機動戦士ガンダムSEEDDESTINY放送終了から数年。
シン・アスカの新たな物語が始まる。
機動戦士ガンダムSEEDDESTINY-SIN In the Love-
PHASE-Actor-1「極貧少年アスカちゃん」
地球のとある深夜の公園。
その片隅の小さなダンボールハウス内でひとつの影が動いている。
手に持った機械から溢れる光が照らしているのは…シン・アスカだった。
『この方たちは全員あなたの花嫁候補なんですよ』
「ああ…僕にも花嫁候補が12人いればなぁ……」
『機動戦士ガンダムSEEDDESTINY』放送終了後、仕事が全くなくなり生活費が底をつき家賃が払えず借家を追い出されることに。
オマケにキラファンから目の敵にされ、大事なシ○プリグッズやガンプラも全て失ってしまった。
今や住居である『ダンボールインパルス』とかろうじて持ち出せたPSP(1000)、そしてモニター料としてもらった『マリ○ワ~PS限定版』だけが彼の持ち物となっていた。
『お兄ちゃん、だ~い好き☆』
「さすがシ○プリと端を同じくする作品。スバラシイ」ハナヂブー
寒さに震えながらも暗闇の中現実逃避を続けるシン。
元々この業界に入ったのは彼の祖父が経営していた銭湯を買い戻すためだった。それは両親が借金の返済のために売り払われた。そのことに猛反発したシンは実家を追い出されたが、それでも銭湯を買い戻そうと奮闘していたのだ。ちなみに妹のマユは今頃両親と仲良く暮らしているだろう。
『今までも…そしてこれからも…ずっとあなたをお慕い申し上げますわ』
「うう…エエ娘や…。本来なら愛想を尽かして当然なのに…」
完全に主人公と一体化しているシン。
しかし名前はデフォルトのままだ。だって自分の名前を入れると色々ヘンテコなことになるから。
もとから声付きで名前を呼んでくれないがそこは脳内補完する。それぐらいシンにとっては造作もないことである。
そんなマダオ(=マジにダメなオタク)化している人間の住んでいるダンボールインパルスをノックする音が。
「…またか」
PSPの電源を切り、拾った角材『バスターソード』を手に入口を開ける。
こんなところに住んでいるといるのだ、「や ら な い か」などとぶっこく欲求不満のオイチャンが。素手でクリーチャーとバトルする作品に出演したこともあるので張り倒すのは簡単なのだが、気が弱いシンはこうやって武器をチラつかせ穏便に済ませていた。
しかし外にいたのはオイチャンではなく、かつて共演した人物だった。
「ハーイ、シン」
「ル、ルナマリア…」
拾った懐中電灯が照らす室内。ルナマリアは缶ジュースを飲みながら言う。
「結構丈夫そうね。あったかいし」
物珍しそうに見回す。
例の作品で全くの誤解とはいえ大物俳優アスラン・ザラとの仲が噂されるようになり、その誤解を解く見返りとしてアスランから大金をせしめたため、こんな生活とは無縁なのだろう。
「なんか用?」
ぶっきらぼうにシン。内心ガクブルなのだが共演作品の都合上、素を見せるわけにはいかない。
「まあそう邪険にしないでよ。朗報を持ってきてあげたんだから」
「朗報?」
ルナマリアは一通の封筒を取り出し、シンに渡す。
「多重クロス創出委員会?」
「中、見てみなさい」
封を切り中身に目を通す。みるみるシンの顔色が変わっていく。
「これは……」
シンの手が震えている。ルナマリアはニヤリと笑って、
「出演依頼よ」
翌日、シンはダンボールインパルスを資源ゴミに出した後、手紙に記されていた場所に来ていた。
「どう見ても…学校、なんだけど」
そう、指定された場所は学校。シンは知らないが風見学園という。
「本当にここでいいのかな?」
‘おっかなびっくり’敷地に入る。すると正面に『体育館に集合』と書いた看板を発見。
それに従い体育館まで行くと、入口に受付らしきものが。
「シン・アスカ様ですね?」
「は、はい」
「どうぞお入りください」
良く分からないうちに中へ通される。
館内には絨毯が敷かれ、料理の並んだテーブルがいくつもあり、人も大勢いる。ステージ上には『多重クロス新作説明会』と書かれた垂れ幕が。
「こ、これは…」
何となく気後れするシン。そこに声がかかる。
「もしかしてシン・アスカさんですか?」
「え、あ、はい…」
「やっべ、まじ本物!? うっそ、チョーカッコE!!」
「あ、あの…」
「お~い、みんな! マジモンのシン・アスカがいるよーっ!」
声をかけてきた赤いショートカットの少女が誰かを呼び寄せる。すると11人の女性が集まって来た。
「うひょー! 本物ッスか!?」
「TVより大人っぽいな」
「まぁ、放送から何年も経ってますしね」
「あ、最終回の事故で顔にキズができたって話本当だったのか」
「こっちの方が雰囲気あって強そうじゃない?」
女3人寄らば姦しい。12人にもなれば騒音レベルだ。
シンは彼女達を見ていてふと思い出す。彼女達を見たことがある。そう、あれは…
「まさか君達…ナンバーズ?」
「ちょ、まじ? あたしらのこと知ってる? まじ知ってる!?」
「ノーヴェ、いくら緊張してるからってその話し方は無いわよ」
ナンバーズ。それは現在売り出し中の12人組の歌って踊れるアイドルユニット。プロデューサー兼マネージャーのスカリエッティなる人物の手腕と彼女達の容姿によって、人気急上昇の今最も旬な芸能人である。
「う、うん。街頭モニターで」
「チョーカンドー!!」
ノーヴェと呼ばれた少女が奇声じみた感動の声を上げる。
そうこうしていると向こう側から何やらもめている声が。
シンはそちらに目をやる。
「いーじゃんよー。ちょっとぐらい付き合えよー」
「よさないか、キラ。嫌がっているぞ」
「ああ? っせーんだよヅラ! ファーストブリットぶちかますぞ!?」
「ヅラじゃない! あとあれは特撮だろう」
「あ、あれは…」
「種において主役を務め、続編では人気にモノを言わせ脚本を書き直させたキラ・ヤマトね」
ナンバーズの一人、ドゥーエが解説する。
キラ・ヤマト。デビューから何年もしない内に『ニュー○イプ』誌上人気ナンバー1を獲得した超大物俳優である。
しかしそれで有頂天になったのか、生来のワガママ(主に女性関係)を発揮。親友の彼女のNTRに始まり、脚本家への圧力、共演者へのお手付き、事故を装った美形キャラの排除等々問題行動を起こしてばかりいる。
しかしなまじ実力があるため誰も何も言えない状態なのだ。
そして何よりシンにとっては苦い思い出しかない相手だ。彼が種死に関わってきたあたりからシンの役にケチが付き出したのだから。
ちなみに横のアスラン・ザラは常識人ぶってはいるが、先のルナマリアの件から分かるように実際は女性関係はキラ以上に派手。その上キラLOVEな両刀使いだったりする。
そして彼もまたシンの不幸に深く、ふか~く関わっている。
それもあってシンは何となく二人の方を見ていたのだが、
「あれ? あれあれ? もしかして君…シン・アスカじゃない?」
「あ」
シンに気付いたキラがこちらを向く。
「うわ~、なに? もしかして君も呼ばれたの? うっそ、ちょ~ウケるんだけど」
「えっと…」
「まあいいや。どうせ今回も主役はこの俺様ちゃんなワケだしぃ~、せいぜい引き立て役としてまた派手に暴れちゃってよ。『なにも知らないくせにぃーっ』って。ぎゃははは♪」
「おい、やめろキラ」
「っせーんだよヅラ! セカンドブリット叩きこむぞ!?」
「ヅラじゃない! あとそれも特撮だろう」
言い合ってる二人から目を逸らすシン。するとキラに絡まれていた金髪の女性と目が合う。
「……」
「ん? あれ、どうしちゃったのシンちゃ~ん? ああ、そっかそっか。日蔭者のシンちゃんは俺様ちゃんがモテるのが気に入らないのか。
そぉ~だよねぇ~。君、相手役いなかったもんね~。もしかしてガンダム史上初じゃない?
あっは、オメデトー♪ ギネスもんだわ。ねぇ、アスラン?」
「あ、ああ…そうだな///」
キラに話を振られ、照れるアスラン。ヤメロ。
シンは誤解を解こうと口を開く。
「いや、そうじゃなくて…」
「はあ? なに、この俺様ちゃんの言う事が間違ってるっての? アリエナーイ。
だってぇ、俺様ちゃんはぁ、超☆大物なんだよ? 君みたいなドロップアウトボーイとは違って主役を務め上げたんだよ? それも2作品。
いる? ねぇ、いるかな? 2作品もガンダムの主役演じた人が他にいるかな?
あ、アムロ氏は別ね。あの人、間に充電期間あったから」
そう、キラはガンダムにおいて連続2作品主役という偉業を成し遂げた。増長するのも無理はない。
だがシンは生前祖父から幾度となく言われたことを思い出す。それは、
「お、『女の人に無理矢理言う事聞かせるなんて最低な奴のすることだ』…と思います」
その瞬間、その場にいた人々が息を飲む。
あのキラ・ヤマトに真正面から意見した人間なんていなかったのだから。
「…」
「…」
「…あーあ、マジ切れたわ」
女性の手を放しフラフラとシンに近寄るキラ。
「せっかくこっちが穏便に済ませてやろうとしたのに。
あーあ。これだから困るわ。なに、その考え方?
俺様ちゃんがモテるのはぁ、魅力的だからでしょ。強くて頭もよくておまけにカッコイイ。だからでしょ?
なのに無理矢理だなんて…完全な言いがかりー。
とりあえずボコして~、その後名誉棄損で訴えてやろ~。
…あ、ゴメンゴメン。君、所属事務所ないんだっけ? それじゃ~訴えられないやー♪」
そしてシンの肩に手を回す。
「んじゃーとりあえず表に…」
と、そこで体育館の入口がバーンッと開け放たれる。
「なんなのなんなの!? どうしてこの私の出迎えがないのっ!?」
ヒステリー気味に叫びながら一人の女性が入ってくる。
「高町なのは…!」
キラが忌々しそうに呟く。
高町なのは。『トライアングルハート』にてデビュー。
その後若干9歳にして『魔法少女リリカルなのは』において主役抜擢。作品のシリーズ化に伴い本人も成長し、もはや『少女』でないにも関わらずシリーズ全作品通して主役という快挙を現在進行形で継続している大女優である。
業界においてキラと派閥を二分するほどの人物だ。当然、お互い仲が悪い。
「あなた達分かってるのっ!? 私は高町なのはなの! そんじょそこらの役者とは何もかもが違うの!
なのに出迎え無しなんて、失礼にも程があるのっ!!」
怒鳴り散らすなのは。しかしキラと違ってどこか“威厳”や“誇り”を感じさせる。纏うオーラはさながら……魔闘気!
そのなのはがシン達、正確には脇に金髪女性に気付く。
「フェイトちゃん!」
「なのは…!」
「な、フェイト…だって…?」
歩み寄る二人。しかしシンは先の金髪女性の名を聞き驚く。
フェイト・T・ハラオウンと言えば高町なのはと同じく『魔法少女リリカルなのは』で準主役(一部ではヒロインとも)を果たし、その後のシリーズにおいても活躍している大物である。
さらに彼女は主題歌も歌っており、作品貢献度はなのはよりも高いかもしれない。
‘ひし’と抱き合う二人。作品内だけでなくリアルでも親友なのだ。
なのははギギギ…とシン&キラを睨む。
「おい、そこの雑魚共。私のフェイトちゃんに何をした?」
さながらTV版の『あのシーン』のような表情を浮かべる。1カメさんが泣いたのはいい思い出です。
戦慄するシン。キラもちょっとビビる。
「ち、違うのなのは。そっちの彼は私を助けようと…」
「え、僕?」
フェイトにそう言われ面食らうシン。別にそういう考えは無かったのだが。
「ほう、ならそっちの…って、キラ・ヤマトなの…」
「ちっ」っと舌打ちするなのは。堂に入ってる。
「ふ、ふん。なんちゃって魔法少女に凄まれてもちっとも怖くないし…」ガクブル
「だったら…」
ユラリとなのはのオーラが揺らめく。こいつ、動くぞ…!
両雄が激突しようとしたところ、突然館内の明かりが落ちる。
「「「!」」」
ザワめき出す人々。今度はステージがパっとライトに照らし出される。
全員がそちらへ目を向ける。そんな中、一人の金髪ロリツーサイドアップが袖から走り出てくる。
マイクを握りコホンと咳払い。そして高らかに謳う。
「ただ今より、多重クロス新作『機動戦士ガンダムSEEDDESTINY-SIN In the Love-』の説明会アーンドキャスト発表会を始めまーーすっ!」キィーーン(←ハウリング)
ついに開かされる新作。発表されるキャスト。そこに渦巻く幾多の野望陰謀。
そしてシンの役どころは? 出番は? ギャラは?
果たしてシンは今度こそ銭湯と妹を取り戻せるのか!?
次回『全員集合だよ、アスカちゃん』!
新たな物語(=仕事)、掴みとれ! シン!!
最終更新:2011年01月22日 08:02