1
「どうしたの?部屋こんなに薄暗くして。それでねシン?夕飯一緒にどう?一人で食堂も味気ないし」
「……うぅ……あぁ…」
「どうしたのっ!?なんで泣いてるの!?!?」
「……昔を思い出して…それで……」
「そう…良かったら聞かせてくれない?誰かに話すだけでも楽になるよ?
私じゃ役不足かもしれないけどね」
勤めて明るく言う、出なければ自分まで泣いてしまいそうだった
目の前にいるのはいまにも崩れて無くなってしまいそうな少年
「ここに来る前を、…思い出して、俺……」
誰に話しかけられたのかもよく分からずに搾り出すようにして声を出す
いまはただ辛い。思い出した。いや、忘れたことなど有りはしない。
けれど今自分はそこにいると、そう錯覚するほどの現実感を伴って、思い出した
「そう……辛いね」
思わず抱きしめた。そうしなければ為らないと、義務感すら伴って
普段明るく快活でちょっと怒りっぽい彼だが、過去は私などよりも遥かに重い
少なくとも自分の家族は健在で、親友はまだ皆生きていて、信じる道は砕けていない
「とうさん、かぁさん、マユ……ステラ……」
掠れた声で家族を呼んだその時唐突に抱きしめらた。「辛いね」一拍置いて
聞こえた声で、ようやく自分がいままで誰と話して、今誰に誰に抱きしめられているか気づいた
柔らかな胸と微かに伝わる彼女の体温。なせか分からないけれど今にも張り裂けそうな心は
不思議と落ち着いていった
「辛かったね、頑張ったね、大丈夫だよ、皆シンに感謝してるよ。
忘れないでくれてありがとうって……」
こんな気休めしか言えない自分が嫌になる。抱きしめて彼の
頭を撫でるしか出来ない自分の無力さに打ちのめされる
知らずに涙が頬伝っていたが、拭うことが出来ずにいまは彼を抱きしめる
「でも!でも……思い出だけじゃ辛すぎます……
慰めになんか為らない……ただ、辛い……」
笑い出したくなるほどの喪失感と悲しみ、泣きたくなるほどの幸福を
思い出して、いまはただ抱かれるに任せた。
「幸せな思い出を哀しく感じてしまったとしたら、それはもっと哀しいことだと思うの
だからね、シン。泣かないで、泣いていたら皆シンにありがとうって言えなくなっちゃうよ」
想像でしかないけれど、気休めかもしれないけれど、いまはそう思いたい
きっと皆彼にありがとうって言いたいはずだ
こんなにも想ってくれてありがとうって
「そう……かな?そう思ってくれてるかな?」
「うん、きっとそうだよ。そうに決まってる。だから…ね?」
自分で言うのも変だけれど、泣きつかれてしまったのだろうか。
なのはさんの体温を感じながら、ゆっくりと意識を手放す
最後にこれだけは言わなきゃ……
「ありがとう…ございます……」
2
優しく抱かれながら目が覚めた。あのまま眠ってしまったらしい。
「ん……おはよう、シン」
「おはよう…ございます……なのは隊長」
声を掛けられて、気恥ずかしさと共に返事をする
胸の中から見上げた彼女の顔は相変わらず優しかった
「顔赤いよ、シン。それよりも早くしないと遅刻するよ、起きて準備してね」
「はい……」
「私は一回着替えてから行くよ、同じ制服だと色々とね。シンもちゃんと着替えてね?」
「え!あ…はい」
本当はまだ一緒に眠って居たかった。胸の中で寝息を立てる彼を抱いていたかった。
そんな欲求を押さえ込んで、彼を離して立ち上がる。顔のことを指摘しながら自分の顔も赤くなっているのを自覚する。
皺の付いた制服は今度クリーニングに出そう。「また後でね」そう声を掛けて部屋からでる
ふぅ…そう一息ついて私は廊下を歩く、同居人にどう言い訳するかを考えようとすると、昨夜を思い出してしまって
考えが纏まらない。オフィスで寝てしまったと苦しい言い訳を通す決心をして、部屋に入ると彼女はもう出た後の
ようで少し安堵した
いまいち仕事に集中出来ない。先日はやてにキスする一歩手前まで行ったのだ。
同じ部屋で仕事をするのは、なんと言うか……
それに昨夜の事もある、大泣きした後で添い寝までしてもらった。また顔が赤くなる。
「シン、どうしたん?さっきから赤くなったりモジモジしたり」
「い、いえ!なんでも無いですよ!さぁ、仕事しましょう!」
「うん、ええ心掛けや。でももうお昼や、一緒に食べようか?」
「えっ、あ……はい。付き合いますよ」
声を掛けられて、考えを読まれたのかと思って動揺した。声を掛けてきた彼女は、若干頬を染めた。
そんな彼女の顔を見て、軽い罪悪感を覚えて昼の誘いに返事をした。
一緒に食事をするのが余程嬉しいのか彼女は笑顔で席に座る。二人掛けの席は埋まって
いたので四人掛けのテーブルに腰掛けて、いざ食べ始めようとすると
訓練を終えたなのはさんとフェイトさんが空いている席に腰掛けた。
「相席いいかな?もう座っちゃってるけどね」
外泊の理由を追求されたけれど、結局苦しい言い訳を通した。フェイトちゃんの事だから
何かおかしいと感じてはいるだろうが一応納得してくれた。午前の訓練を終えてお昼を摂ろうと
食堂へ二人で行き、はやてちゃんと席に座る彼を見て、迷わず相席することを決めた。
「お疲れ様、訓練の方はどうやった?」
「ん?特に問題は無いよ、順調にメニューはこなしてる」
「シン?さっきから落ち着かないけどどうしたの?」
「いえ!どうもしないですよ、やだなぁフェイト隊長」
会話が頭に入って来ない。心臓がバクバクと音を立てる。背中に変な汗が流れる。
声を掛けられた時は思わず声が1オクターブ高くなった気がした
別に二人とも付き合っている訳ではない、けれども今は恐怖が頭を支配する。
落ち着け、大丈夫だ。ここで辺に動揺する方がまずい。必死に言い聞かせていると
「シンパパ~なのはママ~一緒にご飯食べよう!」
「「!!!」」」
よろよろとトレーを持ちながらヴィヴィオが声を掛けてくる。盛大に口に中の物を吹き出しそうになった
スバルがテーブルを寄せてきて、ティアナが彼女の分のトレーを置く。席に着いたティアナの目が怖い
「ヴィオ、なんでシンがパパなん?」
「私も知りたいな」
「そうだね、私も教えて欲しいかな」
落ち着き無く食事をする彼を見て軽い苛立ちを覚える。添い寝を皆に知られるのが怖いのだろう。
二人だけの秘密が皆に知れ渡るのは私も嫌だけれどもうちょっと普通に出来ないのだろうか。
二人だけの秘密……そう考えたら頭に血が上る。そう、二人だけの秘密……
軽く沸騰した頭にヴィオの声が聞こえて、当然のように疑問を持つ。なぜシンをパパと呼ぶのだろうか?
その疑問の答えはスバルが教えてくれた
「いや~昨日ヴィヴィオとお散歩してきたんですよ、部屋に戻ったら誰も居なくて、
探しながら隊舎の中をぐるぐる回るのもあれですから、シンにどこ行ったか聞こうと思ったんですよ。
ノックしても返事が無いので寝たのかなって考えたら、鍵がかかってなかったのかヴィヴィオが部屋に入っちゃたんですよ。
そしたら…」
「シンパパとなのはママがこうやって一緒に寝てたの!ねっ!」
撃墜された時のようなショックが襲って来る。鍵を掛けておかなかった自分が呪わしい。
同時にスバルを筋違いとは分かっていても呪いたい。気の利く人ならそこはお茶を濁すところだ
屈託無く笑い、オッドアイをキラキラさせてヴィヴィオが止めの一言をその愛らしい口から発音する
ご丁寧に抱き合うジェスチャー付きだ、わざとやっているかと疑いたくなる
刺し殺さんばかりの3つの視線を感じて、俺はどう逃げるか、一瞬で思考は脱出ルート弾き出すが
体がすくんで動かない、手足に力が入らない……
「スバル、ヴィヴィオをつれて席を外してくれる?」
フェイト隊長が静かに、けれど反論を許さぬ口調で命じる
「なのはちゃんは当事者なんやから勿論居て貰うで、
外泊の理由をきちんと説明してもらわなあかんしな」
抑えきれないのだろうか、魔力が滲み出だしてきてそれは殺気さえ伴う
他の局員達はすばやく食堂から避難を開始した。
「シン、ちゃんと質問に答えてもらうわよ?いや、違うわね…これは質問ではなく尋問よ
シンにとっては拷問だろうけど」
ティアナはいつの間にかデバイスを展開して、背後からその銃口を突きつけている
「ふぅ、まいっちゃったな……言い訳出来る状況じゃないなぁ……
レイジングハート、お願いね?」
二人だけの秘密はあっけなく露見した。けれど今はそれよりもどうやってこの状況を突破するか?だ
レイジングハートを起動させると私は、シンの後ろの障害を排除するべくアクセルシューターを発射するが
避けられる。訓練の時より動きが格段にいいことに軽い驚きを感じた。
反撃の射撃を打ち落としながらフェイトちゃんの横薙ぎの一閃をかわす。勢い余ったそれは
位置的に対面にいたシンに向かっていった……
魔力弾が頬掠めた時、俺はあの感覚を覚えた。きっと今が生命の危機なのだろう。
瞳は色を失い、視界が広がったように周りの状況が手に取るように分かる、思考がクリアになり澄み渡る。
すくんで動かなかった五体に意思が行き渡る。
目の前に迫る黄金色の鎌すら遅い……一曲歌えそうなほどゆっくりだ。ほら、まだあんなとこにある
「嘘でしょっ!?!?」
思わず口から出てしまう。さっきまで小刻みに震えていた彼が、フェイトちゃんの一撃を避けた。
彼女も信じられない顔をしている。当然だ、さっきまで彼は萎縮していて手足はがくがくと震えていたのだから。
いまの彼の瞳は輝きを無くして、まるで全てを見えていると言わんばかりに余裕の表情だ。
驚愕している私の目と耳にはやてちゃんの姿と詠唱が入ってくる。こんなところで広域魔法を使うつもりなの!
止めたくてもティアナの射撃がうざったい、自分も巻き込まれる可能性を考えていないのだろうか?
アクセルシューターを打つが間に合うかどうかは怪しい、その瞬間、彼が動いた。
遅い、フェイト隊長の一撃を避してはやて隊長を止めに行く。彼女が怪我をしないように配慮しながら突き飛ばす。
変わりに俺がアクセルシューターの射線に入る、回避は間に合わない。
けれど俺はヴィータのギガントシュラーク直撃すら数日入院しただけですんだ男だ!こんな豆鉄砲の直撃など!
脇腹にブチ当たるがそれだけだ。痛みすら心地いい、最高にハイってヤツだ。コーディネイター舐めんなよ!
ヤバイ脳内麻薬をドッバドッバ分泌しながら混乱したティアナの乱射を最低限の動きでかわす
俺はザフトの元トップエースだぜ?碌に狙っていない射撃が当たると思うのか!ってかなんで俺に向かって打ってくるんだ?
次の瞬間、今の俺ですら避けれない速度を持ってグリフィスのハリセンが直撃。いつの間に?ハリセンなんてどこから?
そんな疑問が浮かぶが彼の怒号で吹き飛ぶ。あの感覚は遠いていった。
「止めなさいっ!!あなた達はなにやってるんですか!!いい加減にしてくださいよ!!胃薬の使用量増やさないで下さい!
まったく…騒ぎを聞いて駆けつけてみれば……五人とも付いて来て下さい、そこ!逃げるんじゃない!!仮にも執務官
でしょうがぁ!!」
な・フェ・は「減俸……始末書……修理費の天引き……給料無くなった……」
ティアナ「隊舎の清掃……隅から隅まで鏡のようにって……一人じゃ無理だよ……」
シン「フリーダムより強敵だろ、この始末書の山……アスランに墜された時よりショックだよ、この請求書……」