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なのは単発-06

それでは、御伽噺をはじめよう。
配役(キャスティング)は今ある人々を移し変え。
舞台(ステージ)は時間を巻き戻し。
語り部(ナレーション)の呟きに耳を傾け。
物語(ストーリー)をはじめましょう。

これは、もしもの物語である。

高町なのははどこにでも居る普通の小学三年生である。
両親は喫茶店翠屋を営み、仲はかなりむつまじい。
兄は大学生、姉は高校生であるが、二人とも、なのはにはまだよく判らない戦うための稽古をしている。
変わったところといえばその程度。
友人達と遊び、学び、算数が得意で体育が苦手。
優しい両親、頼れる兄姉に気心の知れた二人の親友がいるのが彼女にとっての至福であり、彼女はその幸福に不満を持ったことはない。
ただ、心のどこかに乾いた風が吹いていることを除けば、彼女はごく普通の小学三年生の女の子でしかなかったのだ。

―――皮肉にも、今日この日、二つの出会いに会うまでは。


魔法少女リリカルなのはif


優しい優しい暗闇。
包み込まれるような優しさと温かさ。
寒さに凍えることも、悲しみに涙することもない。
たとえるならば、そこは深い海の底。
光は届かず、動くことも水の抵抗でひどく億劫になる。
意識は混濁としていておぼろげで、しかし温かなぬくもりに包まれるそれはまるで春の陽だまりを全身に浴びているようなやわらかさ。
そして、耳に届くのは明るい電子音。
あまりにもこの幸せなぬくもりの中では違和感の在るその音色を聞きながら。
深海から浮かび上がるような緩慢さで、彼女、高町なのはは目を覚ました。
視界に入るのは黒一色。
それが己を包み込んでくれるお布団であることを瞬時に悟り、もう一度だけ瞳を閉じて、開く。
包み込まれる感触はいつも慣れたお布団のそれ。
ゆっくりと血を通わせるように手を開き、もぞもぞと動きながらその音源、彼女自身がセットした携帯電話を手に取る。
そのまま慣れた手つきでボタンを押して音色をとめ、再びお布団の中へと手を引っ込めた。
今しばらくこの幸せな時間を堪能しようとする本能と、学校に行かなくては成らないという理性が葛藤し、結局は理性に従うようになのはは包み込まれていたベットから身を起こした。

「んーーー」
大きく息を吸い込み、伸びをする。
全身に血が通い、意識がはっきりとしてくるのを感じて、眠たげなまぶたをこすりながらベットから降りるとカーテンを開く。
朝の光を部屋にはいり、女の子らしい部屋を照らし出していく。
その眩しさに目を片瞑るが、しかし浮かぶのは笑み。
「今日もいいこと、ありますように」
笑みとともに口にした言葉に若干の祈りをこめて。
彼女は家族の下へと朝の挨拶をしに行った。

そう、彼女はあまりにも普通の少女であった。
その幼い体に強靭な精神を持ってはいるものの、基本的には彼女はごく普通の少女でしかない。
家族は優しく親友と遊ぶことは面白く、算数は好きだが体を動かすことが少し苦手なだけのただの少女。
故に、彼女には創造など着くはずが無い。
彼女がこの日、己の運命を劇的に、そしてあまりにも悲劇的に、喜劇的に変貌させる二つの閃紅に出会うことなど。
いかに彼女であろうとも想像することさえ出来なかったのだから


□◆□◆□◆


夢を見ている。
そう自覚しながらも、彼はおきられないで居た。
場面は森。
暗いくらい森の中に一人の少女が居た。
木々の囀りは穏やかさではなくこの後に起こる驚愕を彩るかのように鳴き。
赤い月はその不気味さをよりいっそう際立たせていた。
知らず、少女はつばを飲む。
まるで、この森の中に恐ろしい何かが居ると思っているかのように周囲を見回す。
暗い森は街灯もなく、月の光によってのみ照らされる。
それはもはや異界の類。
人知の及ばぬ卑怯とさえ言えよう。
故に、少女の緊張は収まるところを知らない。

否。

彼女は知っているのだろう。
この森の中、自身のすぐ側に異形の存在が居るということを。
囀りに、何か別の音が混ざる。
それは無論木々の囀りではあるが、質が違う。
今までの風によって揺らされてきたものではなく明らかに何かが通ってくる音。
しかし、それは人間ではない。
爛と輝く赤い瞳は闇の中でさえもはっきりと見つけられる。
加えてその異形。
大きさはちょっとした車ほどもあると言うのにその動きは動物に似ている。
『それ』は満を持して少女に飛びかかろうとして
「っ!!」
彼は目を覚ました。
早鐘のようになる心臓を胸を通して拳で押さえつける。
全身にぐっしょりと湿った感触は、おそらくは己の寝汗のせいだろうか。
「・・・ゆめ・・・?」
呟く様に唱えた言葉に、帰ってくることはない。
なにか、恐ろしい夢を見たような気がするのだが、思い出せない。
彼は一つ大きく深呼吸をして心臓を落ち着けると、ベットから立ち上がりカーテンを一気に開ける。
朝の光が、見慣れた見慣れぬ部屋と、いまだダンボールに包まれた荷物を照らし出す。
その殺風景な光景が、今は安堵を約束してくれる。
冷たい床が今は心地いい。
彼の真紅の瞳を焼く朝の光も、普段は自分を苛むように眠りの時間を削るというのに、その当たり前の日常に安堵する。
「ゆめだよな・・・あんなの」
どんな夢なのかも覚えていないが、とにかくいい夢ではなかった。
彼はそのまま自身の黒い髪をかくようにして時間を確認する。
時刻は彼にしては早いほうだが、彼と同年代の者達からすれば遅いほうだろうか。
何はともあれ、いまだに普段であれば無理矢理起こしにくる妹が来ていない時点で今日は彼の勝利といえよう。
そうして、彼―――シン・アスカ、小学三年生の、少しだけ普通とは呼べぬ彼は家族の下へと朝の挨拶をしに行った。


これはもしもの物語。
本来は出会いも、世界も全てが違う彼と彼女達が出会う物語。

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最終更新:2010年08月08日 17:18
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