戦いで荒れ果てた大地に、一人の少年が立っていた。
黒い髪と赤い瞳の少年はしかし、退屈そうに足元を見下ろした。
少年の足元には機械の腕が転がっていた。
それは、先ほどまで少年と戦っていた者の成れの果てだ。
少年は夕日で赤く染まった空を見上げて溜息を吐いた。
ここに来てから毎日戦いに明け暮れていたが、少年を満足させる者はいなかった。最
初は威勢のよかった者も、最後には少年の力の前に為す術もなく薙払われ、屈服していった。
たくさんの敵を撃った。
たくさんの物を奪った。
だがどれだけ戦おうとも、少年の心は渇いたままだ。
少年は足元に転がった腕をつまらなさそうに拾い上げる。
大して強くもなかった相手の物ではあるが、こんな物でも何かの役には立つだろう。
売れば小遣い程度の稼ぎにはなる。
そしてこの場を立ち去ろうと振り向いた先に、いつからそこにいたのか、三人の少女が立っていた。
歳は自分と同じくらいだろうか。
一人が先頭で自信満々に腕を組み仁王立ちしており、その後ろに二人の少女が自分とその少女へと交互に視線を揺らしている。
「アリサちゃん……」
長い黒髪の少女が、先頭の少女に不安そうな声を投げ掛けるが、少女は大丈夫と言うように頷いた。
「あんたね? 最近ここで暴れ回っているのは」
先頭の少女は見た目に違わない気の強い声音でこちらに質問――むしろ詰問か――してくる。
「そうだけど……」
「やっぱりね。なかなかやるようだけど、いい気になってもらっちゃ困るわね。
あんたが戦ってきた相手は、私たちの足下にも及ばないんだから」
「へぇ、それで?」
少年は赤い瞳を好戦的に輝かせ、先を促す。少女はふふん、
と鼻で笑うと予想通りの――そして期待通りの――言葉を口にした。
「私があんたの鼻っ柱を折ってやるわ」
にっ、と少年と少女ははからずも同時に互い笑みを浮かべ、右手を掲げた。
そしてやはり同時に、自らの愛機を呼び寄せる。
『メダロット転送!』
「ああ、そんなこともあったわねー」
そう、隣を歩く彼女――アリサ・バニングスは声を上げた。
大学の講義が終わり、時間を持て余したシン・アスカは小学校以来の付き合いであるアリサと共に街を歩いていた。
その途中、よく彼女たちと遊んでいた広場の前を通り掛かったのを切っ掛けに、昔話に花を咲かせていたのだった。
「で、結局あの後であんたは私に負けたのよね」
「なに言ってんだよ。俺が勝ったから、アリサが突っ掛かってくるようになったんだろ」
「そうだっけ?」
わざとらしく目を逸らすアリサに、シンは半眼で睨む。
「そうだよ。しかもその時にペッパーキャットに電線の上を走らせるような戦い方をさせたせいで街中停電になって大騒ぎになったんだろ」
「ストップ! なにどさくさに私のせいにしようとしてるのよ。
電線を切ったのは私じゃなくてあんたのKBT型の射撃のせいでしょ。
これで逃げ場を封じたって得意げに言ってたじゃない」
「そうだっけ?」
わざとらしく、今度はシンがアリサから目を逸らす番だった。
やはりアリサは半眼でこちらを睨んでくるが、しばらくしてやれやれと笑った。
「そうだ、今度なのは達が帰ってくるの、知ってる?」
「ああ、すずかから聞いた。マユもはしゃいでたよ」
「ちゃんとその日は空けときなさいよ。
この前のバイトで間違ってKBT型大量入荷したせいで忙しいとかふざけたこと言わないわよね」
「分かってるって。それに、在庫はなんとかなったよ。レイが手伝ってくれた」
「本当に仲良いわよね、あんた達って……」
「アリサたち程じゃないさ……なんだよ?」
「べーつーにー?」
そんな他愛もない会話を交わしながら二人は歩く。
戦争が起こるわけでもなく、家族に不幸があるわけでもなく、いつもどおりの優しい日々が続く。
今日も世界は平和だ。
最終更新:2010年05月30日 09:01