1
- 秋の行楽、俺は並み居る女性陣からの誘いをブッチ切ってキャロとエリオ、ヴィヴィオとヴァイスさんと来ている。
どこのどんな山かって?その辺りは皆の思い描く、紅葉の山で補完して置いてくれ。
さてと、到着してからは普通に楽しんだ。エリオとキャロが初々しく遊び、ヴィヴィオと俺は
落ち葉を集めては散らしたり。ヴァイスさんはそれを見て優しく微笑んで、そんな彼の手伝いを
皆でしたり……
「お~いお前らぁ~!肉も焼けたしご飯も炊けたぞ!戻ってこ~い!!」
ヴァイスさんの声が響く、それを聞いてはぁ~いっと元気な返事が返ってきた。
うん、こんな時間も悪くない。そうだとも、秋は決して物悲しい季節なんかじゃないさ。
おっと、飲み物でも出すか。
クーラーボックスを空けると、小さいお弁当箱が入っている。中身は玉子焼き、それに結構立派で美味しそうだ。
簡易テーブルに置いて、俺は一番に箸を伸ばした。
「なんや!あのほのぼの家族空間は。入って行きたいけど、軽々しく入って行けへん空気や」
「でも、お母さん役がいないよね……本来なら私はママって呼ばれてる立場なのに……」
「同年代じゃダメって言う事ですか?でもまだ息子の彼女って立場が残ってますよ」
「皆、頭冷やそうか?それにママのポジションだと、シンのママになっちゃうって解ってるの?」
「ん?あのお弁当箱は私の家のやないか」
「知ってるの?(ピー)ちゃん?」
「そういえば朝(ピー)が、ピクニックに行くゆう話聞いてお弁当作っとたなぁ」
「げぇ!それって地雷もいいところじゃないですか!!」
「またシンは入院かな。でも私の足なら止められる!行くよ!バ○ディ○ュ」←目にも留まらぬ速度でダッシュ
「ちょっと(ピー)ちゃん!ちゃっかりあの空間に混ざりに行くつもりなの!」←と言いつつ自分もダッシュ
「私ん家のお弁当箱という、証拠を隠滅せなあかん!身内から暗殺者をだすワケにはいかんからな!」←物騒な事を言いつつダッシュ
「乗り遅れちゃったね?ティ○」
「なんであんたいるのよ!あっちに行ってよ!!」
「そんな7話みたいな剣幕で言われても行かないよ、私だってあそこに混ざりたいし(意訳。シンと一緒に居たいし)」
「キャー!シンさんが卵焼きを口にした途端に倒れた!!」
「落ち着くんだキャロ!素数を数えるんだ、まずは1!!」
「エリオ、まずはお前が落ち着け。1は素数じゃない」
「シンパパぁ~必ず戻るって言ったじゃない!!」
- 563:酔っ払い
◇otMjeU4QDY:2007/10/02(火) 18:54:55 HOST:gk-039.leo-net.jp
- 「ヴィヴィオも落ち着くんだ、それにまだそのセリフを言うには胸が圧倒的に足りなアベシッ!!」←ヴィヴィオ奇跡の飛び膝
「あぁ、向こうからフェイトさんが!!」
「その後ろにははやてさんとなのはさんも!!でも顔こわっ!!」
俺はこの行楽を楽しんでいたんだ。けれど卵焼きを食べた途端に細胞が悲鳴を上げたんだ。
どこかで食べた記憶のある毒物と、同類の気がしたが記憶に無い。思い出そうとすると余計に頭が痛くなる。
一体これはなんの罰なんだ?いやいや、そもそも罰ってなんだ?俺は一番波風立たない人選チョイスをしたつもりなんだぜ?
自問自答の末に、うっすらと目を開けると、ティアナと目が合った。
なんだ、ティアナの膝枕か……
目が合った彼女の顔から火が吹いた気がした。ボンッ!って効果音さえ聞こえそうだな、なんて痛む頭で悠長に考えた。
「か、勘違いしないでよね!スバルとの自主錬でたまたま通りがかっただけなんだからね!!」
ふ~ん、そっか……まぁいいや、でもそんなに恥ずかしがるなよ。俺まで赤くなっちまうじゃねぇか……
「なんか全部持っていかれた気分やわ」←モグモグ
「でもシン、今回は結構早くに目が覚めたね」←モグモg(ry
「耐性が着いたってところじゃない?ほら、彼コーディネイターだし」←モグm(ry
「僕はコーディネイターって凄いってよりシンさんが凄い気がします」←モg(ry
「でもティアナさん良かったですねぇ~」←(ry
「ティア……まさしく漁夫の利だったね。あっ、お肉まだですか?」←(r
「漁夫の利ってなにぃ~?」←(
「それはな、争っている人達と一緒なって争ったりせずに、結果だけを手に出来たってことさ。
それからなんで俺が、焼くばっかりで食えないんだよ!!」
「「「あ゛っ?」」」
「いやぁ~なんかそんあポジションじゃないですか。はははははは」
楽しそうな(?)会話を聞いていて、こんなピクニックもいいかもしれないな、なんて考えた。もう大分気分は回復したけど、
赤くなってるティアナをもうちょっと見ているのも、良いかも知れない。そんな風に考えたら、ちょっと気分が良くなった気がした。
そう、もう俺は哀しいだけで、紅葉の山を見ることは無いだろう。今この瞬間、俺は大切な足跡を踏んだのだから……
――でもそんな様子を見られていたなんて、その時は考えもしなかった。
- 皆さん視点 膝枕でお互い赤い顔。しかも満更じゃなさそう。シンは 膝 枕 が幸せそうに微笑んだ。
後日彼の惨状は語れない……
-
2
- 仕事を終えて、オフィスから外を見る。なんだ、もう真っ暗だな。
秋の日はつるべ落としとは良く言ったものだ。つい先ほど日が落ちかけたと思ったら、
もう外は夜の闇だ。それでもちょっと頑張りすぎたかな。時計の針は、九時を回っている。
手伝うと言ってくれた上司の言葉を固辞して、一人で残務を片付けていた。
手伝ってくれると言った気持ちは有り難いが、これは俺の仕事だ。普段はそうは見えないが
上司達の仕事は早い。なんのことは無い、比べて俺の仕事が遅いだけだ。だから手伝って貰うのは違う気がした。
ん~っと背伸びをして、窓を開けた。空調が効いていて快適なオフィスだが、窓を開けて入ってきた空気は、
空調によってもたらされる人工の快適さと違い、少し肌寒いが澱んだ空気を流す快適さがあった。
夜空を見上げて、星が目に入る。
「ちょっと走るか……」
うん、そうしよう。こんなに星が綺麗に見えて、月明かりが綺麗で、風が緩やかに流れる晩だ。
そうと決めると、デスクを乱雑に片付けて、部屋の明かりを落とす。ロッカールームで着替えを手早く済ませると、
当直に仕事の終了を告げて、ヘルメットを手に駐車場へ向かう。
愛機は無機質な蛍光灯に照らされて、バイク用のスペースで静かに佇んでいる。
キーを差込み、オンへと捻る。カチっと音がするとインジケータランプが一瞬淡く光り、各部に電気走る。
愛機のキャブレータが早くエアを吸わせろと急き立てて来る気がした。全身にオイルの血液を巡らせろ、マフラーから
咆哮を叫ばせろ、さぁ早く!俺はお前を何処へでも連れていってやる。
スタータに瞬間的に大電流が流れ、キュルッっと聞こえると、エンジンに火が入る。
低く唸る愛機の全身に、熱とオイルが行き渡るまでアイドルを続けながら、コイツを買う経緯を思い出した。
俺がバイクを買うと言った時、皆からは辞めろと言われた。理由は簡単だ、危険。その一言に尽きる。
けれど車を公務で運転して分かった事は、とにかく車ってのは渋滞して、快適だがどこか閉塞感が付きまとう。
それにバイクなら渋滞は無いし、維持費は安い。購入費は簡単だ、勇気と判子と仕事を続ける覚悟さえあればバイクは買える。
購入が決定すると、それまでの反対意見は何処やらで、これがいい、あれがカッコいい、どれはダメだのとカタログと睨めっこ
する俺よりも熱心に見ている皆が面白かった。反対が強硬手段にまで発展しなかったのは今でも少し不思議だ。
(裏でヴァイスが「バイクならシンにしがみ付いてもおk」エリオが「タンデムなら二人っきり確定」との入れ知恵していた)
最初はスーパースポーツを買うつもりだった。けれど、はやて隊長の
「ローン会社からの調査電話に、そんな人は在籍してません言うたろうかな~」
の一言で諦めた。その他あ~だこ~だすったもんだの末にコイツを買った。
(スーパースポーツはタンデムし辛いとの理由から女性陣は反対。これは口にせずに誤魔化した。
スク-ターは嫌だと言うシンの主張との折り合いの果てに、ビックネイキッドで落ち着いた裏事情有り)
- まぁ色々と揉めたけれど、今はコイツを気に入っている。毎月の給料から少なくない金額を投資して、
ちょこちょことイジっているのが楽しい。そして、コイツは手を抜かない限り決して裏切らない。
「もういいだろ」
暖機運転にしては随分と長く、ぼっとしていたようだ。シートに座わろうとすると後ろから声を掛けられた。
振り向いた先には、ティアナが真新しいメットを持って、ちょっと怒ったような表情で立っていた。
「ティアナか、驚かせるなよ。」
そう言うと、一瞬ムっとした顔をした後で、手を後ろにやりながら返してきた。
オフィスに残る朴念仁のことをぼ~っと考えながら、隊舎を後にした。残業の手伝いは早々に断られて、幾分沈んだ気持ちで部屋に戻った。
同居人は訓練の疲れからか、ベットでうつらうつらと船を漕いでいる。まったく、窓も開けっ放しで……
さっさとシャワーでも浴びて、このクサクサ気分を洗い流そう。相方に軽くそう告げてシャワールームに向かった。
汗で張り付くシャツを引き剥がし、下着を脱ぐ。
体を洗いシャワーを浴びながら、自分の体に触れてみる。髪はちゃんと綺麗にすればサラサラだし、胸だってそこそこには
あると思うし形だって悪くない。くびれは綺麗なラインでしっかりとカーブを描き、ヒップは垂れることなく持ち上がり
肌は年頃らしく瑞々しい。顔は愛嬌には欠けるかもしれないが、それなりに整っていると自分では思う。
「一人でなにやってんだろ」
そう言って、体に付着した泡と汚れと一緒に、自分の考えを流した。まったく……
触って欲しいとは思うけど、やっぱり触って欲しく無い。けれども抱かれるよりは、抱きしめたい。
誰に?あいつに。
あいつって?彼に。
彼って?――シンに……。
なら求めればいいじゃない?それは嫌!。
嫌いなの?嫌いじゃない。
ならどうして?――そんなの分からない……
細切れの思考は中空を漂って、自問自答はシャワールームに入って来た同僚の声で中断された。
誘ってくれなかったと愚痴る相方に、適当に返事をしながらシャワールームを出た。
肌に弾かれて煌めく水滴をタオルでふき取り、溜息を一つついて洗濯したシャツの袖に手を入れる。
どうせ部屋には自分と相方の彼女しかいないのだし、寝る時まで下着は着けていたくは無い。
部屋に戻って、ひた隠している箱をベットの下から引っ張り出した。
中身は買ったはいいものの、使う予定の無いヘルメット。
シンと同じカラーで、同じタイプのヘルメットを手にとって見つめていると、自分が馬鹿みたいな気分になった。
――後ろに乗せてよ
それが言えない。それを知りながらも買ってしまった。彼の後ろに乗って、背中に頬を寄せて、
シンの腰に手を回して……
自分が相方ほど気さくな性格ならどんなに良かったろう?仏頂面の彼に、冗談っぽく笑いながら
乗せてとせがむことも、私には出来ない。どうして出来ないかは自分でも分からない。けれども一つ、奇妙に納得
しているのが、これが私なんだってこと。
ヘルメットを箱に仕舞おうとした時、開いていた窓から一瞬の咆哮と、唸るようなアイドリングが微かに聞こえた。
シャワーの余熱のせいだろう、私は急いでジャケットを羽織り、下着の上からパンツに足を通して外出の準備を整え、
ヘルメットを片手に排気音のする方へと駆け出していた。
- 暖機運転を終えたところだったのか、シンがバイクに跨った姿が目に入る。
本当は走ったせいで、本当にそう、走ったせいで乱れてる呼吸を隠しながら声を掛けた。
「ねぇシン。後ろに乗せてよ……」
ちょっと驚いた顔で振り返ったシンが、安堵したように
「ティアナか、驚かせるなよ」
まったく……この男はいつになったら自分をティアと呼んでくれるのだろう?
まぁそう呼んでくれなんて、口が裂けても言わないけれどね。
けれどやっぱり、ティアって呼んで欲しい。まったくこの朴念仁め、複雑な乙女心を察しなさいよ。
私が理不尽な思考に及んでいるなどと露ほども思っていない彼は、ちょっと考えて
「でもさ、まだこのコイツにしてからは誰も乗せてないんだ。慣れないからだいぶゆっくりになるぞ?」
えっと、つまりはOKってこと?私が始めてってワケ??
彼は後ろに乗せるのを嫌がる。六課なら誰だって知っている。理由は簡単、自分のミスで誰かを悲しませたくない。
自分のミスで誰かが死んでしまうのは嫌だからと言って憚らない。だからだろう、上司でライバルである人達が彼に
強く要望しないのは。だから今回も断られると思ってた、そうしたら後ろ手に隠したヘルメットに
気づかれないようしながら、あまり言いたくない文句吐いて、はい、おしまい。
そう思っていたんだから、この返事は私の予想の斜め上どころが直角に曲がるカーブのように予想外だった。
ぽか~んとする私にシンが、ちょっと怒ったように言って来た。
「なにボケっとしてんだよ?乗せてって言ったのはそっちだろ。ヘルメットも持ってるし、ほら、乗れよ」
ちょっと顔を赤くして、ハンドルに手を掛けた状態で促がしてくる。
私も顔がシャワーのせいで、そう、シャワーのせいで赤いのを感じながら後ろに乗る。
彼の腰に手を回して、背中に頬を寄せる。シンの背中は暖かくて、私の頬はさらに暖かくなる。
エンジンが不満げに唸りながら、緩やかに回転数を上げて、私とシンを夜の帳へと運んで行った。
- 3
- 「ねぇシン。後ろに乗せてよ……」
そう言ってきたティアナに、軽く言葉を返して、お願いを断ろうと思った。
バイクの後ろは、前の人より遥かに危険度が上だ。自分がヘタクソだとは思わないけれど
万が一、そう、万が一転倒したら?そう考えたら後ろに人は乗せられない。
俺のせいで誰かが傷つくなんて、もうゴメンだ。
だから断ろうと思った。ティアナに目を向けると、後ろ手にこっそりと真新しいヘルメットが見えた。
ちょっと可笑しくなった。そうだな、たまには後ろに誰かを乗せて走るのも悪くない。
それに今日はこんなにもいい夜だ、大気を切り裂いて走るのも悪くないけれど、風を感じてトコトコ走るのも
悪くない。だから返事をしたんだ、後ろに乗れよ、って。
驚いた顔をして固まるティアナを急かして、俺はゆっくりとアクセルを開ける。
クラッチを繋いで、そろそろと駐車場を出て表に出ると、家路を急いでいるのだろうか、少しペースの速い車のテールランプが揺らめいている。
俺はたまに行く山にある小さな公園を目指すことにした。
背中が熱い、それ以上に顔が熱い。後ろのティアナの体温を上着越しに感じて、なぜだか胸がどきどきする。
火照った体を冷ますように、秋の少し肌寒い風が当たる。コーナーでゆっくりと車体をバンクさせて、立ち上がる。
愛機は発進前の獰猛な要求と、打って変わって、今は俺の穏やかな要求に優しく答えてくれている。
まったく……今日はいい夜だ。優しく答えてくる愛機と、肌に感じる優しい風。背中に感じる温もりと微かな呼吸。
腰に回された手は、しっかりと俺を抱きしめて離さない。心臓がいつもよりちょっとだけ早いのを、後ろのティアナに
聞かれないように、アクセルを開けて排気音を大きくする。少し図太い音をマフラーから吐き出して加速する。
さらに力が篭った手が、ちょっと恥ずかしくて、どこか嬉しくて。
街灯に照らされた道を俺とティアナを乗せて、無機質な相棒はからかう様にエキゾーストノートで歌っていた。
「よっと、到着だぜ」
猫の額の様に小さな公園に着いて、ティアナを促す。ヘルメットを取り払った時に、彼女の長い髪が少し踊った。
ぼうっ光る自販機の光をバックに、小さな街灯と月明かりに照らされて、ティアナ自慢のオレンジの髪がキラキラと揺れ、
出発前と同じようにちょとむくれた顔で、俺を見る。あぁ、少し寒かったな。自販機に向かいながら尋ねる。
「暖かいコーヒーでも飲むか?それとも甘い紅茶でも?」
少し意地悪く聞く。意地っ張りな彼女は俺と同じブラックコーヒーを要求。本当に飲めるのかって思いながら、手渡した。
風呂上りにだったらしく、夜風は少し寒かったみたいだ。渡された缶コーヒーを啜る様子を見ながら、俺も缶のプルトップを
起こして、熱い中身を口にする。下の上に心地いい苦味が広がるのを楽しみながら、サイドスタンドを立てた愛機に軽く腰掛けた。
チンッチンッと音を立てるエンジンと、下の方から僅かに聞こえてくる車の音と、囁く様な虫の声が
俺とティアナが啜るコーヒーの音に混じって心地いい。この小さな公園に似つかわしい小さなベンチに、彼女は
腰掛けて、いい夜ねって呟いた。軽く頷いて肯定の意思を示す。
お互いにちょっと沈黙した後で、ティアナが昔話を始めた。俺は噛み締めるように話す彼女の様子を見て、黙って
最後まで聞くことにした。どうだい?ちょっとは空気が読めるようになっただろ?もう居ない親友に呟いて、今度こそ
俺は本当に黙った。
- シンの腰にしっかりとしがみ付いて、優しく走る彼の背中と、流れる景色を見ながら私は恥ずかしさと
嬉しさを感じていた。自分で走らせるそれとは違い、彼の走らせるそれはいつもと違った心地よさだった。
風呂上りで火照った体を、冷たい風が撫でる。飛んで行く暖かさを補充するように、さらにシンの背中に抱きつくと、
少し煩い心臓の音が聞こえてきた、たぶん私の心臓もいつもより少し煩い。
気恥ずかしさを誤魔化す様に、シンがアクセルを開けた。あっ、誤魔化したな。
確信めいたこの発想は、さらに私の鼓動を早くする。上がったスピードに呼応して、私はシンの腰に回した手に力を込めた。
「よっと、到着だぜ」
そう言って着いた所は、本当に小さな公園。
降りた途端に身震いする、思ったより冷えてしまったかな。そんな私を見て、彼が自販機へと向かい、
ちょっと意地悪そうに聞いてきた。暖かいコーヒーがいい?それとも甘い紅茶でも?
馬鹿にして!私だってコーヒーくらい飲めるわよ。だから私は問いかけにこう答えた。
「気が利くわね?コーヒーお願い、シンと同じブラックで」
缶コーヒー手渡した彼の顔は、本当に飲めるのか?って書いてあった。
まったく……良くも悪くも素直な奴だ。そう思いながら熱いコーヒーを飲む。
やっぱり苦いわね、これ。あまり歓迎出来ない味だが、バイクに腰掛けて旨そうに飲むシンを見て、
少しだけこの苦い缶コーヒーを、美味しいと私は思った。
今夜はとても良い夜だわ、こんなに月と星が綺麗な晩は、少しだけ私を感傷的にしてくれる。
だからシンが覚えてるかは分からない、忘れてしまっているかもしれない昔話をする気になった。
――ねぇ、覚えてる?あんたが私に言ったこと。
シンが六課に入ってきて、最初のうちは酷い顔だったあんたが、少しづつ元気になっていったくらいの時。
私のダガーモードで訓練をしているのを、たまたま通りがかったあんたが難癖つけてきたのよね。
なんだそれ、まるでなっちゃいないな。ナイフを使って遊んでんのかと思ったよ
はっきり言って頭に来たわよ、それもめちゃくちゃ。
自分でもダガーモードを使いこなしているとは、思ってなかったけどさ。
そんな風に言われたのは初めてで、しかも言うだけ言ってさっさと行こうとするんだから。
そこまで言うなら、あんたは私よりナイフが使えるって言うの!
そう叫んだ私に、ゆっくり振り返ったあんたは、ぞっとするような目をしながらこう返したわ。
――当たり前だろ?お前よりよっぽど上手く殺せるよ
正直なところちょっと怖かった。けれどそんなあんたに反発した私はなのはさんにお願いして、
模擬戦をやらせてくれって頼んだけど、許可されなくて。そんな事はお構いなしにスタスタ行っちゃうし。
訓練後も苛立ちが収まらなかった私は、夕食前にあんたに声掛けわね、私と勝負しろって。
面倒臭そうに断るあんたに、私がこう言ったの覚えてる?なんだ、あんたみたいな腰抜けがエースだなんて
お笑いだわ、そりゃ負けるでしょうよ、この分じゃ仲間もどうせ大した事ないわねって。
激怒したあんたと私を見ながら、オロオロするスバルに、誰にも言うなって口止めして、
中庭に移動。私はクロスミラージュをダガーモードにして構えて、シンはこっちに来たときに、パイロットスーツ
と一緒に流された、刃引きしたナイフを構えたわ。次の瞬間、いきなり私の懐に潜り込んで、ナイフで手首を叩いたわね。
いきなりで訳が分からなくて、痛さでクロスミラージュを落として、あって思ったら地面に叩きつけられて喉に
ナイフを突きつけられたわ。はい、俺の勝ち。そう言ってつまんなそうに立ち上がって、帰ろうとするし。
いきなりなんて卑怯よ!って叫ぶ私にシンは、戦場でよーいドンなんてあるかバカ、それにナイフが刃引きしてなかったら
お前死んでるよ。そう言ってまたスタスタ行っちゃった。
でも納得行かなかった私は、その日だけじゃなくて、次の日も、その次の日も、何度も何度もシンと勝負したわね。
結構意地っ張りなのよ私は。シンも結構意地っ張りで、一向に負けを認めない私に、負けを認めさせようと意地になってたじゃない?
なによ、自分はそんなんじゃないって顔して。あんた、結構強情じゃない。まぁいいわ、続けましょ。
- そしてあの晩。こんな風に綺麗な夜の晩に、初めて私はシンに勝ったじゃない?
それまでよーいドンで始めてたのに、その時は一番最初と同じ様に不意討ちしてきた。
あぁ大丈夫よ、いまさら責めてる訳ないじゃないから。
そして私がそれにきっちり反応して、シンのナイフを弾いて、ビックリした顔のシンを投げ飛ばして、
地面に叩きつけて首筋に、クロスミラージュを突きつけた……
最初の時と正反対の結果になって、嬉しかったわ。ただ純粋にシンに勝てたことが。
ブスっするシンを見て、私は珍しく素直になって謝ったじゃない?だってこんなにも強いシンと、
シンの仲間の事をあんなにも侮辱した私は、なんて卑怯者なんだろうって思ったから。
そして仏頂面のままで、私に気にしてないよって言うシンは、本当は優しい子なんだって思った。
言ってて私も恥ずかしいんだから!なに赤くなってんのよ!!
ま、まぁいいわ。それでシンが聞いてきたじゃない?
今でも覚えてる、忘れるわけが無い。
「あんたのナイフは、まだまだ下手糞だけど、性格なのか真っ直ぐだな。
でも、俺と同じだ。もういない誰かに縛られて、死んでしまった人の為に強さを求めてる」
頭を殴られたみたいなショックだったわ。だから知りたかった、なぜ死んだ兄の為に、大好きだった兄の
思いと夢の為に、強くなろうと思った私と、シンがなぜ一緒なのかって……
ちょっと考えて、言い難そうにミッドに来る前のことを、ポツポツと話してくれたよね。
聞き終わった後で、私はなのはさんのクロスファイアを貰った時より強烈にショックだった。
(私とどこか似ている理由で、強さを求めて、挫けてしまっても、それでも優しいシン。
それからかな、それまでとは違う目で見るようになったのは……気がついたら思考と目線はシンばっかり
追っていた。……でもこれは言わないよ)
あぁ~あ、なぁ~につまんない昔話してるんだろ私。もういいわ、これでお終い。
付き合ってくれてありがと、さぁ帰りましょ。
そこまで言って、私は急に恥ずかしくなって、話を打ち切った。
暖かかったコーヒーはすっかりぬるくなり、一気に飲み干してゴミ箱に投げ入れる。
なんで急に、こんな昔話をしたんだろう?たぶん、こんな気持ちの良い夜のせいだ。
やっぱりムスっとした顔で、だけどちょっぴり赤い顔でバイクのエンジンを掛ける彼
を見ながら、こんな事を言うのも、この気持ち良い夜のせいにして、ちょっとだけ素直になろう。
――ねぇ、今度からティアナじゃなくて、ティアって呼んでね。じゃなきゃ怒るわよ
目を白黒させている彼に構わず、私はヘルメットを被って素早く後ろに乗る。
行きよりも強く抱きしめながら、まだオロオロとする彼に喝を入れると、バイクはゆっくりと
走り出す。スピードは行きと変わらないけれど、なぜだか速く感じる帰りの道で、私は彼に要求する。
そうよね、こんな夜だもの、だから今夜はこんな事も言える。
――ねぇ、シン。もっとゆっくり走ってよ……
返事の変わりに、ギアが一段落ちてスピードが少し遅くなる。宵闇の道路を淡い街灯と、バイクのヘッドライトが照らす。
コーナーをゆっくり曲がるって、ちょっと見上げるとそこには本当に綺麗な月と星。
なぜだか満ち足りた気分になって、私はこんな時間がずっと続けばいいのにって思った。
- ティアナの昔話を聞きながら、なんで急にこんな話をするんだろうって思ってた。
でもそれを聞くのは間違いのように思った。
そうだ、こんな夜だ。いつもとは違う気分になっても仕方ない。
俺だって、いつも乗せない後部シートに彼女を乗せる気分になったのだから……
聞いている最中に、なぜだか恥ずかしくなって、話し終えて空き缶を捨てにゴミ箱へと向かう
彼女を見ながら、愛機に火を入れる。規則正しくアイドルするエンジン音に紛れてティアナの声が聞こえた。
ねぇ、今度からティアナじゃなくて、ティアって呼んでね。じゃなきゃ怒るわよ
驚いた、それもド級に。口をパクパクする俺を彼女が急かす。
まだちょっと、混乱する頭で、滑るように道路へと走り出す。赤くなった顔を見られたくないから、
早々にヘルメットのシールドを下ろした。
腰に回された手と、背中から流れてくる体温を心地良いと感じながら、来る時と同じ様に愛機を走らせる。
まるでダンスする様にコーナーを抜けて、俺と愛機と彼女で、帰りの道を優しく走る。
ねぇ、シン。もっとゆっくり走ってよ
そう背中から声が聞こえた。なんだ、彼女も同じか。もうちょっとこの時間を過ごしていたい気持ちは。
だから俺はギアを一段落として、アクセルを緩めた……
隊舎の駐車場に着いてバイクを止め、サイドスタンド掛けているとティアナが話掛けてきた。
「シン、今日はありがと。楽しかったよ」
軽く笑いながら、そりゃどうもって返すと、ティアナが悪戯を思いついたようにニンマリと笑いながら
「実はね、お風呂上がりに急いで支度したって言ったじゃない?だから、いま下着着けて無いんだ」
思わず吹き出した俺に構わず彼女は、約束忘れるないでねと捨て台詞を残して、隊舎へと吸い込まれていった。
まったく、やれやれだぜ……約束した覚えは無いんだがな。まぁいいか……
そう思ってポリポリを頭を掻く。後ろでガシャーンと音がすると愛機はブッ倒れていた。
げぇ!カッコ悪い悲鳴を上げて急いで立て直す。そういえばスタンド掛ける時に、衝撃発言を聞いて動転してた。
それでスタンドの掛け方が甘かったのだろう。自重に耐え切れずに倒れた愛機のハンドルは歪み、レバーは無残に折れ飛びんで、
サイドカバーには傷が付いていた。
マジかよ、今月ヤバイってのに……こんなことならもっと、背中の感触を楽しんで置けば……じゃなくてっ!!
部品代どうしよ、ヴァイスさんにでも借りるか……柔らかかったなぁ~ティアナの……っておいっ!!
うん、今日はもう寝よう。
次の日の朝
はやて「シン?バイク傷ついとったけどどうしたん?」
なのは「まさか転んだの!?!?」
フェイト「えっ!シン転んだの!?怪我は無い!?」
シン「いやぁ~恥ずかしいんですけどちょっと立ちゴケしちゃいました」
はやて「なんやそうか、怪我無くてよかったわぁ~」
なのは「そうだよ~心配させちゃダメだよ」
シン「はい、すいませんでした」
フェイト「まぁシンに怪我無くて良かったね」
ティアナ「お早う御座います!」
なのは「おはよう、ティアナ」
シン「あっと……その、おはよう、ティ……ティア……」
ティアナ「あっ!うん……おはよ、シン……その、昨日はありがと。また今度ね」←走り去る
…………シーン……
はやて「ほな、シン君?」
なのは「ちょっとお散歩しようか?昨日の夜に何があったか聞きたいし」
フェイト「逃げられないよ、逃がすつもりも無いから」
その後の彼は皆さんの想像にお任せします……
最終更新:2010年11月09日 13:31