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仮面ライダーW 第6話『不吉のC > 思いのち涙』

仮面ライダーW 第6話『不吉のC/思いのち涙』

フーケの騒動から数日が経ち、いつも通りの日常が戻ったトリステイン学院。
学生であるルイズやシャルロットたちは学業に、シンやサイトは厨房での調理に精を出していた。
そんな中、クラスは異様な空気であった。
「さて、皆さん。進級できたことを嬉しく思う」
口ではそう言うが、顔からその様子は伺えない。
「では、授業を始める。知っての通り、私の二つ名は『疾風』。『疾風』のギトーだ」
ギトーと呼ばれる男は、黒髪の長髪、漆黒色のマント、冷たい雰囲気という不気味な印象で、生徒からの人気は低い。
シーンと静まり返るクラスで、ギトーは満足げに話す。
「最強の系統は知っているかね?…ミス・ツェルプストー」
「『虚無』ではないのですか?」
「伝説上での話をしているのではない。現実的な話だ」
その引っかかるような台詞に、キュルケは少しカチンときた。
「そうですね…そんなの『火』に決まっていますわ。ミスタ・ギトー」
不敵な笑みを浮かべて言い放つ。
「ほう…何故かね?」
「全てを飲み込み、燃やし尽くす炎と情熱。そうじゃございませんこと?」
「残念ながら不正解だ」
そう言うと、ギトーは腰に差した杖を構える。
「試しに、私に向けて『火』の魔法をぶつけてみたまえ」
その言葉に、キュルケのみならず、生徒達がギョッとする。
「どうしたのだ?君は『火』の系統の魔法は得意だと聞いたが?」
挑発するように言う。
「火傷じゃすみませんよ?」
目を細めてキュルケは言った。
「かまわん。本気で来たまえ。その、有名なツェルプストー家の赤毛が飾りではないのならばね」
キュルケからいつもの笑みが消える。
胸の間から杖を引き抜き、赤毛が炎のように逆立ち、ざわめく。
杖を振ると、右手の上に小さな火球が現れる。
更に呪文を詠唱すると、その火球が膨れ上がり、1メイルを越すであろう大きさとなった。
生徒達が急いで机の下へと避難する。
キュルケは作り出した火球を胸元に引きつけ、押し出した。
唸りを生じて近づいてくる火球から避けようとする仕草もせずに、ギトーは腰に構えた杖を剣を振るようにして薙ぎ払う。
途端に烈風が吹き荒れる。
その一瞬によって、火球は掻き消え、その向こうにいるキュルケを吹き飛ばした。
悠然としてギトーが言い放つ。
「諸君、風が最強たる所以を教えよう。簡単だ。『風』は全てを薙ぎ払う。。『火』も、『水』も、『土』も、『風』の前では立つことすら出来ない。残念ながら試したことは無いが、『虚無』さえ吹き飛ばすだろう。それが『風』だ」
キュルケは立ち上がると、不満げに両手を広げるが、気にした様子も見せずにギトーは話を続ける。
「目に見えぬ『風』は、見えずとも諸君らを守る盾となり、必要とあらば敵を吹き飛ばす矛となるだろう。そしてもう一つ、『風』が最強たる所以は……」
授業とは到底思えない自身の系統自慢の話が続く。
ルイズは呆れ、シャルロットは本を読み、キュルケは机へと戻るなど、話を聞く気が失せた生徒が続出する。
それが少し続くと、教室の扉が開く。
見れば、ローブにレースの飾りや、刺繍やらが付けられ、ロールした金髪のカツラを頭に付けたコルベールがいやに緊張した面持ちで現れた。
「ミスタ・コルベール。今は授業中ですが?」
「あやややや、失礼した、ミスタ・ギトー」
ギトーがコルベールを睨む。
「おほん。今日の授業は全て中止であります」
重々しい口調で告げた瞬間、教室中から歓声が上がる。
両手を振りながら、その歓声を抑える。
コルベールは言葉を繋げる。
「えー、皆さんにお知らせですぞ」
もったいぶった調子でのけぞると、頭に乗せたカツラが床へと落ちる。
くすくすと笑いが漏れるが、
「滑りやすい」
その一言で教室が爆笑に包まれる。
ルイズや呟いたシャルロットも笑いを堪える。
キュルケが笑いながらシャルロットの肩を叩く。
「あなた、言うときは言うわね」
コルベールは顔を真っ赤にすると、大きな声で怒鳴る。
「黙りなさい!ええい!黙りなさいこわっぱどもが!大口を開けて下品に笑うとは全く貴族にあるまじき行い!貴族はおかしいときは下を向いてこっそり笑うものですぞ!これでは王室に教育の成果が疑われる!」
その剣幕によって、教室は静まった。
「えーおほん。皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって、よき日であります。始祖ブリミルの降臨祭に並ぶ、真にめでたい日であります」
真剣な表情でコルベールは言う。
「本日……」





「姫様が魔法学院に?」
授業が終わり、シャルロット達はシンとサイトと合流していた。
シンの言葉にシャルロットが頷く。
「その後に使い魔品評会をやる?」
「そうよ」
サイトの言葉にはルイズが頷く。
「やらないっていう選択肢は?」
「ないわよ」
「早っ!もっと悩んでくれたってよくね!?」
バッサリと言い切られる。
「ちなみに何をやるんだ?」
シンが聞くとシャルロットが答える。
「使い魔のお披露目。それと何かの披露」
「二つ目はキャンセル可能?」
「不可能」
「めんどくせー」
やる気無さげにシンが呟く。
「午後まで時間がある」
「それまでに決めないといけないのよ」
「…まぁ、おいおい考えるか。しかし…」
シンがキュルケの方を向く。
「やけに不満げな顔してるな、キュルケ」
「あら、ダーリンったら分かるの?」
キュルケが腕を組んでくるが、軽くいなす。
「そういうのを慎め、お前は。で、何でしかめっ面してるんだ?」
キュルケは授業で起こったことを話す。
「最強の系統か…」
さしたる興味が無いのか、シンは面倒くさそうである。
「ダーリンも『火』が最強と思うわよねぇ」
「いや、最強ってのは存在しないと俺は思っている」
意外な言葉だったのか、キュルケ達は驚く。
「いくら鍛えて一つを極めた『達人』になっても、全ての頂点に立つ『最強』にはなれないってことだ。ここでクイズだ。そんな最強といわれる『人』がいた。ある人が水に毒を盛ってその『人』を殺した。毒を盛った人は最強ですか?」
「うーん…最強ではないんじゃないかしら」
「何でだ?最強といわれる『人』を殺したんだぞ?」
「うぅぅー。わ、分からなくなってきたわ」
「そんなモノなんだよ。最強ってのは」
一つ伸びをする。
「とりあえず、その姫様の訪問を見に行くんだろ?」
「そうよ…って、もうすぐじゃない!」
そう言うと、ルイズ達は足早にその場を去った。
「俺らも行くか」
「そうだな。…何だろう。またトラブルに巻き込まれそうなんだが」
サイトのぼやきをシンは、あるはずが無い、と頑なに思った。
正門に着いた時には整列した生徒でごった返していた。
王女の一行が現れると、整列した生徒達が一斉に杖を掲げる。
本塔の入り口にオスマンが立ち、一行を迎えた。
馬車が止まり、召使達が駆け寄り、馬車の扉まで絨毯を敷き詰める。
衛士が緊張の顔持ちと声で、王女の登場を告げる。
「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーーーりーーーー!!」
現れた駆動卿であるマザリーニが馬車の横に立ち、続いて降りてくるアンリエッタ王女の手を取る。
瞬間、生徒達から歓声が上がる。
「ふーん、あれがトリステインの王女。あたしの方が美人じゃない。そう思わない?」
「さあ」
キュルケのつまらなさそうな呟きに、シャルロットは短く答える。
「王女か…」
シンの聞こえるか分からない程度の呟きの瞬間だった。
ナニかがアンリエッタ王女の前に刺さる。
「えっ?」
「なッ、殿下!?」
マザリーニがアンリエッタを庇うように前に出る。
ナニかが雨のように降り注ぐ。
パニックとなった生徒達が慌てた様子で逃げる。
「ドーパントか!?」
「シン!」
シンはシャルロットと一緒に壁によって見えない場所へと移動する。
ダブルドライバーを装着。
【CYCLONE】
【JOKER】
「「変身」」
魔法でナニかをはじき返すが、その量は限界を有に超えている。
「せめて、殿下の命だけでも…」
マザリーニが己の身を盾にしようとする瞬間、
Wが繰り出した暴風の力を持った足がナニかを吹き飛ばす。
「間一髪って所か」
「あの、貴方は誰ですか?」
オドオドした風にアンリエッタが聞く。
「唯の、通りすがりだ」
再びナニかが降り注ぐ。
【METAL】
左にメモリをインサート。
サイクロンメタルへと変身。
メタルシャフトを持ち、一振り。
それによってナニかが弾かれ、地面に刺さる。
旋風棒術によって、次々とナニかを弾いていく。
が、シャフトを振り続けるうちにナニかが降り止んだ。
「……終わった?」
疑問を浮かべるが、仕方なくナニかを一つ掴むと、それが放たれた方向へと走った。
「あっ、待ってください!」
アンリエッタ姫殿下が止めようとするが、Wは構わずに走り去る。
「誰だったのでしょうか?」
「分かりません…」
Wは周囲を見回すが、ドーパントらしき影も姿も見つからない。
「ダメだ。痕跡すらない」
『そのナニかを持ってきてほしい』
Wの手にはナイフのようにギラギラした刃物が怪しく輝いていた。
ドライバーを戻し、メモリを抜く。
Wからシンへと戻る。
「分かった……サイト、お前の予想…当たったよ」
誰にとも無く呟いた声が風に消えていった。


あのような事態があったからか、使い魔品評会は中止となった。
その夜。
「フッー、いやぁサッパリしたな」
上機嫌そうにシンは廊下を歩いていた。
この一週間でシンとサイトは共同で風呂を製作していた。
風呂といっても厨房から拝借した大きい鍋で拵えた五右衛門風呂である。
だが、ゆったりとできるため二人の間では好評である。
「いつか普通の風呂や温泉でも作るか」
何やらエライことを言っているが、シン自身は気にも思っていない。
「ん?あれって…ギーシュか?」
シンの目に入ったのは、部屋のドアの鍵穴から中を覗こうとしているギーシュだった。
元軍人として培ったサイレントキリングを用いて、音も無くギーシュの後ろへと近づく。
「女子寮でうろつき、尚且つ覗きとは趣味が悪いな」
その声に驚き、ギーシュは叫び声を上げる。
「うっ、うわああああああッ!!?」
その弾みなのか、部屋の中へと転がり込む。
シンは開いたドアから部屋を見る。
そこには呆然とするルイズとサイト。
そして、王女であるアンリエッタも驚きの顔で見ていた。
「あ~…邪魔をしましたか?」
仮にも王女の前であるため、無礼の無いように話す。
「い、いえ」
アンリエッタがドギマギしながら話す。
「あの、恐れ多いのですが…なぜ王女様がこの部屋に?」
「お姫様はルイズの幼馴染なんだってよ」
答えたのはサイト。
「ところで、何でギーシュもいるんだ?」
「女子寮でうろつき、さらにこの部屋を覗いていたからな。そんな奴にはそれなりの刑をと思って」
「なるほどな」
「その説明で納得しないでくれ!」
ギーシュが頭を上げて講義するが、シンとサイトはスルー。
「どうします。今の話を聞くと彼はお姫様のお話を盗み聞きしてたわけですけど?」
「重要な話だったなら今から彼の記憶を…殴って忘れさせますが?」
「いえ、そのような事はしなくていいです。…つかぬ事を聞きますが、貴方は?」
アンリエッタがシンに尋ねる。
「シン=アスカといいます。使い魔としてここに呼ばれました」
「シン=アスカ…もしかして『ガリアの赤鬼』ですか?」
「貴族にはソッチの名が広まってんのかよ…」
シンはグッタリする。
「とりあえず、コイツどうしますか?」
話題を逸らすためにサイトが口を挟む。
「確かに…先ほどの話を聞かれたのは、まずいわね…」
するとギーシュが勢いよく立ち上がる。
「姫殿下!その困難な任、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せ付けますよう」
「え、貴方が?」
「お前は寝てろ」
サイトが足払いをすると、ギーシュが派手に転ぶ。
「僕も仲間に入れてくれ!」
「どういうことだ?」
状況が読めず、シンはサイトに尋ねる。
サイトが言うには、ゲルマニアとの政略結婚を妨害できるような内容の手紙を、アルビオンという国の王子が持っている。だが、アルビオンは王党派と貴族派に別れ戦争中。さらに王子が所属する王党派は敗北寸前。手紙が貴族派に渡ればゲルマニアとの同盟が白紙となり、小国であるトリステインは一国でアルビオンと対峙しなければならない。それを防ぐためには戦争の真っ只中であるアルビオンに行って王子から手紙を回収するという任務である。
「穏やかじゃないな。戦争も、任務も」
「まぁ…な」
シンの言葉にサイトが同意する。
「これは重大な任務なのよ!トリステインの運命を左右する、姫様直々の名誉ある任務よ!」
ルイズがそう言う。
「自分が死ぬような目にあってもか?幼馴染を戦場の真っ只中に放り込んで、死ねと言ってる様なものじゃないか」
「これは姫様が本当に信頼されている者にしか頼めない任務なのよ!そして、姫様は信頼されている者として私を選んでくださった。これはとても光栄なことなの!」
「名誉の為に死んでいくのか?だったらふざけるなよ」
途端、シンの表情が変わる。
その顔は『鬼』と呼ばれるに相応しい剣幕で、部屋にいたルイズ達はたじろぐ。
「お前がアルビオンに行き、そして死んだら、お前の家族はどうなる?」
「そ、それは…」
ルイズの言葉が詰まる。
「国のために、王女のために死んだ。名誉だったと家族は思うか?違うはずだ。泣いて、泣き崩れて、もしかしたら国を怨むかもしれない。「何故娘を戦地に行かせた!?何故娘が死ななければならない!?」って」
「ッ!?」
「子よりも国を選ぶ親なんかいない」
その言葉に泣き崩れたのは、ルイズではなく…アンリエッタであった。
「私も…私もルイズを行かせたくは無い!でも、私は王女です!国を救うために、友を犠牲にする道を選んでしまったのです!」
「姫様…」
その時、
「危ないッ!?」
ガシャン!!
窓が割れ、今朝のナニかがアンリエッタを襲う。
咄嗟にシンが走り、突き飛ばす。
【BAT】
「追跡頼む!」
バットショットを飛ばす。
「シン、今のって…」
「恐らく、今朝と同じドーパントだ」
シンはアンリエッタに駆け寄る。
「すまない、少し荒っぽかった。ケガはないか?」
「いえ、ありがとうございます。…シンといいましたか?」
「あぁ」
「私はどんな選択をすればいいのですか?」
アンリエッタが問う。
「国をとればいいのか、友をとればいいのか、私は素直に国を取れる程の人ではありません。ですが、国を捨てられるような人間でもありません。どうしたらいいのですか?」
「姫様……」
アンリエッタの言葉にルイズは悲しい顔をする。
「貴女の選択は間違ってはいない。一国の王はどんな時でも辛い選択をしなければならない」
そう言うシンの顔もどこか悲しげだった。
「だが、貴女にはもう一つ選択肢がある」
「えっ?」
「俺が、ルイズ達の命を護ろう。依頼を言え。「ルイズ達を護ってくれ」と」
護ろう。自分の腕で、自分の全身で、あの時のような事にならないように…。
「…ルイズ達を、護ってください」
涙ながらに、アンリエッタが言う。
「その依頼、引き受けよう」
ルイズは、アンリエッタからウェールズ皇太子宛の手紙と『水のルビー』を受け取り、明日の朝出発となった。
「(それにしても、あの執拗さ…一体なんで王女を狙う?)」
シャルロットの部屋に戻ると、ドーパントの犯行を考える。
窓からカン、と音がする。
バットショットが追跡から帰ってきた。
ガジェットモードへと戻し映像を見るが、ドーパントの影も形も無かった。
「姿無き狙撃主ってか?笑えねぇな」
「ドーパントから放たれた物体が分かった」
本を読んでいたシャルロットが言う。
「あれは、鳥の羽根だった」
「羽根?鳥類のメモリか」
「判別するには証拠が足りない。所有者も不明」
「王女に恨みを持つ奴か、ただの愉快犯か…なんにせよ、気をつけた方がいいな」
「ところで、貴方はどこに行ってたの?」
「さっきルイズの部屋で王女から依頼を受けた」
シンはシャルロットに先程の事を話す。
「危険すぎる」
「確かにな。でも、俺は決めたんだ。あいつらには悲しい思いをさせたくないんだ。もう、悲しい顔を見たくないんだ」
「……貴方に何を言っても聞かない事は分かってる。だから、私も一緒に行く」
「お前まで巻き込めるかよ」
「私と貴方は二人で一人。それに、私も貴方と同じ人間」
目線が合う。
折れたのは、シンの方だった。
「明日の朝に出発する。たくっ、本当に大した相棒だよ」
シャルロットは微笑する。
そうすると、二人はベッドへと入り、眠り始めた。
同刻
「くっ、またしても……」
男が一人、愚痴っていた。
原因は噂の『仮面の戦士』と『赤鬼』。
「あいつらがいなければ、あの小娘を殺せたものを…ッ、誰だ!?」
「そう、騒がないでください。貴方にメモリを提供した者です」
木の陰からまた『男』が一人、姿を現す。
「どうですか、メモリは?」
「あぁ、すばらしい。この力、まさに超人だ。だが、私が欲しいのは力もあるが、一番は戦場だ。私の力を見せしめるためには、どうしてもあの小娘には死んでもらわなければならない」
「なら、小娘よりも簡単に戦争を起こせる方法があります」
「何?どういうことだ」
男は耳打ちをする。
「ふん、確かにそちらの方が楽であり、もっと楽しそうだ。その話、乗ってやろう」
「では、また後ほど…」
男がいなくなると、『男』は顔を歪めて微笑む。
「精々、踊ってもらおう。俺の手の中で…」

翌朝
「何でアンタ達もいるのよ!?」
門の前でルイズの叫び声がこだまする。
「あら、いけないかしら?」
「私は彼の依頼に付いていく義務がある」
その原因でもあるキュルケとシャルロットが答える。
「なぁ、シン…」
「頼む、何も言わないでくれ」
サイトよりも早くシンが言う。
何故か話を耳に挟んだらしいキュルケが付いて来ることになってしまった。
今のシンの心は、申し訳ない気持ちでいっぱいであった。
今いるのは、シン、サイト、ルイズ、シャルロット、キュルケ、ギーシュの六名である。
「シルフィードで行く方が早いんだが…アイツ大丈夫か?」
いくら風竜といえど、この人数を乗せて飛ぶ事は大丈夫なのか、シンは疑問に思う。
「多分大丈夫…それに、報酬としてお腹いっぱいに食べさせてあげると言えばいい」
「あ~、納得だ」
それなら大丈夫だろうと思い、シンはシルフィードを呼ぶ。
「きゅ~いきゅ~い」
「すまないな、シルフィード。後で腹いっぱい食わせてやるから」
少し怒っているのか、宥める様にシンが言うとシルフィードは直に機嫌を良くする。
「少し、いいかね?」
ギーシュが尋ねる。
「どうした?」
「僕の使い魔を連れて行きたいんだが、いいかね?」
「何処にいるんだよ?」
「此処だよ」
サイトの言葉にギーシュが指差したのは、地面。
「いないじゃないの」
ルイズが言うと、ギーシュはにやっと笑い、足で地面を叩く。
すると、地面から音が聞こえ、収まると同時に大きなモグラが顔を出す。
「あぁ~ヴェルダンテ!僕の可愛いヴェルダンテ!」
ヴェルダンテという名のモグラに抱きつくギーシュを見て、サイトが呆れた声で言った。
「なにそれ?」
「アンタの使い魔ってジャイアントモールだったの?」
「そうだ。僕の可愛い使い魔、ヴェルダンテさ!」
そう言いながら、ギーシュはヴェルダンテに頬擦りする。
「ねぇギーシュ、私達は竜で移動するのよ?その使い魔はどうするの」
「それは心配ない。こう見えて、ヴェルダンテは地面を掘って進むのは速いんだよ」
ヴェルダンテはうんうんと頷く。
「でも、私達はアルビオンに行くのよ。空にある国に連れて行くなんて、無理よ」
ルイズがそう言うと、ギーシュは地面に膝をつく。
「お別れなんて、つらい…つらすぎるよ、ヴェルダンテ……」
「(何この小芝居…)」
シンがそう思っていると、ヴェルダンテがいきなり鼻をひくつかせる。
くんかくんかと匂いを嗅ぐ仕草をしながら、ルイズに近づく。
「な、なんなのこのモグラ」
「主人に似て、女好きなのか?」
突如、ヴェルダンテがルイズを押し倒すと、鼻で体をまさぐりだした。
「や、ちょっと!?何処触ってんのよ!?」
いい様に鼻でつつきまわされ、地面でのたうつルイズ。
「いやぁ、動物と戯れる美少女ってのはいろんな意味で官能的だな」
「いやぁ同感だね。まったくその通りだ」
サイトとギーシュは何かを感じ取ったのか、腕を組んで頷き合う。
「なんなのかしら?」
「理解不能……」
「お前ら、そうしてないで助けなくていいのか?」
若干呆れ口調でシンが言った。
そうこうしている内に、ヴェルダンテはルイズの右手で輝くルビーを見つけ、そこに鼻を擦り寄せる。
「この、姫様から預かった指輪に鼻をくっつけないでよ!」
ギーシュが納得したように頷く。
「あぁ、指輪か。ヴェルダンテは宝石が大好きだからね」
「何か…嫌なモグラだな」
「失礼だね。ヴェルダンテは貴重な宝石や鉱石を見つけてきてくれるんだ。『土』系統のメイジである僕にとって、この上ない素敵な協力者さ」
その時、突風が起こると、ヴェルダンテを吹き飛ばす。
「誰だッ!?」
朝靄から羽帽子を被った長身の貴族が現れる。
ギーシュが薔薇の造花を掲げるが、一瞬早く長身の貴族が杖を振るい、造花を吹き飛ばす。
「僕は敵じゃない。姫殿下より、君たちに同行することを命じられてね。君たちだけではやはり心もとないらしい。しかし、お忍びの任務であるゆえ、一部隊つけるわけにもいかぬ。そこで僕が指名されたって訳だ」
羽帽子を取り、一礼。
「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」
「ッ!?申し訳ありませんでした。魔法衛士隊の隊長であるとは知らずの無礼、許していただきたい」
魔法衛士隊は全貴族の憧れであり、ギーシュもその例外ではない。
その様子にワルドと名乗った貴族は首を振る。
「私も、君の使い魔にすまなかった。婚約者がモグラに襲われるいるのを見て見ぬ振りは出来なくてね」
「「「え?(は?)」」」
サイト、ギーシュ、シンの声が重なる。
「ワルド…様?」
ルイズは立ち上がると、震える声で言った。
「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!」
その言葉にあんぐりと口を開けるサイト。
「お久しぶりでございます。ワルド様」
頬を染め、抱きかかえられながらルイズが言う。
「相変わらず君は軽いね、まるで羽のようだ!」
「お恥ずかしいです…」
ワルドは人懐っこい笑みを浮かべて、ルイズに聞く。
「ルイズ、彼らを紹介してくれたまえ」
「は、はい」
ルイズはワルドにサイト達を紹介する。
「君がルイズの使い魔か。人とは思わなかったよ」
気さくな感じでサイトに近づく。
「僕の婚約者がお世話になっているよ」
「そりゃどうも」
おもしろくなさげにサイトは返事をする。
観察するように見るが、勝てる要素が一つも無くため息をするサイト。
その様子を見たワルドは肩を二回叩く。
「どうした?もしかして、アルビオンに行くのが怖いのかい?なあに!何も怖いことなんてあるもんか。君達はあの『土くれ』のフーケを捕まえたのだろう?その勇気があれば、なんだってできるさ!」
そう言うと、ワルドは口笛を吹く。
朝靄から鷲の頭と翼、獅子の下半身を持つ幻獣、グリフォンが現れる。
ワルドがひらりと跨る。
「おいで、ルイズ」
そう言われ、ルイズは暫くモジモジするが、ワルドに抱きかかえられ、グリフォンに跨った。
シン、サイト、シャルロット、キュルケ、ギーシュはシルフィードに乗る。
「では、行こうか!諸君、出撃だ!」
グリフォンが羽ばたき、空へと舞い上がる。
シルフィードもそれに続き、後を追う。


一行は順調な程に進む。
日が沈む頃、港町のラ・ロシェールが遠くに見えてきた。
「そろそろ街の入り口だ。高度を下げよう」
ワルドがそう言い、グリフォンを降下させる。
シルフィードも降下する。
「何で港町なのに山の中なんだ?」
サイトが言うと、ギーシュが呆れた様子で言う。
「君はアルビオンを知らないのかね?」
「知らん」
「まさか!」
ギーシュは笑うが、サイトは笑わずに話す。
「ここの常識なんて、俺にとっては非常識だ。ただ、その逆もあるがな」
「(確かにな)」
シンが心の中で同意する。
峡谷の間を進んでいく。
「(……なんだ?人の気配が…ッ!?)」
突如、崖の上から松明が投げ込まれ、峡谷を照らす。
その次に弓から放たれる矢が襲う。
「地下水!」
『あいよっ!』
即座にエア・スフィアで矢を受け流す。
「大丈夫か!?」
「何とか!」
風の魔法で防いだワルドに相槌を打つ。
次なる矢が放たれる。
「どうするのだね!?これじゃあジリ貧じゃないか!」
ギーシュが叫ぶ。
不意にシンが口元を歪める。
「地下水、エア・スラスト…広範囲にだ!」
「ん?あぁ、なるほどね。あいよ、まかせな!」
「お前ら、伏せてろよ」
しゃがめと促し、地下水を居合い抜きのように構える。
「『エア・スラスト!』」
放つ。
風の刃が男達には当たらない。
「外した!?」
「いや、当てたよ」
狙いは違わず、木々を切り倒す。
木々が倒れる事態に、男達は混乱状態になる。
「このまま突っ切るぞ!」
シルフィードとグリフォンはその場からすぐに離れる。
街へと着き、一番上等な宿『女神の杵』亭の一階である酒場で一同は集まっていた。
「まさか、魔法衛士隊の隊長がこの任務に就くなんて思いもしなかったよ」
ギーシュが言う。
「あの人も中々の男前ね。でも、私はダーリンの方がいい男だと思うわ」
「その言葉にはありがとうと言いたいが、お前の態度で言いたくなくなるな」
キュルケの言葉にシャルロットが少し反応するが、シンは軽く流す。
そこに『桟橋』へ乗船の許可を貰いに行ったワルドとルイズが帰ってきた。
「アルビオンへと渡る船は、明後日にならなければ出ないそうだ」
「急ぎの任務なのに……」
ルイズが口を尖らせる。
「どうしてだ?」
シンが尋ねる。
「明日の夜は月が重なるだろう?『スヴェル』の月夜だ。その翌日の朝、アルビオンが最もラ・ロシェールに近付く」
「最低限の距離で移動できるからか…」
「さて、今日はもう遅い。部屋は取ってある」
鍵束が置かれる。
「部屋は四つ取った。そして、ルイズと僕は同室だ。残りは君達で好きに決めてくれ」
その言葉にサイトがぎょっとする。
「婚約者だからな。当然だろう?」
「ダメよ、私達まだ結婚してるわけじゃないのよ」
サイトが頷く。
しかし、押し切られる形でルイズとワルドの同室が決まる。
そして、残りの部屋割りだが、ここで問題が起きた。
「あら、シャルロット。貴女はいつもダーリンと寝てるからいいじゃないの」
「…貴女と一緒では彼が心配。私はいつも寝ているから問題ない」
静かなる女の戦いが起きていた。
シンと同じ部屋に入ろうとするキュルケをシャルロットが阻止する。
その背には赤と青の闘気がにじみ出ていた。
「君は美少女と一緒に寝ているというのか、シン!なんてうらやまs…けしからんのだ!少し僕とかわtt…」
とりあえず喚くギーシュを黙らせる。
「俺が一人部屋でいいんじゃないか?」
シンがごもっともな意見を出して、終わったと思ったが、部屋にキュルケが入ろうとしたり、シャルロットが音も無くベッドに潜ったりと散々な目に合ったのであった。
アルビオンまでの道はまだ遠い。

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最終更新:2010年04月22日 15:18
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