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<時空を越えて.2~協力~part B>

<時空を越えて.2~協力~part B>

「――レイ? 俺だけど」

 備え付けのインターホンを押して部屋の中にいるはずのレイに呼びかける。
 講義の最中ということもあり、宿舎は水を打ったような静けさに包まれていた。時刻で言えば昼間であるはず
なのに、まるで知らない場所に迷い込んでしまったような錯覚に陥る。
 そんな不安を抱いていると、何の前触れもなく扉のロックが外された。

「……入って、いいのか?」

 確認してみるが返事はない。首をかしげながらもゆっくりと扉を開ける。
 ……部屋の中は真っ暗だった。電灯は落とされ、窓から差し込んでくるはずの光すら遮断されている。
 まるで時間から切り離されたかのように、部屋の中は闇が溜まっていた。

「レイ?」

 顔を覗かせてみるが暗闇に目が慣れず奥まで見えない。なんとか隅々まで見渡そうと前へ乗り出したところで、

「ぐぁっ!?」

 突然横から突き飛ばされ、ベッドへと倒れこむ。身体を起こそうとするがそのときには背中に何かが乗りかか
り、そのまま組み伏せられた。

「なんっ!?」

 叫ぼうとしたところで頭の上に柔らかい何か――クッションか枕だろうおそらく――を押し当てられ、その
向こう側でガチリと音が鳴るのを感じた。
 ――拳銃。
 耳が、それが撃鉄を上げる音であるということを覚えていた。

「お前は何者だ?」

 冷たい声が降ってくる。いつも抑揚がないと思っていたが、さらに感情を感じさせない語り方。

「レイ、か」
「質問に答えろ。何故お前がメンデルのことを知っている? 誰からその話を聞いた?」

 やはり、このことはそうそう漏れるようなことではないらしい。自分の身を危険に晒す結果にはなったが、
この反応はむしろ良い傾向だ。
 少なくとも、ただ自分の話を一笑に伏せることはでいなくなったということなのだから。

「……お前からだよ」
「ふざけるな」
「嘘じゃない。今から1年……とちょっと後のお前から聞いたんだ」

 組み伏せられている体勢のせいでレイの様子を知ることができない。この沈黙が何を意味するのかも分からな
いのは正直なところ心臓に悪い。
 数十秒か、数分か……時間の感覚が分からなくなるほどの間を置いて、さらに銃口が押しつけられた。
「こちらを混乱させるつもりか?」
「違う」
「ならば本当のことだけを言え」
「嘘なんか言ってない」
「……腕や足を撃ってもいいんだぞ」
「本当だって言ってるだろ!」

 取りつく島もないレイの言い方に耐え切れなくなってついに叫んでしまった。
 だがもう止まらない。限界だった。こんな突拍子もない話とはいえ信じてもらえないということがたまらなく
嫌だった。

「あぁ……あぁわかったよ! 何が知りたい? ザフトの次期主力機か? 新型機か? 新造艦か? なんで
もいいさ! 議長に確認を取ったっていい! それで信じてもらえるならなんだって話すさ!」

 ありったけの感情を乗せた言葉だった。
 信じるにはあまりにも稚拙な言葉の数々、仮に撃ち殺されたとしても文句は言えないだろう。
 だが耐えられなかった。我慢ができなかった。
 結局、自分はまだどうしようもなくガキなんだと実感するしかなかった。

「――――」

 沈黙が辛かった。笑われた方がまだマシだったとすら思う。
 だが、それを破った一言は、

「――ならば答えてみろ。俺はいつまで生きられる?」

 熱くなった頭を冷めるには皮肉なほどに効いたものだった。

「それ、は……」

 躊躇っている余裕などない、信用を得るには言うしかないだろう。
 何を?
 あの世界でのレイの最期を?

「くっ……!」

 言えるはずが、ない。
 それだけは絶対に。

「……フン」

 一瞬覚悟を決めかけたが、押しつけられていたクッションがどけられたのを察して思わず銃のことも忘れて
無防備にレイの方を振り向いていた。

「レイ?」
「勘違いするな。まずは話せ、すべてはそれからだ」

 鈍く輝く銃口を向けられてはいたが、ともあれようやく話すチャンスが出来たことにほっと息をついた。



 ――時刻は、正午を少し回った頃だった。
 両手に缶コーヒーを持ちながら食堂を見渡す。
 ……いた。大きなテーブルに一人だけ腰を掛けている。
 眼前に組んだ両手に額を押し付ける形で俯いており、心なしかぐったりしているようにも見える。
 背中から滲み出るオーラは他者を一切寄せ付けないほどに澱んでおり、遠目からちらちらと様子を窺っている
のは一人や二人ではなかった。
 小さく溜息をついて、堂々とその対面の椅子に座る。何故か周囲の緊張が一層増した気がした。

「……なぁ、いい加減元気出せって」
「うるさい。よりによってお前がそれを言うか」

 辛辣にそう言い返しつつレイの顔が上がる。いつも通りの無表情だが、その眼に力はなかった。
 あれから自分の知る限りのこと――とはいえ、遠い未来の話や関係がないと思うものは避けたが――を話した
のだが、ザクやインパルスのことなどすぐに確認を取れるようなものでもなくレイを混乱させただけだった。
 それでもかろうじて信じてもらえたのは、レイが飲んでいた薬の特徴と、その場所を何とか示すことができた
からだった。
 軍の機密情報と、レイ個人の秘密。これらを併せてようやく「胡散臭いがすぐに判断を下すことはできない
怪しい奴」程度にはなったらしい。

「そりゃ無茶苦茶な話だとは俺も思うけどさ……」
「それにも限度があるだろう? まだ俺のことや軍の情報はいい。だがお前が別の世界に飛ばされてまた帰って
きたなど信じることができるわけがない」

 むしろ頭を抱えているのはそっちの方らしい。
 当然か、こちらの方はそれだけなら妄言以外の何物でもない話だ。

「とにかく、議長に確認を取らせてもらう。結果次第ではお前の扱いが極端に変わるがそれでいいんだな?」
「あぁ、当てが何もないよりはそっちの方がいいさ……ほら」

 コーヒーを目の前に置く。何の変哲もない缶を見つめ軽く眉をひそめて、レイはポケットから硬貨を取り出し
て投げ渡してきた。

「いらないって」
「いや、払う」

 返したコインがすぐに戻ってくる。ムッとなりながらも再度投げ返すが、また飛んでくる。
 無言で二人の間を行き来する硬貨。その異様な光景に周囲の視線も勝手に集まってきた。
 そして、

「だから奢るって言ってるだろ!?」
「構わないと言っている!」

 ついにはお互いに椅子を弾きながら立ち上がっていた。
 そのまましばらく睨み合っていたが……やがてどちらからともなく席についた。

「……わかった、言い変えよう。俺の心の平静を保つためにもそれを受け取ってくれ」
「……あぁ、わかったよ」

 場の空気が緩むと共にあちらこちらから安堵の息が漏れてきた。

「それと、お前が別の世界で世話になっていたというのは765プロ、だったか?」
「? あぁ」
「その名前、どこかで……」
「何やってんのよアンタたち……」

 呆れたような声に振り向くと、ルナマリアが両手にトレーを持って立っていた。

「シンはともかくレイまで叫んじゃってさ、一緒に座る私たちのことも考えなさいよ」
「あー……悪い」

 謝りつつレイの方を見ると、すでにいつもの顔に戻っていた。いろんな業界の人間を見てきたが、この切り
替えの早さとポーカーフェイスっぷりはさすがだった。
 いろいろと諦めたように大げさに息を吐きながら、ルナマリアはレイの隣に座る。

「まったく、こっちは二人分の欠席理由まで考えてあげたっていうのにさらに問題起こすとか勘弁してよね」
「いやホントごめん……あ、飲むか?」
「なんでそこで飲みかけのコーヒーを出してくるわけ!?」

 精一杯の誠意を見せたにも関わらず何やら怒った様子でずいっ! と身を乗り出してきた。
 が、すぐに怪訝な顔になって疑惑の視線を向けてくる。

「な、何?」
「んー……? いや、なんか変だなと思って。いつもなら「うるさいな」とか「黙ってろよ」とか言うのに」

 身体中の汗腺から汗が噴き出してくるのを感じた。どう言い繕おうにもその行為自体が新たな疑惑の種になる。
だがここでいきなり突き放すようなことを言うのもそれはそれで不自然になる。

 ――ど、どうすれば……!?

 焦りが募り、結果無言という行動にさらにルナマリアの疑惑の視線が強まる。
 困惑の極みに勝手に逸れた視線の先で、レイが小さく嘆息するのが見えた。

「……ルナマリア、そこまでにしておけ」
「レイ?」
「この前のチーム戦で協調性がないと教官から手酷く言われたことが悔しかったのだろう、シンなりに変わろう
としているということだ」
「あー、ひょっとしてレイに話ってそういうこと?」

 否定も肯定もせず、レイは黙ってコーヒーを啜る。その様子に何かしら納得したのか、今度はニヤニヤしなが
らこちらを向いた。

「へぇ……あのシンがねぇ」
「『あの』ってなんだ『あの』って」
「ま、無理しない程度にがんばんなさいよね。あんまり変わりすぎるとこっちまで調子狂っちゃうから」

 そう言ってルナマリアは席に戻り、何とか事なきを得た。
 さりげなくレイに視線を送る。一瞬だけ目が合ったが、すぐに目を伏せられた。

「お! いたいた」
「パイロット科の方は早く終わったみたいだな」

 懐かしい声に振り返ると、整備科のバッジを付けた少年が二人、周りの様子も気にせず寄ってきた。
「遅かったな」
「そりゃ、オイル塗れの手でメシは食えないからな」
「もー大変だったよマジで。臭いがぜんぜん落ちなくってさぁ」

 うんざりした声で語る二人もまた同じテーブルにトレーを置き、椅子に腰をかける。
 ……懐かしい、光景だった。

「な、なんだ!? なんでそんな目で俺たちを見る!?」
「え、あ、いや」
「なんか心を入れ替えてみんなと仲良くしたいんだって」
「ルナ!?」
「あのシンが……仲良く?」
「お前まで言うか!」
「まぁなんだ、あんまりこういうことをはっきり言うのもなんなんだが……お前のキャラじゃなくないか?」
「お前ら揃って俺のことどういう目で見てたんだ!?」

 そんな調子で雑談をしている内に、いつの間にかみんな笑っていた。
 レイだけはずっといつも通りの無表情だったが、きっと自分も笑っていると思った。
 そして本当に今更なことを思い知る。
自分の周りには、こんなに人がいたのかと。
こういう世界なら、悪くはない――そう考えかけたその時、

「……っ!?」

 弾かれるように立ち上がる。突然の行動にみんなの視線が集中しているのは分かったが、気にしている余裕は
なかった。
 聞こえた。
 確かに聞こえた。

 ――どこだ……!?

 辺りを見渡し、『それ』をすぐに見つけた。
 食堂に一台だけ備え付けられたテレビ。
 その画面には自分のよく知る少女が映っており、スピーカーからは自分のよく知る歌が流れていた。

「あれ? 如月千早じゃん」
「っ、知ってるのかヴィーノ!?」
「知ってるも何も、地球で有名な歌手じゃん」
「なんだ? まさかお前ファンだったのか?」

 さも当然と言わんばかりに告げるヨウランとヴィーノに頭が混乱する。
 ここは自分の世界ではなかったのか? なぜ千早がここに?

「765プロ……そうか、思い出した」
「レイ?」
「シン、彼女たちは……このプラントに来るぞ」

 「何ィ!?」と声を上げる整備科二人組をよそに再び画面に目を向ける。
 そこには、実にタイミングよくライブの告知が流れていた。




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最終更新:2010年11月09日 17:29
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