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東方小ネタ集-10

 シン・アスカ。
 彼はただ一つの事に腐心する。
『えぇい!! 理念も無いラクス・クラ――』
 言葉は途切れた。ビームの奔流は恐らく痛みも無く声の主を消し飛ばした。
 MS。
 CEにおいて絶対的とも言える、暴力の象徴。“正義”の力。
「理念は……人を殺せるんだな……」
 くたびれた中年のような声色が、自分の出したモノかどうか、一瞬判断出来なかった。
 何を馬鹿な。
 コレはシンだ。シン・アスカという糞ったれが出す、呪いだ。
 なにもかもかなぐり捨てて、目茶苦茶にしてやりたくなる。
 出来もしない妄想を浮かべ、シンはゆっくりと人殺しの兵器『デスティニー』を動かす。

 メサイヤを巡る攻防。デュランダルの暴走。そしてラクス・クライン一派の勝利。
 今なら子供でも知っている戦乱の終焉。それは彩られた英雄の物語であり、そして愚鈍な敗者の運命でもある。
 戦乱で荒れ果てた地、敗者に肩入れした者は口を揃えて平和になるはずが無いと、声を上げた。現政権に属するものが、どのように戦争を終わらせたか、よく分かっている者だった。
 だが、現実は決してそうはならなかった。
 どうやら分かっていない人間の方が、圧倒的大多数であり、簡単な情報操作でデュランダル一派に尾ヒレを付けるだけでどうにでもなってしまった。
 普通は有り得ない。
 けれどもシンには世界中で出された答えに、納得がいった。
 皆疲れていたのだ。
 だからこそ心地良い響きのラクス・クラインに付いていく事にした。例えゲリラであろうと、プライド、思想に反していようと、ほぼ大半の人間が、戦うことに疲れてしまったのだ。
 また、運が良かったということもあった。
 デュランダルの残した戦後復興の道程。それをそっくりそのまま利用した。流石はヤキンから今までプラントを立て直したデュランダルという事か。その案は運命計画のような夢物語ではなく、非常に現実的で手を加える必要があまり無いものだった。砂漠の虎が称賛していた事を覚えている。
 勿論、それに異を唱えるものもいた。当然だ。泥棒のような行為、許されるべきではないと、正義感から、また敵愾心から声を大にしようとしていた。
 だがそうではない。
 必要なのは復興で、政権争いではない。そのような者は秘密裏に消されていった。
 ラクス達に教える必要は無い。
 聖女のような施政者と、それを守る頼もしい二人の騎士。世間にはそれで良く、それ以上を求めなかった。
 だから動く。
 シン・アスカはいつの間にかラクス陣営の一員として、動いていた。
 実質プラントを動かしているバルトフェルドが、捨てるには惜しい人材として、また表に出さなくても良い人材として、シンを引き入れた。
 プラントの裏切り者、蝙蝠
 それが現在のシンの評価だった。
 だがどうでもいい。シンにとって、そんなものただの雑音でしか無かった。
 何故なら今、力無いものは一応の平和に浸っている。それだけでシンは求めることが無い。
『……スマンね、シン・アスカ。新しい仕事だ。今度は地上。補給艦を向かわせている、頼むぞ』
 通信が入る。シンの返答はない。
 現在、シンはいない。戦死した存在としてCEにあった。驚いた事に、自身の戦死について最も泣いた人間が、アスランだったという話だ。シンにとって、どうでもいい話だが。
 そうして亡霊として、シンはゲリラの芽を潰す。世界の平和を守る大事な仕事だと自分に誇りを持たせるように。

――人殺しが大事だなんてヘドが出るにも程があると、分かっているのにごまかして

 そんな幻想は容易く潰れる。嘘は、嘘でしかない。

 それは些細なきっかけだった。
 情報の齟齬。言葉にするとたいした事の無い、小さな事。
 それぐらいならば今までもあった。その都度臨機応変に叩き潰した。
 今まではそれで成功していた。
 ならば、今目の前に広がる景色は何だ?
 ビルが崩れ落ちる。人が逃げ惑い、死んでいく。美しい景観は何処にも無い。四方を海に囲まれた小さな楽園は、汚染から逃げ場の無い地獄に変わった。
 シンの記憶にあるオーブは、もう何処にも無かった。
 今回のテロリスト制圧は、難度が少しだけ高かった。敵の持つ細菌兵器をどうにかしろという話。
 随分とアバウトだが、シン、そしてシンと同じ立場にある者達にとっては十分な命令だった。今までずっと成功させてきたのだ。
 だが、今回は違った。
 大規模な敵部隊。練度の高いパイロット。そして……細菌兵器とともにあった、二発の“核”
 それは予想外過ぎた。確かにロゴスにNJCが渡ってから、その可能性は示唆されていた。
 それでもだ。まさか地上で炸裂させる可能性は、考えられるだろうか?
『我等の……! 裏切り……』
 呆然とするシンの目前。カスタムされたジンからの声は、耳を通り過ぎる。聞く価値も無かった。
 ただ燃える。全てが燃える。
 幾度も戦乱に巻き込まれた土地が、今度は本当に最後の日を迎えようとしていた。
『……信念を! 正しい……』
 シンの瞳孔が色を無くしていく。
 果して何度聞いただろうか? 信念。理想。“デュランダルが”やろうとした事。
 ふざけている。あの人は理想がおかしかっただけだ。独裁者になる気は、本当になかった。ただ世界を平和にする方法が、受け入れてもらえないというだけで、こんな地獄を生む気は、無かったはずだ。
 コイツラは、違う。
 怨みだけで、人を殺そうとする者だ。
 何の価値もない矜持で、力の無い人間を殺す化け物共だ!
「ウワァァァアアアアァァァァァアアアアァァァアアアァアァァァァァァア!!!!」
 シンは吠えた。
 それはきっと久々の、“シン・アスカ”という人間の声だ。
 とめどない怒りに満ち溢れた、抑えようのない絶望の悲鳴だ。
 振り上げたスラッシュエッジは、痛みなくジンのパイロットを消滅させた。
 デスティニーは翼を広げ、残る化け物共へ向かう。

 核はまだもう一発残っている。
 自分達の理念に、何の迷いも持たなかった狂信者達は、プラントに教われた時、躊躇いなく一発を使った。“悪の枢軸国の一つである、カガリが納めるナチュラルの国”へと。
 だが、彼らはコレを当然の結末だと確信していた。ナチュラルへの制裁だと、本気で思っていた。
 彼ら自身の死は全く恐れなかった。自身の思う無意味な死に、彼らは恐怖を抱くのだ。
 だからこそ、猟犬に襲われた時、自身が助からないと確信した時、最後の核を単一に向けて使うという、暴挙に出れたのだ。
 彼らは確信していた。自分達の行いで、立ち上がるコーディネーターが存在すると。
 決して悪ではないと、本気で思っているのだ。
 自分達の行いがプラントからすら最悪の惨事と、悪夢と、そう呼ばれる事を。これを一因として、再びナチュラルとコーディネーターの間に、後戻りの出来ない溝が出来上がる事を考えると、理念は成ったというのだけれど。
 最後の光が輝く。
 一面を真っ白に染める光が、周囲を包み込んでいく。
 シンはただその中を突き進んでいた。
 アラートが喧しく鳴り響くが、もう聞こえない。ただ敵を探した。
 自分の失態が、この事態を引き起こした。
 シンはそうとしか考えなかった。
 無論、相手の狂性を考えると、個人に責任を負わせることは出来ない。むしろどうにか出来るはずが無い。
 それでもシンは、敵を探した。蓋がハズレ爆発した感情が、何もかもを一緒にし始めた。
 最愛の、唯一の少女、マユの姿が瞳に残る。ビルに潰されて死んだ少女は、そうだったのでは無いか? あの時自分が落着した時の破片で、マユが傷付いたのではないか?
 シンの精神は限界を迎えていた。
 オーブという、シンにとって決して変わりの存在しない大地が、彼に残った均衡を容易く押し潰した。
 年寄りも遥かに幼く、不安定に揺れる色彩を失った瞳。美しく濁る瞳は、決して敵を捕らえることが出来なかった。

「何、物思いに耽ってるのかしら? 境内でそんな顔されると参拝者も逃げ出すわよ」
 紅白の巫女が、紅目の少年を小突く。
「ははっ、ナイスジョークだな。参拝客なんて普段から…………………………ナンデモナイデス」
 恐ろしい形相で睨まれ、口をつぐむ。
「で、何考えてたの? ……悩んでんなら相談ぐらいしなさいよ。私は形式上アンタのお目付け役なんだから」
 そう言って隣に腰を下ろす。爽やかな香りが、シンに届いた。
「……此処に、来る前をな。あの時……」
 言葉に詰まる。言えない。言えるはずが無い。
 自分の愛した、愛していた故郷が“滅んだ”等とは、口が裂けても言えなかった。
「そうじゃないんだ。俺は、嫌いじゃなかったんだよ。ほんの僅かな時間だぜ? それでも俺はあの国が、マユと、家族と一緒にすごせたオーブが好きだったんだ。俺は、あんな結末を望んじゃいない。そうだ、俺はあの国を焼きたくは無かったんだ! でも俺は馬鹿で、一度焼こうとしたんだ。その罪滅ぼしだった。あの国を守るって、その事実に俺は安らいだんだ! そんな事する資格なんて、無いっていうのに! 焼けていった、全部だ。何もかもを、光が焼いていったんだ。俺は……」
 涙が止まらなかった。情けないと思っても、自分ではどうにもならなかった。霊夢に言った所で、どうにもならない事を吐き出している。

 あの日シンは一度壊れた。敵を探すという行動が、そのままに暴走していた。
 心神耗弱であった。そんな一言で済まされるような行動ではなかった。
 里に住む人間をオーブの人間と重ね、刹那を敵と認識し、浸っていた。自分がヒーローである一瞬に。まるでそんな事、無かったと言うのに。

「……良いんじゃないかしら?」
 泣きじゃくるシンの身体を、暖かいモノが包み込む。
 人の温もりが、そこにある。
「人間、間違うことは絶対あるわ。完璧なんて人じゃ無理。でも守りたかったでしょ? アナタは成そうとした」
 霊夢は子供に言い聞かす母親のように、シンを抱きしめる。
「私はアンタの見てきた世界を知らない。だから本当にアンタが求める事は出来ないわ。でも、一つ言える」
 霊夢の顔が、シンの視界に写る。自身とさほど変わらない、けれども人を引き付ける魅力に溢れた優しい顔だ。

「アンタが自分を赦さないっていうなら、私が言ってあげる。アンタは頑張った。やれる事は全てやってる。出来る限りの事、している。だからこうして生きているの。本当に救いようがないなら、今はこうしていないから」
 霊夢は力一杯抱きしめる。
 シンはただ、何も言わず泣いていた。

「格好悪いな……」
 頬が赤くなる。
「あら? アンタの格好悪い場面なんて、出会って泣きじゃくられた時、既に通過した道よ?」
「言わないで……、………………ありがとな、霊夢」
 呟く言葉が風に流れる。
 二人の間に言葉はない。
「ん、じゃあ帰るよ、そろそろ。仕事も入っているしな……」
 シンはそう一言残すと、帰り支度を始める。「今度はご飯ぐらい食べて帰りなさいよ」
「時間があればな。そうするよ」
 笑って、答えた。

「ふぅ……、…………私ったら、何してるのかしら」
 霊夢は誰もいなくなった神社で一人呟く。今更ながら頬が赤く染まる。


「本当ねぇ、乙女だわぁ」
「ひゃぁああぁ!? ちょっ、ちょっと! 急に出て来ないで!」
「あら? いつもと同じ登場だけど、今日はうろたえるわねぇ」
 隙間が開く。
 現れたるは美しい女性。八雲紫。
 ゴシップ好きのおばさんのような良い笑顔で、霊夢に近付く。
「『私がアンタに言ったげる』だってぇ、うふふふふ。よくも顔赤くしなかったわよね? 我慢したわねぇ。うふふ、何時子供出来るの? キスぐらいしたわよねぇ? もしかしてまだ? あの雰囲気でキスの一つもしていないの? うふふふふふふふふ」
 ニヤニヤという言葉がよく似合う。コイツ、何処までデバ亀するつもりなのか。
「…………あの子も里に馴染みつつあるわね」
 紫はシンの後ろ姿を眺める。もう肉眼では見えない距離だが、隙間を使えば、どうという事は無い。
 シン・アスカ。
 外から流れ着いた外来人。それが里におけるシンの正体。
 空に吠えた人形のパイロットだとは、説明しなかった。言えば無用な騒ぎが起こる。だからこそ言わないというのが、紫と霊夢の結論だった。
 それで納得しない妖怪は多くいた。人的被害こそ無かったとは言え、野山に被害が無かったかと問われれば、ノーだ。
 それでも霊夢達は押し切った。山に陣取る神様が後押ししたという所も大きい。
「あの子が自身を許すこと、実際には永遠に無いわ。きっと一生苛まれるでしょうね。……それでもアナタは生きろと言ったのね」
「馬鹿馬鹿しいわ。そこを決めるのは自分でしょ? シンは自分で生きていく事を決めたのよ? なら受け入れるべきでしょ、此処は全てを受け入れるんだから」
「あんな狂った精神状況でも、誰も殺さないように動いていた……。ふふ、あの子は本当に歪んでいるわね。しっかり見ているのよ、霊夢。あの子を助けると言ったのはアナタよ?」
「…………分かっているわ」
「まぁ、あの子は守矢の馬鹿と違って、自分から騒ぎを大きくはしないわ。この幻想郷を故郷に変えようと努力している。それなら良いかもしれないわねぇ」
「あら、あの時は怒り狂っていたのに、随分ね。こんな鬼婆みたいな顔してたけど?」
「うふふ、幻想郷は全てを受け入れるのよ。今がこうならば良いのでは?」
「それもそうね。…………さぁって、掃除するから帰ってくれるかしら? まだ終わってないの」
「あの子とのお話に夢中で? 霊夢ってば乙女ぇ~」
 紫は隙間に消えていく。霊夢が顔を赤くして怒鳴った頃には、もういなくなっていた


「おやぁ、シンじゃないか……」
「うわぁぁ! えぇっとすっ、諏訪子様です……か? ですよね」
 野菜を売るために里を歩くシンが見たモノは、守矢の二柱の一人っぽい何か。死人のような顔で動く、幼女。
 目の下に隈を作り、今にも死にそうだ。
「あははっ、シン。げーむはいがいとたのしいねぇ……」
「ちょっ! 目の焦点がおかしいですよ!」
 そういえば以前頼み事をされたが、そのしっぺ返しでも食らったのか?
「いやぁ、はまりすぎて“ロマサガ~アイシャ初期パラ一人旅~”とかできるようになったよぉ」
「それただのゲーマーじゃ出来ないですって!」
「イヤァホントウニタノシイナァァァァァ」
「うわぁぁ! 神様が壊れたぁ!」

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最終更新:2011年02月15日 16:50
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