<四条貴音の華麗なる?一日~女王とパンダ~>
「さてと……どこにいるかな?」
大型デパートの屋上にて、シンはあたりをぐるっと見渡した。
視界を埋め尽くす黒山の人だかり、その大半が親子連れなのはこの場所が小規模の遊園地のようになっている
ことを考えれば当然というものだろう。
そんな場所に何故シンがいるのか?
――もうライブは終わってるはずだから、どこかにはいるんだろうけど……
そう……つい先ほどまでこの屋上に設置された大型ステージで、961プロダクション所属のアイドルユニット
『プロジェクト・フェアリー』のメンバーである四条貴音の単独ライブが行われていたのだ。
都心に程近い大型店舗とはいえこのような場所でライブを行っているあたり、961プロも地道な活動による
ファンの獲得を続けているようだ。そして固定ファンもかなりの数であることは、この場にいるもう半数の人々
がライブの限定グッズらしきものを持っていることからも窺えた。
――っていうかこんなに人がいる場所で待ち合わせっておかしいだろ普通。裏方とかで合流とかでもよかった
んじゃ……
などと考えていると、探していた少女が突然目の前に現れた。
「…………」
見つけた。見つけたはいいが……かける言葉が見つからなかった。
白磁のような肌に眩いほどの銀髪、日本人離れした端正な顔立ちはクォーターではあるが北欧の血を色濃く
受け継いでいることがこれ以上はないほどよく現れていた。
ライブも終わったのだから当然ではあるのだが、同世代の少女たちからは羨まれるであろう美しいボディライ
ンを清楚な私服に包んでいる。
――誰もが目を奪われていた。あまりにも現実離れした容姿もそうだが、そんな少女が『くたびれたパンダの
乗り物』に乗っているという冗談のような光景に。
――あれは……なんだろう?
脳が頑なに理解を拒む。だがいくら否定したところで現実は現実である。観念したようにシンは貴音におそる
おそる近づく。
「――何してるんだ? こんなところで」
「シン・アスカ……遅かったのですね」
「うん、それは謝る。それは謝るけど何をしてるか教えてくれ」
キリっとした顔が向けられるが、いかんせん乗っているものが乗っているものである。凛々しい振る舞いが
余計にシュールさを醸し出している感すらあった。
「ライブも滞りなく終わらせることができたのでこの場で貴方を待つことにしたのですが、この不思議な置物が
少々気になったもので」
「置物……?」
「はい。それにしてはこの背にある鞍や取っ手が妙だったので、もしやこれは人を乗せることによって完成する
ものなのではないか、と考えたのです」
「それで、乗ったのか?」
はい、と答える貴音の表情はやはり真剣そのものだった。
――……どうしろと?
変人揃いの765プロに所属するシンではあったが、それに匹敵するほどこの貴音の行動は対応に困るものだっ
た。本来ならこのまま次のライブ会場――雪歩、伊織、そして亜美が既に準備を進めているであろう場所まで
連れて行かなければならないのだが、何やら腑に落ちない様子の貴音はその場から動くつもりはないらしい。
「……えーっとな、とりあえずそれは乗り物だぞ?」
「乗り物? このようなものがですか?」
「あぁ。ここに金を入れてな」
パンダの頭にある穴――考えようによってはかなりエグイ位置にあるなぁと思いつつ――にシンは硬貨を
入れると、貴音を乗せたパンダは軋みをあげて波に揺られるように動き始めた。
「っ!? これは……!」
そんなに意外だったのか、揺れるパンダの上で貴音は驚愕の表情を浮かべて絶句していた。しばらくそのまま
揺られていたが、やがて何やら厳しい視線をシンに向けてきた。
「な、何?」
「このような物の怪を使役する……シン・アスカ、貴方は妖の類だったのですね」
「酷くないかそれ!?」
ともあれ納得はできたようで、貴音は動き続けるパンダから危なげなく降り立った。
「では参りましょうか。案内を頼みますよ、シン・アスカ」
「……うん、まぁいいけどさ」
釈然としないものを感じながらもシンは凛とした背中を追いかける。海が割れるように貴音が歩く先から人が
道を空けていくのを見て小さくため息をついた。
――ひょっとしてウチ以上にやりにくいんじゃないか? 961プロのアイドルって……
響はともかく、美希に関しては言わずもがなである。そしてこのいったいどこの姫様なのかと言いたくなるほ
どの振る舞いを見せる貴音……『銀色の女王』と呼ばれる由縁も分かるというものだ。
そして、
「……またか」
「どうしたのですか? 兵は迅速を尊ぶという言葉もあります。お急ぎなさい」
「へーい」
……割れた人波から向けられる無数の視線に刺し貫かれながら、シンは真のマネージャーをしていた頃を思い
出してほんの少しだけ冷や汗をかいていた。
――この中に、刃物とか持った奴が4人以上いませんように。
そんなことを願いつつ、文句を言われない程度の距離を保ちつつ貴音の後ろについて行った。