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なのポネタ03

 時空管理局にいくつもあるオフィスの一室で、シン・アスカ・高町はモニターと睨めっこしていた。うんうんと唸りながら、ゆっくりとした動作でキーボードを叩く。
 シン自身、こういうデスクワークは得意ではない。前の世界でドンパチやっていた頃も、親友に手伝って貰ったりしていた程なのだから。
 シンを唸らせているのは、彼が一人前の魔導師として認められる試験のようなものを兼ねた、保護観察官としてマテリアル達の監視内容の、途中経過を記す報告書。
「星光はこれで終わり、と」
『理』のマテリアル、星光の殲滅者。添付された写真には、無表情でこちらを見ている。
 実直で三人の中では一番の優等生。奉仕活動も積極的に行う。闘争本能に悩まされているが、改善しようとする姿勢が見受けられるので、特に問題はない。
「闇統べは……っと」
 マテリアルの『王』闇統べる王。添付された写真には、子供には似つかわしくないしかめっ面を浮かべ、こちらを睨んでいる。
 闇の欠片事件の、実質的な黒幕。他者を見下し、自身が絶対と言わんばかりの態度は、まさに王そのもの。その所為か、奉仕活動には消極的だ……が、保護観察官の前ではしぶしぶ、といった形だが、それなりの活動をしている。更生には時間が掛かると思われる。
「最後は雷刃か」
『力』のマテリアル、雷刃の襲撃者。添付された写真には、記念写真か何かと勘違いしているのか、笑顔でピースサインをしている。
 根は見かけ相応に幼いが、他者の前では大人のように振る舞い、少しでも油断するとボロが出てしまう、ある意味では難がある性格。奉仕活動の方は、遊びと勘違いしているのか、ふざけ半分でやっている模様。きちんと導いてやれば、将来有望な管理局の魔導師となるだろう。
「今の生活、雷刃が一番楽しそうなんだよなぁ」
 シンは一旦休憩とキーボードから手を離し、頬杖をついて此処最近の事を思い返していた。



 喫茶店兼洋菓子店、翠屋。ランチタイムだけあって、店内は客で賑わ……ってはいなく、扉には『close』の掛け看板。店内のキッチンでは、料理人見習い兼ウェイターのシン・アスカ・高町がフライパンを振っていた。スパゲッティや玉葱、ピーマン、ソーセージといった食材が、ケチャップと程よく絡まり、立ち上る湯気が視覚を通じて食欲をそそる。
「出来た!」
『わー!』
 シンの声に、カウンターに並んで座っていた高町なのは、フェイト・高町、雷刃の襲撃者は歓声を上げる。
 フライパンの中のスパゲティ・ナポリタンを三枚の皿に均等に盛り付け、フォークを添えて三人の前に出す。
「お待たせ」
「いただきまーす」
「いただきます」
「ハムッハフハフッハフッ!」
 嬉々として食べ始める三人。
 なのははフォークの先で麺をくるくると絡ませながら、フェイトは隣のなのはを真似するように、ぎこちなくフォークを動かす。雷刃の襲撃者は出来立てホヤホヤで熱いのにも関わらず、ご飯をかきこむように、口いっぱいにスパゲッティを含んだ。
「ッゲホっが!」
「あぁもう!」
 予想通りに咳き込む雷刃の襲撃者に、シンは呆れながら水の入ったコップを差し出す。彼女はそれをふんだくるように奪い、ゴキュゴキュと喉を鳴らしながら一気に飲み干した。
「っはぁ……」
「何やってんだよ、お前は」
「だって、お腹が空いてたんだ」
「全く……」
 熱さの所為か、雷刃の襲撃者は目に涙を溜めながら上目遣いでシンに抗議する。
 そんな顔をされたら、と怒る気が失せるシンだった。
 モデルとなったフェイトはこんなにも落ち着いているのに……と、シンは目の前の、俯きがちにスパゲッティを食べているフェイトに目をやる。
 シンの視線に気付いたフェイトは何故か頬を赤く染め、今度こそ俯いた。
「にゃはは。雷刃ちゃんはそそっかしいよね」
 今まで黙々とフォークを動かしていたなのはが、シンと雷刃の襲撃者のやりとりに顔を綻ばせる。
「んぐ……僕は闇統べる王よりは落ち着いているさ」
「アイツを比較に出すなよ……」
 スパゲッティの貪りを再開した雷刃の襲撃者は、これ以上の醜態は晒すまいと反論するが、口の周りにケチャップを付けていては、失笑を買うようなものだった。
 ちなみに本人と星光の殲滅者は、二階のシンの部屋で格闘ゲームの真っ最中。何回やっても星光の殲滅者に勝てない闇統べる王が憤慨し「我が勝つまでゲームを止めない」状態だった。
 お昼ご飯を皆と一緒に食べられない星光の殲滅者は、気の毒としか言えない。
 わざと負けろよ、という考えもあるが、そこは星光の殲滅者。どんな形式の闘いでも、手を抜く事はせず、常に全力全開。この辺が、モデルとなったなのはを思わせるところだ。


「雷刃、ほら」
「ん?」
 シンは濡れた台拭きで雷刃の襲撃者の口の周りに付いたケチャップを拭いてやる。
「んぅ~」
 雷刃の襲撃者は目を細め、なされるがままとなっていた。傍から見れば、気持ちよさそうに見えなくもない。これでゴロゴロと喉でも鳴らせば、完全に猫みたいだ。
「むぅ……!」
 それを横目で見ていたフェイトは頬を膨らませ、雷刃の襲撃者に倣うように、控えめに食べていたスパゲッティを口に沢山運んだ。
「ひ、ひん!」
 フェイトの普段とは違う大きな声にシンが顔を向けると、ほっぺたにケチャップと玉葱を付けたフェイトが、何かを期待するような眼差しを向けていた。両頬を丸くして咀嚼する姿はリスに見える。
「フェイト?」
「んっぐ。あ、あのシン……」
 もじもじと体を揺するフェイトに、シンは首を傾げる。握ったままの台拭きとフェイトを交互に見て、納得したのか、大きく頷いた。
「ほら」
「ん……」
 雷刃の襲撃者の時は無意識に、洗いものの食器を拭くようにしてしまったが、今度はガラス細工を取り扱うように、そっと拭いてやる。フェイトは目を瞑って、やはりなされるがままとなっていた。
「二人共、姉妹みたい」
「確かに」
『姉妹?』
 クスクスと笑うなのはとシンの言葉に、同じ顔のフェイトと雷刃の襲撃者は顔を見合わせる。二人の違うところは、髪と瞳の色くらいだ。姉妹というより、ドッペルゲンガーと言った方がしっくりくるだろう。ドッペルゲンガーに例えたらお互いに不味い気はするが。
「姉妹だったら、僕はお姉さんがいいなぁ」
「じゃあ私が妹? ……ちょっと嫌かも」
「どういう意味さ、フェイト」
「え、えと……ほら、ねぇシン」
「俺に振るか……自分の胸に手を当てて考えてみろ」
「胸? うーん」
 握っていたフォークを皿に置き、自身の胸に手を当てうんうんと唸る雷刃の襲撃者。眉間には皺が寄り、目を大きく見開いている。
「心臓の音しかしないよ」
「ぷっくくくっはは」
 雷刃の襲撃者の一連の行動に我慢の限界を超えたなのはが噴出した――なのははいい子なので、ちゃんと口に手を当てている――
「な、何がおかしいのさなのは!」
「あ、こら!」
「わあ!?」
 笑われている事に腹を立てた雷刃の襲撃者が勢いよく立ち上がった所為で、自身の手元にあったコップが倒れ、床に落下した。ガラスが割れる音と、破片が周囲に飛び散る。
「あーあもう、みんな動くな」
 シンはじたばたする雷刃の襲撃者の頭を手で制し強引に席に着かせ、床に散らばった破片を指でそっと摘まんでいく。その後ろ姿に、雷刃の襲撃者はしょんぼりと肩を落としていた。
「よーし、もうないな」
「私も大丈夫だと思う」
「こっちも大丈夫だよシン君」
 床に顔を近づけ目を皿のようにするシンの頭上から、フェイトと、なのはののんびりとした声が聞こえる。
 余談だが、なのははシンの事を君付けで呼ぶ。基本目上の人間には敬語な彼女だが、シンの場合、タメ口どころか妙にお姉さん振る、ませた女の子になる。本人は「シン君って弟みたいなんだもん」と、悪意なんてこれっぽっちもなく純粋に言うのだ。
 シンもシンでもう慣れたのか、咎める事なく彼女の好きなようにさせていた。
「後で士郎さんと桃子さんに言っておかなきゃな。ったく……」
 集めた破片をビニール袋に入れきつく縛り、やれやれと席に着くと、
「シン……ごめんなさい」
 雷刃の襲撃者が目に涙を溜めて、ぽつりと呟いた。その姿に、シンの胸の奥がチクリと痛む。
 姿形はなのは達と同じ子どもでも、生まれてまだ一月も経っていない。人間でいえば赤ん坊と変わりはなく、そんな彼女を頭ごなしに叱っては、酷というものだ。
「大丈夫だ、ほら」
「うん……」
 今にも零れ落ちそうな涙を、指でそっと拭う。ずびび、と実に女の子らしくない、鼻を啜る音がシンの耳に届いた。
「ほら、鼻水。チーン出来るか?」
「ん」
 ティッシュを手に取り、彼女の鼻に添える。勢いよく鼻水を噴出させる姿が可愛かったのは、シンだけの秘密だ。
「よし終わり。ほら、冷めたら美味しくなくなるぞ」
「うん……でも、シンの料理は冷めても美味しいよ」
「……そっか。ありがとな」
「えへへ……」
 頭を撫でてやると、雷刃の襲撃者はまた目を細め、シンの手の平の感触を幸せそうに味わっていた。


「雷刃ちゃんはシン君に頭撫でられるの好きだね」
 既に自分のスパゲッティを食べ終えコップを傾けているなのはが、シンの手の平の感触に酔い痴れている雷刃の襲撃者を横目で見る。
「うん。だって、僕の好きな事の一つだから」
「他にもあるの?」
 小首を傾げるフェイトに、雷刃の襲撃者は満面の笑みを浮かべ大きく頷いた。その際、シンの手を両手で固定し離れないようにする細かさを見せる。
「食べ物を食べたり、本を読んだり、みんなと遊んだり……そういうの、僕は知らない事だらけだったんだ。それが楽しくて仕方がない! 僕はみんなと出会えて、本当によかったよ」
 えへへ、とはにかむ姿に、シン達の顔が綻ぶ。
 彼女がそう言ってくれるなら、とシンは胸が熱くなるのを感じた。
「そっか。じゃあ『砕けぬ王』は目指さなくてもいいの?」
「あぁ」
 今度こそからかっているのか、なのはが意地の悪い笑みを浮かべると、雷刃の襲撃者は真顔になり、きっぱりと言い放つ。普段の彼女からは想像も出来ない雰囲気に、シンとなのはは「何だ、明日は槍でも降るのか」と懐疑的な視線を彼女に送った。随分失礼なものだが、それが雷刃の襲撃者の、普段の行いからくる評価なのだから仕方がない。
「もう『砕けぬ王』にならなくてもいい。僕はシンに、みんなに大切なものを沢山教えてもらった。だからもう、いい。いらないんだ、そんなもの」
 瞑目し頭を振る姿は、見方によっては哀愁が漂っている。しかし、徐々に開けた瞳には、一点の曇りもなかった。
 後ろ髪を引かれる事無く、過去に決着を着け未来に目を向ける姿は、雄雄しいものだった。
「やっぱり、雷刃はお姉さんかもね」
 それまで自分のスパゲッティに舌鼓を打っていたフェイトが微笑む。
「私何かより直ぐに割り切ってて、凄いなって思う」
「そうかな? でも姉は妹より強そうだからそれでいいよ」
「雷刃ちゃん、姉妹の意味分かってる……?」
 首を傾げる雷刃の襲撃者に、なのはは本気で心配になってきた。頭を抱える姿は、九歳の女の子に似つかわしくない。
「それに」
 フェイトは口に咥えたままのフォークを皿に置き、シンの顔をじっと見つめる。


 シンが「何だよ」と口を開く前に、
「妹なら甘えられるから」
 フェイトはカウンターから身を乗り出し、シンの胸に飛び込む。また食器がひっくり返らなかったのは、奇跡としか言いようがなかった。
「お、おい」
(や、やばい)
 ようじょ特有の甘いにほひと温もりに、シンの体温がみるみる上昇していく。普段着のTシャツ越しに、彼女の、同年代よりは多少発育気味な胸の感触が、シンをさらに苛ませる。
「ずるいよフェイト! シン、僕も!」
「ぐえっ!? 雷刃!?」
 シンのそれなりに逞しい胸板に頬擦りするフェイトに、雷刃の襲撃者の眉が大きく吊り上がり、彼女に続くように、シンの胸に飛び込む。
「姉は甘えなくても大丈夫だよ雷刃!」
「妹ばっかりずるい! 姉だって甘えたい時は甘えたいんだ!」
 胸の中でぎゃあぎゃあと喚きじたばたする所為で、ようじょの温もりが二乗となってシンに襲い掛かる。
「お、おい二人共、はなれ――」
「面白そうだからなのはもー!」
「ろぉぉぉぉい!?」
 何時の間に、と背後からなのはが背中に抱きついてくる。この瞬間、ようじょとようじょのサンドイッチが誕生した。具はシン・アスカ・高町。
「僕がシンに甘えるんだ!」
「私だよ!」
「にゃははははー!」
「お前等離れろぉぉぉぉぉ!」
 店の外からでも中の様子が分かるくらい、今日も翠屋は騒がしかった。



「入りづらいですね」
「ぐぬぬ……!」
 店から母屋へと続く廊下の扉越しに、星光の殲滅者と闇統べる王が店内を覗いていた。
 闇統べる王は何が気にいらないのか、パーカーに付いている紐を食いちぎらんばかりに噛み締めている。
「塵芥の分際で我のもの、に手を、手を、出しおって……! ち、塵にして、や、ろろう、か」
「誰が誰のものですか?」
「エルシニアクロイツ!」
 怒りで星光の殲滅者の声が聞こえていないのか、闇統べる王は愛用のデバイスを呼び出した。
 扉を開けて今にもシン達に襲い掛かろうとする彼女を、星光の殲滅者は自身のデバイス『ルシフェリオン』で制す。
「駄目ですよ、暴れては。シンさんに迷惑が掛かります」
「ぐ……! う~! 来い星光、我の相手をもう一度しろ!」
「仰せのままに」
 仏頂面を浮かべながらシンの部屋に戻っていく闇統べる王に、星光の殲滅者は苦笑する。
「甘えたいのなら、混ざればいいのでは」
 まぁ、闇統べる王の事だ。その捻くれた性格上、素直になれないのだろう。
 するとしたら二人きりの時か、と星光の殲滅者はデニムパンツのポケットから愛用の手帳を取り出し、重要な事を記す項目にそれを書き加えた。

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最終更新:2010年05月31日 14:38
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