ムキドー多重クロス-12

機動戦士ガンダムSEEDDESTINY-SIN In the Love-
  PHASE-11「狂気のG」

「なるほどなー。ソレビーメンバーが接触してきたんか」
管理局保有の小型輸送機の中でシンははやてにガルナハン云々について話した。
「でも、何でその人はアスカ君に? 知り合い?」
「…さあな」
さすがに「スカリエッティと知り合いです」とは言えず、適当な言い訳も浮かばないので言葉を濁す。
「まー有名人っちゃ有名人やし、向こうが知っとるのもおかしな事でもないか」
「……」
そう、シンは軍人やそれ関係の人間の間ではとても有名なのだ―極悪人として。
上官への反発
度重なる命令無視
銃殺刑ものの軍規違反
何より…最後までラクス・クラインの言葉を聞かず、デスティニープランという世界征服への加担
―等の理由から軍人として、そしてヒトとして最低であるとの評を付けられている。
だが公式記録ではMIA扱い。さっき管理局の中を普通にうろついても誰も気に留めなかったのもそれが原因である。
「分からんこと考えてもしゃーないか。それよりも、や。紛争勃発前に着けたとして、それからどないするんや?」
「それは………アンタらの仕事だろ」
「ぅぐっ! そやな~、そうなんよな~。う~~~~ん…」
うなるはやて。そう、CBの先回りができてもそれだけでは何も解決しない。すでに紛争の火は点いているも同然。なにかの方法を以って紛争発生を阻止しなければならない。
ちなみに、今シンは「アンタ‘ら’」と言ったが機内に搭乗しているのはシンとはやてのみ。リィンⅡもいない。はやて曰く「独断で人が借りられるのはお偉いさんだけや」とのこと。
この輸送機もMSが乗る一番小さなサイズで、いわばガンペリー。あと、なぜかシンが操縦させられていたりする。
「う~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん……」
ガルナハンまではまだかかる。

深夜の特別病棟、その一室。
ベッドに横たわりいくつもの管を繋がれた少女が眠っている。
そして、その脇に立つもう一人の少女。その手にはどんな文字とも違う異形の文字が記された分厚い本が。
「…」
ゴクリと唾を飲み、その手の本を見る。もう何度目か分からない行為。その度に、止めよう、引き返そう―そう思ったのだが、ここまで来てしまった。
(あの人が言った事が本当なら…)
そんなことを思いながら少女はどこかで確信していた。あの魔女のような、この本を渡していった女の言った事は本当だと。
ベッドの少女を見る。全身包帯だらけ。よく見ると血がにじんでいる。
「あの赤い粒子は生物の構成情報に深刻な害を与える」―魔女の言葉が甦る。

「現代医学では治療は不可能だ。彼女ほどの重傷ならまず死ぬだろうねぇ。だけど―」

「コレの力を使えば…」
もう一度本を見る。表紙の文字も中身も一切読めない。当然使い方など分かるはずもない…のだが、分かるような気がしていた。
ここまでの道のりを思い出す。
襲撃から丸一日経っても慌ただしい病院。それは夜になっても同じだった。
その間を縫って特別病棟にたどり着いた。特別、といっても要はお金持ちや問題患者が入る場所である以外特に変わらない…のは普段だけのようだ。
少女は間近で銃を見るのは2度目だった。そう、武装した兵隊が警備をしていた。VIPを守るため、ではなく外部に特別病棟にいる患者の情報がもれないようするために。
なにせその兵士達は外ではなく中を見張っている様子だったのだ。また、病室から出てきたのも医者ではなく軍の偉い人のようだった。
見つかったらマズイ―そう想い少女が引き返そうとした矢先、目の前で兵士達は皆眠ってしまった。
異常な事態に戸惑うものの、今なら友人の様子を確かめられると思いこの病室まで来てしまった。
(そう、普通じゃなかった。あの人達は何か怪しい雰囲気だったし、何よりこれ見よがしに武器を持ってた)
全員が眠ってしまったことも謎ではある。が、おおよそ見当はついている。
(私をここまで来させるために…)
ならばあの魔女の仕業であろう。自分にこの本―魔導書を使わせたいのはあからさまだったし。
(何が起きるかは分からない。もしかしたら取り返しのつかない事態になっちゃうかもしれない。でも…!)

 

グッと本を掴む手に力を込め、体の前に掲げる。
「私は…真弓さんを助けたい。だから…っ!」
魔導書のページが勝手にめくれ、あるページでピタリと止まる。
カーテンは占められ、明かりといえば無機質な音を出す機器の画面だけ。だが、少女の赤い髪がさらに赤く、太陽のように見えた。

『む?』
『どうしたの?』
『いや、気のせいか?』
ガンペリー(仮)のキャノピー隅に置かれたアルはかすかな波動を感じた…ような気がした。
(魔導書がそうゴロゴロ転がっているはずもなかろう)


一方、格納スペースの一角。そこに置かれたビニールシートがモゾモゾと動く。その中からは二人分の声が。
「(ねぇティア、今さらだけどマズくないかな?)」
「(ホント今さらね…でも乗っちゃったもんはしょうがないでしょっ)」
「(でもさー)」
「(あーもー、うっさいスバル!)」
以前ことりの帽子を届けようとしたティアナとスバルである。
なぜこんな所に隠れているかと言うと、二人が夜の見回りをしていた際、はやてがコソコソと輸送機に向かっているのを発見。
下っ端ゆえはやてのようなエリートに声をかけづらいなと思っているうち、輸送機が発進態勢へ。これは見過ごせないと飛び乗った。
「(でも、あの人がシン・アスカだったなんて驚きだね。生きてたんだ……)」
ティアナ達が病院で会い、そして乗ってきた少年がシン・アスカというのが大問題。はやてはソレを知っていながら管理局へは報告していないようだ。
ティアナとしてはソッコー身柄を押さえて管理局へGoBackしたいが……
「(大尉は何するつもりなのかな?)」
「(結構飛んでるし…間違いなく日本じゃないわね)」
シンとはやての目的も気になる。
病院で会った感じシンは噂ほどの悪人ではないのではと思う部分もあり、MSまで用意して何をするというのか、それを知りたいがため今もこうして隠れているのだ。
(こうなったら、最後まで見届けるしかないわね)
気合いを入れ眠気を吹き飛ばすティアナ。隣のスバルは、
「zzz…」
「寝てるし!?」


『ハァーイ、お元気?』
「あ?」
そろそろ日が昇ろうという時間、急に男のもとへクアットロの通信が入る。
『アラ、もう起きてるの。女でも引っかけてた?』
「ガラじゃねぇっての」
『じゃ興奮して眠れなかった? フフフ…まるで遠足前の小学生ね』
「あいにく俺は学校には行ってないんでな。ま、当たってるけどよ」
『根っからの戦争オタクってわけ』
「そんなところだ。で、何か用かよ?」
『亡霊のご登場よん』
「…早ぇな」
『こっちの情報漏れちゃってるから♪』
「まぁ、そっちの事情なんざどうでもいいさ。数は? 大勢連れて来てんだろうな?」
『単機に決まってるじゃない』
「へっ、上等じゃねぇか…一人で俺をやろうってのか!」
『彼はガルナハンに用があるだけだと思うけど?』
「どっちだっていいんだよ。俺は戦えればそれでよぉ」
そうして男―アリー・アル・サーシェスはパイロットスーツを掴み部屋の外へ。


「zzz…ヴァルケンハ…zzz…」
「ゲンリューケン」≡つ
「あたっ」☆
フェミニストではないシンの容赦ない一撃にはやては目を覚ます。
「睡眠不足は美容の大敵やのにぃ…」
「軽く4時間は寝てたぞ」
「寝顔に惚れた?」
「ヨダレと半目でドン引きだ」
「そうやったんか…知らんかった……」
自分の寝ている姿を知りショックなはやて。「誰も教えてくれんかった……」
 

「もうすぐガルナハンだ。操縦代われ」
「んー」
シンは席を立ち、魔導書×2を持って格納庫へ。
そこには元から積んであったMSとインパルスが。
「ここまで来てビビってるってのも情けない話だな」
一人ごち、コックピットへ。一瞬イビキのようなものが聞こえたが特に気にしない。
電源ON。各部が起動、その音が響く。そして機体状態のチェック。いつでも出撃できるようにしておく。
『どや、調子は?』
「問題ないな。あれだけ損傷してたのに元通りだ」
『流石ってとこか』
「あの人、誰だったんだ?」
『今度紹介したるわ。長い付き合いになると思うし』
その“付き合い”がロクでもないものだと知っているシンはウンザリする。そもそもはやての誘いに「YES」と答えた覚えもないが。
『お、何や光っとる。もう始まっとったか…っ』
「ちっ。何か手は思いついたのか?」
『一応な。ただ話ができんと…着陸ルートだけでも確保できれば』
「それはこっちで何とかする」
『よっしゃ! んじゃ、ハッチオープン』
ハッチが開く。その向こうは…戦場。
「…アル、エセル…行くぞ」
『うむ』
『イエス、マスター』
『進路クリア。行ったってや!』
「シン・アスカ、クライムインパルス、行きます!!」


MSだけでなく多くの歩兵が手に武器を持ち戦っている。
ガルナハンが自治権を持っているとは言っても軍からの影響がゼロなわけではない。それに業を煮やした住民が近隣の駐留部隊に攻撃をしかけたのだろう。
けしかけられこそしたのだろうが、その火種があったのは事実。
『かなりの規模ですね』
「まともに戦ってもしょうがない。領事館へのルート上の奴だけを倒すぞ」
『うむ。今回は我らも魔力に余裕がある。前回のようにエネルギーを気にする必要はないぞ』
「そうなのか? そういや今回は本のままなんだな」
『節約じゃ』
『節約です』
ガンペリー(仮)は一旦上昇。戦闘に巻き込まれたらアッサリ沈むためだ。
シンはそれを見送り、さぁ戦闘開始というところでレーダーに反応。
「これは…他とは違う…?」
そちらへ目を向ける。
「なっ、あれは…」
赤い―赤いボディ、赤い粒子を放つ……ガンダム。
『ハッハァッ! 待ちわびたぜぇ! ガンダムさんよぉ!!』
外部スピーカーで告げる男の声。赤いガンダム―ガンダムスローネは肩から大剣を抜きインパルスへ向ける。
「CBなのか!? いや、けど…」
CBの構成員はナンバーズ。全員女性だ。
『せいぜい楽しませろや、ガンダムゥゥ!!』
「!?」
猛烈なスピードで斬りかかってくるスローネ。インパルスは回避するが…
『甘ぇんだよっ!』
飛び込む勢いを利用して回し蹴り。インパルスは蹴り飛ばされる。
「ぐっ…考えてる場合じゃないか…!」
赤いガンダムについては一切が分からない。今、言えることは―敵であり、そのパイロットはナンバーズ以上の腕を持っているということ。


インパルスはビームライフルを連射。しかし掠めることもできない。
「ちぃっ」
『そんなもんかぁ!』
撃ち返すスローネ。赤いビームが何発もインパルスを掠める。
『弾速が速いですね。速射性に重きを置いているようです』
『近接タイプか』
あの剣を見た時から分かってましたとは口が裂けても言えないシン。元軍人なのでそういうところだけは鋭いのだ。
なので接近戦を避けているのだが、全然当たらない。
「性能差にはしたくないな!」
インパルスは急上昇。スローネの間合いの外へ。そしてそこから一気に加速。かつてのフォースインパルス並みの速度で間合いへ。

『見え見えなんだよ!』
最短最少の動きで大剣―GNバスターソードを振るスローネ。
「お前がな!」
『!?』
目前でバーニアの向きを変え沈み込むインパルス。サーシェスは一瞬だが完全にインパルスを見失う。
そしてインパルスはその一瞬で死角からビームサーベルで斬り上げる。
「でぇいっ!」
『うおっ!!』
だがその一閃はスローネのビームガンの先端を切り落とすにとどまる。
『へぇ、やるなぁ!』
「いちいち…うるさいんだよっ!」
わずかに身を引きバスターソードを払うスローネとサーベルで斬りおろすインパルス。2機の剣がぶつかり、激しいスパークを散らす。
『腕は一本じゃないんだぜぇ!!』
スローネは左手で肩のGNビームサーベルを抜き突く。
「知ってる!」
インパルスもシールドを畳み、右手で背中からもう一本のビームサーベルを抜き防御。
『足だってぇ』
「ついてるっ!!」
互いに右足で蹴り飛ばす。間合いが再び離れる。


前回より格段にマシに戦える。だが体がついてこれる時間には限りがあるようで、シンは肩で息をしている。
(強い…! くっそ…マズいな)
下ではどんどん戦火が広がっている。いつまでも時間をかけてはいられない。


「さぁて、こいつはどうも…」
サーシェスは舌舐めずりをする。
シン・アスカ―その筋では敗者として誰からも軽んじられているようだが、実際に対峙してみるとよく分かる。
(戦争が終わってから全くMSにゃ乗ってないって話だが、それでこれだけデキるとはな)
クアットロの話を信じるなら機体性能は圧倒的にスローネが勝っている。しかし未だに撃墜どころか互角だ。
(格上相手と戦うのに慣れてやがる。おまけに戦いの中で体に染みついたモンがどんどん甦ってきてるってか)
だがサーシェスはそれで怯むような男ではない。むしろ、
「面白ぇ…面白ぇじゃねぇかよぉお!!」


『いけよ、ファングゥッ!!』
スローネの大型スカートのスリット部から小型のミサイルのような物体が射出される。
それらは複雑な軌道を描きながらインパルスへとビームを発射。
「うわっ!? ドラグーンか!?」
この手の攻撃が苦手なシン。数発被弾する。
『来るぞ!』
アルの警告通りスローネがバスターソードを振りかぶっている。
「器用なやつだ!」
インパルスの右肩アーマーにキズが入る。
「VPS装甲もおかまいなしか…っ!」
右目の異常のため右側が死角となっているシンは即座に距離を取る。が、そこにはファングが先回り。
「~っ!」
『ウイングに被弾。これ以上受けると機動に支障が』
スローネ接近。態勢を立て直せない。
『そらぁっ!』
バスターソードで突き込んで来る。狙いはコックピット。
その先端が触れる瞬間……


(消えた!? バカなっ)
突然インパルスが消えた―少なくともサーシェスにはそう見えた。
刹那の間サーシェスは敵機を見失う。それは戦場においては致命的な隙を生んだ。
「ぐぉわぁ!!」
背後からの衝撃がコックピットを襲う。コンソールにはドライヴに被弾と表示。
即座に振り返るスローネ。そこには上半身と下半身がドッキング中のインパルスが。
「機体を分離させたのか……」
まさに奇策。傭兵をして長くなるが、このような戦法は初めてだった。
「ちぃっ、やってくれるぜ…!」
毒づくサーシェス。
「けどなぁ…!」

射出中のファングはまだ生きている。
「一発でやれねぇんじゃ不発も同じなんだよぉ!!」
再びファングによる攻撃。
しかしインパルスはさっきより慣れたのか2基、3基と落していく。が、構わない。
背後からしかけた最後の―6基目のファングも撃墜。それでいい。
「まだあんだよぉっ!」
スローネに対し背中を向けているインパルス。そこに新たに射出した2基のファングが迫る。
殺った―そう確信するサーシェス。
だが、そこに上空から無数のビームが降り注ぐ。2基のファングを撃ち落とし、スローネ本体も数カ所を撃ち抜かれる。
「なっ、んだと…」
上空のレーダー反応。それは、
「核動力反応!? どこのだ…?」
今どき核動力のMSなど例の2機しかいない。だがモニターに映る黒いMSは核動力反応を示している。
「ありゃあ、ガンダム、か…?」
逆光で分かりにくいが、いわゆる“ガンダム顔”をしている。と、
「うおっ」
黒いガンダムの背部から幾重ものビームが発射。今度は被弾することなくかわしきるスローネ。
(当てる気がなかったな。警告とでも言うつもりか)
その上から目線が気に入らないサーシェス。しかし、ダメージを負った状態で2対1は分が悪い。
「ったくよぉ。水入りってことか」
顔をしかめる。
「もうちっと楽しみたかったが…まあいい。もう間に合いやしねぇよ」
機体を離脱させる。その間際、カメラに映るインパルスを見て、
「せいぜい生き残ってくれよ、ZAFTの亡霊」


『退いたの』
飛び去るスローネを見送り上空のMSへと目を向ける。
それはすでに姿がハッキリ確認できるほどまで接近してきていた。その形には覚えがある。忘れるにはあまりに近い記憶。
「レジェンド……レイ、なのか…?」
ありえないとは分かっていても、そう思ってしまう。
『マスター、通信です』
「向こうからか。いい予感はしないな」


「よろしいですね? では後はカガリさん、よろしくお願いします」
「ああ」
「待ってくれ!」
ガタンと音を鳴らしてアスランは椅子を立つ。その部屋―オーブ内の統合軍会議室―の一同はそちらを見やる。
「なぜそこまでしなくてはならない! そんな事をすれば世界中が混乱する!」
「けどアスラン、もう世界は争いに包まれようとしてる。ゆっくりしてる時間はないんだ」
キラの発言にアスランは耳を疑う。
「キラ…お前は世界のために何の罪もない人達に『死ね』と言うのか…?」
「違いますわ。真実を隠すというのならそれは…」
「だからって…!」
ラクスの言いたい事は分かる。現状をそのまま放っておくのはあまりに危険だ。世界中でわずか一日にして多数の争いが起きてしまっている。
だがそれでも、今軍がとろうとしている策は認められない。
「アスラン…僕達には“力”がある。“力”があるのに何もしないでいるのはとても卑怯なことだよ」
「くっ」
そうだ。今の彼らには個人のだけでなく“組織”という“力”がある。多くの人の平和への“想い”を背負っている。それだけのものがあれば大勢の人を救える。
………少なくとキラ達はそう思っている。
「アスラン」
「カガリ…」
アスランの婚約者でありオーブ政府の代表であるカガリ・ユラ・アスハが声をかける。
「私達はデスティニープランを否定した。世界を導くのは、その私達の義務なんじゃないのか?」
「義務…か」
アスランは黙る。それを了承と判断したのか各々席を立ち退出していく。最後にカガリが振り返ったがアスランはそれに気付かない。
そしてアスランだけが部屋に取り残される。
「キラ、ラクス…お前達は……」
アスランは思う―あの2人は何か隠している。ただ単に話さなくていいと考えているだけなのかもしれない。
CBの件、彼らはあまり動揺していなかった…ように思う。CBを敵と認定するのもあまりにアッサリしていた。
人の上に立つ者としては正しいのかもしれない。だが熟慮しないのはどうかと思う。
(これだ…俺達に欠けているのは)
キラ、ラクスそしてカガリ、おそらくは自分自身も。自分達はもう間違わないと、正しい道を選んでいると思うが故に即断即決している気がある。
アスランは背もたれにもたれる。そして思い出す、あの少年を。彼は足掻くことを厭わず、手を差し伸べるを避けず、最後まで何も切り捨てず裏切らず、戦い散っていった。
(シン…お前が生きていたらこの世界を、俺達をどう思う? この世界をどうする?)
いや、と頭を振るアスラン。勢いよく立ち上がる。
 

「俺がやらないとな。オートマトンの使用は絶対にダメだ」


「…またアンタか」
『あら、連れないのね』
インパルスのモニターに映ったのは金髪の美少年…ではなく、暗い金色の髪をした美女―ドゥーエだった。
シンにとっては予想通りの相手である。こんな悪ふざけが好きそうだ。
「アンタはスカリエッティの仲間だろう。何のマネだ?」
『ふふふ…あなたに興味があるの』
思わせぶりな態度はいつものこと。「ふざけるな」と一蹴しようとしたところ、
『誰にでも唇を許すほど安い女ではないつもりだけど?』
「!!!」
真っ赤になって頬を触るシン。病院での出来事がリフレイン。
『くちびっ!?』
『……』
アルからは怒りを、エセルからは‘じとー’っとした視線(本だけど)を感じる。
弁解したいところだが、魔導書の声は持ち主(+α)にしか聞こえないのでできない。変な人と思われる(今更とか言うな)。
「お、お前のことなんて信用できるかっ!」
とりあえず声を荒げるシン。上のセリフは一応本心。
『あら嬉しい。あなたが‘お前’って呼ぶのはある程度親密な証なのよね』
「何をっ!?」
『声が裏返っとるぞ』
『…………』
アルの冷たい声とエセルの「っへぇ~↓」視線。
『ま、信用できないならそれでいいわ。この状況を1人で何とかできるのなら』
「うぐ…」
戦場を見れば地獄絵図もかくやという状況。双方消耗し泥沼化するのも時間の問題だろう。
そうなればCBとしてはしめたもの。作戦成功だ。
『マスター』
「(なんだ?)」
少しは機嫌が直ったのか、話かけてきたエセルにコソっと返すシン。
『彼女はCBメンバーとのことですが、今回は共闘するのが良いかと』
「(そう、だよな)」
『好きにすればよいっ!』
怒鳴るアル。白ロリは引き続き‘おかんむり’です。
『あら、お友達が来たようよ』
「お友達?」
レーダーが1体の機影を捉える。上から黒いMSが。
「フラッグ? …積んであったやつか。八神のやつ、輸送機はどうするんだ」
はやてが乗ってきたと踏むシン。だがモニターに映ったのは意外すぎる顔。
『いつまでフラフラ飛んでんのよ!』
「君は…!」
病院にことりの帽子を届けに来たオレンジツインテールの少女だ。
「え~っと…」
『覚えてないのにそれっぽい反応するな!』
「いやっ…覚えてるよっ? ただ名前が思い出せないだけで…ほら、芸能人とかでよくあるじゃん?」
『あー』
ドゥーエが同意。ちょっと意外。
『…ティアナ・ランスターよ。今度は覚えておきなさい、シン・アスカ』
「何で俺の名前を?」
彼女がガンペリー(仮)に忍び込んでいたとは知らないシン。


時間は少し遡る。
「う~っと…」
ガンペリー(仮)の格納庫。そこでティアナは壁に設置されていた小型モニターと格闘しているティアナ。
このモニター、本来は操縦席との通信時に用いる物なのだが、配線次第で外側のカメラと繋ぐこともできる。
現状がサッパリの2人。戦闘が始まったため少しでも情報を集めようとしての行動である。
「あっ、映った!」
「さっすがティア!」
小さい画面を顔をくっつけて覗く2人。スバルはツインテが突き刺さって痛いが我慢する。
「あ、あのガンダム」
インパルスとスローネの戦闘が遠目に映る。今のはインパルスを指してだ。
「あれにシン・アスカ乗っているのね」
(この間、初音島でも戦っていた。なぜ?)
ティアナが考えている横で騒ぐスバル。
「わっわっ、スゴイよティア!」
「うっさい。見つかるでしょ」
「でもどっちもスゴイよ!」
「……た、確かに」
まだまだ新人の2人は2機の動きについていけない。何がどうスゴイかは言えないが、互いの一進一退の攻防に息を飲む。
さらにティアナは気付く。
「ねぇ、赤い方が性能高くない?」
機動性そのものは五分のようだが、運動性と武装には明らかに差がある。だがスバルは、
「え? でも互角だよ」
スバルの言うとおり、勝負は互角と言っていい。赤いガンダムは余裕があるようにも見えるが、性能差を含めれば些細な事だ。
しかし押されているのは事実。さらにシン達は急いでいるらしい。
何よりこれだけの戦場を単機で―例え2、3体僚機がいても―無理だ。

 

「…ティア。あたしさ…」
「あんた、フラッグ乗ったことないでしょ」
「そうだけど~」
なぜこんな事を言ったのかはティアナ自身も分からない。自分が行ったところで何も変わらないかもしれないし、行く理由も不鮮明だ。
だが、彼女は後になって思う―これで良かったと…シン・アスカを信じてみて良かったと。
「私が行く」
「え」
「シン・アスカをここで死なせるのは、違う気がする」
そうしてティアナはフラッグに乗り込む。スバルが手動でハッチを開く。
『うぉっ!? 何や!? 誰かおるんか!?』
驚いたはやての艦内放送が入る。だが今は説明している時間が惜しい。開いたハッチからの風に髪を煽られながら叫ぶ。
「スバル、後任せたわよ!」
グッと親指を立てそれに応えるスバル。
それを見て笑顔を浮かべたティアナはコックピットを閉じる。
「空戦なんて試験落ちて以来やってないけど…っ」
スラスターを開き、大空へ飛翔する。


「…アレに乗ってたのよ。細かいことは後! 今はやることがあるでしょ」
『そうだな』
苦笑を浮かべるシン。それを見たティアナはちょっとドキっとする。
それを悟られまいと話題転換。
「そっちのガンダムタイプは?」
『…まあ、知り合いだ』
「ならいいわ。で、どうするの?」
『知らないのかよ…。あそこに司令部みたいなのが見えるだろ? あそこに八神が行けるようにするんだ』
山岳地帯の奥にそれらしき建物がある。なるほど、クーデター側の指揮にはうってつけだ。
「分かったわ」
ティアナはざっと戦場を眺める。TVや資料以外でこれほどの戦いを見るのは初めてだ。
おまけにこれから空戦をやらなければならない。苦い思い出がよみがえる。
(やれるの、私に?)
今になって恐怖が顔を出す。嫌な緊張が体を覆う。周囲を見れば2体のガンダム。
シン・アスカは間違いなく戦い慣れている。本物の戦争の最前線で戦い続けていた。
もう一方のガンダムは深く考えないようにしているが、ZAFTの技術の粋を集めて造られたMS…に似ている。相応のパイロットが操縦しているのだろう。
そう考えると、自分がひどく場違いな気がしてくる。
そこでシンが口を開く。
『君は援護してくれればいい。俺が前に出る』
シンとしては何気なく発したセリフ。が、負けん気の強いティアナとしては年の近い男の子に気を使われたように思え、ムカっとする。
「ふざけないで。やれるわ!」
勢い任せで怒鳴る。そのおかげか、さっきまでのマイナス思考は霧散した。
(ここまで来て…ビビるな、ティアナ・ランスター!)
グッとレバーを握る手に力を入れる。
モニターには「怒られちゃったよ……」と凹むシンが映っているが、ティアナの目には入らない。
ティアナはフラッグを前進させる。その後をインパルスがあわてて追い、最後にレジェンドは「やれやれ」と肩をすくめるだけの間を置いて後を追った。
 

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最終更新:2011年01月04日 13:39
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