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六月の花嫁ネタ

「そういえば御存知かしら地霊殿の主さん?」
「いいえ知りません、多分知りたくもありません
 そして客人ならば玄関から入って来てください」

賢者として名高い大妖怪が、そのスキマから現れて私の優雅なお茶の時間を邪魔して開口一番。
さらにはそのご自慢の力で心を読まれないようにしている・・・
迷惑で厄介で始末に終えないという、悪い意味での三冠王達成をしないでほしい。

「とは言えここに来たからには、何か用件があるのではないですか?」
「そうでしたわ…あなた、彼にお酒を飲ませた事はおありかしら?」
「彼という名の者はこの旧地獄にはいないと記憶しておりますが」

少々・・・
いや大分腹立たしい態度なので、意趣返しをこめてとぼけてみる。

「彼よ、あなたの…何かしら? ペット? それともこいび」
「あぁ彼といえばシン・アスカのことですね!」

こ、このスキマめ・・・

「そうそう、そのシン・アスカと言う人ね…彼ってある酒癖がひどいそうよ、知ってた?」
「いいえ…彼は真面目でお酒などはほとんど飲まない人ですから」
「ふぅん…」

さっきよりも何割り増しかの胡散臭い笑みを浮かべる。
そもそも何故こいつが彼の酒癖を知っているんだ。
色々問い詰めたい所だが、先程のように下手に刺激すると何を言い出すか分からないから厄介だ。

「彼ね、酔うとキス魔になるそうよ?」
「…すきま?」
「キス魔よキス魔! 簡単に言えば酔うと見境なく接吻する酒癖の事かしら」
「んな…」

知らなかった・・・
いや酔っ払いの心と言うのは読みづらいし、彼もここに来て数年経つが飲酒は殆どしない。
鬼達にも無理やり飲ませるなと釘を刺してある。
そういう理由なので、私が知らないのは当然だが。


だから何故このスキマが知っているんだ!

「そうそう、遅くなりましたがお土産ですわ
 最近、外界の良いお酒が結構な量手に入りましたの
 そこで地霊殿の主へお裾分けしようと思いまして、今日はここに来ましたわ」

そう言いながらスキマから酒瓶を一つ取り出す。
      • そして隠そうともしない魂胆が心底気に食わない。

「これを機に、あなたと彼の関係は面白い事になると思いますわ
 …さぁ、貴方はどうします?」

「お断りします
 そんな物を使って得た関係には何の価値もありません」

「あらあら、意外な返答だわ」

そう言いながら、その表情と口調に変化はない。

「理由をお聞かせくださるかしら?」
「聞かせる義理はありません」

「そう言われれば仕方がありませんね
 ですが彼が好きだというのがバレバレな言動でしてよ?」

「ぐっ…!」

落ち着け、こんなスキマに惑わされるな。
落ち着け・・・

「あらあら耳まで真っ赤!」

さらに茶化すスキマ妖怪を、私はきつく睨み付ける。

「ねぇアスカさん? 今の彼女を見てどう思います?」

なっ!
慌ててスキマ妖怪の視線の先を振り返って・・・いない

「嘘ですわ」

考えるより早くスキマめがけて弾幕を放っていた。
あっさりと回避されたが。

「あらあら、恐ろしい恐ろしい」
「貴方は一体何をしにきたんですか!」

もう冷静でいられない。
顔どころか全身がもう焼けそうなくらい熱い。
こんな状況で冷静にしろと言うのは無理な話だ。

「本当の事を言うから許してくれませんかしら?」

「その"本当の事”とやらによっては永久に許す事はないと思います」

相変わらず恐ろしい恐ろしいと言いながらも、ニヤニヤした表情を隠そうともしない。
      • 例えどんな理由でも絶対に許さないと決める。

「外界のお話でしてね、六月に結婚した恋人達は特別な幸せを得る…
 そういう話があるのでそれを教えに、あとついでに発破をかけに来ましたの
 酔った勢いで既成事実でも作っちゃえばいいのにーと思いましてつい先ほどのような行動を」

最後の一言で全てが台無しだ、いやこのスキマの存在そのものが最悪か。

「…何故それを私に教えに来たのですか」

「単なる暇つぶしですわ…それに、彼には幸せになってほしいの
 彼はね、とても悲しい運命を歩んでいましたから」

彼の運命。
彼は普通の人間、いや例え妖怪であったとしても耐えられぬほどの凄惨な運命の道を歩んできた。
だが彼は、それに囚われ続ける事無く、絶望の中にあっても前を向いて生きようとした。
また希望を掴みたいと生きる彼に、私は何時しか情愛を持っていた。

「ですが貴方がそう願う理由が分かりません」

率直な疑問。
このスキマが彼の幸せを願う理由が分からない、と言うよりも一切無い。

「実を言うと頼まれましたの
 多くの、本当に多くの魂と想いに頼まれましたの…"彼を幸せにしてくれ”と
 ですが私にはそんな義理はありませんので無視していましたわ
 そしたら遂には夢の中ででも頼む声が聞こえましてね…本当いい迷惑でしたわ
 それで、いい加減安眠したいから願いを叶えてあげようと思いまして」

「事情は分かり…いえ、理解できませんねこれは」

「ふふふ、それもそうね…でも私では幸せにする事は出来ませんから」
「それで私に…ですか」

だけど。

「私にも彼を幸せにする自信がありませんよ
 そもそも彼の隣にいる資格があるかすらも疑わしい…です…から」

そう、ずっと自信が無かった。
私には彼の隣にいる資格があるのかと疑問だった。

私は妖怪。
そして世界で一番の嫌われ者。
この力とこの性格が多くの人妖を遠ざけ、そして忌み嫌われた。

悩んでいた、怖かった。
私の存在が彼をまた苦しめてしまうのではないかと。

そう考えると怖くなって・・・後一歩と言う距離を戸惑ってしまう。

そんな状況がもう、何年も続いている。

「案ずるより生むが易しと言いますわ…大丈夫よ、私が太鼓判を押してあげるわ」
「随分…自信がおありなんですね」
「スキマからよく観察してましたの、まるでお二人は恋人のように仲睦まじく見えましたわ」

頭痛がしてきた。
もう弾幕を放つ余裕も無い。

「まぁ無理強いはしませんわ、選択するのはあなたの自由
 …私としては、先ほど説明した連中からあらぬ恨みを買いたくない…とだけ言っておきますわ」

遠まわしの強要だ。
そう言い残して、来たときと同じように忽然とスキマに消えた。
文字通りの台風一過だった。

「あぁそうそう」

      • 一難去って何とやらか。

「もしその気になりましたら、私も婚礼の準備を手伝わせていただきますわ」
「別にそんな事をしていただかなくても、それくらいはこちらで行います」
「あら! それじゃその気になりましたのね」
「あげ足を取らないでください! 例え話です!!」

本当に調子が狂う・・・疲れてきた。

「でも外界の物はこちらには存在しませんでしょう?
 外界ではウエディングドレスという中々晴れやかな白無垢がございまして」

開いたスキマから見えるは純白で、そして気高さを放つドレス。
これがうえでぃんぐどれすだろうか。
確かにこれは・・・綺麗だ、身に纏いたいと素直に思ってしまう。

「ねぇアスカさん、あなたも彼女のウエディングドレス姿を見たいでしょう?」

「なっ!?」

反射的に振り返って・・・

「そう都合よく居るわけ無いでしょ」

「出ていけえぇ!!」

叫び声と共にスキマへと身を隠した。
消える一瞬に見せた笑みが腹立たしさを倍増させる。

もう二度と来るなと心より願う。

しかしそうなるとウエディングドレスが手に入らな・・・

いやいや待て待て。
着るも何もまだそういう話にも至ってない。

      • もうだめだ、まともに考える力も無い。
はぁ、本当にもう、本当に疲れた。

口にした紅茶はすでに冷たいと思えるほどの領域に達している。
逆に疲れを加速させるだけだった。


正直な所、何もかも放り出して部屋に帰って眠りたいくらいだ。

それにしても、地上の人妖はあのスキマにしょっちゅう振り回されているのか。
そう思うと大いに同情してしまうし、へこたれるのも馬鹿らしくなる。

「はぁ…」

「さとり? どうしたんだ溜息なんて珍しい」

そう言いながら現れたのはシン。
      • さっきの話のせいで必要以上に意識してしまう。

「さとり?」

でも。
こんな私にも、彼は本当に心配してくれる・・・
こんな私でもいいのだろうか。

――彼を幸せにしてくれ――

――案ずるより生むが易しと言いますわ――


そうね、今は出来るとか出来ないとかを考えるよりも。

「さとり、本当にどうし!?」

出会った時よりも大分背が伸びた彼に抱きついて、唇を重ねる事にした。
これからの事は、この唇を離してから考える事にしよう。

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最終更新:2010年06月05日 00:26
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