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<時空を越えて.3~並行~Part A>

<時空を越えて.3~並行~Part A>

「悪い! 遅れた!」
「ったく、お前はいっつも準備に時間かかるよな」

 バタバタと慌ただしくやってきたヴィーノに呆れ顔を見せながら、ヨウランは結構な時間寄りかかっていた壁
から背を剥がした。
 週末の二連休、プラントの法律では成人扱いとはいえまだまだ十代の少年少女たちである。大半の学生はこの
二人のように制服から私服へと衣を変え、各自思い思いの時間を過ごすのだった。

「さて、どこへ行こうかね。予定とかあるか?」
「全然」
「あー……そりゃ困ったな」

 あまりの計画性のなさに数歩進んだ時点で早くも足を止めてしまう。「あそこはどうだ?」と提案しても「こ
の間行ったじゃん」という不毛なやり取りを何度か続けて、揃って溜息をついた。

「あーあ、せめてシンがいればなぁ。なんか用事あるんだっけ?」
「あぁ、今日はレイと出かけるんだと」
「へー……へ!?」

 思わぬ名前と思わぬ単語に素っ頓狂な声をあげるヴィーノに「なんだ、聞いてなかったのか?」と置いてから
ヨウランは記憶を辿るように閉じた空を見上げた。

「なんか急に予定が入ったんだとさ。アプリリウスに行くんだと」
「はぁ、あの二人がねぇ」

 シンとレイの仲の悪さは整備科にまで噂が広がるほど有名な話だった。互いに個人のシュミレーションや模擬
戦では今や1、2を争うほどであり、そういったことから生じたと思われる衝突や小隊訓練での連携の乱れなど
付き合わされるルナマリアに軽く同情したくなるほどだ。
 だがここ数日、二人が一緒にいることが多い。決して友好的な雰囲気であるとは言い難いのだが。

「なんかあったのかな?」
「さぁな。ま、そんなことより今日はどうするんだ? このまま帰るってのも間抜けな話だろ」
「ん~……ナンパでもする?」
「やめとけやめとけ。シンやレイみたいに『外』に出るならともかく、ここじゃあっという間に知れ渡っちまうぞ」
「だよなぁ」

 再び溜息が重なる。
 結局、二人はあてもなく街へ向かうという無益な時間を過ごすことになった。



 プラント首都、アプリリウス。
 全12市で構成されるプラントのアプリリウス市に所属するスペースコロニーである。
 最高意思決定機関である最高評議会もこのコロニーに拠点を持ち、まさにプラントの中枢と呼べる場所だった。

「どうした?」
「いや、なんていうか……場違いだなってさ」

 何食わぬ顔で振り返ってくる級友に恨みがましい視線を向け、その姿を頭のてっぺんからつま先までまじまじ
と観察する。

「なぁレイ、それお前の私服か?」
「私服、とは言えないかもしれないな。こういった場所へ来る時に着ているだけだ」

 なるほど、そう言われてみればプライベート用というよりは外行き用というか、どことなくフォーマルな印象の服装だった。ネクタイこそ締めてはいないものの
 それだけに、

「俺の服がずいぶんと浮いてる気がするんだが」
「気にするな、俺は」
「あーはいはい気にしませんよーお前が気にしないんならねー」
「何故拗ねている」
「お前がどこへ行くとも言わずにこんなとこまで連れてくるからだろ!? さっきから周りの視線が痛いって
のにさぁ!」
「俺が悪いとでも言いたそうだな?」
「じゃあ俺が悪いんですかねぇ!?」

 いつも通りの私服姿で来てしまったことを激しく後悔しながらシンはがっくりと肩を落とした。もっともこの
世界に来る前に来ていたスーツなど当然あるはずもなく、せいぜい軍服くらいしか正装と呼べるようなものなど
ないのだが。

「まぁ、おそらくは問題ないだろう」
「その判断が自分で分からないのってすっごい不安なんだけど。っていうかどこに連れていくつもりなんだ?
力になってくれる人に会わせるとかって話だろ?」
「来れば分かる、すべてな」

 そう言ってレイは再び先を歩き始める。相も変わらず必要最低限なこと以外は何も話そうとしない。
 否、今回に限って言えば明らかにわざと隠しているように見える。

「おい、まてよレイ!」
「遅れるお前が悪い」
「朝から思ってたけど何か不機嫌なんじゃないかお前?」
「それは4日ほど前からだ」
「ってそれ俺がこっちに来てからずっとってことかよ!?」
「気に」
「するっての! 罪悪感も沸いてくるってーの! ホント申し訳ございません!」

 周りの奇異の視線も気にせずに――正確に言えば気付かないフリをしていたのだが――大声を張り上げなが
ら、二人の少年はコロニーの『皿』の上を歩いていった。



 結局レイから何も聞き出せずに目的地に着いてしまった。
 とは言っても未だにシンはそこがどこなのか分からないのだが。
 コロニーの構造上、『皿』の中心に近づくほど街の規模は大きくなる。まして行政の中枢であるこのアプリリ
ウスならば並び立つビルのひとつひとつが重要な施設と言っても過言ではない。
 そんな中でシンが連れて来られたのは、中心部からやや外れた場所に建てられた、そこそこ大きいものの周り
と比べると小さい部類に入るビルの応接間だった。
 何の施設かは分からない。ただ先を行くレイが無言で受付をスルーできたところを見るにただのビルではなさ
そうだった。

 ――なんか、プロデューサーに連れ回されたのを思い出すな……

 あれは向こうの世界に飛ばされて間もない頃だったか。挨拶回りに付き合わされただけだったのだが、今思い
返せばあれは先方に自分を紹介することも兼ねていたのだということに気付かされる。初対面と一回でも会った
ことがある、というのは大差ないようで精神的な安堵感はかなり違う。こちらに戻ってくる直前に済ませた仕事
も滞りなく済ませることができたのはそういった小さな積み重ねの賜物だった。

 ――そういえば、ライブの準備はどうなってるんだ?

 こちらに来て早くも4日という時が過ぎた。自分の身の回りのことでいっぱいいっぱいだったのだが、ライブ
も数日後という状況でこんな事態に遭遇したことを思い出す。自分がいなくなったことがどう影響しているのか
は分からないが、少なくとも事務所が切迫している時にバミューダな失踪をしてしまった自分のせいで何の悪
影響もないはずがなかった。

「どうした? 突然頭を抱え込んで」
「……なんでもない。自分の置かれている状況を再認識しただけだ」

 こんな時に後悔してもどうしようもないのだが――というよりも自分の責任ですらないのだが――、考えだす
ともう止まらない。もしこちらで過ごした分だけむこうの時間も進んでいるのだとしたら最悪だ。いったい何と
弁明すればいいのか? いや、それすらすぐに戻れるという過程の上の話だ。もしこれで何週間、何か月と戻れ
なかったとしたら……

「どうした? 顔が真っ青だが」
「……なんでもある。自分の未来が絶望的だってことが分かっただけだ」

 ――嗚呼、ブチ切れモードになった律子さんの姿が見える。

 マイクの代わりにランチャー付きの対物ライフルを携えた知性派アイドルとリアル鬼ごっこを繰り広げる
自分の姿を幻視する。かなり、というか相当シャレにならない絵面だ。怪獣王に挑む方がまだ勝算がある。
シンは一刻も早く元の世界に戻らねばならないと固く誓った。

「というかさ、もう20分くらい待ってるんだけど。いつ来るんだよその相手」
「ふむ、どうやら少し手間取ってるらしいな」
「おいおい」
「安心しろ、約束を違えるような人ではない」

 そう言ったきり目を伏せ黙り込む。いつも以上に沈黙を守るレイに追及はできそうになかった。
 このままじっとしているとまた先ほどのようにネガティブな方向に思考が傾いてしまいそうなので、まだ見ぬ
協力者の到着をひたすらに願うしかない。窓ひとつない部屋というのはこんなにも息苦しいものだったか、と
考えずにはいられなかった。相手が誰だか分からないという不安も居心地の悪さを倍加させている。

「あ、そういえば聞き忘れてたけどさ、その人にどれくらい俺のこと話してるんだ? 普通じゃ絶対に信じて
もらえないと思うけど」
「ありのままに、すべてを話した。お前から聞いたことは細大漏らさずな」
「……自分で言うのもなんだけど、よく会う気になったなその人」
「何かしら思うところがあるのだろう。俺も詳しくは聞いてないが」

 ――大丈夫なのかよ、それ。

 それを口にしようとして、シンは反射的に扉の方を見た。

「あ」
「む」

 自分たち以外にこのビルに誰もいないのではないかと錯覚してしまいそうなほどの静寂を、かすかな足音が
破った。
 徐々に近づいてくる反響音からその主が一人ではないことが分かった。二、三人といったところか。
 そんなことを考えてるうちに、足音と入れ替わるように軽いノック音が届いた。発生源はこの部屋でただひと
つの扉からだ。

「開いています」

 相手の確認だけに意識を向けていたシンは気付かなかった。
 隣にいるレイがいつの間にか立ち上がっていたことを。そして扉に向けて敬礼をしていたことを。

「――失礼」

 静かに音を立てて扉が開かれる。そしてシンは今さらのように気付いた。
 ……少し考えれば当たり前のことだった。
 いくらレイ・ザ・バレルがアカデミーで首席を取るほどの人間であっても、できないことはある。
 まして別世界から舞い戻ってきた人間の頼みごとなど受け入れるだけでも相当な難題だっただろう。
 そんな状況で可能な手段となると必然限られてくる。
 要はシンが取ったことと同じ。自身の知る限り最も頼りになり、かつ聡明な人間に協力を仰ぐこと。
 すなわち、

「やぁ、遅れて申し訳ない。少し立て込んでしまってね」

 後ろに二人のSPを引き連れながら、プラント最高評議会議長――ギルバート・デュランダルは穏やかな物腰
で歩み寄ってきた。


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最終更新:2010年11月09日 17:32
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