魔法少女まどか☆マギカ"DEPTH!"
第0番目
光あれば影が出来るように、
火で木が燃えるように、
水で家が押し流されるように、
土で鉄が腐敗するように、
時には優しく、時には厳しく、そして、当たり前のように残酷に、物事には因果から原因が産
み落とされる。
予め定められた因果を運命と呼ぶのならば、とめどなく刻まれる時のように、遠くに響く遠雷
のように偶然の影に隠れる必然の元に運命は集い、そして、目覚めた心は走り出して行く。
残酷な運命に押し負けまいと、未来を描く為、交わした約束を忘れないよう、人は常に目を閉
じて確かめ続ける。
運命の力を信じる者は、押し寄せた波を振り払って進んで行き、
どんなに大きな壁が待っていても、超えて見せると誓い進んで行く。
明日を信じて祈りながら。
まどろみの中の布団とは、どうしてこう心地良いのだろうか。
温まった肌と布団が擦れる感触に何とも言えぬ幸福を感じ、永遠に包まれて居たいと思わせる
魔性を秘めた存在だ。
丁度時期は春休み。
短い休みながらも纏まった連休は無いに越した事は無い。
極端な話、昼過ぎまで寝ていても誰にも咎められる事も無く、浮ついた気分にさせる。
布団の主も御多聞に漏れず、声優の深夜ラジオに投降したハガキが読まれた事に一喜一憂し夜
更かしを楽しんでいた。
しかし、まどろむのそろそろお終いにしなければならない。
年齢の離れた弟の世話もあるし、休みの時くらいいつも家事に精を出している父を休ませてあ
げたいと思う。
彼女が、そろそろ起きようかと背伸びをした瞬間、布団の中にある"自分以外"の気配に気が付
いた。
鹿目まどか。
見滝原中学校に通う中学二年生。
両親と年の離れた弟の四人家族。
温和は表情と桃色の髪と同年代よりも小柄な体格は小動物を彷彿させる。
スポーツや勉強よりも、友達と穏やかに過ごす事に幸せを感じ、自分がもし魔法使いであるなら
ばと、空想に花咲かせたり、未来の旦那様を想像し一人悶々とする乙女チックな面もある。
つまり、年相応の女子中学生だ。
「はえ?」
頓狂な声が朝日を遮り、雀がさえずり初春の心地よい朝は鹿目まどかの目覚めと共に吹き飛ん
で行く。
盆と正月が周回遅れで訪れたような刺激的過ぎる光景が彼女の前に広がり、まどかは、顔を青
くさせたり赤くさせたり、忙しく百面相に勤しんでいる。
口をパクパクとさせ、酸欠の金魚のように唖然とした表情のまま、まどかが漸く口に出せたのは
「嘘」の一言だけだった
「なんで…」
嘘と小声でもう一度繰り返し、まどかは、目の前で起こった出来事を理解しようと必死で声を押し
殺した。
状況を簡潔に告げれば、知らない男の子がまどかのベットで静かに寝息を立てていた。
年齢はまどかよりも二つ、三つ年上に見えるが、良く分からない。
整った顔立ちだったが、目を瞑り生気の無い青白い表情のまま身動ぎ一つしない様子は、彼が生き
ながら死んでいるのでは無いかと一瞬とは言え錯覚してしまう。
彼の寝息がまどかの鼻に届く位に近くに居るのに、目の前の男の子からは、まるで別世界の人間の
ように呆れるくらい現実味が感じられないのだ。
唯一規則的に上下する胸が、彼が死人でもお話の中の住人でも無く、まどかと同じ血の通った人間
である事を辛うじて証明していた。
「どうしよう」
しかし、死んで無いと一安心した所で、見ず知らずの男の子が自分のベットで寝息を立てている事
実は変わらない。
たったそれだけの事だが、異性に免疫の無いまどかにとって驚天動地の代物なのだ。
おかげで、あまりの出来事に脳神経が面白い方向に焼き切れてしまい、まどかに現状を他人事の何
処かように見せている始末だった。
普通は大声を出して一階に居るであろう両親に助けを求めるべきなのだろう。
しかし、理性よりも困惑が上回ってしまい、声が思ったように出ない。
まどかが住む地域は比較的に経済的に豊かな世帯が多く、治安も悪く無いが、テレビでは毎日のよ
うに原因不明の自殺者や行方不明者が続出と報道している。
物騒な世相は、テレビの中の非現実では無く、実際に起こり得る不幸であり、治安の良し悪しに関
係無く訪れる自然災害なのだと、まどかは今更ながら身に染みて実感してしまう。
(あう…お母さんの言う事ちゃんと聞いてれば良かった)
日頃から「あんたはぼんやりし過ぎ」と母親に苦笑されながら注意は受けていたが、この状況で思
い出しても全く意味はないだろう。
目覚めたら男の子がベットで寝ている状況など、普段から気を付けて居ても回避しようが無い。
まどかがもう少し大人になれば、そんなシュチュエーションのお世話になるかも知れないが、残念
ながら、まどかは純粋でまだ乙女だった。
本音を言えば、まどかは、目の前の現実に不安を覚え困惑していた。許されれば叫んで飛び出した
い衝動に駆られたが、何故か寸でのところで思い止まってしまうのだ。
まどかが男の子から不思議な程に悪意を感じ無い為なのか、まどか自身も良く分かっていなかった。
(あう…でも、この人誰なんだろう)
男の子とまどかの間に当然面識は無い。
実は何処かで出会っていた。
記憶の底に沈んだ幼馴染などロマンチックな妄想が生まれては消えるが、冷静な理性がまどかと
男の子の関連性を明確に否定していた。
かと言って、今の状況をおいそれと受け入れる程、まどかの度胸は据わっていない。
飽く迄主観であるが、まどかが不届きな悪戯を直接されたわけでは無い。
触れられたわけでも乱暴されたわけでも無く、ただ、隣で静かに寝息を立てているだけ。
実害が無いのか有るのかすら分からない。
何故、どうしてこんな状況になったのか、まどかには皆目見当もつかず、ただただ、状況に流さ
れ困惑の一歩を辿っていく悪循環に陥っていた。
見ず知らずの男の子とベットを一緒にする。
「嫌だ」とか「怖い」以前に抱いた感情の意味も分からず目に涙を浮かべ、大声を出す事も出来ず、
身動き一つ取れずにいたが、そんな中でも「疲れているようだから起こしては拙いのではないか」と
場違いな感想も抱いてしまい、ようは完全に混乱していた。
まどかの葛藤は、布団の中で延々と続き、珍しくまどかを起こしに来た母親の詢子に発見されるま
で、頭を抱えて小さくなるのが関の山だった。
これが二週間前の春休みの出来事。
物語は新学期を迎え、彼、シン・アスカと彼女、暁美ほむらが、見滝原中学に転校して来る事から
始まる。
最終更新:2011年03月11日 00:54