサ」
【JOKER】
相棒の名を口にする。
シャルロットの腰にシンと同じダブルドライバーがセットされる。
「シャ、シャルロット。あなたのソレって…」
キュルケの声を遮り、メモリのスイッチを叩く。
【CYCLONE】
シンとシャルロットが並ぶ。
「「変身!」」
シャルロットが右のスロットにメモリをインサートし、転送される。
シンが転送された右のメモリを、次に左のスロットに自身のメモリをインサートし、展開。
最終更新:2010年03月31日 01:52