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酔っ払いのなのは小ネタ-11

機動六課の主任医務官、職員からはシャマル先生と呼ばれるのがいまの私。
主任を拝命する身としては、不謹慎な言い方だけれどあまり忙しくなって欲しくない職場だ。
ここが忙しくなる時はほとんど悪い事が起こったときなのだから。
医務室のデスクで書類整理をしながら、隠れて練習している料理の事を考えていた。
自分では中々に美味しいと思うのだけれど、試食をした部下達は数日青い顔をしながら胃薬を服用していたし
はやてちゃんは「あっ!急ぎの仕事があったんやっ!!悪いけどまた今度な」ばっかりで
シグナムやヴィータは誘う直前には居なくなっている。ザフィーラに至っては匂いすら嗅いでくれない、謎だわ……。

今日作ったお弁当はいままで作った中でもかなりの自信作なのだから、誰かに食べてもらって感想を貰いたいなぁ
なんて思いながら整理を終えた。そして丁度そのタイミングでドアの呼び鈴が鳴る。
入ってきた彼を見て軽く笑いながら迎える。彼は医務室の常連なのだから。

「いらっしゃい、シン君。ふふ、いらっしゃいってのも変だけれどね、
 今日はどうしたのかな?」
六課で働くようになってから彼は三日と置かずにここにやって来る、前線でも無いのに生傷が絶えない子だ。
「昨日スバルと桃鉄を100年までやり切ろうってなって。50年くらいで二人とも寝ちゃったんですよ。
 出勤したらスバルが昨日と同じ服だっ!ってティアナが騒いじゃって……そしたらなぜか模擬戦に参加する
 ことになって……俺、魔力なんて欠片も無いのにですよ?なのはさんもフェイトさんも止めるどころか私も
 今日はやるなんて言い出して。はやて部隊長は「罰や」の一言で終わりですし」

模擬戦をやる羽目になった理由が心底解らないっといった風に彼がため息を付いた。
はやてちゃんの恋が叶うのはまだだいぶ先のようね、そう思っている間も彼がなにか話していた。
模擬戦でなんで俺の時だけスタンドアローンなんだとかエリオやキャロがチームを組んでくれるどころか
二人してフリードリヒで全力で逃げるやがるとか……ちょっと悲惨ね……

ちなみにティアナはなのはにロングレンジでの戦い方の研修と言ってバシバシ打ってきたらしい。
追記。スバルははやてちゃんと特別講習(広域特化の魔導師との戦い方)に変更になったみたい
治療をしながらふと彼に尋ねてみる
「シン君はどんな女の子がタイプなのかな?」

これだけ好かれているのに、誰かと付き合っているとはまったく聞かない。
まさか以前同室で親友の子と…その……そういう関係だったでは?
軍隊ではそう珍しい事では無いとも聞くし…そうよ!はやてちゃんのために聞くのよ!!
「好きなタイプですか?そうだなぁ・・・」

ふむ、っと眉間に皺を寄せて真剣に考える彼を見てちょっとからかってやろうと
「私みたいなおばさんなんかはダメよね?」
意地悪く言って見る、慌てた彼は
「そ、そんな事ないですよ!シャマル先生は綺麗ですし、落ち着いてて安心出来るし。
 その…あの……」

顔を赤くして必死に言い募る彼を見て可愛いなと素直に思う。もうちょっと意地悪してみようかしら?
ふふ、たまには、ねっ?
「そう?お世辞でも嬉しいわ」
「いえ!ホントにそう思ってますよ!お世辞じゃないですよ!!」
「あら、なら私とランチはどう?丁度時間だし。シャマル先生は綺麗って所を詳しく聞きたいわね」

そうよね、たまには可愛い男の子と一緒にお昼を食べるのもいいかな~なんて考える。
ついでに彼の趣味や好物なんかも聞いてはやてちゃんに教えてあげよう、どうやって知ったかは言えないなぁ

ちょっと罪悪感を覚えた時に名案が閃く。そうだ!彼に私の作ったお弁当を試食して貰おう!
そう提案した時、部下達がこっそり部屋から出て行ったような気がした。
この名案にウキウキしながら彼の返答を待つ
「シャマル先生が作ったんですか?でもそれじゃ先生の分が」
「いいのよ、私がいいって言ってるんだから、それに今日のは結構自信作なの
 食べたら後で感想も頂戴ね」

お弁当箱を取り出して、彼に手渡しする。遠慮がちに受け取って彼が
「ありがとうございます、シャマル先生。その……女の人に弁当貰うなんて初めてで」

ちょっと赤くなりながらはにかむ彼を見て私はちょっとドキリとする。
けれどすぐにはやてちゃんの顔を思い出した。大丈夫、私は主を決して裏切ったりはしない。
浮ついた気持ちは霧散し、心の中で自分を窘める。
丁度インターホンが鳴って呼び出された。六課の優秀なヘリパイにしてエリオとシンに
いかがわしい講義を聞かせる愛すべきエロ兄貴、ヴァイスからだった。(一度彼が講義で
使う予定だった教材をシグナムが押収した際中身を見たがすぐに焼却した、彼は泣いていた)

なんでも備品を訓練飛行の帰りについでだからと積んで来たらしい、中身が間違って無いか
積んであるうちに確認して欲しいとのことだった。降ろしてから間違っていて積み直すのは面倒なのだろう。
「シン、そういう事だから私は行くわね。お弁当箱返す時に感想よろしくね」
「はい、了解です。んじゃ自分は行きますんで。診察ありがとうございました」
「ふふ、どういたしまして」

そう言ってヘリポートに向かって歩く。確認ついでにヴァイスが例の教材を密輸していないかもチェックしよう
まった彼はいったいどこから仕入れてくるのだろう、その手の知識がほぼ皆無な私にはまったく謎だ。
まぁ知りたいとも思わないけれど。
30分程でチェック終えて積荷を確認した私は食堂に向かっていた。
(教材は確認出来なかった、ヴァイスが最後にニヤリと笑ったのは気のせいだろう)
すると廊下の向こうからストレッチャーがガラガラと音を立ててやってくる。
シグナムとヴィータがなにか叫んでいるのが聞こえた
「大丈夫かっ!シン!意識を強く持て!」
「おい!おめーが死んだらはやてが悲しむんだよ!むかつくけど生きろよ!」

大急ぎで状況を聞く、なんでシンが倒れたのだろう?それも顔は真っ青で脂汗をダラダラ流し
その顔は苦悶歪んでいる、意識も混濁しているようだ。
「どうしたの!?シグナム、ヴィータ、原因は解る!?!?」
「よくわかんねーんだ、午前の訓練にあぶれてシグナムと見学してたんだ」
「昼時になったので早めだが食堂に向かおうと中庭を通ったらシンが倒れていた。
 何事かと思って近づいたら彼の近くに弁当箱の欠片と食材が落ちていた」
「なんか毒でも盛られたみてーなんだ、余程苦しかったのか相当暴れ回ったみてーでな
 弁当箱はコナゴナで中身はぶちまけられてた」

嫌な汗がたらーりと落ちる、極力動揺を顔に出さないように努める。
確認しなければならないことがある、これだけは聞かなければいけない
「そ、それで犯人は?なにか証拠とかは?」
「いや、シンは一人で居たようだ。残念だが目撃者もいない、独断でストレッチャーを使用した。」
「それに恥ずかしいけどよ、暴れるシンを取り押さえるのに大変でさ
 現場がムチャクチャになったから証拠呼べるようなモンはほとんど無いんだ
 かろうじて弁当箱と思うような欠片と料理らしきなにかがあっただけだ」

そう、良かったわ……じゃなくて今は彼を助けなければ!!医務室に付くと二人を部屋から出す。
解毒薬なんていらない。嘔吐剤をムリヤリ吐かせた後で胃洗浄すれば万事解決だ、なんせ心当たりは山ほどある。
付き添いたがる六課の皆を医師特権で帰らせた。聞かなければいけないことがある。
しかし目を覚ましたシンはこちらが喋る前に話し始めた
「あれ?なんで俺医務室で寝てるんです?おかしいな、模擬戦後の記憶が無いや」

人間はあまりに辛いことがあると記憶を封印するらしい、つまり私の手料理はトラウマ物だという事か。
よし、もっと練習しなければいけない!私はそう固く決意した!!
給料日近いある日、俺はヴァイスさんとエリオと食堂の一角で密談を交わしていた。
「二人に聞こう、軍事施設の近くには必ずある店、なんだかわかるか?」
「店?民間のですか?」
「すいません、正直解りません」

俺とエリオが聞き返す。するとヴァイスさんがニンマリと笑って教えてくれた。
「軍事施設の近くに絶対ある店、それは…キャバクラだっ!!」
「それは!おねーさんの居るお店ですか!?!?」
「綺麗系だったり可愛い系だったりブスがたまに居たりして、お酌してくれたりタバコに火を点けてくれたりする
 お店のことですかっ!?!?」

エリオが自分より詳しかったりすることに驚愕しつつ、ヴァイスさんに聞き返す。
「しっ!声がでかい!いいか?昔っからこういう施設の近くには安い呑み屋ってのが絶対ある。
 そりゃそうだ、危険と隣り合わせで規則に縛れる職業のストレス発散には昔っから酒と女……
 これしかねぇだろ?」

ヴァイスさんに怒られて、ヒソヒソと小声で会議を交わす男三人。
C・Eに居たときは戦争中だった為か、あまりそういった店に興味は無かった。だが言われてみれば
軍事基地の周りには呑み屋が多かった気がする。やはり世界は違えど男の考えることは一緒なのだろう。
社会勉強の一環として、男として、キャバクラは避けて通れない道だ!そうに違いない!!
「で、ここロングアーチといえど例外は無い。俺の綿密な実地調査の結果、この店。その名も……
 ロングビーチがイチオシだっ!」
「「おぉ!!」

明らかなパクリ手前の店の名前だが、この際どうだっていい。大切なのはここがサービス、女の子のレベル、
1セットの料金、どれをとっても一番だということ。ヴァイスさんの身銭を切った実地調査の結果が全てだ。
「今度に給料日、その平日が勝負だ。給料日の週末は込んでて待たされるかもしれん、なにより女の子が
落ち着かずに席をあちこち移動するからな、それから隊舎で飯を食って胃の中になにか入れておけ、
でないと店で即効酔いが回って楽しめなくなるぞ。」

ヴァイスさんの、世間から見ればすっごいどうだっていいマメ知識。だが俺達三人には貴重な情報に
感謝しつつ、次の給料日を待った。
そして給料日、奢れと迫ってくるスバルを華麗にスルーしてこの日を迎えた。
例によって食堂の端で、三人が集まる。
「いよいよ今日だ、いいか?今日お前は大人の階段を一歩登る、言っておくぞ。
 キャバクラは甘い罠だらけだ、嬢に本気になって貢ぐ奴、あくまで疑似恋愛であって
 その場の雰囲気を楽しむだけの奴。お前がどっちに転ぶかは俺には解らん、だが今日っ!
 シン、貴様は間違いなく階段を一歩登る!」
「はいっ!ヴァイスさん、俺は今日高みへと一歩近づきます!」

熱くなる俺とヴァイスさん、いや、最早さんではない。兄貴と呼ばせて貰おう。
固く手を握る俺と兄貴。そこでエリオが問いかけてくる。
「あの~僕もご一緒出来ますよね?」

エリオが不安げにヴァイス兄貴に問い掛ける、だが兄貴はちょっと悲しそうに、だけれど確固たる
決意と共にエリオに非情な決断を言い渡す。
「ダメだ、エリオ。お前を連れては行けない」
「なんでですっ!?納得行きません!!」

抗議するエリオを俺が諭す、彼を、エリオを連れて行けない理由を……
「エリオ、お前の給料の管理は誰がしている?フェイト隊長だろ?お小遣いを一晩で
使う遊びなんてそうそう無い、問い詰められた時に最後までしらばっくれることが出来るか?」
「僕を侮らないで下さい!!」

そうだ、俺もお前がそんなヤワだとは思って無い。
声を荒げるエリオに俺は、言いたく無い言葉を吐く。本当は同志にこんな事を言いたくは無い。
けれど、伝えねば為らない。横ではヴァイスさんが苦虫を噛んだような顔をしていた
「そうだ、エリオ。俺は、俺達はお前がゲロするなんて思って無い。同志だからな」
「だったらなんで!!」
「……年齢だよ、エリオ。お前を連れて行ったら店には入れない」
「っ!!」

絶句するエリオ、その表情を見て俺は悲しくなる。けれどどうしようも無い、彼の見た目では
どう足掻いても年齢確認の前に門前払いだ。(ちなみに俺はC・Eでは成人の為、こちらでも無理矢理
成人登録が成されている)落ち込むエリオにヴァイスさんが、メモリースティックを彼の前に置いた。
「すまんな、連れて行けないお前にしてやれるのは、俺にはこれだけだ」
「これは、なんですか?」
「俺のエロフォルダが火を吹いた結果が入ってる。俺には……これしかしてやれないんだ」

うつむくエリオ、だが顔を上げて言葉を紡ぐ。なにかに耐えるようにしながら。
「ありがとうございます、そうですね、仕方……無いです」
「「すまん」」

俺はこの時誓った。エリオ、お前が成長して成人になった時、俺が奢ってやると。
いま俺は、ヴァイスさんと店の中に居る。楽しく過ごせるはずの店内で俺は油汗を流している。
なぜだ?どうしてだ?なんでこんなにも死を近くに感じなければならない?
思い返してみよう、エリオの見送りの元、俺達は店に着いた。
財布の中身を確認した後で、扉の向こうを想像しながら胸を高まらせた。
そして扉を開いたその瞬間、出迎えたのは
「いらっしゃいませ、ロングビーチへようこそ。私、ボーイの代わりを勤めますシグニャムといいます」

おい、シグニャムってなんだよ?こら?偽名にしたってもうちょっとなんかあるだろ?馬鹿にしんてんのかこら?
そんな事はお構いなしに、固い顔で、刺すような視線でシグナムさんが扉を閉めた。バタン……
固まる俺達の後ろでは唯一の脱出口が閉まる。その音が俺には判事が叩く死刑宣告の
ハンマーのように聞こえた。
ふらふらと席に一人で席に着いた。あれ?ヴァイスさんは?入り口から席に着くわずかな間に兄貴は
姿を消していた。そして聞き慣れた声が聞こえ、隣に座った人を見て、俺は……

「今晩は~、はやみです。今日はよろしゅうね~」
左隣に、どう見てもはやて隊長が座る。ドレスが綺麗だな~あははははは
「どちらからいらっしゃったんですか?あぁ、私フェイト・キャサリンです、よろしくね♪」
右隣にフェイト隊長が座る、だからそのバレバレな偽名はなんだおい!
「やっぱり管理局の人ですか?蘭星っていいます」
正面に座るティアナを確認した、最早なにも言うまい。だがせめてもの反撃を繰り出す。

「隊長達、ティアナ、なにしてんですか?アルバイトだとしてもバレたら問題になりますよ?」
俺の反撃に彼女達はなんなく返してきた。

「ん?隊長って誰のことや?これは管理局の内部情報漏洩の犯人捜査の一環とちゃうで?」
「そうそう、この店が取引の場かもしれないなんてでっち上げて、潜入捜査なんて名目じゃ無いよ♪」
「そうだよ、シン達が食堂の端でコソコソ話していた内容を偶然聞いてなんか無いよ」

やけに説明じみたセリフのおかげで全てを察した。そうか、俺はまったくの道化だ。
視界の隅にシグナムさんがボロボロになったヴァイスさんを引き摺ってカウンターの裏に消えたのを見たとき
俺も覚悟を決めた。あっ!シャマル先生のバーテン姿っていいな。
ヴィータ副隊長は外見的にこの任務からは外されたのだろう。薄暗い店内の端には
用心棒にように人バージョンのザフィーラさんがいて、哀れむように俺を見ていた。

「で、お客様?私、咽喉が湧いたから注文してえぇ?答えは聞かんけど」
「私は小腹が空いたから、フルーツ盛り合わせね♪」
「すいませ~ん、ドンペリと盛り合わせお願いしま~す、ついでにシーバスリーガルをボトルで~」

とんでもない高額な物を注文しようとした三人に、俺は拒否という最後の抵抗を試みる。
だが注文を取りに来た人物を見て、俺はそれが無駄な事だと知った。
「は~い、テーブルのお客様がドンペリとシーバスと盛り合わせなの~。追加で私が指名に入りま~す」

はははははははは、この人まで居たのか。おい、上層部。ティアナはともかく隊長格4人が
潜入捜査っておかしいだろ!作戦許可出したの誰だよ!クロノ提督か!あの野郎かっ!!

「今夜楽しんでいってな、たとえ今月の給料が無くなったとしても」
「シンの奢りで呑めるなんて最高ね♪」
「こんな可愛い子4人に囲まれるなんてシンも幸せね」
「機密漏洩の捜査も今日で終わりなの、杞憂に終わって良かったね、シン」

俺はただ、キャバクラって奴を体験してみたかっただけなんだ。本当にそれだけなんだ。
けれどいま俺は、テーブルに並ぶ色とりどりのボトルと盛り合わせを見ながら、次の給料日までの間
極貧生活を覚悟した。今日は記憶が無くなるまで呑んでやると決意して……

追記。エリオはヴァイスさんの下心が詰まったメモリを再生しようとした所を、キャロに見つかって
    「ふ、不潔よ!エリオ君!!」っとメモリごとフリードリヒに焼かれたようだ。後日、
     お金を貯めて自分用のノートPCを絶対買う!っとまったく懲りていない様子だった。
あの後で店はすぐに出た。あのお店ではなんだか……落ち着かないので、結局店側に作戦の終了を
伝えて後にすることにした。事後処理はシグナム達が買って出てくれた。そして
「私達は気にするな、たまには5人みんなで羽を伸ばして来い。勿論シンの奢りでな」とまで言ってくれた。

近くの居酒屋さんに移動して、5人で大騒ぎして店を追い出された。
ちょっと羽目を外し過ぎたけれど、とても楽しかった。こんなに大騒ぎをしたのはいつ以来だろうか。
改めて彼女達は恋敵であるけれど、大切な友達と部下なのだと思い出させてくれた夜だった。
そして今は私は、酔い潰れたシンを背中に背負って隊舎へとゆっくり歩いている。
酔い潰れたはやてとなのは、ティアナの三人は追い付いたザフィーラ達が背負って隊舎へと戻って行き、
潰れていなかった私は、シンを送って行くと強行に主張してわがままを通した。
たまには、ねっ?

背中に彼の熱い体温を感じる、私の心臓はいつもより多少早めに、そしていつもより強く、鼓動する。
最初は自棄酒だった彼も、途中からは笑ったりグチったりで楽しそうだった。
「俺はシスコンじゃ無い!」と叫ぶシンに「嘘((よっ!))(なの!)(やっ!)]」の一斉ツッコミは可笑しかった。
ふふっと小さく笑った後、後ろの彼に向かって、聞こえていないと解っていながら呟く。
「こっちで世界でも、シンの友達は居るよ」

物思いに耽っていると隊舎のすぐ近くに来ていた。軽い寂しさと覚えると、背中の彼からの呟きが聞こえた。
「んぁ……金髪……レイか?それともステラ?んにゃ……」

あぁ、出会った頃の彼も私の髪を見て、同じ名前を呟いたっけ・・・
まだ彼の心の奥底は、あの頃のままなのだろうか。
私の物思いは過去へと遡って行く。

彼が、シンが六課に配属になった時に思ったのは、疑問だった。
なぜ魔力など欠片も無い彼が、魔導師でもない彼が六課なのか?
それも課長補佐。考えられない人事。まぁ六課自体ははやてが強引に作った部隊だけど。
執務官になって解った。私の周りは、私を含んでかなりの規格外が揃っている。
カリム等の後ろ盾があったとはいえ完成された組織、それも時空管理局という巨大な組織で。
若干19歳、そしてたった10年しか勤めていないはやてが一部隊を設立し、運用するなどありえない。
様々な裏技と腹芸、本音と建前が飛び交ったのだろう。はやては優秀だ、善くも悪くも。

だからこそ疑問だった。なぜ彼が六課なのか?それが知りたくて、彼の過去を調査した。
そして、私は知る。レポートの上で語られる彼のスペック。
訓練生時代の成績、特に近接戦闘における格闘能力とナイフ技術、そしてMSという私の知らない
圧倒的な殺傷力を持った兵器のエース。つまりは彼は殺しのプロ、彼のエースの称号は、なのはと違い
殺戮と血の証だ。
そこまで読んで、一息入れる。なるほど、彼は優秀だ。でもそれは質量兵器全盛の世界、そして殺すことを
厭わない戦争においてだ。管理局、非殺傷設定、なにより魔力。彼の六課入りを拒否する材料には事欠かない。

私はレポートを読み進める、彼の経歴と過去を知るために。
コーディネイター、遺伝子を調整された不自然な人類。戦争という理不尽に奪われた、家族の死。
おそらく彼は、力を求めて軍に入ったのだろう。失わない為に。
エクステンデッド、不自然に強化された、命を無視された兵隊。
吐き気がする。遺伝子調整も、そしてそれに対するテロリズムも、狂気の果ての強化人間も。

平和を望むが故に戦いをする。執務官として様々な世界を見聞きしてきた今は、理解出来なくは無いけれど。
いまだに、納得出来ない。平和の為に銃を取る、それを感情で否定する私は、根っこの部分では甘ちゃんの平和主義者なのだろう。
でも、だからこそ。だからこそ私は、私の想いのために、強い平和主義者でいようとも思っている。

ステラ、エクステンデット。彼が一瞬、心を通わせた敵軍の少女。けれど運命は残酷で、彼はまたも大事な人を
自身の目の前で亡くす。彼を圧倒する力によって。
信頼すべきの上司の裏切りと、戦友の死。そして軍の敗北。彼は三度亡くした。
私は彼と同室の親友について、わずかに記載された事実に驚愕した。
……クローン人間。私と同じ、いや、私と同じ金髪のこの子は、不完全ゆえに、短命。

大まかな彼の経歴を知り、私はすぐに彼と直接会う事を決めた。
六課入りの理由を知る前に、彼に会いたいと思った。こんな悲惨な過去を持ち、クローンを親友と読んだ彼に。

退院した彼は相部屋では無く、急遽使用していなかった小さな空き部屋を個室として与えられていた。
改装はまだで、簡単な鍵とインターホン。そして簡素なベットだけが運び込まれているはず。
「こんな時間になんの用ですか?フェイト執務官殿?」
まるで睨むかのような視線と、噛み付くような彼の物言いに、ちょっとむっとしたが我慢する。
部屋に入り、私は椅子に腰掛けた。たったままの彼にも着席を促す。しばらくの沈黙。
私は意を決して、彼に話しかけた。

「君の、シンの経歴を読んだんだ」
彼の顔に影が差した。私から逸らした目は、私はおろか現在すら見ていない。
その瞳は過ぎ去った過去と、零れ落ちてしまった命をだけを見ていた。
後悔と自責と自嘲をで、哀しい程までに赤い瞳は澄んでいる。
あぁ、これが彼の六課入りの理由か。不思議な直感と確信、そして同情と、憐憫と、助けてあげたいという想いが
私の心に刻まれた。

「無様な過去でしょう?負け続けた過去を笑って下さいよ」
そうしてくれなければ、自分は壊れてしまいますから。
最後にそう言っているように思えた。壊れかけのガラスよりも、今の彼は壊れやすい。
私は想いのままに言葉を続ける。

「笑ったりなんか……出来ないよ。君の過去を否定なんか出来ない。
 同情の言葉も掛けられない、それはきっと、君を壊してしまうから」
言ってから思う。言葉を吐き出してから思う。
情けない!なんと情けないことしか言えないなのだろう。これほど魔力を持ち、若輩ながらエリートととして、
執務官を拝命していながら!!この少年にかけたのはこんな意味の無い一言!!

「だったら何しに来たんです?その金髪を見ていると気分が滅入るんです、用が無いなら退室して頂けると嬉しいのですが」
斬りつけるような声音、髪の色を言われて思い出した。彼の親友は、私と似て非なるクローンの彼は、黄金色の金髪で。
彼の心を通わせた少女も金髪だった。そして私の髪も、黄金色。
元々大した用事があって、訪れた訳では無い。ただ彼に会って見たいと衝動的に来ただけだった。
でも今はこれから話す事実を、彼に伝える為に来たのだと思う。

「あの、私も……レイ君と同じクローンなんだ」
目をこれでもかと見開いた後、苦渋に歪んだ顔をする彼に、私は続ける。
私は短命じゃない、私は天寿をまっとう出来ると。

私は酷い女だ。今にも壊れそうな彼にこんな事を言うのだから。
私の言葉は彼を、亡くしてしまった親友を思い出させている。かさぶたを剥いで、血を流させている。
けれど言ってしまった言葉は帰らない。そして、あまりにも我が儘だが思ってしまった。
私という人間をどう見てくれるか?クローンである私を彼を受け入れてくれるのだろうか?

「なんで……そんなこと、……俺に言うんだよ。なんでだよ?自分はクローンだなんて……
 しかも、レイとは違うなんて……」
あぁ、やっぱりは私は残酷な女だ。壊れそうな彼の心に、さらなる衝撃を与えているのだから。
そんな自分勝手な自分を受け入れて欲しいと思っているのだから。
只の人として、そして彼の親友のように、私を想って欲しいと願っているのだから。

「そんな……でも、やっぱり俺は…」
すでに敬語では無くなっているが気にならなかった。そんなものは最初から気にしていないのだから。
躊躇したのか、彼が言葉を言いずらそうに区切る。祈るように言葉を待つ。

「クローンでも、あんたがクローンで……不完全じゃなくても……それでも。
 やっぱり俺はあんたを、人間だと思います。あんたを否定したら、レイを否定することになる……」
安堵する私の心、そんな醜い私を私は責める。彼はそんな私を見て、言葉を続ける。

「それに、あんたの金髪見てると、思い出すんだ。……ステラのことも。
 約束を守れなかった、ステラの事を。でもいつか!あんたを見て、ステラじゃなくてあんたを。
 フェイト……隊長を、そのまま隊長を見れたらって。思います……」
悲しいのか、恥ずかしいのか、よく解らない表情で。最後のほうはほとんど呟くように。
でも確かに私に聞こえた、私に届いた。
今は私を見て、私の後ろに親友と、大切な彼女を見ていると。
だけれどいつか、私を私として。フェイト・T・ハラオウンを見てくれると!!

なんだろう?この気持ちは?クローンである私を受け入れてくれた喜び、それは確かにある。
けれど今この胸にある想いは?私の後ろに今は過去見ているという彼、それに対する哀しみと
私の後ろに居る、彼と彼女に対する僅かな嫉妬。
早く彼を哀しみから、救ってあげたいという想いと。そうする事で私を私として見て欲しいという想い。
彼の澄んだ目を、壊れそうな赤い瞳に射すくめられて。私は彼に、この瞬間、恋をした。
「んが、へっぶし!!むにゃ……」
背中で盛大にくしゃみが聞こえた。髪の毛が鼻に入ったのかな?
私は過去から現在へと戻って来る。背中の彼がモゾモゾと動いて、さっきまで頬は背中にだったのに、
肩に顔を乗せている。呼吸が耳元を流れて、首筋を伝う。体がゾクっ!と反応する。
誰にだって、不意に首筋に息を吹きかけられれば、同じ反応をする。でも今は、それだけじゃなかった気がする。
はは、こんな生理反応すらも、曲解するのだから恋は怖くて、甘美だ。

むにゃむにゃと呟く彼が、まだこの金髪を見て、過去を呟くのはまだ彼が私の後ろに、過去を見ているからなのだろう。
そう思うと哀しくて、切なくて、やり切れなくて……


「ん、また金髪……フェイトか。あったかくて気持ちいいな……」
え?今、なんて?
確かに聞こえたけれど!けれどもう一度言って欲しい!
この髪の色を見て、彼は。シンは、フェイトって……呟いてくれた。
嬉しい!いつもの仏頂面で「フェイト隊長」と呼ぶのではなく、フェイトって……

顔がほころぶ、ついにやけてしまう。体がふにゃふにゃと弛緩する。
けれどはやてを彼が、勤務時間外は呼び捨てで呼び、キスの一歩手前まで行ったのは知っている。
(なんせ妨害したのだから、結果彼は嫉妬したヴィータのギガント・シュラーク直撃を受けた。)
追記。数日入院しただけで蘇ってきた。
   えぇい!ザフトのエースは化け物かっ!! ヴィータ談

いま彼は私の背中で眠っている。なのはが過去を思い出して泣き崩れた時、一緒に居て、一緒に眠ったのも知っている。
(次の日、事の発覚後、食堂で一戦やらかした)
追記。私の斬撃を軽く避して、アクセルシューターの直撃を意に介さず、ティアナの近距離弾幕を全て回避した。
   ザフトのエースは伊達じゃない!! byシン

私だって……
そこまで考えて背中に、彼を背負って無い事に気づいた。思わず彼を落としてしまった!
酔い潰れていたのだ、まともに受身など取れるはずも無く、地面に後頭部を打ち付けた彼は目を回している。
しまった!と思うと同時に、私は閃いた!!


私の部屋の鍵を壊れた事にして、シンの部屋で一緒に寝ればいいんじゃね?
そう考えた時、私の心臓は破けそうなくらい早鐘を打ち鳴らした。
二つ名の通りは私は電光石火での勢いで、バックからキーを取り出し地面に叩きつけて、踏みつけた。
ドガッ!!あっけないほど簡単にキーは壊れる、勢い余って地面に足が軽くめり込んでいる。

隊舎について彼の部屋へ、キーは背負い直す時に抜いて置いた。ロックを解除。
シングルベットを確認、彼を降ろして、泥が付いた服を脱がす。
服の下からよく鍛えられた筋肉と、少年らしい滑らかな肌が目に入って来た。
着替えさせるだけよ、そう、本当にそれだけ!妙に心臓が煩いのも気のせい!
し、しし下着も……その、いやダメだ。恥ずかしすぎる……

自分の服も脱ぎ捨てる。背中と肩の部分は彼がだらしなく寝ていたおかげで、よだれが付いているのだから仕方ない
そうよ、仕方ないのよ、やましい気持ちはこれっぽっちも無い!
彼は目覚めていないけれど、見られているような気がして恥ずかしい。彼のTシャツが椅子に掛けられているのを発見。
いそいそと着込んで、私はニヤニヤしてしまった。
傍から見れば私は変質者だろう。半裸で顔は真っ赤、ちょっと危ない感じでニヤついているのだ。
けれど仕方ない、これは正しい反応だ。

ちょっと狭いシングルベットで、彼と一緒に眠る。ほとんど彼と密着している、布団の中で呼吸を感じた。
ちょっと卑怯かも知れないけれど、今私は彼と、同じベットで寝ている。
無防備に顔を弛緩させている寝顔が、すぐ目の前にある。寝言でもいいから私を呼んでくれないかな?
ドキドキして寝れないかと思ったけれど、そんな事を考えていたら、いつしか私も眠りに落ちていった。



次に日の朝
「頭いてぇ……いつ帰ってきたんだろ?覚えてないや……ん?誰だ…ろ、ってフェイトたいちょぉぉぉぉぉぉ!!」
なんだこの状況?さっぱり解らない?なぜ?どうして?まさか…俺、その、アウト?
いや待て!俺にはそんな記憶は無いぞ、うん、無い。セーフだ。
本当に?昨夜は浴びるほど呑んだ。酔った勢いでって事も無いとは言い切れない……
この頭痛は決して二日酔いのだけじゃない。とりあえず彼女を起こして事情を。
ってなんで俺のTシャツ着てんの!下着見えてるじゃん!!鼻血が…じゃなくてアウト!?!?
昼過ぎに六課に戻って来ると、いきなりバインドされロビーに転がされて、囲まれた。
フェイト隊長が起きて、昨夜の事情を皆に話したらしい。(自分の鍵を故意に破壊した事は彼女のみ知る)
あぁ、俺、セーフだったんだ……

「でも六課を騒がした罰や、次の給料は50%カットや」
「私の心を傷つけたお詫びに、どっか奢ってね。一回と云わずに何度でも♪拒否したら、解ってるよね?」
「シン、いまから自主訓練付き合ってね?大丈夫、ただの的でいいから」

酒は飲んでも飲まれるな、正に金言だな。次からは気を付けよう、もっとも次があればだけど……


おまけ  寝る前編
「はっ恥ずかしいけど、ふ、ふふふ二人共…はだ…裸で……ぶっ!」
「ダメだわ、そんな事したら出血多量で死んでしまう」

おまけ  目が覚めてから編
「皆して勘違いしてるみたい、けどこのままなら都合がいいかな♪」
「もうちょっとこのままでもいいかも……」
「でもやっぱり、誤解じゃなくて…ちゃんとシンに好きになって貰わなきゃ…ダメだよね
 皆に説明して来ようかな、勿体無いけど。はやてとなのは怒るだろうな、でもあの二人には言われたくないし。
 バルディッシュ、戦闘待機ね。相手は六課よ」
隣でうんうんと煩い、目が覚めて青い顔をした彼と目が合う。
聞きずらそうに彼が問い掛けてきた。
「あの、フェイト隊長?その…俺……セーフ?アウト?」

寝起きのだからだろうか、質問の意味がよく解らない。だから思いついた言葉を言った。
「(寝心地が)よかったよ、シン」

そうですか…アウトですか……それならちゃんと記憶して置きたかった……じゃなくて!
やっぱり責任取らなきゃな、酔った勢いとはいえアウトなのだから。
結婚かぁ、まさかこの歳で結婚するとは思わなかったなぁ。やっぱり共働きじゃなくてフェイト隊長には
家庭に入って欲しいな、俺の稼ぎだけじゃ不安だろうけど、やっぱり男として頑張ろう。
子供は何人くらいがいいかな、そーいやキャロとエリオの親父にもなるのか。やっぱり庭付きの家がいいかなぁ
あっ!職場にはなんて話そう。扶養手当でんのかな。


なにか盛大に勘違いしているみたい。一瞬顔が引きつった後で、ブツブツとなにか呟いているし。
責任がどうとか専業主婦がなんとかかんとか……
まぁいいや、とにかく今は寝ていたい。もうちょっとだけ、彼と一緒に。
そして私の眠そうな視線に気づいた彼は、決意の表情で話し始めると同時に、スバルがヴィヴィオを連れて
勢い良く入ってきた

「フェイト隊長、俺!頑張りますから!!」
「おっはよ~!シン、朝だぞ、おき……ろぉ~」
「シンパパ~朝のお散歩行こう~」
スバル、なんて間の悪い子…

床に置かれた、二人の服。同じベットでパンツ一枚の俺と下着とTシャツだけの隊長……
ははははは、もうね、なんかね、あれだよね?いや、あれって意味わかんないけどさ。もうちょっとこう。
心構えとかさ、皆に伝えるのに準備ってのあるじゃん?
スバルはヴィヴィオに見ちゃダメ!なんてやってるし。おいおい、廊下で大声出すなよ。しかも宣伝してるし……
フェイトさんは?あぁ寝てるね。もういいや

この事は昼前には六課全員の知ることになり、はやて隊長からはボコられ、なのはさんからボコられ、医務室行ったらシャマル先生は居留守だし。
ザフィーラの噛み付き攻撃から逃げ回ってたら、ティアナから打たれるし……
ヴァイスさんは昨夜シグナム副隊長にボコられていない。エリオとキャロは目に涙を浮かべて、熱い握手と祝福された。
シグナム副隊長とヴィータ副隊長から逃げる俺を助けてくれたのは、クロノ提督だった。そしてリンディ総務統括官の前にそのまま連れて行かれて
「「泣かしたら殺すから」」という大変ありがたい言葉を直々に賜り、冷や汗が止まらないし……


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最終更新:2010年11月09日 13:29
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