学園都市が誇る超能力者(レベル5)。
彼らの能力はまさに超常の息の産物であり、そしてそれらを納得させるだけの力を持つ。
故に、この学園都市でさえも本当の超能力者はたったの七人。
その中でも彼らの『計画』に携わるのは僅か一名。
ありとあらゆるピースを手当たり次第にかき集め、積み木をくみ上げる。
まるでそれは駄々をこねる幼子の如し。
否。
幼子は成長し、それを自制によって押さえ込むことも出来る。
しかし、彼らは違った。
駄々をこね続け、そしてついにはその駄々を通すために世界そのものをすら改変させるという思考は、もはや赤子にすら劣る妄執とさえいえよう。
何よりも精力的に、誰よりも欲深く、そして如何なるものよりも真摯に追い続ける。
己の願望を満たすために。
そして、彼らは新たなピースを見つけ出す。
世界からはじき出され、如何なる存在へも、如何なる世界へも到達しうる至高の欠陥品(マスターピース)。
世界から疎まれ、呪われ、捨て去られて、忘れられた彼は、その世界の可能性を受け継いでしまう。
それは如何なる世界であろうとも己を変質させるという惰弱。
一見すれば強いようで誰よりも脆く濁ったその核。
足りないのならば補えばいい。
持っていないのならば手に入れればいい。
その歪んだ願望こそが彼の本質。
故に、彼らが手に入れたそれこそ、学園都市にて認定された『8人目』の超能力者(レベル5)。
その名前は―――
「・・・平和だ」
そして、彼。
シン・アスカは一つあくびをして放課後の緩やかな一時を過ごしていた。
様々なものが集う学園都市、何の変哲も無いファミリーレストラン。
そのボックス席の一つをまるで独占するかのように、シンは緩みきっていた。
机に突っ伏し、穏やかに午後の日差しを受けるその姿はまるで本能を忘れた飼い猫のよう。
目の前にある珈琲は、やはり一流とは違うものの、そもそも単に彼は珈琲が好きと言うだけで味には頓着がない。
カフェインが取れて頭がしゃっきりとするならば何でも良いが、今はただ、この平穏を味わいつくすことを目的としている。
もしその姿をかつての世界の仲間が見たならば思わず目を疑い眼科に駆け込み精神病院に相談をしに行くほど。
彼の姿はかけ離れていた。
「あぁ、こういうなんでもない日々・・・素敵だ・・・すばらしい・・・」
その瞳は恍惚に憂い、赤い瞳は陽光に照らされてまるでルビーのごとく煌いている。
周りの客は勿論、気にしない。
店員も、ひそひそと何事かつぶやいているが、今の彼には些事に過ぎるといえよう。
照らされる太陽のなんとまぶしいことか。
「いらっしゃいませーお一人ですか?」
窓の外に広がる景色のなんとありふれたものか。
「一人よ。あぁ、席は良いわ。人を待たせているの」
当たり前の日常が、当たり前に続いていく。
「えぇ、彼氏よ」
それはあまりにも美しく、尊くて。
「時よ止まれ、お前は美しい・・・」
「あら、そこまで言ってくれるなんて・・・足りないお頭になにか入れたのかしら?シン」
かけられた声に、彼は絶望した。
人が真正面に座る気配とクッションがきしむ音。
そして、投げかけられる視線はまるで彼を舐める様に愛でつける。
今まで緩んでいた彼の意識が固まる。
窓の外を見ていた首が、ぎしぎしと音を立てるように壊れた発条人形のような動きで前に向けられていく。
あぁ、何で気がつかなかったのか。
何故忘れていたというのか。
かつて、たった今彼と同じことをつぶやいたかの博士が。
―――ゆっくりと前を向く。
最初に目に入ったのは柔らかなウェーブを描くような茶色の長髪。
「ねぇ、シン」
悪魔と契約をしていたということを。
その悪魔によって魂を、己の全てを奪われたことを。
―――豊かな肢体を女の子らしい、しかし下品ではない洋服に身を包み、首には赤い宝石があしらわれた黒いチョーカー。
向けられる瞳は髪と同色に、それで居て艶やかさをかもし出す魔性。
「いい加減」
甘い言葉と甘い誘惑。
そう、かつて自分が己の『世界(家族)』を失ったときのように。
―――かけられる声は優しく、甘く、それで居てどこか有無を言わさぬ絶対者のそれ。
雄(オトコ)を見つめる雌(オンナ)の瞳。
「何か言えっつってんのよ。いい加減目を覚ませこのろくでなしの屑野郎」
突如として今までの優しさを微塵も感じさせない絶対的な声色と、睨み付ける瞳に変化した彼女。
学園都市が誇る超能力者(レベル5)第四位、『原子崩し(メルトダウナー)』、麦野沈利を前にして。
彼は再び思い出した。
そう、幸福とは。
いつだって唐突に、突然、なんの脈絡も無く奪われるということを。
なぜ、忘却していたというのか。
「・・・麦野・・・」
向ける声に対するは彼女の鼻で笑った嘲笑。
彼女は背もたれに身を預け、手馴れたように店員を呼び出し、手早く注文を済ました。
シンはその姿に深くため息を吐いてから、その体を起こして麦野と相対した。
「・・・なんで窓向いてんのよ」
そう、直接ではなく、そっぽを向いて。
「なんでも良いだろ。てか、おれの憩いの時間を邪魔するな」
「憩い、ねぇ・・・」
麦野はふくれっ面のシンの前にある珈琲カップと、机の端に置かれてある伝票を見比べ、そしてもう一度シンを見つめ
「安物の珈琲一杯で、三時間も粘るような客は、店としても迷惑でしょうね」
「っぐ」
痛いところを突いてきた。
思わず、それが口から息と共に吐き出される。
麦野は軽く優雅に肩をすくめ、吐く息と共に言葉をつむぐ。
「馬鹿ね。この貧乏人」
「いいだろ別に!!経済的だろうが!!」
思わずシンは机を叩くようにして麦野をにらみつける。
その瞬間、真正面に座る彼女があまりにも淫靡に笑みを浮かべるのを見て、思わず顔を背ける。
「あは」
ささやく笑いは、哀れみか、それとも歓喜か。
「やっと、こっちを向いたわね。シン」
「・・・お前が浪費家なだけだろうが」
「それは強者の特権よ。上に立つものは、それ相応の義務を全うするの」
突如、彼女の言葉を無視した声に、しかし彼女は淀み無く答える
シンはその答えさらに瞳を強くする。
そこには、先ほどまでの緩みきった日向ぼっこをする猫の姿は無く、まるで鍛え抜かれた兵器を思わせる一種の威容を漂わせて。
「そんなのは上に立つものの傲慢だ」
「傲慢こそ強者の義務よ。傲慢を得たいのならば努力しなさい、とね」
上から見下ろすことこと正しいと、救いをもたらすなど無用だと断ずる彼女。
上に居るなら救わねばならぬというのが彼の心情、歪み、捻じ曲げられた彼の妄執。
「お前がそんなお優しいこと言うはずが無いだろうが」
「当たり前でしょ?第一、んな下らない虫けらなんかしらねーよ」
妄執は真逆の妄執と相容れることは無い。
否、そもそも妄執(異端)は受け入れられぬからこそ異端(妄執)だ。
そこに妥協点も接地点もありえるはずが無い。
そして、高まりきったシンの沸点は
「だからお前は―――」
「お待たせしましたー。ストロベリーパフェと、モカになりまーす」
「あら、ありがとう」
突如として割って入った店員によって霧散させられてしまった。
シンは、立ち上がりかけた腰を無理やり押し込むように再び席に着く。
それは別に、三時間も珈琲一杯で粘り続けた客を店員が『痴話げんかなら余所でやれ』というような瞳で見られたからではない。
そう、断じてないのだと、心の中でそう言い聞かせるような願掛けをして。
「・・・なんのつもりだ?」
目の前に突如おかれたストロベリーパフェと、妙に期待している彼女を見比べる。
「何って・・・食べさせなさい」
あ、という風に軽く口をあけてちろりと彼女の真っ赤な舌が踊る。
身を乗り出した体は、その豊満な胸によって机を押しつぶす。
ほんの少しだけ顔を赤らめたシンは、
「・・・くそ」
あきらめて、ストロベリーパフェのクリーム部分を掬い取り彼女に差し出す。
にたりと笑う彼女は小さく開けられた口にスプーンをくわえる。
(これは鳥の餌付け、これは鳥の餌付け、これは鳥の餌付け、これは鳥の餌付け、これは鳥の餌付け、これは鳥の餌付け、これは鳥の餌付け、これは鳥の餌付け!!)
周囲からの視線が痛い。
なまじ先ほどまで喧嘩寸前まで話していた男と女。
しかも、両者共にかなりの美形とくれば目立たないほうがおかしいというもの。
それが次の瞬間にはこのような甘い関係を見せ付ければそれは最早必然でしかない。
「って、いい加減スプーン離せ!!」
いつまでも舐めるようにスプーンを加える彼女の舌の動きがダイレクトに伝わる。
ただでさえこのような拷問、早く切り上げたいというのに、しかし彼女は先ほどと同じ瞳。
「ふぃ、や(い、や)」
もごもごと声を出す彼女に、ついにシンも強硬手段に移行する。
普段よりも鋭く研ぎ澄まされた赤い瞳が彼女をねめつけ
「!?っん・・・」
突如麦野は声を上げる。
眉は苦しげに下がり、顔は紅潮する。
それも当然。
シンは強引にスプーンを抜こうとして、逆に彼女の舌に、スプーンをより強く押し付けてしまう。
柔らかな感触が、先ほどとは比較にならぬほどにシンの鋭敏な指を通して伝わってくる。
慣れぬ異質の感触に、一瞬硬直したシンではあるが、すぐさま意識を取り戻し、スプーンを抜く。
「ん」
だが、そうはさせぬというように、麦野は舌と咥内でスプーンをつかむが、まるで力が入らないのかシンは然したる労力も無くスプーンを引き抜く。
その際、咥内から出てきたスプーンにまるですがるように麦野の舌が追いすがり、離れてもスプーンと舌の間に銀の糸が伝う。
しばし、沈黙が二人を包む。
気がつけば周囲もなぜか静まり返っているように思えるが、それは今目の前の怨敵と居る緊張感からくる錯覚だと信じたかった。
「ん・・・やってくれたわね」
「なにがだよ・・・ほら、次行くぞ」
やけに熱をもった瞳を見ないようにしながら再びクリームを掬い取り差し出す。
が、そのスプーンを突然奪われる。
目を向ければ彼女は自分でスプーンをとり、パフェも彼女の前にある。
(・・・自分で食う気になったのか?)
ほっと胸を撫で下ろしたシンに、しかしスプーンが向けられる。
彼が先ほど掬ったクリームを乗せて。
「・・・どういうことだ?」
「なにが?さっき食べさせてくれたでしょ?だからお礼よ。食べさせてあげる。味見させてあげる、でもいいけれどね」
「わけがわからん。お前いい加減っんぐ!?」
一瞬の油断で、シンはスプーンを口にねじりこめられた。
甘い味わいと、熱い舌にとろけるクリームが咥内に広がる。
かなり強引だったので、クリームが落ち、ズボンを汚す。
(これは、洗濯しないとだめかよ)
と、やけに所帯じみた思いを抱いているのを彼女の言葉がさえぎる。
「・・・このままスプーンを喉に差し込めば、いくらあんたでも倒せるわよね?」
暗い瞳。
色ではなく、そこに宿る心の色。
それを察したシンは彼女をにらみつける。
やるならばやれ。
ただしその時にはお前も道連れだと。
「あは」
笑いは狂気かそれとも悦楽か。
彼女は一言「冗談よ」とつげ、スプーンでシンの咥内をかき混ぜる。
シンは直後、吐き出すようにスプーンを吐き出す。
「いい加減にしろ。お前の冗談は黒すぎるんだよ」
睨み付けるその瞳に満足したように、麦野は腰を落ち着け、スプーンを、先ほど自身の咥内を嘗め回したそれをちろりと舐める。
「さっきの言葉だけど」
「なにがだ」
忌々しくも相手に答えるのは、果たして英断か、それとも無知ゆえか。
さらにどこか子供のようにふてくされた彼を見て、麦野は言葉を続ける。
「強者の義務は、あなたにも適用されるのよ?」
「・・・」
答えは無言。
しかしそれは無視ではなく、無視できぬがゆえの返答であることを彼女は理解していた。
再びスプーンを舐める。
『この人(ご主人様)』の唾液のついたスプーンを。
「強者の義務。上に立つべきものの資質。上に立つものは模範でなくては成らない。そして、この学園では模範とは暴君」
その言葉に、彼女が思い浮かべたのは三人。
一人は学園都市が誇る唯一無二の第一位。
全てのベクトルを操る傍若無人。
暴君の具現とはあれのことを言うのに相違ない。
「だから、善政であれ、悪政であれ、なんにしてもあんたには義務があるんだよ。中庸なんて甘えた中途半端なんざゆるさねぇ」
二人目も、同様に彼女を超える学園都市の第二位。
ありとあらゆる物質を作り出せる反則。
それで居て徒党を組む彼は、誰よりも君主にふさわしいかもしれない。
「そうだろう?学園都市が誇る超能力者(レベル5)」
最後に、一人。
最も彼女が恐れ敬い蔑み憧れる暴君(存在)。
上記の二人など目ではない。
精神も、心情もあまりにも普通。
それで居ながら、自分を傷つけることなく、己を許すことなく。
麦野を屈服/敗北(納得)させた人。
彼女を壊し/殺し(犯し)た存在を。
目の前に居る、暴君などなぎ払う大嵐を。
「言うな」
響く言葉は拒絶のそれ。
赤い瞳に宿るのは怒り以外の何者でもなく、揺るぐことなく彼女をにらみつける。
それで、軽くいきそうになる。
先ほど、舌を犯されたときよりも。
シンの舌を犯したときよりも。
この人のスプーンを舐めたときよりも。
故に、彼女は止まらない。
彼の唯一無二だけを目指す彼女には、止める事などできようはずも無い。
「全ての因果を逆転させて、己の願いをかなえる人」
「だから!!」
机が強く叩かれる。
殺気さえもにじみ出るそれに、彼女の異常は歓喜と悦楽を味わう。
「ねぇ、学園都市超能力者(レベル5)第八位、『因果逆転(ラッキー・スケベ)』、シン・アスカ」
「だから」
そのあまりにもシリアスな雰囲気をぶち壊すその名称を。
「その名前を呼ぶのをやめろっていってるんだろうがーーーー!!!」
それを耳にしたシンがついに叫びを上げる。
つい10分前まで平和を享受していた姿はそこには無く、
まるで認めたくない現実を突きつけられた愚者のように頭を抱えて座り込む。
その姿が可愛くて、彼女は再び自分でパフェを口に運ぶ。
「いいじゃない。そのおかげで生活には困らないんだし。つーか、今更あんた切り離されたらホームレスよ?そのままどっかの怪しいおばさんに身包みはがされてきっとペットにされるわよ?」
そんなことをさせるつもりは毛頭無いことを口にする。
そう、この人には自分を飼ってもらう義務があるのだから。
「あぁ・・・畜生・・・この世には神も仏も居ないのか・・・」
もはや涙を滂沱のごとくに流し続けるそれはまるでおびえる子ウサギのようで可愛らしい。
「あら、良いじゃない。いきなり現れて超能力者(レベル5)仕事もそれで養ってもらえる内にやって置けるし、なにより市民証明もあるんだから」
「・・・だからと言って、なんでお前みたいな悪人とつるまなきゃならないんだよ!!?」
「それはまぁ、あきらめてもらうしかないわね。それに、あなたどちらかといえば悪人よ?守るために殺し続けるなんて、正義の味方のすることじゃないっつーの」
「くそぉう・・・所詮この世は弱いものには厳しすぎるというのか・・・」
再び口にパフェを運ぶ。
イチゴの仄かな酸味と甘みが絶妙なハーモニーを生み出し、麦野は満面の笑みを、彼と出会うまで一度も浮かべたことが無いほどの輝くような笑みを浮かべて、彼に今の実情を突きつけた。
「だからまぁ、お仕事がんばるわよ。ね?『新・アイテム』リーダー」
あまりにも厳しいその言葉に
「あんたは一体なんなんだーーーー!?」
シンは、学園都市によって認定された新たな超能力者はいつも通りの言葉を叫んだ。
おまけ・1
麦野「あ、でも神も仏も居ないけど、可愛い女の子なら居るよ?」
シン「・・・ちなみに聞くが、それは勿論笑いながら人を殺したり、口から下ネタばりの言葉を口にする女の子じゃないだろうな?」
麦野「当たり前でしょ?てか、私だし」
シン「おまわりさーん!!ここに嘘つきがいるぞーーーー!!と言うか、何で今日に限ってこいつしか来ないんだよーーーー!?」
最愛「・・・ごふ・・・」
フレンダ「ま、まさか副リーダーがここまでするなんて・・・」
最愛「し、シンが・・・あの人の毒牙に・・・・」
フレンダ「さ、最愛!あまり動いては体に」
最愛「そうなったら・・・シンを寝取って私達は添い遂げる!!っごほっごは!!」
フレンダ「・・・あぁ、思ったよりも平気そうですわね」
滝壺「・・・浜面、今日はどうするの?」
浜面「まぁ、さっきの言葉のとおりにするしかないだろうなぁ・・・さもなけりゃ、俺達もあいつらの仲間入りだ」
滝壺「判った。じゃあ、今日は浜面と一緒に居る」
浜面「お、おう(・・・しかし、あいつと一緒に居たいからと言って他のやつらを半殺しにすることもないだろうに・・・女は怖いねぇ)」
おまけ・2
目録「とーま!とーま!!あの人たちなんかラブラブなんだよ!?」
不幸「・・・おい、インデックス。あまり刺激するなよな・・・」
目録「はい、とーま。あーん」
不幸「えーっと・・・何がしたいんですか?インデックスさん?」
目録「むー!あーんなんだよ!!私達も愛を確かめ合うの!!」
不幸「ははは、インデックスさん、それは幾らなんでも無理と言う・・・痛ってーーーー!!こ、こらかむなインデックス!!」
目録「女心がわからないとーまにお仕置きなんだよ!!」
不幸「だーーー!!不幸だーーー!!!」
最終更新:2010年08月08日 16:48