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The Different Would and Different Day’s

 

The Different Would and Different Day’s

シン・アスカの場合/前編


ある日の夕暮れ。何時ものように学業に励んで、その疲れを身体に抱きながら何時も通りの電車に乗り、何時も通りの道筋を歩いて学生マンションへと向かう一人の少年。端正な顔立ちに紅い瞳といった、特徴的な容貌を持つ少年である。

「あ~…疲れた。やっぱり、日本史だけは未だに慣れないなあ…。」

そんな独り言を呟きながら、築八年の小型マンション(最寄りの駅から徒歩七分、家賃六万)の敷地内に入った。……苦手科目は大抵の場合、誰にでもある。しかし、少年の場合はそういったものとは訳が違っていた。

何しろ、それまでC.E.という西暦が終結してから少なくとも半世紀以上過ぎた時代を生きてきた彼にとって、いきなり鎌倉幕府がどうだとか明治維新がどうだとか局地的に過ぎる知識を問われても、解るはずがない。例え、オーブが旧日本移民が中核となって建国された国であっても、である。他の大抵の事は何でも出来るのに、何故これだけが?と担任教員に首を傾げられるのも、最早お馴染みとなっていた。

(ま、別にいいけど。)

少年―――シン・アスカは最近、自分の境遇についてそう思うようにしている。現在自分が通っている榊野学園から奨学金を得られるだけの成績は十分に取っているのだし、それに、もし奨学金が得られなくなってもどこぞの通信・技術系会社の嘱託として雇ってもらえればよかろう。だてに、人類が宇宙にまで生活圏を広げている元の世界で、その技術の粋を極めた最新鋭MSのパイロットを務めていたわけではないのだ。

(…ああ、でも言葉に会える時間が少なくなるのは少し寂しいかもしれないな。)

カンカンカン、と音を鳴らしてアスファルト製ではない、鉄(?)の階段を上がりながら、ふとそう思った。桂言葉―――自分の命の…とまでは言わないかもしれないが、とにかく、恩人の少女。出会ったきっかけは、多少血生臭い状況(何しろ、自分がここに「跳んで」くる直前の状況はMS戦の後に移行した白兵戦の直後であり、しかも負傷していた。まあ、負傷していなくても自分の纏っていたパイロットスーツは「赤」かったので、夜目には識別しにくかったかもしれないが)だったし、その時の俺は明らかに殺気立っていた。そういえば、ナイフを突きつけた覚えもあったような気がする。

そんな状況にもかかわらず、その後出血多量で一時的に意識を失った俺を自分の家に匿ってくれた(家から近い、公園だったらしい)のは、当の言葉であった。……話してくれないので詳しくは分からないが(何とか聞き出そうとしても、「いいじゃないですか、今が普通なら」の一言で締められてしまう)、家族の反対もあっただろう。突然娘が男を、しかも血濡れの男を連れて帰ってきたのだ。普通の親ならば、救急車を呼んだ上で不審者扱いか傷害事件として警察に通報するのが普通だろう。

(その事を考えると、本当に頭が上がらないな…)

そう、俺が警察に通報される事もなく一時的とはいえ桂家に居候できたのも、他ならぬ言葉が必死に両親を説得してくれたおかげだ。その言葉の必死さに両親も折れ始めたところに俺が目を覚まし、状況を理解できないながらもとりあえずの質問に答えたのである。

そんな中、俺が両親と妹を失った、戦争孤児であるという事をついうっかり(他意はない。本当にうっかりとである)、ポロリとこぼしてしまい…結果、同情してくれたのかどうなのかはわからないが、とりあえずは居候してもいいという事で決定してしまった(C.E.の事はさすがに話してはいない。そのせいか、だましてるようで正直良心が痛かったりするが)。

……まあ、何で言葉がそんなに必死になったのかって、その理由もまだ教えてもらっていないけど…それは、言葉が話すまで待つ事としよう。もしかしたら、一生話さない気かもしれないけどな。

(大変だったのはそれからだ。)

 

ポケットをまさぐり、チェーンに繋がれた鍵を用いて二階の住人が共同で使用している、小型ロッカー群の中から自分の部屋の鍵が入っているものを選び出して、鍵を取り出す。そして、自分の部屋…二階の最隅の部屋である…に向けて歩みを進めながら、尚も回想を続ける。

最大の懸念事項だった偽造戸籍は難なく作れた。だてに、人類が宇宙にまで生活圏を広げている元の世界で、その技術の粋を極めた最新鋭MSのパイロットを(ryそして、桂家の援助の下、何とか学校にも通わせてもらえる事となったのだが…本当の敵は外ではなく、内に潜んでいた事を俺は間もなく痛いほど思い知る事となった。



…桂言葉は、女性である。しかも容姿・スタイル共に掛け値無しの、かなりの美少女である。……ここまではいい。しかし問題なのは、どこか「ズレ」ているという事で。その事を俺は本気で嫌と言うほど実践付きで実感した。

何というか…俺に限らず、男に対してのガード全般が甘い、とでもいうのだろうか。まあ、結構なお嬢様育ちらしいから仕方がないとは言えなくもないかもしれないが…それこそが、根本的な問題だった。

(ほんっとうにあの居候の時は辛かった…)

今でも、あの耐忍の日々が思い起こされる。夜中に一人で俺の部屋に入ってくる…などという事は序の口。他にもそのまま寝ぼけて着替えだす、朝目覚めたら何故か目の前に言葉の顔が、しかも正面に見える、俺の右手が不節制な事を(無論、意識したわけではなく)仕出かす…etc.

最悪だったのは榊野学園中等部に通い始めてから少し経った頃、朝は快晴だったのに放課後になると突然の秋雨が降った―――のみならず夕立という土砂降りになった、某日。走りに走って、何とか桂家に辿り付き。濡れ鼠と言っていいほどびしょ濡れになった体をとりあえずは暖めようとシャワーを用いてお湯を溜めたのだが…ちょうど沸いた頃に運悪く(良く、かもしれないが)言葉が帰って来て。

とりあえずお帰り、と言って帰ってきたばかりの俺ほどではないが、十分に濡れたその体を拭くためのバスタオルを渡した…そこまでは良かった。だが、風呂が沸いている事を言及した時に俺も濡れている事に気付かれたのは…まあ、無駄なところで鋭いというか何というか。

……そこからが大変だった。先に入っていいと言ったのに、当の言葉がそれを拒否したのだ。さあ、困った。はっきり言って、俺は生半可な病気にはかからない。それほど上等な遺伝子コーディネイトをされた訳ではないが、少なくとも風邪なんかは絶対にひかない自信があった。

しかし…言葉は違う。大体が俺は居候で言葉はこの家の人間だし、それ以前に俺は男で言葉は女。それに加えて、桂家に居候してもう三ヶ月は過ぎていたから、言葉が病弱だという事は俺も知っていた。だからこそ、風邪をひかないためにも早く体を温めて欲しかった―――断じて、それだけだったのだ。

だが。今でも、何で「あの」言葉からあんな曲がり捻ったあげく自分の予想斜め横どころか180度違う意見が言葉から出てきたのかが解らない。いや…議論が平行線を辿る内に、ほとんど同時にくしゃみをしたのが発端だったのかもしれない。とにかく、次の瞬間の言葉が思いもよらなかった事だけは確かだった。

『そ、それじゃあ、一緒に入ればいいじゃないですか。』

 

刻が、凍った。どれくらい凍ったかというとほら。何かどこかから『ザ・ワールド!!』とか言う声が聞こえたと思ったら、何時の間にか無数のナイフが目の前にあって、それが一気にこちらに向けて動き出すって言うあれだよ、あれ。別の言葉で表すと、『最高にハイッて奴だ!』とか『俺は人間を辞めるぞーっ!!』とか…え、違う?

それなら、C.E.ではもはや見る事が叶わない勢力圏を未だ保っているシベリアの永久凍土とか、ウラジオストークのような冬季には凍ってしまう凍港。…そんな類の凍り付きだと思ってくれ。うん、意味が分からないだろう。けど、その時の俺は多分あんたたちより意味が分からない―――どころか、思いっきり思考停止していた。

とりあえず、何とか再起動を果たした―――その再起動も、氷結させた当の言葉の言葉(言い得て妙だな)がきっかけで溶けたのだから、何とも言えないが―――俺が、最初に思ったのは唯一つ。言葉一流の冗談かな、という希望的憶測だった。……当然と言えば当然である。幾ら言葉がそのような常識面から「ズレ」ていても、さすがにもう高校生。そう言った事は、最低知識だけでも多少は知っておかなければおかしい年頃だ。

それなのに、何でこんな事を言う?何で、何で…何で!ああ、もう。今だから多少は冷静に言えるけど、その時の俺はオーブでの戦闘でインフィニット・ジャスティス…『無限の正義』という、何とも大層に過ぎる機体名を持ったあの赤い機体が、いきなり目前に降下してきた挙句、そのパイロットが確かに殺したはずの元上官、現裏切り者であったと分かった時よりも混乱していただろう。だから…こんな、言葉が出てきたんだと思う。

『言葉…俺、一応男なんだけど。』

俺の必死に呼びかけるようなその言葉に、呼びかけられた本人は意外な事を言われた、とでも言うように瞳を瞬かせて―――俺の心に、さっくりと切り込むような…いや、抉り込むような一言を放った。

『ええ、解っていますけど…それが、何か?』

ソレガ、ナニカ。……思いっきりショックを受けた。いや、確かにこの世界に来て何らかの超常的力が働いたのか、身長は思いっきり中学生にしか見えない風に縮んだけど(中等部に入れられそうになったのはそれが原因だったりする…戸籍表記?記憶に(ry)、言葉の妹である心の良き遊び相手として、(桂家では)人畜無害の様相を見せていたけど!

だからって…これはないだろう。こんな、こんな…弟みたいな扱いだったなんて!いや、それ以前に何で俺はそんな事に過度のショックを受けてるんだ。今までの行動から解り切っていた事だろう?言葉が、俺を、てんで男として見ていない…なんて事は。

いやいやいやいや、だから、何で俺はこんなにショックを受けてるんだって!これじゃあ、まるで…ま…るで………

『シンく~ん…?』

………俺、課題を思い出しましたから、先に入って下さい!何も解ってないであろう、言葉の呼びかける声にそう叫ぶように返すが早いか、返事も待たずに階段を駆け上がり、自分の部屋(二階の突き当たりにあった物置を、改装した部屋だ)へと駆け込む。

カチャリ、と鍵を掛け…たところで限界がきた。代わりに聞こえるのは、力なく壁にもたれかけた背中の衣服と壁が擦れ合う音。そしてその音が止む前に、ポタリ、と雫が滴る音が新たに生まれる。

もう、止まらない…止まらなかった。何とか溢れ出る涙を止めようと掌で目元を抑えるが、止まらない。……どうも、俺の恋は何時も涙に始まるという運命に定められているらしい…そして、終わりも。

某月某日、秋雨が降りしきる中。俺は―――この世界で最初の、ある意味最も慈悲深く、その実は最も無慈悲な失恋をした。



(思えば、あれがきっかけだった…)

その事件…とも到底言えない事件の後、一週間が経った頃には俺は既に桂家を出る決意を固めていた。いや、元々将来的には出るつもりであったが、それでも事が前倒しも良いところ…という形になったのは、この事件の影響という事に、間違いは無い。

あれ以来、言葉と顔を合わせるのが辛かったし、万が一、そんな自分が自分を抑えきれずに自暴自棄になって言葉を傷付けたら…予想し得る最悪の事態を起こしてはならない―――そんな普段は考えない事を思い詰める…それほどまでに、俺は切羽詰っていた。

 

機を見て桂家を出て一人暮らしをするという旨を言葉の父親である源次さん、母親である真奈美さんが一緒に居る時に伝えると、少し残念そうな顔をしてくれたが、それでも俺の決意に異を挟むような事はなかった。…理由すら問おうとはしなかったのである。正直言って、理由を問われると非常に痛く、そして辛かった俺としては助かったのだが、それでも、幾つかの条件を…あれを条件と言っていいのかは疑問であるが…確約させられた。

壹:遅くとも在住を辞する一月前までに、言葉・心にその旨を包み隠さず、自分で伝える事
弍:桂家在住が切れた暁には、当然の事ながら学費は自分で払う事(ただし生活費・家賃・その他等については、その限りではない)
參:最低でも一月に一度、もしくは一月半に一度は、桂家に顔を出す事

……見ての通り、条件という程ではない。むしろ、これでは俺に対する援助の方が強い。その事を指摘すると、源次さんは「男子が欲しかったのに、縁が無かった。それだけの事だ。…それにいまさら君がどこの誰であり、元軍人であったか、人を殺した事があるか、などと下らぬ妄言を言って無慈悲に追い出すほど、この桂源次の自分の目は節穴ではないし、懐も狭くはない!」と言い切った。真奈美さんはその様子を少し困ったかのように見ていたが…何も言わなかったところを見ると、異論はなかったのだろう。

全く、感謝しても感謝しきれない。こんな俺に平穏無事と言える生活をくれた桂家の人たちに。だからこそ、俺は離れなきゃいけない…取り返しの付かない事態に陥る前に。俺が言葉を―――傷つける前に。



と、そう改めて決意したのが現在、とことこと自分の部屋へと向かっている俺の、大体一年と三ヶ月くらい前の姿で。いや、あの時は若かった…今も若いけど。俺が言葉から離れる事―――それこそが、最も重要な事だと思い込んでいたんだ。

……それが大きな間違い、とまでは言わないけど、ある面では間違いであったと気付いたのは雪が溶け、桜が咲き誇り、そして散り。俺と言葉が、高等部一年に進学して(同じクラスだった…その時の俺の心境からすると、勘弁してくれ)少し経った頃。別の言い方をすると俺が桂家を離れ、桂家から少し離れた駅前の学生アパートで一人暮らしを始めた頃、という事となる。

一人暮らしにも少しずつ慣れてきて、順風満帆―――少し、寂しさを感じるのは否めなかったが―――に思えた俺の部屋に、思いがけない、まるで一過性の台風の様な珍入者が、一応の借主である俺の許可無しに勝手に部屋に入った挙句、ガサ入れしているのを眼にした事がきっかけで。

(そうそう、あの時もこんな風に鍵がスルッ、と回った…ってなにぃっ!?)

驚愕―――思った以上に、もとい、いつも以上にスンナリと回った鍵を見てそうとしか言い様が無い感覚を覚える(良く見ると、僅かに扉が空いていた)。と同時に、嫌な予感も覚えた。…前述した一過性の台風ではない。『あの子』にはもう一人で来ないように申し含めてあるし、大体が、それならばこちらから出向けば良い話だ。と、なると…

「……またあいつか。」

瞬間、ここ最近、暇さえあれば俺の部屋に入り浸っているのではないか、と感じている…どうやって合鍵を入手したのか、是非とも詰問したいところだ。それと、彼氏はどうした…俺にとっての正に悪魔のような存在が脳裏に思い浮かぶ。……恐らく、十中八九当たっているだろう。

「……そろそろ、不法侵入って事で警察に届け出ようか…でも、面倒事はいやだしなあ…」

大体がそんな厄介事を引き起こして、もしこのアパートを追い出されたら…色々な意味で、目も当てられない状況となる。それに、効果無さそうだし。

まあ、とりあえず逃げ道は無い事だし…少し、灸でも据えてやるとするか。決意して、扉のノブに手を掛ける。何時も通りの重さのはずのノブは、少し重い気がした…。

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最終更新:2011年01月04日 13:49
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