#navi(なのはクロスの作品集)
シン編第六話 『 セ イ オ ウ ノ ツ ル ギ 後編』
“命を捨てて誰かを守れば、それは救った事になるのか?”
善悪の区別はあっても、その問いに明確な答えは存在しない。
はたして、『機動六課』と『八神家』。
二つの時を経験したシンはどんな答えを出すのだろうか?
シン「・・・・・・」
シンはどうしても、“そうだ”と頷くことができないでいた。
CEにいた頃の自分なら、簡単に首を縦に振ったはずなのに・・・。
考えがまとまらない。
それが正しいと思いたいのに、どこかでそれは違うと知っている。
答えに窮して黙り込むシンを見かねたのか、ザックスが口を開く。
ザックス「おいおい、迷うようなことかよ? これまでだってそうやって戦ってきたじゃないか」
シン(そうだ。俺はここに来るまでずっとそう考えてた)
彼に言われ、シンの脳裏にこれまでの戦いの記憶が蘇ってきた。
真っ赤に染まった両手で銃口を引き続け、殺すことでしか人を救えないと思っていたあの頃を・・・。
――――――誰かの平和のために生きる。
そのためなら、命だって捨ててやる。――――――
多くの命を奪っておきながら、今更自分だけ命が惜しいとは思わないし言うつもりだってない。
どの道、死ぬことでしか俺の罪は終わらない。
本当なら、もっと早く死んでいてもよかったくらいなんだ。
けど、人の命を奪った俺に無駄死は許されない。
俺の死に意味がなければ、俺の奪った誰かの命も無駄死になってしまう。
だから、俺が“まだ”死にそびれているのは、ただ単に『機会に恵まれなかった』からだ。
そうだ、どうせなら誰かを救って満足して死んでいこう。
戦って、戦って、戦って、ボロ雑巾のようになりながら死んでいこう。
誰かを救うための死なら、無駄死にはならないはずだ。
それが誰かを守りたいという気持ちと一緒に、俺の中で膨らんでいったもう一つの感情だった。
――――――そう信じていた。
殺戮者である自分が生き残った意味が欲しかったのか、
それとも誰一人守れなかった人生にピリオドを打ちたかったのかは――――自分でもわからない。
いつしか守りたい対象が『人々』から『彼女たち』に変わっても、その思いだけは変わらなかった。
――――――それが間違っているかなんて微塵も疑わずに。
だからこそ、力が欲しかった。
必要ないといわれても、無駄だといわれても必死で食らいついた。
今までの強さをすべて捨ててまで、シグナム副隊長に守るための戦い方を教わった。
魔力がないから無駄だってわかっていても、みんなと一緒に訓練を続けた。
そうやって散々もがいたあげく、ようやく俺はデスティニーと出会い力を手にいれた。
――――――力の無い者が意志を通すことなんてできやしない。
そのことがわかっていたから・・・。
シン「俺は・・・俺には・・・・」
――――――ずっと思っていた。
どこの誰でもいい。
誰かの命を救えるんなら、俺の命なんて喜んで捨ててやる。
穢れきったこの命で、俺のようになるはずだった人間を救えればそれだけで十分だ。
普通に生きている人達を守れるなら、命だろうと魂だろうと何だって捧げてやる。
それが、きっと彼女たちを助けることにも繋がるはずだ。
――――――ずっとそう思い込んでいた、十年前の海鳴市に来るまでは。
でも、高町士郎さんに弟子入りして御神流を学び、フェイト達と一緒に管理局で仕事をして、
海鳴市に住むたくさんの暖かい人たちと出会って・・・・・。
そして、八神家で・・・・ヴォルケンリッターの皆やリインフォースやはやてと暮らしていくうちに
――――――俺の考えは変わっていった。
この先、十年以上苦しむことになった八神隊長と、まだそのことを知らない幼いはやて。
残酷なまでに二人は違いすぎた。
たった十年。
その間に人は、こんなにも“屈託なく笑えなくなる”のかと思えるほどに・・・。
原因なんて、わかりきっている。
十年前に起きた悲劇の・・・・闇の書事件の結末。
――――――リインフォースの死――――――
それに気付いた時、俺は自分で言っていた『救う』ということの意味がわからなくなった。
その選択が、例え大切な人を守るためでも、その人に一生残る心の傷を負わせるのなら
それは、その人を本当に救うことにはならないんじゃないのか?
自己満足の中で幸せに死んでいけるのは自分だけで、俺の助けた人は俺のせいで、
死を迎える最後の瞬間まで傷つき続けるんじゃないのか?
俺のしようとしてたことは、自分のために誰かが犠牲になったという業を助かった人に背負わせて、
生き地獄に突き落としてるだけじゃないのか?
はやて達は優しいから、この血に塗れた手を包んでくれたくらいだから、
きっと俺が死んだら悲しむと思う。
リインフォースを救えなかった時のように、もしかすると一生苦しみ続けるのかもしれない。
俺は・・・彼女たちにそんな思いはさせたくない。
そんなことを望む資格がないことはわかってる。
それでも、彼女達を泣かせるようなことだけは・・・・絶対に嫌だ。
人が人のために死んで幸せが訪れるのは、アニメや漫画の中だけだ。
俺の覚悟なんて、どちらか選ばないと両方とも不幸になって、どちらか選んでも片方は必ず不幸になる。
そんな呆れるほどに矛盾だらけの欠陥品だったんだ。
でも、命を捨てて戦わなければ、大切な人が助からないならどうすればいい?
特攻じみた戦い方で命を散らさなければ、大切な人が死んでしまうなら?
自分が死ねば、大切な人が助かる。そんな場合は?
――――――矛盾が生まれた。
命を捨てて誰かを守る。
それは、生きていれば幸せになれると言い聞かせて、自分の分の業まで背負わせて
放り出すこと。
命を守るために誰かを捨てる。
それは、命を差し出せば助かるかもしれない人を、言い訳をして見捨てること。
どちらが正しくて、どちらが間違っているんだ・・・?
いや・・・・
シン「・・・俺はそんなの・・・どっちも認めない!」
俺が本当に欲しかった『強さ』は、俺のしたかった『償い』は・・・そんな風に誰かを悲しませる『覚悟』じゃない!
シン「命を捨てて誰かを守ったって、救った事になんてならない。
自分の身近な人がいなくなる悲しみを知ってる俺が、
それをあいつ等に味合わせるなんて、絶対にやっちゃいけないんだ!」
自分の命、リインフォースの命、はやての命・・・。
どれか一つを選べば、誰か一人が確実に不幸になるんなら、
俺は全てを選んで全てを幸せにしてやる!
シン「片方しか選ばなきゃ誰も救えないなんて誰が決めた!
犠牲がなくちゃ何も得られないなんて、誰が決め付けたんだ!」
そうしなきゃ誰も救えないなら、俺は・・・俺たちは何のために強くなったんだよ!」
俺は力のない自分を捨てるために、守りたいと願う人に手を貸すために、
人を不幸にするもの全てを破壊するために力を求めてきた。
ここでどちらかを選んでしまったら、俺は自分の信念と、俺を導いてくれた人達の思い
全部を裏切ることになる。
シン「だから俺は、絶対に奴を倒して生きて帰らなきゃならない!
力を使った反動なんかで死ぬわけにはいかない!
生きることも守ることも、両方諦めるわけにはいかないんだ!」
想いを叶えられる力は、目の前にそろってる。
だったら、何も迷うことなんてない。
いつものように、がむしゃらに前へ進めばいい。
志貴「何も捨てずに全てを得ようとするのは『傲慢』、現実を見ずに理想を追いかけるのは『わがまま』だ。
・・・・・・折れない覚悟はあるんだな?」
シン「ああ。例え何て言われてもかまわない。俺が欲しい力は、何も捨てずに全てを守れる力、
人々を苦しめる理不尽を跳ね返すための力だ! 」
あの時、アスランに言われた本当に欲しかった力。
ぼんやりとだけど、ようやく俺にも見えてきた気がする。
それを嘘にしないためにも・・・・。
シン「俺は死ねない。そして、誰も死なせたくない! だから・・・その意思を通すために、
あんた達の持ってる力を俺に貸してくれ!」
思いのたけを出し切ったシンは、彼らに向き直ると、真正面から彼らを見据えた。
その目には微塵の迷いもなく、全てを吹っ切っていることが見て取れる。
イスラ「これは・・・まいったね。まさか両方選ぶなんて思っても見なかったよ」
セネル「まったくだ、絶対に『死んでも誰かを守る』だろうと思ってたんだけどな」
シン 「・・・・・・え?」
『甘い』と罵られることを覚悟していただけに、シンは彼らの対応に拍子抜けしてしまった。
てっきり、『独善』だの『弱者のたわごと』だのと笑われると思っていたのだ。
あっけに取られるシンを尻目に、彼らは彼らは呆れたように微笑んだ。
セネル「あ、ちなみに死ぬかもしれないって話? あれ嘘だから」
シン 「は、はぁ、嘘!? 俺は本気で悩んだんだぞ!」
イスラ「悪いけど試させてもらったよ。玉砕を望むような男にこの『力』は預けられないからね」
シン「うぐ・・・」
少し前までの自分ならたやすくそちらを選んでいただけに、シンはしぶしぶ引き下がった。
そういわれては黙るしかないが、あまり気分のいいものではなかったが。
志貴「自分を捨てて、自分の大切なものを守るために戦って、守れなくて・・・。
結局一番大切なものはとり逃す。俺たちはみんなそんな人生だった」
イスラ「結局本当に欲しかったものは何も得られずに、多くの人を悲しませた」
ザックス「お前はその運命を覆したんだ。きっとやろうと思えば何度だってひっくり返せるさ。
絶望しそうになったときは、そのことを思い出せよ、シン」
シン「・・・皆・・・・」
やがて、誰からともなく手のひらを前に出し、相手の掌と重ね始めた。
薄ぼんやりと彼らを包んでいた光が強さを増し、人の形がだんだんと崩れていく。
彼らの力と想いが、ゆっくりとシンの中に流れ込んでくる。
志貴「大切な人を守るために、俺の片目をお前に託す」
イスラ「二度と奪わせないために、僕の剣を君に託すよ」
セネル「失ったものを取り戻すためだ。俺の爪術をお前に託そう」
ザックス「俺の身体能力をお前に託す。仲間のためにも絶対に死ぬんじゃないぞ」
彼らの魂がシンの体に重なり、溶け込んでいく。
ザックス「だから、お前も今度こそ誰も離すな。・・・俺たちのようになるなよ、シン」
シン「・・・・わかった。俺、約束するよ」
やがて、シンと彼らが完全に一体化したとき、黒一色だった世界を白銀色の光が包みこんだ。
その頃、魔方陣を紡ぎ終えた『闇の書の闇』は『アルカンシェル』をシンに向け
撃ち放とうとしていた。
だが、シンの体は微動だにせず、デス子も逃れるための気力を失っている。
闇の書の闇は勝利を確信しながら、自身の持ちえる究極の消滅魔法を発動させた。
――――――――――――アアアアアアアアアアアアアッ――――――
発射音とも叫びとも区別がつかない轟音と共に、三つの環の中で精製された蒼銀の矢が
二人を貫こうと向かってきた。
艦艇クラスの質量すら一撃で消滅させる破壊力を持つ魔砲だ。
人間一人とデバイスごときカケラも残るまい。
デス子「・・・・・・シン!!」
デス子は自らの最後を覚悟して、シンとユニゾンしたまま目を瞑った。
せめて消えるときは共にありたい、そう願いながら。
だが、その願いが叶うことはなかった。
デス子「・・・・・・あれ?」
―――いつまで待っても最後の時は訪れない。
発射時間から逆算して、既に反応消滅が起こり始め、シンの肉体ごとデス子も
瞬時に蒸発しているはずなのだが・・・・。
外れてくれた? それとも、遊ばれている?
もしかして、もう天国にいるとか?
そんな疑問が浮かんでくるよりも早く、聞きなれた声が耳に届いた。
シン「何がまだ時間があるから大丈夫だ、あいつらぁ! 思いっきり限界ぎりぎりじゃないか!」
そうだ、この声が、この言葉が何も知らない自分に世界を教えてくれた。
兵器である自分に心を伝えてくれた。
そして、どんな時でも私に一筋の希望をくれる。
まぶたを開き、目を見開いても信じ切れないような現実がそこにはあった。
デス子「・・・マ、マスター・・・なんですか?」
これは夢だろうか。
重傷を負って地面につっぷしていたシンが自分の足で立ち上がっている。
戦い疲れて眠っていたはずなのに、『闇の書の闇』に真っ直ぐに向かい合っている。
まだ負けてないと叫ぶように、まだ終わってないと証明するように悠然と立ち向かっている。
赤が主体だった以前と違い、細かい部分が黒く変化したバリアジャケットと。
持ち主を人外へと押しやる力に染まり、紅い輝きを放つ聖剣と。
形状がガントレットのように変わった、パルマフィオキーナを含む手甲と。
燃え上がるほど赤い片目と対照的に、透き通るほど青く死を穿つ片目をその身に宿して。
託されたのは受け継がれた想い。
教わったのは覚悟の意味と強さの答え。
手に入れたのは守護の盾と死をもたらす剣。
――――――翼が折れた鷹は、地に伏した。だが、狼となって再び地を駆ける―――――――
――――――――――――紅い瞳に、守りたい者が写る限り――――――
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