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東方小ネタ集-11

「あら、シンじゃないの。ちょうど良かったわ」
 いつものようにシンは博霊神社へと足を伸ばしたのだが、この台詞である。
「何だ? もしかして……何か厄介事かよ」
 シンは身構えいつでも逃げる体制を整える。
 もし仮に霊夢に手伝えなどと言われてしまえば、そのまま大怪我コースに直行だ。
 断れば、と言う者がいるかもしれないが、いざ人の前では断れなくなってしまう。
 随分とお人よしになったモノだと、自分でおかしくなる。
「違うわよ」
 一言素っ気なく口にすると、霊夢はそのまま家に引っ込んでしまう。
 一瞬逃げるかとも考えたが、本人が違うと言っていたので、思い止まる。それに逃げ出しても回り込まれそうだ。
 それほど待つことも無く、霊夢は何か皿を手に戻って来る。皿の上には……
「何だよ、ソレ。……大福か?」
 大福。
 若干いびつな形は、素人による手作りだと容易に推測させる。
「はい。あげるわ」
 霊夢はやはり素っ気なく差し出して来る。
「俺に?」
「ええ」
 それ程、甘い物は好きではないのだが、急にどうしてだろうか?
 しかし霊夢は押し付けるように大福を向ける。断ることは出来なそうだ。
「…………わ、分かったよ。頂く」
 シンは観念し、一つ手に取り口に放り込んだ。一口で頬張れるほどサイズはお手頃。
 そして――
「ん、上手いな! これ、何だろ? うん、でも、あれだ。さっぱりしてるって言うかさ、うん」
 上手い。
 特別グルメな訳では無いのだが、その大福はシンにとって初めての出会いレベルで衝撃となった。
 どういった物が美味しい大福なのか分からないが、シンにとっては今まで食べた大福で一番上手いものだ。
「美味しかった?」
 霊夢は探るように尋ねる。
「うん、うん。これは口に合うな。良かったらさ、コレ、教えてくれよ」
「え? 分かったの? ……もっと鈍いと思ってたわ、アンタ」
 最後は呟くように、シンには聞こえなかった。
「あぁ、売り物じゃ無いだろ? だからさ――」

「誰が造ったか教えてくれよ」

「やっぱり鈍いわ……」
 霊夢の冷めた目がシンに突き刺さる。
「なっ、何だよ、ソレ。作り方とか気になるじゃないか……」
「はぁ、良いわ。家上がりなさい。教えたげる」
「え? 霊夢が造ったのか? お前何でもするんだな……」
「和菓子ならね」
「でも、何で急にだ?」
「外じゃ、ばれんたいんでぇって行事があるんでしょ? 甘味を送るとか……、何とか。それよ」
 その言葉にシンは成る程と思うと同時に、
「……それって、普通チョコだぜ?」
 シンの覚えている限り、西洋発、極東で捩曲げられた行事であったはず。
「え!? あ、あら? あれ、でも確か……? え、でも魔理沙は甘いものを送るって……」
 普段の変わらない態度を崩してうろたえる霊夢。シンは意外な一面を見た気になる。
「騙されてるぞ、完全に……」
「あんにゃろ……」
 頬を染めて、此処にいない金髪魔術師に怨みの視線を送る、(一応)巫女。
「……でも良いんじゃないか? 俺はコレでも美味しいと思ったし、ああいうイベントって、参加した人間が楽しめれば良いだろうし。俺は美味しかったしな」
「それもそうね。……じゃ、魔理沙には出会い頭問答無用段幕で許してやろうかしら?」
「ちょっ!? それ許しているって言わない!」
「あら? 段幕ごっこで決着付けるって大人しい方法でしょ? 上がりなさいよ、お茶ぐらい出すわ」
「(……魔理沙、ご愁傷様)分かったよ、御馳走になる」
 こうして、幻想郷の日は暮れる。


「ん……しょっと」
 所変わって森の中、そこにもまた、金髪の魔女。しかし彼女の得意とする所は、人形。
 アリスである。
「これで……、えっと……、次は冷やして固める…………、何処で固めましょ? れーぞーこって何?」
 アリスはある本と睨めっこを繰り返し、険しい顔をしている。
『管理局のエース監修! 素人でも出来るの! 簡単、料理本』と言う本のとある一ページを見ている。
 チョコレート。
「うぅん…………、どうしよぅ……」
 元々、魔法使いであるアリスは食事を必要とはしない。食事というジャンルが嗜好品の類である。
 最低限の料理は出来るが、今までは自分の趣味の領域でしか無かったのだ。
 チョコレートを手作りなど、初挑戦である。
 何故か……
「『コレで意中のあの人もげっとなの! 私もコレでヴィヴィオにお父さん作ることが出来てぇ、あうぅ、ダメよ、シ――』って何よコレ、惚気じゃない」
 本を閉じ固まっていないチョコレートに目を向ける。液状の甘い香りを放つ物体。
 魔法では作りたくない。全て手作り、そうしたい。だが――

「れーぞーこってのが無ければ、出来ないのかしら? 外のチョコってそういうものなの?」
 例えば商売が成り立つのか怪しい、外の世界の物品を扱う商店や、隙間妖怪ならば所有しているかもしれないが、一幻想郷の住人であるアリスは、外の機械など持ち合わせていない。
 魔法を使えば出来そうでもあるが、アリスはそれを良しとしなかった。
 なぜならコレを食べるのは……
「シン、食べてくれるかしら?」
 赤目の少年を思い浮かべる。自分でも分かるほど頬が赤くなる。
「はぁ、でも、これじゃ食べるも何も無いわね。パチュリーに相談しましょうかしら?」
「オース! 悩める子羊に恋の魔法使いがアドバイスしに来たぜ! 取り合えず紅茶暮れ!」
 無遠慮に開け放たれる扉、そこにいたのは
「…………帰りなさい、魔理沙」
 泥棒である。
「酷いな、おい。魔理沙さんが遊びに来たんだから、もっと構ってくれよぉ。何か今日、神社行くと酷い目に会いそうなんだよなぁ」
「会ってきなさいよ。そっちの方が面白いわ」
「えっ!? ちょっ! …………ん? 何だ? 凄い甘い匂いだけど……」
 魔理沙は犬のように鼻をぴくぴくと動かし、匂い元を発見する。
「ちょっと!」
「おぉ、チョコか! 何だ? もしかして材料買い込みすぎた? そうそう、シンヘの贈り物はどうだった? まだ持って行ってないのか」
「煩いわね。いきなり乗り込んできて何よ。……まっ、まだ未完成よ」
 恥ずかしそうに俯く。
「え? 出来てないのか? 間に合わないでしょ」
「え? 十五でしょ?」
「十四だよ」
 アリスは、幾度も耳をほじる。淑女として男、シンには見せられない行為だ。
「え? ちょっと聞こえない。モウイチド……」
「いやいや、バレンタインなら、今日だって。人の行事なら、アリスより私の方が詳しいぞ? 間違えるはずが無い」
「え? え? え?」
「霊夢は昨日の内に用意したって……って! アリス!?」
 アリスは泣き出す。もうどう考えても完成しない。「そ、そん、わたっ、ここま……」
 魔法以外で冷やす方法も分からない。夜の寒さで冷やすことも叶わない。
「そんなぁ……」
 情けない。アリスは自分の手際の悪さに涙がこぼれる。
「まっ、待てって! えぇと、その液状チョコでも良いじゃないか!」
 焦るのは魔理沙の方だ。遊びに来ると、何故か泣き出した。そこまで泣くなら魔法で手軽にと考えたが、おそらく人形使いの気位の高さを思うに、先ず拒絶するはずだ。
「良い訳無いでしょ! これをチョコレートって呼ばないことぐらい、私にだって分かるわ」
「いやいや、違うんだって。確か外の世界には、チョコに付けて食べるって料理があるんだよ。ふぉんでゅだったかな? それなら液状チョコでも構わないだろ? 今からでも出来るさ」「本当? そんな物あるの? いつもの多分何となくではなくて?」
「信用しろって! この恋の魔法使いに任せとけ!」
 そういって無い胸を張る魔理沙。アリスは頼りなさ気に、それでも藁をも掴む思い出見ていた。

「あの、アリス、魔理沙。気持ちは有り難いんだが…………、チョコレートフォンデュは果物とかで食べるもので、決して野菜やオニギリを入れるものじゃ無いぞ?」
「あれ? そうだっけ?」
「魔理沙の役立たずーーーー!!」
こうして魔法の森の夜はふける。幻想郷は今日も平和。


「はい、神奈子様、諏訪子様、刹那さん」
 早苗はそういってチョコを見せた。
「いやぁ、流石は“私の”早苗だねぇ!」
「あぁ、神奈子の言う通り、早苗はガンダムだ」
 満足げな二人。
 一方――
「ねぇ、早苗。一つ聞きたいの。良いかい?」
「どうしたんです、諏訪子様?」
「あの……」
 諏訪子は目前に“鎮座”する、チョコレートに目を向け、
「これ! いくらチョコレート使ったんだい!? 正直社よりでかいチョコレートって、ツッコミ所が多すぎて逆に突っ込めないよ!」
「何を言っている諏訪子。これはチョコではなくエクシア……」
「馬鹿ガンダムは黙ってろ! えくしあでもえくれあでもどうでもいいんだぁ! まともなチョコが食べたいよぉ~~~~!」
 どうにかゲーム廃神から抜け出した諏訪子の、悲痛な叫びが夜空に響いた。
 それから一週間以上守矢神社から甘い匂いが放たれ続け、今まで訪れなかった客が大量に訪れたとか。

 幻想郷は今日も平和。

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最終更新:2011年02月25日 23:39
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