真っ暗な世界に点在しているのは宇宙に光る星のような無数の光。
その中に浮かぶ小さな神殿で、俺はおかしな仮面で顔を覆った男と向き合っていた。
蝶をあしらった装飾がついた白い仮面、後ろで結った髪に白いスーツ。
恰好からしてまっとうな部類の人間じゃないことがわかる。
「ここは・・・あんたは誰なんだ?」
?「ようこそ。お初にお目にかかる。私はフィレモン。この意識と無意識の狭間に住まうものだ。」
状況を飲み込めず戸惑う俺に、男は答えになっているのかよくわからない返事をよこした。
フィレモン・・・聞いたことのない名前だ。
顔見知りならともかく、こっちには怪しい男に馴れ馴れしくされる覚えはない。
まして、こんな変人と仲良くなろうとも思わない。
フィレモン「いぶかしむのも無理はない。だが、私は君の敵ではない」
「なら、答えてくれ。なんで俺はここにいるんだ?」
男は少し答えずらそうに黙った後、言葉を続けた。
フィレモン「私が、正しくは私と彼女がここに呼んだ。少々手荒な手段をもちいたが、
『ペルソナ様遊び』をせずに君をここへたどり着かせるにはこれしか方法がなかったのだ」
「彼女・・・?」
フィレモン「肉体から精神が解き放たれる瞬間を狙い、『境界を操る程度の能力』をもつ彼女の力で、
心を繋ぎ止めたままこの『集合無意識の海』へとたどり着かせる。予定外のことも起こったが、
なんとか成功したようだな」
『八雲 紫』・・・そうか、ようやく思いだした。
紫『静と動の境界を少し弄らせてもらったわ。数分にも満たない幻想だけど、
あなたを案内するには十分な時間』
忘れようとしても忘れられない、燃え上がるような痛みと体から力が抜けていく絶望感。
夢なんかじゃない。俺はあの女が蘇らせた“あいつ”の剣に貫かれて・・・。
フィレモン「心配はいらない。こちらの用さえ終われば、私の力で君をあちら側へお送りしよう。
肉体の方も、あの力さえ宿せば修復されるはず───」
「ふざけるなよ。生き返らせればそれでちゃらになるとでも思ってるのか、あんたは」
フィレモン「・・・そうだな。まず、何の了解もなく君を死なせたことを詫びるべきだった」
「違うだろ! 俺は、一歩間違えれば他の人まで巻き添えになってたかもしれないことに怒ってるんだよっ!!」
フィレモン「・・・すまなかった。どうか許してほしい。だが、同時に理解しておいてほしい。
私たちには、どんな犠牲すら躊躇しないほどの覚悟が必要だったのだと」
謝られたところで気分は晴れないし、怒りが完全に収まったわけじゃない。
けど、辛そうな声には、どうしてもなしとげなければという決意がこもっていた。
何故はわからないが、そうとう追い詰められていたみたいだ。
少なくともフィレモンと名乗るこの男は単なる“敵”ってわけじゃないらしい
フィレモン「しかし、さすがに強い意志を秘めているようだね。多くの若者を見て来たが、
先に私に名を訪ねたのは君が初めてだ。だが、君の方こそ自分が誰であるか名乗ることができるかな?」
「当たり前だろ、俺は──────」
答えようとして、何故か言葉が出てこなかった。
どうしてだ。ただ名乗るだけなのにうまく舌が動かない。
喉元まで出かかっているのに言葉が声にならない。
ただの名前なのに、軽々しく口にできないほど重い意味を持っているように思えてくる。
「俺は・・・俺は、『シン・アスカ』だっ!!」
半ば叫ぶように言い返すと、さっきまでの息苦しさが嘘のように消えていった。
今のは一体何だったんだ。くそ、今夜は意味のわからないことばっかりおこる。
ふと、フィレモンを見ると仮面で隠れていない口の部分の端がつり上がっていた。
わからないと言えば、こいつの考えもさっぱりわからない。
あの妖怪の女といい、俺に何をさせたいんだ?
フィレモン「結構。ここへきて自分が誰であるか語れるものは多くない。どうやら君は合格のようだ。
ところで君は自分の中に複数の自分の存在を認識したことはないかね」
シン「複数の自分?」
フィレモン「神のように慈愛に満ちた自分、悪魔のように残酷な自分。人は様々な仮面をつけて生きるもの。
今の君の姿も無数の仮面(ペルソナ)の内の一つに過ぎないのかもしれない」
マユと話す自分、レイ達と話す自分、他人と話す自分、嫌な奴と話す自分、それらが全て違う自分。
まるで自分自身がばらばらの人格の集まりだと言われているみたいで、考えるだけで気分が悪くなってきた。
複数の仮面・・・それを付け替えることでしか生きていけないなら、軸になる自分は一体どこにいるのか。
そんなくだらない疑問まで湧いてきた。
フィレモン「だが、君は自分が誰であるか名乗ることができた。その強い意志に対して敬意と力を送ろう。
ペルソナ、心に潜む神や悪魔の姿をしたもう一人の君を呼び出す力だ」
シン「ペルソナ!? 俺にもあの力が持てるのか!?」
ペルソナ───公子があの化け物を呼び出すときに呟いたのがそんな名前だったはずだ。
心がどうとかいうのはよくわからないけど、その力が俺の考えている通りのものなら、
もうあんな思いはせずに済むかもしれない。
何もできないまま・・・何も守れないまま空しく死んでいくなんて二度とごめんだ。
フィレモンが右手を俺にかざすと、体の中から感じたことのない力が溢れてきた。
心が、いままで感じたことのない充足感と圧倒的な万能感で満ちていく。
これが、ペルソナ・・・。
シン「すごい! これなら、どんなやつが相手でも」
フィレモン「今の君ではもて余すかもしれない強大な力だが、この先必ず役に立つ時が来るだろう。さあ、戻りたまえ。
君があるべき時間と空のもとへ」
シン(そうだ、まだ礼を言って───!?)
口を動かそうとしたところで、俺は強烈な目まいを感じてその場に座り込んだ。
視界がぐるぐるまわって、フィレモンの言葉が聞き取れなくなっていく。
フィレモン「もっとも、その力を──こなす頃には、君は──────かもしれないがね」
元の世界に戻り始めているんだと気づいた時、俺はここへ来た時と同じように意識を失った。
題名未定 第二話「 神話 覚醒 」 後篇
さっきまで会話していた相手がシャドウの剣に貫かれたのを目撃して、岳羽ゆかりは自分でも気付かないうちに悲鳴を上げていた。
同じ“力を持つ”仲間になるかもしれなかった相手の無残な最期。
それは、そのまま自分のたどる末路にも思えた。
ここに来た本当の目的、事故の真実を知ろうという決心、それらが血まみれのシンを目にした瞬間、いっしょくたにで吹き飛んでしまった。
彼女だってシャドウと戦う以上それなりの覚悟は持っているつもりだった。
しかし、覚悟を口で示したところで急に度胸がつくわけではない。
元より、平和な世界に育った女の子がこれほど凄惨な光景をまともに受け止められるはずがなかったのだ。
地面を濡らす大量の血が、串刺しになったままぴくりとも動かないシンが、さらに彼女の恐怖を増大させる。
真っ赤に染まったシンの体が崩れ落ちたのを見届けると、シャドウは次の獲物を確認するかのように仮面をこちらに向けた。
岳羽はようやく見失っていた自分を取り戻したのか、この場から逃れようと必死になって意識のない公子の腕を掴む。
だが、頭でそう考えていても体はすくんでうまく動いてくれない。
湧きあがる吐き気を必死に抑えながら、なんとか出口へ引きずって行こうとするが
先ほどのシンの血なまぐさい光景が頭から離れてくれず、畏怖でがんじがらめに縛られた四肢に力がはいらない。
体の震えが止まらず、涙で視界が滲み、勝手に喉から嗚咽が漏れる。
それでも懸命に公子を抱き寄せる彼女だったが、シャドウの近づいてくるスピードの方がはるかに上だった。
紫「まずいわね。大型シャドウが役目を終えても消滅していない。
入力しておいた自滅プログラムが上書きされたのかしら。なんにせよ、このままにしておくわけにはいかないわね」
萃香「行くのかい? 」
紫「・・・いえ、どうやら間に合ったみたいよ」
岳羽(殺される!)
血に染まった剣が再び振り上げられ、岳羽が反射的に公子をかばった時、それはおきた。
瀕死のはずのシンから突如として強烈な光が発せられ、柱となって空へ延びたのだ。
光の中でシンの体に刺さっていた剣が霞のように消えていき、見るも無残だった傷口がゆっくりと塞がっていく。
それは、公子や岳羽がペルソナに目覚めた時とはまったく異なっていた。
岳羽「なに・・・あれ・・・」
ゆっくりと立ち上がったシンから現れたのは、透明な結晶でも、天使でも、悪魔でもなく、
雲のような霧のような不気味なほどにどす黒い物体だった。
それが、シンの体の周りをまとわりつくようにゆっくりと渦巻いている。
それも、一般的なペルソナのように頭上で悪魔や天使としての形をとろうとはせずに、ただ渦巻き続けているだけだ。
??『我は影・・・真なる汝・・・我は汝らの心の海より出でし者、力を貸そうぞ・・・』
あまりに違いすぎる、ペルソナ能力の暴走かと思えるような名乗り。
召喚器もなく、ペルソナの姿も見えない。
だが、不気味でしかないそれは、しかし、確かに見るものを震わせるほどの威圧感を秘めていた。
その時、二の足を踏んでいたシャドウが動きを見せた。
再びシンを貫こうと、目くらましの魔法を張ってありったけの剣を投擲しながら突っ込んでくる。
だが、シンが何事か呟くと剣は見えない力場にはじき返されシャドウ自身に突き刺さった。
僅かにひるむ様子を見せるが、それでもシャドウは止まらない。
この機を逃せば勝機はないと本能で分かったのか、一気に近距離まで近づき温存していた炎の魔法で
シンを絶え間なく攻め立てて、周辺を数千度の灼熱地獄に変えていく。
が、コンクリートが蒸発していく獄炎の中でもシンは悠然とそこに立っていた。
魔法に対する防御力が桁外れに高いせいで蚊が刺したほどのダメージも通っていないのだ。
やがて、魔力が尽きたのか動きが弱々しくなったシャドウに右の掌を向けると、シンは意思のこもってない声でゆっくりと呟いた。
シン(?)『・・・・メギ・・ドラ・・・オンッ!!』
その異様な魔力の膨らみは、上空で事の推移を見守っていた彼女たちにも介入を余儀なくさせた。
紫「この総量は・・・萃香! 私は彼女たちを避難させるからあなたは!」
萃香「爆発を抑えればいいんだろう。任せておきな!」
言うが早いが、紫は小さな穴のような空間に両手を伸ばし、一気に引き抜く。
その手には屋上にいたはずの『岳羽』と『公子』が抱えられていた。
八雲紫の持つ『境界を操る程度の能力』の能力によって二人を救い出したのだ。
その直後だった。
最初、シャドウの頭上に浮かび上がったそれは灰色の小さな光の球だった。
それが、瞬く間に大きくなったかと思うと眼下にいるシャドウに着弾して一瞬にしてはじけたのだ。
逃げる暇も避ける暇もなかった。
ソドムとゴモラを焼き払った神の雷は、シャドウを飲み込んだだけではあきたらず、膨張しながら寮の屋上全体を塵芥に変えていった。
花壇に植えてあった花も、備え付けられていたベンチも今は閃光の中に消えている。
もう数秒反応が遅れていれば、彼女たちの命も蒸発していただろう。
萃香は、膨張を続ける魔力を『密と疎を操る程度の能力』で懸命に抑え込みながら、この光を作り出したシンの“力”に内心で舌を巻いた。
ここにきて、八雲紫がシンを気にかけていた理由をさとったのだ。
萃香(半端ない威力だねこれは。直撃すれば鬼でも危ないかもしれない)
目覚めたてでこれなら、戦いを積んで成長した時どれほどの“強者”になるのかもはや想像もつかない。
もちろん、戦いがいのある相手が増えるのは“鬼”である萃香にとっては大歓迎だ。
だが、幼いということは同時に不安材料でもある。
何らかのきっかけで彼が壊れてしまったら・・・。
自分の力に溺れて、自分を見失ったら・・・。
人間はもろく、よわい。
そのことを知っているだけに、萃香は素直には喜べなかった。
しばらくして爆発が収まると、紫と萃香は見るも無残な有様になっている屋上へ着地した。
破壊力は全て周辺か上空へ流れたのか地面はまだ残っていたが、穴がそこら中に開いているうえ、
どろどろに溶けてから冷え固まったためにかなりでこぼこになっている。
もっともこれはまともな方で、金属製の手すりなどは蒸発していたし、階段のあったところは丸ごとえぐれて階下が露出していた。
シャドウの姿はもちろんどこにもない。跡形もなく消滅してしまったようだ。
紫は公子と岳羽を地面に下ろすと、気絶して倒れているシンへ歩み寄った。
紫「シン・・・。あなたは一体何を手に入れたというの?」
ペルソナという存在が、使用者の抑圧された人格を制御できるようになったモノである以上、
強すぎるペルソナは精神の抑制を離れて暴走してしまいかねない。
だからこそ、精神の未熟なものが自分の意思より強力なペルソナを得ることは(基本的に)できないし、
フィレモンもそれを理解して最初は弱いペルソナを与えていると聞いていた。
紫たちが、シンが目覚めたあとも必要なら手を貸せるように残っていたのはそのためだ。
(もちろん、シャドウの後始末以外に失敗した場合の治療の意図もあるが)
なのに、シンが手に入れた力は紫の想像を超えるほどに膨大だった。
紫(見た目だけなら初期の『シャドウ喰らい』が一番近い。けど、あれは魔法も使えないできそこないだったはず。
なにより、まともなペルソナが目覚めたてであれだけの魔力を放出できるはずがないわ)
これが魔力や信仰なら無理やりにでも放出してしまえばなんとかなる。
しかし、ペルソナの力は目覚めたら最後、生涯その身から離れることはない。
フィレモンは、何の意図があって最初から強力なペルソナを渡したのか。
この桁外れのペルソナが暴走した場合、はたして自分だけで抑えられるのか。
紫がそんなことを考えていた時だった。
?「くっ、・・・おい、大丈夫か!?」
?「・・・っ、すまない、気絶していたようだ」
むき出しの階下から男と女の会話が聞こえてくる。
岳羽の言っていたこの寮に住むペルソナ使いの先輩たちだろう。
公子たちのペルソナの覚醒を待って加勢するつもりが、紫たちの計画のせいで出鼻をくじかれ、
シンの一撃の余波で吹き飛ばされて気絶していたらしい。
紫(ここで見つかるわけにはいかないわね。どの道、ここから先は彼が目覚めなければ話にならないし、
今夜は退いておきましょうか)
恐らく、これからしばらくはペルソナを解放したショックでシンも公子も意識を失ったままになるはずだ。
今夜ここでできることはもうあるまい。
紫はそう決断を下すと、長居は無用とばかりに萃香を連れて『幻想郷』に帰還しようとした。
紫「帰りましょう、萃香。・・・萃香?」
だが、肝心の萃香の姿はどこにもない。
紫の力がなければ帰れないのだから、それほど酔ってもいない萃香が一人で勝手に出歩くなどありえないはずだ。
まして彼女は人間に愛想をつかせて地下にこもっていった鬼だ。
外の世界に恨みこそあれ、未練などあるわけがない。
紫「シャドウ、シン、フィレモン、萃香、一人としてまともに動いてくれないなんて・・・。
計画の立て直しも含めて今夜は長くなりそうね。」
その後、散々探したもののついに紫は萃香を見つけることができなかった。
それもそのはずだ。
彼女は月光館学園の寮から遠く離れた場所で全く別の戦いに巻き込まれていたのだから。
萃香「・・・あれ? 紫が消えた」
セイン「・・・へ?」
マユ「・・・こど、も?」
萃香「む、子供とは失礼な。最近の人間は年上の相手に対する礼儀も忘れたのかい?」
魔王オセ「・・・くく、くくく、こんなものが我を倒せると。舐められたものだな魔王も」
LV3女教皇アプサラスのカードを入手しました。
to be continued
最終更新:2010年08月10日 01:52