「……はいっ。それじゃあ、これが今回の薬です。」
「ありがたいねえ、本当に。直接来なきゃならない鈴仙ちゃんには悪いけど、私たち足が弱い年寄りにはありがたいよ。」
「あはははは、気にしないで下さい。私は、師匠の使いっ走りに過ぎませんので。それじゃあ桐生のお婆さん、お大事に。」
「あ、鈴仙ちゃん!こんれ、うちで採れた野菜だけど、良かったらもらってくりゃせんか。」
「わ、良いんですか!?ありがとうございます!!」
「ええってええって。鈴仙ちゃんもそうだけんど、八意先生にゃあ何時も世話になっとるからの。その借りを返しているだけのこった。」
「それでも、ありがとうございます!(今夜の予定はお鍋だったなぁ。あの人も来る予定だったし…ちょうどいいかな。)」
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夕暮れもそう遠くはないからか、人通りも少なくなってきた里の街路を大小一つずつの影がのんびりと伸びていた。それらはこれまた大小一つずつの、ちょうど腰掛けるのに適した大きさの石に、あえて寄り掛かるように休んでいる少年と少女、二人の影として、時に街路を楽しく、そして時にはおどろおどろしく見えもして彩っている。
「……ん?」
「わっ。いきなり立ち止まらないでくれ。今の身長じゃ、お前の無駄にでかい尻に…」
「全く、失礼な奴だなー…それにそれは、シンが小さくなったから、対称的にでかくみえるだけだろ?助兵衛め。そんな事より、向こうだ向こう。」
子どもの言葉など意にも介さずに、指差した方向へと視線を促す。…いや、だから促してもお前の無駄にでかい尻の所為で見えない……なんて言ったら今度は言葉だけじゃなくて頬への攻撃が加えられるだろうから言わないけど。まあ、どっちにしろ見えないから、その横から顔をひょっこりと覗かせる。
『……んー…困ったなあ。まさか、こんなに貰えちゃうなんて。好意は嬉しいんだけど……』
大きな袋を、傍らの地面に置いてどうしようか、とおろおろしている、セーラー服を着ている少女が、目に入った。未だ着物系統の衣類が主流の幻想郷ではあまり見ない、軽やかな服装。だけど、目を引いたのはそれだけじゃない。そう、一番に目を引いたのは――
「あれって…ウサギだよな、永遠亭の。」
「うん。鈴仙さんだよ。何やってるんだろう、俺と違って術無しでも自在に飛べるはずなのに。」
ぴょこん、どころではなくどどんっ、と種族的な特徴を示す耳。今は情けなく少し垂れているけど、その白い外側とピンクの内側が何とも可愛らしい。
『うんしょ、うんしょ……うう。重さは大した事無いんだけど、やっぱり担ぐと厳しいなあ。飛んでいけば早いんだけど、こんな荷物持ってだとバランスが取り難いし……』
袋を担ぐ仕草を取りながら、がっくりと肩を落とす鈴仙さんを見て、思わず(なんて言うか、その仕草がとってもかわいい)忍び笑いをもらしてしまった。大方人里に往診に来て、それが終わったはいいけど、色々と貰いすぎちゃって困っている…といったところだろう。
確かに、鈴仙さんの背丈よりも少し低いくらいの大きな袋をその当人が持てば、普通に飛ぶと空中でバランスをとるのは難しいし、それに、もし袋から見え隠れしている荷物を落としでもしたら、好意でくれた人への失礼にもなる。まあ優しい上に鈴仙さんのファンも多い里の人たちはそんな事じゃ気にしないだろうけど、真面目な鈴仙さんからすれば、きっとそれは避けたいと思っているだろうから。
「それで、どうするシンちゃん。放っといて先行くか?」
「だからシンちゃん言うな。んー…」
もう慣れてきて、お決まりと言えなくもなくなった呼び名に軽く苦言を呈し、考える。さて、この身体で一体何処までの力を発揮できるのだろうか。以前の、縮む前の、今朝までの身体なら、あんな荷物は軽々と――まではいかないだろうが、少しの無理をすれば持てるほどだった。自慢ではないが、そもそも俺はプラントに渡るまでの体力の審査では満点候補の常連だったのだから。
(でも、なあ……)
ぐっ、ぐっ。確かめるように、二、三度掌を握るように開閉する。しかし子どもの手のように細く頼りない腕は、少し固くはなるものの引き締まりもしない。
次に、傍に無造作に放置されている薄野へと手を突っ込む。僅かな痛みに続いて手を引っこ抜くと案の定手が切れたのか、小さな切り傷が数箇所付いてきて。
(この身体じゃあ……困ったな。)
ぺろっ、と手から出た血を舐めながら思う。今の俺は、明らかに見た目どおりの子どもに身体能力が落ちている。それと認めるのは癪だが、体格も。この身体で、一体どれくらい手伝えるだろうか……そうは思ったが。
よいしょペタン。こらしょパタン。そーら、とさっ。幻想郷の単位で半町(大体50メートルくらい)も進めない内に、荷物を気にして何度も何度も止るを繰り返す。それたけじゃなく、その度に協力してくれる人が居ないかと一本道の前方左右を泣きそうな顔になりながら(そこで後ろに振り向かないのはさすがの鈴仙さんと言えよう)、探し求めるのだ。
……無理だ。とてもじゃないけど、俺には何時も世話になっている鈴仙さんを見捨てる気にはなれない。と、なると…
「……へ。」
「へ、じゃないだろ。いいから、お前の箒の穂先であの荷物を持ち上げてやれ。」
「なーんで私がそんな面倒な事やらなきゃいけないんだよ。お前も知ってるだろー?空中じゃバランスが取りにくいんだ。それに重いし。」
おい、最後に本音が出てるぞ。ま、こっちだって無償でとは言わない。ただで頼みごとを聞いてもらうと一番怖い奴の一人だから、無理矢理にでも報酬を提示しなきゃならないけど。んー、そうだな。
「永遠亭のお姫様から以前もらった蛍光月花(夜になると咲いて光を発する花、夜灯要らずでこっちでは希少種ながら、特に読書人の間で人気。月原産)で手を打たないか?」
「却下。夜の明かりなら知り合いのところから借りてくるから間に合ってるし……第一、あの姫様に知られたら後が怖いからな。」
「だめか。それじゃあ、アリスさんからもらった『誰でもわかる!フラグの折り方~死亡フラグから恋愛フラグまで~著者:不明』を――」
「いらないって。何だその本。それだから、お前は鈍ちんだの朴念仁だの言われるんだぜ。」
失礼な。それに、アリスさんの事に気づかない魔理沙に言われたくない。そうは思ったが、今まで会った奴らの大部分に『鈍い』って酷評されている事も事実だ。……別に五感は普通なのに。
「大体が何でお前が代償を払うんだよ。払うならあのウサギだろ、普通に考えても。」
「いやだって。魔理沙なら到底、鈴仙さんの実現不可能な代償言ってもおかしくはなひ…いふぁいいふぁい。」
「そんな悪い事を言う口はこの口か、こら。」
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「姫様ーっ、姫様ーっ!」
「一体何処に行ったんだろうウサ。早くこの事を伝えないと、後でてゐ様に叱られるウサ。」
「外に行ったのは確実ウサ。ここ数ヶ月、あの人間が来る少し前に姫様は必ず一度姿を消すウサ。」
「でも、その場所を知っているのは永琳様と姫様の補助をしているてゐ様だけウサ。鈴仙様すらも、知らない場所ウサ。」
「「「困ったウサ…」」」
うーん、と小さな唸り声を上げて、腕を組む人妖たち。永遠亭の人妖はそのほとんどがウサギタイプであるため、慣れた者ならば、鈴仙と同じく耳の反応でその感情が一目瞭然にわかる。そして今、一同は異口同意とでもいうかのように、くるくると忙しなく耳を回し、焦慮の体を示していた。
「と、とにかく永琳様に指示を仰ぐウサ。この記事が真実だとすれば、とんでも無い事になるウサ。」
「そうウサそうウサ!早速行くウサ。」
「それじゃあ、そっちは頼むウサ。私たちは姫様の捜索を続けるウサ。広い広い竹林でも、僅かな手がかりがある限り必死に散策すれば、きっと見つかるはずウサ。」
「姫様を見つけたら、きっと大慌てで帰ってくるだろうから、出迎え諸々の準備は頼んだウサ。」
「解ったウサ。それでは、健闘を祈る!――ウサ。」
一人(匹)の心強い言葉と共に、一部散開する人妖たち。そして残された人妖たちは――
「……はあ。これからが大変ウサ……」
「天狗も厄介なものを寄越してくれたウサ。」
「この記事の通りの容姿だとすると、はたして姫様が理性を保てるか未知数ウサ……」
一人が件の記事が載せられた「文々。新聞」の端を握り締めながら、あきらめるように首を振る。その紙面には『号外』の後に『紅魔館執事の危機!!~これは異変かはたまた…!?~』といった見出しが躍っていた……
最終更新:2010年04月22日 12:49