昼休憩、いつものようにいつもの場所で俺はいつもの二人を待ちわびていた。
校舎の屋上に吹く風は、暑苦しさを促すものから肌寒さを感じさせるものに変わってきている。
そのせいか、俺以外にここで飯を食おうというもの好きは見当たらなかった。
訂正、俺達以外には・・・だ。
レイ「もう上がって来ていたか。今日はずいぶん早いな」
ルナ「うわ、珍しい。傘でも持ってくるんだったかしら」
シン「あのなぁ・・・」
高校に入ってからも、なんだかんだで俺達はよくつるんでいる。
クラスも部活もばらばらで、それぞれに新しい仲間もできて、勉強も難しい。
それでも、昔馴染みとの繋がりは俺達の中でないがしろにできないくらい大切だったらしい。
気付けば、屋上で一緒に食事を取ることは俺達の間で日常になりつつあった。
ルナ「冗談よ冗談。それで、なんか面白いことでもあったわけ」
シン「そうだ、レイ。これを見てくれよ」
レイ「手紙? 消印が外国ということは──────まさか、彼女からか!」
シン「ああ、英語もだいぶ話せるようになって向こうの友達もできたってさ。
ほんと、一時はどうなる事かと思ったけど、頑張って立ち直ってくれたみたいでよかったよ」
レイ「よく平然としていられるなお前は。あと少しで殺されるところだったそうじゃないか」
シン「だ~か~ら~、それはレイの勘違いだって」
ルナ「はぁ!? 殺されかけたって・・・ちょっと、何の話してるのよ!」
レイ「そうか、ルナマリアは受験でそれどころではなかったな。
シン、せっかくだから彼女との慣れ染めを話しておいたらどうだ」
シン「慣れ染めっていうほど大げさなもんじゃないよ。まぁ、ルナならいいか。
そうだな、あれは確か・・・」
題名未定 外典 『 裁かれるべき正義 』前篇
あれは確か、ハイネさんに言われて無理やりザフトを抜けさせられた後のことだ。
その頃の俺は、高校への推薦入学がほぼ確定したことで目的を見失っていた。
部活もほどんどの部員が引退しているし、受験戦争の真っ只中の奴らを誘って遊びに行くわけにもいかない。
勉強も運動もしない中途半端な時間を、成績優秀過ぎてすることのないレイと二人でだらだらと無駄に消費していく毎日。
そんなときだった。
マユ「う~ん」
シン「どうしたんだマユ。食事中に考え事するのはよくないだろ」
マユ「それがね。私の友達に、『桂 心』って子がいるんだけどその子のお姉さんが学校で虐められてるみたいなの」
シン「虐めって、具体的には?」
マユ「それが、本人は隠したがってるらしいの。そのせいで、心ちゃんも元気が無くって」
シン「・・・そうなのか」
マユ「どうにかなんないのかなぁ・・・」
シン「・・・・・・」
きっかけは、どこにでもあるささいな会話。
虐めの実態を調べてみようと思ったのも、ほんの気まぐれだった。
本気でどうにかしてやろうなんて考えはなかったし、どうにかできるとも思ってなかった。
レイに調査を頼んだのも半分は暇つぶしのつもりだったのかもしれない。
シン「それで、どうなんだ」
レイ「まだ関係者の洗い出しが終わったところだ。どうも面倒なことになっているらしい」
シン「・・・これだけわかってるなら十分だよ。あとはこっちで何とかするさ」
レイ「それにしても珍しいな。お前がこういうことに首を突っ込むとは」
シン「妹の友達が関係してるんだ。無関係じゃない」
レイ「・・・それだけか?」
シン「当たり前だろ。他にどんな理由があるんだよ」
レイ(・・・過度な苛めから死を連想したか。本人は気づいていないようだが、
幼い頃にマユが死にかけたトラウマからまだ抜け出せていないようだな)
シン(くそ、こんなことをする奴らがいるから!)
結果は、真っ黒。どす黒い悪意の塊が、何の罪もない女の子に向けられていた。
俺はその日のうちに本格的に調べ始めた。
許せなかった、何の落ち度もない彼女に苛立ちをぶつける連中が。
知ろうともしないどころか、他の女にまで手を出したという彼氏が。
一度知ってしまったら、もう止まらなかった。
同じくらいどす黒い感情が、俺の中にも湧きあがっていたから。
泰介「ああ? 誰だお前」
?「聞きたいことがある。加藤 乙女って奴のことだ」
泰介「てめっ、まさか・・・ぐっ!」
?「聞かれたことにだけ答えろ」
泰介「・・・っへっへ、残念だったな」
不良A「潰してほしいってぇのはこいつかぁ」
不良B「なまいきそうな面してんな。優しい俺が整形してやるよ」
泰介「俺を嗅ぎまわってる奴がいることなんてとっくに知ってたんだよ。
袋叩きにされやがれ」
シン「・・・馬鹿が」
『話しあい』に、それほど長い時間はかからなかった。
俺とレイが手を組む時は、大抵俺が前に出てレイが後方支援を担当することになる。
俺が聞きだした情報をレイに届ける。
レイは集めた情報を元に、俺に次の指示を出す。
そうして、俺たちは少しずつ苛めを解決するために進んでいった。
マユ「ねぇ、知ってる? 榊野学園の辺りで不良同士のすっごい喧嘩があったんだって」
シン「へぇ、物騒だな」
マユ「それで、喧嘩を吹っ掛けられた方は数十の不良を一人でぶっ倒したらしいよ。
学園の生徒も一人混ざってたんだけど、全治六カ月でその時のことがトラウマになって病院から出てこないんだって」
シン「そんなことより勉強はどうしたんだよ、試験近いんだろ」
マユ「ぶ~、ちょっとは話を聞いてくれたっていいじゃない」
シン「こっちは食器を洗うのに忙しいの。そ・れ・と・も、手伝ってくれるのか?」
マユ「あ、宿題やってなかった。やってくるね」
シン「お、おい、マユ! ったく・・・」
俺たちは止まることなく突き進んでいった。
はむかってくる相手には鉄槌を下し、悪を行った者には裁きを下す。
弱きものには手を差し伸べ、傷ついた者には救いを与える。
まるで映画に出てくる正義の味方のように。
今思えば、俺は自分達のしている『正しさ』に酔っていたのかもしれない。
道理も倫理も平然と無視させる『正義』という名の理屈は、まるで麻薬みたいに俺達を狂わせていた。
どうして気付かなかったんだ。
そこには必ず、傷ついていた人がいたはずなのに・・・。
レイ「今回もずいぶんと派手にやったようだな」
シン「あっちが勝手に盛り上げたんだよ」
レイ「・・・まぁいい。カラーコンタクトは付けて行っただろうな」
シン「ああ、でもこんなのでごまかせるのか」
レイ「お前の眼はよく目立つ。俺のアリバイ証言もあわせれば立証は不可能だろう」
シン「・・・悪い。犯罪の片棒を担がせる気はなかったんだけど」
レイ「これで二つ貸しだ。それで、情報は十分そろったがこの後はどうする」
シン「それがその・・・まだ考えついてない」
レイ「まったく・・・」
シン「そうは言っても、関係者全員ぼこぼこにすればすむって話でもないだろ。
ここから先は俺の専門外だし、慎重にいかないと」
レイ「そういうだろうと思ってこちらですでに手を打っておいた。
実は、お前の取ってきてくれた情報を元に監視カメラを設置しておいたら、
偶然現場が映っていてな。十分に証拠になる代物だったのでソースを明かさずに警察関係者に譲渡した」
シン「うわ・・・」
レイ「今頃、少年課が極秘裏に彼女たちを確保しているはずだ。判明している余罪を明かすだけでも退学は免れないだろう」
シン「いいのかよ、そういうことやって? 現場って確か学校じゃなかったか」
レイ「無論、許可は取ってある。事情を話したら、学校側も喜んでこちらに協力を申し出てくれたよ。
事を内々に処理することを交換条件にだがな」
シン「学校に迷惑をかける生徒のために面倒をしょい込むつもりはないってことか。薄情な話だな」
レイ「原因となった伊藤 誠、西園寺世界にも適当な理由で転校してもらうことになっている。
これで、『学校での』問題は片がつくだろう」
シン「俺の役目もこれで終わりか。長引くと思ってたのに、結構あっけなかったな」
レイ「甘いぞシン。まだ一番重要な案件が残っている」
シン(あ、嫌な予感)
レイ「関係者が周囲からいなくなった以上、傷ついている被害者、桂言葉を精神面で救えるのは・・・」
シン「あー! あー! 聞こえない! 聞こえない!」
レイ「・・・シン、妹を通じて彼女に接触し心の傷を埋めろ」
シン「要は口説けってことだろうが! 無茶言うな、俺は彼女だっていたことがないんだぞ!」
レイ「往生際が悪いぞ、シン! 元はと言えばお前が始めたことだろうが」
シン「レイがやればいいだろ、もてるんだから!」
レイ「(お前がそれを言うか!)接点のない俺が言っても警戒されるだけだ! いい加減覚悟を決めろ!」
シン「無理だっていってるだろ! それにそういう卑怯な真似はしたくないんだよ!」
レイ「毎度毎度、ラッキースケベでフラグを立てる貴様のいうことか!」
シン「好きでラッキースケベをやってるんじゃない!」
レイ「そういう台詞はパルマを封印してから言え!」
バターンッ
マユ「お兄ちゃん達!ご近所まで聞こえる大声で喧嘩なんてしないでよ、恥ずかしいでしょ!!」
シン「はい!」
レイ「ごめんなさい!」
シン「・・・・・・」
レイ「他に方法が無いことはお前もわかっているはずだ。
例え、人の心の隙間につけ込むようなやり方を、お前が嫌っていたとしても」
シン「・・・わかったよ。けど、どうなったって知らないからな」
虐めをする奴らを全て叩き潰したあとなら、彼女を救うことができる。
俺達はそれを疑いもせず盲目的に信じていた。
そうすれば、彼女の傷ついた心なんてすぐに癒されると思い込んで。
正義を行う『楽しさ』を悪を潰すためには『仕方がない』と誤魔化して。
もっと早く気付くべきだった。
それは、彼女の望んでいた『結末』じゃなかったんだ。
最終更新:2011年01月22日 09:16