―朝方―
「……ん、っああ。……朝か」
起き上がった男、シンがベッドの上で伸びをする。
半ばぐらいしか覚醒していない頭が、少しずつ目覚めていく。
寝巻きから仕事着であり、もはや自分のいつもの服装である使用人用の服へと着替える。
まだ少し寝ている頭を覚ますために、水場へと向かう。
洗顔すると、急激に頭が覚醒し、目の前がさっぱりとする。
「さて、フランでも起こしてくるか」
これは、彼がフランの所有物となった時からの”クセ”である。
まず第一に、仕事よりもフランドールを優先する。
これはフランドールの姉、レミリアが言ったものである。
この原因はフランドールに血を吸われた少し後に、仕事をしていた際にフランが遊んでほしいと駄々を捏ねた。
流石に仕事をほっぽらかすのは無理であったため、出来る限りやんわりと断った。
だが、その直ぐ後にフランドールが泣きながら紅魔館を飛び出し、騒ぎとなってしまった。
「シンに捨てられたー! シンが私を嫌うならこんな世界いらないー!」等と叫びながら弾幕やら何やらを撃ち続けた。
なんとか「俺が悪かったフラン! 絶対見捨てないから! 絶対お前と一緒にいるから!」と若干告白紛い
の叫び声がフランドールに届いて終了。
以来、フランドールの機嫌を損ねないために、レミリアがシンに言ったのが先の言葉である。
「フラン、起きてるか~?」
返事は無し。
「入るぞ~」
特に拒否の返事も無いため、ドアを開ける。
440 :通りすがりの名無し:2011/02/27(日) 15:21:22 ID:/Ah/u9RI
視線はベッドとシーツの間の小さなふくらみ。
近づくと、なんの躊躇いも無しに、シーツを引き剥がす。
そこにはスゥスゥと可愛らしい寝息をするシンの所有者、フランドールがいた。
外気に晒され、少し寒い風が入ると、彼女の体がムズムズし始める。
しかし、それだけでは覚醒には及ばず、また寝息を始める。
「……フラン、起きろ」
肩をゆするが、んっ~、と言うだけで目覚めない。
これ以上のゆすりは彼女の機嫌を損ねるからか、シンはゆすりの手を止める。
「仕方ねぇ。少し恥ずかしいが……」
そう呟くと、シンはフランドールの顔と自身の顔を近づける。
そして、
彼女の”頬”に触れるぐらいのキスをする。
シンの顔が離れた数瞬後に、フランの目がぱっちりと開かれた。
「おはよ~シン♪」
「おはようフラン。もう少しで朝御飯だから…」
「そしてお休み~」
「うぉい!?」
またベッドにダイブするフランに、シンはツッコミをいれる。
そんなシンの姿に、フランが笑う。
「冗談冗談。さぁ、行こうシン」
「はいはい。行きましょうか、お嬢様」
二人が笑いあいながら、歩み始める。
それはまるで主従のようでなく、兄妹のような雰囲気であった。
―朝食―
「フラン、少しいいかしら?」
「えっ、何かしらお姉様」
この紅魔館の当主であるフランドールの姉、レミリア・スカーレットは少し威嚇するような態度で話す。
その様子をさして気にしないという風に、フランドールは再び食事を始める。
「いえ、貴女がここ最近、何でもかんでもモノを破壊するような事が無いのはいいわ。それにシンも
フランの相手をしてくれてこっちも助かっているわ。でもね…」
「あ、ありがとうございますお嬢様」
「シン、あ~ん♪」
「だからって人前で平然とイチャイチャしないでもらえるかしら!!!!!」
レミリアの、もはや爆音の域に達している声が屋敷中に響く。
だが、その対象であるフランドールは気にも留めていない(シンは少し強張った顔をしている)。
今現在の状況は、シンの股の上にフランが乗って食事をしている。
もっと詳しくいえば、フランがシンにあ~んを要求している。
それに耐え切れず、全くカリスマが感じられない声をレミリアが上げる。
もはや典型的なバカップルを前にしている気分である。
「す、すみませんお嬢様。断るに断れなくて」
「……シンはまだ常識があるからいいわ」
「あら、まるで私が非常識みたいな言い方ね。失礼しちゃう」
「そんな姿勢で言っても説得力が無いわよ!!!」
「お嬢様、少し落ち着いてください」
「はぁ、はぁ…そうね、咲夜」
真っ赤となっている主を落ち着かせようとするのは、レミリアの侍女でもあるメイドの咲夜。
そんな中、
「あらあらレミィ。そんなにシンを取られたことがショックなのかしら?」
優雅に紅茶を飲みながらレミリアを茶化すような言葉をかけるのは、紅魔館にある巨大図書館の
管理人でもある魔法使いのパチュリー・ノーレッジ。
軽いジョークのつもりで言った様だが、頭の中が未だにヒートアップしているレミリアにはそれが見抜けなかった
のか、顔に先ほどとは違う赤みが差す。
「だ、誰が何でそんな事で私が怒らなきゃいけないのよ!?」
「あら、ごめんなさい。てっきり私はそうなんじゃないかと思ってたわ」
「……おっけーパチェ。少しこの食事後にやる事が出来たわ」
「へぇ~、何かしら?」
そのまま、自分の左手を胸に当てて、右手を横に向けて親指を突き出す。
「表出ろ」
「遠慮しておくわ」
途端に始まる鬼ごっこ。
鬼はもちろんレミリア・スカーレット。
逃げるものはパチュリー・ノーレッジ。
親友同士の二人、今此処に激突!!!
「見事に蚊帳の外でしたね。私達」
「まったくですね。第一、パチュリーさん持病の喘息はどうなったんですか?」
「シン~。はいあ~ん♪」
その場に残されたそんな三人の耳に、鬼ごっこに巻き込まれた門番の悲鳴が聞こえた。
これは紅魔館のとある一日の朝の風景。
最終更新:2011年03月11日 00:20