アットウィキロゴ

夜向性 ◆pLz4u.wgPs-第2.5話 前編

コンピュータが不明ファイルを解析しました

DDS-NET
DATE:200X-4-XX
NAME:STEVEN
このプログラムのロックを外す事が出来た
すべての人へ

警告する
現在・・・我々人間に 深刻な危機がせまっている
私は依頼を受け「あるプログラム」を開発していたが
実験は失敗し 地上と魔界を繋げてしまった

幸いにも撃退できたが 何体かの悪魔を地上に解き放ってしまった

あなたの周りにも 無数の悪魔が おそってくるかもしれない
悪魔と戦うために 悪魔の力を利用することだ
このプログラムがあれば できるだろう

どうか人類のために戦ってほしい
このプログラムは最後の希望なのだ

勇気ある者が プログラムを手にする事を祈っている・・・・
悪魔と戦い 人々を救うために

プログラムを解凍しています

“我は汝を召喚す。おお精霊よ、至言の力を持ちて汝に命ず”

EL ELOHIM ELOHO ELOHIM SEBAOTH
“永遠なる主、ツァバトの神”
ELION EIECH ADIER EIECH ADONAI
“栄光に満ちたるアドナイの神の名において”
JAH SADAI TETRAGRAMMATON SADAI
“さらに口にできぬ名、四文字の神の名において”
AGIOS O THEOS ISCHIROS ATHANATON
“オ・テオス、イクトロス、アタナトスにおいて”
AGLA AMEN
“秘密の名アグラにおいて、アーメン”


題名未定  第2.5話「 盾を取り、槍を高くかざせ 」 前篇


マユ「・・・はぁ、やっぱりこれ以上の解析は危険かなぁ」

冷めたコーヒーをすすりながら、マユは値段だけは立派な椅子にもたれかかった。
背もたれがぎしりと音を立て、疲れきった小さな体を包み込む。
天才的な頭脳を持っていても小学校を出たばかりの体に夜を徹しての解析は堪えている。
寂しさを紛らわすためだったのか、単に好奇心を満たしたかったのか。
シンが別の高校に編入することが決まってから、マユは夜になるとこうしてプログラムを解析していた。

最初に見た“それ”はどこにでもあるような何の変哲もないプログラムだった。
容量も少なく、動かすのも簡単で、誰にでも起動できる。
見た目にも不審な部分はなく、ウイルスもバグもない、誰かが暇つぶしに造ったような単純なシステム。
だが、解析するごとにだんだんマユにもわかってきた。
“それ”が遊び半分で踏み込むべき領域ではないということに。

無駄の多いプログラム言語の配置、不恰好で統一感のないアルファベットの並び。
起動しているのが奇跡のようなプログラムは、その実、全てが計算されつくされていた。
一文字変えるだけで、起動させるのに三倍の時間を要した。
改行を加えるだけで、容量が数ギガバイト増加した。
このプログラムと言う名の謎の構造式は、マユの想像を遥かに超えた次元で構成されていたのだ。
それでも、彼女は自分のプライドを賭けてその難題に挑み続けた。
そして気がついてしまった、その恐ろしい正体に。

マユ「こんなものが実在しているなんてね・・・」

結論から言えば、これは手にするべきではなかった。
“個人が”ではなく、“人類が”という意味で。

恐らく最初は純粋に物質の転送を可能とする夢のシステムの研究開発を目指して作られていたのだろう。
プログラムの残骸にまぎれていた「ターミナル」の文字の他にも端々にその片鱗が残っている。

しかし、思わぬ副産物が舞い込んだため夢の装置は悪夢の兵器に変わってしまった。
空間と空間を結ぶ特性が引き起こした、まったく新しい次元への通路が開いたことで始まってしまった悲劇。
弾道ミサイルの計算式や核兵器の設計図、そんな単純な代物とは一線を画した狂気の産物。

──────人類が手にした二つ目のパンドラの箱、悪魔召喚プログラム

そう、現代社会に生まれたものならば誰もが耳を疑うであろう“悪魔”の軍事利用こそが、
このプログラムが作られた真の目的だった。

当然、マユも始めは信じていなかった。
だが、悪魔の言語を解析する翻訳機能に姿を正確にとらえ人間にも見えるようにする機能などを含め、
解析結果の全てが“悪魔の召喚、契約が可能”と結論づけてしまっているのだ。
否定するべきオカルトを正反対にある科学が証明してしまったのだから、これはもう疑うべくもない。

マユ「使ってみればわかるんだろうけど、そんなリスクは冒したくないしなぁ。
   せめてお兄ちゃんが居てくれれば相談くらいできたのかもしれないのに」

いざ使ってみて、“精気を吸い取られました”“悪魔に殺されました”では話にならない。
まして、これがきっかけで悪魔が地上に溢れだせば取り返しのつかないことになる。
歴史で起こった悲劇の大半は、後のことを考えない愚者が始めるのだ。

マユ「もったいないけど、壊すしかないよね」

保管しておくことも考えたが、得られるメリットをリスクが上回りすぎている。
万が一、データが流出して危険性を理解していない誰かの手に渡るか、何らかのトラブルで起動してしまったら元も子もない。
そうなる前に、もったいないが再生不可能になるまでばらばらにして海に沈めてしまう。
それが、マユの出した最良の結論だった。

廃棄するために予備の携帯電話にプログラムを移していると
ガチャガチャと玄関の方から鍵を開く音がしてマユは思考の海から引き戻された。
この時間帯なら、両親はまだ帰ってこない。たった一人の兄も、忌々しいことに今は遠くに行ってしまった。
消去法で考えるなら、戻ってきたのはきっと彼女だろう。


?「ただいま戻りました、マユ様!」
マユ「おかえりなさい。デス子~、あれ買ってきてくれた~?」
?「ええ、少しお待ちください!」

買い物から帰ってきたのはデスティニー。量子コンピューターを搭載した人型ロボットだ。
詳しい説明は省くが、二次元で流行っている人型メイドロボをちょっと高性能にしたものと考えればいい。
実際にやっているのは家事ばかりだから間違ってはいないはずだ。

デス子は買い物袋の中身を片づけ終えると、たくさんの瓶を小脇に抱えて二階にあるマユの部屋の扉をノックした。

デス子「マユ様、入りますよ」
マユ「うん」
デス子「頼まれていたドリンク剤です。ですが、あまり多用しないように。
まだ若いのだからご自愛ください」
マユ「うん」
デス子「ちゃんと聞いているのですか」
マユ「うん」
デス子「・・・はぁ」

解析に熱中しているのか、マユはパソコンの画面を注視しながらたんたんと会話を進めていく。
大半を聞き流しているのが丸わかりだ。
端から聞く気などないと言わんばかりの生返事に、さすがのデスティニーも少し渋い顔をしながらドリンク剤をベットに置く。
と、マユは椅子に腰かけたままでようやくデス子の方へ向き直った。

マユ「ああ、そうだ。渡すものがあったんだった。ちょっとそこに立っててくれる?」
デス子「ええ、構いませんが・・・渡すものとは?」

マユ「──────引導よ」

冷酷な言葉が終わりを告げるやいなや、いきなり天井と床からガラスのような透明な板がデスティニーの周りを囲いこむように下りてきた。
一秒とたたず閉じ込められたデスティニーは、状況が飲み込めずただただ呆然としている。

デス子「・・・マユ様、これは一体」
マユ「それ以上その声で話さないでよ。虫唾が走るでしょ。あなた誰? 私に何の用?」
デス子「おかしなことをおっしゃらないでください。私は私です」
マユ「ああ、その手には乗らないから。あの子ね、あなたより断然重いの。
   歩くたびに床がぎしぎし鳴るくらいにね。顔やしぐさは再現できても、重量までは気が回らなかったみたいね」
デス子(?)「ちっ!」

思わぬ落とし穴ならぬ落とし蓋に、デスティニーでない誰かが怒りに顔をゆがませる。
穏やかそうな仮面を剥ぎ取ったその形相は、心を持たない機械であるデスティニーには
とても再現できるものではなかった。

デス子(?)(うわさ通り頭のキレるガキね。くやしいけど、ここは逃げさせてもらうか)

彼女が右手の握りこぶしを緩めると、どこに隠していたのやら指の先に長い爪状の刃物が装着された。それを使って偽デス子はガラス状の壁を二度、三度と切りつける。
しかし、耳障りな音が部屋中に響いただけで壁には傷一つついていない。

マユ「無駄無駄、その壁は防弾ガラスに色々と混ぜ込んだ特注品で、床や天井も同じように改造済み。
   元々は私の身を守るために備えさせた代物だし、そう容易くは壊せないよ」

元々は敵に襲われたときにマユが脱出するまでの時間稼ぎに使うためのものなので、床や天井は緊急の脱出通路になっているのだが、
気付いていないようなのでもちろん黙っておく。

マユ「その腕力と姿を変える能力、ただの人間じゃないよね。アンドロイド、というより、
   かなりの完成度を誇るサイボーグかな。
   おまけに、その武装と姿を変える能力からして軍事用。どこの所属なの」
デス子(?)「・・・・・・」

デス子がいなくなるのを見計らって巧妙な罠を仕掛けてきた相手だ。
初めから口を割るつもりが無いことはわかっているし、マユも口を割らせるつもりはない。
無理をして自害されても困るし、舌を噛むならともかくここで自爆でもされたらさすがに家が耐えきれない。
身体がそれほど頑丈でないマユなど巻き込まれてひとたまりもないだろう。

あくまでもこれは本物のデスティニーが戻ってくるまでの時間稼ぎだ。
特注ガラスを割れない程度のスペックなら、マユには無理でもデスティニーなら取り押さえられる。
しかし、圧倒的不利にもかかわらず目の前の女は不敵な笑みを浮かべていた。

デス子(?)「ふふ、言う必要はないわね。それに、残念だけどこっちの迎えの方が早かったみたい」
シン「・・・どういう?」
?「セインさん、到着!」

言葉の真意を汲み取る前に、なんと床から人間の女の子が飛び出してきた。
隠し通路を使ったのではない。イルカが水面から飛び出すようにいきなり現れたのだ。
あっけにとられるマユを尻目に、セインと名乗る少女はデス子の偽物の手を取ると
破ることが不可能なはずのガラス状の壁をあっさり“すり抜けて”しまった。

マユ「嘘っ! 物体をすり抜けるなんてっ!!」
セイン「わ~るいね。ほら、おまけ付きでおさらばっ!」

置き土産を投げてよこすと、壁をすり抜けてアスカ家を後にするセインと偽デス子。
おまけに『悪魔召喚プログラム』を移しておいた携帯電話をちゃっかり持ち逃げしている。
間をおかずにマユの部屋で爆発が起こり、窓を破って火柱が噴きあがる。

デス子(?)「さすがにやりすぎよ、セイン。あの子を殺せという指示は受けてないでしょう」
セイン「そう言わないでよ、ドゥーエ姉。あいつの注意をそらすためには仕方なかったんだって」

デス子「マユ様ご無事ですか!」
マユ「うん、死ぬかと思ったけどね。ありがとうデスティニー」

灼熱地獄と化した部屋で、マユを爆発から守り抜いた影が一つ。
買い物から帰ってくる途中で、セインと名乗る少女に足止めをくらっていた本物のデス子である。
大部分が生体部品のセインと違い、完全な機械であるデス子の基本性能は並みの強化人間、サイボーグを遥かに上回っている。
少なくとも、軍用のグレネードの爆発を至近距離で抑え込んで尚且つ無傷であるくらいお茶の子さいさいだ。

セインが撃破でなく足止めに徹していたのもそのためなのだが、どうにも手に負えなくなって
予定時間よりも早く合流しに来たことがドゥーエの危機を救うという大金星につながったのだから運命はわからないものである。

マユ「私は大丈夫だから、賊を追いかけてアレをなんとしても取り戻して。最悪、破壊してもかまわないから!」
デス子「しかし・・・」
マユ「早く! 取り返しがつかないことになる前にっ!!」
デス子「は、はい! 行ってまいります!」

半分悲鳴に近いマユの叫びを受けて、デスティニーは戸惑いながらも、
侵入した賊を追撃するために埃をかぶったアームドベース「インパルス」を呼び出す。
たかがプログラム一つに何故マユがそこまで取り乱すのか、デス子にはまだ分かっていなかった。
命令したマユでさえも確信があったわけではない。
だが、その判断が決して間違っていなかったことを、彼女たちはすぐに想い知ることになるのだった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年02月15日 17:15
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。