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ガンダムSEED DH氏の小ネタ-5

1

「バレンタイン?」
ディエチは初めてその単語を口にした。
『そうだ。準備しなくていいのか?』
8にとってはほんのちょっぴりのお節介の――つもりだった。
「――ってなに?」
だがどうやら彼女にとって未知の行事だったようだ。当たり前だ、知らないのだから。
『簡単に言えば、女性が親しい男性にチョコレートを渡す行事だ。実際はチョコレート以外の菓子も渡す場合もある』
「親しい男性って?」
もちろん最初に頭に浮かんだ男は黒髪赤眼の目つきの悪いあの男である。
『例えば家族・同僚・恋人等の間柄だ』
「こ、恋人・・・・」
頬が見る見るうちに赤くなっていき、何を想像したのか顔をうつむいてしまった。
お約束のようにもうすでに自分が彼の“家族”になっていることを忘れ、その単語に反応してしまうところが乙女である。
そして、モジモジしながらゴニョゴニョとつぶやいた。
「シ、シンさんはさ。わ、私からチョコを・・・も、もらったら喜んで・・くれるかな?」
はっきり言って普段の2人の仲の良さを見てイライラしている第3者が聞けば愚かだと爆発しろと思うような質問だった。
『大丈夫だ。たとえ鉛玉でも、シンなら喜ぶだろう』
適当な返事だが間違いではない。だがそれだけでも彼女を行動させるには十分で。
「8、購買店は!?」
さっきまでのしおらしさはどこへやら、いきなり滅多に見せないハイテンションで顔を上げた。目には炎が燃えているように見えるくらいに。
『閉店まであと約6分!だがチョコレートが残っている可能性は低いぞ!!』
「そんな道理、私の無理でこじ開ける!」
かくして阿修羅すら凌駕する勢いで向かって行った。トランザムと聞こえたのは気のせいだろう。赤く見えたのも、いつもの3倍のスピードで走っていったのも気のせいだ。うん、気のせいだ。


だが結局、数十分後。
「板チョコは買えたんだけど・・・ね」
そこには板チョコ1枚を片手にしょんぼりとした彼女の姿があった。


『厨房が樹里によって爆破されていたとはな』
「ハートの形に、したかったんだけどなぁ」
はあ、と重いため息をつく。
バレンタイン用のハート型チョコは売り切れていた。
たかがそれだけであきらめるつもりはなかった。無いなら自分でハートにすればいいじゃないかという意気込みだった。だがその厨房は・・・・・。
しかし、その厨房の有様に反してロウと樹里は、あまり見た目は良くないが気持ちは伝わったという終わりよければ全てよし状態だったのが正直妬ましい。ああこれが嫉妬か、と人生で初めて自覚する。
けど嫉妬はできても・・・・・樹里のあの幸せそうな顔を憎むことはできなかった。
羨ましいとさえ思った。自分もあんな幸せそうな顔ができるのかと、羨望した。
さっきとは違い、落ち込んだ顔でうつむいて歩く。
せっかく買ったのだから、渡さなければ意味はない。
今、自分一人で食べてもただしょっぱいだけだろう。
だが「バレンタイン」の意味も知らないのにシンにチョコを渡そうとしている自分は馬鹿なのではないのであろうか、あの男が今いる場所は大体分かる、そんなことを思っているうちに着いた。
MS格納庫――ガイアガンダムのところだ。
「シンさん?」
姿は見えない――ということは。
MS格納庫は無重力フィールドであり、地面を少しだけ強く蹴ってゆっくりと一直線に向かっていく。
向かった先は――ガイアのコックピッド。
「ねえ?シンさん、いる?」
返事はない。
『開けるぞ!』
8がガイアのコンピューターに介入、コックピッドが開く。
中にはぐったりと死に体のようなシンがいた。またエドとの模擬戦でこてんぱんにやられたのであろう。胸を大きく波打って呼吸している動きが見て目生きている証拠だった。
「よ、よう・・・ディエチか?どうしたんだよ?」
途切れ途切れに、辛そうに言葉を吐き出すのも少しだけ、あとは強がっていつもの調子を装う。
やり過ぎなのではないのかと、いっつも思う。いつ来るか分からない実戦に備えて、実戦の手触りを忘れないために、実戦に近いMSに乗っての模擬戦。
そしてこの有様だ。M、いやドMなのだろうか?だとしたら少しドキドキだ。
「ねえ」
勢いでここまで来たなら、あとも勢いでどうにでもなれだ。
何の変哲もない板チョコを見せて。
「チョコ・・食べない?いや、食べようよ!」
不器用だ。自分でも情けないくらいの不器用さと強引さだ。
「・・・・・。お、サンキュー。でも、夕飯のことを考えると多いから――半分づつ食おうぜ」
シンは数秒考え、そしてなぜ“チョコを渡すのか”を理解したらしい。
「・・・うん」
正直・・・・シンの苦笑いと親切が痛い。
パキッ、と板チョコを2つに割って2人で分けた。もしハート型だったのなら、この展開はなかったのだろう。これはこれで良かったと思う。


2人はガイアの中で食べ始める。ディエチの席はシンの右膝。
ふとシンがあることに疑問を持った。
「そういや、バレンタインってなんでチョコを渡すんだろうなぁ」
「なんでだろ?」
ついつい勢いでチョコを買ってきたディエチにも分からなかった。
『昔のある国の兵士は結婚が禁止されていた。だが陰で禁止されている兵士の結婚を行っていたバレンタイン修道士からきているらしい』
二人で、へぇと言う。合計6へぇだ。
「でも、なんで結婚しちゃいけなかったの?」
『家族のことを思って戦意喪失するのを恐れていたという説がある』
「バカバカしっ、それは間違いだ。男はキレイな理想よりも、温かい大切な人の命ために戦う時のほうがよっぽど強い。」
まるで現実にそれを見てきたように言った。
まるで現実にそれを行ってたように言った。
「そうなの?」
「ああ、そういうもんだ。兵ってのは量ではなく質だ。そして、そういう理由が一番、兵の質を高める」
理想なんていう“神様”に酔うバカってのは、大抵大切なものがないさみしい人間だけだ。
『平和な世界』という神様にすがるしか、戦えなったし生きていけなかった過去の自分がいた。
過去の自分を客観視できるようになった自分は、過去の自分とは違い幸せなのだろう。いや、幸せなんだ。
人は独りでは生きてはいけない、本当の孤独は地獄だ。だからこそ、今なら世界を敵に回せるという言葉も簡単に軽々しく吐ける。
二年前のシンが今のシンを見ればなんと言うだろうか?ふざけるな、とでも怒鳴るのだろうか?・・・・自分の手の届く範囲はとても狭く限られているのに。
正直言って、今の幸せを分けてやりたいぐらいだと苦笑いして思った。
「昔のことでも思い出してるの?」
唐突にディエチが考えていることを言い当てた。
「え?」
それは驚くだろう。まるでエスパーなのかと聞きたいぐらいだ。
「・・・・なんで分かった?」
「んーなんとなく」
「なあ、それも魔法か何かか?」
「魔法か・・・そうかもね」
と悪戯っぽく微笑んで言う。
「まったく、君には敵わないよ」
はあ、とため息をつき自身に呆れ、そんなに分かりやすいのかと呆れる。この娘と会ってから呆れることが多い。
「どうしたの?」
「ちょっとそっとしておいてくれ」
最近の自分の落ちぶれというか、初期のSっ気やシリアスさはどこへ行ってしまったのだろうかと割と本気で悩み頭を垂れた。これでは道化だ。
「やだ」
優先権をとったゆえなのか、いい笑顔だった。最近の楽しみは“こんな風”に変わったシンを見ることだ。過去は辛くても大切だろうが、笑っている今のほうがよっぽどいい。
「ねえ、このまま外(宇宙)に出ようよ」
「は?なんでそうなるんだよ?」
いきなりの要望に理解不能。
「だってこの前、一緒に出てみようって約束したのにすっかり忘れてるじゃん」
「・・・・」
すっかり忘れていた。言い返す言葉もない。
「・・オーケー、分かったよ。けどノーマルスーツぐらいは着て来てくれ」
今の自分ではどうせ言い負ける。ならここは素直に従っておこうと思った。それにまあいい、今は今の自分を楽しむのも悪くはない。
「うん」
正直、OKされないと思っていたので嬉しかった。
そして、最後のチョコのかけらを口に入れた。

ディエチが着替えてきた。
「システム、オールグリーン。あ、そういえば1つ聞きたいんだけど・・・――」
シンの頭には1つの疑問にして――
「なに?」
恐れがあった。
「他の男にチョコあげてないよな?」
正直恐かった。
なぜかは分からないし、あってもどういう反応をすればいいのか分からないけどなぜか焦る気持ちがあった。
「うん、あげてないけど。・・・どうしたの?」
「ならいいんだ!気にすんな」
気付かれないように、ほっと一息ついて安心する。これで安全操縦ができる。
『進路に異常なし』
「サンキュー、8。そんじゃ、シン・アスカと」
「ディエチ・アスカ」
「ガイアガンダム2nd、出るぞ!」
そして、2人はガイアに乗って宇宙に駆けていった。
2人を乗せたガイアを見守っているのは輝く星だけ。

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最終更新:2011年02月15日 17:32
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