＜ある日の風景～やよいおり編～＞

＜ある日の風景～やよいおり編～＞
　――公園にて
シン　「ん？　二人ともこんなとこで何してるんだ？」
やよい「あ、シンさん。おはようございまーす！」
伊織　「……はぁ」
シン　「不機嫌そうだな、どうしたんだ？」
伊織　「どうしたもこうしたもないわよ。デビューしたはいいけどあのバカPは美希とか春香にかかりっきりでろくに
　　　　顔も合わせられないし、律子もCランクに上がってからは代理でプロデューサーやることもほとんどなくなっ
　　　　たし、アンタはアンタでただのマネージャーだから何の役にも立ちやしないし……」
シン　「(ムカッ)あのなぁ、俺だってプロデューサーや律子さん並に忙しいんだよ。今日だって千早の付き添いで
　　　　ラジオのトークでなんとか納得するように打ち合わせしなきゃならなかったし、最近じゃ仕事先で自信なく
　　　　した雪歩が床に穴掘ろうとするのをなんとか抑えたり、真をいつものファンからまた守らなきゃならなかった
　　　　し……orz」
やよい「あの、大丈夫ですか？」
シン　「……なんとかな。もう少しで心が折れそうだけど」
伊織　「あ～もう！　うるさいうるさいうるさい！　そんなことどうだっていいのよ！　これじゃいつまで経っても
　　　　Eランク止まりじゃない！」
シン　「俺に文句言うな！　だいたいそんな態度で仕事なんて回ってくるわけがないだろ！」
伊織　「なによ！」
シン　「なんだよ！」
やよい「ふ、ふたりともケンカしちゃダメですよ～」
伊織　「――――はぁ、そうよね。アンタといがみあってもどうにかなるわけでもないし」
シン　「――――そうだな、これ以上なんかあったら俺の身体が持たなくなる」

伊織　「でも、やよいだってグチの一つも出るでしょ？　こんなに放置されっぱなしなんだから」
やよい「えっと、あたしはみんなが元気ならそれでいいかな～って」
シン　「やよいはえらいなぁ(なでなで)」
やよい「あ……うう～、なんか恥ずかしいです」
伊織　「(ムカッ)ふん、もういいわよ！　こうなったらあんなプロダクションなんてこっちからやめてやるんだから！」
シン　「おいおい、勝手すぎだろそんなの」
伊織　「だって悔しいじゃない！　気付いたらみんな先に行っちゃって！　律子まであんなにステージで拍手
　　　　なんかもらって！　これじゃ私たち置いてけぼりじゃないのよ！」
やよい「伊織ちゃん……」
伊織　「こんなの、こんなのちっとも楽しくなんかないんだから！」
シン　「……あのな、伊織」
伊織　「なによ！　アンタまで私に説教する気！？　プロデューサーに小鳥に社長まで同じこと言って！」
シン　「『チャンスは必ずやってくるから今は待つしかない』、だろ？」
伊織　「え……？　な、なんでそれアンタが知ってるのよ？」
シン　「俺もプロデューサーたちに直談判したからな。そこで言われたんだよ」
やよい「シンさんが、ですか？」
シン　「まぁ、なんだ、やよいはいつも仕事やレッスン以外のとこでもがんばってるし、普段ははまともにレッスンも
　　　　しない奴まで夜中に誰もいなくなった頃に一人でレッスン場にこもってたのを見たし……」
伊織　「なっ！？　わ、私は知らないわよ！？　この私がそんな地味なことするわけないじゃない！」
シン　「……誰も伊織のことなんて言ってないだろ」
伊織　「あ、う……」

シン　「まぁとにかく、それで言われたんだよ。『今の時期は入れ替わりが激しいからもう少し機会を窺ったほうが
　　　　いい』ってさ」
やよい「もう少し、ですか」
伊織　「だから！　そのもう少しってどれくらいなのよ！？」
シン　「俺にそこまで分かるわけないだろ……」
伊織　「あぁもう！　少し見直したと思ったらすぐこれなんだから！」
シン　「え？」
伊織　「～～～！？　なんでもない！　なんでもないわよ！」
やよい「でもでも、がんばったらあたしたちも春香さんや千早さんたちみたいになれるってことですよね？」
シン　「その二人みたいってまではどうかとは思うけど……まぁ、俺が見た感じなら大丈夫だと思うぞ」
やよい「うっう～！　だったらあたしもーっとがんばりますっ！　伊織ちゃんもいっしょにがんばろ？」
伊織　「う、またアンタはそんな強引に……」
やよい「元気のよさだけが取り得だから！　ごまえーです！」
シン　「ははは……伊織の負けだな」
伊織　「う～～～！　うるさいうるさいうるさ～い！」

　――とぉるるるるる……

シン　「ん？　プロデューサーからか」
伊織　「……なによその着信音」
シン　「(ピッ)はい……えぇ、事務所に戻るとこでしたけど。は？　何がちょうどよかっ……はぁ！？」
やよい「？」
伊織　「？」
シン　「いきなりそんなこと言われても……しかも今の仕事はそのまま！？　なんでそんな重要なことを今さ
　　　　ら……『またやっちゃったZE☆』じゃないですよ！　いい加減殴りますよ！？　あぁもうわかりましたよ！
　　　　やればいいんだろやれば！　いつか覚えてろ！(ブチッ)」
やよい「あの、どうかしたんですか？」
シン　「……あー、その、なんだ」
伊織　「なによ、ハッキリ言いなさいよ」
シン　「…………二人とも、次のオーディションが決まったぞ」
二人　『えぇっ！？』
シン　「『踊っていいとも？』のデュオでって……代理で俺がつくことで決まったらしい」
伊織　「はぁ！？　なんでよりにもよってアンタがPの代理なのよ！？」
シン　「知るか！　俺だって今初めて聞いて驚いてるってのに！」
やよい「ふ、ふたりとも落ち着いてください～」
伊織　「――――とにかく、もう決まったんならやるしかないわね」
シン　「――――そうだな、でもなんで俺は今やってる仕事も一緒にやらなきゃならないんだよ……」
やよい「あの、えっと……そうだ！　みんなで『あれ』やりましょうっ！　きっと元気になれますっ！」
シン　「『あれ』か……まぁ気合は入るかもな」
伊織　「仕方ないわね……今日だけ『あれ』に付き合ってあげるわ」
やよい「うっうー！　それじゃあみんなで手を挙げて……ハイ、ターッチ！　いぇい！」

　――その後、日ごろの積み重ねが功を奏したのかやよいと伊織はオーディションを制し、番組出演も見事に
成功させ、事務所で仲間たちに祝福された。
　ちなみにその頃シンは事務所の仮眠室で「無理、もう無理……」と呻いていた。