<ある日の風景~眼鏡でおさげで事務員兼任~>
律子 「――はい、ではそれでお願いします。それでは」
シン 「律子さん、ライブの会場確保できました」
律子 「はいはい、どれどれ?……うん、いいとこじゃない。でも私の固定ファン層考えるとちょっと広すぎる
気もするわねぇ」
シン 「そうですか? 俺は満員までいけると思うんですけど」
律子 「う~ん、そろそろ人気低迷の危険も出てきたし……ちょっとね」
シン 「もっと自信持ってくださいよ。少なくとも律子さんが思っているより俺は絶対にいけるって思ってます
けど」
律子 (…………出たわね)
シン 「な、なんですかその目は!?」
律子 「いえ別に。私のフラグ立ては難しいわよってことだけは言っておくけど」
シン 「いや意味がわかんないんですけど!?」
律子 「――ふふっ」
シン 「? なんですかいきなり笑い出して」
律子 「ちょっとね。初めて会ったときのこと思い出して」
シン 「初めてって、あのときですか……」
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シン 「え~っと、こっちが今日中に済ませなくちゃいけないもので、こっちが週明けまでに……」
――バサバサっ!
シン 「うわっ、しまっ……あぁクソッ! どれがどれだっけ? 小鳥さん今日はいないしどうしりゃいいんだよ……」
律子 「――はぁ、そそっかしいわねぇこの新人さんは」
シン 「え?」
律子 「まだ仕事に慣れてないなら急ぎのものだけに集中しなさい。まぁ、それ以前にもっと周りに気を付ける
ことを身に付けるべきだと思うけど」
シン 「なんだよいきなり……っていうか、誰だよアンタは?」
律子 「秋月律子。この事務所のアイドル候補生兼マネージャー見習いよ。そ れ と、私はここの先輩で18、
君は後輩で16、目上の人への礼儀はちゃんとわきまえなさい」
シン 「はぁ……」
律子 「返事はしっかり!」
シン 「はい!」
律子 「よろしい。さて、それじゃこのごちゃごちゃになった書類を片付けますか」
シン 「俺がやりますよ。自分の失敗は自分で……」
律子 「意地張らない。今日中に片付けなきゃいけないのもあるんでしょ? 新人が無茶してミスでもされたら
こっちが迷惑になるんだから」
シン (――いちいち言い方がキツイな)
律子 「それと、小鳥さんがいないときは私がみっちり教育するように頼まれてるから覚悟してなさい」
シン 「……了解、であります」
律子 「う~ん、今度は堅すぎるねぇ。ま、すぐに身につくものでもないからこれからじっくり教えていくしか
ないか。何はともあれ、これからよろしくね」
シン (小鳥さんと違って厳しそうな人だな……)
律子 「あ、それともう一つ」
シン 「?」
律子 「私はガードが堅い方だから、ラッキースケベは期待しないようにってことだけは今のうちに言っておくわね」
シン 「――小鳥さん、アンタって人はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
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シン 「まさか初めて顔合わせてすぐにあんなこと言われるとは思いませんでしたよ」
律子 「初顔合わせだからこそよ。あのときはまるでダメダメな新人だったわね~我らがマネージャー殿も。
本当に鍛え甲斐が合ったわ」
シン 「そういえば小鳥さん事務仕事の基礎以外ほとんど教えてくれなかったですね。そういう意味じゃ俺って
律子さんと一番付き合い長いんですよね」
律子 「またそういうことをさらっと……まぁいいけど」
シン 「あれ? なんかおかしいこと言いました? 律子さんがアイドルになったときも俺ついてましたし」
律子 「あ、あのことは忘れなさい!」
シン 「え? あぁ、確かあのとき……」
律子 「だから忘れなさい!」
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律子 「まさか、本当に私がアイドルとして活動することになるなんて」
シン 「俺が来たときからそう決ってたって聞きましたけど、違うんですか?」
律子 「だって……私以外にもアイドル候補生はいっぱいいるのに」
シン 「そこまで知りませんよ、プロデューサーに聞いてみたらいいんじゃないですか?」
律子 「そうね。でも、まずは目の前の壁を乗り越えないといけないわ」
シン 「作曲家の人に挨拶するだけなんですからそんなに緊張しなくても……」
律子 「き、緊張なんかしてないわよ! さぁ、あれがレコード会社よ。早く行きましょう」
――ウィーン
律子 「あ、あれっ? なんでいきなり視界が真っ白に……まさか火事!?」
シン 「お、落ち着け、じゃない落ち着いてください律子さん! 眼鏡が曇っただけですから!」
律子 「えっ!? あっ、そっか。建物の中と外の気温差で……」
シン 「まったく、らしくないですよ? 眼鏡のレンズは俺が拭きますからその間に深呼吸でもしてください」
律子 「う、うぅ~」
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シン 「あのときは本当にいつもの律子さんからは考えられないくらいあたふたしてましたね」
律子 「だから思い出さないでって言ったのに……あの日のことは私の人生の中でも指折りものの失敗だったわ」
シン 「別にいいんじゃないですか? 仕事に影響が出るようなものでもなかったわけですし。それに誰だって
あんなですよ最初は。他のみんなも大体似たような感じで戸惑ってましたし」
律子 「あんまり慰めにはなってないけど……まぁ一応お礼は言っておくわね」
シン 「どうも。それで、結局会場はどうするんです?」
律子 「そうね……今さらキャンセルするのも気が引けるし、それにシンがそこまで太鼓判を押してくれるなら
やってみるのもいいかもしれないわね」
シン 「わかりました。それじゃ、早速宣伝に行ってきます」
律子 「HPの方は私がやっておくわ。やるからには?」
シン 「全力で」
律子 「よろしい。では、いっちょ張り切っていきますか!」
――そうしてライブ当日。屋外ステージは客席を埋め尽くさんばかりの律子ファンが放つ熱によって真夏の
ように熱い一夜となった。
シン 「ほら、俺の言ったとおりだったじゃないですか」
律子 「生意気言わないの、この日のために私もみんなも頑張ってきたんだから。でも……ありがとね」
シン 「はい?」
律子 「なんでもない。さてと、事務所に戻ったら反省会よ。もちろん付き合うわよね?」
シン 「はいはい、わかりました」
律子 「返事はちゃんとする!」
シン 「はーい」