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ガンダムSEED DH 4話

第4話『かあさん 後篇』
明朝、今は使われなくなった古びた飛行場で2体のが立っていた。両肩にシールドを装備した標準カラーのガナーザクウォーリア、もう一方は・・・・右肩をスパイクアーマーにし頭部のブレードアンテナを大型化した血のように赤いスラッシュザクファントム。足元には2人組みの黒服の男と銃を向けられ野暮ったいジーンズとジャンバーを着せられたリナとがいる。リナの手には手錠がされていた。
「・・・これからどうするの?」
絶望し暗い表情のリナが男達に問う。
「これから、我々の本部まで来てもらう」
男は淡々と答えた。
「お願いッ!アウルの・・アウルのお墓参りだけさせて!!!それが終わったら何でも言うことを聞くから!!」
涙を流しながら請う
「ダメだ。信用できん」
だが持つ耳はもってはいない
「なら・・ッ」
突如リナは向けられていた拳銃を口にくわえ、手錠された手で男の人差し指を引かせようとした。
「なッ!?やめろ!!」
男は慌てて腕力で強引にリナを取り押さえ、地面に叩き付けた。そして、その時突風が3人に吹き付ける。
「くっ・・・フフ。さあっ・・・迎えがきたぞ!!」
「どこによ!!?」
リナは怒鳴って問い、男は笑いながら答えた。
「目の前だよ」
「え?」
目の前から煌く粒子を散らせ、ザフトの大ガラス、ディンレイヴンが姿を現し頭部からエアロシェルをとりモノアイがリナを睨む。
「これに乗るんだ」
「嫌・・嫌ぁあーーー!!」
「この・・ナチュラルがぁぁ!!!」
「ふぐっ!!・・・・んん・・」
無意味な抵抗するリナ、男は苛立ちリナにクロロフォルムを嗅がせ気絶させた。

「ザク2機で無差別テロを起こして囮にし、ミラージュコロイドをまとったカラス(ディンレイヴン)で依頼人を運び出そうって魂胆か・・・・また、力のない人たちばっかり!!」
空から何かが落ちてくる。いや飛んでくる

「させるかッ!!」

ザクに向かって2発のビームが放たれ、轟音と地面の揺れと共にディンレイヴンのモノアイから巨大な剣が生えた。違う、15.78m対艦刀シュベルトゲベールの剣先がディンレイヴンを後頭部から顔面にむけて貫いていた。
背後には噴出した血(オイル)にまみれ、二筋の血涙を流し、背中から赤と黒の2色の翼(エール)を生やした・・・・エールダガーが降り立っていた。

「く、来るなあ!!来たらこのナチュラルを殺すぞ!!」
「殺せよ」
シンは平然と答えた。
「お、お前はこのナチュラルを取り返すために来たんじゃないのか!!?」
慌てる男達
「その人には死ぬ覚悟がある。アンタ達は傭兵にケンカ売ったんだ。落とし前を着けてもらう!だがその前に」
エールダガーがビームカービンの銃口を男たちに向けた。と思いきやビームカービンを投げ捨て、シュベルトゲベール引き抜いて切っ先を別の方向に向ける。投げ捨てた瞬間ビームカービンに光が貫通し小さな爆発を起こした。

「アンタを倒す!!」
切っ先の先にはビーム突撃銃を構えた赤いスラッシュザクファントムがいた。ガナーザクウォーリアは頭部を破壊され倒れている。

「ハッハアー!!面白れぇっ!面白れぇぞっ!!」
中年の男の声が応えた。赤いスラッシュザクファントムは改造してあるのかハイドラガトリングビーム砲が設置してあるバックパックをパージして機体を少しでも軽くする。さらにビーム突撃銃を投げ捨てた。赤いモノアイが光る

得物も機体も人間も違うが同時に同じ構えをとった。
それは得物の先を右後方に構えるというもの、それは今は無き流派によれば“虎”と呼ばれる呼ばれる構え。
“後ろ”に構えることから“後(コウ)”から“虎(コ)”に転じた構え。

血涙を流す有翼の虎と1つ目の赤い虎が互いを睨む。相手を食い殺すために
シンは冷や汗をかいていた。送信回線をオフにする。
「アイツ・・・強いッ!!!」
『お前よりもか?』
「・・ああ」
『そういえば聞いたことがある 終戦後突如現れたゲーリー・ビアッジという経歴不明の傭兵がいるらしい』
『血のように赤い機体を使い、戦いを楽しむ凄腕だとか』
「アイツか?」
『間違いない!!』
さっきの奇襲、真上からの奇襲を避けられるわけが無いのだ。本来ならば
その証拠にガナーザクウォーリアには命中し、ザクファントムより格段にアンテナ・センサーの性能の高いディンレイヴンすらこちらの存在に気付かなかった。だがアイツ、ゲーリー・ビアッジは避けた。
そして、こちらのビームカービンだけを正確に狙い撃った。

なら残っている要素は・・・・蓄積された戦いの経験

それも奇襲が当たり前の最前線での戦いの経験。
表ではなく裏の世界の戦地での戦いの経験。
死屍累々の戦場という地獄での戦いの経験。

「勝てるのか・・・・ッ!?」
「どうしたぁ?!来ないのかぁ?!男の子だろぉよお!!?」
相手からの挑発。戦場において立派な戦術だ
「いや・・・・」

送信回線をオンにする。
「勝つ!!!」
「このッ!!」
先に仕掛けたのはシン、エールダガーが左腕のシールドを投げる。同時に大気圏内用エールストライカーを含め全てのバーニアを全開。
「やっぱ戦いは白兵でねぇといけねェッ!!」
狂喜の声の主が回転しながら飛来してくるシールドを薙ぎ払うようにファルクスG7ビームアックスで易々と叩き切る。
「はああああ!!!」
すると目の前には既にエールダガーがシュベルトゲベールを振り下ろそうとしていた。

「やり方が見え見えなんだよぉ! あらよっとぉ!!」
ザクファントムは振り切ったファルクスG7ビームアックスをクルリと回して両手で持ち直し、対ビームコーティングを施してあるのか、柄でシュベルトゲベールの光の刃を受け止めた。
「くッ!!」

「逝っちまいなァ!!!」
「ッ!?」
ザクファントムは突如右手を離して斬撃を受け流す。空いた右手の先、左肩のシールドからビームトマホークの柄が出ていた。
(通常のザクファントムとは動きが違う、ビームサーベルに持ち帰る時間はない!死ぬのか?俺は)

「死ねるかぁぁあ!!」
エールストライカーのバーニアをさらに吹かせ、シュベルトゲベールの刀身を自分のほうに寝かせ、機体を強引に滑り込ませる。
「悪あがきをォォオ!!」
ザクファントムが足を上げた。蹴りをいれて距離をとり、ビームトマホークをがら空きになった胴体に叩き込むためである。


15.78m対艦刀シュベルトゲベール・・・本来の目的は文字通り戦艦等の装甲を斬り裂く事を目的する。だが『シュベルトゲベール』という名の意味は「シュベルト(Schwert)」と「ゲベール(Gewehr)」がそれぞれドイツ語で「剣」と「銃」を意味する。「シュベルト(剣)」はその姿のまま、ならば「ゲベール(銃)」はどこにある?


「くらえぇぇッ!!!」
「何ッ!?」
シュベルトゲベールの柄をザクファントムに向けた。


答えは・・・柄


柄の先端からビームを発射、細いビームがザクファントムの頭部に風穴を開けた。この瞬間勝負がついた
地面に向かって後ろに倒れていく赤いザクファントム

「クククッ、やるじゃねーか。じゃあな、愛してるぜ“羅刹”ゥ!!!」
「?!」
狂った笑い声と共に閃光と煙幕が視界を遮った。

「どこだッ!?」
Bi!!『シン、相手はもういない!!』
「何だって?!」
煙がはれるとそこにはシンのエールダガーと気絶して倒れているリナ、3機の破壊され倒れている無人MSだけだった。

ドッとシンはモニターを叩く。
「・・・・負けた。」
『何を言っている?勝ったのはお前だ!!』
「俺は・・・・コクピットを狙ったんだ。なのに・・アイツはあの一瞬、自分から踏み込んで“頭部に撃たせたんだ”!!それにやろうと思えば倒れる途中ビームトマホークを投げることもできたッ!!」

ソードインパルスなら一方的に死んでいた。エクスカリバーが囮のビームアックスを断ち切った後、ビームトマホークの一撃で死亡

デスティニーなら良くて相打ち。アロンダイトが囮のビームアックスを断ち切った後、パルマフィオキーナという隠し武器でよくて相打ち

“威力が高すぎず”に“隠し武器として使える機能”があるシュベルトゲベールだったから今生きている。敗北だった、完全なる負け。

現に男達は捕まった者も、死んだ者もいない。シュベルトゲベールの切っ先を向けた瞬間からゲーリー・ビアッジの術中にはまっていたのだ。
「くそ・・・・ッ」
シンは自分の震える両肩に爪を立てた。
『なら聞くが』
「・・なんだよ?」

『なぜお前は笑っている?』

「え?」
モニターの光に照らされ、歪んだ笑みを浮かべる紅い目の戦鬼がいた。無意識に楽しんでいたのだ・・・・戦いを、命のやりとりを、殺し合いを、アイツのように楽しんでいた
走るトレーラーの中、リナは寝かされていた。だが運転の振動で目が覚める。
「ん・・・ここは?」
「大丈夫ですか!?」
シンはリナに駆け寄った。さっきとは違い不安げに心配している。
「・・あの男たちは?」
「俺が追っ払いました。さあ空港へ行きましょう、まだフライトに間に合います。」
「は・・はい」
「あとこれ落し物です。」
シンはリナのハンドバッグを渡した。
「あ・・あ・・」
リナはハンドバッグから慌ててあるものを探した。
「良かった!!」
それは、4人の集まった思い出の写真。
「・・これだけがあの子達との唯一の思い出のものなんです。・・・・ありがとうございます!!!」
リナは涙を浮かべながら頭を下げた。・・・またズキッと心が痛くなった。


「それじゃあ、ディンレイヴンとザクファントムをアメノミハシラにお願いします」
『分かりました。ザク1機の代金につきましては、諸費用などを引いたあとアスカ様の口座へ振り込んでおきますので』
リナの聞こえないところでシンと電話で話している男性はMSレンタル店の店長である。この店長、エースに機体を貸してはパーソナルマークなどを着けさせ、付加価値をつけて証明写真付きで金持ちのマニアにオークションで売るのだ。
8が万が一を考えてレンタルの予約をしていたためスムーズに105エールダガーとシュベルトゲベールを借り出せのであった。(ガイアのMS形態の動きのデータをコピーして持ってきたのも8である)
あの血のように赤いザクファントムはアメノミハシラでどんなカスタムをされいるのか調べてもらうことにした。参考にするためだ・・・・次はゲーリー・ビアッジに勝つために、さらに“力”を手に入れるために、もっと守るために

(・・・・俺の使った機体なんて欲しがる奴いるのかな?)
電話の先で店長が笑顔で電卓を叩いていたことを知らずにそんなことを思う。

「すいません、遅くなりました。」
「大丈夫ですよ、まだフライトまで時間がありますから。でも、もう乗っておきましょうか」
「はい」
シンはアメノミハシラで調達した許可証で小型飛行機へ乗ったが、アメノミハシラの許可証でヴォルク-47も通ったのは驚いた。だがもしも時を考え、賄賂用の札束を隠し持って乗った。


飛行機に乗りながら、かつての戦地を見て思い出す。あの戦争を
ただ闇雲に自分を突っ走らせた、ただ闇雲に鉛玉をぶっ放した、ただ闇雲に相手をぶった切ってきた。守りたかったから
怒った、狂った、泣いた。守れなかったから
「海、好きなんですか?」
「え?」
「ずっと窓から海を見られていましたから」
シンはメモにあることを書いてジャケットの裏ポケットに入れた。
「いいえ、よく分かりません。海って綺麗な反面いろんな思い出も沈んでいますから」
「なんだか・・理解したくない言葉ですね」
「理解できない人には理解させちゃあいけないんですよ。さて、もうすぐ着きますよクレタ島へ」
部下は大切に、というフレーズが頭をよぎる。


空も青かった。シンは同じ青でも海より空が好きだった。なぜか“希望”というやつが浮いていそうだったから
途中、リナが弔いの花束を買っている間に小さな店でディエチへの土産を買おうとする。だが
「8教えてくれ。俺はあとどのくらい迷えばいい? 好みを聞こうとしてもディエチは電話に出てくれない!」
『先にずっと電話に出なかったお前が悪い!!』
「・・・・だってあいつの声を聞いたら、気が緩みそうだったんだからしょうがないじゃん(ボソッ)」
『今何か言ったか?』
「べっつに~」
『コノイクジナシメ』隅っこのほうにちんまりと
「今何か表示したか?」
『べっつに~』
「嘘つけ、見えてんだよ。」
『こちらこそ聞こえていたぞ、再生してやろうか?』
8とここまでくだらない話ができる奴が今までにいただろうか? 否である。  

結局クレタ島とは関係のない、どこでも売っているような銀色のチェーンに肉食動物の牙の形に加工された翡翠のついた首飾りを買ってジャケットの左ポケットに入れた。
人気のない海岸でリナは花束を海に流し、アウルの冥福を祈る。これで今回の依頼は終わりだ。
「それじゃあ、俺はこれで失礼します。」
「はい、ありがとうございました。・・・私はもう少しアウル達に祈っています。できたら、スティングとステラのところにも行ってあげたかった・・・。」
分かるわけがない、それを知るには裏の世界の情報屋の協力がいる。それにはツテが必要であり、リナはそれをもってはいない。
シンは祈るリナに背中を背中をむけて歩いていった。


約1時間後
「アウル・・・・ごめんなさい。私もすぐそっちへ逝くわ。」
リナはハンドバッグから弾丸が1発しか入っていない拳銃を取り出した。

「どこへ行くんです?」
岩陰からシンが現れる。8は連れてきてはいない
シンはさっきの言葉を聞いたのは2度目ではなく、ホテルで寝言として聞いていたのだった。

「来ないで!!」
リナは震える拳銃を自分のコメカミに当てた。

「アウル、スティング・・ッ・・ステラは俺が殺した」
シンは、目からカラーコンタクトをとり、紅い瞳をさらした。

「俺がシン・アスカだ。」
「嘘・・・・うそよ!!」
「元赤服、戦艦ミネルヴァ所属、搭乗機は当時の最新機インパルス及びデスティニー。アウル・・いやファントムペインに奪取されたアビスは俺が撃破した。」
「あ、あなたが・・・アウルをッ!!」
リナは拳銃をシンに向け、親指で劇鉄を起こす。
「他にもスティングのデストロイを撃破し、ステラを・・・・死ぬ羽目に追い込んだのも俺だ」
銃の腕はどう見ても素人、ゆえに今からやろうとすることは危険。
「お・・・鬼ーーー!!!」

ターンと花火が上がる音がした。

シンの左脇腹に赤い花火が上がる。服にジワーと広がりながら

だがシンは倒れることなく、リナに歩いて近づいていった。
「こ、来ないでよ!・・・・来るなーー!!」
リナはカチカチと空の銃を鳴らした。
シンは裏ポケットから1枚のメモを取り出す。そして、小さな声で言った。
「これでもうアンタが死ぬための銃弾は無い。スティングが死んだ場所と・・・・ステラが眠っている場所が書いてあります。・・いつか行ってあげて下さい」

「・・・ごめんなさい」
メモを膝を地面につけ両手で顔を覆っているリナの前に置き、シンは背中をむけて一言言って歩いていく。
シンの後ろでリナは泣き崩れていた。

海はそんなことをいざ知らぬふりをし、死んだ者、悲しみを冷たい底で女のように優しく抱いて波を立たせる。サラサラと サラサラと
傷口から小さな弾丸が取り出されカランと高い音をたててステンレスの容器に入れられた。
「・・とれた。」
白いマスクをした医者が笑った。
「・・・ありがとうございます」
「それでは縫合します。本当にいいんですか?麻酔を打たなくて」
「はい・・・・お願いします」
この傷の痛みを忘れたくなかった
痛みよりもチクチクと縫われていく自分の腹を見て気分が悪くなる。意識がもうろうとする


「縫合が終わりましたよ。自然に消える糸ですから、毎日消毒と清潔なガーゼと包帯に代えるだけでけっこうですよ。」
耐えた。なんとか耐えた
「じゃあこれ・・・治療代です。」
シンは賄賂用に持ってきた札束から十数枚抜き取って渡し、立って包帯の上から服を着た。
「どこへ行くんです?!」
医者が呼び止める。当たり前だ、弾が貫通していなかったとはいえ銃撃された怪我人だ。
「はぁッ・・はぁッ・・・・帰るんですよ」
嫌な汗をかきながら血だらけのジャケットを着た。
「俺の帰りを・・・・待ってくれているヤツがいるんで・・・ッ」
目を半分閉じながら動物病院から出て行った。


途中血だらけのジャケットを捨て、黒いジャケットを適当に買い代え、空港についた。体がだるい
「いってぇ・・・ッ!!」
『何を考えている!! 死ぬつもりか!??』
「・・ッ・・・大丈夫だよ。このジャケット防弾性だし・・・・あの距離じゃ意味無かったけど」
『そういうことじゃない!!』
『もし頭に当たっていたらどうする!?』
8が盛大に音を鳴らしながら、説教する。
「・・大体の銃の素人は頭より面積の大きい胴体を狙う。それに・・・」
『それになんだ!!』
シンは傷のある箇所を指差した。

「銃口と引き金を引く指を見切って“ここに撃たせたんだ”。もし貫通していても急所は外れているはずだ」
それはゲーリー・ビレッジの見せた業の応用。だが素人(リナ)の動きにはかなりの“無駄な動き”があり、プロよりもはるかに見切るのが難しい。

「そう簡単に死ねるかよ」
『シン、お前は“いかれている”』
「俺もそう思う」
「じゃあ“荷物”は現地でということで」
『あ、まて!!まだ話が残っている!!』
8を空港の荷物係に渡し、飛行機に乗る。
「・・・・だるい」
高くなってくる体温にもうろうとしながら、ようやく重いまぶたを閉じた。朝になれば陸に着いている筈だ



飛行機を乗り換え、バスに乗ってやっと帰ってきた。確か今日、店は定休日の筈。カラーコンタクトをどこかに落としてしまい、今は着けていない。
A8は8がずっと本体かジェスのところにいるため、小休止モードのままだ。ディエチには一応電話したが、撃たれたことは言っていない。
(今にも倒れそうだ・・・帰ったら・今日は具合が悪いといってベットで・・寝よう)
拳をドアの前でフラフラになりながら置いた。
(・・・ノックをするのが怖い。平常心・・平常心っと)
「おかえりなさい」
シンが振り向くと後ろにディエチが立っていた。青いジャケットとジーンズと白いシャツを着て、両手に紙の買い物袋を抱え、聖母みたいにやさしい笑みで

「え?」
切れた。今度こそ緊張の糸が切れた
体の溜まっていた疲労が開放されていく、戦うための心構えが緩んでいく、我慢していた傷の痛みがまた波打つ

力が抜ける

A8、落としちまったな

立っていられない

でも、言いたい言葉があるんだ

「 た だ い ま 」

シンはその一言を言って気を失い、ストンと両膝を地面に落とし、前のめりに倒れかける。
「シ・・ン・・・さん?」
ディエチが倒れゆくシンを抱き止めた。なぜか顔が熱くなって、赤くなった
「ねえ!からかっているの!?」
だが通常ではない体温を首の肌で感じ、荒い呼吸を耳で聞き、力の入っていない背中を指で触り、焦った。
「ねえ・・・・起きてよ!!シンさん!!シンさーんッ!!!」

ああ・・・ディエチが何か言っているな・・・・まあいいや。今はちょっと寝よう・・・・おやすみ

シンはディエチの胸で眠っていた。
嫌な汗をかきながらも、その寝顔は安らいでいた。



シン・・ありがとう。アウルのお母さんを助けてくれて

ス・・テラ? ステラなのか?!待ってくれ!!

「・・ステラッ」
右手を出すが空を掴むだけ。声が聞こえた・・・だがステラはいない
暗い、だが月明かりが優しく部屋を照らしている。ここはシンがおやっさんから借りているシンの部屋。
「ああ・・・やっと起きた・・・・よかった」
左を見ると月明かりに照らされて、ディエチが椅子に座っていた。シンは額から濡れたタオルを落とす。
「・・・・俺はどのくらい寝てた?」
「1日と半日、熱を出しながら寝てた」
「そっか・・・・ありがとな」
左足と腹の包帯が新しいものに代えられていた。
「いいよ。前に『動けなくなったら看病してもらう』って頼まれてたし」
「ああ・・・・そうだったな」
「でも、驚いた。いきなり倒れるんだもん」
何かを我慢している笑顔だった。
「お腹すいてるよね?今何か持ってくるから」
ディエチは“何か”に耐え切れなくなって部屋を出ようとした。聞くことが優しさであるのなら、あえて聞かないのは仁しさである。ディエチはその後者をとったのだ
「聞かないのか?」
「え?」
だが、シンの問いの一言で歩みが止まる。
「何か聞きたそうな顔しているけど、聞かないのかよ?」
「・・聞かない。シンさんの顔・・・何か悲しいことがあったって見えるから聞かない。」
「そっかぁ・・・・なら、勝手に俺が言いたいことを全部、独り言するよ。聞くかどうかは勝手に決めてくれ」
するとディエチは椅子に座った。
「・・卑怯だよ」
「卑怯じゃないと傭兵なんてできないんだよ。」
いつもの悪戯小僧のような笑みではなく、優しく悲しげに笑った。
シンは全てを話した。家族が死んだこと、軍人になって戦争したこと、過去に守ると約束した子がいたこと、守れなかったこと、殺したこと、戦争で負けたこととその後のこと、なぜシンがディエチを守ろうとしたのかさえ明かした。ただ今回なんで依頼人に撃たれたのかは明かさなかった。
同情してもらうためでなく少しでも安心し信じてもらうため、よく考えて選択させるためだ。過去と心の内を知ればシンを罠にはめることだって容易いにもかかわらず。

「シンさん・・・私・実は・」
ディエチの膝の上で握っていた両手が震えていた。
「待てよ、俺が話すから君にも素性を明かせとは言ってない。それに女はちょっとズルイぐらいがいいんだ」
シンはディエチの震える両手を左手で包みながら止めた。
「え、でも、私は・・そのエクステンデットとかじゃなくて・・・」
「気付いてたよ。後期の生体CPUにされた人は、投薬をし続けないと存命できないって聞いたから・・・・悪役と騙されることは慣れてる。本当に話したい時でいい」
「・・・・ごめんなさい」
「・・どうする?まだ俺と一緒に旅しようと思っているのか?この町に残るって選択もある。この町は安全だし、おやっさんなら悪いようにはしないだろう・・・それに、とうぶんは生活費も送る」

どのくらい時が進んだのだろうか、沈黙の中、時間を刻む音だけがやけに大きく聞こえる。
「あ~あと2時間しか寝れない。もう寝たほうがいい、返事はいつでもいいから」
シンは時計を見て、自分に布団をかけてディエチに背中をむけた。
「うん・・おやすみなさい」
ディエチがベットに入ってきて、シンの後ろに寝た。
「・・・・いいのか?」
「うん」
額を背中に当てた
「そっか・・・・好きにしてくれ」
「でも、2つお願いを聞いて」
「なんだ?」
「1つ目は、もうあんまり心配させないで。私が皆に会えるまで守るっていう私の依頼を忘れないで」
「・・絶対の自信はない、けどその依頼は全力で完遂させる」
「2つ目は・・・・もう子供扱いしな「それは無理だな」
「即答ッ?!」
「それは、ディエチ次第さ」
「じゃあ・・私ばっかりズルイけど、もう隠し事しないで」
「あと隠していることは・・・俺のパンツの柄ぐらいか」
「確か青と黒と白のチェックだよ」
暗いので見えにくいが、月明かりでちょっと確認する。正解だ
「・・・・なんで知っている?」
「だって包帯代えて、体拭いて、着替えさせたの私だもん。・・・・いい体してるね」
「・・・・・なんてこった」
こうしてシンはディエチの前に丸裸になった。情報的にも身体的にも 
枕がちょっとシンの涙で湿った。
そんな馬鹿な話をしている間に2時間経ってしまった。
「「あふぁよおございます」」
2人は結局一睡もできずひどく眠そうにおやっさんにあいさつをする。早く苦いコーヒーが飲みたい
「おう!おはようさん!!ん?ジン、お前起きて大丈夫なのか?」
「はい、お陰さまで」
「ふ~ん、そうか」
おやっさんが不気味なくらい笑顔だった。ディエチは怖くなって後ずさった。

そして・・・・ガン!!という鈍器で殴ったような音が響いた。おやっさんの拳骨だった

「ッッッッッッテエエエエエエエーーー!!!!」
シンは目に涙をためて、両手で殴られた箇所を覆って膝をつく。
「うわぁッ 痛そッ」
ディエチはこれを見て眠気が吹き飛ぶ。
「馬鹿野郎ォォ!!心配かけやがって!!」
「・・・・スイマセン」
頭を抑えながら謝る。そこに傭兵の影も形もない
「ッたく・・・よく帰ってきたな(ボソッ)」
「ッッ・・何か・・言いました?」
「何でもないッ!!とっとと、開店の準備だ!!  分かったな?」
再び拳を握りながら問う。正直怖い
「「サー!!イエッサー!!!」」
だが2人とも笑顔だった。
シンはこの日から15日間“普通の日常”を満喫した。
その日々の中、シンはキラに連絡をとる。
「キラか?」
『シンかい?珍しいね、君から連絡をくれるなんて。今日はどんな暴言を吐いてくれるのかな?』
「今日は、中古MSとアンタの為になる俺のありがたいお言葉だ。」
『君はいつからジャンク屋組合のサラリーマンに転職したのかな?それとも変な宗教にはまった?やめてよね、僕はもう生涯無宗教って決めたんだから。もう教祖様も宗教もコリゴリなんだ!!』
「まあ待てよ、商品は新品に近いノーナンバー(製造所不明)のカラス(ディンレイヴン)とお化け(ザクファントム)だ」
『・・なかなかクセがあるね』
当たり前である。シンが手に入れるMSは大概テロリストや賊などが使っていたものがほとんどだ。そして、今回はザフト崩れ。
ディンレイヴンは、ザフトの特殊部隊しか配備されないし、ミラージュコロイドによるステルス機能で存在を知っているのは少数だ。
ザクファントムは、ザクウォーリアとは違い高級な部類に入り手に入れにくい。
その2機が揃ってテロリストに使われていたのだ。異常としかいえない
「ありがたいお言葉は‘生体CPUに関わった技術者及び学者達を調べ上げて、警護か保護もしくは殺せ’・・だ」
『MSの件は分かるけど、その言葉の意味は?』
「ザフト崩れが、コーディネーターの生体CPUを作ろうとしている。・・・アスランを短期量産できる、と言えば分かるか?」
(エサはまいた・・・食いつけッ・・・・食いつけ!!)
『分かった、すぐにやるよ。フフッ・ありがとう・・素敵だ、素敵な口実だ!僕は“そういう輩”が大っ嫌いだからね。ただ“平和”のためには犠牲はやむえない』
(ターミナルに相談だ♪)
「平和的にな?」
(食いついた!!・・・裏で殺る気だな?・・・・相変わらず恐ろしい組織を持ってやがる。・・あとは)
「2機はアメノミハシラでパーツごとにバラバラにしてあるから、アンタはいつも通り“ザクウォーリアのパーツとして”買い取ってくれ。」
『分かっているよ』
「OK、商談成立だ」
『報酬は何がいい?もう捕まっていない元ファントムペインやロゴスの潜伏情報は無いけど・・・。お金はダメだよ?うちも赤字なんだから』
「そうだな。保護対象の中ににリナ・ウィングという女性がいるからデリケートに扱ってくれ、護衛つきで」
(こいつが本命だ!!)
『・・分かった、じゃあね。』
キラはあえてその条件をのんだ。生体CPUなんて馬鹿げたことをする奴らは早く全て葬りたいが、シンに対し人質として利用できる可能性があるからだ。
「じゃあなッ」
シンは、人体実験などを嫌うキラに頼めば1番危険だが同時安全だと踏んだ。またせいぜい大きな1つの囮を担がせて、ザフトの正規軍に向かってくるテロリスト達の駆除をさせるのも目的の1つだ。
そして、もう1人に連絡をとった。
「あのユンさんですか?」
『はい ユン・セファンですぅ』
「実はお聞きしたいことがありまして」
『彼氏は今いませんよ~』
「違いますッ!」
『あの赤いザクファントムについてですねぇ?』
「は、はいッ、それです!」
『すごいんですよ~ あの子、余分な装甲を削っての軽量化、センサー・アンテナの大型強化、さらに間接、反応速度などをかなり改良してありました~』
(やっぱりか・・・・そんな機体を扱えるのは本当のプロだけだ!!)
「あのッ・・ユンさん、実は・・・」
今から、変更をしたいと頼みにくい。
『ガイアも同じ趣旨でやっておりますよ~』
「え?」
『あれぇ 8さんから聞いていませんか?』
「8が?」
『はい、シンさんには必要だってずっと内部設計の変更の計算をしていましたよ』
(だから8のヤツ、帰りの空港の時からずっといなかったのか)
「分かりました。お願いします!!」
無線越しに頭を下げる。
『はいは~い、それでは~』
「ありがとうございます!!」
(8のやろう・・・・サンキュ)
楽しい日々はあっという間に終わってしまう。別れは早朝にした
「おめぇ、本当に行っちまうのか?」
「はい・・・お世話になりました」
「お世話になりました」
『世話になった』
シンとディエチが頭をさげる。本当に感謝しているのだ
「ホラッ餞別だ」
ディエチには大きな紙袋を、シンには1冊のノートを渡す。
「いいな?トレーラーの中で開けるんだ!」
そんなこと言われなくても匂いで分かる、おやっさんの揚げドーナツだ。
『このツンデレ親父め』
「あとお前宛に手紙が来ているぞ」
「あ、どうも」
シンは誰かなと疑問を持ちながら、封筒を受け取った。

トレーラーに乗り込み窓から最後の挨拶をする。
「それじゃあ元気でな・・・」
「はい、ありがとうございます」
ディエチが涙を浮かべていた。

『楽しかったぞ!!』
「減らねえ口だな、8!!」
『それが私だ!!』

「・・・こういう時はサヨナラとはは言わねえもんだ。じゃあな、シンッ!!」
「はいッ!!」
そして、トレーラーは走り出す。2人と1台(?)を乗せて、生まれ変わった相棒を迎えに行くために


「シン・アスカか・・・・フレッドのヤツにしちゃあ出来すぎた教え子だ」
おやっさんは、帰ってきた息子夫婦のもとへ歩いていった。振り向かず男らしく
「ねえシンさん、おやっさん最後にシンさんの本名言ってなかった?」
『「そうか?気のせいだろ』」
8とのシンクロ率を上がってきていることは、突っ込まないのだろうか?
「そういえば、そのノートは?」
「ん?これか?これは・・・」
『サザンクロスベーカリーのメニューのレシピだな』
開いて最初に『とっとと、傭兵やめて2号店オープンさせやがれ』と殴り書きされていた。
おやっさんらしい、と全員思った。
「その手紙は?」
「読んでみるか?」
中には、短い文章が書いてあるだけだった。

「え~と・・『私はあなたを許せません。だから謝りません。だけどありがとう  R・W』・・・何これ?」

「さ~何なのかな?」
シンは満足そうに笑って、ディエチから手紙を返してもらいポケットに入れた。
「そういえばシンさん・・・お土産は?」
「あ・・ああ・・・それは・・だな・・・」
撃たれたときの血で赤黒く染まりパリパリなった袋に入った首飾りをどうしようかと焦る。多分中身も・・・血まみれ
「そ、そういえばディエチッ!!今日からトレーラーでもシャワーじゃなくてフロに入れるぞ!!」
(誤魔化してみせる!!)
この前、ユンを通してジャンク屋組合に注文したもの、それはフロ。豆知識だが、2人以上いる場合はシャワーより風呂のほうが節水できるのである。
「本当ッ?!」
(喜んでいるな・よしッ・・そのまま・・そのまま話題をずらす!!)
「ジャンク屋組合の人が俺が留守の間に来てたろ?」
「うん」
「実はこのためだったんだよ」
「へ~・・今夜一緒に入る?」
「そうだな~。背中でも流して・・・・・「嘘だよ」
「嘘かッ!びっくりしたぁ!!」
「期待してたのぉ?」
ディエチがにやけ顔を近づけながら、ジト目でこちらを見る。運転中なので逃げられない。
(くッ・・どこで覚えたんだ?!)
「ところでシンさん」
「な、なんだよ?」
「お土産は?」
「い、今運転中だから、後でな」
「今、運転しているの8だよ?」
「な゛ッ!?」
いつのまにか『男一匹 トラック野郎!!』と画面に表示した8が運転席にセットされていた。アクセルやハンドルにふれてもいないのに勝手に動いている、これはちょっとしたホラーだ。
『せっかく買ったんだ 運転してやるから渡してやれ』
「どんなのッ?!見せて見せてッ!!」
(こいつら手を組みやがった・・・ッ!!)
「・・・分かったよ」
観念したシンはポケットから赤茶色の小さな紙袋を取り出して、ペリペリと破った。袋の表面で固まっていた血が砕け散る
袋の中から、銀ではなく一部が赤銅色になった細い鎖の首飾りがチャラッと掌に落ちる。
「わぁ・・」
幸いにも牙の形をした翡翠は綺麗な翠色のままだ。
「なッ・・・俺の血で汚れているから、後で洗って渡すからそれま「・・綺麗」あッ」
シンが言い訳を言い終わる前に、ディエチが首飾りの鎖を手にとって揺れる翡翠を見つめた。
「・・・・静かだ」
シンは何故かそう思った。時間が止まった気がした。ルナにも宝石も買って渡した経験はあるが、これは違う。
煌びやかなのではない、美しいのではない、洗練せずに加工せずに出てくる素材そのまま魅力。それを“綺麗”といい、ディエチと首飾りは2つ合ってそれを成していた。
そして、シンの感想は、まるで当たり前のように違和感や無駄がなくディエチと首飾りの翡翠との相性が良かった。故に出てきた言葉が「静か」なのだ。

「ねえシンさん、これ本当にもらっていいの?」
『もらっとけもらっとけ!』
「ああ、それでいいんだったらやるよ」
『着けてみろ』
「うんッ!・・・あ、そうだ!!」
ディエチが何を思いついた。シンに背中を向けジャケットを少し下ろして根元でリボンで縛った長いを左手の手の甲で上げた。もし吸血鬼というものがいたら襲ってしまいそうな細い首が現れる。
「ねえシンさん着けてぇ」
シンは普段見えないディエチのうなじを見て赤くなっていた。
「あ、ああ」
首飾りを受け取って、カチコチとぎこちない両手をゆっくり近づけていく。デイエチにはこの両手が見えない。
『襲うなよ』
「襲う?」
「襲うか!! 8だまってろ!!」
ディエチは、意味を知らなかったようだ。吸血鬼はいなくても野獣ならどこにだっている。
「まったく」
ディエチがまた変なことを覚えたらどうするんだ、と思いながら鎖を繋げた。
「わぁ!どう似合って・・・いるか・・な」
「どうした?」
ディエチはいきなり悲しい顔になる。
「私だけ・・・こんないい思いしてもいいのかなって・・みんな、どうしているのかなって・・・・ごめん」
「・・・なあディエチ、こっち向いてくれ」
「グスッ・・・なイッタァーッッ!!」
シンがディエチの額に思いっきりデコピンをした。よっぽど痛かったのだろう、ディエチは額を涙目になって押さえている。
「バーカ、そんな顔されたら依頼された俺の面子がないじゃんか。」
シンは両手を後頭部に回し目をつぶって、シートを後ろに倒して楽な姿勢になり、ディエチとは逆方向に顔を向けた。
「そうだね、ごめん。話すから・・・・いつか決心がついたら私も全部話すから」
もうそんなに遠くないのかもしれない。全てを明かすのは
「変わんないさ。ディエチの正体が何であっても、俺にとってはただの家族に会いたがっている女の子だ。」
「シンさん・・・。」
「あと・・・」
「あと・・・何?」

「それ(首飾り)似合っているよ・・・・特に笑っているときのほうが」

まだ寒い空の下、何か守れるものがあると信じて走る。消せない痛みを抱いて、傷ついた夢を取り戻すために。

少女は手に入れた、かけがえのない色んなものを沢山。この先さらに手に入れて、階段を上っていく。

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最終更新:2010年03月31日 02:04
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